説明

車両用制動装置

【課題】車両用制動装置において、構造の簡素化並びに製造コストの低減を図る。
【解決手段】シリンダ11内に入力ピストン12と加圧ピストン13を同軸上に軸方向に沿って移動自在に支持し、入力ピストン12にブレーキペダル14を連結し、入力ピストン12の前後の圧力室R1,R2を連通路20により連通し、連通路20の第1供給ポート28に制御油圧を供給可能とし、入力ピストン12の反力室R4の第2供給ポート34に反力油圧を供給可能とすると共に、第2油圧供給配管33と第1油圧供給配管27を第2油圧排出配管35に連結してリリーフ弁36を設ける一方、各圧力室R1,R3の吐出ポート41,43から制動油圧を出力可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作量に対して車両の付与する制動力を電子制御する車両用制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の制動装置として、ブレーキペダルから入力されたブレーキ操作量に対して制動装置の制動力、つまり、この制動装置を駆動するホイールシリンダへ供給する油圧を電気的に制御する電子制御制動装置が知られている。このような制動装置としては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
この特許文献1に記載された車両用制動制御装置は、運転者がブレーキペダルを操作すると、マスタシリンダがその操作量に応じた油圧を発生すると共に、作動油の一部がストロークシミュレータに流れ込み、ブレーキペダルの踏力に応じたブレーキペダルの操作量が調整される一方、ブレーキECUが検出したペダルストロークに応じて車両の目標減速度を設定し、各車輪に付与する制動力分配を決定し、各ホイールシリンダに所定の液圧を付与するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2004−243983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の車両用制動制御装置にあっては、ブレーキペダルの操作量に応じた油圧を発生するマスタシリンダに対して、作動油の一部が流れ込むことでブレーキペダルの操作量を調整するストロークシミュレータを設けると共に、マスタシリンダにマスタカット弁を介して4系統のホイールシリンダに供給する作動油を加圧する加圧機構が各系統ごとに設けられており、油圧系統が複雑で製造コストが上昇してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためのものであって、構造の簡素化並びに製造コストの低減を図った車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の車両用制動装置は、シリンダ内に軸方向に沿って移動自在に支持された入力ピストンと、該入力ピストンに連結された操作部と、前記シリンダ内に前記入力ピストンと同軸上に配置されて軸方向に沿って移動自在に支持されると共に前記入力ピストンにより押圧可能な加圧ピストンと、前記操作部から前記入力ピストンに入力される操作量に応じた制御油圧を設定する制御油圧設定手段と、該制御油圧設定手段により設定された制御油圧を圧力室に作用させて前記加圧ピストンを介して制動油圧を発生させる油圧供給手段と、反力油圧を反力室に作用させて前記入力ピストンを介して前記操作部に反力を発生させる反力発生手段と、前記反力室の反力油圧を制御油圧ラインまたは制動油圧ラインに排出可能な反力油圧排出手段とを具えたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の車両用制動装置では、前記反力油圧排出手段は、反力油圧ラインと前記制御油圧ラインまたは前記制動油圧ラインとを連結する油圧連結ラインと、該油圧連結ラインに設けられたリリーフ弁とを有することを特徴としている。
【0009】
本発明の車両用制動装置では、前記操作部から前記入力ピストンに入力された操作力を吸収する操作力吸収手段が設けられたことを特徴としている。
【0010】
本発明の車両用制動装置では、前記圧力室は、前記入力ピストンの移動方向一方側に設けられた第1圧力室と、他方側に設けられた第2圧力室とから構成され、前記操作力吸収手段は、前記第1圧力室と第2圧力室とを連通する連通路により構成され、前記反力油圧排出手段は、前記反力油圧ラインと前記連通路とを連結する油圧連結ラインと、該油圧連結ラインに設けられたリリーフ弁とを有することを特徴としている。
【0011】
本発明の車両用制動装置では、前記連通路は、前記入力ピストン内を貫通して形成されたことを特徴としている。
【0012】
本発明の車両用制動装置では、前記リリーフ弁の開放圧力は、前記操作力吸収手段が前記操作部から前記入力ピストンに入力された操作力を吸収するとき、前記反力油圧と前記制御油圧または制動油圧とが等価となる圧力より大きくなるように設定されたことを特徴としている。
【0013】
本発明の車両用制動装置では、前記反力発生手段は、油圧源と前記反力室とを連結する反力油圧ラインと、該反力油圧ラインに設けられたストロークシミュレータと、前記油圧源から前記反力油圧ラインに作用する油圧が前記ストロークシミュレータを通して前記反力室に作用するのを許容する一方向シール部材とを有することを特徴としている。
【0014】
本発明の車両用制動装置では、前記入力ピストンの初期位置で、前記反力室と前記圧力室とを連通する初期連通路を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用制動装置によれば、シリンダ内に入力ピストンと加圧ピストンを同軸上に軸方向に沿って移動自在に支持し、入力ピストンにより加圧ピストンを押圧可能とし、操作部から入力ピストンに入力される操作量に応じた制御油圧を設定する制御油圧設定手段と、この制御油圧を圧力室に作用させて加圧ピストンを介して制動油圧を発生させる油圧供給手段と、反力油圧を反力室に作用させて入力ピストンを介して操作部に反力を発生させる反力発生手段と、反力室の反力油圧を制御油圧ラインまたは制動油圧ラインに排出可能な反力油圧排出手段を設けている。
【0016】
従って、正常時は、操作部から入力ピストンに入力された操作量に応じた制御油圧を圧力室に作用させることで、加圧ピストンを移動して制動油圧を発生させることができると共に、反力油圧を反力室に作用させることで、入力ピストンを介して操作部に反力を発生させることができ、一方、異常時には、操作部から入力された操作量により入力ピストンが加圧ピストンを直接押圧することで、制動油圧を発生させることができると共に、反力室の反力油圧をほぼ大気圧であるリザーバより圧力が高い油圧系統である制御油圧ラインまたは制動油圧ラインに排出することで、操作部の操作力を低減して良好な操作フィーリングを確保することができ、その結果、構造の簡素化並びに製造コストの低減を図ることができる一方、常時、適正な制動力制御を可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係る車両用制動装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例1に係る車両用制動装置を表す概略構成図、図2は、実施例1の車両用制動装置におけるリリーフ弁の設定圧力を説明するためのグラフである。
【0019】
実施例1の車両用制動装置において、図1に示すように、シリンダ11は、基端部が開口して先端部が閉塞した円筒形状をなし、内部に入力ピストン12と加圧ピストン13が同軸上に配置されて軸方向に沿って移動自在に支持されている。シリンダ11の基端部側に配置された入力ピストン12は、基端部に操作部としてのブレーキペダル14の操作ロッド15が連結されており、乗員によるブレーキペダル14の操作により操作ロッド15を介して移動可能となっている。また、入力ピストン12は、外周面がシリンダ11の内周面に圧入または螺合して固定された前後の支持部材16,17により移動自在に支持されると共に、円盤形状のフランジ部18がシリンダ11の内周面に移動自在に支持されている。そして、入力ピストン12は、フランジ部18が各支持部材16,17に当接することでその移動ストロークが規制されている。
【0020】
シリンダ11の先端部側に配置された加圧ピストン13は断面がコ字形状をなし、外周面がシリンダ11の内周面に移動自在に支持されている。そして、加圧ピストン13は、前後の端面がシリンダ11と入力ピストン12に当接することでその移動ストロークが規制されると共に、シリンダ11との間に張設された付勢スプリング19により加圧ピストン13が入力ピストン12に当接する位置に付勢支持されている。従って、入力ピストン12は、付勢スプリング19の付勢力により加圧ピストン13を介して付勢支持されており、フランジ部18が支持部材17に当接して初期位置で保持されており、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン12が前進すると、同時に加圧ピストン13押圧することができる。
【0021】
このようにシリンダ11内に入力ピストン12と加圧ピストン13が同軸上に移動自在に配置されることで、入力ピストン12における移動方向一方、つまり、入力ピストン12と加圧ピストン13との間に第1圧力室R1が形成されると共に、入力ピストン12における移動方向他方、つまり、入力ピストン12のフランジ部18と支持部材17との間に第2圧力室R2が形成され、また、シリンダ11と加圧ピストン13との間に第3圧力室R3が形成されている。また、支持部材16と入力ピストン12のフランジ部18との間に反力室R4が形成されている。そして、第1圧力室R1と第2圧力室R2とは、シリンダ11内に形成された連通路(オリフィス)20により連通されている。
【0022】
油圧ポンプ21はモータ22が駆動することで油圧を供給可能であり、配管23を介してリザーバタンク24に連結されると共に、配管25を介してアキュムレータ26に連結されている。アキュムレータ26は第1油圧供給配管27を介して連通路20の第1供給ポート28に連結されており、この第1油圧供給配管27に第1リニア弁29が配置されると共に、第1油圧供給配管27から配管23に連結される第1油圧排出配管30に第2リニア弁31が配置されている。この第1リニア弁29と第2リニア弁31は、流量調整式の電磁弁であり、第1リニア弁29はノーマルクローズ、第2リニア弁31はノーマルオープンとなっている。本実施例では、第1油圧供給配管27により本発明の制御油圧ラインが構成されている。
【0023】
また、アキュムレータ26に比べて低容量のアキュムレータ32からの第2油圧供給配管33が反力室R4の第2供給ポート34に連結されており、この第2油圧供給配管33から第1油圧供給配管27に連結される第2油圧排出配管35にリリーフ弁36が配置され、また、第2油圧排出配管35にはリリーフ弁36を迂回してチェック弁37が配置されている。本実施例では、第2油圧供給配管33により本発明の反力油圧ラインが構成され、リリーフ弁36により本発明の反力油圧排出手段が構成されている。
【0024】
なお、本発明の反力油圧排出手段は、この構成に限定されるものではなく、例えば、リリーフ弁36及びチェック弁37に代えて、電磁弁38により構成してもよい。
【0025】
一方、前輪FR,FL及び後輪RR,RLにはそれぞれブレーキ装置(図示略)を作動させるホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLが設けられており、ABS(Antilock Brake System)40により作動可能となっている。そして、第2圧力室R2に連通する第1吐出ポート41には第1吐出油圧配管42が連結され、この第1吐出油圧配管42はABS40に連結され、後輪RR,RLのホイールシリンダ39RR,39RLに油圧を供給可能となっている。また、第3圧力室R3に形成された第2吐出ポート43には第2吐出油圧配管44が連結され、この第2吐出油圧配管44はABS40に連結され、前輪FR,FLのホイールシリンダ39FR,39FLに油圧を供給可能となっている。更に、第3圧力室R3に連通する第1、第2排出ポート45,46には排出油圧配管47がリザーバタンク24に連結されている。
【0026】
また、シリンダ11と入力ピストン12と加圧ピストン13等の要部には、Oリング48が装着されると共に、ワンウェイシール49が装着されており、油圧の漏洩を防止している。この場合、付勢スプリング19により加圧ピストン13が付勢され、入力ピストン12に当接した位置に保持された状態で、第1排出ポート45と第2排出ポート46は、このワンウェイシール49を挟んで連通している。
【0027】
従って、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン12が前進し、加圧ピストン13を押圧するとき、第1圧力室R1の作動油は連通路20を通って第2圧力室R2に流れるため、ブレーキペダル14に操作反力が作用しない。また、加圧ピストン13がストロークS0だけ移動して第1排出ポート45と第2排出ポート46の連通状態が遮断されるまでは、第3圧力室R3の作動油は排出油圧配管47を通してリザーバタンク24に流れるため、入力ピストン12に入力された操作力は吸収され、制御油圧が発生することはない。その後、加圧ピストン13がストロークS0以上移動して第1、第2排出ポート45,46を遮断すると、第1圧力室R1及び第2圧力室R2に所定の制御油圧が作用し、第3圧力室R3が加圧され、第1圧力室R1と第3圧力室R3の油圧がバランスすることで、同等の制動油圧Pr,Pfが吐出される。
【0028】
このように構成された本実施例の車両用制動装置にて、電子制御ユニット(ECU)51は、ブレーキペダル14から入力ピストン12に入力される操作量(ペダルストローク)に応じた制御油圧を設定(制御油圧設定手段)し、この設定された制御油圧を第1圧力室R1(第2圧力室R2)に作用させることで、加圧ピストン13を移動して第3圧力室R3を加圧し、制動油圧を発生(油圧供給手段)させ、ABS40によりホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLを作動して前輪FR,FL及び後輪RR,RLに制動力を作用させるようにしている。
【0029】
また、本実施例では、ブレーキペダル14から入力ピストン12に入力された操作力を吸収(操作力吸収手段)し、入力ピストン12及び加圧ピストン13の押圧力により一時的に制動力が発生しないようにすると共に、この押圧力を操作反力としてブレーキペダル14に作用させないようにしている。この場合、この操作力吸収手段を、第1圧力室R1と第2圧力室R2とを連通する連通路20、第1排出ポート45と第2排出ポート46とのずれ量、つまり、加圧ピストン13のストロークS0により構成し、シリンダ11内の油路面積A1に対して、第1圧力室R1の油圧を受ける入力ピストン12の先端部の第1受圧面積A2と、第2圧力室R2の油圧を受ける入力ピストン12のフランジ部18の第2受圧面積A3とを均等に設定している。そして、異常発生時には、ブレーキペダル14からの操作力により入力ピストン12が加圧ピストン13を直接押圧することで、制動油圧を発生させるようにしている。
【0030】
更に、アキュムレータ32の油圧が第2油圧供給配管33を通して、常時、反力室R4に作用しており、入力ピストン12が移動して反力室R4が加圧されることで、反力室R4の反力が上昇し、乗員に対してブレーキペダル14の操作力に応じた反力を入力ピストン12を介して付与するようにしている。そして、異常発生時には、乗員がブレーキペダル14を操作した踏力に応じて反力室R4内の反力油圧を第2油圧供給配管33からリリーフ弁36(電磁弁38)を通して第1油圧供給配管27に排出することで、ブレーキペダル14の操作不能状態を回避するようにしている。
【0031】
即ち、ブレーキペダル14には、このブレーキペダル14のペダルストロークSpを検出するストロークセンサ52と、その踏力Fpを検出する踏力センサ53と、所定の踏力に応じてON/OFFする踏力スイッチ54と、踏力を検出してストップランプ(図示略)を点灯するストップランプスイッチ55が設けられており、各検出結果をECU51に出力している。また、第1吐出油圧配管42及び第2吐出油圧配管44には、油圧を検出する第1圧力センサ56及び第2圧力センサ57が設けられている。第1圧力センサ56は、第1圧力室R1から第1吐出油圧配管42を通して後輪RR,RLのホイールシリンダ39RR,39RLへ供給される制動油圧Prを検出し、検出結果をECU51に出力している。一方、第2圧力センサ57は、第3圧力室R3から第2吐出油圧配管44を通して前輪FR,FLのホイールシリンダ39FR,39FLへ供給される制動油圧Pfを検出し、検出結果をECU51に出力している。
【0032】
更に、アキュムレータ26からの配管25に第3圧力センサ58が設けられており、この第3圧力センサ58は、アキュムレータ26から各圧力室へ供給する油圧Ppを検出し、検出結果をECU51に出力している。また、前輪FR,FL及び後輪RR,RLには、それぞれ車輪速センサ59が設けられており、検出した各車輪速度をECU51に出力している。
【0033】
従って、ECU51は、ストロークセンサ52が検出したペダルストロークSpを取得すると共に、第1圧力センサ56が検出した制動油圧Prと、第2圧力センサ57が検出した制動油圧Pfを取得する。次に、ECU51は、取得したペダルストロークSpに基づいて予め設定されたマップを用いて目標出力油圧Prtを演算する。そして、この算出した目標出力油圧Prtに基づいて第1、第2リニア弁29,31の開度を調整する。このとき、ECU51は、制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御する。
【0034】
また、ブレーキペダル14に与える反力Pbは、アキュムレータ32に蓄圧された一定圧力の油圧であり、第2油圧供給配管33を通して反力室R4に作用しており、乗員によるブレーキペダル14の操作力に応じて入力ピストン12が反力室R4を加圧することで反力室R4の反力が上昇し、所定の反力をブレーキペダル14に付与することができる。
【0035】
上述したECU51による制動力制御の流れを具体的に説明すると、乗員がブレーキペダル14を踏むと、その操作力により入力ピストン12が前進するが、第1圧力室R1の作動油が連通路20を通して第2圧力室R2に流れるため、ブレーキペダル14にアキュムレータ32による反力油圧Pv以上の反力を作用させることはない。また、入力ピストン12により加圧ピストン13が押圧されて前進するが、第1排出ポート45と第2排出ポート46が連通しているため、第3圧力室R3の作動油が各排出ポート45,46及び排出油圧配管47を通ってリザーバタンク24に流れることとなり、制御油圧は発生しない。
【0036】
そして、入力ピストン12及び加圧ピストン13がストロークS0以上移動すると、ワンウェイシール49により第1排出ポート45と第2排出ポート46が遮断されるため、第3圧力室R3が密閉状態となって作動油が加圧され、制御油圧が発生し始める。
【0037】
また、このように乗員がブレーキペダル14を踏むと、入力ピストン12が前進するため、ストロークセンサ52はペダルストロークSpを検出し、ECU51は、このペダルストロークSpに基づいて目標出力油圧Prtを設定する。そして、ECU51は、この目標出力油圧Prtに基づいて第1、第2リニア弁29,31の開度を調整し、第1油圧供給配管27を通して第1供給ポート28に制御油圧を付与し、この制御油圧を連通路20により第1圧力室R1及び第2圧力室R2に付与する。すると、この制御油圧によって加圧ピストン13が移動し、第1圧力室R1から第1吐出油圧配管42に所定の制動油圧Prが作用すると共に、第3圧力室R3から第2吐出油圧配管44に所定の制動油圧Pfが作用することとなる。そして、この制動油圧Pr,PfがABS40を介してホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLに作用し、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して乗員のブレーキペダル14の操作力に応じた制動力を発生させることができる。
【0038】
なお、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン12及び加圧ピストン13が前進し、第1、第2排出ポート45,46の連通を遮断した後、第1圧力室R1及び第2圧力室R2に所定の制御油圧が付与されて第3圧力室R3が加圧されることとなり、第1圧力室R1及び第2圧力室R2に作用する制御油圧に応じて、第1圧力室R1と第2圧力室R2と第3圧力室R3との油圧がバランスすることで、吐出される制動油圧Pr,Pfはほぼ同等のものとなる。
【0039】
また、この場合、ブレーキペダル14には、アキュムレータ32に蓄圧された反力油圧Pvが作用し、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン12が反力室R4を加圧することで反力室R4の反力が上昇することとなり、ブレーキペダル14の操作力に応じて適正な反力Pbをこのブレーキペダル14に付与することができる。
【0040】
ところで、リニア弁29,31を含む油圧系統に異常が発生し、ECU51による制動油圧制御ができないときには、乗員がブレーキペダル14を操作したときに、その操作力により入力ピストン12及び加圧ピストン13を移動することで、所定の制動油圧Pr,Pfを発生し、この制動油圧Pr,PfをABS40を介してホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLに作用させる必要がある。
【0041】
この場合、ブレーキペダル14に対して、アキュムレータ32から反力油圧Pvが反力Pbとして作用し、ブレーキペダル14の操作力により反力室R4を加圧されることでこの反力Pbが増加する。そのため、油圧系統の異常発生時に、ブレーキペダル14を踏み込むと、各圧力室R1,R2,R3に加えて反力室R4も加圧する必要から、ブレーキペダル14の操作力が重くなり、乗員による操作フィーリングが低下してしまう。
【0042】
そこで、本実施例では、上述したように、アキュムレータ32から反力室R4の第2供給ポート34に至る第2油圧供給配管33と、アキュムレータ26から第1供給ポート28に至る第1油圧供給配管27とを連結する第2油圧排出配管35を設け、この第2油圧排出配管35にリリーフ弁36を設けている。この場合、リリーフ弁36のリリーフ圧(開放圧力)は、入力ピストン12及び加圧ピストン13がストロークS0だけ移動してブレーキペダル14の操作力を吸収するとき、反力油圧Pvと制御油圧(または制動油圧Pr,Pf)とが等価となる圧力より大きくなるように設定する必要がある。
【0043】
即ち、乗員がブレーキペダル14を踏むと、その操作力により入力ピストン12及び加圧ピストン13が前進するが、第1排出ポート45と第2排出ポート46の連通が遮断されるストロークS0までは、各圧力室R1,R2,R3は加圧されずに制御油圧Pr,Pfは発生しない。一方、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン12が前進し、反力室R4が加圧されるために反力油圧Pvは上昇し、第2油圧供給配管33の油圧が第1油圧供給配管27の油圧よりも高くなる。従って、リリーフ弁36のリリーフ圧を、反力油圧Pvと制御油圧(または制動油圧Pr,Pf)とが等価となる圧力、つまり、第2油圧供給配管33の油圧と第1油圧供給配管27の油圧との差圧より大きく設定することで、第2油圧供給配管33から第1油圧供給配管27への作動油の流入を防止してブレーキペダル14の良好な操作フィーリングを確保することができる。
【0044】
一方、油圧系統に異常が発生したとき、乗員がブレーキペダル14を踏み込むと、各圧力室R1,R2,R3に加えて反力室R4も加圧する必要から、ブレーキペダル14の操作力が重くなり、乗員による操作フィーリングが低下してしまう。本実施例では、反力油圧ラインとしての第2油圧供給配管33を第2油圧排出配管35により制御油圧ラインとしての第1油圧供給配管27に連結し、この第2油圧排出配管35にリリーフ弁36を設け、このリリーフ弁36のリリーフ圧が所定値に設定されているため、第2油圧供給配管33と第1油圧供給配管27との油圧差は小さく、且つ、リリーフ圧が低くなり、乗員の良好な操作フィーリングを確保することができる。
【0045】
この場合、図2に示すように、ブレーキペダル14の操作力が増加すると、反力油圧Pvが上昇し、ストロークS0を超えてから遅れて制御油圧が上昇することとなり、リリーフ弁36のリリーフ圧を反力油圧Pvと制御油圧Prminとが等価となる圧力P1に設定することができる。一方、従来のように、反力油圧ラインとしての第2油圧供給配管33を、第1油圧排出配管30を介してリザーバタンク24に連結した場合、リリーフ弁36のリリーフ圧は、通常制動時に反力室R4の圧力が抜けてしまわないように乗員が最大発生させると考えられる圧力と大気の差を圧力P2に設定することとなる。従って、本実施例では、リリーフ弁36のリリーフ圧を従来より低いP1に設定することができ、油圧系統に異常が発生したときのブレーキペダル14の反力Pbを低減して操作フィーリングを向上することができる。
【0046】
従って、リニア弁29,31を含む油圧系統が正常であるとき、乗員がブレーキペダル14を踏むと、入力ピストン12及び加圧ピストン13が前進するが、第1排出ポート45と第2排出ポート46の連通が遮断されるストロークS0までは、各圧力室R1,R2,R3は加圧されずに制御油圧Pr,Pfは発生しない。このとき、リリーフ弁36のリリーフ圧を反力油圧Pvと制御油圧Prminとが等価となる圧力P1に設定しているため、反力室R4内の作動油は、第2供給配管33から第2排出配管35のリリーフ弁36を通って第1供給配管27に排出されることはなく、ブレーキペダル14に対して適正な反力Pvを付与することができる。
【0047】
一方、リニア弁29,31を含む油圧系統に異常が発生し、ECU51による制動油圧制御ができないときに、乗員がブレーキペダル14を踏むと、入力ピストン12及び加圧ピストン13が前進し、各圧力室R1,R2,R3を加圧することで、所定の制動油圧Pr,PfをABS40を介してホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLに作用させることができる。そして、反力室R4内の作動油は、ストロークS0を過ぎた後に、第2供給配管33から第2排出配管35のリリーフ弁36を通って第1供給配管27に排出されることとなり、ブレーキペダル14が作動不能となったり、操作力が必要以上に重くなったりすることはない。
【0048】
なお、本実施例の車両用制動装置を、電気モータを動力源として走行可能な車両で、回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御が可能な車両用制動装置に適用した場合、乗員がブレーキペダル14を踏んで、入力ピストン12及び加圧ピストン13が移動するストロークS0の間には、回生ブレーキが作動可能であり、このときに油圧ブレーキの制動圧力が最小となるため、上述したように、リリーフ弁36のリリーフ圧を設定することで、ブレーキペダル14の操作フィーリングを向上することができる。
【0049】
このように実施例1の車両用制動装置にあっては、シリンダ11内に入力ピストン12と加圧ピストン13を同軸上に軸方向に沿って移動自在に支持し、入力ピストン12にブレーキペダル14を連結し、入力ピストン12の前後の圧力室R1,R2を連通路20により連通し、連通路20の第1供給ポート28に制御油圧を供給可能とすると共に、入力ピストン12の反力室R4の第2供給ポート34に反力油圧を供給可能とする一方、各圧力室R1,R3の吐出ポート41,43から制動油圧を出力可能としている。
【0050】
従って、ECU51は、ペダルストロークSpに応じた目標出力油圧Prtを設定し、この目標出力油圧Prtに基づいて第1圧力室R1に制御油圧を作用させることで、第1圧力室R1から第1吐出油圧配管42に所定の制動油圧Prを出力すると共に、第3圧力室R3から第2吐出油圧配管44に所定の制動油圧Pfを出力し、この制動油圧Pr,PfをABS40を介して各ホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLに作用させ、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して乗員のブレーキペダル14の操作力に応じた適正な制動力を発生させることができる。
【0051】
また、このブレーキペダル14の操作により入力ピストン12が前進したとき、第1圧力室R1の作動油が連通路20を通って第2圧力室R2に流動することで、入力ピストン12は反力油圧を受けることはなく、入力ピストン12は、反力室R4を加圧することで受けた反力Pbをブレーキペダル14に伝達することとなり、乗員に対してブレーキペダル14の操作力に応じた適正な反力を付与することができる。
【0052】
また、入力ピストン12と加圧ピストン13とを接触状態で維持し、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン12及び加圧ピストン13が前進するとき、この加圧ピストン13がストロークS0だけ移動して第1、第2排出ポート45,46を遮断するまで、第3圧力室R3の作動油をリザーバタンク24に排出するようにしている。従って、乗員がブレーキペダル14を踏んでから、入力ピストン12及び加圧ピストン13がストロークS0以上移動するまで、第3圧力室R3の作動油がリザーバタンク24に排出されることで、この期間に制動油圧が発生することはなく、制動油圧に応じた反力が入力ピストン12からブレーキペダル14に伝わることを防止することができる。
【0053】
また、本実施例の車両用制動装置では、アキュムレータ32から反力室R4の第2供給ポート34に至る第2油圧供給配管33と、アキュムレータ26から第1供給ポート28に至る第1油圧供給配管27とを連結する第2油圧排出配管35を設け、この第2油圧排出配管35にリリーフ弁36を設けている。そして、このリリーフ弁36のリリーフ圧を、入力ピストン12及び加圧ピストン13がストロークS0だけ移動してブレーキペダル14の操作力を吸収するとき、反力油圧Pvと制御油圧(制動油圧Pr,Pf)とが等価となる圧力より大きくなるように設定している。
【0054】
従って、入力ピストン12及び加圧ピストン13がストロークS0だけ前進して操作力が吸収されるとき、第2油圧供給配管33から第1油圧供給配管27への作動油の流入が防止されることで、ブレーキペダル14の良好な操作フィーリングを確保することができる。また、油圧系統に異常が発生したとき、第2油圧供給配管33と第1油圧供給配管27との圧力差は小さく、且つ、リリーフ弁36のリリーフ圧が低いため、乗員がブレーキペダル14を踏み込むと、反力室R4の作動油が容易に第2油圧供給配管33から、ほぼ大気圧であるリザーバタンク24より圧力が高い油圧系統である第1油圧供給配管27に排出されることとなり、乗員の良好な操作フィーリングを確保することができ、確実に制動油圧を発生させることで、安全性を向上することができる。
【0055】
このように乗員によるブレーキペダル14の操作量に応じた制動油圧を確実に発生させることができると共に、乗員に対してブレーキペダル14の操作力に応じた反力を適正に付与することができ、その結果、油圧経路を簡略化して構造の簡素化を図ることができると共に、製造コストを低減することができる一方、適正な制動力制御及び反力制御を可能とすることができる。
【実施例2】
【0056】
図3は、本発明の実施例2に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0057】
実施例2の車両用制動装置において、図3に示すように、シリンダ11の内部には、入力ピストン12と加圧ピストン13が軸方向に沿って移動自在に支持されており、入力ピストン12は、基端部にブレーキペダル14の操作ロッド15が連結されており、乗員によるブレーキペダル14の操作により操作ロッド15を介して移動可能となっている。加圧ピストン13は、付勢スプリング19により入力ピストン12に当接する位置に付勢支持されている。従って、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン12が前進すると同時に加圧ピストン13を押圧して移動することができる。
【0058】
このようにシリンダ11内に入力ピストン12と加圧ピストン13が同軸上に移動自在に配置されることで、入力ピストン12における前後に第1圧力室R1と第2圧力室R2が形成されると共に、加圧ピストン13の前方に第3圧力室R3が形成されている。また、支持部材16と入力ピストン12のフランジ部18との間に反力室R4が形成されている。そして、第1圧力室R1と第2圧力室R2とは、入力ピストン12内に形成された連通路61により連通されている。本実施例では、第1圧力室R1と第2圧力室R2とを連通する連通路61を入力ピストン12内に形成しており、この連通路61は、入力ピストン12の軸中心に沿って形成された第1孔61aとこの第1孔61aに連通して径方向に沿って形成された第2孔61bとから構成されている。
【0059】
油圧ポンプ21はモータ22が駆動することで油圧を供給可能であり、配管23を介してリザーバタンク24に連結されると共に、配管25を介してアキュムレータ26に連結されている。アキュムレータ26は第1油圧供給配管27を介して連通路19の第1供給ポート28に連結されており、この第1油圧供給配管27に第1リニア弁29が配置されると共に、第1油圧供給配管27から配管23に連結される第1油圧排出配管30に第2リニア弁31が配置されている。
【0060】
反力室R4の第2供給ポート34には、第2油圧供給配管62の一端部が連結されており、この第2油圧供給配管62の他端部は第1油圧排出配管30に連結されており、この第2油圧供給配管62にストロークシミュレータ63が装着されている。このストロークシミュレータ63は、乗員によるブレーキペダル14の操作力に応じたペダルストロークを発生させるものである。即ち、ストロークシミュレータ63は、内部に第2供給ポート34側に付勢されたピストン63aを有しており、このピストン63aには、第1油圧排出配管30側から第2供給ポート34側への作動油の流動を許容するワンウェイシール(一方向シール部材)63bが装着されている。
【0061】
また、入力ピストン12には、反力室R4と第2圧力室R2を連通する第2油圧排出配管64が設けられ、この第2油圧排出配管64にリリーフ弁65が配置されている。本実施例では、第2油圧供給配管64により本発明の反力油圧ラインが構成され、リリーフ弁65により本発明の反力油圧排出手段が構成されている。
【0062】
一方、前輪FR,FL及び後輪RR,RLにはそれぞれブレーキ装置を作動させるホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLが設けられており、ABS(Antilock Brake System)40により作動可能となっている。そして、第2圧力室R2に連通する第1吐出ポート41には第1吐出油圧配管42が連結され、この第1吐出油圧配管42はABS40に連結され、後輪RR,RLのホイールシリンダ39RR,39RLに油圧を供給可能となっている。また、第3圧力室R3に形成された第2吐出ポート43には第2吐出油圧配管44が連結され、この第2吐出油圧配管44はABS40に連結され、前輪FR,FLのホイールシリンダ39FR,39FLに油圧を供給可能となっている。更に、第3圧力室R3に連通する第1、第2排出ポート45,46には排出油圧配管47がリザーバタンク24に連結されている。
【0063】
従って、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン12が前進し、加圧ピストン13を押圧するとき、第1圧力室R1の作動油は連通路20を通って第2圧力室R2に流れるため、ブレーキペダル14に操作反力が作用しない。また、加圧ピストン13がストロークS0だけ移動して第1排出ポート45と第2排出ポート46の連通状態が遮断されるまでは、第3圧力室R3の作動油は排出油圧配管47を通してリザーバタンク24に流れるため、入力ピストン12に入力された操作力は吸収され、制御油圧が発生することはない。その後、加圧ピストン13がストロークS0以上移動して第1、第2排出ポート45,46を遮断すると、第1圧力室R1及び第2圧力室R2に所定の制御油圧が作用し、第3圧力室R3が加圧され、第1圧力室R1と第3圧力室R3の油圧がバランスすることで、同等の制動油圧Pr,Pfが吐出される。
【0064】
このように構成された本実施例の車両用制動装置にて、電子制御ユニット(ECU)51は、ブレーキペダル14から入力ピストン12に入力される操作量(ペダルストローク)に応じた制御油圧を設定し、この設定された制御油圧を第1圧力室R1(第2圧力室R2)に作用させることで、加圧ピストン13を移動して第3圧力室R3を加圧し、制動油圧を発生させ、ABS40によりホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLを作動して前輪FR,FL及び後輪RR,RLに制動力を作用させるようにしている。
【0065】
また、本実施例では、ブレーキペダル14から入力ピストン12に入力された操作力を吸収(操作力吸収手段)し、入力ピストン12及び加圧ピストン13の押圧力により一時的に制動力が発生しないようにすると共に、この押圧力を操作反力としてブレーキペダル14に作用させないようにしている。更に、所定の油圧が第2油圧供給配管64を通して、常時、反力室R4に作用しており、入力ピストン12が移動して反力室R4が加圧されることで、反力室R4の反力が上昇し、乗員に対してブレーキペダル14の操作力に応じた反力を入力ピストン12を介して付与するようにしている。そして、異常発生時には、乗員がブレーキペダル14を操作した踏力に応じて反力室R4内の反力油圧を第2油圧供給配管64からリリーフ弁65を通して第1油圧供給配管27に排出することで、ブレーキペダル14の操作不能状態を回避するようにしている。
【0066】
即ち、ブレーキペダル14には、このブレーキペダル14のペダルストロークSpを検出するストロークセンサ52と、その踏力Fpを検出する踏力センサ53と、所定の踏力に応じてON/OFFする踏力スイッチ54と、踏力を検出してストップランプ(図示略)を点灯するストップランプスイッチ55が設けられており、各検出結果をECU51に出力している。また、第1吐出油圧配管42及び第2吐出油圧配管44には、油圧を検出する第1圧力センサ56及び第2圧力センサ57が設けられている。第1圧力センサ56は、第1圧力室R1から第1吐出油圧配管42を通して後輪RR,RLのホイールシリンダ39RR,39RLへ供給される制動油圧Prを検出し、検出結果をECU51に出力している。一方、第2圧力センサ57は、第3圧力室R3から第2吐出油圧配管44を通して前輪FR,FLのホイールシリンダ39FR,39FLへ供給される制動油圧Pfを検出し、検出結果をECU51に出力している。
【0067】
更に、アキュムレータ26からの配管25に第3圧力センサ58が設けられており、この第3圧力センサ58は、アキュムレータ26から各圧力室へ供給する油圧Ppを検出し、検出結果をECU51に出力している。また、前輪FR,FL及び後輪RR,RLには、それぞれ車輪速センサ59が設けられており、検出した各車輪速度をECU51に出力している。
【0068】
従って、ECU51は、ストロークセンサ52が検出したペダルストロークSpを取得すると共に、第1圧力センサ56が検出した制動油圧Prと、第2圧力センサ57が検出した制動油圧Pfを取得する。次に、ECU51は、取得したペダルストロークSpに基づいて予め設定されたマップを用いて目標出力油圧Prtを演算する。そして、この算出した目標出力油圧Prtに基づいて第1、第2リニア弁29,31の開度を調整する。このとき、ECU51は、制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御する。
【0069】
なお、反力室R4には第2油圧供給配管62の反力油圧が作用しており、乗員によるブレーキペダル14の操作力に応じて入力ピストン12が反力室R4を加圧することで反力室R4の反力が上昇し、所定の反力をブレーキペダル14に付与することができる。
【0070】
また、本実施例では、上述したように、反力室R4と第2圧力室R2とを連結する第2油圧排出配管64を設け、この第2油圧排出配管64にリリーフ弁65を設けており、このリリーフ弁65のリリーフ圧(開放圧力)を、入力ピストン12及び加圧ピストン13がストロークS0だけ移動してブレーキペダル14の操作力を吸収するとき、反力油圧Pvと制御油圧(または制動油圧Pr,Pf)とが等価となる圧力より大きくなるように設定されている。
【0071】
従って、乗員がブレーキペダル14を踏むと、その操作力により入力ピストン12及び加圧ピストン13が前進するが、第1排出ポート45と第2排出ポート46の連通が遮断されるストロークS0までは、各圧力室R1,R2,R3は加圧されずに制御油圧Pr,Pfは発生しない。一方、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン12が前進して反力室R4が加圧されるため、反力室R4の油圧は上昇して第2圧力室R2の油圧よりも高くなる。ところが、リリーフ弁65のリリーフ圧が反力油圧Pvと制御油圧(または制動油圧Pr,Pf)とが等価となる圧力、つまり、反力室R4の油圧と第2圧力室R2の油圧との差圧より大きく設定されているため、反力室R4から第2圧力室R2への作動油の流入を防止してブレーキペダル14の良好な操作フィーリングを確保することができる。
【0072】
一方、油圧系統に異常が発生したとき、乗員がブレーキペダル14を踏み込むと、各圧力室R1,R2,R3に加えて反力室R4も加圧する必要から、ブレーキペダル14の操作力が重くなり、乗員による操作フィーリングが低下してしまう。この場合、反力室R4と第2圧力室R2との圧力差は小さく、且つ、リリーフ圧が低いため、ブレーキペダル14の操作力が過大になることはなく、乗員の良好な操作フィーリングを確保することができる。
【0073】
また、反力室R4の第2供給ポート34と第1油圧排出配管30とを連結する第2油圧供給配管62にストロークシミュレータ63が装着されている。従って、反力室R4の圧力変化に応じて、第1油圧排出配管30からストロークシミュレータ63により第2油圧供給配管62に作動油が流入し、第2供給ポート34を通して反力室R4へ作動油の流動することとなり、反力室R4での負圧の発生が防止される。
【0074】
このように実施例2の車両用制動装置にあっては、反力室R4と第2圧力室R2とを連結する第2油圧排出配管64を設け、この第2油圧排出配管64にリリーフ弁65を設けている。そして、このリリーフ弁65のリリーフ圧を、入力ピストン12及び加圧ピストン13がストロークS0だけ移動してブレーキペダル14の操作力を吸収するとき、反力油圧Pvと制御油圧(制動油圧Pr,Pf)とが等価となる圧力より大きくなるように設定している。
【0075】
従って、入力ピストン12及び加圧ピストン13がストロークS0だけ前進して操作力が吸収されるとき、反力室R4から第2圧力室R2への作動油の流入が防止されることで、ブレーキペダル14の良好な操作フィーリングを確保することができる。また、油圧系統に異常が発生したとき、反力室R4と第2圧力室R2との圧力差は小さく、且つ、リリーフ弁65のリリーフ圧が低いため、乗員がブレーキペダル14を踏み込むと、反力室R4の作動油が容易に第2圧力室R2から第1油圧供給配管27に排出されることとなり、乗員の良好な操作フィーリングを確保することができ、確実に制動油圧を発生させることで、安全性を向上することができる。
【0076】
そして、この場合、第1圧力室R1と第2圧力室R2とを連通する連通路61を入力ピストン12内に形成すると共に、第2油圧排出配管64とリリーフ弁65を入力ピストン12内に形成している。従って、入力ピストン12に対して孔加工により連通孔61を形成することができ、シリンダ11に連通孔を形成するのに比較して製造作業を簡素化することができると共に、製造コストを低減することができる。
【0077】
また、本実施例では、反力室R4の第2供給ポート34と第1油圧排出配管30とを連結する第2油圧供給配管62にピストン63aとワンウェイシール63bを有するストロークシミュレータ63を装着しており、反力室R4の圧力変化が生じた場合、第1油圧排出配管30からストロークシミュレータ63により第2油圧供給配管62に作動油が流入し、第2供給ポート34を通して反力室R4へ作動油が流動することとなり、反力室R4での負圧の発生を防止してブレーキペダル14に適正な反力を付与することができる。
【実施例3】
【0078】
図4は、本発明の実施例3に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0079】
実施例3の車両用制動装置において、図4に示すように、シリンダ11の内部には、入力ピストン12と加圧ピストン13が軸方向に沿って移動自在に支持されており、入力ピストン12は、基端部にブレーキペダル14の操作ロッド15が連結されており、乗員によるブレーキペダル14の操作により操作ロッド15を介して移動可能となっている。加圧ピストン13は、付勢スプリング19により入力ピストン12に当接する位置に付勢支持されている。従って、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン12が前進すると同時に加圧ピストン13押圧して移動することができる。
【0080】
このようにシリンダ11内に入力ピストン12と加圧ピストン13が同軸上に移動自在に配置されることで、入力ピストン12における前後に第1圧力室R1と第2圧力室R2が形成されると共に、加圧ピストン13の前方に第3圧力室R3が形成されている。また、支持部材16と入力ピストン12のフランジ部18との間に反力室R4が形成されている。そして、第1圧力室R1と第2圧力室R2とは、連通路61により連通されている。
【0081】
油圧ポンプ21はモータ22が駆動することで油圧を供給可能であり、配管23を介してリザーバタンク24に連結されると共に、配管25を介してアキュムレータ26に連結されている。アキュムレータ26は第1油圧供給配管27を介して連通路61の第1供給ポート28に連結されており、この第1油圧供給配管27に第1リニア弁29が配置されると共に、第1油圧供給配管27から配管23に連結される第1油圧排出配管30に第2リニア弁31が配置されている。
【0082】
また、アキュムレータ26に比べて低容量のアキュムレータ32からの第2油圧供給配管33が反力室R4の第2供給ポート34に連結されており、この第2油圧供給配管33から第1油圧供給配管27に連結される第2油圧排出配管35にリリーフ弁36が配置され、また、第2油圧排出配管35にはリリーフ弁36を迂回してチェック弁37が配置されている。このリリーフ弁36のリリーフ圧は、入力ピストン12及び加圧ピストン13がストロークS0だけ移動してブレーキペダル14の操作力を吸収するとき、反力油圧Pvと制御油圧(または制動油圧Pr,Pf)とが等価となる圧力より大きくなるように設定されている。
【0083】
従って、乗員がブレーキペダル14を踏むと、その操作力により入力ピストン12及び加圧ピストン13が前進するが、第1排出ポート45と第2排出ポート46の連通が遮断されるストロークS0までは、各圧力室R1,R2,R3は加圧されずに制御油圧Pr,Pfは発生しない。一方、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン12が前進して反力室R4が加圧されるため、反力室R4の油圧は上昇して第2圧力室R2の油圧よりも高くなる。ところが、リリーフ弁36のリリーフ圧が反力油圧Pvと制御油圧(または制動油圧Pr,Pf)とが等価となる圧力、つまり、反力室R4の油圧と第2圧力室R2の油圧との差圧より大きく設定されているため、反力室R4から第2圧力室R2への作動油の流入を防止してブレーキペダル14の良好な操作フィーリングを確保することができる。
【0084】
一方、油圧系統に異常が発生したとき、乗員がブレーキペダル14を踏み込むと、各圧力室R1,R2,R3に加えて反力室R4も加圧する必要から、ブレーキペダル14の操作力が重くなり、乗員による操作フィーリングが低下してしまう。この場合、反力室R4と第2圧力室R2との圧力差は小さく、且つ、リリーフ圧が低いため、ブレーキペダル14の操作力が過大になることはなく、乗員の良好な操作フィーリングを確保することができる。
【0085】
また、シリンダ11には、反力室R4に連通する第3供給ポート71が形成されており、第3供給ポート71と第1油圧供給配管27を連結する第3油圧排出配管(初期連通路)72が設けられている。
【0086】
従って、入力ピストン12がブレーキペダル14から操作力が入力されていない初期位置(図4に表す位置)にあるとき、作動油の温度変化やブレーキペダル14の踏み込み速度変化などにより反力室R4内に圧力変化が発生しても、反力室R4内の作動油が第3供給ポート71から第3油圧排出配管72を通して第1油圧供給配管27に排出され、更に、第2リニア弁31により第1油圧排出配管30に排出される一方、第1油圧供給配管27の作動油が第3供給ポート71から反力室R4に供給されることとなり、反力室R4の圧力変動が抑制される。
【0087】
このように実施例3の車両用制動装置にあっては、シリンダ11内に入力ピストン12と加圧ピストン13を同軸上に軸方向に沿って移動自在に支持し、入力ピストン12にブレーキペダル14を連結し、入力ピストン12の前後の圧力室R1,R2を連通路61により連通し、連通路61の第1供給ポート28に制御油圧を供給可能とすると共に、入力ピストン12の反力室R4の第2供給ポート34に反力油圧を供給可能とする一方、各圧力室R1,R3の吐出ポート41,43から制動油圧を出力可能とし、更に、反力室R4の第3供給ポート71を第3油圧排出配管72により第1油圧供給配管27に連結している。
【0088】
従って、入力ピストン12が初期位置にあるとき、反力室R4内に圧力変化が発生した場合、反力室R4内の作動油が第3供給ポート71から第3油圧排出配管72を通して第1油圧供給配管27に排出されたり、第1油圧供給配管27の作動油が第3供給ポート71から反力室R4に供給されることで、反力室R4の圧力変動を確実に抑制することができ、ブレーキペダル14の操作フィーリングを向上することができる。
【0089】
なお、上述した各実施例では、反力室R4に連結された第2油圧供給配管33を第2油圧排出配管35により第1油圧供給配管27に連結し、この第2油圧排出配管35にリリーフ弁36を配置したり、反力室R4と第2圧力室R2を第2油圧排出配管64により連結し、この第2油圧排出配管64にリリーフ弁65を配置したが、本発明は、反力室R4の反力油圧を制御油圧ラインまたは制動油圧ラインに排出可能な反力油圧排出手段を設ければよいものであり、これらの構成に限定されるものではない。例えば、反力室R4や第2油圧供給配管33を第3圧力室R3、第1吐出油圧配管42、第2吐出油圧配管44などに連結してリリーフ弁を配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上のように、本発明に係る車両用制動装置は、操作量に応じて制動油圧を出力可能とすると共に、油圧系統の異常時に操作部に対して常時適正な反力を付与可能として操作フィーリングの向上を図ったものであり、いずれの種類の制動装置に用いても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施例1に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
【図2】実施例1の車両用制動装置におけるリリーフ弁の設定圧力を説明するためのグラフである。
【図3】本発明の実施例2に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
【図4】本発明の実施例3に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
【符号の説明】
【0092】
11 シリンダ
12 入力ピストン
13 加圧ピストン
14 ブレーキペダル(操作部)
19 付勢スプリング
20,61 連通路(操作力吸収手段)
21 油圧ポンプ
24 リザーバタンク
26 アキュムレータ(油圧供給手段)
27 第1油圧供給配管
29 第1リニア弁(油圧供給手段)
30 第1油圧排出配管
31 第2リニア弁(油圧供給手段)
32 アキュムレータ(反力供給手段)
33,62 第2油圧供給配管
35,64 第2油圧排出配管
36,65 リリーフ弁(反力油圧排出手段)
38 電磁弁(反力油圧排出手段)
39RR,39RL,39FR,39FL ホイールシリンダ
40 ABS
42 第1吐出油圧配管
44 第2吐出油圧配管
47 排出油圧配管
51 電子制御ユニット、ECU(制御油圧設定手段)
52 ストロークセンサ
53 踏力センサ
54 踏力スイッチ
55 ストップランプスイッチ
56 第1圧力センサ
57 第2圧力センサ
58 第3圧力センサ
63 ストロークシミュレータ
63a ピストン
63b ワンウェイシール(一方向シール部材)
71 第3供給ポート
72 第3油圧排出配管(初期連通路)
R1 第1圧力室
R2 第2圧力室
R3 第3圧力室
R4 反力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内に軸方向に沿って移動自在に支持された入力ピストンと、該入力ピストンに連結された操作部と、前記シリンダ内に前記入力ピストンと同軸上に配置されて軸方向に沿って移動自在に支持されると共に前記入力ピストンにより押圧可能な加圧ピストンと、前記操作部から前記入力ピストンに入力される操作量に応じた制御油圧を設定する制御油圧設定手段と、該制御油圧設定手段により設定された制御油圧を圧力室に作用させて前記加圧ピストンを介して制動油圧を発生させる油圧供給手段と、反力油圧を反力室に作用させて前記入力ピストンを介して前記操作部に反力を発生させる反力発生手段と、前記反力室の反力油圧を制御油圧ラインまたは制動油圧ラインに排出可能な反力油圧排出手段とを具えたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制動装置において、前記反力油圧排出手段は、反力油圧ラインと前記制御油圧ラインまたは前記制動油圧ラインとを連結する油圧連結ラインと、該油圧連結ラインに設けられたリリーフ弁とを有することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用制動装置において、前記操作部から前記入力ピストンに入力された操作力を吸収する操作力吸収手段が設けられたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用制動装置において、前記圧力室は、前記入力ピストンの移動方向一方側に設けられた第1圧力室と、他方側に設けられた第2圧力室とから構成され、前記操作力吸収手段は、前記第1圧力室と第2圧力室とを連通する連通路により構成され、前記反力油圧排出手段は、前記反力油圧ラインと前記連通路とを連結する油圧連結ラインと、該油圧連結ラインに設けられたリリーフ弁とを有することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用制動装置において、前記連通路は、前記入力ピストン内を貫通して形成されたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか一つに記載の車両用制動装置において、前記リリーフ弁の開放圧力は、前記操作力吸収手段が前記操作部から前記入力ピストンに入力された操作力を吸収するとき、前記反力油圧と前記制御油圧または制動油圧とが等価となる圧力より大きくなるように設定されたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の車両用制動装置において、前記反力発生手段は、油圧源と前記反力室とを連結する反力油圧ラインと、該反力油圧ラインに設けられたストロークシミュレータと、前記油圧源から前記反力油圧ラインに作用する油圧が前記ストロークシミュレータを通して前記反力室に作用するのを許容する一方向シール部材とを有することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の車両用制動装置において、前記入力ピストンの初期位置で、前記反力室と前記圧力室とを連通する初期連通路を設けたことを特徴とする車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−24098(P2008−24098A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197186(P2006−197186)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】