説明

車両用前照灯、車両用前照灯の制御方法

【課題】スマートビームシステムを備えた前照灯装置において、ハイビームの選択時間の増加に起因するハイ/赤外線切替式灯具の切替機構にかかる負担を低減する。
【解決手段】ハイ/赤外光切替式灯具60は、ハイビーム配光パターンと赤外光配光パターンとを切り替えて照射可能である。ハイ/ロー切替式灯具20は、ハイビーム配光パターンとロービーム配光パターンとを切り替えて照射可能である。PCS制御部114は、前方に照射された赤外光の反射光を検出する。車両検出部118は前方の車両の有無を検出する。状況依存切替制御部108は、ハイ/ロー切替式灯具20に対して、車両検出部118により対向車が検出されたときはロービーム配光パターンに、対向車が検出されないときはハイビーム配光パターンに切り替えて照射するよう指示する一方で、ハイ/赤外光切替式灯具60に対して対向車の有無にかかわらず赤外光配光パターンで照射するよう指示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに用いられる車両用前照灯およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯装置は、一般にロービームとハイビームとを切り替えることが可能である。ロービームは、近方を所定の照度で照明するものであって、対向車や先行車にグレアを与えないよう配光規定が定められており、主に市街地を走行する場合に用いられる。一方、ハイビームは、前方の広範囲および遠方を比較的高い照度で照明するものであり、主に対向車や先行車が少ない道路を高速走行する場合に用いられる。
【0003】
ハイビームはロービームと比較して運転者による視認性が優れているが、自車の前方を走行する車両(以下、「前走車」という)の運転者にグレアを与えてしまう。これを避けるために、アクチュエータにより可動シェードを駆動してハイビームとロービームを切り替えるハイ/ロー切替式ランプを備え、車両の周囲の状況に応じてハイビームとロービームを自動的に切り替えるスマートビームシステムが知られている。このようなスマートビームシステムを有する車両では、車両前方の状況を知るために赤外線投光器を前照灯に備える場合がある。赤外線投光器による反射光に基づき、前方車が存在しないときにはハイビームを投光し、前方車が存在するときには自動的にロービームに切り替える。これにより、前方車にグレアを与えずに、できるだけハイビームを選択して良好な視界を確保することができる。
【0004】
上記のような赤外線投光器として、特許文献1は、車両の周囲の照度に基づいて、赤外線投光器の消灯、点灯、および調光を実行する技術が開示されている。また、特許文献2には、バルブ前に配置された赤外線フィルタをアクチュエータで駆動することで、ハイビームと赤外線とを切替可能であるハイ/赤外線切替式投光器が開示されている。アクチュエータで赤外線フィルタを起立させると赤外線投光モードとなり、フィルタを倒すとハイビームモードとなる。
【特許文献1】特開2005−50139号公報
【特許文献2】特開2008−41572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したようなハイ/ロー切替式のスマートビームシステムでは、スマートビームシステムでない前照灯装置と比べて、ハイ/赤外線切替式ランプにおけるハイビームの選択回数が増大することになる。そのため、上述の特許文献1に記載の装置では、ハイビームと赤外線との切替回数が増大するために、バルブに過度の負担がかかり、バルブ寿命が不足するという問題がある。また、特許文献2に記載の装置では、赤外線フィルタを駆動するアクチュエータの動作頻度が増加するため、アクチュエータの要求される耐久回数が大幅に増加するという問題がある。この耐久回数の増加は、アクチュエータの大型化やコストアップにつながりうる。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、スマートビームシステムを備えた前照灯装置において、ハイビームの選択回数の増加に起因するハイ/赤外線切替式灯具の切替機構にかかる負担を低減する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、車両用前照灯である。この車両用前照灯は、ハイビーム配光パターンと赤外光配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第1灯具と、ハイビーム配光パターンとロービーム配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第2灯具と、前方に照射された赤外光の反射光を検出する赤外線監視手段と、前方の車両の有無を検出する車両検出手段と、第2灯具に対して、車両検出手段により車両が検出されたときはロービーム配光パターンに、車両が検出されないときはハイビーム配光パターンに切り替えて照射するよう指示する一方で、第1灯具に対して車両の有無にかかわらず赤外光配光パターンで照射するよう指示する状況依存切替制御手段と、を備える。
【0008】
この態様によると、状況依存切替制御手段によって、前方の車両の有無にかかわらず第1灯具からは赤外光配光パターンで照射される。これにより、第1灯具における配光パターンの切替機構の動作回数を削減することができる。
【0009】
本発明の別の態様もまた、車両用前照灯である。この車両用前照灯は、ハイビーム配光パターンと赤外光配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第1灯具と、ハイビーム配光パターンとロービーム配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第2灯具と、前方に照射された赤外光の反射光を検出する赤外線監視手段と、前方の車両の有無を検出する車両検出手段と、を備える。第1灯具に対して赤外光配光パターンで照射するよう指示し、第2灯具に対してロービーム配光パターンで照射するよう指示するロービーム状態と、第1灯具と第2灯具の両方に対してハイビーム配光パターンで照射するよう指示するハイビーム選択状態と、第2灯具に対して、車両検出手段により車両が検出されたときはロービーム配光パターンに、車両が検出されないときはハイビーム配光パターンに切り替えて照射するよう指示する一方で、第1灯具に対して車両の有無にかかわらず赤外光配光パターンで照射するよう指示する状況依存切替状態と、のいずれかをドライバーが選択可能とする切替スイッチと、を備える。
【0010】
この態様によると、ドライバーは、配光パターンの切替を自動で行う状況依存切替制御を実行するか否かを選択することができる。また、ドライバーの意志でロービームとハイビームを適宜切り替えて使用することも可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スマートビームシステムを備えた前照灯装置において、ハイビームの選択回数の増加に起因するハイ/赤外線切替式灯具の切替機構にかかる負担を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、本実施形態にかかる車両用前照灯10の構成を示す正面図である。図1は、車両正面からみて左側に配置される車両用前照灯10を示す。車両用前照灯10は、透光カバー12とランプボディ14とを備える。透光カバー12とランプボディ14とで囲まれる灯室内には、ハイ/赤外光切替式灯具60と、ハイ/ロー切替式灯具20の二つの灯具が固定されている。各灯具と透光カバー12との間には、灯具前方から見たときの隙間を覆うようにエクステンション(図示せず)が配置されている。
【0013】
ハイ/赤外光切替式灯具60は、バルブの前方に配置された赤外線フィルタを備えており、このフィルタを起立または傾斜させることで、ハイビームの配光パターンと赤外光の配光パターンとを切り替えて照射することができる。車両前方に投光された赤外光の反射を赤外線カメラで撮影することで、夜間であっても車両前方に存在する歩行者や車両を検出することが可能となる。ハイ/赤外光切替式灯具60の構成については、図2を参照して説明する。
【0014】
ハイ/ロー切替式灯具20は、バルブの前方に配置された遮光シェードを備えており、このシェードを起立または傾斜させることで、ハイビームの配光パターンとロービームの配光パターンとを切り替えることができる。このようなハイ/ロー切替式灯具は周知であるので、本明細書では詳細な説明を省略する。
【0015】
ハイ/赤外光切替式灯具60とハイ/ロー切替式灯具20の配光パターンの組み合わせは、車室内に配置された切替スイッチの位置に応じて、所定の組み合わせが定められている。
【0016】
図2は、ハイ/赤外光切替式灯具60の全体構成を示す断面図である。ハイ/赤外光切替式灯具60は、前面側が開口する容器状の合成樹脂製ランプボディ14と、ランプボディ14の前面開口部に組み付けられ、ランプボディ14と組み合わせて灯室Sを区画形成する透明な透光カバー12と、灯室S内に収容され、図示しないエイミング機構によって上下左右方向に傾動調整可能に支持された投射式光源ユニット25とで構成されている。
【0017】
ランプボディ14の内部には、複数に分割して構成されるエクステンション27a,27b,27c,27eが設けられ、エクステンション27a,27b,27c,27eは光源ユニット25を表出させる開口29を形成するとともに、光源ユニット25の露出不要部分を覆っている。
【0018】
光源ユニット25は、光源バルブ31を挿着したアルミダイキャスト製のリフレクタ33と、レンズホルダー39を介してリフレクタ33の前方に一体化され、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置された凸レンズ(投影レンズ)37とを有する。
【0019】
リフレクタ33は、光源バルブ31からの光を光軸Ax寄りに反射する略楕円球面状のリフレクタ反射面33aを有し、投影レンズとの間に第1焦点f1および第2焦点f2を有する。
【0020】
光源ユニット25は、リフレクタ33の第1焦点f1に光源バルブ31のフィラメント31aが位置し、かつリフレクタ33の第2焦点f2は凸レンズ37の後方焦点近傍に位置することで、リフレクタ33のアルミ蒸着処理された有効反射面で反射される光源光が凸レンズ37でほぼ平行光L1となって投射配光されるように構成されている。
【0021】
光源ユニット25は、いわゆるハイビーム用配光パターンを投光するように構成されている。
【0022】
ハイ/赤外光切替式灯具60は、フィルタを通り抜ける光を赤外光に変える赤外光透過フィルタ59をさらに備えている。赤外光透過フィルタ59は、リフレクタ33と投影レンズ37との間に設けられる。赤外光透過フィルタを支えるブラケット57は、アクチュエータ55の動作に応じて、リフレクタからの反射光を透過させる透過位置101と反射光を透過させない退避位置99との間で赤外光透過フィルタ59を移動させる。
【0023】
ハイ/赤外光切替式灯具60の動作を説明する。アクチュエータ55により赤外光透過フィルタ59を透過位置101に移動させると、ハイ/赤外光切替式灯具60からは赤外光配光パターンが投光される。アクチュエータ55により赤外光透過フィルタ59を待避位置に移動させると、ハイ/赤外光切替式灯具60からはハイビーム配光パターンが投光される。
【0024】
図3は、本実施形態による車両用前照灯を含む前照灯制御装置100の構成を示すブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0025】
ハイ/赤外光切替式灯具60は、駆動回路110に接続される。駆動回路110は、外部からの指令に応じてアクチュエータ55とバルブ31を駆動して、ハイ/赤外光切替式灯具でハイビーム用配光パターンまたは赤外光用配光パターンのいずれかを前方に照射する。
【0026】
ハイ/ロー切替式灯具20も駆動回路112に接続される。駆動回路112は、外部からの指令に応じてハイ/ロー切替式灯具でハイビーム用配光パターンまたはロービーム用配光パターンのいずれかを前方に照射する。
【0027】
ハイ/ロー切替スイッチ102は、車室内に設けられるスイッチであり、これによりドライバーはハイビームまたはロービームを選択することができる。スイッチ102は駆動回路110、112に接続され、スイッチの位置に応じてハイ/赤外光切替式灯具60とハイ/ロー切替式灯具20から所定の配光パターンを照射させる。スイッチ位置と配光パターンの関係については、図4で説明する。
【0028】
赤外光カメラ116は、ハイ/赤外光切替式灯具60から前方に照射された赤外光の反射光を撮影する。赤外光カメラ116は、車室内の上部、たとえばルームミラー近傍に設けられていてもよい。プリクラッシュセーフティ(PCS)制御部114は、赤外光カメラ116が撮影した画像に対してエッジ処理やパターン認識等の画像処理を施して、車両前方の歩行者や障害物等を認識する。そして、歩行者や障害物が車両に所定距離以下まで接近していると判定した場合は、図示しないシートベルトの巻き取りや車速低下等の安全対策を指令する。このようなプリクラッシュセーフティシステム自体は周知であるので、本明細書では詳細な説明を省略する。
【0029】
カメラ120は、車両前方を撮影する。車両検出部118は、カメラ120で撮影された画像に対し所定の画像処理を施して他車のヘッドランプまたはテールランプを画像内で識別し、自車前方の車両を検出する。車両検出部118は、対向車が検出された場合には、その情報を状況依存切替制御部108に伝える。
【0030】
状況依存切替制御部108は、前照灯が点灯されかつ車室内に設けられたスマートビームスイッチ104によってスマートビームモードが選択されている場合に、自車周辺の状況に応じてハイ/赤外光切替式灯具60およびハイ/ロー切替式灯具20の配光パターンを制御する。一般的に、このようなスマートビームシステムでは、ドライバーは手動でハイビームとロービームの切替をする必要がない上に、ハイビームの点灯時間が長くなるため前方視認性が向上する。
【0031】
図4は、ハイ/ロー切替スイッチ102のスイッチ位置と、ハイ/赤外光切替式灯具60およびハイ/ロー切替式灯具20の配光パターンの関係を示す図である。図示するように、スイッチでハイビームが選択された場合、ハイ/赤外光切替式灯具60からはハイビーム用配光パターンが、ハイ/ロー切替式灯具20からもハイビーム用配光パターンが照射される。スイッチでロービームが選択された場合、ハイ/赤外光切替式灯具60からは赤外光用配光パターンが、ハイ/ロー切替式灯具20からはロービーム用配光パターンが照射される。後者の場合、ハイ/赤外光切替式灯具60から照射される赤外光を利用してPCS制御部114で歩行者や障害物の検出がされ、ロービームの選択による照射範囲の狭さをカバーしている。
【0032】
ここで、スマートビームモードの選択時に、図4に示す配光パターンがそのまま選択された場合の各灯具の動作について考える。図5は、ハイ/赤外光切替式灯具60およびハイ/ロー切替式灯具20がスマートビームモード時に図4の配光パターンをとるときの動作を説明する図である。図示のように、スマートビームが選択されている場合、基本的にはハイ/赤外光切替式灯具60およびハイ/ロー切替式灯具20の両方でハイビームが照射される。時刻t1において、車両検出部118により対向車が検出されると、ハイ/ロー切替式灯具20はロービームに、ハイ/赤外光切替式灯具60は赤外光に切り替えられる。時刻t2で対向車がいなくなると、両灯具はハイビームでの照射に切り替えられる。時刻t3で再び対向車が検出されると、ハイ/ロー切替式灯具20はロービームに、ハイ/赤外光切替式灯具60は赤外光に切り替えられる。このように、ハイ/赤外光切替式灯具60およびハイ/ロー切替式灯具20の両方が、対向車検出のたびに照射パターンが切り替えられる。特に、ハイ/赤外光切替式灯具60では、赤外光フィルタを動作させるアクチュエータの動作回数が、ドライバーがハイビームとロービームの切替を手動で行う場合に比べて大幅に増加することが予想される。そのため、アクチュエータの耐久寿命が低下するおそれがある。
そこで、本実施形態では、スマートビームモードの選択時、ハイ/赤外光切替式灯具60のアクチュエータの動作回数を低減するように、配光パターンを変更するようにした。
【0033】
図6は、本実施形態による、スマートビームモードの選択時におけるハイ/赤外光切替式灯具60およびハイ/ロー切替式灯具20の配光パターンを示す。図4と比較するとわかるように、ロービームが求められる場合の両灯具の配光パターンは、従来と同様、ハイ/ロー切替式灯具20ではロービーム用配光パターンが、ハイ/赤外光切替式灯具60では赤外光用配光パターンで照射される。しかしながら、ハイビームが求められる場合、ハイ/ロー切替式灯具20ではハイビーム用配光パターンに切り替えられるが、ハイ/赤外光切替式灯具60では赤外光用配光パターンのまま切替がなされない。
【0034】
図7は、ハイ/赤外光切替式灯具60およびハイ/ロー切替式灯具20がスマートビームモード時に図6の配光パターンをとるときの動作を説明する図である。図示のように、時刻t1、t3において、車両検出部118により対向車が検出されると、ハイ/ロー切替式灯具20はロービームに切り替えられ、時刻t2において対向車が検出されなくなるとハイビームに切り替えられる。これに対し、ハイ/赤外光切替式灯具60は、対向車が検出されるか否かに関係なく、常に赤外光用配光パターンで照射される。これによって、ハイ/赤外光切替式灯具60のアクチュエータの動作回数を大幅に抑制することができ、アクチュエータの寿命を延ばすことができる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態では、状況依存切替制御部は、ハイ/ロー切替式灯具に対して、車両検出部による対向車が検出されたときはロービーム配光パターンに、対向車が検出されないときはハイビーム配光パターンに切り替えて照射するよう指示する一方で、ハイ/赤外光切替式灯具に対しては、対向車の有無にかかわらず赤外光配光パターンで照射するよう指示する。つまり、スマートビームによるハイ切替時に、赤外線アクチュエータの作動回数を低減し、アクチュエータの寿命を延ばすことができる。
【0036】
ハイ/赤外光切替式灯具の中には、ハイビーム用配光パターンが選択された場合には赤外光用配光パターンが選択されたときよりも光源バルブを昇圧して光量を高めるものがある。このような場合は、本実施形態により対向車の有無にかかわらず赤外光配光パターンで照射することにより、バルブの寿命も延ばすことが可能になる。
なお、ハイビーム用配光パターンが選択された場合には光源バルブをバッテリ電圧で駆動し、赤外光用配光パターンが選択された場合には光源バルブを減圧するタイプのハイ/赤外光切替式灯具についても、本実施形態によりバルブ寿命を延ばすことが可能になる。
【0037】
なお、スマートビームスイッチ104によりスマートビームモードがドライバーにより選択されていない場合は、ハイ/ロー切替スイッチ102により図4に示す配光パターンでの照射が可能である。これは、他車へのパッシングなど、ドライバーの意志によりハイビームを選択する必要な場合もあるからである。
【0038】
実施の形態2.
実施の形態1では、スマートビームスイッチによりスマートビームモードがドライバーにより選択された場合、状況依存切替制御部が、ハイ/赤外光切替式灯具に対して、対向車の有無にかかわらず赤外光配光パターンで照射するよう指示することを述べた。実施の形態2では、このようなスイッチの代わりに、ロービームモード、ハイビームモード、およびスマートビームモードの三状態のなかから、ドライバーがいずれかを選択可能であるモード選択スイッチが車室内に設けられている。
【0039】
図8は、上述のモード選択スイッチの位置と各灯具の配光パターンの組み合わせを示す図である。スイッチ位置がハイビームモードである場合、状況依存切替制御部は、ハイ/赤外光切替式灯具とハイ/ロー切替式灯具の両方に対してハイビーム配光パターンで照射するよう指示する。
【0040】
スイッチ位置がロービームモードである場合、状況依存切替制御部は、ハイ/赤外光切替式灯具に対して赤外光配光パターンで照射するよう指示し、ハイ/ロー切替式灯具に対してロービーム配光パターンで照射するよう指示する。
【0041】
スイッチ位置がスマートビームモードである場合、状況依存切替制御部は、ハイ/ロー切替式灯具に対して、車両検出部により対向車が検出されたときはロービーム配光パターンに、対向車が検出されないときはハイビーム配光パターンに切り替えて照射するよう指示する一方で、ハイ/赤外光切替式灯具に対して車両の有無にかかわらず赤外光配光パターンで照射するよう指示する。
【0042】
このような三状態のモード選択スイッチを備えることによって、ドライバーは、自車両の運転に適した最適の運転モードを単一のスイッチで選択することができる。
【0043】
図9は、実施の形態2によるモード選択スイッチが備えられていた場合の状況依存切替制御部の詳細な動作を示すフローチャートである。まず、状況依存切替制御部は、モード選択スイッチの位置を読み取る(S10)。スイッチ位置がロービームモードまたはスマートビームモードである場合、車速センサで検出される車速が所定値V1(たとえば、13km/h)以上であるか否かを判定する(S12)。V1以上であれば(S12のY)、ハイ/赤外光切替式灯具のアクチュエータを駆動して赤外光配光パターンに切り替えるとともに、光源バルブをオンにして(S14)、このフローを終了する。V1未満であれば(S12のN)、さらに車速が所定値V2(たとえば、10km/h)以下であるか否かを判定する(S16)。V2以下であれば(S16のY)、ハイ/赤外光切替式灯具のアクチュエータを駆動して赤外光配光パターンに切り替えるが、光源バルブはオフにする(S18)。車速がV2より大きければ(S16のN)、このフローを終了する。
S10において、スイッチ位置がハイビームモードである場合、状況依存切替制御部は、ハイ/赤外光切替式灯具のアクチュエータを駆動してハイビーム配光パターンに切り替えるとともに、光源バルブをオンにして(S20)、このフローを終了する。
このように、所定の速度以下の場合はバルブを消灯するのは、赤外光は長時間にわたり人の目に入ると悪影響を及ぼしうるので、車両が低速でランプが人の目に止まりやすい場合はバルブを消灯することで影響を防止するためである。また、車両停止時にアクチュエータを駆動すると、駆動音が運転手に聞き取られやすいので、これを防止するために車両が走行を開始して所定の速度以上となったときに、ハイ/赤外光切替式灯具のアクチュエータを駆動することが好ましい。
【0044】
図10は、本発明の別の実施形態にかかる車両用前照灯10’の構成を示す正面図である。実施の形態1ではハイ/ロー切替式灯具が備えられていたが、ここではハイビーム用灯具22aとロービーム用灯具22bが別々に設けられている。別の実施形態として、ハイ/赤外光切替式灯具の代わりに、ハイビーム用灯具と赤外光用灯具が別々に設けられていてもよい。いずれの場合も、スマートビームモード選択時における配光パターンの組み合わせについては、実施の形態1と同様である。
【0045】
以上説明したように、本発明の実施の形態によると、自動的にロービームとハイビームを切り替えるスマートビームシステムを備えた車両前照灯装置において、ハイビームの選択回数の増加に起因するハイ/赤外線切替式灯具のアクチュエータまたはバルブにかかる負荷を低減して長寿命化を図ることができる。
【0046】
また、スマートビームモードの選択時にはロービームとハイビームが自動的に切り替わるため、ハイビーム時に赤外/ハイ切替式灯具とハイ/ロー切替式灯具の両方をハイビーム配光パターンとするよりも、後者のみハイビーム配光パターンとする方が、切替によるロービームからの照度差が小さくなり、ドライバーに与える違和感を軽減することができる。一方の灯具のみによるハイビーム配光パターンでも遠方視認距離は大幅にアップするので、安全上の効果は十分大きい。
【0047】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組合せ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組合せなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0048】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施の形態1にかかる車両用前照灯の構成を示す正面図である。
【図2】図1のハイ/赤外光切替式灯具の全体構成を示す断面図である。
【図3】前照灯制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】ハイ/ロー切替スイッチのスイッチ位置と、ハイ/赤外光切替式灯具およびハイ/ロー切替式灯具の配光パターンの関係を示す図である。
【図5】ハイ/赤外光切替式灯具およびハイ/ロー切替式灯具がスマートビームシステム動作時に図4の配光パターンをとるときの動作を説明する図である。
【図6】スマートビームシステムの選択時におけるハイ/赤外光切替式灯具およびハイ/ロー切替式灯具の配光パターンを示す図である。
【図7】ハイ/赤外光切替式灯具およびハイ/ロー切替式灯具がスマートビームシステム選択時に図6の配光パターンをとるときの動作を説明する図である。
【図8】モード選択スイッチの位置と各灯具の配光パターンの組み合わせを示す図である。
【図9】実施の形態2によるモード選択スイッチが備えられていた場合の状況依存切替制御部の詳細な動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の別の実施形態にかかる車両用前照灯の構成を示す正面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 車両用前照灯、 12 透光カバー、 14 ランプボディ、 20 ハイ/ロー切替式灯具、 31 光源バルブ、 37 投影レンズ、 55 アクチュエータ、 59 赤外光透過フィルタ、 60 ハイ/赤外光切替式灯具、 99 退避位置、 101 透過位置、 102 ハイ/ロー切替スイッチ、 104 スマートビームスイッチ、 108 状況依存切替制御部、 110 駆動回路、 112 駆動回路、 114 PCS制御部、 116 赤外光カメラ、 118 車両検出部、 120 カメラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイビーム配光パターンと赤外光配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第1灯具と、
ハイビーム配光パターンとロービーム配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第2灯具と、
前方に照射された赤外光の反射光を検出する赤外線監視手段と、
前方の車両の有無を検出する車両検出手段と、
前記第2灯具に対して、前記車両検出手段により車両が検出されたときはロービーム配光パターンに、車両が検出されないときはハイビーム配光パターンに切り替えて照射するよう指示する一方で、前記第1灯具に対して車両の有無にかかわらず赤外光配光パターンで照射するよう指示する状況依存切替制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
ハイビーム配光パターンと赤外光配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第1灯具と、
ハイビーム配光パターンとロービーム配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第2灯具と、
前方に照射された赤外光の反射光を検出する赤外線監視手段と、
前方の車両の有無を検出する車両検出手段と、
前記第2灯具に対して、前記車両検出手段により車両が検出されたときはロービーム配光パターンに、車両が検出されないときはハイビーム配光パターンに切り替えて照射するよう指示する一方で、前記第1灯具に対して車両の有無にかかわらず赤外光配光パターンで照射するよう指示する状況依存切替制御を実行するか否かをドライバーに選択させる作動スイッチと、
を備えることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項3】
ハイビーム配光パターンと赤外光配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第1灯具と、
ハイビーム配光パターンとロービーム配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第2灯具と、
前方に照射された赤外光の反射光を検出する赤外線監視手段と、
前方の車両の有無を検出する車両検出手段と、を備え、
前記第1灯具に対して赤外光配光パターンで照射するよう指示し、前記第2灯具に対してロービーム配光パターンで照射するよう指示するロービーム状態と、
前記第1灯具と前記第2灯具の両方に対してハイビーム配光パターンで照射するよう指示するハイビーム選択状態と、
前記第2灯具に対して、前記車両検出手段により車両が検出されたときはロービーム配光パターンに、車両が検出されないときはハイビーム配光パターンに切り替えて照射するよう指示する一方で、前記第1灯具に対して車両の有無にかかわらず赤外光配光パターンで照射するよう指示する状況依存切替状態と、のいずれかをドライバーが選択可能とする切替スイッチと、
を備えることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項4】
前記第1灯具は、
車両前後方向に延びる光軸上に配置された投影レンズと、
前記投影レンズの後方側焦点よりも後方側に設けられた光源と、
前記光源からの光を前方へ向けて前記光軸よりに反射するリフレクタと、
前記リフレクタと前記投影レンズとの間に設けられた赤外光透過フィルタと、
前記リフレクタからの反射光を透過させる透過位置と反射光を透過させない退避位置との間で前記赤外光透過フィルタを変位させるアクチュエータと、
を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用前照灯。
【請求項5】
ハイビーム配光パターンと赤外光配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第1灯具と、
ハイビーム配光パターンとロービーム配光パターンとを切り替えて照射可能に構成された第2灯具と、
前方に照射された赤外光の反射光を検出する赤外線監視手段と、
前方の車両の有無を検出する車両検出手段と、
前記車両検出手段により検出された車両の有無に応じたハイビームとロービームの切替制御を実行する状況依存制御手段と、を備える車両用前照灯において、
状況依存制御の非実行時に、ドライバーによりロービームが選択されているときは、前記第1灯具を赤外光配光パターンに切り替えるとともに前記第2灯具をロービーム配光パターンに切り替え、ドライバーによりハイビームが選択されているときは、前記第1灯具と前記第2灯具の両方をハイビーム配光パターンに切り替え、
状況依存制御の実行時に、前記第2灯具においては前記車両検出手段により車両が検出されたときはロービーム配光パターンに、車両が検出されないときはハイビーム配光パターンに切り替える一方で、前記第1灯具においては車両の有無にかかわらず赤外光配光パターンに切り替えることを特徴とする車両用前照灯の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate