説明

車両用収納装置

【課題】簡単な機構により、閉鎖位置から開放位置に至るまでの蓋体の開放速度を良好に調整する。
【解決手段】蓋体2は開放位置で水平又は略水平に傾倒した状態となり、閉鎖位置で蓋体2の重心が蓋体2の回動軸13を通る鉛直線よりも蓋体2の開放方向と反対側にずれて位置するように起立した状態となる。蓋体2を開放方向に付勢するねじりバネ3と、蓋体2が閉鎖位置から開放位置まで回動する間中、蓋体2に制動力を付与する回転式ダンパ5と、蓋体2が閉鎖位置から開放位置まで回動する間のうち少なくとも回動途中から開放位置までの間中、蓋体2に制動力を付与する紐ダンパ6と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用収納装置に関し、詳しくは回動する蓋体に制動力を付与するダンパを備えた車両用収納装置に関する。
【0002】
本発明の車両用収納装置は、例えばコンソールボックス、特に車両のリアシートに設けられるリアコンソールボックスに好適に用いることができる。
【背景技術】
【0003】
車両用収納装置としてのコンソールボックスやグラブボックスでは、オイルダンパやエアダンパにより、蓋体の開閉時にその開閉速度が調整されている。
【0004】
ところで、車両のリアシートに設けられるリアコンソールボックスでは、閉鎖位置に在る蓋体が略垂直に起立しており、開放位置に在る蓋体が略水平に傾倒している。詳しくは、閉鎖位置に在る蓋体は、リアシートの背もたれとほぼ同じ傾斜角度となるように、蓋体の回動軸を通る鉛直線よりも蓋体の開放方向と反対側に少し傾倒している。また、開放位置に在る蓋体は、ボックスの使用性を考慮して、略水平に傾倒している。
【0005】
このようなリアコンソールボックスにおいては、蓋体の開放時、開放速度が一定であるか、あるいは全開直前で開放速度が減少することが求められている。しかし、略垂直に起立した蓋体が略水平に傾倒するまでの間に蓋体の重心が大きく移動するため、蓋体の開放速度は、蓋体が開放位置に近付くに連れて上昇する。したがって、蓋体の開放の初期から終期に至るまで一定のダンパ特性を発揮する単一のダンパによっては、蓋体の開放の終期段階で蓋体を良好に減速させることが困難になる。
【0006】
そこで、開放途中にある蓋体にスプリングによる減速荷重をかけることのできる車両用収納装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この収納装置は、収納体と、略垂直に起立した閉鎖位置と略水平に傾倒した開放位置との間で収納体に回動可能に支持された蓋体と、蓋体を開放方向に付勢するスプリングと、閉鎖位置から開放位置まで回動する蓋体に制動力を付与する回転式のオイルダンパと、蓋体の開放方向への回動途中で蓋体を減速させる減速装置とを備えている。減速装置は、収納体に回動可能に保持され蓋体の開放方向への回動途中で蓋体に接触するアームと、収納体及びアーム間に介在して開放方向への回動途中にある蓋体に接触したアームを介して蓋体を閉鎖方向に付勢する減速用スプリングとを備えている。
【0008】
この収納装置では、蓋体の開放時、回動途中の蓋体がアームと接触する。このため、蓋体の開放途中で、アームを介して減速用スプリングにより蓋体を閉鎖方向に付勢して蓋体を減速させることができる。
【特許文献1】特開2007−112336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の収納装置における上記減速装置では、収納体に対してアームを回動可能に保持させ、しかも蓋体が開放方向に回動する途中でそのアームに蓋体を接触させる必要があり、そのための機構が複雑になる。
【0010】
また、上記従来の収納装置では、複雑機構の上記減速機構が収納体の側面に設けられているため、車室内における収納装置のスペース上の制約により、収納体の幅が狭くなるという問題もある。
【0011】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、簡単な機構により、閉鎖位置から開放位置に至るまでの蓋体の開放速度を良好に調整することのできる車両用収納装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の車両用収納装置は、開口部を有する収納体と、開放位置と閉鎖位置との間で前記収納体に回動軸回りに回動可能に支持され、前記開口部を開閉する蓋体と、前記蓋体を開放方向に付勢する付勢部材と、前記蓋体を前記閉鎖位置に保持するロック機構と、を備え、前記蓋体は前記開放位置で水平又は略水平に傾倒した状態となり、かつ前記閉鎖位置で該蓋体の重心が前記回動軸を通る鉛直線よりも該蓋体の開放方向と反対側にずれて位置するように起立した状態となり、さらに、前記蓋体が前記閉鎖位置から前記開放位置まで回動する間中、該蓋体に制動力を付与する回転式ダンパと、前記蓋体が前記閉鎖位置から前記開放位置まで回動する間のうち少なくとも回動途中から該開放位置までの間中、該蓋体に制動力を付与する紐ダンパと、を備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の車両用収納装置では、ロック機構により収納体に対して閉鎖位置に保持された蓋体は、蓋体の重心が蓋体の回動軸を通る鉛直線よりも蓋体の開放方向と反対側にずれて起立している。この閉鎖位置に保持された蓋体は、ロック機構が解除されれば、付勢部材の付勢力により開放方向に付勢されて開放位置まで開放される。
【0014】
蓋体が開放されるとき、蓋体は閉鎖位置から蓋体の重心が上記鉛直線に到達するまで回動する間は、少なくとも回転式ダンパにより、蓋体の開放方向への回動が制動される。このため、蓋体の開き始めの速度が急上昇することを抑えることができる。
【0015】
そして、蓋体が閉鎖位置から開放位置まで回動する間のうち蓋体の重心が前記鉛直線を通過した後は、蓋体の重力により、蓋体が開放位置に近付くほど蓋体の開放速度が上昇しようとする。この点、本発明の車両用収納装置では、蓋体が閉鎖位置から開放位置まで回動する間のうち少なくとも回動途中から開放位置までの間で、回転式ダンパと紐ダンパとにより、蓋体の開放方向への回動が制動される。このため、蓋体の開放途中において特に開放速度が上昇する開放の終期段階で、蓋体の開放速度を確実に減少させることができる。
【0016】
しかも、本発明の車両用収納装置では、開放途中にある蓋体に制動力を付与するダンパが簡単構造の紐ダンパよりなる。
【0017】
したがって、本発明の車両用収納装置によると、簡単な機構により、蓋体の開き始めから開き終わりまで、蓋体の開放速度を良好に調整することが可能になる。
【0018】
(2)本発明の車両用収納装置は、上記(1)項に記載の車両用収納装置において、前記紐ダンパが、前記蓋体の重心が前記鉛直線を通過した直後に又は該鉛直線に到達した時に、該蓋体に制動力を付与し始めることに特徴がある。
【0019】
この構成によると、蓋体が開放し始めて蓋体の重心が前記鉛直線に到達するまで(又は該鉛直線に到達する直前まで)は、蓋体に紐ダンパからの制動力が作用しない。このため、蓋体の開き始めの速度が急上昇することを、回転式ダンパの制動力のみによって抑えることができる。したがって、紐ダンパによる制動力を考慮することなく、回転式ダンパの制動力のみを調整することにより、蓋体の開き始めの開放速度を容易に調整することが可能になる。
【0020】
また、本発明の車両用収納装置では、開放位置に在る蓋体を付勢部材の付勢力等に抗して閉める時、開放位置から蓋体の重心が前記鉛直線に到達するまで(又は該鉛直線に到達する直前まで)蓋体が回動する間は、紐ダンパによる閉鎖方向の引っ張り力が蓋体に作用する分、比較的小さな力で蓋体を閉めることができる。そして、蓋体の重心が前記鉛直線を超えてからは、蓋体の重力が蓋体の閉鎖方向に作用するので蓋体を閉めるのに必要な力は小さくなるが、紐ダンパによる閉鎖方向の引っ張り力が蓋体に作用しなくなるので、蓋体を閉めるために必要な閉め荷重が極端に変化することはない。
【0021】
(3)本発明の車両用収納装置は、上記(1)項又は(2)項に記載の車両用収納装置において、前記紐ダンパが、一端が前記蓋体に固定された紐状体と、該紐状体の他端が連結され該紐状体の該一端を引っ張る引張力に対抗するばね力を発生させるダンパ本体と、を備え、かつ、前記ダンパ本体が、前記収納体の幅の範囲内で前記回動軸よりも下方に配設されていることに特徴がある。
【0022】
この構成によると、ダンパ本体を設けることによって収納装置の幅が増大することはない。このため、車室内における収納装置のスペース上の制約があっても、収納体の幅が狭くなるようなことはない。
【発明の効果】
【0023】
よって、本発明の車両用収納装置によると、簡単な機構により、閉鎖位置から開放位置に至るまでの蓋体の開放速度を良好に調整することが可能になる。
【0024】
また、本発明の車両用収納装置において、紐ダンパのダンパ本体を収納体の幅の範囲内に配設した場合は、車室内における収納装置のスペース上の制約があっても、紐ダンパによって収納体の幅が狭められることはなく、収納容積を確保することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の車両用収納装置の実施形態について詳しく説明する。なお、説明する実施形態は一実施形態にすぎず、本発明の車両用収納装置は、下記実施形態に限定されるものではない。本発明の車両用収納装置は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0026】
本実施形態の車両用収納装置は、図4に示されるように、本発明の車両用収納装置を車両のリアシートに設けられるリアコンソールボックスに適用したものである。
【0027】
本実施形態の車両用収納装置は、図1の分解斜視図に示されるように、収納体1と、蓋体2と、付勢部材としての一対のねじりバネ3、3と、ロック機構4と、一対の回転式ダンパ5、5と、紐ダンパ6とを備えている。
【0028】
収納体1は、収納本体11と、カバー体12とを備えている。収納本体11は、略直方体形状を呈する樹脂の射出成形品よりなり、略長方形状の開口部11aを有している。カバー体12は、樹脂の射出成形品よりなり、収納本体11の下端にボルト等の固定手段(図示せず)により固定されている。収納体1は、リアシート7の背もたれ部70に設けられた凹部71内に配設される。また、収納本体11の開口部11aは斜め上方を向いている。
【0029】
収納本体11の開口部11aの下端付近には回動軸13が支持されている。また、収納本体11の開口部11aの上端付近には、ロック機構4を構成するロック被係合部41が設けられている。
【0030】
カバー体12の両内側面には、各回転式ダンパ5の後述する回転ギア部52に噛み合う円弧状ギア部121が設けられている。後述するように、蓋体2が回動軸13回りに回動すると、回転式ダンパ5が回動軸13を中心とする円弧上を移動するが、円弧状ギア部121は回転式ダンパ5が移動する円弧と対応するように設けられている。図2に示されるように、カバー体12には、蓋体2が回動軸13回りに回動する際に、後述するインナーリッド21の紐取付部213及び紐ダンパ6の紐状体62の移動を許容するスリット122が設けられている。また、カバー体12の下面には、回転式ダンパ6を保持するための保持部123が設けられている。
【0031】
蓋体2は、開口部11aの形状に対応する略長方形状を呈し、インナーリッド21と、アウターリッド22とから構成されている。インナーリッド21は樹脂の射出成形品よりなる。アウターリッド22は、本杢(本物の木の削りだし品)よりなる。このため、蓋体2は重量物(体積の割には重量が大きい物)である。アウターリッド22は、図示しないボルト等の固定手段によりインナーリッド21の表側に固定されている。
【0032】
インナーリッド21は、両側の側面の下端部に設けられた一対の取付孔211と、各取付孔211から上方にずれた位置に設けられた一対の挿通孔212とを有している。インナーリッド21は、裏面(収納体1の収納空間側)の幅方向における中央部の上端部に突設されたロックピン42を有している。インナーリッド21の下端部の幅方向一端側には、紐取付部213が突設されている。
【0033】
蓋体2は、インナーリッド21に設けられた各取付孔211内に回動軸13が挿通されることで、収納体1の収納本体11に回動軸13回りに回動可能に支持されている。蓋体2は、開放位置と閉鎖位置との間で回動することにより、収納体1の収納本体11の開口部11aを開閉する。蓋体2は、開放位置で水平又は略水平に傾倒した状態(図2の二点鎖線で示す状態)となる。また、蓋体2は、閉鎖位置で蓋体2の重心Gが回動軸13を通る鉛直線Lよりも蓋体2の開放方向と反対側にずれて位置するように起立した状態(図2の実線で示す状態)となる。すなわち、閉鎖位置に在る蓋体2は、リアシート7の背もたれ部70の傾斜角度と略対応するように、所定角度(例えば、鉛直線Lに対して5〜20度程度)だけ傾斜している。なお、蓋体2は、収納体1の収納本体11に設けられた図示しないストッパにインナーリッド21が当接することで開放位置からさらに開放方向に回動することが規制され、かつ、ねじりバネ3の付勢力により開放位置からの浮き上がり等が抑えられている。
【0034】
各ねじりバネ3は、回動軸13の端部に回動軸13と相対回転可能に装着されている。ねじりバネ3の一端は蓋体2のインナーリッド21の裏面に固定又は引っ掛けられており、ねじりバネ3の他端は収納体1のカバー体12の内側面に固定又は引っ掛けられている。
【0035】
ねじりバネ3は、蓋体2が閉鎖位置に在るときに付勢力が大きく蓄積された蓄勢状態になっており、蓋体2を常時、開放方向に付勢している。この蓋体2が閉鎖位置に在るときにねじりバネ3に蓄積された付勢力は、閉鎖位置に在る蓋体2を、蓋体2の重心Gが少なくとも回動軸13の鉛直線Lに到達する又は超えるまで、開放方向に回動させることができるような大きさに設定されている。また、蓋体2が開放位置に在るときは、ねじりバネ3に小さな付勢力が蓄積されている。
【0036】
ロック機構4は、収納体1の収納本体11に対して蓋体2を閉鎖位置に保持する。ロック機構4は、収納体1の収納本体11に設けられた前記ロック被係合部41と、蓋体2のインナーリッド21に設けられた前記ロックピン42とを備えている。このロック機構4においては、ロック被係合部41に対するロックピン42の挿入、押圧操作によりロックされ、また、ロック被係合部41に対するロックピン42の押圧操作によりロック状態から解除される。
【0037】
各回転式ダンパ5は、基体51と、基体51に回転可能に支持された回転ギア部52とを備えている。回転式ダンパ5はオイルダンパであり、基体51内に封入されたオイル等の粘性抵抗により、基体51に対する回転ギア部52の回動が制動されるようになっている。この回転式ダンパ5は、閉鎖位置から開放位置まで回動する蓋体2に対して常に一定の制動力を付与する。
【0038】
回転式ダンパ5の基体51はインナーリッド21の取付孔211に嵌合されている。この回転式ダンパ5の取付位置は、回動軸13よりも下方にずれている。このため、蓋体2が回動軸13回りに回動すると、回転式ダンパ5は回動軸13を中心とする円弧上を移動する。そして、回転式ダンパ5が回動軸13を中心とする円弧上を移動するときに、回転式ダンパ5の回転ギア部52が収納体1のカバー体2に設けられた前記円弧状ギア部121と噛み合う。このため、回転式ダンパ5は、蓋体2が閉鎖位置から開放位置まで回動する間中、蓋体2に制動力を付与する。なお、回転式ダンパ5は、蓋体2が開放位置から閉鎖位置まで回動する際にも、蓋体2に制動力を付与する。
【0039】
紐ダンパ6は、ダンパ本体61と、紐状体62とを備えている。ダンパ本体61は、シリンダ部611と、シリンダ部611内で往復動可能とされたピストン部612と、ピストン部612を付勢するコイルスプリング613とを備えている。紐ダンパ6のダンパ本体61は、収納体1のカバー体12に設けられた保持部123に保持されており、収納体1の幅の範囲内に配置されている。また、ダンパ本体61は、収納本体11の下端部に設けられた回動軸13よりも下方に配置されている。
【0040】
紐状体62の一端は、カバー体12の前記スリット122を通って蓋体2のインナーリッド21の紐取付部213に固定されている。紐状体62の他端は、ダンパ本体61のシリンダ部611内に挿入されてピストン部612に固定されている。
【0041】
ここに、図3において、点Oは回動軸13の中心(回転中心)を示し、点Sは紐ダンパ6のダンパ本体61の中心を示す。また、図3において、点Ga、点Gb及び点Gcは蓋体2の重心Gの位置を示し、点Gaは閉鎖位置に在る蓋体2の重心位置、点Gbは蓋体2の重心Gが回動軸13(回動軸13の中心O)を通る鉛直線L上に在るときの重心位置、点Gcは開放位置に在る蓋体2の重心位置をそれぞれ示す。さらに、図3において、点A、点B及び点Cは紐状体62の一端位置(紐状体62の一端が蓋体2のインナーリッド21の紐取付部213に固定された位置)を示し、点Aは蓋体2が閉鎖位置に在るときの紐状体62の一端位置、点Bは蓋体2の重心Gが回動軸13の鉛直線L上に在るときの紐状体62の一端位置、点Cは蓋体2が開放位置に在るときの紐状体62の一端位置をそれぞれ示す。
【0042】
線分SAの長さは、蓋体2が閉鎖位置に在るときの、ダンパ本体61の中心Sから紐状体62の一端位置Aまでの紐状体62の長さとなる。また、線分SBの長さは、蓋体2の重心Gが回動軸13の鉛直線L上に在るときの、ダンパ本体61の中心Sから紐状体62の一端位置Bまでの紐状体62の長さとなる。さらに、線分SCの長さは、蓋体2が開放位置に在るときの、ダンパ本体61の中心Sから紐状体62の一端位置Cまでの紐状体62の長さとなる。
【0043】
そして、紐ダンパ6におけるダンパ本体61の取付位置は、線分SAの長さと線分SBの長さとが等しくなるように設定されている。
【0044】
上記構成を有する車両用収納装置において、開放方向に回動する蓋体2に回転式ダンパ5及び紐ダンパ6による制動力が何ら作用しない場合を仮定すると、蓋体2の開放時の開放速度は以下のようになる。すなわち、閉鎖位置から蓋体2の重心Gが回動軸13を通る鉛直線Lに到達するまでは、蓋体2の開き始めにねじりバネ3の付勢力により開放速度が大きく上昇し、その後蓋体2の重心Gが鉛直線Lに近付くに連れて開放速度が低下する。そして、蓋体2の重心Gが鉛直線Lに到達した時、蓋体2の開放速度(蓋体2が回動している間における開放速度)が最小となる。蓋体2の重心Gが鉛直線Lを通過した後は、ねじりバネ3の付勢力と蓋体2の重力とによって、蓋体2の開放速度が徐々に上昇する。そして、蓋体2がストッパに当接する直前で蓋体2の開放速度が最大となり、蓋体2がストッパに当接した時に、跳ね返りがなければ蓋体2の開放速度が零となる。
【0045】
このように、回転式ダンパ5及び紐ダンパ6による制動力が何ら作用しない場合は、蓋体2は閉鎖位置から開放位置まで回動する間に、開放速度が複雑に変化する。このため、回転式ダンパ5又は紐ダンパ6の単独に制動力によっては、閉鎖位置から開放位置まで回動する蓋体2の開放速度をうまく調整することが困難である。
【0046】
次に、本実施形態の車両用収納装置の作用効果について説明する。
【0047】
ロック機構4により収納体1に対して閉鎖位置に保持された蓋体2は、蓋体2の重心G(Ga)が蓋体2の回動軸13を通る鉛直線Lよりも蓋体2の開放方向と反対側にずれて起立している。蓋体2が閉鎖位置に在るときは、ダンパ本体61の中心Sから紐状体62の一端位置Aまでの紐状体62は直線状に伸びて引っ張られた状態にあり弛んでいない。
【0048】
この閉鎖位置に保持された蓋体2は、ロック機構4が解除されれば、ねじりバネ3の付勢力により開放方向に付勢されて開放位置まで開放される。
【0049】
閉鎖位置に在る蓋体2が開放方向に回動し始めると、ダンパ本体61の中心Sから紐状体62の一端までの紐状体62は弛み始める。そして、蓋体2の開放方向への回動が進むと、紐状体62は一旦弛んだ後、伸び始め、蓋体2の重心Gが回動軸13の鉛直線L上に到達した時に、ダンパ本体61の中心Sから紐状体62の一端位置Bまでの紐状体62は再び直線状に伸びて引っ張られた状態となる。このため、蓋体2が閉鎖位置から開放され始めて、蓋体2の重心Gが鉛直線Lに到達するまで蓋体2が回動する間は、紐ダンパ6は蓋体2に制動力を付与しない。
【0050】
このように蓋体2が閉鎖位置から開放され始めて、蓋体2の重心Gが鉛直線Lに到達するまで蓋体2が回動する間は、回転式ダンパ5により、蓋体2の開放方向への回動が制動される。このため、蓋体2の開き始めの速度が急上昇することを良好に抑えることができる。
【0051】
そこからさらに蓋体2の開放方向への回動が進むと、紐状体62に引張応力が発生し、ダンパ本体61のピストン部612が移動してコイルスプリング613が圧縮され始める。すなわち、蓋体2の重心Gが回動軸13の鉛直線Lを通過した直後に、紐状体62に引張応力が発生し、ダンパ本体61は、紐状体62の一端を引っ張る引張力に対抗するばね力を発生させ、紐ダンパ6が蓋体2に制動力を付与し始める。この紐ダンパ6の制動力は、紐状体62の一端が引っ張られてダンパ本体61の中心Sから紐状体62の一端までの紐状体62の長さが長くなるほど大きくなる。そして、蓋体2が開放位置まで回動した時に、ダンパ本体61の中心Sから紐状体62の一端位置Cまでの紐状体62の長さが最大となり、紐ダンパ6の制動力も最大となる。
【0052】
一方、蓋体2の重心Gが鉛直線Lを通過した後は、蓋体2の重力により、蓋体2が開放位置に近付くほど蓋体2の開放速度が上昇しようとする。この点、本実施形態の車両用収納装置では、蓋体2の重心Gが鉛直線Lを通過してから開放位置の重心位置Gcまで蓋体2が回動する間で、回転式ダンパ5と紐ダンパ6とにより、蓋体2の開放方向への回動が制動される。このため、蓋体2の重心Gが鉛直線Lを通過した後、蓋体2の開放速度が上昇することを良好に抑えることができる。特に開放速度が大きく上昇する開放の終期段階においても、回動が進むに連れて徐々に制動力が大きくなる紐ダンパ6により、蓋体2の開放速度を確実に減少させることができる。
【0053】
また、本実施形態の車両用収納装置では、蓋体2が閉鎖位置から開放し始めて蓋体2の重心Gが鉛直線Lに到達するまでは、蓋体2に紐ダンパ6からの制動力が作用しない。このため、紐ダンパ6による制動力を考慮することなく、回転式ダンパ5の制動力のみを調整することにより、蓋体2の開き始めの開放速度を容易に調整することが可能になる。
【0054】
さらに、開放位置に在る蓋体2をねじりバネ3の付勢力等に抗して閉める時、開放位置から蓋体2の重心Gが鉛直線Lに到達するまで蓋体2が回動する間は、紐ダンパ6による閉鎖方向の引っ張り力が蓋体2に作用する分、比較的小さな力で閉めることができる。そして、蓋体2の重心Gが鉛直線Lを超えてからは、蓋体2の重力が蓋体2の閉鎖方向に作用するので蓋体2を閉めるのに必要な力は小さくなるが、紐ダンパ6による閉鎖方向の引っ張り力が蓋体2に作用しなくなるので、蓋体2を閉めるために必要な閉め荷重が極端に変化することはない。このため、蓋体2を閉めるときのフィーリングが良くなる。
【0055】
加えて、本実施形態の車両用収納装置では、開放途中にある蓋体2に制動力を付与するダンパが簡単構造の紐ダンパ6よりなる。したがって、簡単な機構により、蓋体2の開き始めから開き終わりまで、蓋体2の開放速度を良好に調整することが可能になる。
【0056】
さらに、本実施形態の車両用収納装置では、ダンパ本体61が、収納体1の幅の範囲内で収納本体11の下端部に設けられた回動軸13よりも下方に配設されている。このため、ダンパ本体61を設けることによって収納装置の幅が増大することはない。したがって、車室内における収納装置のスペース上の制約があっても、収納体1の幅が狭くなるようなことはなく、収納装置における収納容積を確保することが可能になる。
【0057】
また、本実施形態の車両用収納装置では、蓋体2が閉鎖位置に在るとき、紐ダンパ6の紐状体62は直線状に伸びた状態にあり弛んでいない。このため、蓋体2が閉鎖位置に在るときに、紐ダンパ6の紐状体62が周囲の部品等に引っ掛かるおそれも少ない。
【0058】
(その他の実施形態)
なお、前述の実施形態では、開放方向に回動する蓋体2の重心Gが鉛直線Lを通過した直後に、紐ダンパ6が蓋体2に制動力を付与し始める例について説明したが、これに限られない。例えば、閉鎖位置に在る蓋体2が開放方向に回動し始めた直後に、紐ダンパ6が蓋体2に制動力を付与し始めるようにしてもよいし、あるいは開放方向に回動する蓋体2の重心Gが鉛直線Lを通過して例えば鉛直線Lに対して45度程度の回転角度で回動してから、紐ダンパ6が蓋体2に制動力を付与し始めるようにしてもよい。
【0059】
ただし、前述のとおり、蓋体2の開き始めの開放速度を容易に調整する等の観点より、開放方向に回動する蓋体2の重心Gが鉛直線Lを通過した直後又は鉛直線Lに到達した時に、紐ダンパ6が蓋体2に制動力を付与し始めるようにすることが好ましい。
【0060】
また、前述の実施形態では、回転式ダンパ5としてオイルダンパの例について説明したが、これに限られない。
【0061】
さらに、紐ダンパ6のダンパ本体61において、コイルスプリング613の代わりに、又はコイルスプリング613と併用して、空気ばねを用いてもよい。
【0062】
また、リアコンソールボックス以外の車両用収納装置にも本発明を適用しうることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施形態に係る車両用収納装置の全体構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態に係る車両用収納装置の要部を示す部分断面図である。
【図3】実施形態に係る車両用収納装置における紐ダンパの取付位置等を説明する説明図である。
【図4】実施形態に係る車両用収納装置をリアコンソールボックスとして車両のリアシートに設けた使用例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
1…収納体 2…蓋体
3…ねじりバネ(付勢部材) 4…ロック機構
5…回転式ダンパ 6…紐ダンパ
11a…開口部 13…回動軸
61…ダンパ本体 62…紐状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する収納体と、
開放位置と閉鎖位置との間で前記収納体に回動軸回りに回動可能に支持され、前記開口部を開閉する蓋体と、
前記蓋体を開放方向に付勢する付勢部材と、
前記蓋体を前記閉鎖位置に保持するロック機構と、を備え、
前記蓋体は前記開放位置で水平又は略水平に傾倒した状態となり、かつ前記閉鎖位置で該蓋体の重心が前記回動軸を通る鉛直線よりも該蓋体の開放方向と反対側にずれて位置するように起立した状態となり、さらに、
前記蓋体が前記閉鎖位置から前記開放位置まで回動する間中、該蓋体に制動力を付与する回転式ダンパと、
前記蓋体が前記閉鎖位置から前記開放位置まで回動する間のうち少なくとも回動途中から該開放位置までの間中、該蓋体に制動力を付与する紐ダンパと、を備えていることを特徴とする車両用収納装置。
【請求項2】
前記紐ダンパは、前記蓋体の重心が前記鉛直線を通過した直後に又は該鉛直線に到達した時に、該蓋体に制動力を付与し始めることを特徴とする請求項1に記載の車両用収納装置。
【請求項3】
前記紐ダンパは、一端が前記蓋体に固定された紐状体と、該紐状体の他端が連結され該紐状体の該一端を引っ張る引張力に対抗するばね力を発生させるダンパ本体と、を備え、
前記ダンパ本体は、前記収納体の幅の範囲内で前記回動軸よりも下方に配設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用収納装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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