説明

車両用可動グリルシャッター

【課題】 フィン全閉時に、フィン及びリンク機構等に過大な負荷が作用しても、破損を回避できる車両用可動グリルシャッターを提供すること。
【解決手段】 グリルシャッター5は、グリル開口部6に開閉自在に設置されたフィン8と、フィン8を駆動するモ−タと、モータからの動力をフィン8へ伝達するリンク機構11〜13及び減速歯車群と、所定値以上の負荷が作用した場合弾性変形してフィン8を開動作させるトーションスプリング16と、から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のグリル開口部に設置されたフィンを駆動源により駆動する車両用可動グリルシャッターに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンルーム内のラジエータ過冷却による燃焼不良を防止する為、冷却外気取入れグリル開口部を開閉する車両用可動グリルシャッターがある。例えば、グリル開口部が開閉可能となるように互いに連動アームで連結されたフィンを回転自在に基枠に設置し、連動アームにピンと長穴を介して連結された駆動アームでリンク機構を構成し、モータ等の駆動源が駆動アームを回転させることによってこのフィンを開閉するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、駆動源からの動力をウォーム減速と平歯車減速を経た後分岐させ、片方が動作しているときはもう一方が拘束されるようそれぞれの動力伝達経路にワンウェイクラッチを組合せて、1つの駆動源で2つの対象を独立に作動させるものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭58−139519号公報
【特許文献2】特開昭64−18744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1によれば、バンパ下側にグリルが設置される場合などでは、フィン全閉時の水溜り突入に伴う水圧等の風圧を超える過大な負荷がフィン及び動力伝達部材に作用し、フィン及び動力伝達部材が破損する虞がある。
【0006】
また、特許文献2によると、車両用可動グリルシャッターの構成中にワンウェイクラッチが使用されているが過負荷対応の機能はなく、フィン及び動力伝達部材が破損する虞がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みて成されたものであり、過負荷によるフィン及び動力伝達部材の破損を防止し得る車両用可動グリルシャッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の課題解決手段は、冷却空気をエンジンルーム内へ取入れる為のグリル開口部に開閉自在に設置されたフィンと、該フィンを駆動する駆動源と、該駆動源からの動力を前記フィンへ伝達する動力伝達機構と、該動力伝達機構に連係され所定値以上の負荷が作用した場合弾性変形して前記フィンを開動作させる弾性部材とを有する。
【0009】
本発明の第2の課題解決手段は、前記動力伝達機構は歯車とリンク機構とを有し、前記弾性部材は前記歯車と前記リンク機構との間に押圧された状態で設置されることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の課題解決手段は、前記動力伝達機構は歯車とリンク機構とを有し、前記歯車の全部又は一部と前記弾性部材とを収容する収容部材を有し、前記弾性部材の一端は前記歯車に係止され、前記弾性部材の他端は前記収容部材に係止されることを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の課題解決手段は、前記収容部材は前記フィンの全閉状態と全開状態の少なくともいずれかの場合に前記歯車が当接する当接部材を備え、前記弾性部材は全閉状態と全開状態の間に弾性力が最大となる領域を形成するターンオーバースプリングであることを特徴とする。
【0012】
本発明の第5の課題解決手段は、前記動力伝達機構は歯車とリンク機構とベースフィンとを有し、前記フィンは前記ベースフィンと係合し、前記弾性部材は前記フィンを前記ベースフィンに対して相対回転方向に付勢して、前記フィンと前記ベースフィンとの間に設置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車両用可動グリルシャッターでは、通常の風圧を超える負荷、例えば全閉状態での水溜り突入時にかかる水圧等が作用した場合、弾性部材の変形によりフィンが開動作し、水圧等の過負荷を回避できるので、フィン及び動力伝達部材の破損を防止することができる。
【0014】
また、弾性部材が押圧された状態で保持されることにより、通常の風圧による負荷がフィンに作用している場合は弾性部材は変形せず、水圧等の過負荷が作用する場合のみ弾性部材が変形してフィンを開動作する。また、弾性部材と初期荷重を付与して保持する部材をサブアッセンブリ化することにより組付性も向上し、少ない部品で初期荷重を設定できるため負荷による動力伝達部材の変形やガタの影響を考慮する必要がない。
【0015】
また、歯車及び弾性部材が収容部材に保護されることにより、歯車及び弾性部材を粉塵や飛び石等の物理的悪影響又は錆や劣化等の化学的悪影響から保護することができる。さらに歯車と弾性部材と収容部材をサブアッセンブリ化することにより組付性も向上し、このサブアッセンブリとグリル本体をアッセンブリ化することもできる。
【0016】
また、ターンオーバースプリングが歯車を押圧することにより、路面状況及び風圧等による振動が抑制され静粛性が向上するとともに、動力伝達部の軸受部等の磨耗を抑制できる。また、少ない部品で初期荷重を設定できるため負荷による動力伝達部材の変形やガタの影響を考慮する必要がなく容易に初期荷重を設定できる。さらに当接部材が動力伝達経路と独立しているため、ウォームギヤを使用した場合でも逆転防止機能が必要なく動力伝達効率を向上できる。
【0017】
また、フィンの近くに弾性部材を設置することにより、ベースフィンまでの動力伝達部材を単純な構造とすることができる。また、他の部材の慣性が影響しなくなるため過負荷に対する応答性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一実施形態に係るグリルシャッターの全体構成を示すエンジンルーム側面図である。
【図2】トーションスプリングの側面図である。
【図3】第二実施形態に係るグリルシャッターのモータ及び減速歯車群を収容したハウジングの側面図である。
【図4】第三実施形態に係るグリルシャッターのフィン及び取付部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第一実施形態について説明する。
【0020】
図1は、第一実施形態に係るグリルシャッター5の全体構成を示すエンジンルーム2の側面図である。エンジンルーム2にはエンジン冷却水を冷却するためのラジエータ3が配置され、ラジエータ3は、車体ボディ1に取付けられている。ラジエータ3の前方下方及びバンパー4の下方にグリル開口部6が設けられる。グリル開口部6に設置された基枠7には支持軸9回りに回転自在にフィン8が取付けられている。フィン8は、互いに連動アーム11(動力伝達機構)でピン13(動力伝達機構)により連結され、連動ア−ム11は、駆動アーム12(動力伝達機構)にピン13により連結されてリンク機構を構成する。図示しないモータ(駆動源)からの動力は、図示しない減速歯車群(動力伝達機構)を介して出力軸19(動力伝達機構)へ伝達される。トーションスプリング16(弾性部材)は、出力軸19と駆動アーム12の間に配置される。
【0021】
図2は、トーションスプリング16の側面図を示す。第一ブラケット14がトーションスプリング16の第一フック部17によって、第二ブラケット15が第二フック部18によって押圧され互いに当接し、フィン8が閉じる方向に初期荷重が発生する。第一ブラケット14は出力軸19と一体で回転するように結合され、同様に第二ブラケット15は駆動アーム12と一体で回転するように結合される。トーションスプリング16の初期荷重はフィン8にかかる風圧によって生じる荷重よりも高く設定される。
【0022】
通常の風圧による負荷がフィン8に作用している場合、トーションスプリング16はフィン8の開方向に変形せずに駆動アーム12と出力軸19の相対位置を保持したままモータからの駆動力を伝達してフィン8を開閉する。フィン8全閉での水溜り突入に伴う水圧等による過負荷がフィン8に作用する場合、フィン8に作用した負荷が連動アーム11、駆動アーム12及びピン13を介してトーションスプリング16まで伝達され、トーションスプリング16をフィン8の開方向に変形させることによって、モータが作動しなくともフィン8が開動作する。
【0023】
本発明のグリルシャッター5では、フィン8にかかった水圧等の過負荷がトーションスプリング16の変形によって吸収されるため、フィン8が開動作して水圧等の過負荷が回避され、フィン8及びリンク機構11〜13、減速歯車群等が過負荷から保護され損傷及び破損を防止できる。また、トーションスプリング16の初期荷重を自在に設定できるので、通常の走行による風圧では開動作しない。さらに、トーションスプリング16とブラケット14、15をサブアッセンブリ化することにより組付性も向上し、ブラケット14、15のみで初期荷重を設定できるため負荷によるリンク機構11〜13の変形やガタの影響を防止できる。
【0024】
第一実施形態ではトーションスプリング16は、出力軸19と同軸に配置されるが、同軸でなくてもよい。第一ブラケット14と駆動アーム12を、第二ブラケット15を出力軸19とをそれぞれ一体化してもよい。また、モータと減速歯車群によってフィン8を駆動しているが、電磁ソレノイドや流体圧ピストンなどで駆動してもよく、モータに連結する減速機構又は推力変換機構も減速歯車群又はリンク機構11〜13に限定せずプーリーやネジ機構又はカム機構などでも実施可能である。
【0025】
以下、本発明の第二実施形態について説明する。
【0026】
第一実施形態と同一の部品、構成については同一の符号を用いて説明する。図3は。第二実施形態に係るグリルシャッターのモータ31(駆動源)及び減速歯車群(動力伝達機構)であるウォームギヤ32、ウォームホイール33、第一ピニオン34、ギヤ35、第二ピニオン36、セクタギヤ37を収容したハウジング30(収容部材)の側面図である。モータ31の出力軸にウォームギヤ32が設置されウォームホイール33と噛合っている。ウォームギヤ32の進み角は、摩擦角よりも大きく設定されている為ウォームホイール33側から駆動可能となっている。ウォームホイール33と第一ピニオン34は、同軸上に一体成型されギヤ35と噛合う。ギヤ35と第二ピニオン36は、同軸上に一体成型され、第二ピニオン36は、出力軸19周りに回転するセクタギヤ37と噛合う。モータ31、ウォームギヤ32、ウォームホイール33、第一ピニオン34、ギヤ35、第二ピニオン36及びセクタギヤ37は、ハウジング30に収容される。第一スプリングホルダー42は、セクタギヤ37に係合し、第二スプリングホルダー43はハウジング30に係合する。第一スプリングホルダー42と第二スプリングホルダー43は、同軸上に組合わされ相対位置が変更可能となっている。ターンオーバースプリング41は、第一スプリングホルダー42と第二スプリングホルダー43により圧縮された状態で保持される。セクタギヤ37の第一端部38は、ハウジング上に設置された第一ストッパー44と当接し、同様に第二端部39は第二ストッパー45に当接する。また、出力軸19は、駆動アーム12に連結され、連動アーム11からフィン8までの構成は第一実施形態と同じである。
【0027】
フィン8が全閉の場合、ターンオーバースプリング41の反力が第一スプリングホルダー42を介してセクタギヤ37に伝達される。セクタギヤ37の第一端部38がフィン8の閉方向に押圧されて第一ストッパー44と当接する。同様にフィン8が全開の場合、ターンオーバースプリング41の反力が第一スプリングホルダー42を介してセクタギヤ37に伝達される。フィン8の開方向に押圧されてセクタギヤ37の第二端部39が第二ストッパー45と当接する。
【0028】
モータ31の回転力は、ウォームギヤ32、ウォームホイール33、第一ピニオン34、ギヤ35、第二ピニオン36を介してセクタギヤ37まで伝達される。フィン8が閉状態から開状態まで作動する場合、モータ31の回転力がターンオーバースプリング41による押圧力に抗してセクタギヤ37を回転させる。セクタギヤ37は、ターンオーバースプリング41の押圧力が最大となる領域を通過して、第二端部39が第二ストッパー45と当接して停止する。同様に開状態から閉状態まで作動する場合はこの逆に動く。
【0029】
フィン8に閉状態での水圧等の過大負荷が作用した場合、フィン8に作用した負荷は、各アーム類を介してセクタギヤ37にトルクとして作用する。過大負荷によるトルクがターンオーバースプリング41の押圧力による保持トルクよりも大きい場合、セクタギヤ37は、出力軸19側より駆動される。ウォームギヤ32の進み角は、大きく設定されている為、逆転防止機構として作用しない。過大負荷によるトルクがターンオーバースプリング41の最大押圧力による保持トルクよりも大きい場合はセクタギヤ37はそのまま開状態まで回転するが、小さい場合は途中で閉状態に戻る。
【0030】
本発明のグリルシャッター5では、ハウジング30がモータ31、ウォームギヤ32、ウォームホイール33、第一ピニオン34、ギヤ35、第二ピニオン36、セクタギヤ37及びターンオーバースプリング41を収容するため、粉塵や飛び石等の物理的悪影響又は錆や劣化等の化学的悪影響から保護することができる。さらにハウジング30とこれらの可動部品(モータ31、ウォームギヤ32、ウォームホイール33、第一ピニオン34、ギヤ35、第二ピニオン36、セクタギヤ37、ターンオーバースプリング41)をサブアッセンブリ化することにより組付性も向上する。
【0031】
また、ターンオーバースプリング41がセクタギヤ37を押圧するため、路面状況及び風圧等による振動が抑制され静粛性が向上し、ウォームギヤ32、ウォームホイール33、第一ピニオン34、ギヤ35、第二ピニオン36、セクタギヤ37及び図示しないリンク機構(図1)の軸受部等の磨耗が抑制される。少ない部品でターンオーバースプリング41の押圧力を設定できるため、負荷によるウォームギヤ32、ウォームホイール33、第一ピニオン34、ギヤ35、第二ピニオン36、セクタギヤ37及びリンク機構の変形やガタの影響を考慮する必要がなく容易に押圧力を設定できる。さらにストッパー44、45が動力伝達経路と独立しているため、ウォームギヤ32を使用した場合でも逆転防止機能が必要なく動力伝達効率を向上できる。
【0032】
以下、本発明の第三実施形態について説明する。
【0033】
第一及び第二実施形態と同一の部品、構成については同一の符号を用いて説明する。図4は、第三実施形態に係るグリルシャッター50のフィン51及び取付部の側面図である。グリル開口部6に設置された基枠7には第一支持軸54回りに回転自在にベースフィン52(動力伝達部材)が取付けられている。フィン51は、ベースフィン52の第二支持軸55回りに回転自在に設置され、トーションスプリング53は、フィン51とベースフィン52の間に設置される。トーションスプリング53の一端は、フィン51に固定され、他端はベースフィン52に固定される。トーションスプリング53によりフィン51は、閉方向に付勢される。ベースフィン52は、互いに連動アーム11でピン13により連結され、連動ア−ム11は、駆動アーム12にピン13により連結されてリンク機構を構成する。駆動アーム12は出力軸19に直結される。出力軸19から図示しないモータまでの構成は、第一実施形態と同一である。
【0034】
通常の風圧による負荷がフィン51に作用している場合、トーションスプリング53は、フィン51の開方向に変形せずにフィン51とベースフィン52の相対位置を保持したままモータからの駆動力を伝達してフィン51及びベースフィン52を開閉する。フィン51及びベースフィン52が全閉で水溜りへ突入して水圧等による過負荷がフィン51に作用した場合、フィン51に作用した負荷がトーションスプリング53をフィン51の開方向に変形させることによって、モータが作動しなくてもフィン51が開動作する。
【0035】
本発明のグリルシャッター50では、フィン51の近くにトーションスプリング53を設置することにより、動力伝達経路の途中ではなく端部に弾性部材を設置でき、動力伝達経路の構造を単純化することができる。また、動力伝達経路の構造の単純化により、動力伝達経路を構成する部品を車種間で共通化することも可能となる。さらに。フィン51以外の部材の慣性が影響しなくなるため過負荷に対する応答性が向上する。
【符号の説明】
【0036】
2 エンジンルーム
5 グリルシャッター
6 グリル開口部
8 フィン
11 連動アーム(動力伝達機構)
12 駆動アーム(動力伝達機構)
16 トーションスプリング(弾性部材)
31 モータ(駆動源)
32 ウォームギヤ(動力伝達機構)
33 ウォームホイール(動力伝達機構)
34 第一ピニオン(動力伝達機構)
35 ギヤ(動力伝達機構)
36 第二ピニオン(動力伝達機構)
37 セクタギヤ(動力伝達機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却空気をエンジンルーム内へ取入れる為のグリル開口部に開閉自在に設置されたフィンと、
該フィンを駆動する駆動源と、
該駆動源からの動力を前記フィンへ伝達する動力伝達機構と、
該動力伝達機構に連係され所定値以上の負荷が作用した場合弾性変形して前記フィンを開動作させる弾性部材と、
を有する車両用可動グリルシャッター。
【請求項2】
前記動力伝達機構は歯車とリンク機構とを有し、
前記弾性部材は前記歯車と前記リンク機構との間に押圧された状態で設置されること
を特徴とする請求項1に記載の車両用可動グリルシャッター。
【請求項3】
前記動力伝達機構は歯車とリンク機構とを有し、
前記歯車の全部又は一部と前記弾性部材とを収容する収容部材を有し、
前記弾性部材の一端は前記歯車に係止され、前記弾性部材の他端は前記収容部材に係止されること
を特徴とする請求項1に記載の車両用可動グリルシャッター。
【請求項4】
前記収容部材は前記フィンの全閉状態と全開状態の少なくともいずれかの場合に前記歯車が当接する当接部材を備え、
前記弾性部材は全閉状態と全開状態の間に弾性力が最大となる領域を形成するターンオーバースプリングであること
を特徴とする請求項3に記載の車両用可動グリルシャッター。
【請求項5】
前記動力伝達機構は歯車とリンク機構とベースフィンとを有し、
前記フィンは前記ベースフィンと係合し、
前記弾性部材は前記フィンを前記ベースフィンに対して相対回転方向に付勢して、前記フィンと前記ベースフィンとの間に設置されること
を特徴とする請求項1に記載の車両用可動グリルシャッター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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