説明

車両用天井材

【課題】 部品点数を増やすことなく、吸音性能をより一層高めることができる車両用天井材を提供する。
【解決手段】 基材26と、基材26の表面側に設けられ車室内の天井面を形成する表皮層31と、基材26の裏面側に設けられる通気止め用の裏面層32と、を積層してなる車両用天井材20であって、基材26と表皮層31の間および基材26と裏面層32の間に、表裏両面に接着剤Sを有して表皮層31および裏面層32を基材26に接着させる補強用の表面側繊維層27および裏面側繊維層28を介在させ、表面側繊維層27および裏面側繊維層28は、接着剤Sが塗布される接着領域Aと、接着剤が塗布されない非接着領域Bを有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用天井材に関し、より詳細には、基材、表皮層、繊維層、裏面層を積層した車両用天井材に、高い吸音性能を付与する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基材の表面側に表皮層を設け、基材の裏面側に裏面層を設けた車両用天井材が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
図11は、従来の車両用天井材の構成例を説明する図であり、車両用天井材100は、ウレタン製の基材101と、基材101を挟むように配設される表面側繊維層102および裏面側繊維層103と、表面側繊維層102の表面に設けられ車室の天井面を形成する表皮層104と、裏面側繊維層103の裏面に設けられる裏面層105と、を積層してなる。
【0004】
車両用天井材100のうち、基材101、表面側繊維層102、裏面側繊維層103、表皮層104は、通気性の材料で構成される。このため、裏面層105を非通気性の材料で構成することにより、車室内から天井材100の裏側への空気の流れを止め、表皮層104の表面に埃等が付着することを防止している。
【0005】
このような天井材100の製造方法を図12に基づいて説明する。なお、図12では、成形素材の向きに合わせ、上位に表皮層104を配置し、下位に裏面層105を配置している。
【0006】
先ず、図12(a)に示すように、基材101、表面側繊維層102、裏面側繊維層103、表皮層104、裏面層105を積層させて、成形素材106を準備する。成形素材106のうち表面側繊維層102および裏面側繊維層103のそれぞれの表裏両面には、予め、接着剤107が全面に亘って塗布されている。次に、図12(b)に示すように、成形素材106を上型108および下型109で挟んでホットプレス成形を行う。このとき、表皮層104の裏面を表面側繊維層102の表面に接着し、裏面層105の表面を裏面側繊維層103の裏面に接着する。これにより、全ての層を一体化して所定形状の天井材100を得る。
【0007】
ところで、車両の静粛性が求められる中、吸音性能をより一層高めた天井材が求められている。しかしながら、従来の天井材100では、吸音性能が基材101の発泡密度や各層の厚みで決まるため、吸音性能の向上には限界がある。
【0008】
そこで、特許文献2では、車両用内装材において、内装基材(あるいは流出防止フィルム)と赤外線反射部材との間に制振部材を配置する技術が提案されている。この技術では、制振部材により振動を吸収して遮音効果を高めるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−280666号公報
【特許文献2】特開2009−126496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に開示される技術においても、制振部材は、内装基材あるいは流出防止フィルムに単に貼られた1枚の層に過ぎず、上述した天井材100と同様に、吸音性能は各層の仕様(発泡密度や厚み)で決まるため、さらなる吸音性能向上は困難である。また、制振部材を追加した分、部品点数が増えるため、内装材も厚くなってしまい、資材コストも嵩む。
【0011】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、部品点数を増やすことなく、吸音性能をより一層高めることができる車両用天井材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、基材と、前記基材の表面側に設けられ車室内の天井面を形成する表皮層と、前記基材の裏面側に設けられる通気止め用の裏面層と、を積層してなる車両用天井材において、前記基材と前記表皮層の間または前記基材と前記裏面層の間の少なくとも一方に、表裏両面に接着剤を有して前記表皮層あるいは前記裏面層を前記基材に接着させる補強用の繊維層を有し、前記繊維層は、前記接着剤が塗布される接着領域と、接着剤が塗布されない非接着領域とを有することを特徴とする。
【0013】
上記発明は、前記基材と前記表皮層の間および前記基材と前記裏面層の間のそれぞれに、前記繊維層を有することを特徴とする。
【0014】
上記発明は、前記非接着領域を車両幅方向に複数並べて設け、隣り合う2列の前記非接着領域の間を接着領域として設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基材、繊維層、表皮層あるいは裏面層は、接着領域では、繊維層にしっかりと接着される一方、非接着領域では、繊維層に接着されない。したがって、基材、繊維層、表皮層あるいは裏面層が浮張で接着されるため、膜振動による吸音効果を得ることができる。結果、部品点数を増やすことなく、吸音性能をより一層高めることができる車両用天井材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかる第1実施形態の車両用天井材を備える車両の斜視図である。
【図2】図1のC矢視図であり、車両用天井材の平面図である。
【図3】第1実施形態の車両用天井材の層構成を説明する断面図である。
【図4】塗布設備の構成を説明する図である。
【図5】第1実施形態の塗布手段の斜視図である。
【図6】第1実施形態の車両用天井材の製造方法を説明する図であり、(a)は素材準備工程を説明する図、(b)は成形工程を説明する図である。
【図7】第1実施形態の車両用天井材の構成を説明する図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のb−b線断面図、(c)は(b)のc部拡大図である。
【図8】第2実施形態の塗布手段を示す斜視図である。
【図9】第2実施形態の車両用天井材の製造方法および構成を説明する図であり、(a)は成形工程を説明する図、(b)は車両用天井材の平面図である。
【図10】他の塗布手段を説明する図である。
【図11】従来の車両用天井材の基本構成を説明する図である。
【図12】(a)は従来の車両用天井材の層構成を説明する断面図、(b)は従来の車両用天井材の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための第1実施形態について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。また、天井材の各層の表面は、車室に向く側の面とし、各層の裏面は、車両のルーフに向く側の面とする。また、左・右は、車両の進行方向に対する左・右とする。
【0018】
図1に示すように、車両10は、車体11、前輪12、後輪13、車室14を備える。車体11は、車室14の上方を覆うルーフ15を備える。ルーフ15の内側には、車室14の天井面を内装する車両用天井材20が設けられる。
【0019】
図2に示すように、車両用天井材20は、平面視で略長方形を呈しており、前部21が略平板状に形成される。前部21よりも後方部分には、中央に行くに従って高くなる湾曲部22が形成される。車両用天井材20には、室内灯(いわゆるルームランプやマップランプなど)を取り付けるための開口部23や、サンバイザーを取り付けるための開口部24や、グリップを取り付けるための開口部25が設けられる。
【0020】
次に、車両用天井材20の層構成を図3に基づいて説明する。
図3に示すように、車両用天井材20は、基材26と、基材26を挟むように配設される補強用の表面側繊維層27および裏面側繊維層28と、表面側繊維層27の表面に設けられ車室14(図1参照)内の天井面を形成する表皮層31と、裏面側繊維層28の裏面に設けられる通気止め用の裏面層32と、を積層してなる。なお、図3では、製造工程における各層の位置に合わせ、上位に表皮層31を配置し、下位に裏面層32を配置している。
【0021】
基材26は、半硬質ウレタンフォーム等の発泡材料からなる。表面側繊維層27および裏面側繊維層28は、ガラスマット等の繊維材料からなり、車両用天井材20を補強する補強層であると共に、表皮層31および裏面層32を基材26に接着する接着層としての役割も果たす。
【0022】
表面側繊維層27および裏面側繊維層28は、表裏両面において、車両幅方向両端を含む領域(幅寸法W1で示す領域)に接着領域Aを有する。接着領域Aには、接着剤S(図中、黒い点で表す)が塗布される。これら左右の接着領域Aの間の領域は、非接着領域Bとして設定される。非接着領域Bには、接着剤が塗布されない。このように、表面側繊維層27および裏面側繊維層28は、表裏の全面に接着剤が塗布された従来の繊維層とは異なり、設定した接着領域のみに接着剤が部分的に塗布されるものである。なお、接着領域Aのみに接着剤Sを塗り分ける方法については後述する。
【0023】
表皮層31は、不織布、織布、ニット等の通気性の材料から任意に選択される。裏面層32は、非通気性の材料で構成され、たとえば、車室内の温度上昇も抑制可能なアルミ蒸着フィルム等の遮熱材料から選択することが好ましい。接着剤Sとしては、イソシアネート等の湿気硬化型接着剤または熱硬化性樹脂接着剤が好適である。
【0024】
次に、第1実施形態の車両用天井材20の製造方法を図4〜図6に基づいて説明する。
車両用天井材20の製造方法は、表面側繊維層27および裏面側繊維層28に接着剤Sを塗布する塗布工程と、積層させた成形素材を用いてホットプレス成形を行う成形工程とを含む。
【0025】
図4に示すように、塗布工程では、塗布設備50を用いる。塗布設備50は、繊維層27,28(図3参照)の素材である長尺のシート51を巻いたロール52と、ロール52からシート51を送り出す供給ローラ53と、供給ローラ53から供給されるシート51に接着剤Sを塗布する塗布手段(ここではロールコーター)60と、塗布済みのシート54を巻き取る巻き取りローラ55と、を有する。
【0026】
図5に示すように、塗布手段60は、シート51に接着剤Sを塗布する塗布用ローラ61と、塗布用ローラ61に対向して設けられ塗布用ローラ61に付着される接着剤Sの厚みを均一にする均一用ローラ62と、塗布用ローラ61と均一用ローラ62の間に接着剤Sを供給する接着剤貯留部63と、塗布用ローラ61との間でシート51を挟み、シート51を支持する支持用ローラ64と、を有する。
【0027】
接着剤貯留部63は、2枚の仕切り65により、軸方向に沿って3つの空間に区画される。左右両側の区画部は、接着剤Sが供給される貯留部63aとして構成される。中央の区画部は、接着剤Sが供給されない単なる空間63bとして構成される。左右の貯留部63aの幅寸法W2は、接着領域Aの幅寸法W1と略同じに幅寸法に設定される。これにより、塗布用ローラ61には、接着領域Aと略同じ幅の塗布面61aと、非接着領域Bと略同じ幅の非塗布面61bとが軸方向に交互に付与される。
【0028】
接着剤Sの塗布方法を具体的に説明する。
図4および図5に示すように、先ず、上流側の供給ローラ53からシート51を塗布手段60に供給する。塗布手段60では、走行するシート51の一方の面(ここでは上面)に対して、塗布用ローラ61を転動させることにより、シート51の接着領域Aに塗布面61aを接触させ、非接着領域Bに非塗布面61bを接触させて、接着剤Sを塗り分ける。塗布済みのシート54は、複数のローラ56で下流に搬送され、巻き取りローラ55に巻き取られる。巻き取られたシート54は、所定の長さに裁断され、表面側繊維層27および裏面側繊維層28の素材となる。
【0029】
なお、巻き取りローラ55では、接着剤Sが塗布されたシート54の一方の面が、未塗布の他方の面に巻き付いて接触する。これにより、接着剤Sの一部が他方の面に移る。結果、シート51の表裏両面に接着剤Sを塗布することができる。なお、シート51(繊維層27,28)を接着剤Sが浸透しやすい材質で構成することにより、接着剤Sをシート51の中に浸透させ、他方の面に染み出させてもよい。
【0030】
続いて、成形工程を説明する。
図6(a)および(b)に示すように、成形工程では、表皮層31側を成形する第1の金型(上型)41および裏面層32側を成形する第2の金型(下型)42からなる成形金型40を用いる。そして、基材26、表皮層31、裏面層32、表面側繊維層27および裏面側繊維層28を積層させた成形素材35を上型41と下型42で挟み、ホットプレス成形を行う。
【0031】
すると、図7(a)および(b)に示すように、接着領域Aでは各層が接着され、非接着領域B(図7(a)中、斜線で模式的に示す領域)では各層が接着されていない、浮張の車両用天井材20を得ることができる。
【0032】
よって、図7(c)に示すように、非接着領域Bでは、基材26、表面側繊維層27、裏面側繊維層28、表皮層31および裏面層32の全ての層が、矢印(1)で示す方向に振動可能になる。したがって、膜振動による高い吸音性能を得ることができる。
【0033】
以上、説明した第1実施形態によれば、膜振動による吸音効果を得ることができるので、部品点数を増やすことなく、吸音性能をより一層高めることができる。また、接着領域Aの幅寸法W1を調整することにより、接着領域Aおよび非接着領域Bのそれぞれの位置や面積を調整することができるので、車両用天井材20に求められる品質に応じて、容易に吸音性能を調整することができる。
【0034】
(第2実施形態)
次に、本発明にかかる第2実施形態を図8に基づいて説明する。なお、前述した第1実施形態と共通する部位には同じ符号を付して、重複する説明を省略することとする。
【0035】
第2実施形態では、非接着領域を車両幅方向に複数並べて設定し、隣り合う2列の非接着領域の間に、接着剤を塗布するようにする。たとえば、図8に示すように、第1実施形態にかかる塗布手段60の構成に加え、1対の仕切り65を中央に追加して中央の貯留部63cを設ける。貯留部63cを含め合計3つの貯留部を用いることで、塗布用ローラ61には、左右の塗布面61aに加え、中央の塗布面61cが付与される。これにより、2つの非接着領域B1を車両幅方向に並べ、2列の非接着領域B1の間に、接着領域A1を設けることができる。そして、図9(a)に示すように、シート54Aを裁断した表面側繊維層27A、裏面側繊維層28Aを用い、ホットプレス成形を行うと、図9(b)に示すように、接着領域A1で各層が接着された車両用天井材20を得ることができる。
【0036】
第2実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様の作用効果が得られることに加え、左右の接着領域A以外の領域においても、部分的に接着することができる。これにより、表皮層31や裏面層32が中央付近で過度に浮くことを防止できる。また、接着領域および非接着領域のそれぞれの位置や面積をより細かく調整できるので、設計の自由度を高めることができる。
【0037】
なお、第1実施形態および第2実施形態では、接着剤貯留部を仕切ることで、接着領域と非接着領域とを塗り分けたが、塗り分けるための手段や方法は、格別に限定されるものではない。たとえば、図10に示すように、塗布用ローラ61に付着した接着剤Sをドクター刃65で、こそげ落とすことより、塗布用ローラ61に非塗布面61b(図5参照)を付与してもよい。要は、非接着領域を避けて接着領域に接着剤を塗ることができれば、塗り分けの手段や方法は任意である。また、第2実施形態では、非接着領域を2列設けたが、非接触領域を車両幅方向に3列以上並べ、隣り合う2列の非接着領域の間を接着領域としてもよい。
【0038】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0039】
たとえば、実施形態では、表面側繊維層および裏面側繊維層のそれぞれに接触領域と非接触領域を設定し、全ての層を振動させるように構成したが、いずれか一方の繊維層のみに接触領域と非接触領域を設定し、車両用天井材の一部の層を振動させる構成も本発明の技術的範囲内である。
【0040】
また、実施形態では、繊維層における車両幅方向両端を含む領域を接着領域としたが、繊維層における車両長さ方向両端を含む前後2つの領域を接着領域としてよい。
【符号の説明】
【0041】
10 車両
14 車室
20 車両用天井材
26 基材
27 表面側繊維層(繊維層)
27A 表面側繊維層(繊維層)
28 裏面側繊維層(繊維層)
28A 裏面側繊維層(繊維層)
31 表皮層
32 裏面層
A 接着領域
A1 接着領域
B 非接着領域
B1 非接着領域
S 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面側に設けられ車室内の天井面を形成する表皮層と、前記基材の裏面側に設けられる通気止め用の裏面層と、を積層してなる車両用天井材において、
前記基材と前記表皮層の間または前記基材と前記裏面層の間の少なくとも一方に、表裏両面に接着剤を有して前記表皮層あるいは前記裏面層を前記基材に接着させる補強用の繊維層を有し、
前記繊維層は、接着剤が塗布される接着領域と、接着剤が塗布されない非接着領域とを有することを特徴とする車両用天井材。
【請求項2】
前記基材と前記表皮層の間および前記基材と前記裏面層の間のそれぞれに、前記繊維層を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用天井材。
【請求項3】
前記非接着領域を車両幅方向に複数並べて設け、隣り合う2列の前記非接着領域の間を接着領域として設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用天井材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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