説明

車両用強度部材

【課題】簡易な構造で且つ騒音の発生や通気抵抗の増大を招くことなく、車両左右方向の中央側に開口した開口部からの吹出風量と車両左右方向の側端側に開口した開口部からの吹出風量との配風比を許容範囲内とする車両用強度部材を提供する。
【解決手段】車両の左右方向に沿って延びて車両の構造体35と連結されると共に、その内部に壁部37、38、39、40により囲まれた空気流路41を有し、このうち壁部39は、車両の左右方向の中央側にて空気流路41と連通する2つの中央側開口部42が設けられていると共に、車両の左右方向の端部側にて空気流路41と連通する2つの端部側開口部43、43が設けられており、中央側開口部42の周縁面42Aは、端部側開口部43の周縁面43Aと比較して車両の左右方向で且つ開口部36とは反対側となる車両外側に向けてより傾斜したものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用強度部材の内部に空気流路を画成すると共に車両の左右方向の中央側に開口した開口部とその端部側に開口した開口部とを設けた場合に両開口部の配風比を改善した構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に対しその左右方向に沿って搭載される車両用強度部材(例えばステアリングメンバ、クロスメンバ若しくはクロスカービームとも称する。)について、当該車両用強度部材と空調ダクトとの機能統合を図るべく、その内部に空調空気が通過する空気流路を画成する構造については既に公知となっている(例えば、特許文献1及び2を参照。)。
【0003】
ここで、車両用強度部材内を空気流路として使用するにあたり、特許文献1の車両の空調用ダクトでは、その強度を維持するために、断面が矩形状で且つ長手方向に沿って直線状に延びると共にその側壁にセンターベント用開口部とサイドベント用開口部とを、その周縁面が空調ダクトの長手方向と略平行となるように開口させた構成としているが、このような構成とした場合には、通気抵抗との関係で、サイドベント用開口部からの風量の方がセンターベント用開口部からの風量よりも相対的に多くなるという不具合が生ずる。
【0004】
例えば、本願の図4の黒丸と破線とで記された特性線図に示されるように、全体の風量を100%とした場合の2つのサイドベント用開口部(L/S、R/S)、2つのセンターベント用開口部(L/C、R/C)における許容される配風割合が22%から28%の間と考えられるところ、2つのサイドベント用開口部における配風割合は各35%、2つのセンターベント用開口部における配風割合は各15%を示し、上記許容される配風割合を逸脱しているとの結果も出ている。
【0005】
これに伴い、上記の特許文献2に記載の車両用送風ダクトは、配風性能を向上させつつクロスメンバとしての強度を維持させるために、空調ユニットと接続する導入口の対向壁を、導入口側へ向けて突設し且つ車両の左右方向の両側に向けて傾斜する一対の傾斜壁を備えてなる凸状整流部として構成すると共に、その長手方向中央の2つの排出口及び長手方向の両側の2つの排出口を車両上下方向の上方に開口させたものとしている。
【特許文献1】特開2002−172923号公報
【特許文献2】特開2004−345363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の車両用送風ダクトでは、凸状整流部の傾斜壁同士を連結するためのリブを架設する等の補強を要するので、車両用送風ダクトの中央部位における構造が複雑化し、ひいては車両用送風ダクトの製造コストが高くなるという不都合を有する。
【0007】
また、サイドベント用開口部の開口面積を絞ると車両用強度部材の空気流路全体の通気抵抗の増大を招くと共に、サイドベント用開口部を空気が通過する際に騒音が発生するという不具合を有する。
【0008】
そこで、本発明は、簡易な構造で且つ騒音の発生や通気抵抗の増大を招くことなく、車両左右方向の中央側に開口した開口部からの吹出風量と車両左右方向の側端側に開口した開口部からの吹出風量との配風比を許容範囲内とする車両用強度部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両用強度部材は、車両の左右方向に沿って延びて前記車両の構造体と連結されると共に、その内部に複数の壁部により囲まれた空気流路を有する車両用強度部材において、前記壁部は、前記車両の左右方向の中央側に前記空気流路と連通する中央側開口部が設けられていると共に、前記車両の左右方向の端部側に前記空気流路と連通する端部側開口部が設けられており、前記中央側開口部の周縁面は、前記端部側開口部の周縁面と比較して、前記車両の左右方向で且つ前記車両の外方に向けてより傾斜していることを特徴としている(請求項1)。すなわち、中央側開口部の周縁面は、端部側開口部の周縁面と比較して、車両用空調ユニットと接続するための開口部側から車両左右方向の外側に向うにつれて車両前方側に位置するように傾斜している。そして、前記中央側開口部の周縁面の傾斜角度は、前記車両の左右方向に沿って延びる直線を基準として、5度から40度の範囲内である(請求項2)。
【0010】
ここで、空気流路は、例えばベント用空気流路とし、中央側開口部は例えばセンターベント用開口部とし、端部側開口部は例えばサイドベント用開口部として単一モード用に対応可能であると共に、空気流路を仕切り部によりベント用空気分流路とデフロスト用空気分流路とに区分し、ベント用空気分流路に例えばセンターベント用開口部となる中央側開口部を設けると共に例えばサイドベント用開口部となる端部側開口部を設け、更にデフロスト用空気分流路にも開口部を設けて複数モード用にも対応可能である。
【0011】
これにより、中央側開口部の周縁面に対し、端部側開口部の周縁面と比較して、車両の左右方向で且つ車両の外方に向けて所定角度で傾斜させることにより、空調ユニット本体の下流側開口部から車両用強度部材の空気流路内に流入した空気が車両左右方向に沿って流れるにあたり、中央側開口部から車両用強度部材外への空気の流れが円滑化されるので、相対的に中央側開口部から出る風量も増加し、これに伴い端部側開口部から出る風量が相対的に減少させられる。
【0012】
また、前記中央側開口部の開口面積と前記端部側開口部の開口面積とは略同じである(請求項3)。これにより、端部側開口部や中央側開口部を空気が通過する際に騒音が発生せず、また、車両用強度部材の空気流路全体での通気抵抗の増大も生じない。
【発明の効果】
【0013】
請求項1から3に記載の発明によれば、中央側開口部の周縁面に対し、端部側開口部の周縁面と比較して、車両の左右方向で且つ車両の外方に向けて所定角度で傾斜させて、中央側開口部から車両用強度部材外への空気の流れを円滑化することにより、中央側開口部から出る風量を相対的に増加させ、これに伴い端部側開口部から出る風量が相対的に減少させられるため、中央側開口部からの風量と側端側開口部からの風量との割合がそれぞれ許容範囲内に納まるので、配風比の改善が行われる。
【0014】
特に請求項3に記載の発明によれば、端部側開口部や中央側開口部を空気が通過する際に騒音が発生するのを防止でき、また、車両用強度部材の空気流路全体での通気抵抗の増大も抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態を図面により説明する。
【0016】
図1及び図2に示される空調ユニット1は、例えば車両用空調ユニットとして用いられる縦置き形式の一体型のもので、内外気切換ボックス2と空調ユニット本体3とで基本的に構成されている。
【0017】
そして、この空調ユニット1を収納し設置するための設置許容空間4は、エンジンルーム5と車室6とを仕切るファイヤーウォール7と、このファイヤーウォール7に連接したフロアパネル8と、イントルメントパネル9とで、車両の左右方向に沿って延設された構造となっている。この設置許容空間4内には、ベント吹出通路10、デフ吹出通路11が配されている。
【0018】
内外気切換ボックス2は、図1及び図3に示されるように、外気導入口12と内気導入口13とがケーシング14に開口すると共に、これらの内外気導入口12、13を適宜選択するための内外気切換ドア15がこのケーシング14内に収納されたものとなっている。
【0019】
空調ユニット本体3は、図示しない開口部を介して前記内外気切換ボックス2と連通しており、内部に空気流路16が形成されたケーシング18内には、内外気切換ボックス2から空気を下流側に送るための送風機20が収納されている。送風機20は、図3に示されるように、ファン20Aとモータ20Bとで構成され、この実施形態ではファン20Aの軸方向が車両の左右方向に沿うように横倒しの状態となっている。
【0020】
この送風機20の下流側には、図1及び図2に示されるように、当該送風機20により送られてきた空気を冷却するエバポレータ等の冷却用熱交換器21と、この冷却用熱交換器21で冷却された空気を再加熱するヒータコア等の加熱用熱交換器22とが車両の前後方向に沿って、冷却用熱交換器21が前側となるように並列的に立設している。そして、この実施形態では、冷却用熱交換器21の上流側にエアフィルタ24が配されている。
【0021】
また、空調ユニット本体3は、図1に示されるように、ケーシング18内に、冷却用熱交換器21を通過した空気に対し、加熱用熱交換器22をバイパスして下流側に導く冷風流路16Aと、加熱用熱交換器22を通過した空気を下流側に導く温風流路16Bとが形成されており、冷風流路16Aと温風流路16Bとを通過する空気の割合が加熱用熱交換器22の略上方に設けられたエアミックスドア23により調整されるようになっている。
【0022】
更に、空調ユニット本体3は、ケーシング18内に、空調ユニット本体3の温風流路16Bと冷風流路16Aとが合流するエアミックスチャンバ25が形成され、更にこのエアミックスチャンバ25よりも下流側において、デフ開口部27、ベント開口部28、フット開口部29が、ケーシング18に適宜開口している。各開口部27、28、29は、対応する開口部の手前に設けられたモードドア30、31、32によりその開閉を可能としている。
【0023】
一方、この実施形態において、空調ユニット本体3に対し、そのデフ開口部27と接続されたデフ吹出通路11は、通常の空調ダクトとなっている一方で、ベント開口部28の軸方向の上側には車両用強度部材34が配置されている。この車両用強度部材34は、例えばステアリングメンバ、クロスメンバ若しくはクロスカービームとも称されるもので、車両の左右方向に沿って延設されており、その両側は図2及び図3に示されるように車両の構造体35に固定されている。
【0024】
車両用強度部材34は、車両上下方向の上方側となる壁部37、車両進行方向の前方側となる壁部38、車両進行方向の後方側となる壁部39、及び車両上下方向の下方側となる壁部40を有するもので、この壁部37、38、39、40により囲まれることで、車両の左右方向に沿って延びる空気流路41が画成されており、この実施形態ではダクト機能を統合したかたちとなっている。
【0025】
そして、車両用強度部材34は、壁部39に対し、車両の左右方向のうちの中央側で且つ空調ユニット本体3のベント開口部28と接続する開口部36を挟むように、空気流路41と連通する中央側開口部42、42が設けられている。また、車両用強度部材34は、壁部39に対し、車両の左右方向のうちの構造体35近傍となる端部側に、空気流路41と連通する端部側開口部43、43が設けられている。これに伴い、車両用強度部材34の中央側開口部42と接続されるベント吹出通路はセンターベント用となり、車両用強度部材34の端部側開口部43と連接するベント吹出通路はサイドベント用となる。
【0026】
中央側開口部42の開口面積と端部側開口部43の開口面積とは略同じとなっている。その一方で、図3に示されるように、端部側開口部43の周縁面43Aは車両用強度部材34の車両左右方向に沿った直線Lに対し略平行(端部側開口部43の軸方向に沿って延びる線と前記直線Lとが交差する角度が90度)であるのに対し、中央側開口部42の周縁面42Aは、車両の左右方向に沿って且つ開口部36とは反対側の構造体35に向けて傾斜したものとなっている。すなわち、中央側開口部42の周縁面42Aは、端部側開口部43の周縁面43Aと比較して、開口部36側からこの開口部36とは反対側の車両の構造体35側に向うにつれて車両前方側に位置するように傾斜している。この中央側開口部42の周縁面42Aから延長された直線と前記直線Lとが交差する、傾斜角度の所定値Rは、前記直線Lを基準として5度から40度までの範囲で設定される。
【0027】
これにより、空調ユニット本体3のベント開口部28から開口部36を介して車両用強度部材34の空気流路41内に流入した空気は、車両左右方向の中央側から端部側に流れるにあたり、両中央側開口部42の周縁面43Aが開口部36とは反対側の構造体35に向けて前記直線Lを基準として所定値Rの角度で傾斜しているので、例えば中央側開口部42の周縁面42Aが前記直線Lと平行(中央側開口部42の軸方向に沿って延びる線の直線Lを基準とした角度が90度)である場合に比し空気抵抗をさほど受けることがなくなる。しかも、この中央側開口部42の開口面積と端部側開口部43の開口面積とは略同じであり、且つ端部側開口部43の周縁面43Aは前記直線Lに対し略平行(中央側開口部42の軸方向に沿って延びる線と前記直線Lとが交差する角度が90度)のままである。
【0028】
このため、中央側開口部42、42から送出される空気量は相対的に増加し、端部側開口部43、43から送出される空気量は相対的に減少する。
【0029】
しかるに、図4に示されるように、全体の風量を100%とした場合の、センターベント用で且つ車両進行方向の後方から見て左側の中央側開口部42(L/C)、センターベント用で且つ車両進行方向の後方から見て右側の中央側開口部42(R/C)と、サイドベント用で且つ車両進行方向の後方から見て左側の端部側開口部43(L/S)、サイドベント用で且つ車両進行方向の後方から見て右側の端部側開口部43(R/S)とにおける許容される配風割合が22%から28%の間と考えられる。
【0030】
これに対し、端部側開口部43の周縁面43Aを直線Lと略平行としつつ、中央側開口部42の周縁面42Aから延びる線について、前記直線Lを基準とした傾斜角度の所定値Rをそれぞれ5度とした場合には、図4の白抜き丸と実線とで記された特性線図に示されるように、中央側開口部42における配風割合は各22%、端部側開口部43における配風割合は各28%を示し、上記配風割合の許容範囲内に納まることができるとの結果も出ているものである。
【0031】
尚、端部側開口部43の周縁面43Aは、必ずしも前記直線Lと平行に限定されず、中央側開口部42と端部側開口部43とでの配風比が、図4に示される許容範囲内に納まるのであれば、多少において、車両の左右方向であって開口部36とは反対側の車両の構造体35側に向けて傾斜したものとしても良い。
【0032】
最後に、この発明は、樹脂製の空調ダクトの周囲を金属製の車両用強度部材34で覆ったものにも対応することができ、また、その内部構造も図1等の実施形態のように空調ユニット本体3の開口部27、28、29のいずれか1のみと連通する空気流路を備えた単一モード(例えばベントモード)用に限定されず、空調ユニット本体3の開口部27、28、29の2以上と個別に連通する空気流路を備えた複数モード(例えばベントモード及びデフモード)用となるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、車両用空調ユニット及び車両用強度部材等について車両左右方向側から見た状態を示す説明図である。
【図2】図2は、車両用空調ユニット及び車両用強度部材等について車両進行方向の後側から見た状態を示す説明図である。
【図3】図3は、車両用空調ユニット及び車両用強度部材等について車両上下方向の上側から見た状態を示す説明図である。
【図4】図4は、従来の車両用強度部材を用いた場合のセンターベントとサイドベントとにおける配風比と本願発明に係る車両用強度部材を用いた場合のセンターベントとサイドベントとにおける配風比とを示した特性線図である。
【符号の説明】
【0034】
1 空調ユニット
3 空調ユニット本体
10 ベント吹出通路
16 空気流路
28 ベント用開口部
34 車両用強度部材
35 構造体
36 開口部
37 壁部
38 壁部
39 壁部
40 壁部
41 空気流路
42 中央側開口部
42A 中央側開口部の周縁面
43 端部側開口部
43A 端部側開口部の周縁面
L 車両用強度部材の車両左右方向に沿った直線
R 中央側開口部の直線Lを基準とした傾斜角度の所定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右方向に沿って延びて前記車両の構造体と連結されると共に、その内部に複数の壁部により囲まれた空気流路を有する車両用強度部材において、
前記壁部は、前記車両の左右方向の中央側に前記空気流路と連通する中央側開口部が設けられていると共に、前記車両の左右方向の端部側に前記空気流路と連通する端部側開口部が設けられており、
前記中央側開口部の周縁面は、前記端部側開口部の周縁面と比較して、前記車両の左右方向で且つ前記車両の外方に向けてより傾斜していることを特徴とする車両用強度部材。
【請求項2】
前記中央側開口部の周縁面の傾斜角度は、前記車両の左右方向に沿って延びる直線を基準として、5度から40度の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の車両用強度部材。
【請求項3】
前記中央側開口部の開口面積と前記端部側開口部の開口面積とは略同じであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用強度部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−183957(P2008−183957A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17290(P2007−17290)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(500309126)株式会社ヴァレオサーマルシステムズ (282)
【Fターム(参考)】