説明

車両用操舵装置

【課題】転舵軸に段差部を設けた構成としつつ、応力集中を防止すること。
【解決手段】車両用操舵装置は、転舵軸6と、軸方向X1への転舵軸6の移動量を規制する第1および第2ストッパ47,48とを有する。転舵軸6は、第1外周面61と、第1外周面61よりも大径の第2外周面62と、第1外周面61と第2外周面62とを接続する環状の段差部63とを含む。段差部63は、ストッパ47,48に対して軸方向X1に対向する接触部64と、第1外周面61と接触部64の内端とを接続する断面凹湾曲状の第1コーナー部65と、転舵軸6の中心軸線よりも前側または後側の位置で第1外周面61と第2外周面62とを接続しており、第1コーナー部65よりも曲率半径が大きい断面凹湾曲状の第2コーナー部66とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用操舵装置は、ハンドルの操作に連動して軸方向に移動する転舵軸と、この転舵軸を覆う筒状のハウジングとを有している。転舵軸の端部には、継手およびタイロッド等を介して車輪が連結されている。転舵軸の端部、継手、およびタイロッド等は、ハウジングから突出しており、ベローズで覆われている。
例えば特許文献1では、転舵軸の端部に固定された段差状のラックエンドが、ハウジングに設けられたストッパに接触することにより、転舵軸の移動量が規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−137473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フォークリフト等の荷役車両では、タイロッド角(平面視において転舵軸とタイロッドとがなす角度)が、通常の自動車よりも大きいので、ベローズの伸縮がタイロッドの移動に追従できず、ベローズが取り付けられない。そのため、砂利などの異物が、ラックエンドとストッパとの間に噛み込むおそれがある。
そこで、転舵軸においてハウジング内に配置されている部分に段差部を設け、この段差部をハウジングのストッパと接触させることにより、転舵軸の移動量を規制することが考えられている。
【0005】
しかし、転舵軸に段差部があると、曲げ荷重が転舵軸に加わったときに、段差部で応力集中が生じ、段差部に大きな応力が生じるおそれがある。
この発明は、かかる背景のもとになされたものであり、転舵軸に段差部を設けた構成としつつ、応力集中を防止できる車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明の一実施形態は、操舵部材(2)の操作に伴って軸方向(X1)に移動する転舵軸(6)と、前記転舵軸(6)に接触して前記軸方向(X1)への前記転舵軸(6)の移動量を規制するストッパ(47,48)とを備え、前記転舵軸(6)は、第1外周面(61)と、前記第1外周面(61)よりも直径(D2)が大きく前記第1外周面(61)と同軸の第2外周面(62)と、前記第1外周面(61)と前記第2外周面(62)とを接続する段差部(63)とを含み、前記段差部(63)は、前記ストッパ(47,48)に対して前記軸方向(X1)に対向する接触部(64)と、前記第1外周面(61)と前記接触部(64)の内端(64a)とを接続する断面凹湾曲状の第1コーナー部(65)と、前記転舵軸(6)の周方向(C1)に関して前記第1コーナー部(65)とは異なる位置であって車両の前後方向(Y1)に関して前記転舵軸(6)の中心軸線(6c)に対して前側および後側の少なくとも一方の位置で前記第1外周面(61)と前記第2外周面(62)とを接続しており、前記第1コーナー部(65)よりも曲率半径(R2)が大きい断面凹湾曲状の第2コーナー部(66)と含む、車両用操舵装置(1)を提供する。
【0007】
この構成によれば、転舵軸の段差部に設けられた接触部をストッパに接触させることにより、転舵軸の移動量を規制することができる。後述するように、転舵軸が転舵されると、ラジアル荷重が転舵軸に加わる。このラジアル荷重の向きは決まっており、ラジアル荷重に伴って応力が生じる段差部の部位も決まっている。この部位、すなわち、応力集中が生じ易い部位を含む範囲に、第1コーナー部よりも曲率半径が大きい第2コーナー部が配置されている。したがって、転舵軸での応力集中を防止でき、転舵軸の応力を低減できる。
【0008】
また、本発明において、前記第2コーナー部(66)は、前記転舵軸(6)の中心軸線(6c)よりも前側と後側とに設けられていてもよい(請求項2)。この場合、転舵軸に、前向きおよび後向き何れのラジアル荷重が加わったときでも、第2コーナー部に生じる応力を低減できる。
また、本発明において、前記第1コーナー部(65)は、前記第1外周面(61)よりも前記転舵軸(6)の中心軸線(6c)側に凹んでいる場合がある(請求項3)。この場合には、第1コーナー部が第1外周面より外方に突出している構成よりも、接触部の面積を広げられる。
【0009】
また、本発明において、前記転舵軸(6)の周囲を取り囲む筒状の転舵ハウジング(5)と、前記軸方向(X1)に関する前記転舵ハウジングの各端部(51,52)と前記転舵軸(6)との間に配置されており、前記転舵ハウジング(5)の内部(5b)を密閉するシール(49,50)とをさらに含み、前記ストッパ(47,48)および前記段差部(63)は、前記シール(49,50)により密閉された前記転舵ハウジング(5)の前記内部(5b)に配置されている場合がある(請求項4)。この場合、転舵軸の段差部とストッパとが密閉された空間に配置されているので、異物が段差部とストッパとの間に噛み込むことを防止できる。
【0010】
また、本発明において、前記段差部(63)は、前記車両の左右方向(X0)に関して前記ストッパ(47,48)よりも内方に配置されていてもよい(請求項5)。この場合、段差部が車両の左右方向に関してストッパよりも外方に配置されている構成と比較して、転舵軸の軸端から段差部までの距離を増加させることができるので、異物が段差部とストッパの間に噛み込むことをより確実に防止できる。
【0011】
なお、前記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】転舵軸を駆動する機構の概略断面図である。
【図3】転舵軸の移動が規制されている状態を示す車両用操舵装置の要部の断面図である。
【図4】転舵軸の段差部およびその周辺部分の正面図である。
【図5】転舵軸の段差部およびその周辺部分の平面図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】図4のVII−VII線に沿う断面図である。
【図8】転舵軸に加わるラジアル荷重について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置1の概略構成を示す模式図である。以下では、図1を参照する。
車両用操舵装置1は、例えば、ステアリングホイール2とステアリング機構100との機械的な連結が解除されたステアバイワイヤ式の車両用操舵装置である。車両用操舵装置1は、操舵部材としてのステアリングホイール2が連結されるステアリングシャフト9と、ステアリングホイール2の操作に連動して転舵輪3を転舵するステアリング機構100と、ステアリングホイール2の操作に応じてステアリング機構100を制御する制御装置としてのECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)19とを備えている。さらに、車両用操舵装置1は、ステアリングホイール2に反力を与える反力アクチュエータ10と、ステアリングホイール2を直進位置(操舵原点位置)に復帰させる弾性部材11とを含む。
【0014】
ステアリングシャフト9は、車体に対して回転可能に支持される。ステアリングシャフト9の一端部は、ステアリングホイール2に連結されており、ステアリングシャフト9の他端部は、弾性部材11に連結されている。反力アクチュエータ10は、ステアリングシャフト9の中間部に連結されている。反力アクチュエータ10は、ステアリングシャフト9に連結されたロータを有するモータを含む。弾性部材11は、渦巻きばねを含む。ステアリングホイール2が操作されると、ステアリングホイール2を直進位置に復帰させる力(弾性部材11の復元力)が、ステアリングシャフト9に加わる。
【0015】
ステアリング機構100は、車両の左右方向X0に延びる転舵軸6と、転舵軸6を収容する筒状の転舵ハウジング5と、転舵軸6を駆動する転舵アクチュエータ4とを含む。本実施形態では、車両の左右方向X0と転舵軸6の軸方向X1とが同じ方向になるように、ステアリング機構100が車体に取り付けられる。転舵軸6は、転舵ハウジング5に支持されている。転舵ハウジング5は、車体側部材に固定される。転舵軸6は、転舵ハウジング5に対して左右方向X0に移動可能である。転舵軸6の各端部は、タイロッド7およびナックルアーム8を介して転舵輪3に連結される。後述するように転舵アクチュエータ4は、電動モータを含む。転舵アクチュエータ4の回転は、後述する運動変換機構によって転舵軸6の軸方向X1運動に変換される。左右の転舵輪3は、転舵軸6の軸方向移動に伴って転舵される。
【0016】
車両用操舵装置1は、ステアリングホイール2の操舵角θhを検出する操舵角センサ12と、ステアリングホイール2に加えられた操舵トルクTを検出するトルクセンサ13と、転舵輪3の転舵角δw(タイヤ角)を検出する転舵角センサ14とをさらに含む。これらのセンサ12〜14は、ECU19に接続されている。これらのセンサ12〜14の他にも、車速Vを検出する車速センサ15と、車体の上下加速度Gzを検出する悪路状態検出センサとしての上下加速度センサ16と、車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサ17と、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ18とが、ECU19に接続されている。各センサ12〜18の検出値は、ECU19に入力される。ECU19は、各センサ12〜18の検出値に基づいて車両用操舵装置1を制御する。
【0017】
具体的には、ECU19は、操舵角センサ12によって検出された操舵角θhおよび車速センサ15によって検出された車速Vに基づいて、目標転舵角を設定し、この目標転舵角と転舵角センサ14によって検出された転舵角δwとの偏差に基づいて、第1駆動回路20Aを介して、転舵アクチュエータ4を制御(転舵制御)する。これにより、ステアリングホイール2の操舵角θhに基づいて転舵輪3が転舵される。また、ECU19は、センサ類12〜18が出力する検出信号に基づいて、第2駆動回路20Bを介して、反力アクチュエータ10を制御(反力制御)する。これにより、反力アクチュエータ10の反力が、ステアリングホイール2を操作する運転者に伝達される。
【0018】
図2は、転舵軸6を駆動する機構の概略断面図である。以下では、図2を参照する。
軸方向X1に関する転舵軸6の中間部は、筒状の転舵ハウジング5内に挿入されている。転舵ハウジング5の内周5aと転舵軸6との間には、転舵アクチュエータ4を構成する第1および第2電動モータ21,22と、これら電動モータ21,22の出力回転を転舵軸6の軸方向移動に変換する運動変換機構としてのボールねじ機構23とが配置されている。
【0019】
第1電動モータ21および第2電動モータ22は、転舵ハウジング5内で転舵軸6の軸方向X1に並んで配置されている。第1電動モータ21は、転舵ハウジング5の内周5aに固定された第1ステータ24を備えており、第2電動モータ22は、転舵ハウジング5の内周5aに固定された第2ステータ25を備えている。第1および第2電動モータ21,22は、転舵軸6の周囲を取り囲む共通のロータ26を有している。
【0020】
ロータ26は、転舵軸6の周囲を取り囲む筒状のロータコア27と、ロータコア27の外周27aに一体回転可能に嵌合された第1および第2永久磁石28,29とを有している。第1永久磁石28および第2永久磁石29は、軸方向X1に並んで配置されている。第1永久磁石28は、第1ステータ24に対向しており、第2永久磁石29は、第2ステータ25に対向している。
【0021】
転舵ハウジング5は、第1端部51および第2端部52を有している。ロータコア27の第1端部271は、転舵ハウジング5の第1端部51に支持された第1軸受30によって回転可能に支持されている。また、ロータコア27の第2端部272は、転舵ハウジング5の第2端部52に支持された第2軸受31によって回転可能に支持されている。第1軸受30および第2軸受31の各外輪は、転舵ハウジング5に対する軸方向移動が規制されている。また、第1軸受30および第2軸受31の各内輪は、ロータコア27に対する軸方向移動が規制されている。これにより、転舵ハウジング5に対するロータコア27の軸方向移動が規制されている。第1および第2軸受30,31は、例えば、アンギュラコンタクト玉軸受であり、互いに逆向きの接触角を有している。
【0022】
また、転舵ハウジング5内には、ロータ26の回転角を検出する回転角センサ42が配置されている。回転角センサ42は、例えばレゾルバである。回転角センサ42は、転舵ハウジング5の内周5aに固定されたセンサステータ43と、ロータ26の外周(ロータコア27の外周27a)に一体回転可能に連結されたセンサロータ44とを有している。
ボールねじ機構23は、転舵軸6の軸方向X1の中間部に形成されたボールねじ32と、ボールねじ32の周囲を取り囲むボールナット33と、列をなす多数のボール34とを備えている。これらのボール34は、ボールナット33の内周に形成された螺旋状のねじ溝35(雌ねじ溝)と、ボールねじ32の外周に形成された螺旋状のねじ溝36(雄ねじ溝)との間に介在している。
【0023】
ボールナット33は、ロータコア27の内周27bに一体回転可能に嵌合されている。ボールナット33は、ロータコア27の内周27bに形成された凹部27cに嵌合されている。これにより、ボールナット33は、ロータコア27に対する軸方向移動が規制されている。前述のように、転舵ハウジング5に対するロータコア27の軸方向移動が第1および第2軸受30,31を介して規制されている。したがって、ボールナット33は、転舵ハウジング5に対する軸方向移動が規制されている。
【0024】
このように、ボールナット33は、ロータ26によって支持されている。ロータ26は、第1軸受30および第2軸受31を介して転舵ハウジング5に支持されている。ボールねじ32は、多数のボール34を介してボールナット33に支持されている。したがって、ボールねじ32は、ボールナット33等を介して転舵ハウジング5に支持されている。ボールねじ32は、転舵軸6に形成されている。したがって、転舵軸6は、ボールナット33等を介して転舵ハウジング5に支持されている。転舵軸6は、転舵ハウジング5に対するその中心軸線周りの回転が規制されている。
【0025】
転舵ハウジング5は、第1ハウジング37と第2ハウジング38とを組み合わせて構成されている。具体的には、第1ハウジング37に設けられた第1環状フランジ39と第2ハウジング38に設けられた第2環状フランジ40とが突き合わされている。これら第1および第2環状フランジ39,40が締結ねじ41を用いて締結されることにより、第1ハウジング37および第2ハウジング38が互いに結合されている。締結ねじ41による締め付けによって、第1および第2ハウジング37,38から、アンギュラコンタクト玉軸受である第1および第2軸受30,31に対して予圧が与えられている。
【0026】
転舵軸6の軸方向X1の中間部の外周面と、ロータ26の内周との間には、径方向隙間S1が設けられている。すなわち、転舵軸6のボールねじ32の外周面の最大外径部とロータ26の内周(ロータコア27の内周27bに相当)との間には、径方向隙間S1が設けられている。したがって、転舵軸6の軸方向X1の移動に伴って、ボールねじ32は、ロータコア27内をスムーズに移動することができる。
【0027】
転舵ハウジング5の第1端部51には、転舵ハウジング5と転舵軸6との間を封止する第1シール49が取り付けられている。転舵ハウジング5の第2端部52には、転舵ハウジング5と転舵軸6との間を封止する第2シール50が取り付けられている。転舵軸6の軸方向X1に関して、第1シール49および第2シール50の間に区画された転舵ハウジング5の内部5bは、密閉されている。第1シール49は、軸方向X1に関する転舵ハウジング5と転舵軸6との相対移動を許容しつつ、転舵ハウジング5の内部5bを密閉している。同様に、第2シール50は、軸方向X1に関する転舵ハウジング5と転舵軸6との相対移動を許容しつつ、転舵ハウジング5の内部5bを密閉している。
【0028】
転舵アクチュエータ4が駆動されると、ロータ26とボールナット33とが一体回転する。この回転が、ボールねじ機構23により直線移動に変換される。すなわち、前述のように、ボールナット33は、軸方向X1への移動が規制されており、転舵軸6は、中心軸線周りの回転が規制されている。その結果、ボールナット33が回転すると、転舵軸6が軸方向X1に直線移動する。これにより、左右の転舵輪3(図1参照)が転舵される。
【0029】
車両用操舵装置1は、転舵軸6の軸方向移動量を規制するストッパ構造を備えている。このストッパ構造は、転舵軸6に設けられた第1段付き軸45および第2段付き軸46を有している。さらに、ストッパ構造は、転舵ハウジング5に設けられた第1ストッパ47および第2ストッパ48を有している。以下では、図2を参照して、ストッパ構造について説明する。
【0030】
転舵軸6は、ボールねじ32の左右両側に配置された第1段付き軸45および第2段付き軸46を有している。第1段付き軸45は、ボールねじ32の第1端部321に隣接しており、第2段付き軸46は、ボールねじ32の第2端部322に隣接している。第1段付き軸45、第2段付き軸46、およびボールねじ32は、同軸であり、単一の材料で一体に形成されている。
【0031】
第1段付き軸45は、相対的に小径の第1外周面61と、相対的に大径の第2外周面62と、環状の段差部63とを有している。第1外周面61と第2外周面62とは、同軸であり、軸方向X1に間隔を空けて配置されている。段差部63は、第1外周面61と第2外周面62とを接続している。第1外周面61と第2外周面62とは、軸方向X1外方からこの順番で転舵軸6の軸方向X1に並んでいる。
【0032】
第1外周面61および第2外周面62は、円筒面であり、軸方向X1に延びている。第1外周面61は、転舵ハウジング5の第1端部51に形成された挿通孔51aを挿通しており、第2外周面62は、ボールねじ32に隣接している。第2外周面62の直径D2は、第1外周面61の直径D1よりも大きく、例えば、ボールねじ32の外径と概ね等しい。
【0033】
第2段付き軸46は、第1段付き軸45と同様に構成されている。すなわち、第2段付き軸46は、第1段付き軸45を左右方向(車両の左右方向X0)に反転させた形状を有している。したがって、第2段付き軸46は、第1外周面61と、第2外周面62と、段差部63とを有している。第2段付き軸46の第1外周面61は、転舵ハウジング5の第2端部52に形成された挿通孔52aを挿通している。
【0034】
第1段付き軸45の段差部63は、転舵ハウジング5の内部5bに配置されており、車両の左右方向X0に関して第1ストッパ47よりも内方に配置されている。同様に、第2段付き軸46の段差部63は、転舵ハウジング5の内部5bに配置されており、車両の左右方向X0に関して第2ストッパ48よりも内方に配置されている。また、第1ストッパ47は、車両の左右方向X0に関して第1シール49よりも内方に配置されている。同様に、第2ストッパ48は、車両の左右方向X0に関して第2シール50よりも内方に配置されている。したがって、各段付き軸45、46と各ストッパ47、48とは、第1および第2シール49,50により封止された転舵ハウジング5の内部5bに配置されている。
【0035】
図3(a)および図3(b)は、転舵軸6の移動が規制されている状態を示す車両用操舵装置1の要部の断面図である。
図3(a)に示すように、転舵ハウジング5の第1端部51は、第1ストッパ47の外周面が嵌合する嵌合面53と、第1ストッパ47を軸方向X1に受ける受け部55とを有している。
【0036】
第1段付き軸45の段差部63は、第1ストッパ47に対して軸方向X1に対向する一対の接触部64と、各接触部64の径方向内側に連なる断面凹湾曲状の一対の第1コーナー部65と、断面凹湾曲状の一対の第2コーナー部66(図3(a)には一方のみ図示)とを有している。第1コーナー部65と第2コーナー部66とは、転舵軸6の周方向C1に関して交互に配置されている。
【0037】
転舵軸6が軸方向X1の一方(例えば、図3(a)における左方)に移動するときには、第1段付き軸45の段差部63の接触部64が、第1ストッパ47の接触面としての端面47bに接触する。これにより、転舵軸6の軸方向X1の移動量が規制される。接触部64および端面47bは、軸方向X1に対して直交する面である。
また、図3(b)に示すように、転舵ハウジング5の第2端部52は、第2ストッパ48の外周面が嵌合する嵌合面54と、第2ストッパ48を軸方向X1に受ける受け部56とを有している。
【0038】
第2段付き軸46の段差部63は、第1段付き軸45の段差部63と同様に構成されている。すなわち、第2段付き軸46の段差部63は、第1段付き軸45の段差部63を左右に反転させた形状を有している。したがって、第2段付き軸46の段差部63は、第2ストッパ48に対して軸方向X1に対向する一対の接触部64と、一対の第1コーナー部65と、一対の第2コーナー部66(図3(b)には一方のみ図示)とを有している。
【0039】
転舵軸6が軸方向X1の他方(例えば、図3(b)における右方)に移動するときには、第2段付き軸46の段差部63の接触部64が、第2ストッパ48の接触面としての端面48bに接触する。これにより、転舵軸6の軸方向X1の移動量が規制される。接触部64および端面48bは、軸方向X1に対して直交する面である。
図4は、転舵軸6の第1段付き軸45の段差部63およびその周辺部分の正面図である。図5は、転舵軸6の第1段付き軸45の段差部63およびその周辺部分の平面図である。図6は、図5のVI−VI線に沿う断面図である。図7は、図4のVII−VII線に沿う断面図である。以下では、第1段付き軸45について説明する。第2段付き軸46については、第1段付き軸4と左右対称な関係にあるからその説明を省略する。
【0040】
図4に示すように、接触部64は、車両の上下方向Z1に関して転舵軸6の中心軸線6cよりも上側の位置および下側の位置に配置されている。同様に、第1コーナー部65は、車両の上下方向Z1に関して転舵軸6の中心軸線6cよりも上側の位置および下側の位置に配置されている。図6に示すように、第1コーナー部65は、第1外周面61と接触部64の内端64aとを接続している。第1コーナー部65は、軸方向X1を含む断面において相対的に小さい曲率半径R1の断面凹湾曲状である。第1コーナー部65は、第1外周面61よりも転舵軸6の中心軸線6c側(図6では、紙面の下側)に凹んでいる。
【0041】
また、図5に示すように、第2コーナー部66は、車両の前後方向Y1に関して転舵軸6の中心軸線6cよりも前側および後側の位置に配置されている。第2コーナー部66は、第1外周面61と第2外周面62とを接続している。図7に示すように、第2コーナー部66は、転舵軸6の軸方向X1を含む断面において相対的に大きい曲率半径R2の断面凹湾曲状である。第2コーナー部66の曲率半径R2は、第1コーナー部65の曲率半径R1よりも大きい。
【0042】
このように、第1コーナー部65は、車両の上下方向Z1に関して転舵軸6の中心軸線6cよりも上側の位置および下側の位置に配置されており、第2コーナー部66は、車両の前後方向Y1に関して転舵軸6の中心軸線6cよりも前側および後側の位置に配置されている。したがって、第2コーナー部66は、転舵軸6の周方向C1に関して第1コーナー部65とは異なる位置に配置されている。よって、段差部63は、転舵軸6の周方向C1に形状が一定でない異形ストッパを構成している。
【0043】
図8は、転舵軸6に加わるラジアル荷重について説明するための模式図である。以下では、図2と図8を参照する。
転舵アクチュエータ4の駆動力(回転力)は、ボールねじ機構23により、軸方向X1に転舵軸6を押し引きする力に変換される。その結果、転舵軸6が、軸方向X1に直線運動する。この転舵軸6の直線運動は、転舵軸6の両端から突出して設けられたタイロッド7に伝達され、ナックルアーム8の回動を引き起こす。このとき、転舵軸6は、タイロッド7からの反力を受ける。例えば図8において転舵軸6が左に移動した場合には、左側のタイロッド7が転舵軸6によって押され、右側のタイロッド7が転舵軸6によって引っ張られる。そのため、右斜め後ろ向きの反力が、左側のタイロッド7から転舵軸6に加わり、右斜め前向きの反力が、右側のタイロッド7から転舵軸6に加わる。
【0044】
本実施形態では、タイロッド角D3(図8参照)が大きな値、例えば、30度以上に設定されている。そのため、図8において矢印F1で示すように、転舵軸6がタイロッド7から受ける反力は、比較的大きな径方向成分(以下、ラジアル方向成分F1)を含んでいる。タイロッド7の延びる方向は、転舵角にかかわらず概ね一定である。したがって、ラジアル荷重の向きは、決まっている。つまり、ラジアル荷重の向きは、前向きまたは後向きである。ラジアル荷重は、曲げ荷重として転舵軸6に加わり、段差部63における前側部分および後側部分に曲げ応力が生じる。第1コーナー部65よりも曲率半径が大きい第2コーナー部66は、これら前側部分および後側部分に設けられている。
【0045】
以上のように本実施形態では、転舵軸6の各段差部63に設けられた接触部64を対応するストッパ47、48に接触させることにより、転舵軸6の移動量を規制することができる。前述のように、転舵軸6が転舵されると、ラジアル荷重が転舵軸6に加わる。このラジアル荷重の向きは決まっており、ラジアル荷重に伴って応力が生じる段差部63の部位も決まっている。このような部位を含む範囲に、曲率半径が相対的に大きい第2コーナー部66が配置されている。したがって、転舵軸6での応力集中を防止でき、転舵軸6の応力を低減できる。ひいては、転舵軸6の耐久性を向上できる。
【0046】
また、本実施形態では、第2コーナー部66が、転舵軸6の中心軸線6cよりも前側と後側とに設けられている。つまり、第2コーナー部66は、転舵軸6の前側部分および後側部分の両方の部分に設けられている。したがって、前向きおよび後向き何れのラジアル荷重が転舵軸6に加わった場合でも、第2コーナー部66に生じる応力を低減できる。
また、本実施形態では、第1コーナー部65が、第1外周面61よりも転舵軸6の中心軸線6c側に凹んでいる。これにより、第1コーナー部が第1外周面より外方に突出している構成と比較して、接触部64の面積を広くできる。したがって、接触部64と第1ストッパ47とが接触したときに、接触部64に生じる応力を低減でき、ひいては転舵軸6の応力を低減できる。さらに、車両用操舵装置1の大型化を抑制できる。
【0047】
また、本実施形態では、段差部63およびストッパ47、48が、第1および第2シール49,50により密閉された転舵ハウジング5の内部5bに配置されている。したがって、異物が、段差部63とストッパ47、48との間に進入することを防止できる。これにより、異物が転舵軸6の接触部64とストッパ47、48との間に噛み込むことを防止できる。そのため、タイロッド角が大きくベローズが装備されない車両用操舵装置、例えば、フォークリフト等の荷役車両に装備される車両用操舵装置において、転舵軸6の耐久性を向上できる。
【0048】
また、本実施形態では、第1段付き軸45の段差部63は、車両の左右方向X0に関して第1ストッパ47よりも内方に配置されている。同様に、第2段付き軸46の段差部63は、車両の左右方向X0に関して第2ストッパ48よりも内方に配置されている。したがって、車両の左右方向X0に関して、段差部がストッパよりも外方に配置されている構成と比較して、転舵軸6の軸端から各段差部63までの距離を増加させることができる。これにより、異物が各段差部63と第1および第2ストッパ47,48との間に噛み込むことをより確実に防止できる。
【0049】
この発明の実施の形態の説明は以上であるが、この発明は、前述の実施形態の内容に限
定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述の実施形態では、第2コーナー部66は、転舵軸6の中心軸線6cを挟んだ前側および後側の両方に設けられていたが、中心軸線6cよりも前側および後側のいずれか一方だけに設けられていてもよい。
【0050】
また、前述の実施形態では、第1コーナー部65は、単一の曲率半径R1の湾曲面により形成されていたが、複数の曲率半径を有する湾曲面により形成されていてもよい。同様に、第2コーナー部66が、複数の曲率半径を有する湾曲面により形成されていてもよい。第1および第2コーナー部65、66の少なくとも一方が複数の曲率半径を有している場合、最小の曲率半径同士を比較してその大小関係を決めればよい。例えば、第1および第2コーナー部のそれぞれが複数の曲率半径を有する場合、第2コーナー部の最小の曲率半径が、第1コーナー部の最小の曲率半径よりも大きければよい。
【0051】
また、本実施形態は、転舵軸6が操舵部材の操作に応じた電気信号により駆動されるステアバイワイヤ式の操舵装置に適用されていたが、転舵軸6が操舵部材と機械的に連結された操舵装置に適用されてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…車両用操舵装置、2…ステアリングホイール(操舵部材)、5…転舵ハウジング、5b…内部、6…転舵軸、6c…中心軸線、47…第1ストッパ、48…第2ストッパ、49…第1シール、50…第2シール、61…第1外周面、62…第2外周面、63…段差部、64…接触部、64a…内端、65…第1コーナー部、66…第2コーナー部、C1…周方向、D2…直径、R2…曲率半径、X0…左右方向、Y1…前後方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材の操作に伴って軸方向に移動する転舵軸と、前記転舵軸に接触して前記軸方向への前記転舵軸の移動量を規制するストッパとを備え、
前記転舵軸は、第1外周面と、前記第1外周面よりも直径が大きく前記第1外周面と同軸の第2外周面と、前記第1外周面と前記第2外周面とを接続する段差部とを含み、
前記段差部は、
前記ストッパに対して前記軸方向に対向する接触部と、
前記第1外周面と前記接触部の内端とを接続する断面凹湾曲状の第1コーナー部と、
前記転舵軸の周方向に関して前記第1コーナー部とは異なる位置であって車両の前後方向に関して前記転舵軸の中心軸線に対して前側および後側の少なくとも一方の位置で前記第1外周面と前記第2外周面とを接続しており、前記第1コーナー部よりも曲率半径が大きい断面凹湾曲状の第2コーナー部と含む、車両用操舵装置。
【請求項2】
前記第2コーナー部は、前記転舵軸の中心軸線よりも前側と後側とに設けられている、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記第1コーナー部は、前記第1外周面よりも前記転舵軸の中心軸線側に凹んでいる、請求項1または2に記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
前記転舵軸の周囲を取り囲む筒状の転舵ハウジングと、
前記軸方向に関する前記転舵ハウジングの各端部と前記転舵軸との間に配置されており、前記転舵ハウジングの内部を密閉するシールとをさらに含み、
前記ストッパおよび前記段差部は、前記シールにより密閉された前記転舵ハウジングの前記内部に配置されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。
【請求項5】
前記段差部は、前記車両の左右方向に関して前記ストッパよりも内方に配置されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−103680(P2013−103680A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250724(P2011−250724)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】