説明

車両用照明灯具

【課題】発光素子を光源とする直射型の車両用照明灯具において、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するようにした場合にも光源光束の利用効率を高める。
【解決手段】発光素子14における矩形状の発光チップ14aを、その下端縁14a1が光軸Axを含む水平面上に位置し、かつ、その自車線側の端点が凸レンズ12の後側焦点Fに位置するように前向きに配置し、上記カットオフラインを形成可能とする。また、凸レンズ12の周囲に、これを帯状に囲むようにして一体形成された付加レンズ22を配置する。付加レンズ22は、発光素子14の発光中心Oを通る、光軸Axと平行な軸線Ax1を中心として略円筒面状に形成された入射面22bで、発光素子14からの光を軸線Ax1から離れる方向へ屈折させ、これを反射面22cで前方へ向けて内面反射させ、これを出射面22aから前方へ向けて拡散光として出射させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、発光素子を光源とする車両用照明灯具に関するものであり、特に、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するための光照射を行うように構成された車両用照明灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用照明灯具の光源として、発光ダイオード等の発光素子が多く用いられるようになってきている。
【0003】
例えば「特許文献1」には、灯具前後方向に延びる光軸上に配置された凸レンズと、この凸レンズの後側焦点近傍に配置された発光素子とを備え、この発光素子からの直射光を凸レンズで偏向制御するように構成された、いわゆる直射型の車両用照明灯具が記載されている。
【0004】
そして、この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、その発光素子の前方近傍に配置されたシェードにより、発光素子からの直射光の一部を遮蔽して、上端部に水平カットオフラインあるいは斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−44683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記「特許文献1」に記載された車両用照明灯具の構成を採用することにより、灯具の小型化を図ることが可能となる。また、この車両用照明灯具において、そのシェードの上端縁形状を適当に設定することにより、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成することも可能となる。
【0007】
しかしながら、この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、そのシェードにより発光素子からの直射光の一部が遮蔽されてしまうため、光源光束を有効に利用することができない、という問題がある。
【0008】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、発光素子を光源とする直射型の車両用照明灯具において、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するようにした場合にも光源光束の利用効率を高めることができる車両用照明灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、発光素子の配置およびこの発光素子からの直射光を偏向制御する凸レンズの前方側表面の形状に工夫を施すとともに、この凸レンズの周囲に、これと一体形成された所定の付加レンズを配置することにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0010】
すなわち、本願発明に係る車両用照明灯具は、
車両前後方向に延びる光軸上に配置された凸レンズと、この凸レンズの後側焦点近傍に配置された発光素子とを備え、上記発光素子からの直射光を上記凸レンズで偏向制御することにより、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具において、
上記発光素子が、矩形状の発光面を有する発光チップを備えてなり、この発光チップの下端縁を、上記光軸を含む平面上に位置させるとともに、該下端縁における一方の端点を上記後側焦点に位置させるようにして、前向きに配置されており、
上記凸レンズの周囲に、該凸レンズを帯状に囲むようにして該凸レンズと一体形成された付加レンズが配置されており、
この付加レンズが、上記発光素子の発光中心近傍を通る、上記光軸と平行な軸線を中心として略円筒面状に形成され、上記発光素子からの光を上記軸線から離れる方向へ屈折させる態様で該付加レンズに入射させる入射面と、この入射面から入射した光を前方へ向けて内面反射させる反射面と、この反射面で内面反射した光を前方へ向けて拡散光として出射させる出射面とを備えてなる、ことを特徴とするものである。
【0011】
上記「発光素子」とは、略点状に面発光する発光チップを有する素子状の光源を意味するものであって、その種類は特に限定されるものではなく、例えば、発光ダイオードやレーザダイオード等が採用可能である。また、この発光素子の「発光チップ」の発光面の形状は、矩形状であれば、その縦横比や大きさについては特に限定されるものではない。
【0012】
上記「付加レンズ」は、凸レンズを帯状に囲むようにして該凸レンズと一体形成されたものであれば、凸レンズを全周にわたって囲むように配置されていてもよいし、凸レンズを所定角度範囲にわたって囲むように配置されていてもよい。
【0013】
上記付加レンズの「入射面」は、発光素子の発光中心近傍を通る、光軸と平行な軸線を中心として略円筒面状に形成されたものであれば、必ずしも正確な円筒面状に形成されていなくてもよく、例えば、金型の抜き勾配等を考慮して、やや円錐面状に形成されたものであってもよい。
【0014】
上記付加レンズの「反射面」は、入射面から入射した発光素子からの光を前方へ向けて内面反射させるように形成されたものであれば、その具体的な反射面形状は特に限定されるものではない。
【0015】
上記付加レンズの「出射面」は、該付加レンズの反射面で内面反射した光を前方へ向けて拡散光として出射させるように形成されたものであれば、その具体的な出射面形状は特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0016】
上記構成に示すように、本願発明に係る車両用照明灯具は、矩形状の発光面を有する発光チップを備えた発光素子からの直射光を、凸レンズで偏向制御することにより、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するように構成されているが、発光素子は、その発光チップの下端縁を、光軸を含む平面上に位置させるとともに、該下端縁における一方の端点を凸レンズの後側焦点に位置させるようにして、前向きに配置されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0017】
すなわち、発光素子は凸レンズの後側焦点近傍において前向きに配置されているので、その発光チップの反転投影像が灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に形成されることとなるが、その際、この発光チップは、その下端縁が光軸を含む平面上に位置しており、かつ、この下端縁における一方の端点が凸レンズの後側焦点に位置しているので、凸レンズが仮に通常の凸レンズであったとすると、発光チップの反転投影像は、上記仮想鉛直スクリーン上において、該仮想鉛直スクリーンと光軸との交点に、その上端縁における一方の端点が位置するとともに、上記交点を通る水平線上またはこの水平線に対して傾斜した傾斜線上に、その上端縁が位置するようにして形成されることとなる。
【0018】
したがって、この凸レンズにおける前方側表面の表面形状を適宜設定して、発光素子からの直射光を水平方向および斜め上向きに傾斜した方向に拡散偏向制御することにより、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成することができる。しかも、従来のようにシェードにより発光素子からの直射光の一部を遮蔽することを必要とせずに、水平および斜めカットオフラインを形成することができ、これにより光源光束を有効に利用することができる。
【0019】
その上で、本願発明に係る車両用照明灯具は、凸レンズの周囲に、これを帯状に囲むようにして該凸レンズと一体形成された付加レンズが配置されており、この付加レンズが、発光素子の発光中心近傍を通る、光軸と平行な軸線を中心として略円筒面状に形成され、この発光素子からの光を上記軸線から離れる方向へ屈折させる態様で該付加レンズに入射させる入射面と、この入射面から入射した光を前方へ向けて内面反射させる反射面と、この反射面で内面反射した光を前方へ向けて拡散光として出射させる出射面とを備えた構成となっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0020】
すなわち、付加レンズは、その入射面が、発光素子の発光中心近傍を通る、光軸と平行な軸線を中心として略円筒面状に形成されているので、発光素子からの出射光のうち、凸レンズの周辺空間へ向かう光の多くを付加レンズに入射させて、その反射面および出射面を介して前方へ向けて出射させることができる。したがって、凸レンズからの出射光により形成される基本配光パターンに対して、この付加レンズからの出射光により付加配光パターンを付加的に形成することができる。そしてこれにより、光源光束をより有効に利用することができる。
【0021】
その際、付加レンズは、凸レンズを帯状に囲むようにしてこれと一体形成されているので、この付加レンズと凸レンズとの位置関係を常に一定に維持することができ、これにより付加レンズによる発光素子からの光の偏向制御を精度良く行うことができる。
【0022】
さらに、付加レンズの入射面は、発光素子の発光中心近傍を通る、光軸と平行な軸線を中心として略円筒面状に形成されているので、仮にその出射面からの出射光が光軸に沿った平行光となるように設定した場合に形成される配光パターン(以下「基準配光パターン」ともいう)の大きさを最小にすることができる。したがって、付加レンズの出射面での拡散制御を適宜行うことにより、付加配光パターンを任意の大きさや形状で形成することが容易に可能となる。
【0023】
このように本願発明によれば、発光素子を光源とする直射型の車両用照明灯具において、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するようにした場合にも光源光束の利用効率を高めることができ、かつ、付加配光パターンの付加形成により、光源光束の利用効率をさらに高めることができる。
【0024】
上記構成において、付加レンズの出射面における出射光制御を、付加レンズの反射面で内面反射した光を、前方へ向けて下向きでかつ水平方向に拡散する拡散光として出射させるように行う構成とすれば、水平および斜めカットオフラインの下方近傍において左右方向に拡散する付加配光パターンを形成することができる。その際、上記基準配光パターンの大きさを最小にすることが可能であることから、付加配光パターンを上下幅の小さい横長配光パターンとして形成することができ、これにより車両前方路面の遠方領域の視認性を高めることができる。
【0025】
上記構成において、付加レンズの反射面を、該付加レンズの入射面から入射した光を、上記軸線を含む平面内において平行光として内面反射させるように形成すれば、付加レンズの出射面における出射光制御を精度良く行うことができる。
【0026】
上記構成において、付加レンズの反射面を、その表面形状を工夫して、該付加レンズの入射面から入射した光を全反射させる全反射面として構成すれば、付加レンズの表面に鏡面処理を施す必要を無くすことができ、これにより車両用照明灯具のコスト低減を図ることができる。
【0027】
上記構成において、付加レンズの出射面を、凸レンズの後方側表面よりも前方側に位置させるようにすれば、その分だけ付加レンズの反射面を前方側へ延ばすことができるので、付加レンズの入射面から入射した光の多くをその反射面で内面反射させることができ、これにより光源光束の利用効率をより高めることができる。
【0028】
このようにした場合において、付加レンズの入射面における前端縁の径と、凸レンズの前方側表面と付加レンズの出射面との境界線の径とを、略同じ値に設定するようにすれば、凸レンズとして機能する領域を削減することなく、付加レンズの反射面で内面反射した発光素子からの光の略全量を、該付加レンズの出射面に到達させることが可能となり、これにより光源光束の利用効率をより一層高めることができる。
【0029】
上記構成において、付加レンズにおける反射面の外周側に、上記軸線を中心とする略円筒面状の外周面が所定角度範囲にわたって形成された構成とし、この外周面に、上記軸線と直交する方向へ突出するフランジ部が形成された構成とすれば、このフランジ部において付加レンズがその支持部材に対して位置決め支持されるようにすることができ、かつ、この位置決め支持が、凸レンズおよび付加レンズの光学的機能に影響を及ぼすことなく行われるようにすることができる。しかもその際、前後方向の位置決めのみならず、これと直交する平面内における上下左右および回転方向の位置決めをも図ることができる。
【0030】
上記構成において、発光素子の具体的な配置および凸レンズの具体的な構成としては、例えば、次のような構成が採用可能である。
【0031】
すなわち、第1の構成例として、発光素子については、その発光チップにおける下端縁が、光軸を含む水平面上に位置するとともに、この下端縁における自車線側の端点が凸レンズの後側焦点に位置するように配置された構成とし、凸レンズについては、その前方側表面における一部の領域が、該領域に到達した発光素子からの光を、水平方向に拡散する光として出射させる水平方向拡散領域として構成されるとともに、その前方側表面における他の一部の領域が、該領域に到達した発光素子からの光を、水平方向に対して自車線側へ向けて所定角度上向きに傾斜した斜め方向に拡散する光として出射させる斜め方向拡散領域として構成されたものとすることが可能である。
【0032】
このようにした場合、上記仮想鉛直スクリーン上には、水平方向拡散領域からの出射光により、水平方向に延びる第1の配光パターンが形成されるとともに、斜め方向拡散領域からの出射光により、水平方向に対して自車線側へ向けて所定角度上向きに傾斜した斜め方向に延びる第2の配光パターンが形成されることとなる。そして、これら第1および第2の配光パターンの合成配光パターンとして、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンが形成されることとなる。
【0033】
その際、第1の配光パターンは、発光チップの反転投影像が水平方向に引き伸ばされた配光パターンとして形成されるが、この発光チップの下端縁は凸レンズの後側焦点から水平方向に延びているので、この第1の配光パターンの上端縁は明暗比が極めて高いものとなり、これにより水平カットオフラインを鮮明なものとすることができる。
【0034】
また、第2の構成例として、発光素子については、その発光チップにおける下端縁が、光軸を含む水平面に対して自車線側へ向けて所定角度上向きに傾斜した傾斜面上に位置するとともに、該下端縁における対向車線側の端点が凸レンズの後側焦点に位置するように配置された構成とし、凸レンズについては、その前方側表面における一部の領域が、該領域に到達した発光素子からの光を、水平方向に拡散する光として出射させる水平方向拡散領域として構成されるとともに、その前方側表面における他の一部の領域が、該領域に到達した発光素子からの光を、水平方向に対して自車線側へ向けて上記所定角度上向きに傾斜した斜め方向に拡散する光として出射させる斜め方向拡散領域として構成されたものとすることが可能である。
【0035】
このようにした場合、上記仮想鉛直スクリーン上には、水平方向拡散領域からの出射光により、水平方向に延びる第1の配光パターンが形成されるとともに、斜め方向拡散領域からの出射光により、水平方向に対して自車線側へ向けて所定角度上向きに傾斜した斜め方向に延びる第2の配光パターンが形成されることとなる。そして、これら第1および第2の配光パターンの合成配光パターンとして、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンが形成されることとなる。
【0036】
その際、第2の配光パターンは、発光チップの反転投影像が水平方向に対して自車線側へ向けて所定角度上向きに傾斜した傾斜方向に引き伸ばされた配光パターンとして形成されるが、この発光チップの下端縁は凸レンズの後側焦点から上記傾斜方向に延びているので、この第2の配光パターンの上端縁は明暗比が極めて高いものとなり、これにより斜めカットオフラインを鮮明なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0038】
まず、本願発明の第1実施形態について説明する。
【0039】
図1は、本実施形態に係る車両用照明灯具10を示す正面図である。また、図2は、図1のII-II 線断面図であり、図3は、図1のIII-III 線断面図である。
【0040】
これらの図に示すように、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置された凸レンズ12と、この凸レンズ12を全周にわたって帯状に囲むようにして該凸レンズ12と一体形成された付加レンズ22と、凸レンズ12の後側焦点F近傍に配置された発光素子14と、この発光素子14を支持する金属プレート16と、この金属プレート16および付加レンズ22を位置決め支持する金属製の支持部材18とからなり、図示しないランプボディ等に対して光軸調整可能に組み込まれた状態で、車両用前照灯の灯具ユニットとして用いられるようになっている。
【0041】
そして、この車両用照明灯具10は、光軸調整が完了した段階では、その光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びた状態で配置されるようになっている。
【0042】
図4は、この車両用照明灯具10における凸レンズ12、付加レンズ22および発光素子14を示す斜視図である。
【0043】
同図にも示すように、凸レンズ12は、前方側表面12aが凸面で後方側表面12bが平面の平凸非球面レンズに近い形状を有する凸レンズであって、光軸Ax上に配置されている。その際、この凸レンズ12の前方側表面12aは、その光軸Axを含む鉛直面に沿った断面形状が、平凸非球面レンズにおける前方側表面の断面形状を有しているが、上記鉛直面に沿った断面形状以外の断面形状は、平凸非球面レンズにおける前方側表面の断面形状を幾分変形させた形状を有している。したがって、この凸レンズ12の後側焦点Fとは、正確には、光軸Axを含む鉛直面内における後側焦点のことである。この凸レンズ12の前方側表面12aの詳細については後述する。
【0044】
発光素子14は、白色発光ダイオードであって、横長矩形状(例えば縦1mm横2mm程度の長方形)の発光面を有する発光チップ14aと、この発光チップ14aを支持する基板14bとからなっている。その際、発光チップ14aは、その発光面を覆うように形成された薄膜により封止されている。
【0045】
この発光素子14は、その発光チップ14aの下端縁14a1を、光軸Axを含む水平面上に位置させるとともに、該下端縁14a1における自車線側(すなわち左側(灯具正面視では右側))の端点を、凸レンズ12の後側焦点Fに位置させるようにして、前向きに配置されている。
【0046】
付加レンズ22は、発光素子14の発光中心(すなわち灯具正面視における発光チップ14aの中心)Oを通る、光軸Axと平行な軸線Ax1を中心として略円筒面状に形成され、発光素子14からの光を軸線Ax1から離れる方向へ屈折させる態様で該付加レンズ22に入射させる入射面22bと、この入射面22bから入射した光を前方へ向けて内面反射させる反射面22cと、この反射面22cで内面反射した光を前方へ向けて拡散光として出射させる出射面22aとを備えた構成となっている。
【0047】
この付加レンズ22の反射面22cは、軸線Ax1に関して回転対称な曲面で構成されており、その入射面22bから入射して該反射面22cに到達した発光素子14からの光を、軸線Ax1を含む平面内において、やや軸線Ax1寄りの方向へ向かう平行光として内面反射させるように形成されている。その際、この反射面22cは、入射面22bからの光を全反射させる全反射面として構成されている。
【0048】
この付加レンズ22の出射面22aは、凸レンズ12の後方側表面12bよりも前方側に位置している。そして、この付加レンズ22の入射面22bにおける前端縁(すなわち付加レンズ22の入射面22bと凸レンズ12の後方側表面12bとの境界線)22b1の径は、凸レンズ12の前方側表面12aと付加レンズ22の出射面22aとの境界線12a1の径と略同じ値に設定されている。
【0049】
この付加レンズ22における反射面22cの外周側には、軸線Ax1を中心とする略円筒面状の外周面22dが所定角度範囲(具体的には、軸線Ax1の上方に位置する一部領域を除く領域)にわたって形成されており、この外周面22dには、軸線Ax1と直交する方向へ突出するフランジ部22eが形成されている。
【0050】
支持部材18は、金属プレート16を位置決め支持した状態で、凸レンズ12および付加レンズ22の略下半部をその後方側から囲むように配置されている。この支持部材18の前端部は、付加レンズ22をその全周にわたって囲むリング部18aとして構成されており、このリング部18aには、光軸Axを中心として所定角度範囲にわたって形成された位置決め凹部18bが形成されている。
【0051】
そして、この位置決め凹部18bに付加レンズ22のフランジ部22eが嵌め込まれることにより、凸レンズ12および付加レンズ22が、支持部材18に対して位置決め支持されるようになっている。その際、凸レンズ12および付加レンズ22は、前後方向に位置決めされるとともに、これと直交する平面内における上下左右および回転方向にも位置決めされるようになっている。
【0052】
図5および6は、発光素子14からの出射光の光路を示す、図2および3と同様の図である。
【0053】
ただし、図2および3においては、発光素子14の発光中心Oから出射した光の光路を示しているが、図5においては、発光素子14における発光チップ14aの上下両端縁の位置から出射した光の光路を示しており、図6においては、発光素子14における発光チップ14aの左右両端縁の位置から出射した光の光路を示している。
【0054】
これらの図にも示すように、発光素子14から凸レンズ12に入射した光は、上下方向に関しては僅かに下向きの平行光として出射し、また、左右方向に関しては右水平方向にある程度拡散する光として出射するとともに左斜め上方向にある程度拡散する光として出射するようになっている。
【0055】
一方、発光素子14から付加レンズ22に入射した光は、上下方向に関しては凸レンズ12からの出射光よりもさらにやや下向きの平行光として出射するとともに、左右方向に関しては凸レンズ12からの出射光よりもさらに大きく左右両側に拡散する光として出射するようになっている。これを実現するため、付加レンズ22の出射面22aは、その上部領域よりも下部領域の方が、軸線Ax1の径方向外方へ向けて前方側に大きく傾斜するとともに、その下部領域よりも左側部領域および右側部領域の方が、軸線Ax1の径方向外方へ向けて前方側にさらに大きく傾斜するように形成された連続的な曲面で構成されている。
【0056】
図7は、凸レンズ12を発光チップ14aと共に示す、図1の要部拡大図である。
【0057】
同図に示すように、凸レンズ12の前方側表面12aは、光軸Axを含む鉛直面に関して対向車線側(すなわち右側(灯具正面視では左側))に位置する全領域が、水平方向拡散領域Z1として構成されるとともに、光軸Axを含む鉛直面に関して自車線側に位置する全領域が、斜め方向拡散領域Z2として構成されている。
【0058】
水平方向拡散領域Z1は、該領域Z1に到達した発光素子14からの光を、水平方向に拡散する光として出射させる領域である。一方、斜め方向拡散領域Z2は、該領域Z2に到達した発光素子14からの光を、水平方向に対して自車線側へ向けて所定角度θ(具体的にはθ=15°)上向きに傾斜した斜め方向に拡散する光として出射させる領域である。
【0059】
その際、水平方向拡散領域Z1における出射光の拡散制御は、該水平方向拡散領域Z1の各位置毎に出射光の向きを設定することにより行われるようになっている。
【0060】
すなわち、この水平方向拡散領域Z1は、図7に示すように、上下方向に等間隔で水平方向に延びる複数の曲線L1cと、水平方向拡散領域Z1と斜め方向拡散領域Z2との境界線Bの上端点から下端点にかけて子午線状に延びる複数の曲線L1mとで形成される複数のセルC1に区分けされており、これら各セルC1毎に光出射方向が設定されている。
【0061】
具体的には、図7において矢印で示すように、境界線Bに近いセルC1においては、出射光の向きをやや左向きとし、凸レンズ12の外周縁に近いセルC1においては、出射光の向きをある程度大きい角度で右向きとし、その中間に位置するセルC1においては、その中間の向きとするようになっている。その際、各段毎に、境界線Bに隣接するセルC1から凸レンズ12の外周縁に隣接するセルC1まで、出射光の向きを水平面内において徐々に変化させるようになっている。
【0062】
一方、斜め方向拡散領域Z2における出射光の拡散制御についても、水平方向拡散領域Z1の場合と同様、該斜め方向拡散領域Z2の各位置毎に出射光の向きを設定することにより行われるようになっている。
【0063】
すなわち、この斜め方向拡散領域Z2は、図7に示すように、複数のセルC2に区分けされており、これら各セルC2毎に光出射方向が設定されている。ただし、この斜め方向拡散領域Z2においては、複数のセルC2に区分けする曲線L2c、L2mが、水平方向拡散領域Z1の曲線L1c、L1mに対して、灯具正面視において角度θ分だけ光軸Ax回りに反時計方向に傾斜するようにして延びている。
【0064】
そして、図7において矢印で示すように、境界線Bに近いセルC2においては、出射光の向きを曲線L2cに沿って僅かに左向きとし、凸レンズ12の外周縁に近いセルC2においては、出射光の向きをやや大きい角度で左向きとし、その中間に位置するセルC2においては、その中間の向きとするようになっている。その際、各段毎に、境界線Bに隣接するセルC2から凸レンズ12の外周縁に隣接するセルC2まで、出射光の向きを、水平面に対して角度θ傾斜した傾斜平面内において徐々に変化させるようになっている。ただし、光軸Axから斜め下方へ延びる曲線L2mと境界線Bとで囲まれた扇形の領域内のセルC2においては、出射光の向きを曲線L2cに沿ってやや右向きとするようになっている。
【0065】
この斜め方向拡散領域Z2は、その上部領域Z2aおよび下部領域Z2b(図7において斜線で示す領域)においては、該領域Z2に到達した発光素子14からの光を、下方側(正確には上記傾斜平面に対して下方側)へ拡散する光として出射させるように構成されている。その際、下方側への出射光偏向量は、境界線Bの上端点および光軸Axから斜め下方へ延びる曲線L2mの下端点の各々に近いセルC2におけるものほど、大きくなるように設定されている。
【0066】
なお、図7において各セルC1、C2の中心位置から延びる矢印は、図5および6において太い矢印で示すように、発光チップ14aの下端縁14a1における自車線側の端点(すなわち凸レンズ12の後側焦点Fの位置)から凸レンズ12に入射した光が、各セルC1、C2から出射する向きを示すものである。
【0067】
このように凸レンズ12の前方側表面12aを形成することにより、この前方側表面12aは水平方向拡散領域Z1と斜め方向拡散領域Z2との境界線Bにおいて不連続な表面形状となり、この境界線Bが稜線として形成されることとなる。
【0068】
図8は、本実施形態に係る車両用照明灯具10から前方へ照射される光により、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される基本配光パターンPAおよび付加配光パターンPBを透視的に示す図である。
【0069】
同図に示すように、これら基本配光パターンPAおよび付加配光パターンPBは、2点鎖線で示すロービーム用配光パターンPL1の一部として形成されるようになっている。その際、基本配光パターンPAは、凸レンズ12からの出射光により形成される配光パターンであり、一方、付加配光パターンPBは、付加レンズ22からの出射光により形成される配光パターンである。そして、これら基本配光パターンPAおよび付加配光パターンPBと、図示しない他の灯具ユニットから前方へ照射される光により形成される配光パターンとの合成配光パターンとして、ロービーム用配光パターンPL1が形成されるようになっている。
【0070】
このロービーム用配光パターンPL1は、左配光のロービーム用配光パターンであって、その上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有している。その際、灯具正面方向の消点であるH−Vを通る鉛直線であるV−V線に対して、対向車線側に水平カットオフラインCL1が形成されるとともに、自車線側に斜めカットオフラインCL2が形成されており、両カットオフラインCL1、CL2の交点であるエルボ点Eは、灯具正面方向の消点であるH−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置している。そして、このロービーム用配光パターンPL1においては、エルボ点Eを左寄りに囲むようにして高光度領域であるホットゾーンHZが形成されるようになっている。
【0071】
図9は、基本配光パターンPAと付加配光パターンPBとを分離して示す、図8と同様の図であって、同図(a)は基本配光パターンPA、同図(b)は付加配光パターンPBを示す図である。
【0072】
同図(a)に示すように、基本配光パターンPAは、第1の配光パターンPA1と第2の配光パターンPA2との合成配光パターンとして形成されている。
【0073】
配光パターンPA1は、凸レンズ12の前方側表面12aにおける水平方向拡散領域Z1からの出射光により形成される配光パターンであって、その上端縁を水平カットオフラインCL1に略一致させるようにして形成されている。一方、配光パターンPA2は、凸レンズ12の前方側表面12aにおける斜め方向拡散領域Z2からの出射光により形成される配光パターンであって、その上端縁を斜めカットオフラインCL2に略一致させるようにして形成されている。そして、ロービーム用配光パターンPLのホットゾーンHZは、主として、これら2つの配光パターンPA1、PA2の重複部分により形成されるようになっている。
【0074】
図10(a)は、配光パターンPA1を詳細に示す図であり、同図(b)は、配光パターンPA2を詳細に示す図である。
【0075】
これらの図に示すように、凸レンズ12が仮に通常の平凸非球面レンズであったとすると、発光チップ14aの反転投影像Ioは、上記仮想鉛直スクリーン上において、エルボ点Eの位置(すなわち仮想鉛直スクリーンと光軸Axとの交点)に、その上端縁Io1の対向車線側の端点が位置するとともに、エルボ点Eを通る水平線上に、その上端縁Io1が位置するようにして形成されることとなる。これは、発光チップ14aの下端縁14a1が、光軸Axを含む水平面上に位置しているとともに、この下端縁14a1における自車線側の端点が、凸レンズ12の後側焦点Fに位置していることによるものである。その際、発光チップ14aの下端縁14a1が、凸レンズ12の後側焦点Fから水平方向に延びているので、反転投影像Ioの上端縁Io1は、明暗比が極めて高いものとなる。
【0076】
実際には、凸レンズ12の前方側表面12aは、その光軸Axを含む鉛直面に関して対向車線側に位置する領域が水平方向拡散領域Z1として構成されるとともに自車線側に位置する領域が斜め方向拡散領域Z2として構成されているので、上記仮想鉛直スクリーン上には、水平方向拡散領域Z1からの出射光により、反転投影像Ioを水平方向に引き伸ばした配光パターンとして、水平方向に延びる配光パターンPA1が形成されるとともに、斜め方向拡散領域からの出射光により、反転投影像Ioを水平方向に対して自車線側へ向けて所定角度θ上向きに傾斜した斜め方向に引き伸ばした配光パターンとして、上記斜め方向に延びる配光パターンPA2が形成されることとなる。
【0077】
図10(a)においては、配光パターンPA1の拡がりの様子を、複数の反転投影像Iz1の重ね合わせで示している。
【0078】
この配光パターンPA1は、発光チップ14aの反転投影像Ioを、水平方向に関して、左方向に小さく引き伸ばすとともに右方向に大きく引き伸ばした配光パターンとして形成されている。その際、反転投影像Ioの上端縁Io1はエルボ点Eを通る水平線上に位置しているので、この配光パターンPA1の上端縁は明暗比が極めて高いものとなり、これにより水平カットオフラインCL1は鮮明なものとなる。
【0079】
一方、図10(b)においては、配光パターンPA2の拡がりの様子を、複数の反転投影像Iz2、Iz2a、Iz2bの重ね合わせで示している。
【0080】
この配光パターンPA2は、発光チップ14aの反転投影像Ioを、上記斜め方向に関して、右方向に小さく引き伸ばすとともに左方向にやや大きく引き伸ばした配光パターンとして形成されている。その際、反転投影像Ioの上端縁Io1が延びる方向と反転投影像Ioが引き伸ばされる方向とは一致していないので、この配光パターンPA2の上端縁は、配光パターンPA1の上端縁ほどには明暗比が高くはならない。しかしながら、この配光パターンPA2は、その拡散角が比較的小さいので、斜めカットオフラインCL2はある程度鮮明なものとなる。
【0081】
この配光パターンPA2を構成している複数の反転投影像Iz2のうち、斜め方向拡散領域Z2における上部領域Z2aおよび下部領域Z2bからの出射光により形成される反転投影像Iz2a、Iz2bは、斜めカットオフラインCL2に対してやや下方に位置しているが、これは、上部領域Z2aおよび下部領域Z2bからの出射光が、下方側へ拡散する光となっていることによるものである。
【0082】
一方、図9(b)に示すように、付加配光パターンPBは、水平カットオフラインCL1の下方近傍において、V−V線を中心にして左右両側に細長く延びる横長の配光パターンとして形成され、その上端縁が水平カットオフラインCL1と略同じ高さに位置するようになっている。
【0083】
この付加配光パターンPBは、同図(b)において2点鎖線で示す基準配光パターンPBoを下方へ変位させた上で左右両側へ水平に拡げたような形状を有している。ここで基準配光パターンPBoは、付加レンズ22の出射面22aが、仮に、付加レンズ22の反射面22cで内面反射して該出射面22aに到達した光を、軸線Ax1と平行な光として出射させるように形成された曲面(すなわち軸線Ax1に関して回転対称な曲面)で構成されているとした場合に形成される配光パターンであって、エルボ点Eを中心とするスポット状の配光パターンとして形成される。
【0084】
実際には、付加レンズ22の出射面22aは、その上部領域よりも下部領域の方が、軸線Ax1の径方向外方へ向けて前方側に大きく傾斜するとともに、その下部領域よりも左側部領域および右側部領域の方が、軸線Ax1の径方向外方へ向けて前方側にさらに大きく傾斜するように形成された連続的な曲面で構成されているので、付加配光パターンPBは、基準配光パターンPBoを下方へ変位させた上で左右両側へ水平に拡げたような形状を有するものとなり、水平カットオフラインCL1の下方近傍において比較的狭い上下幅で比較的明るい横長の配光パターンとして形成されることとなる。
【0085】
そしてこれにより、付加配光パターンPBは、図8に示すように、基本配光パターンPAと滑らかにつながるようにして該基本配光パターンPAと部分的に重複し、該基本配光パターンPAの下方および左右両側の明るさを補強する配光パターンとして形成されることとなる。
【0086】
なお、図9(b)において破線で示す配光パターンPBo´は、付加レンズ22の入射面22b、反射面22cおよび出射面22aが、基準配光パターンPBoを形成する際の前提となる形状として説明したような、軸線Ax1に関して回転対称な曲面ではなく、光軸Axに関して回転対称な曲面であったとした場合に形成される配光パターンである。この配光パターンPBo´は、基準配光パターンPBoと同様、エルボ点Eを中心とするスポット状の配光パターンとして形成されるが、そのスポット径は、基準配光パターンPBoのスポット径よりもかなり大きいものとなってしまい、かつ、その中心光度は、基準配光パターンPBoの中心光度よりもかなり低いものとなってしまう。このため、この配光パターンPBo´を基準配光パターンとして付加配光パターンを形成した場合には、付加配光パターンPBのように、水平カットオフラインCL1の下方近傍において比較的狭い上下幅で比較的明るい横長の配光パターンとして形成することはできない。
【0087】
以上詳述したように、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、矩形状の発光面を有する発光チップ14aを備えた発光素子14からの直射光を、凸レンズ12で偏向制御することにより、ロービーム用配光パターンPL1の一部として、上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有する基本配光パターンPAを形成するように構成されているが、発光素子14は、その発光チップ14aの下端縁14a1を、光軸Axを含む水平面上に位置させるとともに、該下端縁14a1における自車線側の端点を、凸レンズ12の後側焦点Fに位置させるようにして、前向きに配置されており、また、凸レンズ12の前方側表面12aは、その一部の領域が水平方向拡散領域Z1として構成されるとともに、他の一部の領域が斜め方向拡散領域Z2として構成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0088】
すなわち、発光素子14は凸レンズ12の後側焦点F近傍において前向きに配置されているので、その発光チップ14aの反転投影像Ioが灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に形成されることとなるが、その際、この発光チップ14aは、その下端縁14a1が光軸Axを含む水平面上に位置しており、かつ、この下端縁14a1における自車線側の端点が凸レンズ12の後側焦点Fに位置しているので、凸レンズ12が仮に通常の平凸非球面レンズであったとすると、発光チップ14aの反転投影像Ioは、上記仮想鉛直スクリーン上において、該仮想鉛直スクリーンと光軸Axとの交点に、その上端縁Io1の対向車線側の端点が位置するとともに、上記交点を通る水平線上に、その上端縁Io1が位置するようにして形成されることとなる。
【0089】
実際には、凸レンズ12の前方側表面12aは、その一部の領域が、該領域に到達した発光素子14からの光を、水平方向に拡散する光として出射させる水平方向拡散領域Z1として構成されるとともに、他の一部の領域が、該領域に到達した発光素子14からの光を、水平方向に対して自車線側へ向けて所定角度θ上向きに傾斜した斜め方向に拡散する光として出射させる斜め方向拡散領域Z2として構成されているので、上記仮想鉛直スクリーン上には、水平方向拡散領域Z1からの出射光により、水平方向に延びる配光パターンPA1が形成されるとともに、斜め方向拡散領域Z2からの出射光により、水平方向に対して自車線側へ向けて所定角度θ上向きに傾斜した斜め方向に延びる配光パターンPA2が形成されることとなる。
【0090】
そして、これら配光パターンPA1、PA2の合成配光パターンとして、上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有する基本配光パターンPAが形成されることとなる。
【0091】
その際、配光パターンPA1は、発光チップ14aの反転投影像Ioが水平方向に引き伸ばされた配光パターンとして形成されるが、この発光チップ14aの下端縁14aは凸レンズ12の後側焦点Fから水平方向に延びているので、この配光パターンPA1の上端縁は明暗比が極めて高いものとなり、これにより水平カットオフラインCL1を鮮明なものとすることができる。
【0092】
しかも本実施形態においては、従来のようにシェードにより発光素子14からの直射光の一部を遮蔽することを必要とせずに、水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を形成することができ、これにより光源光束を有効に利用することができる。
【0093】
特に本実施形態においては、凸レンズ12の前方側表面12aにおける、光軸Axを含む鉛直面に関して、対向車線側に位置する領域が水平方向拡散領域Z1として構成されるとともに、自車線側に位置する領域が斜め方向拡散領域Z2として構成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0094】
すなわち、水平方向拡散領域Z1は、自車線側へ向かう出射光よりも対向車線側へ向かう出射光が多くなるように構成されていることが、ある程度の長さを有する水平カットオフラインCL1を形成するという観点から好ましい。その際、仮に、光軸Axを含む鉛直面に関して自車線側に位置する領域が、水平方向拡散領域Z1として構成されていたとすると、凸レンズ12の前方側表面12aでの出射光の屈折角が大きくなるので、この前方側表面12aにおいて内面反射する光の割合が多くなってしまい、その分だけ光源光束の損失となってしまうこととなる。その点、光軸Axを含む鉛直面に関して対向車線側に位置する領域が、水平方向拡散領域Z1として構成されたものとすれば、凸レンズ12の前方側表面12aでの出射光の屈折角が小さくなるので、この前方側表面12aで内面反射する光の割合が少なくなり、これにより光源光束の利用効率を高めることができる。
【0095】
同様に、斜め方向拡散領域Z2は、対向車線側へ向かう出射光よりも自車線側へ向かう出射光が多くなるように構成されていることが、ある程度の長さを有する斜めカットオフラインCL2を形成するという観点から好ましい。その際、仮に、光軸Axを含む鉛直面に関して対向車線側に位置する領域が、斜め方向拡散領域として構成されていたとすると、凸レンズ12の前方側表面12aでの出射光の屈折角が大きくなるので、この前方側表面12aにおいて内面反射する光の割合が多くなってしまい、その分だけ光源光束の損失となってしまうこととなる。その点、光軸Axを含む鉛直面に関して自車線側に位置する領域が、斜め方向拡散領域Z2として構成されたものとすれば、凸レンズ12の前方側表面12aでの出射光の屈折角が小さくなるので、この前方側表面12aで内面反射する光の割合が少なくなり、これにより光源光束の利用効率を高めることができる。
【0096】
しかも本実施形態においては、斜め方向拡散領域Z2の一部が、該領域Z2に到達した発光素子からの光を、下方側へ拡散する光として出射させる下向き拡散領域Z2a、Z2bとして構成されているので、ロービーム用配光パターンPL1におけるエルボ点Eからやや自車線側寄りに位置する部分の明るさを増大させることができ、これにより、そのホットゾーンHZを所望する大きさおよび形状で形成することが容易に可能となる。
【0097】
その上で、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、凸レンズ12の周囲に、該凸レンズ12を帯状に囲むようにして該凸レンズ12と一体形成された付加レンズ22が配置されており、この付加レンズ22が、発光素子14の発光中心Oを通る、光軸Axと平行な軸線Ax1を中心として略円筒面状に形成され、この発光素子14からの光を軸線Ax1から離れる方向へ屈折させる態様で該付加レンズ22に入射させる入射面22bと、この入射面22bから入射した光を前方へ向けて内面反射させる反射面22cと、この反射面22cで内面反射した光を前方へ向けて拡散光として出射させる出射面22aとを備えた構成となっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0098】
すなわち、付加レンズ22は、その入射面22bが、発光素子14の発光中心Oを通る、光軸Axと平行な軸線Ax1を中心として略円筒面状に形成されているので、発光素子14からの出射光のうち、凸レンズ12の周辺空間へ向かう光の多くを付加レンズ22に入射させて、その反射面22cおよび出射面22aを介して前方へ向けて出射させることができる。したがって、凸レンズ12からの出射光により形成される基本配光パターンPAに対して、この付加レンズ22からの出射光により付加配光パターンPBを付加的に形成することができる。そしてこれにより、光源光束をより有効に利用することができる。
【0099】
その際、付加レンズ22は、凸レンズ12を帯状に囲むようにしてこれと一体形成されているので、この付加レンズ22と凸レンズ12との位置関係を常に一定に維持することができ、これにより付加レンズ22による発光素子14からの光の偏向制御を精度良く行うことができる。
【0100】
さらに、付加レンズ22の入射面22bは、発光素子14の発光中心Оを通る、光軸Axと平行な軸線Ax1を中心として略円筒面状に形成されているので、仮にその出射面22aからの出射光が軸線Ax1に沿った平行光となるように設定した場合に形成される基準配光パターンPBoの大きさを最小にすることができる。したがって、付加レンズ22の出射面22aでの拡散制御を適宜行うことにより、付加配光パターンPBを任意の大きさや形状で形成することが容易に可能となる。
【0101】
このように本実施形態によれば、発光素子14を光源とする直射型の車両用照明灯具10において、上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有する基本配光パターンPAを形成するようにした場合にも、光源光束の利用効率を高めることができ、かつ、付加配光パターンPBの付加形成により、光源光束の利用効率をさらに高めることができる。
【0102】
また、本実施形態においては、付加レンズ22の出射面22aにおける出射光制御が、付加レンズ22の反射面22bで内面反射した光を、前方へ向けて下向きでかつ水平方向に拡散する拡散光として出射させるように行う構成となっているので、水平および斜めカットオフラインCL1、CL2の下方近傍において左右方向に拡散する付加配光パターンPBを形成することができる。その際、この付加配光パターンPBは、最小のスポット状の基準配光パターンPBoを下方へ変位させた上で左右両側へ水平に拡げることにより形成されるので、付加配光パターンPBを上下幅の小さい横長配光パターンとして形成することができ、これにより車両前方路面の遠方領域の視認性を高めることができる。
【0103】
しかも、付加レンズ22の反射面22bは、付加レンズ22の入射面22bから入射した光を、軸線Ax1を含む平面内において平行光として内面反射させるように形成されているので、付加レンズ22の出射面22aにおける出射光制御を精度良く行うことができる。
【0104】
また、付加レンズ22の反射面22bは、付加レンズ22の入射面22bから入射した光を全反射させる全反射面として構成されているので、付加レンズ22の表面に鏡面処理を施す必要を無くすことができ、これにより車両用照明灯具10のコスト低減を図ることができる。
【0105】
さらに、付加レンズ22の出射面22aは、凸レンズ12の後方側表面12bよりも前方側に位置しているので、その分だけ付加レンズ22の反射面22bを前方側へ延ばすことができる。このため、付加レンズ22の入射面22bから入射した光の多くをその反射面22bで内面反射させることができ、これにより光源光束の利用効率をより高めることができる。
【0106】
そして、この付加レンズ22の入射面22bにおける前端縁22b1の径と、凸レンズ12の前方側表面12aと付加レンズ22の出射面22aとの境界線12a1の径とが、略同じ値に設定されているので、凸レンズ12として機能する領域を削減することなく、付加レンズ22の反射面22bで内面反射した発光素子14からの光の略全量を、該付加レンズ22の出射面22aに到達させることが可能となり、これにより光源光束の利用効率をより一層高めることができる。
【0107】
また、本実施形態においては、付加レンズ22における反射面22bの外周側に、軸線Ax1を中心とする略円筒面状の外周面22dが所定角度範囲にわたって形成されており、この外周面22dに、軸線Ax1と直交する方向へ突出するフランジ部22eが形成されているので、このフランジ部22eにおいて付加レンズ22がその支持部材18に対して位置決め支持されるようにすることができ、かつ、この位置決め支持が、凸レンズ12および付加レンズ22の光学的機能に影響を及ぼすことなく行われるようにすることができる。しかもその際、前後方向の位置決めのみならず、これと直交する平面内における上下左右および回転方向の位置決めをも図ることができる。
【0108】
次に、本願発明の第2実施形態について説明する。
【0109】
図11は、本実施形態に係る車両用照明灯具110を示す正面図である。また、図12は、図11のXII-XII
線断面図である。
【0110】
同図に示すように、本実施形態に係る車両用照明灯具110は、その基本的な構成は第1実施形態に係る車両用照明灯具10と同様であるが、その発光素子14および凸レンズ112の形状が、第1実施形態の場合と異なっており、また、これに伴い、付加レンズ22の配置についても、第1実施形態の場合と異なっている。
【0111】
すなわち、本実施形態に係る車両用照明灯具110においても、その発光素子14の構成自体は第1実施形態の場合と同様であるが、本実施形態の発光素子14は、その発光チップ14aの下端縁14a1を、光軸Axを含む水平面に対して自車線側へ向けて所定角度θ(具体的にはθ=15°)上向きに傾斜した傾斜面上に位置させるとともに、該下端縁14a1における対向車線側の端点を、凸レンズ12の後側焦点Fに位置させるようにして、前向きに配置されている。
【0112】
そして、本実施形態に係る車両用照明灯具110も、第1実施形態に係る車両用照明灯具10と同様、図示しないランプボディ等に対して光軸調整可能に組み込まれた状態で、車両用前照灯の灯具ユニットとして用いられるようになっており、また、光軸調整が完了した段階では、その光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びた状態で配置されるようになっている。
【0113】
本実施形態の凸レンズ112は、第1実施形態の凸レンズ12と同様、前方側表面112aが凸面で後方側表面112bが平面の平凸非球面レンズに近い形状を有する凸レンズであって、光軸Ax上に配置されている。その際、この凸レンズ112の前方側表面112aは、その光軸Axを含む鉛直面に沿った断面形状が、平凸非球面レンズにおける前方側表面112aの断面形状を有しているが、上記鉛直面に沿った断面形状以外の断面形状は、平凸非球面レンズにおける前方側表面112aの断面形状を幾分変形させた形状を有している。したがって、この凸レンズ112の後側焦点Fとは、正確には、光軸Axを含む鉛直面内における後側焦点のことである。この凸レンズ112の前方側表面112aの詳細については後述する。
【0114】
本実施形態においても、付加レンズ22は、発光素子14の発光中心Oを通る、光軸Axと平行な軸線Ax1を中心として略円筒面状に形成され、発光素子14からの光を軸線Ax1から離れる方向へ屈折させる態様で該付加レンズ22に入射させる入射面22bと、この入射面22bから入射した光を前方へ向けて内面反射させる反射面22cと、この反射面22cで内面反射した光を前方へ向けて拡散光として出射させる出射面22aとを備えた構成となっている。
【0115】
この付加レンズ22を構成する入射面22b、反射面22cおよび出射面22aの形状については、第1実施形態の場合と同様であるが、その入射面22bにおける前端縁22b1と、凸レンズ112の前方側表面112aと付加レンズ22の出射面22aとの境界線112a1との位置関係が、灯具正面視において、第1実施形態の場合に対してやや右方向に変位している。これは、発光素子14の発光中心Oが、光軸Axに関して第1実施形態の場合とは左右反対側に変位しており、この変位分だけ軸線Ax1の位置が平行移動していることによるものである。
【0116】
図13は、本実施形態の凸レンズ112を発光チップ14aと共に示す、図11の要部拡大図である。
【0117】
同図に示すように、凸レンズ112の前方側表面112aは、第1実施形態の凸レンズ12と同様、光軸Axを含む鉛直面に関して対向車線側に位置する全領域が、水平方向拡散領域Z1として構成されるとともに、光軸Axを含む鉛直面に関して自車線側に位置する全領域が、斜め方向拡散領域Z2として構成されている。
【0118】
水平方向拡散領域Z1は、第1実施形態の凸レンズ12の場合と同様、複数のセルC1に区分けされており、これら各セルC1毎に光出射方向が設定されている。
【0119】
具体的には、図13において矢印で示すように、境界線Bに近いセルC1においては、出射光の向きをやや大きい角度で左向きとし、凸レンズ112の外周縁に近いセルC1においては、出射光の向きを比較的大きい角度で右向きとし、その中間に位置するセルC1においては、その中間の向きとするようになっている。その際、各段毎に、境界線Bに隣接するセルC1から凸レンズ112の外周縁に隣接するセルC1まで、出射光の向きを水平面内において徐々に変化させるようになっている。
【0120】
一方、斜め方向拡散領域Z2は、第1実施形態の凸レンズ12の場合と同様、複数のセルC2に区分けされており、これら各セルC2毎に光出射方向が設定されている。
【0121】
具体的には、図13において矢印で示すように、境界線Bに近いセルC2においては、出射光の向きを曲線L2cに沿って小さい角度で左向きとし、凸レンズ112の外周縁に近いセルC2においては、出射光の向きをある程度大きい角度で左向きとし、その中間に位置するセルC2においては、その中間の向きとするようになっている。本実施形態においては、光軸Axから斜め下方へ延びる曲線L2mと境界線Bとで囲まれた扇形の領域内のセルC2においても、出射光の向きを曲線L2cに沿ってやや左向きとするようになっている。その際、各段毎に、境界線Bに隣接するセルC2から凸レンズ112の外周縁に隣接するセルC2まで、出射光の向きを、水平面に対して角度θ傾斜した傾斜平面内において徐々に変化させるようになっている。
【0122】
この斜め方向拡散領域Z2は、その上部領域Z2aおよび下部領域Z2b(図13において斜線で示す領域)においては、該領域Z2に到達した発光素子14からの光を、下方側(正確には上記傾斜平面に対して下方側)へ拡散する光として出射させるように構成されている。その際、下方側への出射光偏向量は、境界線Bの上端点および光軸Axから斜め下方へ延びる曲線L2mの下端点の各々に近いセルC2におけるものほど、大きくなるように設定されている。
【0123】
なお、図13において、各セルC1、C2の中心位置から延びる矢印は、発光チップ14aの下端縁14a1における対向車線側の端点(すなわち凸レンズ112の後側焦点Fの位置)から凸レンズ112に入射した光が、各セルC1、C2から出射する向きを示すものである。
【0124】
このように凸レンズ112の前方側表面112aを形成することにより、この前方側表面112aは水平方向拡散領域Z1と斜め方向拡散領域Z2との境界線Bにおいて不連続な表面形状となり、この境界線Bが稜線として形成されることとなる。
【0125】
図14は、本実施形態に係る車両用照明灯具110から前方へ照射される光により、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される基本配光パターンPCおよび付加配光パターンPBを透視的に示す図である。
【0126】
同図において、基本配光パターンPCは、凸レンズ112からの出射光により形成される配光パターンであり、一方、付加配光パターンPBは、付加レンズ22からの出射光により形成される配光パターンである。そして、これら基本配光パターンPCおよび付加配光パターンPBと、図示しない他の灯具ユニットから前方へ照射される光により形成される配光パターンとの合成配光パターンとして、ロービーム用配光パターンPL2が形成されるようになっている。
【0127】
このロービーム用配光パターンPL2は、左配光のロービーム用配光パターンであって、その上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有している。その際、灯具正面方向の消点であるH−Vを通る鉛直線であるV−V線に対して、対向車線側に水平カットオフラインCL1が形成されるとともに、自車線側に斜めカットオフラインCL2が形成されており、両カットオフラインCL1、CL2の交点であるエルボ点Eは、灯具正面方向の消点であるH−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置している。そして、このロービーム用配光パターンPL2においては、エルボ点Eを左寄りに囲むようにして高光度領域であるホットゾーンHZが形成されるようになっている。
【0128】
基本配光パターンPCは、第1の配光パターンPC1と第2の配光パターンPC2との合成配光パターンとして形成されている。
【0129】
配光パターンPC1は、水平方向拡散領域Z1からの出射光により形成される配光パターンであって、その上端縁を水平カットオフラインCL1に略一致させるようにして形成されている。一方、配光パターンPC2は、斜め方向拡散領域Z2からの出射光により形成される配光パターンであって、その上端縁を斜めカットオフラインCL2に略一致させるようにして形成されている。そして、ロービーム用配光パターンPL2のホットゾーンHZは、主として、これら2つの配光パターンPC1、PC2の重複部分により形成されるようになっている。
【0130】
一方、付加配光パターンPBについては、第1実施形態の場合と同様である。
【0131】
図15(a)は、基本配光パターンPCの配光パターンPC1を詳細に示す図であり、同図(b)は、その配光パターンPC2を詳細に示す図である。
【0132】
これらの図に示すように、凸レンズ112が仮に通常の平凸非球面レンズであったとすると、発光チップ14aの反転投影像Ioは、上記仮想鉛直スクリーン上において、エルボ点Eの位置(すなわち、仮想鉛直スクリーンと光軸Axとの交点)に、その上端縁Io1の自車線側の端点が位置するとともに、エルボ点Eを通り水平線に対して自車線側へ向けて所定角度θ上向きに傾斜した傾斜線上に、その上端縁Io1が位置するようにして形成されることとなる。これは、発光チップ14aの下端縁14a1が、光軸Axを含む水平面に対して自車線側へ向けて所定角度θ(具体的にはθ=15°)上向きに傾斜した傾斜面上に位置しているとともに、この下端縁14a1における対向車線側の端点が、凸レンズ112の後側焦点Fに位置していることによるものである。
【0133】
実際には、凸レンズ112の前方側表面112aは、その光軸Axを含む鉛直面に関して対向車線側に位置する領域が水平方向拡散領域Z1として構成されるとともに自車線側に位置する領域が斜め方向拡散領域Z2として構成されているので、上記仮想鉛直スクリーン上には、水平方向拡散領域Z1からの出射光により、水平方向に延びる配光パターンPC1が形成されるとともに、斜め方向拡散領域Z2からの出射光により、反転投影像Ioを水平方向に対して自車線側へ向けて所定角度θ上向きに傾斜した斜め方向に延びる配光パターンPC2が形成されることとなる。
【0134】
図15(a)においては、配光パターンPC1の拡がりの様子を、複数の反転投影像Iz1の重ね合わせで示している。
【0135】
この配光パターンPC1は、発光チップ14aの反転投影像Ioを、水平方向に関して、左右両側へ引き伸ばした配光パターンとして形成されている。その際、反転投影像Ioの上端縁Io1が延びる方向と反転投影像Ioが引き伸ばされる方向とは一致していないので、この配光パターンPC1の上端縁は、後述する配光パターンPC2の上端縁ほどには明暗比が高くはならないが、水平カットオフラインCL1として認識し得る程度の鮮明度は十分確保可能である。
【0136】
一方、図15(b)においては、配光パターンPC2の拡がりの様子を、複数の反転投影像Iz2、Iz2a、Iz2bの重ね合わせで示している。
【0137】
この配光パターンPC2は、発光チップ14aの反転投影像Ioを、上記斜め方向に関して、左方向に偏向させつつ引き伸ばした配光パターンとして形成される。その際、反転投影像Ioの上端縁Io1は、エルボ点Eを通り水平線に対して自車線側へ向けて所定角度θ上向きに傾斜した傾斜線上に位置しているので、配光パターンPC2の上端縁は明暗比が極めて高いものとなり、これにより斜めカットオフラインCL2は鮮明なものとなる。
【0138】
この配光パターンPC2を構成している複数の反転投影像Iz2のうち、斜め方向拡散領域Z2における上部領域Z2aおよび下部領域Z2bからの出射光により形成される反転投影像Iz2a、Iz2bは、斜めカットオフラインCL2に対してやや下方に位置しているが、これは、上部領域Z2aおよび下部領域Z2bからの出射光が、下方側へ拡散する光となっていることによるものである。
【0139】
以上詳述したように、本実施形態に係る車両用照明灯具110においても、配光パターンPC1、PC2の合成配光パターンとして、上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有する基本配光パターンPCが形成されることとなる。
【0140】
その際、配光パターンPC2は、発光チップ14aの反転投影像Ioが水平方向に対して自車線側へ向けて所定角度θ上向きに傾斜した斜め方向に引き伸ばされた配光パターンとして形成されるが、この発光チップ14aの下端縁14a1は凸レンズ112の後側焦点Fから水平方向に対して自車線側へ向けて所定角度θ上向きに傾斜した斜め方向に延びているので、この配光パターンPC2の上端縁は明暗比が極めて高いものとなり、これにより斜めカットオフラインCL2を鮮明なものとすることができる。
【0141】
しかも本実施形態においても、従来のようにシェードにより発光素子14からの直射光の一部を遮蔽することを必要とせずに、水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を形成することができ、これにより光源光束を有効に利用することができる。
【0142】
また本実施形態においても、凸レンズ112の前方側表面112aにおける、光軸Axを含む鉛直面に関して、対向車線側に位置する領域が水平方向拡散領域Z1として構成されるとともに、自車線側に位置する領域が斜め方向拡散領域Z2として構成されているので、凸レンズ112の前方側表面112aで内面反射する光の割合が少なくなり、これにより光源光束の利用効率を高めることができる。
【0143】
しかも本実施形態においても、斜め方向拡散領域Z2の一部が、該領域Z2に到達した発光素子14からの光を、下方側へ拡散する光として出射させる下向き拡散領域Z2a、Z2bとして構成されているので、ロービーム用配光パターンPL2におけるエルボ点からやや自車線側寄りに位置する部分の明るさを増大させることができ、これにより、そのホットゾーンHZを所望する大きさおよび形状で形成することが容易に可能となる。
【0144】
その上で、本実施形態に係る車両用照明灯具110においても、第1実施形態に係る車両用照明灯具10と同様、凸レンズ112の周囲に、該凸レンズ112を帯状に囲むようにして該凸レンズ112と一体形成された付加レンズ22が配置されているので、水平および斜めカットオフラインCL1、CL2の下方近傍において左右方向に拡散する付加配光パターンPBを形成することができる。その際、この付加配光パターンPBを上下幅の小さい横長配光パターンとして形成することができるので、車両前方路面の遠方領域の視認性を高めることができる。
【0145】
このように本実施形態によれば、発光素子14を光源とする直射型の車両用照明灯具110において、上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有する基本配光パターンPCを形成するようにした場合にも、光源光束の利用効率を高めることができ、かつ、付加配光パターンPBの付加形成により、光源光束の利用効率をさらに高めることができる。
【0146】
ところで、上記各実施形態においては、発光素子14の発光チップ14aが、横長矩形状の発光面を有しているものとして説明したが、正方形あるいは縦長矩形状の発光面を有するものを用いることも、もちろん可能である。
【0147】
また、上記各実施形態においては、光軸Axを含む鉛直面に関して対向車線側に位置する全領域が、水平方向拡散領域Z1として構成されるとともに、光軸Axを含む鉛直面に関して自車線側に位置する全領域が、斜め方向拡散領域Z2として構成されているものとして説明したが、これら水平方向拡散領域Z1あるいは斜め方向拡散領域Z2における一部の領域を、これとは異なる構成(例えば、通常の平凸非球面レンズにおける前方側表面の形状のままに維持して、反転投影像Ioをそのまま上記仮想鉛直スクリーン上に投影させる構成)とすることも可能である。
【0148】
さらに、上記各実施形態においては、凸レンズ12、112の後方側表面12b、112bが平面で構成されているものとして説明したが、凸面あるいは凹面で構成されたものとすることも可能である。
【0149】
また、上記各実施形態においては、その車両用照明灯具10、110からの光照射により形成される基本配光パターンPA、PCおよび付加配光パターンPBが、左配光のロービーム用配光パターンPL1、PL2の一部として形成される場合について説明したが、右配光のロービーム用配光パターンの一部として形成される場合においても、各車両用照明灯具10、110の構成をそれぞれ左右反転させた構成とすれば、上記各実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0150】
さらに、上記第1実施形態に係る車両用照明灯具10と、上記第2実施形態に係る車両用照明灯具110とを、車両用前照灯の一部として一緒に組み込むようにすることも可能である。このようにした場合には、車両用照明灯具10からの光照射により形成される基本配光パターンPAにより鮮明な水平カットオフラインCL1を得ることができるとともに、車両用照明灯具110からの光照射により形成される基本配光パターンPCにより鮮明な斜めカットオフラインCL2を得ることができる。
【0151】
また、上記各実施形態においては、付加レンズ22からの出射光により、水平および斜めカットオフラインCL1、CL2の下方近傍において左右方向に拡散する上下幅の小さい横長配光パターンとして、付加配光パターンPBを形成するようになっているが、その際、付加レンズ22からの出射光の一部を上方へ向けて拡散照射して、車両前方路面の頭上標識を照射するための配光パターンを形成するようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】本願発明の第1実施形態に係る車両用照明灯具を示す正面図
【図2】図1のII-II 線断面図
【図3】図1のIII-III 線断面図
【図4】上記車両用照明灯具における凸レンズ、付加レンズおよび発光素子を示す斜視図
【図5】上記車両用照明灯具における発光素子からの出射光の光路を示す、図2と同様の図
【図6】上記車両用照明灯具における発光素子からの出射光の光路を示す、図3と同様の図
【図7】上記車両用照明灯具の凸レンズを発光チップと共に示す、図1の要部拡大図
【図8】上記車両用照明灯具から前方へ照射される光により、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される基本配光パターンおよび付加配光パターンを透視的に示す図
【図9】上記基本配光パターンと上記付加配光パターンとを分離して示す、図8と同様の図であって、(a)は基本配光パターン、(b)は付加配光パターンを示す図
【図10】(a)は、上記基本配光パターンの一部を構成する第1の配光パターンを詳細に示す図、(b)は、上記基本配光パターンの他の部分を構成する第2の配光パターンを詳細に示す図
【図11】本願発明の第2実施形態に係る車両用照明灯具を示す正面図
【図12】図11のXII-XII 線断面図
【図13】上記第2実施形態に係る車両用照明灯具の凸レンズを発光チップと共に示す、図11の要部拡大図
【図14】上記第2実施形態に係る車両用照明灯具から前方へ照射される光により、上記仮想鉛直スクリーン上に形成される基本配光パターンおよび付加配光パターンを透視的に示す図
【図15】(a)は、図14に示す基本配光パターンの一部を構成する第1の配光パターンを詳細に示す図、(b)は、図14に示す基本配光パターンの他の部分を構成する第2の配光パターンを詳細に示す図
【符号の説明】
【0153】
10、110 車両用照明灯具
12、112 凸レンズ
12a、112a 前方側表面
12a1、112a1 境界線
12b、112b 後方側表面
14 発光素子
14a 発光チップ
14a1 下端縁
14b 基板
16 金属プレート
18 支持部材
18a リング部
18b 位置決め凹部
22 付加レンズ
22a 出射面
22b 入射面
22b1 前端縁
22c 反射面
22d 外周面
22e フランジ部
Ax 光軸
Ax1 軸線
B 境界線
C1、C2 セル
CL1 水平カットオフライン
CL2 斜めカットオフライン
E エルボ点
F 後側焦点
HZ ホットゾーン
Io 反転投影像
Io1 上端縁
Iz1、Iz2、Iz2a、Iz2b 反転投影像
L1c、L1m、L2c、L2m 曲線
O 発光中心
PA、PC 基本配光パターン
PA1、PC1 第1の配光パターン
PA2、PC2 第2の配光パターン
PB 付加配光パターン
PBo 基準配光パターン
PBo´ 配光パターン
PL1、PL2 ロービーム用配光パターン
Z1 水平方向拡散領域
Z2 斜め方向拡散領域
Z2a 上部領域
Z2b 下部領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びる光軸上に配置された凸レンズと、この凸レンズの後側焦点近傍に配置された発光素子とを備え、上記発光素子からの直射光を上記凸レンズで偏向制御することにより、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具において、
上記発光素子が、矩形状の発光面を有する発光チップを備えてなり、この発光チップの下端縁を、上記光軸を含む平面上に位置させるとともに、該下端縁における一方の端点を上記後側焦点に位置させるようにして、前向きに配置されており、
上記凸レンズの周囲に、該凸レンズを帯状に囲むようにして該凸レンズと一体形成された付加レンズが配置されており、
この付加レンズが、上記発光素子の発光中心近傍を通る、上記光軸と平行な軸線を中心として略円筒面状に形成され、上記発光素子からの光を上記軸線から離れる方向へ屈折させる態様で該付加レンズに入射させる入射面と、この入射面から入射した光を前方へ向けて内面反射させる反射面と、この反射面で内面反射した光を前方へ向けて拡散光として出射させる出射面とを備えてなる、ことを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項2】
上記付加レンズの反射面が、該付加レンズの入射面から入射した光を、上記軸線を含む平面内において平行光として内面反射させるように形成されている、ことを特徴とする請求項1記載の車両用照明灯具。
【請求項3】
上記付加レンズの反射面が、該付加レンズの入射面から入射した光を全反射させる全反射面として構成されている、ことを特徴とする請求項1または2記載の車両用照明灯具。
【請求項4】
上記付加レンズの出射面が、上記凸レンズの後方側表面よりも前方側に位置している、ことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の車両用照明灯具。
【請求項5】
上記付加レンズの入射面における前端縁の径が、上記凸レンズの前方側表面と上記付加レンズの出射面との境界線の径と略同じ値に設定されている、ことを特徴とする請求項4記載の車両用照明灯具。
【請求項6】
上記付加レンズにおける上記反射面の外周側に、上記軸線を中心とする略円筒面状の外周面が所定角度範囲にわたって形成されており、
この外周面に、上記軸線と直交する方向へ突出するフランジ部が形成されている、ことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の車両用照明灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−146665(P2009−146665A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321238(P2007−321238)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】