説明

車両用物入れ装置のヒンジ構造

【課題】ヒンジ軸の軸方向に偏倚した位置に被制動軸と制動装置を配置し、小さな設置スペースに、少ない組立工程数によって、容易に組付けることができる、車両用物入れ装置のヒンジ構造を提供する。
【解決手段】蓋体6を開閉すると、蓋体6の回動に伴って被制動軸2とヒンジ軸1が回転するのに対し、制動板3bは収納体7に固定されているから、被制動軸2と制動板3bの間の摩擦板3aは、回転する端面2eと静止している制動板3bとに圧接して、所期の摩擦力を安定して発生することができる。この摩擦力により、蓋体6の開閉時に適度の回転抵抗を得ることができると共に、蓋体6の回転範囲内の任意の位置で蓋体6を停止させると、蓋体6をその位置に保持することができる。被制動軸2と制動装置3はヒンジ軸1の軸方向に偏倚した位置に配置され、小さな設置スペースに取付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のセンターコンソール等に取付けられる車両用物入れ装置のヒンジ構造に関し、更に詳細には、車両用物入れ装置の蓋体を、蓋体の回転域内の任意の位置に停止させ、その位置に保持することができる、車両用物入れ装置のヒンジ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の運転席と助手席の間に配置されるセンターコンソールに、物品を出し入れするための開口を備えた収納体を取付け、この収納体に運転者等が身の回り品を適宜収納することができるようにした車両用物入れ装置が汎用されている。このような車両用物入れ装置の多くは、物品を出し入れしないときに収納体の開口を閉鎖するため、スライド式や回転式の蓋体を備える。回転式の蓋体は、ヒンジ軸に支持されて、収納体の開口を閉鎖する位置と、予め設定された全開位置の間を回動する。
【0003】
従来、車両用物入れ装置の回転式の蓋体をその回転域内の任意の位置に停止させる保持機構が提案されている。例えば、特開2009―255786号公報は、部品点数の増加や組付け工数の増加によるコスト増加を防止して、組付け時のトルク管理などを不要にしたリッド中間開位置保持機構を開示する。この保持機構は、物入れ装置本体に固定可能な固定側取付け部と、蓋体(リッド部)に固定可能な可動側取付け部と、固定側取付け部と可動側取付け部を回転可能に連結するヒンジ軸部を有する。ヒンジ軸部の外周面には雄ネジ部が形成され、この雄ネジ部を固定側取付け部と可動側取付け部のうちのいずれか一方又は双方に螺合させることにより、ヒンジ軸部と固定側及び/又は可動側取付け部の間に緩み止めネジ機構が形成される。緩み止めネジ機構は固定側取付け部と可動側取付け部に回転抵抗(抵抗トルク)を付与し、蓋体は、この抵抗力に抗して所望の位置まで回転させられ、この抵抗力によって所望の位置に保持される。
【0004】
上述のリッド中間開位置保持機構の固定側取付け部と可動側取付け部は、物入れ装置本体や蓋体とは別の部材で構成され、物入れ装置本体や蓋体にそれぞれネジ等で固定される。このため、この保持機構を物入れ装置本体と蓋体の間に組付ける際の工数が増加するという不具合がある。また、この保持機構の固定側取付け部と可動側取付け部を、物入れ装置本体と蓋体に十分な強度をもって固定するには、固定側取付け部と可動側取付け部が面接触する取付け面部を、物入れ装置本体と蓋体に設ける必要がある。この取付け面部は、物入れ装置本体と蓋体の表面に一定の面積を占める平面によって構成されるから、物入れ装置本体と蓋体の表面形態の変更に制限を生じる。更に、この取付け面部の剛性を向上させるため、物入れ装置本体や蓋体にリブ等の補強構造を形成しなければならない場合がある。取付け面部自体の剛性が低いと、リッド中間開位置保持機構を堅固に固定することができないからである。このような補強構造を形成すると、物入れ装置本体や蓋体の取付け面部付近が大形化し、物入れ装置本体の収納容量が減少し、蓋体が大形化することにもなる。車両用物入れ装置の設置スペースは限られているから、物入れ装置本体や蓋体が大形化すると、物入れ装置の機能やデザインの自由度が制限される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009―255786号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ヒンジ軸の周りを回転する蓋体の回転域内で、任意の位置に停止した蓋体をその停止位置に保持することが可能であり、小型で、取付け作業が容易な、物入れ装置のヒンジ構造を提供する。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ヒンジ軸の周りを回転する蓋体の回転域内で、任意の位置に停止した蓋体をその停止位置に保持することが可能であり、小さな設置スペースに、少ない組立工程数によって、容易に組付けることができる、物入れ装置のヒンジ構造を提供することにある。
本発明の他の目的は、蓋体の開閉時に蓋体に曲げ力やねじり力が作用しても、ヒンジ軸の軸受け部にがたつきを生じることなく、蓋体を滑らかに開閉させることができる、物入れ装置のヒンジ構造を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、車両用物入れ装置のヒンジ構造に適するヒンジ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の物入れ装置のヒンジ構造は、物品を出し入れするための開口を備えた収納体と、前記開口の少なくとも一部を閉鎖することができる蓋体と、前記蓋体が前記開口の少なくとも一部を開閉することができるように、前記収納体と前記蓋体を回転自在に連結する、ヒンジ軸と、前記ヒンジ軸の周りを回転する前記蓋体の回転域内で、任意の位置に停止した前記蓋体を当該位置に保持する、蓋体保持装置を有する、物入れ装置のヒンジ構造において、前記収納体と前記蓋体に軸受部を形成し、前記軸受部によって前記ヒンジ軸を回転自在に支持し、前記蓋体保持装置は、前記ヒンジ軸と同心の回転軸線を有し、かつ、前記回転軸線と交差する方向に延在する端面を有する、被制動軸と、前記被制動軸を前記蓋体又は前記収納体に連結する連結部材と、前記被制動軸と前記連結部材が前記回転軸線の周りに相対的に回転することを防止する回り止め手段と、前記端面と共働して摩擦力を発生する制動板を有し、かつ、前記摩擦力によって、前記被制動軸に、前記蓋体を前記任意の位置に保持するための回転抵抗を付与する、制動装置を有し、前記被制動軸と前記制動装置を前記ヒンジ軸の軸方向に配列したことを特徴とする。
【0009】
本発明の物入れ装置のヒンジ構造は、また、前記制動板を、前記端面に沿って前記回転軸線と交差する方向に配置し、前記制動装置は、更に、前記制動板と前記端面の間に配置され、かつ、前記制動板と前記端面に圧接する、摩擦板を有し、前記被制動軸を前記連結部材によって前記蓋体に連結したときには、前記制動板を前記収納部に関して固定し、また、前記被制動軸を前記連結部材によって前記収納体に連結したときには、前記制動板を前記蓋体に関して固定したことを特徴とする。
【0010】
本発明の物入れ装置のヒンジ構造は、更に、前記被制動軸の一端に前記端面を形成し、前記被制動軸の他端に前記ヒンジ軸を形成し、前記被制動軸の外面に、前記回転軸線と交差する方向に延在する抜け止め用係止部と、前記連結部材との相対的な回転を防止する回り止め用係止部を形成し、前記ヒンジ軸の軸方向に沿って前記軸受け部の外側に前記連結部材を配置し、前記連結部材に前記ヒンジ軸の軸方向に延在する貫通孔を形成し、前記貫通孔に前記被制動軸を挿入し、前記抜け止め用係止部を前記連結部材の側面に当接させると共に、前記回り止め用係止部を前記貫通孔に係合させ、前記軸受け部から突出した前記ヒンジ軸の先端部にEリングを装着し、前記Eリングと前記抜け止め用係止部の間に前記連結部材と前記軸受け部を挟圧したことを特徴とする。
【0011】
本発明の物入れ装置のヒンジ構造は、また、前記被制動軸の前記端面に前記回転軸線に沿って突出する支持軸を形成し、前記支持軸に前記摩擦板と前記制動板を回転自在に係合させ、前記支持軸に、更に、スプリングプレートと座金を回転自在に取付け、前記支持軸の端部にカシメ部を形成し、前記カシメ部と前記制動板の間に前記スプリングプレートと前記座金を挟圧し、これにより、前記摩擦板を前記端面と前記制動板に所期の圧力で当接させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の物入れ装置のヒンジ構造は、収納体と蓋体に軸受部を形成し、この軸受部によってヒンジ軸を回転自在に支持するように構成される。収納体と蓋体をヒンジ軸によって連結するには、収納体の軸受部と蓋体の軸受部を整合させた後、これらの軸受部にヒンジ軸を挿通し、Eリング等によってヒンジ軸の抜け止めを施すことができる。これにより、収納体と蓋体の連結作業を容易にし、収納体と蓋体の連結に要する作業工程数を減少させることができる。
【0013】
本発明の物入れ装置のヒンジ構造は蓋体保持装置を備える。ヒンジ軸の周りを回転して任意の位置に停止した蓋体は、この蓋体保持装置によって、その停止位置に保持される。よって、物入れ装置の使用者は、蓋体に手を掛けて蓋体を所望の位置まで回転させれば、蓋体から手を離して物品を出し入れすることができる。
【0014】
本発明のヒンジ構造に組付けられる前記蓋体保持装置は、前記ヒンジ軸と同心の回転軸線を有し、かつ、前記回転軸線と交差する方向に延在する端面を有する、被制動軸と、前記被制動軸を前記蓋体又は前記収納体に連結する連結部材と、前記被制動軸と前記連結部材が前記回転軸線の周りに相対的に回転することを防止する回り止め手段と、前記端面と共働して摩擦力を発生する制動板を有し、かつ、前記摩擦力によって、前記被制動軸に、前記蓋体を前記任意の位置に保持するための回転抵抗を付与する、制動装置を有する。被制動軸はヒンジ軸の軸方向に配置され、制動装置を被制動軸の端面に沿って配置することができるから、被制動軸と制動装置をヒンジ軸の軸方向に偏倚させて配置することができる。すなわち、本発明のヒンジ構造は、ヒンジ軸の径方向に大きな設置スペースを必要としないから、限られたスペースに設置される車両用物入れ装置に適用したときにも、収納部の容量を減少させない。
【0015】
前述の制動装置は、前記被制動軸の回転軸線と交差する方向に延在する制動板を有する。この制動装置は、更に、前記制動板と前記被制動軸の端面の間に配置され、かつ、前記制動板と前記端面に圧接する、摩擦板を有することができる。これらの制動板及び摩擦板は、いずれも、被制動軸の端面に沿って配置される薄い板状部材によって構成することができるから、ヒンジ軸の軸方向に大きな設置スペースを必要としない。また、被制動軸を蓋体に連結したときは、制動板を収納部に関して固定し、被制動軸を収納体に連結したときは、制動板を蓋体に関して固定することができる。このような構成をとることによって、蓋体の開閉時に、被制動軸が回転するときには制動板を静止させ、制動板が回転するときには被制動軸を静止させることができるから、静止した部材と回転する部材の間で効果的に摩擦力を発生させることができる。したがって、ヒンジ軸の周りを回転して任意の位置に停止した蓋体をその停止位置に確実に保持することができる。同様に、被制動軸の端面と制動板の間に摩擦板を配置した場合には、摩擦板は、静止した部材と回転する部材の間に挟圧されて、安定した摩擦力を効果的に発生することができる。また、摩擦板を挿入することにより、摩擦板の表面と裏面に摩擦面が形成されるから、摩擦面の面積を二倍にすることができるから、ヒンジ構造を小型化することができる。更に、摩擦板の寸法を変更することにより、摩擦板と被制動軸及び制動板との接触面積を変更することができるから、蓋体を保持する摩擦力を容易に調節することができる。
【0016】
前記被制動軸の一端に前記端面を形成し、前記被制動軸の他端に前記ヒンジ軸を形成し、前記被制動軸の外面に、前記回転軸線と交差する方向に延在する抜け止め用係止部と、前記連結部材との相対的な回転を防止する回り止め用係止部を形成し、更に、前記ヒンジ軸の軸方向に沿って前記軸受け部の外側に前記連結部材を配置し、前記連結部材に前記ヒンジ軸の軸方向に延在する貫通孔を形成し、この貫通孔に前記被制動軸を挿入し、前記抜け止め用係止部を前記連結部材の側面に当接させると共に、前記回り止め用係止部を前記貫通孔に係合させれば、ヒンジ軸と被制動軸の取付けと位置決めを同時に行うことができる。そして、軸受け部から突出した前記ヒンジ軸の先端部にEリングを装着し、このEリングと前記抜け止め用係止部の間に連結部材と軸受け部を挟圧すれば、蓋体の開閉時に蓋体に曲げ力やねじり力が作用しても、ヒンジ軸の軸受け部にがたつきを生じることなく、蓋体を滑らかに開閉させることができる。
【0017】
被制動軸の端面に前記回転軸線に沿って突出する支持軸を形成し、この支持軸に摩擦板と制動板とスプリングプレートと座金を回転自在に取付け、支持軸の端部にカシメ部を形成することにより、蓋体保持装置を構成する摩擦板と制動板とスプリングプレートと座金を予め被制動軸に組付けておくことができる。このとき、カシメ部とスプリングプレートの間に座金を介装することにより、座金がスプリングプレートにカシメ力を均一に作用させるから、スプリングプレートの弾発力により、被制動軸の端面と制動板に摩擦板を所期の圧力で当接させることができる。また、蓋体保持装置の組付けは、制動板をタップ等で蓋体又は収納体に固定することにより完了するから、本発明のヒンジ構造の組付け工程数を減少させることができる。
【0018】
本発明のヒンジ構造の構成要素のうち、制動装置と被制動軸とヒンジ軸を予め一体化してヒンジ軸組立体を形成しておくことができる。ヒンジ軸組立体を構成する制動装置と被制動軸とヒンジ軸は、ヒンジ軸の回転軸線上に配置されるから、蓋体と収納体の軸受部及び蓋体又は収納体に予め形成された連結部材に対して、ヒンジ軸を一方向から挿入することにより、蓋体と収納体を回転自在に連結すると同時に、蓋体保持装置を組付けることができる。なお、ヒンジ軸組立体を蓋体及び収納体に組付けた後に、蓋体及び収納体とは別体に形成された連結部材によって、被制動軸を蓋体又は収納体に連結することもできる。
【0019】
本発明のヒンジ構造の構成要素のうち、制動装置と被制動軸を予め一体化して、制動装置組立体を構成しておくことができる。このとき、ヒンジ軸は、制動装置組立体とは別体の部材として、蓋体及び収納体の軸受部に挿入される。ヒンジ軸の挿入方向は、制動装置組立体の被制動軸の挿入方向と同方向でも逆方向でもよい。ただし、いずれの方向から挿入された場合にも、被制動軸の回転軸線とヒンジ軸の回転軸線は同心に配置されなければならない。もっとも、このような制動装置組立体を形成しておく場合には、蓋体と収納体の軸受部にヒンジ軸を挿入する代わりに、蓋体と収納体を蝶番等の別のヒンジ装置で回転自在に連結しておくこともできる。このような制動装置組立体を物入れ装置に取付けれることにより、ヒンジ軸の周りを回転して任意の位置に停止した蓋体をその停止位置に保持する機能のみを付加することができる。
【0020】
本発明の更に他の特徴は、図面を参照してなされる、以下の実施例の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明のヒンジ機構を適用した車両用物入れ装置の前方斜視図である。(実施例1、2)
【図2】図2は、図1の車両用物入れ装置の蓋体と収納体を分離したときの後方斜視図である。(実施例1)
【図3】図3は、図2の蓋体と収納体をヒンジ軸組立体によって連結したときの連結部分の断面図であり、蓋体に形成された連結部材と軸受部の間に収納体に形成された一対の軸受部を配置し、ヒンジ軸組立体の制動板を収納体に固定した状態の縦断面図である。(実施例1)
【図4】図4は、図3のX部分の拡大部分断面図である。(実施例1)
【図5】図5は、制動装置を構成する各部材を支持軸に係合させ、支持軸の先端部にカシメ部を形成する前の各部材の側面図である。(実施例1)
【図6】図6(A)は、ヒンジ軸と被制動軸と制動装置を予め一体化した本発明のヒンジ軸組立体の斜視図であり、図6(B)は、被制動軸の回り止め用係止部を形成した部位の回転軸線に直交する方向の断面図である。(実施例1)
【図7】図7は、被制動軸と制動装置を予め一体化した本発明の制動装置組立体が、ヒンジ軸と別体に構成されるときの要部断面図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0022】
ヒンジ軸の軸方向に偏倚した位置に被制動軸と制動装置を配置し、小さな設置スペースに、少ない組立工程数によって、容易に組付けることができる、車両用物入れ装置のヒンジ構造を提供する。また、蓋体の開閉時に蓋体に曲げ力やねじり力が作用しても、蓋体を滑らかに開閉させることができる、車両用物入れ装置のヒンジ構造を提供する。
【実施例1】
【0023】
図1乃至6は、本発明の第一実施例を示す。この実施例の特徴は、図3及び6に示すように、ヒンジ軸1と被制動軸2と制動装置3を予め一体化して構成されたヒンジ軸組立体4を用いて、車両用物入れ装置5の蓋体6と収納体7を連結することにある。ヒンジ軸1は、図1に示すように、蓋体6が収納体7の開口部8を開閉することができるように、蓋体6と収納体7を回転自在に連結する。ヒンジ軸1はSUM24L相当の鋼材によって構成することができる。ヒンジ軸1の中心軸線1aに直行する断面は円形をなす。図6(A)に示すように、ヒンジ軸1は全体として円柱形をなし、ヒンジ軸1の先端部1bの付近には、その周面に沿って環状溝1cが形成されている。ヒンジ軸1の先端部1bと環状溝1cの間は、先端部1bに向かって縮径したテーパコーン形状をなし、ヒンジ軸組立体4を組付けるときのヒンジ軸1の挿入を容易にしている。
【0024】
ヒンジ軸1の先端部1bの反対側の端部には、被制動軸2が一体的に形成されている。被制動軸2はSUM23L相当の鋼材によって形成することができる。図4及び5に示すように、被制動軸2の回転軸線2aはヒンジ軸1の中心軸線1aと同心をなし、回転軸線2aは中心軸線1aと一致する。ここで、回転軸線2aとは、被制動軸2が回転するときに、被制動軸2の回転中心となる軸線をいう。被制動軸2は、回転軸線2aを中心にした円柱形状の円柱部2bと、回転軸線2aを中心にした扁平部2cと、回転軸線2aを中心にした円柱形状の支持軸2dから成る。円柱部2bは、回転軸線2aに直交する方向に延在する端面2eを有し、端面2eは円形の摩擦面を形成する。扁平部2cは、円柱部2bとヒンジ軸1の間に延在し、円柱部2bとヒンジ軸1に一体に形成されている。扁平部2cの周面の互いに対応する位置には、一対の平坦面2f、2fが形成されている。平坦面2f、2fは回転軸線2aに関して平行に延在し、被制動軸2の回り止め用係止部を構成する。平坦面2f、2fと円柱部2bの間には、それぞれ、係止面2g、2gが形成され、係止面2g、2gは回転軸線2aに直交する方向に延在する。係止面2g、2gは円柱部2bの端面2eに平行に延在し、被制動軸2の抜け止め用係止部を構成する。円柱部2bの端面2eの中心には支持軸2dが突出形成され、支持軸2dは回転軸線2aに沿って延在する。
【0025】
制動装置3は、摩擦板3aと制動板3bとスプリングプレート3cと座金3dを支持軸2dに回転自在に係合し、支持軸2dの先端部にカシメ部3eを形成することによって構成される。摩擦板3aと制動板3bはSUS304のステンレス鋼によって形成することができる。また、スプリングプレート3cと座金3dはSK鋼材によって形成することができる。制動装置3の摩擦板3aと制動板3bとスプリングプレート3cと座金3dは、円柱部2bの端面2eと支持軸2dのカシメ部3eの間に挟圧され、これにより、摩擦板3aは、スプリングプレート3eの弾発力によって、円柱部2bの端面2eと制動板3bに所定の力で圧接する。スプリングプレート3eは、繰り返し湾曲した波状部材で構成され、制動板3bと座金3dの間に挟圧されて回転軸線2aに沿う方向に弾発力を発生する。座金3dは、カシメ部3eとスプリングプレート3cの間に介在し、スプリングプレート3cの弾発力を制動板3bに均一に作用させる。図6(A)において、3f、3gは、制動板3bの下方部分に形成された貫通孔であり、これらの貫通孔3f、3gは制動板3bを蓋体6又は収納体7に固定するために使用される。
【0026】
図1乃至3に示すように、蓋体6は軸受部材9と連結部材10を有し、これらの部材9、10は、蓋体6の下面から下方へ延在する。軸受部材9には軸受け部11が形成され、軸受け部11にはヒンジ軸1を回転自在に支持する貫通孔12が形成されている。これに対し、連結部材10には、被制動軸2の扁平部2cが嵌合する係合孔13が形成されている。係合孔13に挿入された被制動軸2の扁平部2cは、その平坦面2f、2fを係合孔13の対応個所に形成された平坦面に係合させ、被制動軸2と連結部材10が回転軸線2aの周りに相対的に回転することを防止する。被制動軸2に形成された平坦面2f、2fは、係合孔13に形成された平坦面と共働して回り止め手段を構成し、蓋体6の開閉時に被制動軸2を蓋体6と共に回転させる。
【0027】
他方、収納体7の背面7aには、一対の軸受部材14、15が収納体7と一体に形成される。これらの軸受部材14、15には、軸受け部16、17が形成され、軸受け部16、17には、ヒンジ軸1を回転自在に支持する貫通孔18、19が形成される。蓋体6と収納体7をヒンジ軸組立体4によって連結するには、図3に示すように、蓋体6の連結部材10を収納体7の軸受け部17の外側に配置すると共に、連結部材10の係合孔13を軸受け部17の貫通孔19と整合させる。これと同時に、蓋体6の軸受け部11を収納体7の軸受け部16の外側に配置し、軸受け部11の貫通孔12と軸受け部16の貫通孔18を整合させる。次いで、ヒンジ軸組立体4のヒンジ軸1を、図3の左方から連結部材10の係合孔13に挿入し、次いで、貫通孔19、18、12に挿入して、被制動軸2の係止面2g、2gを連結部材10の外側面に当接させる。そして、ヒンジ軸1を軸方向に押圧して、ヒンジ軸1の環状溝1cを軸受部材9の外側面から突出させる。ここで、ヒンジ軸1の環状溝1cにEリング20を装着し、被制動軸2の係止面2g、2gとEリング20の間に、連結部材10、軸受部材9、14、15を挟圧する。これにより、連結部材10と軸受部材15は圧接し、軸受部材9と軸受部材14は圧接する。このようにして、ヒンジ軸1と被制動軸2の取付けが完了すると、図3に示すように、制動装置3の制動板3bの貫通孔3gを収納体7の位置決めピン21に係合させ、貫通孔3fにタップ22を挿入して、制動板3bを収納体7に固定する。これにより、制動装置3の取付けも完了する。被制動軸2と制動装置3はヒンジ軸1の軸方向に偏倚した位置に配置され、小さな設置スペースに取付けることができる。
【0028】
この状態で、蓋体6を開閉すると、蓋体6の回動に伴って被制動軸2とヒンジ軸1が回転するのに対し、制動板3bは収納体7に固定されているから、被制動軸2と制動板3bの間の摩擦板3aは、回転する端面2eと静止している制動板3bとに圧接して、所期の摩擦力を安定して発生する。この摩擦力により、蓋体6の開閉時に適度の回転抵抗を得ることができると共に、蓋体6の回転範囲内の任意の位置で蓋体6を停止させると、蓋体6をその位置に保持することができる。また、蓋体6の連結部材10と軸受部材9は、被制動軸2の係止面2g、2gとEリング20の間で挟圧され、収納体7の軸受部材15及び14に圧接しているから、蓋体6の開閉時に蓋体6に曲げ力や捩り力が作用しても、蓋体6は滑らかに回動することができる。ここで、連結部材10と軸受部材9、14、15に補強リブ等を設けることにより、これらの部材の厚さがヒンジ軸の軸方向に増大しても、ヒンジ構造の設置スペースは増大しない。
【実施例2】
【0029】
図7は、本発明の第二実施例を示す。同図中、図4及び5に使用した参照番号と同一の参照番号を付した構成部材は、図4及び5の構成部材と同一の機能を果たす同一名称の構成部材である。この実施例の特徴は、被制動軸2と制動装置3を組み合わせて、蓋体を任意の停止位置に保持するための蓋体保持装置100を構成したことにある。この蓋体保持装置100は、蓋体と収納体を回転自在に連結するヒンジ装置とは別に、独立して取付けられる。蓋体保持装置100とヒンジ装置との関係は、ヒンジ装置のヒンジ軸1の中心軸線1aと、蓋体保持装置100の被制動軸2の回転軸線2aとを同心とし、両者を一致させることのみである。このような蓋体保持装置100を使用すれば、ヒンジ装置の構成の如何にかかわらず、蓋体を任意の停止位置に保持する機能を物入れ装置に付加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の物入れ装置のヒンジ構造は、車両用物入れ装置の蓋体保持装置として有用であるが、ヒンジ軸の周りに回転する蓋体を備えた収納装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 ヒンジ軸
2 被制動軸
3 制動装置
4 ヒンジ軸組立体
5 車両用物入れ装置
6 蓋体
7 収納体
8 開口部
9 軸受部材
10 連結部材
14 軸受部材
15 軸受部材
100 蓋体保持装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を出し入れするための開口を備えた収納体と、前記開口の少なくとも一部を閉鎖することができる蓋体と、前記蓋体が前記開口の少なくとも一部を開閉することができるように、前記収納体と前記蓋体を回転自在に連結する、ヒンジ軸と、前記ヒンジ軸の周りを回転する前記蓋体の回転域内で、任意の位置に停止した前記蓋体を当該位置に保持する、蓋体保持装置を有する、物入れ装置のヒンジ構造において、前記収納体と前記蓋体に軸受部を形成し、前記軸受部によって前記ヒンジ軸を回転自在に支持し、前記蓋体保持装置は、前記ヒンジ軸と同心の回転軸線を有し、かつ、前記回転軸線と交差する方向に延在する端面を有する、被制動軸と、前記被制動軸を前記蓋体に連結する連結部材と、前記被制動軸と前記連結部材が前記回転軸線の周りに相対的に回転することを防止する回り止め手段と、前記収納体に固定され、前記端面と共働して摩擦力を発生する、制動板を有し、かつ、前記摩擦力によって、前記被制動軸に、前記蓋体を前記任意の位置に保持するための回転抵抗を付与する、制動装置とを備え、前記被制動軸と前記制動装置を前記ヒンジ軸の軸方向に配列したことを特徴とする、物入れ装置のヒンジ構造。
【請求項2】
請求項1に記載のヒンジ構造において、前記制動板を、前記端面に沿って前記回転軸線と交差する方向に配置したことを特徴とする、物入れ装置のヒンジ構造。
【請求項3】
請求項1に記載のヒンジ構造において、前記被制動軸の一端に前記端面を形成し、前記被制動軸の他端に前記ヒンジ軸を形成し、前記被制動軸の外面に、前記回転軸線と交差する方向に延在する抜け止め用係止部と、前記連結部材との相対的な回転を防止する回り止め用係止部を形成し、前記ヒンジ軸の軸方向に沿って前記軸受け部の外側に前記連結部材を配置し、前記連結部材に前記ヒンジ軸の軸方向に延在する貫通孔を形成し、前記貫通孔に前記被制動軸を挿入し、前記抜け止め用係止部を前記連結部材の側面に当接させると共に、前記回り止め用係止部を前記貫通孔に係合させ、前記軸受け部から突出した前記ヒンジ軸の先端部にEリングを装着し、前記Eリングと前記抜け止め用係止部の間に前記連結部材と前記軸受け部を挟圧したことを特徴とする、前記ヒンジ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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