説明

車両用空力装置

【課題】ホイールハウス内を効果的に整流することができる車両用空力装置を得る。
【解決手段】可動空力スタビライザ装置10は、ホイールハウス16内で空気流を整流するための空力スタビライザ20と、空力スタビライザ20を車体に対し前後方向にスライド可能に支持するガイド孔22とを備えている。空力スタビライザ20は、前後方向のスライドによって、ホイールハウス16内に突出した整流位置と、前輪15との干渉を回避し得る回避位置と取り得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールハウス内の空気流を整流するための車両用空力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のホイールハウス内に突出させた空力スタビライザを備え、該空力スタビライザによって操縦安定性、ブレーキ冷却性能を向上する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2003−528772号公報
【特許文献2】実開平3−102386号公報
【特許文献3】特開平10−278854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の如き従来の技術では、空力スタビライザが常にホイールハウス内に突出しているため、車輪との干渉を避ける等の種々の制約があり、十分な性能を得ることが困難であった。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、ホイールハウス内を効果的に整流することができる車両用空力装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る車両用空力装置は、ホイールハウス内で空気流を整流するための空力スタビライザと、前記空力スタビライザを、前記ホイールハウス内に突出した整流位置と、前記車輪との干渉を回避し得る回避位置と取り得るように車体に支持する可動支持構造と、備えている。
【0006】
請求項1記載の車両用空力装置が適用された車両では、空力スタビライザが整流位置と回避位置とを取り得るため、例えば、車輪との干渉が生じ得る運転状態の場合には空力スタビライザを回避位置に位置させて該車輪との干渉防止を図りつつ、車輪との干渉を生じない運転状態の場合に空力スタビライザを整流位置に位置させて良好な整流効果を得ることができる。
【0007】
このように、請求項1記載の車両用空力装置では、ホイールハウス内を効果的に整流することができる。また、例えば空力スタビライザが回避位置において車体内に格納される構成では、スタビライザへの雪や氷の付着(堆積)を防止することが可能である。
【0008】
請求項2記載の発明に係る車両用空力装置は、請求項1記載の車両用空力装置において、前記可動支持構造は、前記空力スタビライザに前記整流位置と回避位置との間を移動するための移動力を付与するアクチュエータであり、前記空力スタビライザが車両の走行状態に応じた位置を取るように前記アクチュエータの作動を制御する制御装置をさらに備えた。
【0009】
請求項2記載の車両用空力装置では、制御装置及びアクチュエータによって、空力スタビライザの位置が車両の走行状態に応じて自動的に切り替えられる。このため、空力スタビライザと車輪との干渉が確実に防止され、車輪との干渉を生じない運転状態の場合に空力スタビライザを整流位置に位置させて良好な整流効果を得ることができる。
【0010】
請求項3記載の発明に係る車両用空力装置は、請求項2記載の車両用空力装置において、車両のスリップ状態を検出するためのスリップ検出手段を備え、前記制御装置は、前記スリップ検出手段の検出結果に基づいて車両のスリップが生じていると判断した場合に、前記空力スタビライザが前記回避位置に位置するように前記アクチュエータの作動を制御する。
【0011】
請求項3記載の車両用空力装置では、車両がスリップした(又はスリップ量が大きい)場合に空力スタビライザを回避位置に位置させるので、空力スタビライザに雪、氷、泥等の異物が付着して車輪との距離が縮まってしまうことが防止される。すなわち、スリップは、路面が濡れていたり、ぬかるんでいたり、積雪したりして、雪、氷、泥等が付着しやすい状況で走行していることを推定させるので、このようなスリップが生じた場合に空力スタビライザを回避位置に位置させることで、異物の付着自体を防止することができる。
【0012】
請求項4記載の発明に係る車両用空力装置は、請求項2又は請求項3記載の車両用空力装置において、車両のフレーム作動状態を検出するためのブレーキ作動検出手段を備え、前記制御装置は、前記ブレーキ作動検出手段の検出結果に基づいてブレーキの操作頻度が高いと判断した場合には、前記空力スタビライザが前記整流位置に位置するように前記アクチュエータの作動を制御する。
【0013】
請求項4記載の車両用空力装置では、ブレーキの作動頻度が高い場合に、空力スタビライザを整流位置に位置させるので、該空力スタビライザの整流効果によってブレーキに効果的に走行風が送られ、ブレーキを冷却することができる。
【0014】
請求項5記載の発明に係る車両用空力装置は、請求項2乃至請求項4の何れか1項記載の車両用空力装置において、前記車輪の転舵角を検出するための転舵角検出手段を備え、前記制御装置は、前記転舵角検出手段の検出結果に基づいて前記車輪の転舵角が所定角度以上であると判断した場合には、前記空力スタビライザが前記回避位置に位置するように前記アクチュエータの作動を制御する。
【0015】
請求項5記載の車両用空力装置では、ホイールハウスに対する車輪の姿勢が変化する転舵の際に、転舵角が所定値以上になると空力スタビライザが回避位置を取るので、空力スタビライザと車輪との干渉が確実に防止される。本構成は、空力スタビライザが車輪に対し車体前後方向の前方若しくは後方、又は車輪に対し車幅方向内側方で整流位置を取る場合に特に有効である。
【0016】
請求項6記載の発明に係る車両用空力装置は、請求項1記載の車両用空力装置において、前記空力スタビライザは、前記車輪に対し車体上下方向の上側に配置されており、前記可動支持構造は、車体に対し前記車輪を支持するサスペンションにおける該車体との相対変位を生じる部分と前記空力スタビライザとを連結する連結部材を含む。
【0017】
請求項6記載の車両用空力装置では、空力スタビライザは、サスペンションにおける車輪側(バネ下)又はサスペンションを構成するスプリングの中間部に取り付けられることで車体に対し車体上下方向の相対変位可能とされ、該相対変位によって整流位置と回避位置とが切り替わる。これにより、車輪の上側に位置する空力スタビライザは、例えば突起通過に伴って車輪が上下動(バウンド)した場合でも、制御を行うことなく該車輪に干渉することが防止される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明に係る車両用空力装置は、ホイールハウス内を効果的に整流することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の第1の実施形態に係る車両用空力装置としての可動空力スタビライザ装置10について、図1乃至図3に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、及び矢印OUTは、それぞれ可動空力スタビライザ装置10が適用された自動車Sの前方向(進行方向)、上方向、及び車幅方向外側を示しており、以下単に上下前後及び車幅方向の内外を示す場合は上記各矢印方向に対応している。
【0020】
図1には、自動車Sに適用された可動空力スタビライザ装置10が模式的な側面図にて示されている。また、図2(A)及び図2(B)には、それぞれ可動空力スタビライザ装置10が適用された自動車Sの前部が模式的な平面図にて示されている。なお、この実施形態では、可動空力スタビライザ装置10は、左右の前輪15にぞれぞれ適用されるが、左右の可動空力スタビライザ装置10は基本的に対称に構成されるので、図1及び図2では車幅方向一方側(走行方向に対し左側)の可動空力スタビライザ装置10のみを図示しており、以下の説明においても一方の可動空力スタビライザ装置10について説明することとする。
【0021】
図1及び図2に示される如く、自動車Sは、車体Bを構成するフロントフェンダパネル12を備えており、フロントフェンダパネル12には、前輪15の転舵を許容するために側面視で下向きに開口する半円弧状に形成されたホイールアーチ12Aが形成されている。このフロントフェンダパネル12の内側にはフェンダエプロン14(図2(B)参照)が結合されており、フェンダエプロン14にはホイールハウスインナ14A及び図示しないサスペンションタワーが形成されている。
【0022】
ホイールハウスインナ14Aは、その車幅方向外側に前輪15が転舵可能に配設されるホイールハウス16を形成しており、サスペンションタワーは、フロントサスペンションを介して前輪15を車体上下方向のストローク可能に支持している。また、図1に示される如く、フロントフェンダパネル12におけるホイールアーチ12Aの前側部分の下側には、フロントバンパ18を構成するバンパカバー18Aが回り込んでおり、このバンパカバー18Aの後縁がホイールアーチ12Aの前部を構成している。
【0023】
図2(A)及び図2(B)に示される如く、ホイールハウス16の内側には、側面視でホイールアーチ12Aに対応する略円弧状に形成されると共に平面視で前輪15を覆い隠す略矩形状に形成された樹脂製のフェンダライナ19が配設されている。したがって、フェンダライナ19は、前輪15の略上半分を前方、上方、後方から覆い、泥や小石などがフェンダエプロン14(ホイールハウスインナ14A)等に当たることを防止するようになっている。
【0024】
可動空力スタビライザ装置10は、その機械的構成部分が、上記車体構造を有する自動車Sにおける前輪15の前方に配設されて、該自動車Sに適用されている。以下、具体的に説明する。
【0025】
図1及び図2に示される如く、可動空力スタビライザ装置10は、空力スタビライザ20を備えている。空力スタビライザ20は、平面視で車幅方向に長手とされると共に厚み方向が車体上下方向に略一致する矩形平板状に形成されている。空力スタビライザ20の車幅方向の両端は、それぞれ直進姿勢を取る(転舵されていない)前輪15の車輪幅方向の端部位置又は該車輪幅方向外側に位置している。すなわち、空力スタビライザ20の車幅方向に沿った長さは、直進姿勢を取る前輪15の車幅方向に沿った幅と同等以上とされている。
【0026】
図1に示される如く、空力スタビライザ20は、ホイールハウスインナ14A及びフェンダライナ19における前輪15の前方に形成されたガイド孔22に、前後方向にスライド可能に嵌合支持されている。これにより、空力スタビライザ20は、上記した車幅方向に長手である姿勢を維持したまま車体Bに対し前後方向にスライド可能とされ、このスライドによって、空力スタビライザ20は、図1及び図2(A)に示される如くホイールハウス16内に突出する整流位置と、図2(B)に示される如く、ホイールハウス16から退避して車体B(バンパカバー18A)内部に格納される回避位置としての格納位置とを取り得る構成とされている。
【0027】
整流位置に位置する空力スタビライザ20は、ホイールハウス16内の空気流の整流作用を果たすようになっている。具体的には、整流位置に位置する空力スタビライザ20は、前輪15の回転に起因してホイールハウス16内で矢印Aにて示す方向の空気流が生じることを抑制し、ホイールハウス16内でフェンダライナ19と前輪15との間を出入する空気による乱流の発生を抑制するようになっている。この空力スタビライザ20の整流作用によって、前輪15の接地荷重が弱められることが防止され、また前輪15の車幅方向内側に設けられたブレーキ装置(図示省略)に向かう空気流が乱流によって遮られることが防止されるようになっている。一方、格納位置に位置する空力スタビライザ20は、その後端面をホイールハウス16すなわちフェンダライナ19の内面と略面一にし、該ホイールハウス16に異物が付着する原因となる上向き面を形成しないようになっている。
【0028】
また、可動空力スタビライザ装置10は、空力スタビライザ20を整流位置と格納位置との間で駆動するための可動支持構造としてのアクチュエータ24を備えている。アクチュエータ24は、車体前後方向に長手とされて空力スタビライザ20に固定的に設けられたラック26と、ラック26に噛み合うピニオン28と、ピニオン28を回転駆動するモータ(減速機付モータ)30とを主要構成要素としている。モータ30は、正逆回転可能とされ、ピニオン28を正転してラック26を後方に移動し、ピニオン28を逆転してラック26を前方に移動するようになっている。
【0029】
さらに、可動空力スタビライザ装置10は、アクチュエータ24すなわちモータ30の作動を制御するための制御装置としての空力ECU32を備えている。空力ECU32は、モータ30に電気的に接続されると共に、自動車Sの走行状態を検出するための各種センサに電気的に接続されている。この実施形態では空力ECU32は、自動車Sの走行速度に応じた信号を出力する車速センサ34、ブレーキ装置の作動(操作有無)に応じた信号を出力するブレーキ作動検出手段としてのブレーキセンサ36、左右の前輪15を含む各車輪(全輪)それぞれの回転速度に応じた信号を出力するスリップ検出手段としての車輪速センサ38のそれぞれに電気的に接続されている。なお、車輪速センサ38は、各車輪に独立して設けられるが、図1では1つのセンサとして図示している。
【0030】
空力ECU32は、基本的に、車速センサ34の出力信号に基づいて車両の走行速度が所定速度(例えば80km/h)以上であると判断した場合、に空力スタビライザ20を整流位置に位置させるように構成されている。この実施形態では、空力ECU32は、各車輪速センサ38からの信号に基づいて演算したスリップ率が所定の閾値よりも高い場合には、これを上記した走行速度条件に優先して用い、空力スタビライザ20を格納位置に位置させるようになっている。また、空力ECU32は、走行速度以外の整流位置への移動条件(又は走行速度条件を変更するための条件)として、ブレーキセンサ36の出力信号に基づいて検知したブレーキ作動頻度を用いるようになっている。空力ECU32の制御の具体例については、可動空力スタビライザ装置10の作用と共に後述する。
【0031】
次に、第1の実施形態の作用を、図3に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0032】
上記構成の可動空力スタビライザ装置10が適用された自動車Sでは、空力ECU32には、自動車Sが走行している状態で車速センサ34から車速に応じた信号が入力される。空力ECU32は、ステップS10で、車速が80km/h以上であるか否かを判断する。車速が80km/h以上であると判断した場合に、空力ECU32は、ステップS12に進み、各輪の車輪速センサ38の出力信号に基づいて、各輪のスリップ率を演算する。例えば、各輪の平均回転速度に対するそれぞれ車輪の回転速度の比を演算し、最大値をスリップ率とする。次いでステップS14に進み、ステップS12で演算したスリップ率が閾値を越えるか否かを判断する。
【0033】
ステップS14でスリップ率が閾値を越えて高い、すなわち自動車Sにスリップが生じていると判断した場合には、空力ECU32は、ステップS16に進み、空力スタビライザ20が格納位置に位置するようにアクチュエータ24を制御する。すなわち、空力スタビライザ20が整流位置に位置していた場合には、モータ30を逆転して空力スタビライザ20を回避位置に移動させ、また空力スタビライザ20が格納位置に位置していた場合には、モータ30を作動することなく空力スタビライザ20が格納位置に位置する状態を保持する。
【0034】
一方、ステップS14でスリップ率が閾値を下回る、すなわち自動車Sにスリップが生じていないと判断した場合には、空力ECU32は、ステップS18に進み、空力スタビライザ20が整流位置に位置するようにアクチュエータ24を制御する。すなわち、空力スタビライザ20が格納位置に位置していた場合には、モータ30を正転して空力スタビライザ20を整流位置に移動させ、また空力スタビライザ20が整流位置に位置していた場合には、モータ30を作動することなく空力スタビライザ20が整流位置に位置する状態を保持する。
【0035】
これにより、可動空力スタビライザ装置10が適用された自動車Sでは、ホイールハウス16内の空気流が整流され、高速走行に伴う空気抵抗(乱流による空気抵抗)が低減されると共に、前輪15の接地荷重が減少することが防止される。したがって、自動車Sでは、燃費の向上、操縦安定性の向上が図られる。
【0036】
また、ステップS10で車速が80km/h未満であると判断した場合に、空力ECU32は、ステップS20に進み、車速が40km/h以上であるか否かを判断する。車速が40km/h未満である判断した場合、空力ECU32は、ステップS16に進み、ステップS16に進み空力スタビライザ20を格納位置に位置させるようにアクチュエータ24を制御する。
【0037】
一方、ステップS20で車速が40km/h以上であると判断した場合、空力ECU32は、ステップS22に進み、ブレーキセンサ36の出力信号の経時変化に基づいて設定期間内のブレーキ作動頻度を演算し、ステップS24に進む。ブレーキ作動頻度は、例えば単位時間当たりのブレーキ作動時間又は操作回数が用いられる。ステップS24で空力ECU32は、ブレーキ作動頻度が所定の閾値(例えば、1分当たりの累積ブレーキ作動時間で10秒、又は1分当たりのブレーキ操作回数で10回等)以上であるか否かを判断する。ブレーキ作動頻度が閾値を下回ると判断した場合、空力ECU32は、ステップS16に進み、空力スタビライザ20を格納位置に位置させるようにアクチュエータ24を制御する。
【0038】
そして、ステップS24でブレーキ作動頻度が閾値を超えて高いと判断した場合、空力ECU32は、ステップS18に進み、空力スタビライザ20を整流位置に位置させるようにアクチュエータ24を制御する。すると、自動車Sのホイールハウス16内では、フロントバンパ18の下方からの走行風が、前輪15の回転に伴う該前輪15廻りの乱流によって遮られることがなくなり、ブレーキ装置に向かう空気流が形成される。この空気流によってブレーキ装置が冷却され、ブレーキ性能が維持される。
【0039】
ここで、可動空力スタビライザ装置10では、空力スタビライザ20が整流位置と格納位置とを取り得るため、固定式スタビライザのような制約を受けることなく、空力スタビライザ20による上記各整流効果(走行抵抗の低減、前輪15の横力低減、ブレーキ冷却等)を得ることができる。
【0040】
具体的には、可動空力スタビライザ装置10では、前輪15の車体Bに対する相対変位を生じ易い運転状態(悪路走行や段差乗り越え等)となり得る低速走行時には、空力スタビライザ20が格納位置に位置するので、該空力スタビライザ20と前輪15との干渉が防止される。また、低速走行時には、タイヤチェーンの装着も推定されるが、格納位置に位置する空力スタビライザ20がタイヤチェーンに干渉することもない。一方、低速域では、空力スタビライザ20による空力性能の向上効果は小さいので、空力スタビライザ20を格納位置に位置させても燃費や操縦安定性に影響を与えることはない。
【0041】
また、車輪のスリップ率が高い場合、換言すれば、積雪路、濡れた路面、ぬかるみ等を走行して雪・氷・泥等の異物が空力スタビライザ20に付着しやすいと推定される場合には、空力スタビライザ20が格納位置に位置するので、空力スタビライザ20に雪・氷・泥等の異物が付着することが防止される。空力スタビライザ20に付着した泥や雪が成長すると前輪15との干渉を一層生じ易くなり空力スタビライザ20の破損の原因となり得るが、可動空力スタビライザ装置10では、上記の通り空力スタビライザ20への雪や泥の付着自体が防止される。
【0042】
さらに、上記の如く空力スタビライザ20と前輪15との干渉を防止することができるため、整流位置を前輪15により近接した位置に設定することが可能となり、空力性能の向上が図られる。しかも、フェンダライナ19と前輪15との隙間を小さく設定することも可能になるので、デザインの自由度が高くなり、意匠性を向上することが可能となる。
【0043】
このように、第1の実施形態に係る可動空力スタビライザ装置10では、ホイールハウス16内を効果的に整流することができる。
【0044】
なお、上記第1の実施形態では、例えば80km/h以上の高速走行時に空力スタビライザ20が整流位置に位置する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、80km/h以上で空力スタビライザ20を整流位置に突出させ、該突出後は60km/h未満で空力スタビライザ20を格納位置に退避させるようにしても良い。
【0045】
次に本発明の他の実施形態を説明する。なお、上記第1の実施形態又は前出の構成と基本的に同一の部品・部分については上記第1の実施形態又は前出の構成と同一の符号を付してその説明(図示)を省略する。
【0046】
(第2の実施形態) 図4には、本発明の第2の実施形態に係る可動空力スタビライザ装置40が平面断面図にて示されており、図5には可動空力スタビライザ装置40が図2に対応する平面断面図にて示されている。図5(A)及び図5(B)に示される如く、可動空力スタビライザ装置40は、空力スタビライザ20を前後方向にガイドするガイド孔22に代えて、空力スタビライザ20を車幅方向に対し傾斜させ得るガイド部42を備える点で、第1の実施形態とは異なる。
【0047】
ガイド部は、例えばガイド孔22を車幅方向に広げた長孔や上下方向に沿った回転軸の如く構成され、空力スタビライザ20の上下方向の変位を規制しつつ、空力スタビライザ20の長手方向両端をそれぞれ独立して前後にスライドさせ得る、すなわち車幅方向に対し傾斜した姿勢を取らせ得る構成とされている。空力スタビライザ20の整流位置は、図4に示される如く、可動空力スタビライザ装置10における整流位置と同じである。空力スタビライザ20は、図示しないストッパによって整流位置を超えて後方に移動することが防止されると共に、図示しない付勢部材によって上記ストッパに押し付けられている。
【0048】
一方、可動空力スタビライザ装置40では、図5(A)に示される如く、前端側を車幅方向内側に移動する方向に転舵した前輪15との干渉を回避すべく、空力スタビライザ20の車幅方向内側を前方に移動した位置が該空力スタビライザ20の内側回避位置とされ、図5(B)に示される如く、前端側を車幅方向外側に移動する方向に転舵した前輪15との干渉を回避すべく、空力スタビライザ20の車幅方向外側を前方に移動した位置が該空力スタビライザ20の外側回避位置とされている。
【0049】
また、可動空力スタビライザ装置40は、アクチュエータ24に代えて可動支持構造としてのアクチュエータ44を備えている。アクチュエータ44は、それぞれ車体Bに固定されると共に車幅方向に離間して配置された内側電磁石46、外側電磁石48と、それぞれ車幅方向に離間して空力スタビライザ20に設けられた内側磁性体50、外側磁性体52とを含んで構成されている。これにより、可動空力スタビライザ装置40では、内側電磁石46に通電することで該内側電磁石46によって内側磁性体50が吸着され、空力スタビライザ20が内側回避位置を取り、外側電磁石48に通電することで該外側電磁石48によって外側磁性体52が吸着され、空力スタビライザ20が外側回避位置を取る構成とされている。
【0050】
そして、可動空力スタビライザ装置40は、アクチュエータ44の作動を制御するための空力ECU54を備えている。空力ECU54は、前輪15の操舵(転舵)角に応じた信号を出力する転舵角検出手段としてのステアリングアングルセンサ56の信号に基づいて、アクチュエータ44の作動を制御するようになっている。具体的には、空力ECU54は、ステアリングアングルセンサ56の出力信号に基づいて前輪15が車幅方向内向きに所定角度以上転舵されたと判断した場合に、内側電磁石46に通電して空力スタビライザ20内側回避位置に切り替え、ステアリングアングルセンサ56の出力信号に基づいて前輪15が車幅方向外向きに所定角度以上転舵されたと判断した場合に、外側電磁石48に通電して空力スタビライザ20内側回避位置に切り替えるようになっている。
【0051】
上記構成の可動空力スタビライザ装置40では、直進状態では、整流位置に位置する空力スタビライザ20によって、ホイールハウス16内で前輪15の回転に伴う乱流が発生することが防止される。このため、第1の実施形態と同様に、空気抵抗の低減による燃費向上、接地荷重の確保による操縦安定性の向上が図られる。
【0052】
また、操舵によって前輪15が転舵する際には、操舵(転舵)角が所定値以上になると空力ECU54が操舵方向に応じて内側電磁石46又は外側電磁石48に通電することで、空力スタビライザ20と前輪15との干渉が防止される。このため、整流位置を前輪15に近接した位置に設定して直進時の空力性能を高めつつ、前輪15の転舵時には該前輪15と空力スタビライザ20との干渉を防止することができる。
【0053】
さらに、可動空力スタビライザ装置40では、回避位置においても空力スタビライザ20の一部がホイールハウス16内に位置して整流作用を果たすため、車両旋回時においてもホイールハウス16内の乱流発生が防止され、操縦安定性が向上する。
【0054】
なお、上記第2の実施形態では、転舵時に空力スタビライザ20を回避位置に移動する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、内側電磁石46及び外側電磁石48の双方に通電することで空力スタビライザ20を格納位置に移動可能な構成とし、第1の実施形態の制御の少なくとも一部組み合わせるようにしても良い。
【0055】
また、上記第2の実施形態では、内側磁性体50、外側磁性体52が磁性体である例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、内側磁性体50、外側磁性体52を磁石としても良い。この場合、内側電磁石46、外側電磁石48の極性を可変に構成しておくことで、付勢部材を用いることなくアクチュエータ44だけで空力スタビライザ20を整流位置と各回避位置(格納位置)との間で駆動することが可能になる。
【0056】
さらに、上記第2の実施形態では、電磁石を利用したアクチュエータ44を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、アクチュエータ44に代えて、独立して制御可能な2つのアクチュエータ24を空力スタビライザ20の長手方向に離間して設けても良い。
【0057】
(第3の実施形態) 図6には、可動空力スタビライザ装置60が模式的な側面図にて示されている。この図に示される如く、可動空力スタビライザ装置60は、空力スタビライザ20が前輪15の前方に位置する構成に代えて、空力スタビライザ20が前輪15上方に車体Bに対し上下動可能に設けられている点で第1及び第2の実施形態とは異なる。
【0058】
具体的には、図7(A)及び図7(B)に示される如く、空力スタビライザ20は、長手方向が車幅方向に略一致すると共に板厚方向が車体前後方向に略一致する姿勢で配置されており、ホイールハウスインナ14A及びフェンダライナ19に形成されたガイド孔62に上下方向のスライド可能に嵌入されている。これにより、空力スタビライザ20は、図7(A)に示される如くホイールハウス16内に突出する整流位置と、図7(B)に示される如くホイールハウス16から退避して車体内部に格納される回避位置としての格納位置とを取り得る構成とされている。整流位置に位置する空力スタビライザ20は、前輪15前方に配置された第1の実施形態の場合と同様に機能する。
【0059】
以上説明した空力スタビライザ20は、前輪15を車体Bに対し支持するためのフロントサスペンション64における車体Bに対し上下方向に相対変移する部分に支持されており、サスペンションの動作に応じて上下動して整流位置と格納位置との間を移動する構成とされている。具体的には、フロントサスペンション64は、上下方向に長手とされたロッド66Aの上端がフェンダエプロン14に形成されたサスペンションタワー14Bに固定されると共にシリンダ66Bの下端がアーム部材68を介して前輪15に連結されたショックアブソーバ66と、シリンダ66Bに固定されたバネ受け皿66Cとサスペンションタワー14Bとの間に圧縮状態で配設された圧縮コイルスプリング70とを有し、所謂ストラット式のサスペンションとして構成とされている。
【0060】
そして、この実施形態では、空力スタビライザ20は、可動支持構造としてのブラケット72を介して圧縮コイルスプリング70の中間部に連結されている。これにより、空力スタビライザ20は、70を介して車体Bに支持されており、圧縮コイルスプリング70の変位すなわち前輪15の車体Bに対する上下動に追従して車体Bに対し上下動するようになっている。空力スタビライザ20は、通常は整流位置に位置する設定とされており、前輪15が上方に変位した(車体Bに近接)場合に格納位置側に移動する構成とされている。
【0061】
上記構成の可動空力スタビライザ装置60では、通常は整流位置に位置する空力スタビライザ20によって、ホイールハウス16内で前輪15の回転に伴う乱流が発生することが防止される。このため、第1の実施形態と同様に、空気抵抗の低減による燃費向上、接地荷重の確保による操縦安定性の向上が図られる。
【0062】
例えば悪路走行や突起(段差)乗り越えに伴って前輪15が上向きにバウンドした場合、圧縮コイルスプリング70に支持されている空力スタビライザ20は、図7(B)に示される如く前輪15のバウンドに追従して格納位置側に移動する。このため、空力スタビライザ20と前輪15との干渉が防止される。すなわち、図8(A)及び図8(B)に示される比較例に係る固定式スタビライザ200では、前輪15がバウンドした場合、前輪15が固定式スタビライザ200に干渉し、固定式スタビライザ200が破損する原因となる。
【0063】
これに対して可動空力スタビライザ装置60では、空力スタビライザ20が前輪15に追従して上下動するため、上記の通り空力スタビライザ20と前輪15との干渉が防止される。このため、整流位置を前輪15に近接した位置に設定して通常走行時の空力性能を高めつつ、前輪15の転舵時には該前輪15と空力スタビライザ20との干渉を防止することができる。
【0064】
なお、上記第3の実施形態では、空力スタビライザ20が圧縮コイルスプリング70に支持された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、フロントサスペンション64の前輪15側部分の何処に空力スタビライザ20を支持させても良い。上記の例では、例えば、シリンダ66Bやバネ受け皿66Cに空力スタビライザ20を支持させることができる。これらの場合、空力スタビライザ20の車体Bに対する上下方向にストロークが前輪15の車体Bに対する上下方向のストロークに略一致する。
【0065】
なお、上記した各実施形態では、可動空力スタビライザ装置10、40、60が前輪15を収容するホイールハウス16に設けられた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、後輪用のホイールハウス16に可動空力スタビライザ装置10、40、60、固定空力スタビライザ80、90を設けても良い。この場合、全輪に同じ可動空力スタビライザ装置10等を設ける構成には限られず、例えば、前輪15側に可動空力スタビライザ装置10を設け、後輪側に固定空力スタビライザ80を設ける如く各種組み合わせが可能である。また、後輪側にのみ可動空力スタビライザ装置10等を設けても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る可動空力スタビライザ装置を示す側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る可動空力スタビライザ装置を示す図であって、(A)は空力スタビライザが整流位置に位置する状態の平面断面図、(B)は空力スタビライザが格納位置に位置する状態の平面断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る可動空力スタビライザ装置を構成する空力ECUによる制御フローを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る可動空力スタビライザ装置を示す平面断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る可動空力スタビライザ装置を示す図であって、(A)は空力スタビライザが内側に転舵した前輪を回避する状態の平面断面図、(B)は空力スタビライザが外側に転舵した前輪を回避する状態の平面断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る可動空力スタビライザ装置を示す側面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る可動空力スタビライザ装置を示す図であって、(A)は空力スタビライザが整流位置に位置する状態の背面図、(B)は空力スタビライザが格納位置に位置する状態の背面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態との比較例に係る固定式スタビライザを示す図であって、(A)は側面図、(B)は背面図である。
【符号の説明】
【0067】
10 可動空力スタビライザ装置(車両用空力装置)
15 前輪(車輪)
15A 回転軸(車輪の回転軸心)
16 ホイールハウス
20 空力スタビライザ
24 アクチュエータ(可動支持構造)
32 空力ECU(制御装置)
36 ブレーキセンサ(ブレーキ作動検出手段)
38 車輪速センサ(スリップ検出手段)
40 可動空力スタビライザ装置
44 アクチュエータ(可動支持構造)
54 空力ECU(制御装置)
56 ステアリングアングルセンサ(転舵角検出手段)
60 可動空力スタビライザ装置
64 フロントサスペンション(サスペンション)
70 圧縮コイルスプリング(サスペンション)
72 ブラケット(可動支持構造)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールハウス内で空気流を整流するための空力スタビライザと、
前記空力スタビライザを、前記ホイールハウス内に突出した整流位置と、前記車輪との干渉を回避し得る回避位置と取り得るように車体に支持する可動支持構造と、
を備えた車両用空力装置。
【請求項2】
前記可動支持構造は、前記空力スタビライザに前記整流位置と回避位置との間を移動するための移動力を付与するアクチュエータであり、
前記空力スタビライザが車両の走行状態に応じた位置を取るように前記アクチュエータの作動を制御する制御装置をさらに備えた請求項1記載の車両用空力装置。
【請求項3】
車両のスリップ状態を検出するためのスリップ検出手段を備え、
前記制御装置は、前記スリップ検出手段の検出結果に基づいて車両のスリップが生じていると判断した場合に、前記空力スタビライザが前記回避位置に位置するように前記アクチュエータの作動を制御する請求項2記載の車両用空力装置。
【請求項4】
車両のフレーム作動状態を検出するためのブレーキ作動検出手段を備え、
前記制御装置は、前記ブレーキ作動検出手段の検出結果に基づいてブレーキの操作頻度が高いと判断した場合には、前記空力スタビライザが前記整流位置に位置するように前記アクチュエータの作動を制御する請求項2又は請求項3記載の車両用空力装置。
【請求項5】
前記車輪の転舵角を検出するための転舵角検出手段を備え、
前記制御装置は、前記転舵角検出手段の検出結果に基づいて前記車輪の転舵角が所定角度以上であると判断した場合には、前記空力スタビライザが前記回避位置に位置するように前記アクチュエータの作動を制御する請求項2乃至請求項4の何れか1項記載の車両用空力装置。
【請求項6】
前記空力スタビライザは、前記車輪に対し車体上下方向の上側に配置されており、
前記可動支持構造は、車体に対し前記車輪を支持するサスペンションにおける該車体との相対変位を生じる部分と前記空力スタビライザとを連結する連結部材を含む請求項1記載の車両用空力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−253929(P2007−253929A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353862(P2006−353862)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【分割の表示】特願2006−79179(P2006−79179)の分割
【原出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】