説明

車両用空調システム

【課題】乗員に不快感を与えることなく、空調装置を作動させることが可能な車両用空調システムを提供する。
【解決手段】車両のキーに設けられるキーデバイス200の周囲臭気センサ32により、乗員が車両に乗車する前に滞在した住居内の住居内臭気データを検出する。そして、乗員が車両に乗車した場合には、この住居内臭気データに基づいて切替判定値の初期値を設定する。空調制御部14は、切替判定値と車外臭気センサ15にて検出される車外臭気データに基づき、車外臭気データが大きい場合には内気循環モードで空調装置を作動させ、車外臭気データが小さい場合には外気導入モードで空調装置を作動させる。従って、乗員の期待どおりの空調制御が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車内の空気を空調制御する車両用空調システムに係り、特に、車両の乗員が乗車前に滞在した空間の環境に応じて空調制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の空調装置として、例えば、特開2000−135915号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。該特許文献1では、車外空気の汚れ状態に応じて、自動的に内気循環、または外気導入の切り替えを行う機能を備え、車外空気の汚れ状態が予め設定した判定値を上回る場合には、外気を遮断して汚れた空気が車内に導入されることを防止するようにしている。また、上記の判定値は、空調装置を起動するときに検出される車外空気の汚れ状態に基づいて決定され、その後、車外空気の汚れ状態の変化に応じて随時更新される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−135915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1に記載された従来技術では、空調装置を起動する際には、車外(車両を止めている駐車場等)の空気の汚れ状態に基づいて初期判定値が設定されて空調装置が作動するので、例えば、車両の乗員が住居等の室内に滞在した後、車両に乗車する場合には、乗員は駐車場とは異なる空間に滞在していたにもの関わらず、駐車場の環境状態を基準として初期判定値が設定されることになり、乗員周囲の環境の変化に適した空調制御ができずに、乗員に不快感を与える場合があるという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、乗員に不快感を与えることなく、空調装置を作動させることが可能な車両用空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本願請求項1に記載の発明は、車両の乗員が滞在する場所での環境情報を検出する外部環境情報検出手段と、前記車両内に設けられる空調装置を制御する空調制御手段と、を備え、前記空調制御手段は、前記乗員が車両に乗車する直前に滞在した場所での、前記外部環境情報検出手段で検出された環境情報に基づいて、前記空調装置を作動させる際の初期判定値を設定し、この初期判定値を用いて前記空調装置を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両用空調システムでは、乗員が車両に乗車する前に滞在した空間の環境と、車両外部の環境が異なる場合であっても、乗員が滞在した空間の環境に合わせて車載された空調装置を制御することができるので、車両内の環境を乗員が滞在した空間の環境に近づけることができ、乗員の不快感を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用空調システムの、空調制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用空調システムの、キーデバイスの構成を示すブロック図である。
【図3】車両のエンジンルーム周辺の各種機器の配置構成を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る車両用空調システムの、制御手順を示すフローチャートである。
【図5】従来より用いられている車両用空調システムの、第1の制御手順を示すフローチャートである。
【図6】車両の乗員が住居内から車両に乗車する際の動作を模式的に示す説明図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る車両用空調システムの、内気循環と外気導入の切り替えを示すタイミングチャートである。
【図8】従来における第1の制御方式による車両用空調システムの、内気循環と外気導入の切り替えを示すタイミングチャートである。
【図9】従来より用いられている車両用空調システムの、第2の制御手順を示すフローチャートである。
【図10】従来における第2の制御方式による車両用空調システムの、内気循環と外気導入の切り替えを示すタイミングチャートである。
【図11】従来における第2の制御方式による車両用空調システムの、内気循環と外気導入の切り替えを示すタイミングチャートである。
【図12】本発明の第2実施形態に係る車両用空調システムの、制御手順を示すフローチャートである。
【図13】本発明の第2実施形態に係る車両用空調システムの、内気循環と外気導入の切り替えを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用空調システムの、空調制御装置100の構成を示すブロック図、図2は、キーデバイス200の構成を示すブロック図、図3は、車両のボンネット内部の構成を模式的に示す説明図である。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係る空調制御装置100は、車両に搭載される空調装置を制御するものであり、車両用のキー(携帯機)が車内に持ち込まれたことを検出するキー検出部11と、乗員によりキーが操作されたことを検出するキー操作入力部12と、キー検出部11による検出信号、及びキー操作入力部12による検出信号に基づいて、車両に搭載される空調装置及びその他の電装品の作動を管理する電装品管理部13と、を備えている。
【0011】
更に、空調制御装置100は、車両外部の臭気強度を測定してこの臭気強度に応じた信号を出力する車外臭気センサ15(車外環境情報検出手段)と、該車外臭気センサ15及びその他のセンサによる検出信号に基づいて空調装置を制御する空調制御部14(空調制御手段)と、を備えている。該空調制御部14は、内外気切替アクチュエータ16(内外気切替手段)、及びその他の空調機器を制御する。
【0012】
また、図3に示すように、車両のボンネット内部には、エンジンルーム24が設けられ、その側部近傍には、ヒータークーラーユニット22と、空気取り入れ口ドア21と、ブロワユニット23、及び空調制御部14からなる空調装置が設けられている。更に、車外臭気センサ15と、キー検出部11、及び電装品管理部13が設けられている。
【0013】
一方、本実施形態に係るキーデバイス200は、例えば、車両用のキーに搭載されており、図2に示すように、現在時刻を計時するタイマー部31と、周囲環境の臭気(環境情報)を計測する周囲臭気センサ32(外部環境情報検出手段)と、タイマー部31により設定される所定のサンプリング周期で、周囲臭気センサ32にて検出される臭気データを記憶する臭気データ記憶部34と、臭気データ記憶部34に記憶されている臭気データを、図1に示したキー検出部11からのトリガを受けた際に、鍵認証の後に送信する通信部35と、を備えている。これらの構成要素は、例えば、CPU、RAM、ROM、専用のICなどで構成することができる。また、キーデバイス200は、各構成要素に電力を供給するためのバッテリ33を備えている。
【0014】
次に、上述のように構成された車両用空調システムの動作について説明する。車両の乗員は、車両用のキー(キーデバイス200が搭載されたキー)を携行しており、例えば、乗員が車両を駐車して住居内に滞在している場合には、図2に示した周囲臭気センサ32により、周囲環境の臭気データ(以下、「住居内臭気データ」という)が測定される。そして、この住居内臭気データは、所定のサンプリング臭気で逐次臭気データ記憶部34に記憶される。なお、この記憶処理は、例えば上書き方式を採用することができ、直近の所定時間内(例えば、30分以内)の住居内臭気データが記憶保存される。
【0015】
そして、乗員が住居内から屋外に出て車両に乗車し、キーシリンダ内にキーを挿入すると、図1に示すキー検出部11がキーの挿入を検出し、キーデバイス200の臭気データ記憶部34との間で通信を行い、住居内臭気データ(例えば、直近の30分以内に測定した住居内臭気データ)を取得する。
【0016】
また、乗員によりキーが操作されると、この操作がキー操作入力部12により検出され、電装品管理部13に送信され、車両に搭載される各種の電装品の操作が可能となる。その後、電装品管理部13は、空調制御部14に起動信号を送信し、空調装置を作動させる。この際、電装品管理部13は、キー検出部11で受信された住居内臭気データを空調制御部14に送信する。
【0017】
また、車外臭気センサ15が作動することにより、車両外部の臭気が測定され、測定した臭気データ(以下、「車外臭気データ」という)は空調制御部14に伝送される。そして、空調制御部14は、住居内臭気データと、車外臭気データとに基づいて、内外気切替アクチュエータ16を制御し、外気導入モード、或いは内気循環モードのうちの一方を選択し、図3に示した空気取り入れ口ドア21を切り替える。
【0018】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る空調制御部14における詳細な処理手順について、図4,図5に示すフローチャート、図6に示す模式図、図7,図8に示すタイミングチャートを参照して説明する。
【0019】
図4は、本発明の第1実施形態に係る空調制御部14による、内気循環モードと外気導入モードの切り替えの処理手順を示すフローチャートである。初めに、ステップS11において、空調制御部14は、運転開始時であるか否かを判定する。即ち、キーシリンダ内にキーが挿入されてキーが操作され、空調装置の作動が開始された直後であるか否かを判定する。
【0020】
そして、運転開始時である場合には(ステップS11でYES)、ステップS12において空調制御部14は、乗車前の乗員環境データを取得する。即ち、キーデバイス200の臭気データ記憶部34に記憶されている住居内臭気データを、キーデバイス200との間の通信により取得する。そして、ステップS13において、この住居内臭気データに基づいて、外気導入モードと内気循環モードとを切り替える基準とするための、切替判定値の初期値(初期判定値)を設定する。例えば、図7(a)に示すように、住居内の空気汚れ度を切替判定値Q1として初期的に設定する。なお、切替判定値の初期値は、住居内臭気データ自体を用いても良いし、住居内臭気データを基準として任意の演算処理を加えて切替判定値の初期値を設定しても良い。
【0021】
ステップS13による切替判定値の初期値の設定が終了した場合には、ステップS14の処理において空調制御部14は、車外臭気センサ15が暖気中(ウォームアップ中)であるか否かを判断し、暖気中である場合には(ステップS14でYES)、ステップS20において、内外気切替アクチュエータ16は、空気取り入れ口ドア21を内気循環側に切り替えて、空調装置を内気循環モードで作動させる。
【0022】
一方、車外臭気センサの暖気が終了した場合には(ステップS14でNO)、ステップS15において空調制御部14は、車外臭気センサ15により検出される車外臭気データを取得する。
【0023】
次いで、ステップS16において空調制御部14は、切替判定値と車外臭気データとを比較する。初期的には、ステップS13の処理で設定された切替判定値の初期値と車外臭気データとを比較する。そして、車外臭気データの方が切替判定値よりも大きい場合(即ち、外気が汚れている場合)には、ステップS17において内外気切替アクチュエータ16は、空気取り入れ口ドア21を切り替えて内気循環モードとする。また、車外臭気データの方が切替判定値よりも小さい場合(即ち、外気がきれいな場合)には、ステップS18において、空気取り入れ口ドア21を切り替えて外気導入モードとする。
【0024】
その後、ステップS19において空調制御部14は、切替判定値を更新する。この処理では、車外臭気センサ15で検出される車外臭気データに基づいて、切替判定値を適宜変更する。
【0025】
次に、図7に示すタイミングチャートを参照して、本実施形態の制御を実施した場合の、車外臭気の変化と、内気循環モード、外気導入モードの切替制御について説明する。図7において、曲線q1は屋外の空気汚れ度、即ち車外臭気データを示し、曲線q2は切替判定値を示し、p1は内気循環または外気導入のいずれかを示している。
【0026】
一般に、乗員が車両に乗車する場合には、図6(a)に示すように乗員51が住居52内に滞在しており、その後、住居52から外に出て、図6(b)に示すように乗員51が車両53に乗車する。
【0027】
そして、図7(a)に示す時刻t0において、乗員が車両に乗車し、キーシリンダーにキーを差し込むと、直前に滞在した住居内の臭気データに基づいて切替判定値の初期値が設定されるので、このときの空気汚れ度が切替判定値Q1として設定される。この場合、住居内の臭気データは、屋外の臭気データよりも低いので(きれいであるので)、切替判定値Q1は、車外臭気データq1よりも低い値となっている。
【0028】
時刻t0でキーが操作されると、時刻t1までの間は車外臭気センサ15が暖気中とされるので、この間は切替判定値q2は初期値であるQ1に維持される。よって、図7(b)の曲線p1に示すように、空調装置は内気循環モードとされる。時刻t1となって車外臭気センサ15の暖気が終了すると、車外臭気データに応じて切替判定値q2は変更されて徐々に大きくなる。しかし、時刻t1の直後は、車外臭気データq1と切替判定値q2との差が大きいので、暫くの間はq1はq2を下回らず、図7(b)の曲線p1に示すように、内気循環モードが維持される。
【0029】
即ち、本実施形態では、切替判定値の初期値として、乗車前に滞在した空間の臭気強度である住居内臭気データを用いるので、キー操作が行われた後に、車外臭気センサ15にて測定した車外臭気データが、車両内の空気の臭気よりも大きいと判定し、空調装置を内気循環モードで作動する。これにより、暫くの間は車外の空気を車両内に導入しないように制御することができ、車外の汚れた空気を遮断して、室内環境を良好な状態に保持することができる。換言すれば、乗員が乗車前に滞在した空間(住居内等)のきれいな空気の状態に近づけたいという乗員の期待に適合させることができる。
【0030】
次に、上述した本実施形態による制御と比較するために、従来における第1の制御方式を用いて空調装置を制御する場合の処理動作を、図5に示すフローチャートを参照して説明する。この制御では、キーデバイス200による住居内臭気データの測定を行わず、乗員が車両に乗車する直前の、車外臭気データを切替判定値の初期値として設定する。
【0031】
初めに、ステップS31において空調制御部14は、車外臭気センサ15が暖気中であるか否かを判定する。そして、暖気中である場合には(ステップS31でYES)、ステップS39において内外気切替アクチュエータ16は、空気取り入れ口ドア21を内気循環側に切り替えて空調装置を内気循環モードで作動させる。
【0032】
他方、暖気中でない場合には(ステップS31でNO)、ステップS32において空調制御部14は、車外臭気センサ15により検出される車外臭気データを取得する。
【0033】
ステップS33において空調制御部14は、車外臭気データの取得が初回であるか否かを判断する。そして、初回である場合には(ステップS33でYES)、ステップS34において空調制御部14は、この車外臭気データを切替判定値の初期値として設定する。
【0034】
その後、ステップS35において空調制御部14は、車外臭気データと、切替判定値とを比較する。そして、車外臭気データの方が切替判定値よりも大きい場合には、ステップS36において内外気切替アクチュエータ16は、空気取り入れ口ドア21を切り替えて内気循環モードとする。また、車外臭気データの方が切替判定値よりも小さい場合には、ステップS37において、空気取り入れ口ドア21を切り替えて外気導入モードとする。
【0035】
その後、ステップS38において空調制御部14は、切替判定値を更新する。この処理では、車外臭気センサ15で検出される臭気データに基づいて、切替判定値を適宜変更する。
【0036】
次に、図8に示すタイミングチャートを参照して、従来の第1の制御方式を用いた場合の、車外臭気の変化と、内気循環、外気導入の切替制御について説明する。図8において、曲線q3は屋外の空気汚れ度、即ち車外臭気データを示し、曲線q4は切替判定値を示し、曲線p2は内気循環または外気導入の状態を示している。
【0037】
図8(a)の時刻t0で乗員が車両に乗車し、更にキーが操作されると、時刻t1までの間は車外臭気センサ15が暖気中とされ、この間は切替判定値q4は車外臭気データq3と同一の値に維持される。この際、図5のステップS39に示したように、空調装置は内気循環モードとされるので、図8(b)に示す曲線p2は、内気循環モードとなっている。
【0038】
時刻t1を過ぎて暖気が終了すると、車外臭気データに応じて切替判定値q4は変化し、且つ車外臭気データq3も変化する。そして、時刻t2にて車外臭気データq3が切替判定値q4を下回ると、曲線p2に示すように空調装置は外気導入モードに切り替わる。更に、時刻t3〜t4の間では車外臭気データq3が切替判定値q4を下回るので内気循環モードに切り替わる。
【0039】
つまり、従来の第1の制御方式では、車外臭気データに基づいて切替判定値の初期値が設定されるので、乗員が車両外部の環境に慣れていないにも関わらず、空調装置が外気導入モードで作動することになり、乗員に不快感を感じてしまうという欠点があるが、本実施形態ではこれを解消している。
【0040】
次に、従来における第2の制御方式を用いて空調装置を制御する場合の処理動作を、図9に示すフローチャートを参照して説明する。この制御では、キーデバイス200による外部臭気データの測定を行わず、予め設定した固定値を車外臭気データを切替判定値の初期値として設定する。
【0041】
初めに、ステップS51において、空調制御部14は、車外臭気データの取得が初回であるか否かを判断する。そして、初回である場合には(ステップS51でYES)、ステップS52において空調制御部14は、予め設定した固定値を切替判定値の初期値として設定する。
【0042】
次いで、ステップS53において空調制御部14は、車外臭気センサ15が暖気中であるか否かを判定する。そして、暖気中である場合には(ステップS53でYES)、ステップS59において内外気切替アクチュエータ16は、空気取り入れ口ドア21を、内気循環側に切り替えて空調装置を内気循環モードで作動させる。
【0043】
一方、暖気が終了した場合には(ステップS53でNO)、ステップS54において空調制御部14は、車外臭気センサ15により検出される車外臭気データを取得する。
【0044】
ステップS55において空調制御部14は、車外臭気データと、切替判定値とを比較する。そして、車外臭気データの方が切替判定値よりも大きい場合には、ステップS56において内外気切替アクチュエータ16は、空気取り入れ口ドア21を切り替えて内気循環モードとする。また、車外臭気データの方が切替判定値よりも小さい場合には、ステップS57において、空気取り入れ口ドア21を切り替えて外気導入モードとする。
【0045】
その後、ステップS58において空調制御部14は、切替判定値を更新する。この処理では、車外臭気センサ15で検出される臭気データに基づいて、切替判定値を適宜変更する。
【0046】
次に、図10,図11に示すタイミングチャートを参照して、従来の第2の制御方法を採用した場合の、車外臭気の変化と、内気循環、外気導入の切替制御について説明する。図10は、乗員が滞在した住居内の空気よりも車外の空気の方が汚れている場合のタイミングチャートである。図10において、曲線q11は屋外の空気汚れ度、即ち車外臭気データを示し、曲線q12は切替判定値を示し、曲線p11は内気循環または外気導入のいずれかの状態を示している。
【0047】
図10(a)の時刻t0で乗員が車両に乗車し、更にキーが操作されると、切替判定値の初期値が固定値であるQ2に設定される。そして、時刻t0〜t1までの間は、車外臭気センサ15が暖気中とされ、この間は切替判定値q12は一定値となる。この際、図9のステップS59に示したように、空調装置は内気循環モードとされる。従って、図10(b)に示す曲線p11は内気循環モードとされている。
【0048】
時刻t1となって暖気が終了すると、車外臭気データに応じて切替判定値q12は変化し、且つ車外臭気データq11も変化する。しかし、車外臭気データq11と、切替判定値q12との差分が大きいので、暫くの間はq11がq12を上回っており、曲線p11に示すように、内気循環モードが継続されることとなる。この場合には、乗員にとって外気の空気状態が不快でない場合であっても、内気循環モードが継続されて外気導入モードとならないので、車室内の空気を換気できないという問題が生じてしまう。その結果、車室内に存在する水蒸気が換気されずに、窓が曇ったり、車室内の二酸化炭素濃度の上昇を招くという問題が生じる。
【0049】
図11は、車外の空気よりも住居内の空気の方が汚れている場合のタイミングチャートである。図11において、曲線q13は屋外の空気汚れ度、即ち車外臭気データを示し、曲線q14は切替判定値を示し、曲線p12は内気循環または外気導入のいずれかの状態を示している。
【0050】
図11(a)の時刻t0で乗員が車両に乗車し、更にキーが操作されると切替判定値の初期値が例えば、固定値であるQ2に設定される。また、乗員が車両に乗車する前に滞在した住居の空気の汚れをQ3とする。そして、時刻t0〜t1までの間は、車外臭気センサ15が暖気中とされ、この間は切替判定値q14は一定値となる。この際、図9のステップS59に示したように、空調装置は内気循環モードとされる。従って、図11(b)に示す曲線p12は内気循環モードとされている。
【0051】
時刻t1となって暖気が終了すると、車外臭気データに応じて切替判定値q14は変化し、且つ車外臭気データq13も変化する。そして、時刻t2にてq13がq14を下回るので、外気導入モードに切り替えられ、その後、時刻t3で内気循環モードに戻る。ここで、実際には乗員が滞在した住居内の空気の汚れ度はQ3であり、q13よりも臭気データは大きいので、乗員にとっては外気導入モードとした方が外部の空気を取り入れることができて快適であるが、図11に示す例では時刻t2〜t3の間でのみ外気導入モードとされ、それ以外には内気循環モードとされるので、乗員に不快感を与えてしまう。実際には、時刻t4以降にq13がQ3を上回るので、これ以前には外気導入モードとし、時刻t4以降に内気循環モードに切り替わることが望ましい。
【0052】
上述のように、本実施形態に係る制御を採用せず従来の第1の制御方式を用いた場合には、キー操作が行われた後に車外臭気センサ15で測定された車外臭気データ(臭気の大きい空気の臭気データ)を切替判定値の初期値として設定するので、車外臭気データがより一層強くならない限り、車外の空気がきれいであると判断して空調装置を外気導入モードとしてしまう。その結果、乗員が期待する乗車前に滞在した空間(住居内等)の環境に近づけたいという乗員の期待にそぐわない制御となってしまう。従って、乗員の期待と実際の空調制御とのギャップが大きく、実際には乗員が車外の臭気に順応することに頼る空調制御となってしまい、乗員に不快感を与えてしまう。
【0053】
つまり、車両は通常屋外等、居住空間とは別の空気環境に置かれており、乗車前の乗員は車両と異なる居住空間に滞在し、乗車するために屋外に出る。通常、屋外環境の臭気が悪化している状態では、乗員が不快感を持つことを回避するために、居住空間の空気環境は臭気の遮断または除去により清浄化されている。一般的に人間の嗅覚は順応性があるため、きれいな環境下に滞在した場合は、低い濃度の臭気物質にも敏感になる。乗員は、車両に乗車するために居住空間から出て車両に移動したときに車外に臭気がある場合には、車室内の閉鎖空間における乗員の期待は、居住空間と同一のきれいな環境であり、上述した従来の第1の制御方式ではこの要望を達成することができない。
【0054】
また、前述した従来の第2の制御方式においても、切替判定値の初期値を固定値とする方式であり、上記の問題を解消することはできない。
【0055】
これに対して、本実施形態では、乗員が車両に乗車する前に滞在した住居内の臭気データに適合するように、切替判定値の初期値を設定するので、乗員が車両に乗車した後において、乗員の期待通りの環境を維持することができることとなる。
【0056】
このようにして、本発明の第1実施形態に係る車両用空調システムでは、キーデバイス200に設けられた周囲臭気センサ32を用いて、乗員が車両に乗車する前に滞在した住居内の臭気データ(住居内臭気データ)を計測し、その後、乗員が住居から屋外に出て、車両に乗車した場合には、住居内臭気データに基づいて車両内に搭載される空調装置の、外気導入モード、内気循環モードが制御される。従って、乗員の状況に応じた適切な空調制御が可能となり、乗員に不快感を与えることのない空調制御が可能となる。
【0057】
なお、上述した実施形態では、環境情報として、臭気データを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、温度とすることも可能である。即ち、乗員が車両に乗車する前に滞在した住居内の温度データを測定し、この温度と外気温度との比較により、内気循環モード、及び外気導入モードを切り替えるようにしても良い。
【0058】
また、上述した実施形態では、乗員が滞在した居室環境を記憶する媒体として、周囲臭気センサ32を搭載したキーを用いる例について説明したが、乗員が滞在した住居内における空気質を制御する電化製品との通信により、空調制御装置100が居住空間の情報を入手する構成としても良い。
【0059】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る車両用空調システムの、空調制御部14の処理手順について、図12に示すフローチャート、及び図13に示すタイミングチャートを参照して説明する。
【0060】
初めに、ステップS71において、空調制御部14は、運転開始時であるか否かを判定する。即ち、キーシリンダ内にキーが挿入されてキーが操作され、空調装置の作動が開始された直後であるか否かを判定する。
【0061】
そして、運転開始時である場合には(ステップS71でYES)、ステップS72において空調制御部14は、乗員が車両に乗車する前の乗員の環境データ取得時間を計測する。例えば、乗員が住居内に滞在していた場合には、この住居から屋外に出て、その後車両に乗車するまでの経過時間を計時する。なお、経過時間は、図2に示したタイマー部31により計時することができる。また、乗員が住居から屋外に出たことは、例えば、キーデバイス200に設けられる操作スイッチ(図示省略)が操作されたことにより判断することが可能である。
【0062】
経過時間が予め設定した閾値時間であるn分以上である場合には、ステップS75において空調制御部14は、切替判定値を設定しない。即ち、未設定とする。また、n分以内である場合には、ステップS73において空調制御部14は、乗車前の乗員の環境データを取得する。具体的には、図2に示すキーデバイス200の臭気データ記憶部34に記憶されている住居内臭気データを取得する。その後、ステップS74において、この住居内臭気データに基づいて切替判定値の初期値を設定する。
【0063】
次いで、ステップS76において空調制御部14は、車外臭気センサ15が暖気中(ウォームアップ中)であるか否かを判断し、暖気中である場合には(ステップS74でYES)、ステップS84において内外気切替アクチュエータ16は、空気取り入れ口ドア21を内気循環側に切り替え、空調装置を内気循環モードで作動させる。
【0064】
一方、暖気が終了した場合には(ステップS76でNO)、ステップS77において空調制御部14は、車外臭気センサ15により検出される車外臭気データを取得する。
【0065】
次いで、ステップS78において空調制御部14は、切替判定値の初期値が設定されているか否かを判定する。切替判定値の初期値が設定されていない場合には、ステップS79において空調制御部14は、車外臭気センサ15にて検出される車外臭気データを切替判定値の初期値として設定する。
【0066】
その後、ステップS80において空調制御部14は、切替判定値と車外臭気データとを比較する。そして、車外臭気データの方が切替判定値よりも大きい場合(即ち、外気が汚れている場合)には、ステップS81において内外気切替アクチュエータ16は空気取り入れ口ドア21を切り替えて内気循環モードとする。また、車外臭気データの方が切替判定値よりも小さい場合(即ち、外気がきれいな場合)には、ステップS82において、空気取り入れ口ドア21を切り替えて外気導入モードとする。
【0067】
その後、ステップS83において空調制御部14は、判定値を更新する。この処理では、車外臭気センサ15で検出される車外臭気データに基づいて、判定値を適宜変更する。
【0068】
次に、図13に示すタイミングチャートを参照して、第2実施形態の制御を実施した場合の、車外臭気の変化と、内気循環、外気導入の切替制御について説明する。図13において、曲線q21は屋外の空気汚れ度、即ち車外臭気データを示し、曲線q22は切替判定値を示し、曲線p21は内気循環または外気導入のいずれかの状態を示している。なお、図13では、乗員が住居内から屋外に出て、n分以上の時間が経過した後に車両に乗車した場合(図12のステップS72で「n分以上」と判断した場合)の挙動について示している。
【0069】
図13(a)に示す時刻t0において、乗員が住居から屋外に出て、その後時刻t1にて乗員が車両に乗車し、キーシリンダーにキーを差し込むと、時刻t2までの間は車外臭気センサ15が暖気中とされるので、図12のステップS84の処理により、空調装置は内気循環モードとされる。なお、時刻t0〜t1の経過時間はn分以上であるとする。
【0070】
その後、時刻t2で暖気が終了すると、乗員が屋外に居る時間がn分以上であることから、切替判定値q22は車外臭気センサ15により検出される車外臭気データにより設定されることになるので、q21がq22を下回る時刻t3にて、内気循環モードから外気導入モードに切り替えられることとなる。
【0071】
即ち、乗員が車両に乗車する前に滞在した住居と、車両の駐車場所との距離が離れており、乗員が車外の環境に順応するのに十分な時間が有った場合には、切替判定値の初期値を住居内の環境に合わせるよりも、車外の環境に合わせる方が乗員の感覚に適合する。従って、第2本実施形態では、住居から屋外に出て車両に乗車するまでの時間を計時し、この時間が予め設定した閾値時間であるn分を超えた場合には、車外臭気データに基づいて切替判定値の初期値を設定することにより、より現実に適した乗員の期待通りの空調制御を行うことができる。なお、閾値時間nは、任意の値に設定することが可能である。
【0072】
このようにして、第2実施形態に係る車両用空調システムでは、乗員が屋外に滞在した時間に基づき、滞在時間がn分を下回る場合には、前述した第1実施形態と同様の制御を行うことにより、住居内の環境を維持するための空調制御を行い、滞在時間がn分を上回る場合には、乗員は屋外の環境に順応したものと判断して、車外臭気データを基準とした内気循環モードと外気導入モードの切替制御を行う。従って、より一層乗員の期待通りの空調制御を行うことができる。
【0073】
また、第2実施形態においては、環境情報として臭気を例に挙げて説明したが、環境情報を温度としても同様の効果を得ることができる。
【0074】
また、キーデバイス200をi−key(インテリジェントキー)とすることにより、乗車する人に合わせた環境情報に設定することもできる。なお、これに限らず空調制御部14は、携帯電話等の通信機器を用いて乗員の乗車前の環境情報を読み取らせた環境情報を受信して直接記憶できるものとすることも可能である。
【0075】
以上、本発明の車両用空調システムを図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、乗員が車両に乗車する前の環境に適した空調制御を行うことに利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
11 キー検出部
12 キー操作入力部
13 電装品管理部
14 空調制御部
15 車外臭気センサ
16 内外気切替アクチュエータ
21 空気取り入れ口ドア
22 ヒータークーラーユニット
23 ブロワユニット
24 エンジンルーム
31 タイマー部
32 周囲臭気センサ
33 バッテリ
34 臭気データ記憶部
35 通信部
100 空調制御装置
200 キーデバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員が滞在する場所での環境情報を検出する外部環境情報検出手段と、
前記車両内に設けられる空調装置を制御する空調制御手段と、を備え、
前記空調制御手段は、前記乗員が車両に乗車する直前に滞在した場所での、前記外部環境情報検出手段で検出された環境情報に基づいて、前記空調装置を作動させる際の初期判定値を設定し、この初期判定値を用いて前記空調装置を制御することを特徴とする車両用空調システム。
【請求項2】
前記車両に搭載され、車両外部の環境情報を検出する車外環境情報検出手段を更に備え、
前記空調制御手段は、車内空気を循環する内気循環モードと、車外の空気を導入する外気導入モードとを切り替える内外気切替手段を備え、
前記内外気切替手段は、前記車外環境情報検出手段にて検出された環境情報と、前記初期判定値を基準として設定される判定値との比較に基づいて、前記内気循環モードまたは前記外気導入モードに切り替えることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調システム。
【請求項3】
前記外部環境情報検出手段は、乗員が携行可能な携帯機に搭載され、且つ、タイマ機能を備え、
前記空調制御装置は、前記携帯機が車両内に持ち込まれる以前に乗員が屋外に滞在した時間に基づいて前記初期判定値を設定することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の車両用空調システム。
【請求項4】
前記環境情報は、臭気または温度であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の車両用空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−171541(P2012−171541A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37078(P2011−37078)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】