説明

車両用空調システム

【課題】車室の好適な空調を実現しつつ、製造コストを削減可能な車両用空調システムを提供する。
【解決手段】本発明の車両用空調システムは、熱電変換モジュール3と、一面側熱交換器5と、他面側熱交換器7と、第1空調用熱交換器9と、第2空調用熱交換器11と、ラジエータ13と、一面側流路10を構成する第1、2流路15、16と、他面側流路20を構成する第3〜5流路17〜19とを備えている。一面側流路10及び他面側流路20では水が循環している。他面側流路20にはバイパス流路21と三方弁23とが設けられている。バイパス流路21は第3流路17と第4流路18とを接続している。三方弁23は、水をバイパス流路21に流通させて、水に第2空調用熱交換器11を迂回させる場合と、水をバイパス流路21に流通させず、水を第2空調用熱交換器11へ流通させる場合とを切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の車両用空調システムが開示されている。この車両用空調システムは、廃熱回収器と、ラジエータと、熱電変換モジュールと、一面側熱交換器と、他面側熱交換器と、水が循環可能な他面側流路とを備えている。
【0003】
廃熱回収器には、車両を駆動させるモータ等の廃熱が回収されるようになっている。熱電変換モジュールは、一面側と他面側とで放熱面と吸熱面とを切り替え可能となっている。一面側熱交換器は、熱電変換モジュールの一面側に設けられており、他面側熱交換器は、熱電変換モジュールの他面側に設けられている。他面側流路は、廃熱回収器とラジエータと他面側熱交換器とを接続している。
【0004】
この車両用空調システムでは、熱電変換モジュールの放熱面と吸熱面との切り替え操作と、他面側流路の切り替え操作とにより車室の空調を行う。
【0005】
具体的には、車室の暖房を行う場合、熱電変換モジュールの一面側を放熱面とし、他面側を吸熱面とする。また、他面側流路において、廃熱回収器と他面側熱交換器とを連通させ、他面側熱交換器及び廃熱回収器とラジエータとを非連通とする。これにより、他面側流路内の水が廃熱回収器内の熱によって加熱される。この水の熱が他面側熱交換器において熱電変換モジュールの他面側から吸熱される。この吸熱された熱は、一面側熱交換器内において、周りの空気に対して放熱される。この放熱によって加熱された空気が車室に供給され、車室の暖房が行われる。
【0006】
一方、車室の冷房を行う場合、熱電変換モジュールの一面側を吸熱面とし、他面側を放熱面とする。また、他面側流路において、ラジエータと他面側熱交換器とを連通させ、他面側熱交換器及びラジエータと廃熱回収器とを非連通とする。これにより、一面側熱交換器において熱電変換モジュールの一面側から吸熱され、一面側熱交換器の周りの空気が冷却される。この冷却された空気が車室に供給されることにより、車室の冷房が行われる。なお、熱電変換モジュールの他面側からの放熱を受けて加熱された他面側流路内の水は、ラジエータによって車室外の空気と熱交換されることにより冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平10−35268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、熱電変換モジュールによって吸熱され、冷却された空気は湿度が低くなる。このため、この空気を車室に供給することで車室の除湿を行うことが考えられる。しかし、この空気は冷却されて温度が低くなっていることから、特に寒い環境下に上記の車両用空調システムにおいて車室の除湿を行なえば、車室の暖房効果が低下してしまう問題がある。
【0009】
この点、例えば上記の車両用空調システムに複数の熱電変換モジュール、一面側熱交換器及び他面側熱交換器を設け、一方の一面側熱交換器において、空気を冷却することでその除湿を行い、他方の一面側熱交換器において、この除湿された空気の再加熱を行うことが考えられる。
【0010】
しかしながら、この場合、熱電変換モジュールや他面側熱交換器等の個数だけでなく、それぞれの他面側熱交換器と廃熱回収器とラジエータとを接続するため、他面側流路が複雑化する。このため、車両用空調システムの構成が複雑化し、その製造コストが増大する問題が生じてしまうこととなる。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、車室の好適な空調を実現しつつ、製造コストを削減可能な車両用空調システムを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の車両用空調システムは、印加する電流の方向を切り替え可能な熱電変換素子を有する熱電変換モジュールと、該熱電変換モジュールの一面側に設けられる一面側熱交換器と、該熱電変換モジュールの他面側に設けられる他面側熱交換器と、第1空調用熱交換器と、第2空調用熱交換器と、ラジエータと、該一面側熱交換器と該第1空調用熱交換器とを接続する一面側流路と、該他面側熱交換器と該第2空調用熱交換器と該ラジエータとを接続する他面側流路とを備え、
前記一面側流路は、前記一面側熱交換器から前記第1空調用熱交換器まで延びる第1流路と、該第1空調用熱交換器から該一面側熱交換器まで延びる第2流路とを有し、
前記他面側流路は、前記他面側熱交換器から前記第2空調用熱交換器まで延びる第3流路と、該第2空調用熱交換器から前記ラジエータまで延びる第4流路と、該ラジエータから該他面側熱交換器まで延びる第5流路と、該第3流路と該第4流路とを接続するバイパス流路とを有し、
該他面側流路には、熱交換媒体を該バイパス流路に流通させて、該熱交換媒体に該第2空調用熱交換器を迂回させる状態と、該熱交換媒体を該バイパス流路に流通させず、該熱交換媒体を該第2空調用熱交換器へ流通させる状態とを切り替え可能な切替手段が設けられていることを特徴とする(請求項1)。
【0013】
本発明の車両用空調システムでは、車室の暖房を行う場合、熱電変換モジュールの一面側が放熱面となり、他面側が吸熱面となるように、熱電変換モジュールの熱電変換素子に対して電流を印加する。また、切替手段は、熱交換媒体をバイパス流路に流通させる。これらにより、他面側熱交換器内の熱交換媒体が熱電変換モジュールから吸熱されるとともに、一面側熱交換器内の熱交換媒体が熱電変換モジュールからの放熱を受けて加熱される。この加熱された熱交換媒体は一面側流路を介して第1空調用熱交換器へ至る。そして、第1空調用熱交換器において、この熱交換媒体の熱が周りの空気に対して放熱され、空気が加熱される。こうして、この加熱された空気が車室に供給され、車室の暖房が行われる。
【0014】
この際、他面側流路では熱交換媒体がバイパス流路を流通することとなり、第2空調用熱交換器内を熱交換媒体が流通しないこととなる。なお、他面側熱交換器内で熱電変換モジュールによる吸熱を受けて冷却された熱交換媒体は、ラジエータにおいて、熱交換により加熱されることとなる。
【0015】
一方、車室の冷房を行う場合、熱電変換モジュールの一面側が吸熱面となり、他面側が放熱面となるように、熱電変換モジュールの熱電変換素子に対して電流を印加する。また、切替手段は、熱交換媒体をバイパス流路に流通させる。これらにより、他面側熱交換器内の熱交換媒体が熱電変換モジュールからの放熱を受けるとともに、一面側熱交換器内の熱交換媒体が熱電変換モジュールから吸熱を受けて冷却される。この冷却された熱交換媒体が一面側流路を介して第1空調用熱交換器へ至り、周りの空気を冷却する。こうして冷却された空気が車室に供給され、車室の冷房が行われる。また、他面側流路では暖房時と同様、熱交換媒体がバイパス流路を流通することとなり、第2空調用熱交換器内を熱交換媒体が流通しない。なお、他面側熱交換器内で熱電変換モジュールによる放熱を受けて加熱された熱交換媒体は、ラジエータにおいて、熱交換により冷却されることとなる。
【0016】
また、車室の除湿を行う場合、上記の冷房時の状態において、切替手段は、他面側熱交換器内で熱電変換モジュールによる放熱を受けて加熱された熱交換媒体をバイパス流路に流通させず、第2空調用熱交換器へ流通させる。これにより、第2空調用熱交換器において、この加熱された熱交換媒体の熱が放熱される。このため、第1空調用熱交換器において冷却及び除湿された空気の再加熱が第2空調用熱交換器によって行われ、空気の温度調整がなされる。こうして、温度調整がされた空気が車室に供給され、車室の除湿を行うことができる。
【0017】
このように、除湿に用いる空気の温度調整が行われていることから、この車両用空調システムでは、車室の除湿を行う場合に車室の空調効果を妨げ難くなっている。なお、この車慮用空調システムでは、熱電変換モジュールの一面側を吸熱面とし、他面側を放熱面とすることによっても、上記のような車室の除湿を行うことが可能である。この場合、第2空調用熱交換器において、空気の冷却及び除湿が行われ、第1空調用熱交換器において、その空気の再加熱が行われることとなる。また、除湿時における空気の再加熱の必要がない場合には、上記の冷房時の状態によって車室の除湿を行うこともできる。
【0018】
これらのように、この車両用空調システムでは、車室の暖房、冷房及び除湿のそれぞれを行う場合、熱電変換モジュールの熱電変換素子に対する電流の印加方向の切り替えと、切替手段による熱交換媒体の流通の切り替えとを行えば足りる。このため、車両用空調システムの構成を簡略化することが可能となる。
【0019】
したがって、本発明の車両用空調システムによれば、車室の好適な空調を実現しつつ、製造コストを削減できる。
【0020】
特に、この車両用空調システムでは構成が簡略化されることにより、車両への搭載時における制限を受け難くなる。このため、この車両用空調システムは車両への搭載性が向上することとなる。また、構成が簡略されることにより、車両用空調システムの小型化も実現することが可能となる。
【0021】
熱交換媒体としては、水の他、LLC(ロングライフクーラント)からなる冷却液等の液体を採用できる。また、空気等の気体を熱交換媒体として採用することも可能である。
【0022】
また、熱電変換モジュールは、その一面と他面とを構成する一対の基板と、各基板に挟持された状態で、各基板に設けられた電極と電気的に接続された複数の熱電変換素子とで構成されているものを採用することができる。また、各基板を有さない、いわゆるスケルトン式の熱電変換モジュールを採用することもできる。
【0023】
一面側流路及び他面側流路には、例えば熱交換媒体を貯留可能な貯留タンク等が設けられても良い。特に、他面側流路には、車両を駆動させる駆動源が設けられていることが好ましい(請求項2)。例えば、他面側流路において、駆動源が他面側熱交換器よりも熱交換媒体の流通方向の上流側となった場合、駆動源によって熱交換媒体が加熱されることから、暖房時において、他面側熱交換器内の熱交換媒体に対し、熱電変換モジュールの他面側では、より多くの熱を吸熱することが可能となる。このため、熱電変換モジュールの一面側では、より多くの熱を放熱でき、一面側熱交換器内の熱交換媒体を十分に加熱することが可能となる。このため、一面側流路内の熱交換媒体がより加熱される。このため、より好適に車室の暖房を行うことが可能となる。
【0024】
また、例えば、他面側流路において、駆動源が他面側熱交換器よりも熱交換媒体の流通方向の下流側となった場合、暖房時において、他面側熱交換器内の熱交換媒体は熱電変換モジュールの他面側からの吸熱を受けることで冷却されることから、好適に駆動源の冷却を行うことが可能となる。
【0025】
駆動源としては、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン及び天然ガスエンジン等の内燃式のエンジン、モータ、インバータやコンバータ等によって構成されたパワーコントロールユニット(PCU)等の駆動回路及びバッテリ等を採用することができる。これらのエンジンやモータ等を組み合わせて駆動源とすることもできる。
【0026】
この車両用空調システムにおいて、切替手段は第1切替手段であり得る。そして、他面側流路には、第3流路、第4流路及び第5流路の順に熱交換媒体を流通させる状態と、第5流路、第4流路及び第3流路の順に熱交換媒体を流通させる状態とを切り替え可能な第2切替手段が設けられていることが好ましい(請求項3)。
【0027】
例えば、上記の駆動源を第5流路に設けた場合、第2切替手段が暖房時において、第3流路、第4流路及び第5流路の順に熱交換媒体を流通させることで、他面側流路において駆動源が他面側熱交換器よりも熱交換媒体の流通方向の上流側となる。このため、上記のように、暖房時において、熱電変換モジュールの一面側は、より多くの熱を放熱することが可能となり、好適に車室の暖房を行うことが可能となる。また、除湿時に第2空調用熱交換器によって好適に再加熱を行うことも可能である。
【0028】
また、切替手段が冷房時において、第2切替手段が第5流路、第4流路及び第3流路の順に熱交換媒体を流通させることで、他面側流路において駆動源が他面側熱交換器よりも熱交換媒体の流通方向の下流側となる。このため、ラジエータによって冷却された熱交換媒体に対して熱電変換モジュールの他面側がより多く放熱できることから、熱電変換モジュールの一面側では、より多く吸熱することが可能となる。このため、好適に車室の冷房を行うことが可能となる。
【0029】
熱電変換モジュール、一面側熱交換器、他面側熱交換器及びラジエータは車室外に配置され得る。そして、第1空調用熱交換器及び第2空調用熱交換器は車室内に配置されていることが好ましい(請求項4)。この場合、車両用空調システムにおいて、車室側となる部分の構成が簡略化されることとなり、全体として車両用空調システムの構成がより簡略化されることとなる。このため、車両用空調システムの製造コストをより削減することが可能となるとともに、車両への搭載性もより向上することとなる。
【0030】
ここで、車室内とは狭義の乗員用空間のみを意味するものではなく、車両において、エンジンコンパートメントと車室とを区画する壁よりも乗員用空間側となる空間の全体を指す。
【0031】
この車両用空調システムでは、切替手段として、例えば、開閉弁や熱交換媒体の流通方向を切り替え可能な電動ポンプ等を採用することができる。特に、第1切替手段は、バイパス流路と第3流路との接続部又は第4流路との接続部に設けられた三方弁であることが好ましい(請求項5)。この場合、車両用空調システムの構成がより簡略化され、製造コストをより削減することが可能となる。なお、三方弁とは、一方の流路を他方の二つの流路に分岐可能、すなわち、一方の流路を他方の流路のうちのいずれかと連通させ、他方の残りの流路とは非連通とすることを切り替え可能な切替弁をいう。
【発明の効果】
【0032】
本発明の車両用空調システムによれば、車室の好適な空調を実現しつつ、製造コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例の車両用空調システムを示す模式構造図である。
【図2】実施例の車両用空調システムに係り、暖房時の状態を示す模式構造図である。
【図3】実施例の車両用空調システムに係り、暖房時の状態を示す模式構造図である。
【図4】実施例の車両用空調システムに係り、冷房時の状態を示す模式構造図である。
【図5】実施例の車両用空調システムに係り、除湿時における再加熱の状態を示す模式構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。実施例の車両用空調システムは、車室の空調としての暖房、冷房及び除湿を行う装置として車両に搭載されている。
【0035】
(実施例)
実施例の車両用空調システムは、図1に示すように、熱電変換モジュール3と、一面側熱交換器5と、他面側熱交換器7と、第1空調用熱交換器9と、第2空調用熱交換器11と、ラジエータ13と、一面側流路10を構成する第1、2流路15、16と、他面側流路20を構成する第3〜5流路17〜19とを備えている。他面側流路20には、バイパス流路21と、三方弁23と、モータ25及びPCU27とが設けられている。
【0036】
熱電変換モジュール3は、その一面3aと他面3bとを構成する一対の基板30a、30bと、各基板30a、30bに挟持された状態で、各基板30a、30bに設けられた電極と電気的に接続された複数の熱電変換素子30cとで構成されている。なお、熱電変換モジュール3の構成は他の公知の熱電変換モジュールと同様であり、構成に関する詳細な説明を省略する。また、図1及び後述の図2〜5では、熱電変換モジュール3における電極について、図示を省略している。
【0037】
図1に示すように、熱電変換モジュール3の各熱電変換素子30cは、電極を介して図示しない制御装置と電気的に接続されており、印加される電流の向きを切り替えることにより、熱電変換モジュール3は、その一面3a側と他面3b側とで吸熱面と放熱面とを切り替えることが可能になっている。なお、制御装置は車両に搭載されているバッテリ(図示しない)と電気的に接続されている。
【0038】
一面側熱交換器5は、熱電変換モジュール3の一面3a側に設けられている。一面側熱交換器5は、内部に熱交換媒体としての水を流通可能に構成されている。また、他面側熱交換器7は、熱電変換モジュール3の他面3b側に設けられている。他面側熱交換器7も、内部に水を流通可能に構成されている。上記の熱電変換モジュール3、一面側熱交換器5及び他面側熱交換器7は、車両において、車室CR外となるエンジンコンパートメントEC内に配置されている。なお、熱交換媒体としては、水の他にLLC等からなる冷却液等を採用することもできる。
【0039】
第1空調用熱交換器9及び第2空調用熱交換器11は、車両において車室CR内に配置されている。第1空調用熱交換器9及び第2空調用熱交換器11は、それぞれ内部を水が流通可能に構成されており、第1空調用熱交換器9内の水と車室CR内の空気との間及び第2空調用熱交換器11内の水と車室CR内の空気との間で、それぞれ熱交換を行うことが可能となっている。第1空調用熱交換器9の近傍には、電動ファン9aが設けられており、第2空調用熱交換器11の近傍には、電動ファン11aが設けられている。これらの電動ファン9a、11aは、それぞれ図示しない制御装置と電気的に接続されている。
【0040】
ラジエータ13は車両においてエンジンコンパートメントEC内に配置されている。ラジエータ13は、内部を水が流通可能に構成されており、ラジエータ13水と車室CR外の空気との間で熱交換を行うことが可能となっている。このラジエータ13の近傍には、電動ファン13aが設けられている。電動ファン13aは、図示しない制御装置と電気的に接続されている。
【0041】
モータ25及びPCU27はエンジンコンパートメントEC内に配置されており、駆動源として車両を駆動させる。PCU27はモータ25を駆動させる駆動装置であり、公知のインバータや公知のコンバータ等によって構成されている。このPCU27には図示しない制御装置と電気的に接続されている。また、モータ25及びPCU27には図示しないウォータジャケットが形成されており、このウォータジャケット内を流通する水によりモータ25及びPCU27を冷却又は暖機することが可能となっている。なお、モータ25及びPCU27に替えて公知のエンジンを駆動源として採用しても良く、また、モータ25及びPCU27とエンジンとを組み合わせて駆動源としても良い。
【0042】
一面側熱交換器5と第1空調用熱交換器9とは、一面側流路10によって接続されている。この一面側流路10は、一面側熱交換器5から第1空調用熱交換器9まで延びる第1流路15と、第1空調用熱交換器9から一面側熱交換器5まで延びる第2流路16とで構成されている。これらの第1流路15及び第2流路16は、内部を水が流通可能になっている。また、第2流路16には公知のリザーバタンク29aが設けられており、第2流路16は、第1空調用熱交換器9からリザーバタンク29aまで延びる流路31aと、リザーバタンク29aから一面側熱交換器5まで延びる流路31bとで構成されている。このリザーバタンク29a内には水が貯留されている。一方、第1流路15には第1電動ポンプP1が設けられており、第1電動ポンプP1は、エンジンコンパートメントEC内に配置されており、図示しない制御装置と電気的に接続されている。また同様に、リザーバタンク29aもエンジンコンパートメントEC内に配置されている。なお、第1流路15にリザーバタンク29aが設けられても良く、第2流路16に第1電動ポンプP1が設けられても良い。
【0043】
他面側熱交換器7と第2空調用熱交換器11とラジエータ13とモータ25及びPCU27とは、他面側流路20によって接続されている。他面側流路20は、他面側熱交換器7から第2空調用熱交換器11まで延びる第3流路17と、第2空調用熱交換器11からラジエータ13まで延びる第4流路18と、ラジエータからモータ25及びPCU27を経由して他面側熱交換器7まで延びる第5流路19とで構成されている。第3〜5流路17〜19は、内部を水が流通可能になっている。また、第3流路17には三方弁23が設けられており、第4流路18にはリザーバタンク29bが設けられている。このリザーバタンク29bは、上記のリザーバタンク29aと同じ構成であり、内部に水が貯留されている。さらに、第5流路19には第2電動ポンプP2が設けられている。上記の三方弁23及び第2電動ポンプP2は、図示しない制御装置とそれぞれ電気的に接続されており、第2電動ポンプP2は、水の吐出方向を任意に変更可能に構成されている。また、三方弁23は車室CR内に設けられており、リザーバタンク29b及び第2電動ポンプP2はエンジンコンパートメントEC内に配置されている。この三方弁23が第1切替手段に相当しており、第2電動ポンプP2が第2切替手段に相当している。
【0044】
第3〜5流路17〜19について、より詳細に説明すると、第3流路17は、他面側熱交換器7から三方弁23まで延びる流路33aと、三方弁23から第2空調用熱交換器11まで延びる流路33bとで構成されている。第4流路18は、第2空調用熱交換器11からリザーバタンク29bまで延びる流路35aと、リザーバタンク29bからラジエータ13まで延びる流路35bとで構成されている。第5流路19は、ラジエータ13からモータ25まで延びる流路37aと、モータ25からPCU27まで延びる流路37bと、PCU27から他面側熱交換器7まで延びる流路37cとで構成されている。上記の第2電動ポンプP2は、流路37aに設けられている。なお、第2電動ポンプP2は、流路33aの他、流路37bや流路37cに設けられても良い。同様に、リザーバタンク29bは、第3流路17や第5流路19に設けられても良い。
【0045】
バイパス流路21は、一端側で三方弁23と接続し、他端側で流路35aと接続している。これにより、バイパス流路21は、第3流路17と第4流路18とを接続している。バイパス流路21も内部を水が流通可能になっている。
【0046】
以上のように構成された車両用空調システムでは、モータ25の駆動による車両の駆動時において、図2〜5に示すような状態で車室CRの暖房、冷房及び除湿を行う。なお、図2〜5中の実線矢印は一面側流路10及び他面側流路20における水の循環方向を示しており、破線矢印は熱の移動方向を示している。後述の図3〜5も同様である。
【0047】
(車両の駆動時における暖房)
この場合、図2に示すように、制御装置は、熱電変換モジュール3の一面3a側が放熱面となり、他面3b側が吸熱面となるように、熱電変換モジュール3の熱電変換素子30cに対して電流を印加する。また、制御装置は、三方弁23を操作し、流路33aとバイパス流路21とを連通させ、流路33a及びバイパス流路21と流路33bとを直接的には非連通とさせる。さらに、制御装置は第1、2電動ポンプP1、P2を作動させて、一面側流路10及び他面側流路20において水を循環させる。この際、制御装置は第2電動ポンプP2における水の吐出方向の制御を行い、他面側流路20において、第3流路17、第4流路18及び第5流路19の順で水を循環させる(図2中の実線矢印参照。)。このため、他面側流路20において、モータ25及びPCU27が他面側熱交換器7よりも水の流通方向の上流側となる。また、バイパス流路21に水が流通する。さらに、制御装置は電動ファン9a及び13aをそれぞれ作動させる。
【0048】
これらにより、他面側熱交換器7内の水が熱電変換モジュール3から吸熱されるとともに、一面側熱交換器5内の水が熱電変換モジュール3からの放熱を受けて加熱される。この際、他面側熱交換器7内の水は、モータ25及びPCU27によって加熱されているため、熱電変換モジュール3は他面側熱交換器7内の水からより多くの熱を吸熱できるとともに、一面3a側でより多くの熱を放熱できる。このため、一面側熱交換器5内の水を十分に加熱することが可能となっている。
【0049】
この加熱された水(温水)は第1流路15を介して第1空調用熱交換器9へ至る。そして、第1空調用熱交換器9において、この温水の熱が車室CR内の空気に対して放熱され、車室CR内の空気が加熱される。こうして、この加熱された空気が電動ファン9aを介して車室CRに供給され、車室CRの暖房が行われる。
【0050】
この際、他面側流路20では水が流路33aからバイパス流路21へ流通することで第2空調用熱交換器11が迂回され、第2空調用熱交換器11内を水(冷水)が流通しないこととなる。
【0051】
また暖房時において、この車両用空調システムでは、図3に示すように、制御装置が三方弁23を操作し、流路33aと流路33bとを連通させ、流路33a及び流路33bとバイパス流路21とを非連通とさせる。また、制御装置は第2電動ポンプP2を作動させ、他面側流路20において、第3流路17、第4流路18及び第5流路19の順で水を循環させる(図2中の実線矢印参照。)。さらに、制御装置は電動ファン11a、13aを作動させる。なお、熱電変換モジュール3、第1電動ポンプP1及び電動ファン9aを停止させる。
【0052】
これにより、モータ25及びPCU27によって加熱された温水がバイパス流路21を流通せずに、第3流路17を介して第2空調用熱交換器11へ至ることとなる。これにより、第2空調用熱交換器11において、この温水の熱を車室CR内の空気に対して放熱することで、車室CR内の空気を加熱できる。そして、電動ファン11aを介して、この加熱された空気を車室CRに供給して、車室CRの暖房を行うこともできる。
【0053】
(車両の駆動時における冷房)
この場合、図4に示すように、制御装置は、熱電変換モジュール3の一面3a側が吸熱面となり、他面3b側が放熱面となるように、熱電変換モジュール3の熱電変換素子30cに対して電流を印加する。また、制御装置は、三方弁23を操作し、流路33aとバイパス流路21とを連通させ、流路33a及びバイパス流路21と流路33bとを直接的には非連通とさせる。さらに制御装置は第1、2電動ポンプP1、P2を作動させて、一面側流路10及び他面側流路20において水を循環させる。この際、制御装置は第2電動ポンプP2における水の吐出方向の制御を行い、他面側流路20において、第5流路19、第4流路18及び第3流路17の順で水を循環させる(図4中の実線矢印参照。)。このため、他面側流路20において、モータ25及びPCU27よりも水の循環方向の上流側に他面側熱交換器7が位置することとなる。また、バイパス流路21に水が流通する。さらに、制御装置は電動ファン9a及び13aをそれぞれ作動させる。
【0054】
これらにより、他面側熱交換器7内の水が熱電変換モジュール3からの放熱を受けるとともに、一面側熱交換器5内の水が熱電変換モジュール3から吸熱を受けて冷却される。この際、他面側熱交換器7内の水は、モータ25及びPCU27によって加熱されていないため、熱電変換モジュール3は他面側熱交換器7内の水に対してより多くの熱を放熱できるとともに、一面3a側でより多くの熱を吸熱できるようになる。このため、一面側熱交換器5内の水を十分に冷却することが可能となっている。
【0055】
この冷却された水(冷水)が第1流路15を介して第1空調用熱交換器9へ至り、車室CR内の空気を冷却する。こうして冷却された空気が電動ファン9aを介して車室CRに供給され、車室CRの冷房が行われる。
【0056】
また、他面側流路20では暖房時と同様、水がバイパス流路21へ流通することで第2空調用熱交換器11が迂回され、第2空調用熱交換器11内を水(温水)が流通しない。なお、他面側熱交換器7内での熱電変換モジュール3による放熱を受け、さらにモータ25及びPCU27によって加熱された温水は、ラジエータ13において、熱交換により冷却されることとなる。
【0057】
(車両の駆動時における除湿)
この場合、上記の冷房時の状態において、図5に示すように、制御装置は、三方弁23を操作し、流路33aと流路33bとを連通させ、流路33a及び流路33bとバイパス流路21とを非連通とさせる。また、制御装置は第2電動ポンプP2における水の吐出方向の制御を行い、他面側流路20において、第3流路17、第4流路18及び第5流路19の順で水を循環させる(図5中の実線矢印参照。)。さらに制御装置は電動ファン11aを作動させる。これらにより、他面側熱交換器7内で熱電変換モジュール3による放熱を受けて加熱された温水をバイパス流路21に流通させず、第2空調用熱交換器11へ流通させる。
【0058】
これにより、第2空調用熱交換器11において、この加熱された温水の熱が放熱される。このため、第1空調用熱交換器9において冷却及び除湿された車室CR内の空気の再加熱が第2空調用熱交換器11によって行われ、空気の温度調整がなされる。こうして、温度調整がされた空気が電動ファン9a及び11aを介して車室CRに供給され、車室CRの除湿を行うことができる。
【0059】
このように、除湿に用いる空気の温度調整が行われていることから、この車両用空調システムでは、車室CRの除湿を行う場合に車室CRの空調効果を妨げ難くなっている。なお、熱電変換モジュール3の一面3a側を吸熱面とし、他面3b側を放熱面とすることによっても、上記のような車室CRの除湿を行うことが可能である。この場合、第2空調用熱交換器11において、空気の冷却及び除湿が行われ、第1空調用熱交換器9において、その空気の再加熱が行われることとなる。また、除湿時における空気の再加熱の必要がない場合には、上記の冷房時の状態によって車室CRの除湿を行うこともできる。
【0060】
暖房、冷房及び除湿時において、各リザーバタンク29a、29bは、それぞれの内部に貯留された水を用いて、一面側流路10内及び他面側流路20内を循環する各水の圧力調整を行う。これにより、暖房、冷房及び除湿時において、一面側流路10内及び他面側流路20内では、それぞれ水が好適に循環することとなる。このため、この車両用空調システムでは、車室CRの空調効果が高くなっている。
【0061】
これらのように、この車両用空調システムでは、車室CRの暖房、冷房及び除湿のそれぞれを行う場合、熱電変換モジュール3の熱電変換素子30cに対する電流の印加方向の切り替えと、三方弁23及び第2電動ポンプP2による水の流通の切り替えとを行えば足りる。このため、車両用空調システムの構成を簡略化することが可能となっている。
【0062】
したがって、この車両用空調システムによれば、車室CRの好適な空調を実現しつつ、製造コストを削減できる。
【0063】
特に、この車両用空調システムでは構成が簡略化されることにより、車両への搭載時における制限を受け難くなっている。このため、この車両用空調システムは車両への搭載性が高くなっている。また、構成が簡略されることにより、車両用空調システムの小型化も実現可能となっている。
【0064】
また、この車両用空調システムにおいて、熱電変換モジュール3、一面側熱交換器5、他面側熱交換器7及びラジエータ13は車室CR外となるエンジンコンパートメントEC内に配置されている。そして、第1空調用熱交換器9及び第2空調用熱交換器11は車室CR内に配置されている。このため、車両用空調システムにおいて、車室CR側となる部分の構成が簡略化されており、全体として車両用空調システムの構成が簡略化されている。このため、車両用空調システムの製造コストが削減されるとともに、車両への搭載性も高くなっている。
【0065】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0066】
例えば、一面側流路10や他面側流路20に蓄熱装置を設けることもできる。この場合、蓄熱装置内に蓄えられた熱によって、より好適に車室CRの暖房や冷房を行うことが可能となる。
【0067】
また、冷房時における他面側流路20では、第5流路19、第4流路18及び第3流路17の順で水を循環させても良い。この場合には、冷房時における他面側流路20において、モータ25及びPCU27が他面側熱交換器7よりも水の流通方向の上流側となる。このため、ラジエータ13によって冷却された水によってモータ25及びPCU27がより好適に冷却されることとなる。
【0068】
さらに、他面側流路20には、車両に搭載されているバッテリ等が設けられても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、モータによって走行される車両、エンジンによって走行される車両及びエンジンとモータとによって走行される車両における空調装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
3…熱電変換モジュール
3a…一面
3b…他面
5…一面側熱交換器
7…他面側熱交換器
9…第1空調用熱交換器
11…第2空調用熱交換器
10…一面側流路
20…他面側流路
15…第1流路
16…第2流路
17…第3流路
18…第4流路
19…第5流路
21…バイパス流路
23…三方弁(第1切替手段)
25…モータ(駆動源)
27…PCU(駆動源)
30a…熱電変換素子
P2…第2ポンプ(第2切替手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加する電流の方向を切り替え可能な熱電変換素子を有する熱電変換モジュールと、該熱電変換モジュールの一面側に設けられる一面側熱交換器と、該熱電変換モジュールの他面側に設けられる他面側熱交換器と、第1空調用熱交換器と、第2空調用熱交換器と、ラジエータと、該一面側熱交換器と該第1空調用熱交換器とを接続する一面側流路と、該他面側熱交換器と該第2空調用熱交換器と該ラジエータとを接続する他面側流路とを備え、
前記一面側流路は、前記一面側熱交換器から前記第1空調用熱交換器まで延びる第1流路と、該第1空調用熱交換器から該一面側熱交換器まで延びる第2流路とを有し、
前記他面側流路は、前記他面側熱交換器から前記第2空調用熱交換器まで延びる第3流路と、該第2空調用熱交換器から前記ラジエータまで延びる第4流路と、該ラジエータから該他面側熱交換器まで延びる第5流路と、該第3流路と該第4流路とを接続するバイパス流路とを有し、
該他面側流路には、熱交換媒体を該バイパス流路に流通させて、該熱交換媒体に該第2空調用熱交換器を迂回させる状態と、該熱交換媒体を該バイパス流路に流通させず、該熱交換媒体を該第2空調用熱交換器へ流通させる状態とを切り替え可能な切替手段が設けられていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項2】
前記他面側流路には、車両を駆動させる駆動源が設けられている請求項1記載の車両用空調システム。
【請求項3】
前記切替手段は第1切替手段であり、
前記他面側流路には、前記第3流路、前記第4流路及び前記第5流路の順に前記熱交換媒体を流通させる状態と、該第5流路、該第4流路及び該第3流路の順に該熱交換媒体を流通させる状態とを切り替え可能な第2切替手段が設けられている請求項2記載の車両用空調システム。
【請求項4】
前記熱電変換モジュール、前記一面側熱交換器、前記他面側熱交換器及び前記ラジエータは車室外に配置され、
前記第1空調用熱交換器及び前記第2空調用熱交換器は車室内に配置されている請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用空調システム。
【請求項5】
前記第1切替手段は、前記バイパス流路と前記第3流路との接続部又は前記第4流路との接続部に設けられた三方弁である請求項3記載の車両用空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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