説明

車両用空調装置

【課題】車両の加速性及び乗員の温熱快適性の真の両立化を図る車両用空調装置を提供する。
【解決手段】車両の加速要求度合を検出する要求度合検出手段(S304)と、車両の加速開始時点における蒸発器の温度を検出する蒸発器温度検出手段(S301)と、車両の加速要求度合と蒸発器の温度とに基づいて車両の加速中における冷房能力の程度を選択する冷房能力選択手段(S309)と、選択された冷房能力の程度に基づいて外部信号を圧縮機に出力する容量制御信号出力手段(S313)とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に係り、詳しくは、外部信号に応じて吐出容量を変更可能な圧縮機を含む冷凍回路に好適な車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の空調装置に介挿された圧縮機では、吐出容量の変更によって冷凍回路の冷房能力の大きさが変更され得る。具体的には、夏季等の如く高い熱負荷条件下では、圧縮機を最大容量にて駆動して車室内への吹き出し温度を下げ、乗員の温熱快適性の良好化を図る。しかし、仮に車両の加速中にも圧縮機の最大容量駆動を実施すると、エンジン回転数の上昇に伴って圧縮機の駆動用動力が著しく上昇し、車両の加速性能が大きく損なわれてしまう。そのため、車両の加速要求を検出した場合には圧縮機の駆動用動力を低減させ、この低減分を車両の走行用動力に充てる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭57−175422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来の技術の如く圧縮機の駆動用動力の低減分を単に車両の走行用動力に充てると、乗員の温熱快適性が損なわれてしまうとの問題がある。冷房能力が低下して車室内への吹き出し温度が上昇するからである。そこで、一例として車両の加速中には、車室内への吹き出し温度を良好な範囲内に抑えつつ、圧縮機の駆動用動力を常に低減させることも考えられる。
【0004】
しかしながら、車両の加速要求には、乗員によるアクセル踏み込み量の大きさに応じて種々の要求度合が存在する点に留意しなければならない。例えば、加速開始時点における車室内への吹き出し温度が既に良好である場合にも拘わらず、車両の加速要求の検出に応じて圧縮機の駆動用動力を常に低減させると、車室内への吹き出し温度が上昇傾向になり、乗員の温熱快適性がやはり損なわれるからである。このように、トレードオフの関係にある車両の加速性と乗員の温熱快適性との真の両立化を図るためには、加速要求の度合と加速開始時点における吹き出し温度との関係を考慮する必要があるが、上記従来の技術ではこの点については格別の配慮がなされていない。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、車両の加速性及び乗員の温熱快適性の真の両立化を図る車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成すべく、請求項1記載の車両用空調装置は、冷媒が冷凍回路の循環経路内を循環する車両用空調装置であって、循環経路には冷媒の流れ方向でみて、外部信号に応じて吐出容量を変更可能な圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器が順次介挿されており、車両の加速要求度合を検出する要求度合検出手段と、車両の加速開始時点における蒸発器の温度を検出する蒸発器温度検出手段と、車両の加速要求度合と蒸発器の温度とに基づいて車両の加速中における冷房能力の程度を選択する冷房能力選択手段と、選択された冷房能力の程度に基づいて外部信号を圧縮機に出力する容量制御信号出力手段とを具備することを特徴としている。
【0007】
また、請求項2記載の発明では、冷房能力選択手段は、加速開始時点の冷房能力の大きさと加速中に要求される冷房能力の大きさとを比較し、これらの差が車両の加速性及び乗員の温熱快適性に影響を与えない程に小さな場合には、加速中の冷房能力の程度を加速開始時点の冷房能力のまま保持することを特徴としている。
更に、請求項3記載の発明では、冷房能力選択手段は、加速開始時点の冷房能力の大きさと加速中に要求される冷房能力の大きさとを比較し、これらの差が車両の加速性或いは乗員の温熱快適性に影響を与える程に大きな場合には、加速中の冷房能力の程度を加速開始時点の冷房能力に変化量を加えて求めることを特徴としている。
【0008】
更にまた、請求項4記載の発明では、変化量は、蒸発器の温度が高くなるに連れて加速中の冷房能力の程度が上昇する値に設定されることを特徴としている。
また、請求項5記載の発明では、変化量は、加速要求度合が大きくなるに連れて加速中の冷房能力の程度が下降する値に設定されることを特徴としている。
更に、請求項6記載の発明では、冷房能力選択手段は、加速要求度合及び蒸発器の温度に基づいて加速中における蒸発器の目標温度を求め、目標温度に基づいて車両の加速中における冷房能力の程度を選択することを特徴としている。
【0009】
更にまた、請求項7記載の発明では、冷房能力選択手段は、加速要求度合及び蒸発器の温度に基づいて加速中における圧縮機の目標圧力を求め、目標圧力に基づいて車両の加速中における冷房能力の程度を選択することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、車両の加速中においては、低減させた圧縮機の駆動用動力を車両の走行用動力に充てる必要があるものの、車両の加速要求には、例えば乗員によるアクセル踏み込み量の大きさに応じて種々の要求度合が存在する点を鑑みたものである。
そして、請求項1記載の本発明の車両用空調装置によれば、冷房能力選択手段が、車両の加速要求の大きさと加速開始時点における車室内への吹き出し温度とに基づいて加速中における冷凍回路の冷房能力の程度を選択している。よって、加速中の冷房能力を加速開始時点の冷房能力に比して常に下げることが回避され得る結果、車両の加速性と乗員の温熱快適性との真の両立化が達成可能となる。
【0011】
また、請求項2記載の発明によれば、冷房能力選択手段は、加速開始時点の冷房能力と加速中に要求される冷房能力との大きさを比較しており、これらの差が車両の加速性及び乗員の温熱快適性に影響を与えない程に小さな場合には、加速中の冷房能力の程度を加速開始時点の冷房能力のまま保持している。よって、加速開始時点における車室内への吹き出し温度が既に良好である場合には圧縮機の駆動用動力が低減されず、この吹き出し温度はそのまま維持されるので、車両の加速性を満たしつつ、加速中であっても乗員の温熱快適性も確保され、車両用空調装置の信頼性向上に寄与する。
【0012】
更に、請求項3記載の発明によれば、冷房能力選択手段は、加速開始時点の冷房能力と加速中に要求される冷房能力との大きさを比較し、これらの差が車両の加速性或いは乗員の温熱快適性のいずれかに影響を与える程に大きな場合には、加速開始時点の冷房能力に変化量を加えて加速中の冷房能力の程度が求められている。よって、この場合にも車両の加速性を満たしつつ、加速中であっても乗員の温熱快適性も確保される。
【0013】
更にまた、請求項4記載の発明によれば、加速開始時点の冷房能力と加速中に要求される冷房能力との大きさの差が乗員の温熱快適性に影響を与える程に大きな場合には、加速中の冷房能力の程度は加速開始時点の冷房能力に正側の変化量を加えて求められることから、乗員の温熱快適性がより一層向上する。
また、請求項5記載の発明によれば、加速開始時点の冷房能力と加速中に要求される冷房能力との大きさの差が車両の加速性に影響を与える程に大きな場合には、加速中の冷房能力の程度は加速開始時点の冷房能力に負側の変化量を加えて求められるので、車両の加速性がより一層向上する。
【0014】
更に、請求項6,7記載の発明によれば、加速中における冷房能力の程度が、加速中における蒸発器の目標温度、若しくは加速中における圧縮機の目標圧力から直接に求められており、この場合にも車両の加速性を満たしつつ、加速中であっても乗員の温熱快適性も確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面により本発明の実施形態について説明する。
図1は車両の前部分を概略的に示し、この部分にエンジンルーム2が設けられている。当該車両は空調装置を備え、この装置は冷凍回路4を有している。この回路4は冷媒の循環経路を有しており、車室内の温度を所望の設定温度に調整する。
具体的には、当該経路には、上流側からコンプレッサ(圧縮機)6、コンデンサ(凝縮器)8、レシーバ(受液器)10、膨張弁(膨張機構)12及びエバポレータ(蒸発器)14が順次介挿されている。これら圧縮機6、凝縮器8、受液器10及び膨張弁12はエンジンルーム2内に配置され、蒸発器14はエンジンルーム2の後方に設けられた通風ダクト16内に配置されている。
【0016】
上記圧縮機6は可変容量式の圧縮機であり、本実施例ではエンジンからの動力を受けて作動される。また、本実施例の圧縮機6の一端には電磁クラッチ7が配設されており、クラッチ7は空調装置のオン信号に応じてエンジンの動力を受け、圧縮機6を駆動させる。
一方、上記通風ダクト16内には、蒸発器14の上流側に送風機18が配置され、送風機18はモータ19によって駆動される。また、蒸発器14の下流側にはウォータバルブ23を有するヒータユニット22が配置されており、ヒータユニット22を通過する空気量とこのユニット22をバイパスする空気量とはエアミックスダンパ21で調整される。
【0017】
上述した圧縮機6の駆動に伴い、圧縮機6は蒸発器14から吸入した乾き蒸気の冷媒を圧縮し、高温高圧ガス状態の冷媒を凝縮器8に供給する。この冷媒は凝縮器8内で冷却され、液体状態の冷媒が等圧のまま受液器10に向かう。次いで、この冷媒は受液器10内にて一時的に貯留され、高圧液体状態の冷媒が膨張弁12に供給される。そして、この冷媒は膨張弁12内で絞り膨張され、湿り蒸気、つまり、低温低圧の気液混合状態の冷媒として蒸発器14内に噴出される。
【0018】
続いて、この冷媒は蒸発器14内にて気化され、この際の気化熱により蒸発器14の周囲の空気、より詳しくは、内気或いは外気の吸入口24から通風ダクト16内に導入され、送風機18を介して蒸発器14に向けて送られた空気が冷却される。この冷却された空気はDEF側、VENT側、FOOT側の各吹き出し口26,27,28を介して車室内に送り込まれ、車室内の冷房が行われる。なお、蒸発器14内における低温低圧ガス状態の冷媒は圧縮機6に戻り、この後、圧縮機6により再度圧縮され、上述した如く循環する。
【0019】
ここで、本実施例の車室内には、エンジンECU50の他、エアコンECU(電子コントロールユニット)60が設置されており、これら各ECU50,60は図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM,BURAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えている。
まず、エンジンECU50の入力側には、エンジン回転数Neを検出する回転速度センサ38、エンジン冷却水温Twを検出する水温センサ40、乗員によるアクセル踏み込み量ACCVを検出するアクセル開度センサ42、及び車速VSPを検出する車速センサ44等の各種センサ類が電気的に接続されている。これらの車両信号はCAN通信によってエンジンECU50からエアコンECU60に伝達される。
【0020】
次に、エアコンECU60の入力側には、蒸発器14の温度、より具体的には、蒸発器14の出口側の空気温度Tevaを検出するエバ温度センサ30、外気温度Tambを検出する温度センサ32、車室内の空気温度Trを検出する温度センサ34、及び日射量Sunを検出する日射センサ36等の各種センサ類が電気的に接続されている。これに対し、エアコンECU60の出力側には圧縮機6のクラッチ7やブロワアンプ20が電気的に接続されている。
【0021】
ところで、本実施例のエアコンECU60では、車両の加速中における冷凍回路4の冷房能力の程度を選択し、目標の吸入圧力Psを得るべく所望の容量制御信号Iを圧縮機6に向けて出力して圧縮機6の吐出容量を変更している。
より詳しくは、図2に示されるように、エアコンECU60は通常時制御部62を備えており、この制御部62では、上記記憶装置に記憶されている車室内の空気温度の目標値Trset、車室内の空気温度Tr、外気温度Tamb及び日射量Sunに基づいて蒸発器14の出口側の空気温度の目標値Tesetを得ており、当該目標値Tesetを容量制御信号出力部(容量制御信号出力手段)76に出力する。なお、上記記憶装置には、上記目標値Trsetの他、ブロワ設定値BLV、内外気設定値Intake、及び吹き出し口モード設定値Modeの如くのパネル設定値も記憶されている。
【0022】
一方、エアコンECU60は蒸発器温度検出部(蒸発器温度検出手段)64を備え、この温度検出部64では、エバ温度センサ30からの信号に基づいて車両の加速開始時点における蒸発器14の出口側の空気温度Tevaを検出し、加速時冷房能力決定部70、つまり、目標Ps推定部72と冷房能力選択部(冷房能力選択手段)74とにそれぞれ出力している。
【0023】
このPs推定部72では、加速開始時点における蒸発器14の出口側の空気温度Tevaから圧縮機6の吸入圧力の目標値Ps´を推定し、信号出力部76に出力する。なお、この目標値Ps´は、上記空気温度Tevaの他、外気温度Tamb、圧縮機6の回転数、エンジン回転数Neやエンジン冷却水温Tw等の各種のパラメータを追加し、その推定精度を高めても良い。更に、この推定される目標値Ps´に代えて圧縮機6に設置された吸入圧力センサを用いて実測しても良い。
【0024】
次に、車速VSPは閾値設定部66に入力されており、加速判定用のアクセル開度の閾値ACCsetが求められる。そして、この閾値ACCset及びアクセル踏み込み量ACCVは加速要求度合検出部(要求度合検出手段)68に入力され、この度合検出部68では車両の加速要求度合ACCを求め、能力選択部74に出力する。なお、乗員による加速要求は、踏み込み量ACCVの他、例えばエンジン吸気通路に配置されたスロットル弁の開度の如く、この踏み込み量ACCVと相関関係にある物理量を用いても良い。
【0025】
続いて、上記能力選択部74では、まず、加速要求度合ACC及び加速開始時点における蒸発器14の出口側の空気温度Tevaに基づいて車両の加速中における冷凍回路4の冷房能力Qaccが算出される。そして、この能力選択部74では、冷房能力Qaccの大きさと加速開始時点における冷房能力Qの大きさとを比較し、これらの差が車両の加速性及び乗員の温熱快適性に影響を与えるか否かに応じて冷房能力の程度、すなわち、冷房能力の保持、上昇、又は下降のいずれかを選択し、容量制御信号出力部76に出力する。
【0026】
この信号出力部76では、加速時を除いた通常時の場合には蒸発器14の出口側の空気温度の目標値Tesetから容量制御信号Itevaを生成し、この制御信号Itevaを蒸発器14の温度制御信号として圧縮機6に出力する。これに対し、加速中の場合には加速開始時点の空気温度Tevaから求めた吸入圧力の目標値Ps´による基本容量制御信号Iと能力選択部74にて選択された冷房能力の程度とに基づいて加速中の容量制御信号Iaccを生成し、この制御信号Iaccを圧縮機6に出力している。
【0027】
図3を参照すると、エアコンECU60の制御フローチャートが示されている。以下、上記の如く構成された車両用空調装置の本発明に係る作用について説明する。
同図のステップS301では、上述した各種のセンサ信号や上記記憶装置に記憶された各種のパネル設定値が読み込まれる。そして、ステップS302では通常時制御部62にて、蒸発器14の出口側の空気温度の目標値Teset(=f(Trset,Tr,Tamb,Sun))が算出され、更に、通常時の容量制御信号Iteva(=f(Teset))が算出される。
【0028】
次に、ステップS303では閾値設定部66にて、加速判定用のアクセル開度の閾値ACCsetを求める。詳しくは、図4(a)に示されるように、一定の車速VSPで走行する場合のアクセル開度は車速VSPが大きいほど増加するので、この車速VSPが大きくなるに連れて閾値ACCsetを大きく設定しており、この車速VSPから閾値ACCsetを求めてステップS304に進む。そして、度合検出部68にて車両の加速要求度合ACC(=ACCV−ACCset)を求め、ステップS305に進む。
【0029】
このステップS305では度合検出部68にて、車両が加速中であるか否かを判別する。具体的には、図4(b)に示されるように、アクセル踏み込み量ACCVが閾値ACCsetを超える直前(加速判定値が0から1に切り換わる直前)或いは超えた直後(この判定値が0から1に切り換わった直後)である場合、すなわち、YESの場合には加速開始時と判定され、ステップS308に進む。なお、同図(b)では、閾値ACCsetに対して適当なディファレンシャルdを持たせており、判定値1による加速時制御のオンと判定値0による加速時制御のオフとの頻繁な切り換えが避けられている。
【0030】
一方、この判定値が未だ0である場合にはステップS306に進み、通常時制御部62にて通常時の容量制御信号Itevaを蒸発器14の温度制御信号として圧縮機6に出力する。そして、ステップS307に進み、フラグを0にして一連のルーチンを抜ける。
これに対し、加速中であると判定されてステップS308に進んだ場合には、フラグが未だ0である、つまり、通常時から加速時に初めて切り換わる時点であることを条件としてステップS309に進む。なお、フラグが既に0ではない場合には一連のルーチンを抜ける。
【0031】
ステップS309では能力選択部74にて、車両の加速中における冷房能力Qacc(=f(Teva,ACC))を算出する。次いで、この冷房能力Qaccの大きさと加速開始時点における冷房能力Qの大きさとを比較して冷房能力の程度を選択する。
詳しくは、図5に示されるように、能力選択部74では、加速中の冷房能力Qaccと加速開始時点の冷房能力Qとの差が車両の加速性及び乗員の温熱快適性に影響を与える程に小さな場合、つまり、図中の「保持」で示された範囲内に該当するときには、冷房能力の保持を選択し、冷房能力Qaccの程度を加速開始時点の冷房能力Qのまま保持している。
【0032】
一方、この冷房能力Qaccと加速開始時点における冷房能力Qとの差が車両の加速性又は乗員の温熱快適性のいずれかに影響を与える程に大きな場合には、冷房能力の下降又は冷房能力の上昇を選択し、冷房能力Qaccの程度を加速開始時点の冷房能力Qに変化量を加えて求めている。
すなわち、蒸発器14の出口側の空気温度Tevaが高くなるに連れて加速中の冷房能力Qaccの程度を上昇させており、図中の「上げる」で示された範囲内に該当するときには冷房能力の上昇を選択する。これに対し、加速要求度合ACCが大きくなるに連れてこの冷房能力Qaccの程度を下降させており、図中の「下げる」で示された範囲内に該当するときには冷房能力の下降を選択する。このように、能力選択部74では、冷房能力の上昇を選択した場合には加速開始時点の冷房能力Qに正側の変化量を加え、冷房能力の下降を選択した場合には、加速開始時点の冷房能力Qに負側の変化量を加えて制御信号出力部76にそれぞれ出力している。
【0033】
なお、図5において、設定値a及びbは上記目標値Tesetの最小値及び最大値をそれぞれ示している。また、加速要求度合ACCが設定値cを超えた場合には空調装置をオフ作動させ、圧縮機6の駆動が解除されている。乗員による加速要求が著しく大きな緊急時であると認識できるからであり、車両の加速性能の向上に寄与する。このオフ作動は、本実施例ではクラッチ7をオフにするが、クラッチを有しない圧縮機の場合には容量制御信号Iを0にする。
【0034】
次に、ステップS310では信号出力部76にて、加速中の容量制御信号Iaccを求める。詳しくは、基本容量制御信号I(=f(Ps´))に対し、冷房能力選択部74にて選択された冷房能力の程度を加えており、例えば、上述の如く冷房能力の保持が選択された場合には基本容量制御信号Iのままとし、冷房能力の上昇が選択された場合には基本容量制御信号Iに正側の変化量(+α)を加えており、一方、冷房能力の下降が選択された場合には基本容量制御信号Iに負側の変化量(−β)を加えて制御信号の電流値をそれぞれ求めている。
【0035】
そして、ステップS311では信号出力部76にて、上述の容量制御信号Iaccが容量制御信号の最小値Iminよりも大きいか否かが判別され、制御信号Iaccが図6に示された制御域に該当する場合、すなわち、YESと判定された場合にはステップS313に進み、一方、上記I−βがIminよりも小さくなる場合の如く、制御信号Iaccが図6に示された制御不能域に該当するときには、ステップS312に進んで信号Iaccを最小値Iminに設定してからステップS313に進む。
【0036】
このステップS313では信号出力部76にて、容量制御信号Iaccを圧縮機6に出力して所望の吸入圧力Psを得る。そして、ステップS314に進んでフラグを1にして一連のルーチンを抜ける。このステップS314のようにフラグを1にすれば、加速中である限りステップS308からステップS309には進まない。つまり、その後の制御信号Iaccの更新が行われなくなるので、アクセル踏み込み量ACCVの微小変動にも対応可能となる。
【0037】
以上のように、本発明は、車両の加速中においては、低減させた圧縮機6の駆動用動力を車両の走行用動力に充てる必要があるものの、車両の加速要求には、例えばアクセル踏み込み量ACCVの大きさに応じて種々の要求度合が存在する点を鑑みたものである。
そして、本実施例の車両用空調装置によれば、冷房能力選択部74が、加速要求の大きさACCと加速開始時点の車室内への吹き出し温度、つまり、加速開始時点における蒸発器14の出口側の空気温度Tevaとに基づいて加速中における冷房能力Qaccの程度を選択している。よって、加速中の冷房能力を加速開始時点の冷房能力に比して常に下げることが回避される。この結果、トレードオフの関係にある車両の加速性及び乗員の温熱快適性の真の両立化が達成可能となる。
【0038】
より詳しくは、上記能力選択部74は、加速中に要求される冷房能力と加速開始時点に要求された冷房能力との大きさを比較しており、これらの差が車両の加速性及び乗員の温熱快適性に影響を与えない程に小さな場合には、加速中の冷房能力Qaccの程度を加速開始時点の冷房能力Qのまま保持している。
つまり、図7に示されるように、まず、加速中において圧縮機6の駆動用動力を低減させない場合(図中、破線で示す)には、上述の如く冷房能力の差が小さい状況下であるにも拘らず、車速VSPの上昇とともにエンジン回転数Neが上昇すると、圧縮機動力が著しく上昇し、車両の加速性能が大きく損なわれてしまう。
【0039】
また、加速中には圧縮機6の駆動用動力の低減分を車両の走行用動力に充てる場合(図中、点線で示す)には、圧縮機動力の上昇は抑制されるものの、圧縮機6が駆動されないので、上述の如く冷房能力の差が小さい状況下であったにも拘らず、蒸発器14の出口側の空気温度Teva及び吸入圧力Psが著しく上昇して乗員の温熱快適性が大きく損なわれてしまうのである。これは、圧縮機6の駆動用動力が常に低減される限り発生する。
【0040】
しかしながら、本実施例の加速時制御の場合(図中、実線で示す)には、上述の如く冷房能力の差が小さい点を考慮して冷房能力の保持が選択され、加速開始前と加速中との冷房能力が一定となるように制御されているので、加速開始時点における蒸発器14の出口側の空気温度Teva及び吸入圧力Psの大きさがそのまま維持されており、加速中であっても乗員の温熱快適性も確保される。
【0041】
しかも、加速前の目標値Ps´から求めた基本容量制御信号Iのみが出力されていることから、仮にエンジン回転数Neが上昇しても、圧縮機6の駆動用動力が低い値にて略一定になる。よって、車両の加速性も満たされる結果、車両用空調装置の信頼性向上に寄与する。
また、図8に示されるように、能力選択部74が冷房能力の保持を選択した場合(図中、実線で示す)の他、この能力選択部74は、加速中に要求される冷房能力と加速開始時点に要求された冷房能力との大きさを比較しており、これらの差が車両の加速性又は乗員の温熱快適性のいずれかに影響を与える程に大きな場合には、加速開始時点の冷房能力Qに変化量を加えて加速中の冷房能力Qaccの程度を求めている。
【0042】
具体的には、各冷房能力の差が乗員の温熱快適性に影響を与える程に大きく、能力選択部74が加速中の冷房能力を現在の値に対して上昇させる旨を選択した場合(図中、一点鎖線で示す)には、信号出力部76が基本容量制御信号Iに正側の変化量(+α)を加えた信号を生成しており、加速開始時点における蒸発器14の出口側の空気温度Teva及び吸入圧力Psの大きさよりも低くなり、車室内への吹き出し温度がより一層下げられる。
【0043】
また、各冷房能力の差が車両の加速性に影響を与える程に大きく、能力選択部74が加速中の冷房能力を現在の値に対して下降させる旨を選択した場合(図中、二点鎖線で示す)には、信号出力部76が基本容量制御信号Iに負側の変化量(−β)を加えた信号を生成しており、圧縮機トルクの大きさが著しく小さくなり、車両の加速性がより一層向上する。
【0044】
以上で本発明の一実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。
例えば、冷房能力決定部70では、上記各冷房能力の差に応じて正側から負側にまで至る変化量を設定しているが、当該変化量に代えて、加速中における蒸発器の目標温度から加速中における冷房能力の程度を直接に求めても良い。或いは、加速中における圧縮機の目標圧力から加速中における冷房能力の程度を直接に求めても良い。この場合にも車両の加速性を満たしつつ、加速中であっても乗員の温熱快適性も確保される。
【0045】
また、図9に示される如く、加速要求度合ACCと、加速開始時点における蒸発器14の出口側の温度Tevaとから加速中における圧縮機の目標圧力(本実施例の圧縮機6においては、加速時目標Ps)をそれぞれ求めておき(同図(a)、(b))、これらのうち大きな加速時目標Psを加速中の目標値として用いても良い。更に、図10に示される如く、加速要求度合ACCと、温度Tevaとから加速中における蒸発器の目標温度(加速時目標Teva)をそれぞれ求めておき(同図(a)、(b))、これらのうち大きな加速時目標Tevaを加速中の目標値として用いても良い。なお、図9,10に示された設定値a,b,cは上記実施例と同旨のものである。
【0046】
更に、上記実施例ではフラグを設定し、最初に加速状態が判定された時点での加速要求度合ACCから加速中の冷房能力Qaccを決定しているが、このフラグを用いなくても良い。つまり、最初の加速状態の判定後に加速要求度合ACCが変化した場合には、この変化後の加速要求度合ACCから加速中の冷房能力を新たに決定し、加速中の容量制御信号Iaccを新たに決定しても良い。
【0047】
更にまた、エバ温度センサ30は、蒸発器14の出口側の空気温度Tevaに代えて蒸発器14の出口側の表面温度を直接に検出しても良く、更に、加速要求度合ACCもまた、アクセル開度の閾値ACCsetを用いずに、アクセル踏み込み量ACCVをそのまま用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施例に係る車両用空調装置の概略図である。
【図2】図1のエアコンECUの制御ブロック図である。
【図3】図1のエアコンECUの制御フローチャートである。
【図4】図1のエアコンECUによる加速判定を説明する図である。
【図5】図1のエアコンECUによる加速時の冷房能力の選択を説明する図である。
【図6】図1のエアコンECUによる圧縮機の容量制御信号を説明する図である。
【図7】図1の車両用空調装置による作用効果を説明する図である。
【図8】図1の車両用空調装置による作用効果を説明する図である。
【図9】本発明の他の実施例による加速時の冷房能力の決定を説明する図である。
【図10】本発明の他の実施例による加速時の冷房能力の決定を説明する図である。
【符号の説明】
【0049】
4 冷凍回路
6 圧縮機
8 凝縮器
12 膨張弁(膨張機構)
14 蒸発器
60 エアコンECU(電子コントロールユニット)
64 蒸発器温度検出部(蒸発器温度検出手段)
68 加速要求度合検出部(要求度合検出手段)
74 冷房能力選択部(冷房能力選択手段)
76 容量制御信号出力部(容量制御信号出力手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が冷凍回路の循環経路内を循環する車両用空調装置であって、
前記循環経路には前記冷媒の流れ方向でみて、外部信号に応じて吐出容量を変更可能な圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器が順次介挿されており、
車両の加速要求度合を検出する要求度合検出手段と、
前記車両の加速開始時点における前記蒸発器の温度を検出する蒸発器温度検出手段と、
前記車両の加速要求度合と前記蒸発器の温度とに基づいて該車両の加速中における冷房能力の程度を選択する冷房能力選択手段と、
該選択された冷房能力の程度に基づいて前記外部信号を前記圧縮機に出力する容量制御信号出力手段と
を具備することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記冷房能力選択手段は、前記加速開始時点の冷房能力の大きさと前記加速中に要求される冷房能力の大きさとを比較し、これらの差が前記車両の加速性及び乗員の温熱快適性に影響を与えない程に小さな場合には、前記加速中の冷房能力の程度を前記加速開始時点の冷房能力のまま保持することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記冷房能力選択手段は、前記加速開始時点の冷房能力の大きさと前記加速中に要求される冷房能力の大きさとを比較し、これらの差が前記車両の加速性或いは乗員の温熱快適性に影響を与える程に大きな場合には、前記加速中の冷房能力の程度を前記加速開始時点の冷房能力に変化量を加えて求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記変化量は、前記蒸発器の温度が高くなるに連れて前記加速中の冷房能力の程度が上昇する値に設定されることを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記変化量は、前記加速要求度合が大きくなるに連れて前記加速中の冷房能力の程度が下降する値に設定されることを特徴とする請求項3又は4に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記冷房能力選択手段は、前記加速要求度合及び前記蒸発器の温度に基づいて加速中における蒸発器の目標温度を求め、該目標温度に基づいて前記車両の加速中における冷房能力の程度を選択することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記冷房能力選択手段は、前記加速要求度合及び前記蒸発器の温度に基づいて加速中における圧縮機の目標圧力を求め、該目標圧力に基づいて前記車両の加速中における冷房能力の程度を選択することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−62790(P2008−62790A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242696(P2006−242696)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】