説明

車両用空調装置

【課題】コスト増や重量増を招くことなく、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行時、排気管系からの熱により生じる乗員足元の温度上昇を抑え、乗員の快適性を確保することができる車両用空調装置を提供すること。
【解決手段】空調状態として自動制御モードを選択する自動制御モード選択手段(オートスイッチ82)と、自動制御モードの選択時、空調入力情報に基づき算出された吹き出し風温度に応じて自動的に吹き出し口を選択する自動制御手段(図3)と、を備えた車両用空調装置である。自動制御手段(図3)は、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行中(ステップS301でYES、かつ、ステップS302でYES)、乗員足元温度の上昇が判断されると(ステップS309でYES)、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードから、ベント吹き出し口に加えフット吹き出し口からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替える(ステップS311)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動制御モードの選択時、空調入力情報に基づき算出された吹き出し風温度に応じて自動的に吹き出し口を選択する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空調状態として複数の吹き出し口モード(ベントモード、バイレベルモード、フットモード、デフモード等)から特定の吹き出し口モードを手動選択するモードスイッチと、このモードスイッチ以外に、空調状態として自動制御モード(吸込口制御、吹出口制御、風量制御、吹出風温度制御を自動制御するモード)を選択するオートスイッチと、を備えた車両用空調装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来装置が搭載されている車両で、オートスイッチの投入操作により自動制御モードを選択すると、目標エアミックスドア開度や日射量等に基づき算出された吹き出し風温度に応じて自動的に吹き出し口が選択される。例えば、日射量が高い夏期走行時に自動制御モードを選択すると、算出された吹き出し風温度が低温域になるため、吹き出し口としてはベント吹き出し口が自動的に選択され、ベント吹き出し口から冷気を車室内に吹き出し、乗員快適性を確保することになる。
【特許文献1】特許第2762728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両用空調装置にあっては、夏期走行中に自動制御モードを選択すると、ベント吹き出し口からの冷気吹き出しのみが継続されることになるため、排気管系の触媒等からの排気ガス熱により、車体パネルのフロア面および室内側カーペット表面が熱くなり、乗員足元が熱くなる。この結果、乗員の上半身は低温の冷風を受けているのに対し下半身は高温の熱気を受けることなり、上半身と下半身の体感温度差により快適性を損なわせてしまう、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、コスト増や重量増を招くことなく、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行時、排気管系からの熱により生じる乗員足元の温度上昇を抑え、乗員の快適性を確保することができる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用空調装置では、空調状態として自動制御モードを選択する自動制御モード選択手段と、自動制御モードの選択時、空調入力情報に基づき算出された吹き出し風温度に応じて自動的に吹き出し口を選択する自動制御手段と、を備えている。
そして、前記自動制御手段は、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行中、乗員足元温度の上昇が判断されると、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードから、ベント吹き出し口に加えフット吹き出し口からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替える。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明の車両用空調装置にあっては、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行中、自動制御手段において、乗員足元温度の上昇が判断されると、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードから、ベント吹き出し口に加えフット吹き出し口からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替えられる。
すなわち、乗員足元温度の上昇判断に基づいて、ベント吹き出し口に加え、自動的にフット吹き出し口から冷気が吹き出されるため、フット吹き出し口からの冷気により乗員足元の温度が低下し、乗員の上半身と下半身の体感温度差が小さく抑えられることになる。
この結果、制御処理ソフトを一部変更するだけでコスト増や重量増を招くことなく、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行時、排気管系からの熱により生じる乗員足元の温度上昇を抑え、乗員の快適性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の車両用空調装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1および実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の車両用空調装置におけるハード系の全体概略構成を示す全体システム図である。
【0010】
実施例1の車両用空調装置は、図1に示すように、ブロワユニット1と、空調ユニット2と、フロントベントダクト3と、リヤベントダクト4と、デフダクト5と、フットダクト6と、冷凍サイクル7と、をハード系構成として備えている。
【0011】
前記ブロワユニット1は、図1に示すように、インテークケース11と、スクロールケース12と、吸気ダクト13と、インテークドア14,15と、クリーンフィルタ16と、ブロワファン17と、ブロワモータ18と、を有して構成されている。前記インテークドア14,15のドア開度制御により、空調ユニット2への吸込み空気を、外気導入モードにするか内気循環モードにするかが切り替えられる。
【0012】
前記空調ユニット2は、図1に示すように、ユニットケース21と、エバポレータ22と、ヒータコア23と、エアミックスドア24と、デフドア25と、マックスクールドア26と、ベントドア27と、リヤベントドア28と、フットドア29と、を有して構成されている。前記エアミックスドア24のドア位置により、エバポレータ22を経過する冷風とヒータコア23を経過する温風の混合比率が制御される。そして、冷風と温風の混合比率により作り出された温調風は、ユニットケース21に接続された各ダクト3,4,5,6のうち、選択されている吹き出しモード(ベントモード、バイレベルモード、フットモード、デフ/フットモード、デフモードの何れかのモード)に対応するダクトに吹き出される。
【0013】
前記フロントベントダクト3は、図1に示すように、一端部が前記ユニットケース21のベントドア27を有するケース吹出口に接続され、他端部にサイドベンチレータ31,32と、センタベンチレータ33,34が開口されている。これらのベンチレータ31,32,33,34からは、前席乗員の上半身に向けてフロントベント風が吹き出される。
【0014】
前記リヤベントダクト4は、図1に示すように、一端部が前記ユニットケース21のリヤベントドア28を有するケース吹出口に接続され、他端部にリヤベンチレータ41,42が開口されている。前記リヤベンチレータ41,42からは、後席乗員の上半身に向けてリヤベント風が吹き出される。
【0015】
前記デフダクト5は、図1に示すように、一端部が前記ユニットケース21のデフドア25を有するケース吹出口に接続され、他端部にサイドデフロスタ51,52とセンタデフロスタ53が開口されている。前記サイドデフロスタ51,52からは、前席のサイドガラスの内面に向けてデフ風が吹き出され、センタデフロスタ53からは、フロントガラスの内面に向けてデフ風が吹き出される。
【0016】
前記フットダクト6は、図1に示すように、一端部が前記ユニットケース21のフットドア29を有するケース吹出口に接続され、他端部にフロント足元吹出口61,62,63とリヤ足元吹出口64,65が開口されている。前記フロント足元吹出口61,62,63からは、前席乗員の足元に向けてフット風が吹き出される。前記リヤ足元吹出口64,65からは、後席乗員の足元に向けてフット風が吹き出される。
【0017】
前記冷凍サイクル7は、前記空調ユニット2の内部に配置したエバポレータ22に対し低圧冷媒を供給するサイクルである。この冷凍サイクル7は、エバポレータ22以外に、図1に示すように、コンプレッサ71と、高圧フレキシブルホース72と、コンデンサ73と、リキッドタンク74と、高圧パイプ75と、エクスパンションバルブ76と、低圧パイプ77と、低圧フレキシブルホース78と、を備えている。なお、前記コンプレッサ71は、エンジン79により駆動され、このエンジン79でのエンジン冷却水(高温水)を前記空調ユニット2の内部に配置したヒータコア23に供給する。
【0018】
図2は、実施例1の車両用空調装置におけるソフト系の全体概略構成を示す制御ブロック図である。
【0019】
実施例1の車両用空調装置は、図1に示すように、空調コントロール操作ユニット8と、入力センサ類9と、空調コントロールユニット10と、出力アクチュエータ類11と、をソフト系構成として備えている。
【0020】
前記空調コントロール操作ユニット8は、図外のインストルメントパネルの位置に設けられ、空調操作スイッチ類を集中配置している。この空調コントロール操作ユニット8には、図2に示すように、モードスイッチ81、オートスイッチ82(自動制御モード選択手段)、エアコンスイッチ83、温度調節ダイヤル84、ファン調節ダイヤル85、オフスイッチ86、デフスイッチ87、リヤウィンドウデフォッガスイッチ88、吸込口スイッチ89が設けられる。
【0021】
前記モードスイッチ81は、手動操作により吹き出し口モードを選択する操作手段である。このモードスイッチ81としては、ベントモードスイッチ81aと、バイレベルモードスイッチ81bと、フットモードスイッチ81cと、デフ/フットモードスイッチ81dを有する。前記オートスイッチ82は、空調状態として吹出風温度制御・風量制御・吹出口制御・吸込口制御を自動制御する自動制御状態を選択する操作手段である。前記エアコンスイッチ83は、前記コンプレッサ71をON/OFFするスイッチである。
【0022】
前記入力センサ類9は、空調制御(吹出風温度制御・風量制御・吹出口制御・吸込口制御・コンプレッサ制御)に必要な情報をもたらすセンサである。この入力センサ類9としては、内気センサ91、外気センサ92(外気温度検出手段)、日射センサ93、水温センサ94、吸込温度センサ95、車速センサ96(車速検出手段)、エンジン回転数センサ97(エンジン回転数検出手段)、等が設けられる。
【0023】
前記空調コントロールユニット10は、入出力インターフェースやCPUやメモリを有し、空調コントロール操作ユニット8と入力センサ類9からの入力情報に基づき、吹出風温度制御・風量制御・吹出口制御・吸込口制御・コンプレッサ制御による空調制御を実行する制御手段である。
【0024】
前記出力アクチュエータ類11としては、吹出風温度制御のためのエアミックスドアアクチュエータ111と、風量制御のためのブロワファンモータ18と、吹出口制御のためのモードドアアクチュエータ112と、吸込口制御のためのインテークドアアクチュエータ113と、コンプレッサ制御のためのコンプレッサコントロールバルブ114と、を有する。
【0025】
前記吹出風温度制御は、温度調節ダイヤル84にて目標温度を設定すると、設定温度補正を行うと共に、各センサ91,92,93,95からの信号に基づく演算処理により目標エアミックスドア開度を決定する。そして、目標エアミックスドア開度と実エアミックスドア開度に基づいて、エアミックスドア24を最適なドア開度に制御する。
【0026】
前記風量制御は、ファン調節ダイヤル85による手動操作を優先し、ブロワファンモータ18の駆動制御を行う。また、温度調節ダイヤル84にて目標温度を設定すると、各センサ91,92,93,94,95,96からの信号に基づく演算処理により、目標風量を決定し、決定した目標風量を得るブロワファンモータ18の駆動制御を行う。
【0027】
前記吹出口制御(空調モード制御)は、モードスイッチ81やデフスイッチ87を押すことにより手動選択となり、吹き出し口(空調モード)を固定する。また、オートスイッチ82を押すと、自動制御モードとなり、目標エアミックスドア開度や日射量を基に算出した吹き出し風温度に応じて吹き出し口(空調モード)を選択する。空調モードの選択肢としては、ベントモード、バイレベルモード、フットモード、デフ/フットモード、デフモードがある。
【0028】
前記吸込口制御は、外気導入モードと内気循環モードを選択する制御であり、デフスイッチ87や吸込口スイッチ89を操作すると、インテークドア14,15が外気導入位置や内気循環位置に固定される。自動制御モードでは、車室内温度・外気温度・日射量を基に算出した目標エアミックスドア開度に応じて、例えば、外気導入か、20%〜80%外気導入か、内気循環かが選択される。
【0029】
前記コンプレッサ制御は、オートスイッチ82及びエアコンスイッチ83を押す、または、デフスイッチ87を押すと、コンプレッサ71をONとする。そして、可変容量タイプのコンプレッサ71である場合には、コンプレッサコントロールバルブ114に対する指令により容量制御を行う。
【0030】
図3は、実施例1の空調コントロールユニット10にて実行される自動制御処理の流れを示すフローチャートであり、以下、各ステップについて説明する(自動制御手段)。
なお、図4は、実施例1の空調コントロールユニット10にて実行される自動制御処理にて用いられる車速域毎の重み付け定数a(第3設定定数a3、第2設定定数a2、第1設定定数a1)の大小関係を示す設定定数特性図である。
【0031】
ステップS301では、オートスイッチ82がONであるか否かを判断し、YES(オートスイッチON)の場合はステップS302へ移行し、NO(オートスイッチOFF)の場合はエンドへ移行する。
【0032】
ステップS302では、ステップS301でのオートスイッチONであるとの判断に続き、選択されている吹き出し口モードがベントモードであるか否かを判断し、YES(ベントモードの選択時)の場合はステップS303へ移行し、NO(ベントモード以外のモード選択時)の場合はエンドへ移行する。
このベントモードの選択時か否かの判断は、吹き出し口モード毎にアクチュエータ動作位置が異なることを利用し、モードドアアクチュエータ112の制御位置からアクチュエータ動作位置を検出し、検出されたアクチュエータ動作位置がベントドア27とリヤベントドア28を開く位置であるときには、ベントモードの選択時であると判断する。
【0033】
ステップS303では、ステップS302でのベントモード選択時であるとの判断に続き、前回の重み付けカウント数Xiを初期値に設定し(Xi=0)、ステップS304へ移行する。
【0034】
ステップS304では、ステップS303での前回の重み付けカウント数Xiの初期値設定、あるいは、ステップS310での今回の重み付けカウント数Xを前回の重み付けカウント数Xiとする書き換え処理に続き、車速センサ96からの車速V(km/h)を読み込み、車速V(km/h)が低車速域(A>V≧0)であるか、中車速域(B>V>A)であるか、高車速域(V≧B)であるかの判断をし、低車速域(A>V≧0)であるとの判断時はステップS305へ移行し、中車速域(B>V>A)であるとの判断時はステップS306へ移行し、高車速域(V≧B)であるとの判断時はステップS307へ移行する。
なお、Aは、低車速域と中車速域の判断しきい値(例えば、40km/h)であり、Bは、中車速域と高車速域の判断しきい値(例えば、80km/h)である。
【0035】
ステップS305では、ステップS304での低車速域(A>V≧0)であるとの判断に続き、重み付け定数aを第3設定定数a3に設定し(a=a3)、ステップS308へ移行する。
【0036】
ステップS306では、ステップS304での中車速域(B>V>A)であるとの判断に続き、重み付け定数aを第2設定定数a2に設定し(a=a2)、ステップS308へ移行する。
【0037】
ステップS307では、ステップS304での高車速域(V≧B)であるとの判断に続き、重み付け定数aを第1設定定数a1に設定し(a=a1)、ステップS308へ移行する。
ここで、重み付け定数aの第3設定定数a3と第2設定定数a2と第1設定定数a1は、図4に示すように、a3>a2>a1という大小関係を持ち、高車速走行であるほど小さな数値を与えるという重み付けがなされる。
【0038】
ステップS308では、ステップS305またはステップS306またはステップS307での重み付け定数aの設定に続き、今回の重み付けカウント数Xが、前回の重み付けカウント数Xiに重み付け定数aを加えて算出され(X=Xi+a)、ステップS309へ移行する。なお、ステップS304〜ステップS308は、乗員足元温度推定部に相当する。
【0039】
ステップS309では、ステップS308での今回の重み付けカウント数Xの算出に続き、今回の重み付けカウント数Xが、足元温度上昇しきい値として与えたカウント数しきい値Xn以上であるか否かを判断し、YES(X≧Xn)の場合はステップS311へ移行し、NO(X<Xn)の場合はステップS310へ移行する(乗員足元温度上昇判断部)。
ここで、カウント数しきい値Xnは、例えば、夏期に自動制御モードを選択しての走行実験を行い、その実験データから最適値を求めて固定値により与えるようにしても良い。また、寒暖の感じ方は乗員によって異なるため、カウント数しきい値Xnを、例えば、乗員の調整操作により可変値により与えるようにしても良い。
【0040】
ステップS310では、ステップS309でのX<Xnであるとの判断に続き、ステップS308にて算出された今回の重み付けカウント数Xを、前回の重み付けカウント数Xiに書き換え、ステップS304へ戻る。
【0041】
ステップS311では、ステップS309でのX≧Xnであるとの判断に続き、各ベンチレータ31,32,33,34,41,42(ベント吹き出し口)のみから冷気を吹き出すベントモードから、各ベンチレータ31,32,33,34,41,42(ベント吹き出し口)に加え、各足元吹出口61,62,63,64,65(フット吹き出し口)からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替え、ステップS312へ移行する(吹き出しモード切替部)。
【0042】
ステップS312では、ステップS311でのベントモードからバイレベルモードへの切り替えに続き、バイレベルモードへの切り替え時点からの経過時間Tが設定時間Tnを超えているか否かを判断し、YES(T>Tn)の場合はステップS313へ移行し、NO(T≦Tn)の場合はステップS311へ戻る。
ここで、「設定時間Tn」としては、乗員足元の温度低下に必要な継続時間であって、それ以上バイレベルモードを継続すると乗員が不快に感じる時間を限界とし、例えば、5分〜10分程度の時間に設定される。
【0043】
ステップS313では、ステップS312での経過時間Tが設定時間Tnを超えているとの判断に続き、設定時間Tnが経過するまで維持したバイレベルモードから、各ベンチレータ31,32,33,34,41,42(ベント吹き出し口)のみから冷気を吹き出すベントモードに復帰し、ステップS301へ戻る。
なお、ステップS312→ステップS313→ステップS301へと進む流れは、ベントモード復帰部に相当する。
【0044】
次に、作用を説明する。
まず、「自動制御モードの選択走行時における課題」の説明を行い、続いて、実施例1の車両用空調装置における作用を、「自動制御モードの選択走行時における吹き出し口切り替え作用」、「車速による乗員足元温度推定作用」に分けて説明する。
【0045】
[自動制御モードの選択走行時における課題]
空調状態として複数の吹き出し口モード(ベントモード、バイレベルモード、フットモード、デフモード等)から特定の吹き出し口モードを手動選択するモードスイッチと、このモードスイッチ以外に、空調状態として自動制御モード(吸込口制御、吹出口制御、風量制御、吹出風温度制御を自動制御するモード)を選択するオートスイッチと、を備えた車両用空調装置が知られているし、実車にも搭載されている。
【0046】
このような、モードスイッチとオートスイッチを有する空調装置を搭載した車両では、オートスイッチを入れるだけの簡単な操作で済む自動制御モードの選択が、頻繁な切り替え操作や調整操作を要するモードスイッチによる空調モードの手動選択よりも高い頻度で利用されている。
【0047】
このオートスイッチの投入操作により自動制御モードを選択すると、目標エアミックスドア開度や日射量等に基づき算出された吹き出し風温度に応じて自動的に吹き出し口が選択される。例えば、日射量が高い夏期の走行時に自動制御モードを選択すると、算出された吹き出し風温度が低温域になるため、吹き出し口としてベント吹き出し口が自動的に選択され、ベント吹き出し口から冷気を車室内に吹き出すベントモードでの走行が維持されることになる。
【0048】
したがって、夏期に車両に乗り込んで自動制御モードの選択をすると、走行開始時期においては、ベント吹き出し口からの冷気吹き出しにより、暑くなっている乗員の上半身が冷やされるし、車室内温度が低下して乗員快適性が確保される。しかし、ベント吹き出し口のみからの冷気吹き出しが走行中に継続されると、エンジンに接続されている排気管系の触媒等からの排気ガス熱により、車体パネルのフロア面および室内側カーペット表面が熱くなり、乗員、特に運転者や助手席乗員の足元が熱くなる。
【0049】
すなわち、自動制御モードを選択しての夏期走行時、排気ガス熱の影響によりフロア面および室内側カーペット表面が熱くなると、乗員の上半身は、ベント吹き出し口からの冷気により涼しく感じるのに対し、乗員の下半身は、フロア面からの熱気により暑く感じるというように、上半身と下半身で体感温度差が大きくなり、これが乗員にとっては違和感となり、快適性を損なう結果となる。
【0050】
これに対し、排気管系から車体パネルのフロア面を介して乗員足元に達する熱伝達系に着目した場合には、断熱性や遮熱性が高い車体フロアを採用することで、乗員足元の温度上昇を抑えることができる。しかし、メカニカルな構造による熱遮断対策は、現状の車体フロア構造に対して高断熱性を持つ断熱構造や高遮熱性を持つ遮熱構造を追加設定する必要があり、大幅なコスト増や重量増を招く。
【0051】
[自動制御モードの選択走行時における吹き出し口切り替え作用]
図5は、実施例1の車両用空調装置においてベントモード走行時における吹き出し口切り替え作用を示すタイムチャートで、(a)は重み付けカウント数特性をあらわし、(b)は足元温度特性をあらわす。
【0052】
例えば、夏期にオートスイッチ82の投入操作により自動制御モードを選択し走行するときは、吹き出し口としてベント吹き出し口が自動的に選択され、ベント吹き出し口から冷気を車室内に吹き出すベントモードでの走行が維持される。
【0053】
したがって、図3のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS302→ステップS303→ステップS304→ステップS305(またはステップS306またはステップS307)→ステップS308→ステップS309へと進み、ステップS309にて、今回の重み付けカウント数Xがカウント数しきい値Xn未満であると判断され、ステップS310へ進む。その後、ステップS309にて、今回の重み付けカウント数Xがカウント数しきい値Xn以上であると判断されるまでは、図3のフローチャートにおいて、ステップS304→ステップS305(またはステップS306またはステップS307)→ステップS308→ステップS309→ステップS310へ進む流れが繰り返される。
【0054】
そして、ステップS309にて、今回の重み付けカウント数Xがカウント数しきい値Xn以上であると判断されると、図3のフローチャートにおいて、ステップS309からステップS311→ステップS312へと進み、ステップS311にて、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードから、ベント吹き出し口に加えフット吹き出し口からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替えられる。その後、ステップS312にて、経過時間Tが設定時間Tnを超えていると判断されるまで、ステップS311→ステップS312へと進む流れが繰り返され、バイレベルモードが維持される。
【0055】
そして、ステップS312にて、経過時間Tが設定時間Tnを超えていると判断されると、図3のフローチャートにおいて、ステップS312からステップS313へと進み、ステップS313にて、バイレベルモードでのフット吹き出し口からの冷気吹き出しを停止し、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードに戻される。その後、ステップS313からステップS301→ステップS302→ステップS303へと戻り、ステップS303では、前回の重み付けカウント数Xiが、Xi=0の初期値に戻される。
【0056】
このように、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行中、乗員足元温度の上昇が判断されると(ステップS309でYES)、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードから、ベント吹き出し口に加えフット吹き出し口からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替えられる。
すなわち、乗員足元温度の上昇判断に基づいて、ベント吹き出し口に加え、自動的にフット吹き出し口から冷気が吹き出されるため、フット吹き出し口からの冷気により乗員足元の温度が低下し、乗員の上半身と下半身の体感温度差が小さく抑えられることになる。
このため、制御処理ソフトを一部変更するだけで、メカニカルな構造による熱遮断対策のようにコスト増や重量増を招くことなく、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行時、排気管系からの熱により生じる乗員足元の温度上昇が抑えられ、乗員の快適性が確保される。
【0057】
そして、ベントモードからバイレベルモードに切り替えられると、設定時間Tnだけバイレベルモードを維持した後、再びベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードに戻される。
すなわち、図5(a)の重み付けカウント数特性に示すように、重み付けカウント数Xがカウント数しきい値Xn以上となるまでの時間Tvの間はベントモードを継続し、重み付けカウント数Xがカウント数しきい値Xn以上になると、設定時間Tnだけバイレベルモードを継続するというように、ベントモードとバイレベルモードが繰り返される。したがって、図5(b)の足元温度特性に示すように、ベントモードの継続時間Tvにより足元温度が上昇すると、不快と感じる領域に入る前にバイレベルモードに切り替えられ、足元温度を低下させる。そして、バイレベルモードを設定時間Tnだけ継続することで足元温度が十分に低下すると、不快と感じる領域に入る前に再びベントモードに戻され、足元温度を上昇させる。
このため、足元温度特性は、快適温度範囲内で上昇と低下を繰り返す特性となり、バイレベルモードに切り替え後、バイレベルモードをそのまま長時間維持することにより、逆に足元が寒くなり、乗員へ不快感を与えることを防止できる。
【0058】
[車速による乗員足元温度推定作用]
図6は、実施例1の車両用空調装置でベントモードが自動選択される自動制御モードでの低速走行時における足元温度上昇作用を示す作用説明図である。図7は、実施例1の車両用空調装置でベントモードが自動選択される自動制御モードでの低速走行時における足元温度上昇作用を示す作用説明図である。
【0059】
まず、人は基本的に体温以上になると不快と感じるため、乗員足元温度が、35℃以上になると徐々に不快感を持つことになる。つまり、乗員足元温度を推定する場合、35℃程度になったことを推定することが重要である。
【0060】
しかし、乗員足元温度を、例えば、走行時間や走行距離等により推定すると、渋滞路等での低速走行時と高速度路等での高速走行時とでは、足元温度上昇勾配が大きく異なり、精度良く乗員足元温度を35℃程度まで上昇したことを推定することができない。
【0061】
これに対し、実施例1では、車速Vの大きさが足元温度上昇勾配に大きく影響を与えることに着目し、車速Vを低車速域(A>V≧0)と中車速域(B>V>A)と高車速域(V≧B)に分け、重み付け定数aを、図4に示すように、(第3設定定数a3)>(第2設定定数a2)>(第1設定定数a1)という大小関係を持たせ、低速域で最も大きな数値(a3)を与え、車速Vが高くなるほど小さな数値(a3>a2>a1)を与えるという重み付けをした。
【0062】
すなわち、低車速時には、図6に示すように、車速風量(走行風量)が小さく、排気系に対する空冷効果が低い。このため、排気系の触媒からの熱気が、ほとんど冷却されることなく車体パネルを介してフロア面に伝達し、足元温度の上昇勾配が高くなる。
【0063】
一方、高車速時には、図7に示すように、車速風量(走行風量)が大きく、排気系に対する空冷効果が高い。このため、排気系の触媒からの熱気が、車速風により冷却されて車体パネルを介してフロア面に伝達し、足元温度の上昇勾配が低くなる。
【0064】
したがって、重み付け定数aとして、車速Vが高くなるほど小さな数値を与えることで、積算により得られる重み付けカウント数Xの上昇勾配が、実際の足元温度の上昇勾配に沿ったものとなる。そして、カウント数しきい値Xnを35℃程度まで上昇したときの値に設定することで、重み付けカウント数Xがカウント数しきい値Xn以上になったとの判断により、車速Vの変動に対応し、足元温度が35℃程度まで上昇したことを精度良く推定することができる。
【0065】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用空調装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0066】
(1) 空調状態として自動制御モードを選択する自動制御モード選択手段(オートスイッチ82)と、自動制御モードの選択時、空調入力情報に基づき算出された吹き出し風温度に応じて自動的に吹き出し口を選択する自動制御手段(図3)と、を備えた車両用空調装置において、前記自動制御手段は、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行中(ステップS301でYES、かつ、ステップS302でYES)、乗員足元温度の上昇が判断されると(ステップS309でYES)、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードから、ベント吹き出し口に加えフット吹き出し口からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替える(ステップS311)。このため、コスト増や重量増を招くことなく、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行時、排気管系からの熱により生じる乗員足元の温度上昇を抑え、乗員の快適性を確保することができる。
【0067】
(2) 前記自動制御手段(図3)は、ベントモードからバイレベルモードに切り替えて所定時間だけバイレベルモードを維持した後、再びベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードに戻すベントモード復帰部(ステップS311〜ステップS313)を有する。このため、バイレベルモードに切り替えた後、再びベントモードに戻すことで、乗員足元温度が過剰に低下することが抑えられ、乗員足元温度を快適温度範囲内で推移させることができる。
【0068】
(3) ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行中、走行状態情報を検出する走行状態情報検出手段を設け、前記自動制御手段(図3)は、走行状態情報に基づいて乗員足元温度を推定する乗員足元温度推定部(ステップS303〜ステップS308)と、前記乗員足元温度推定部による乗員足元推定温度の上昇を判断する乗員足元温度上昇判断部(ステップS309)と、乗員足元推定温度の上昇が判断されると(ステップS309でYES)、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードから、ベント吹き出し口に加えフット吹き出し口からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替える吹き出しモード切替部(ステップS311)と、を有する。このため、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行時、新たに追加した温度センサを用いることなく、乗員足元温度情報を、走行状態からの推定により低コストにて取得することができる。
【0069】
(4) 前記走行状態情報検出手段として、車速を検出する車速検出手段(車速センサ96)を設け、前記乗員足元温度推定部(ステップS303〜ステップS308)は、車速を低速域から高速域までの複数の車速域に分け、各車速域について高速域であるほど低い数値による重み付け定数aを求め、乗員足元温度推定値として、処理周期毎に取得される重み付け定数Xiを積算した重み付けカウント数Xを算出し、前記乗員足元温度上昇判断部(ステップS309)は、前記重み付けカウント数Xが、予め設定されたカウント数しきい値Xn以上になると、乗員足元温度が上昇したと判断する。このため、車速風による乗員足元温度の上昇勾配変動影響が、ベントモードからバイレベルモードへの切り替え制御に反映され、渋滞路走行時や高速道路走行時等においても精度良く乗員足元温度を推定することができる。
【実施例2】
【0070】
実施例2は、重み付けカウント数を、車速影響以外にエンジン回転数と外気温度の影響を考慮して求めると共に、バイレベルモードの継続時間を外気温度により可変時間により与える例である。
【0071】
まず、構成を説明する。
【0072】
図8は、実施例2の空調コントロールユニット10にて実行される自動制御処理の流れを示すフローチャートであり、以下、各ステップについて説明する(自動制御手段)。
【0073】
ステップS801では、オートスイッチ82がONであるか否かを判断し、YES(オートスイッチON)の場合はステップS802へ移行し、NO(オートスイッチOFF)の場合はエンドへ移行する。
【0074】
ステップS802では、ステップS801でのオートスイッチONであるとの判断に続き、選択されている吹き出し口モードがベントモードであるか否かを判断し、YES(ベントモードの選択時)の場合はステップS803へ移行し、NO(ベントモード以外のモード選択時)の場合はエンドへ移行する。
【0075】
ステップS803では、ステップS802でのベントモード選択時であるとの判断に続き、前回の重み付けカウント数Xiを初期値に設定し(Xi=0)、ステップS804へ移行する。
【0076】
ステップS804では、ステップS803での前回の重み付けカウント数Xiの初期値設定、あるいは、ステップS812での今回の重み付けカウント数Xを前回の重み付けカウント数Xiとする書き換え処理に続き、車速センサ96からの車速V(km/h)を読み込み、ステップS805へ移行する。
【0077】
ステップS805では、ステップS804での車速Vの読み込みに続き、車速対応数aを、車速Vが高車速であるほど小さな数とする車速関数f(V)により求め、ステップS806へ移行する。
【0078】
ステップS806では、ステップS805での車速対応数aの算出に続き、エンジン回転数センサ97からのエンジン回転数N(rpm)を読み込み、ステップS807へ移行する。
【0079】
ステップS807では、ステップS806でのエンジン回転数Nの読み込みに続き、第1重み付け係数αを、エンジン回転数Nが高回転数であるほど大きな数とするエンジン回転数関数f(N)により求め、ステップS808へ移行する。
【0080】
ステップS808では、ステップS807での第1重み付け係数αの算出に続き、外気センサ92からの外気温度T(℃)を読み込み、ステップS809へ移行する。
【0081】
ステップS809では、ステップS808での外気温度Tの読み込みに続き、第2重み付け係数βを、外気温度Tが高温であるほど大きな数とする外気温関数f(T)により求め、ステップS810へ移行する。
【0082】
ステップS810では、ステップS809での第2重み付け係数βの算出に続き、ステップS805での車速対応数aに、ステップS807での第1重み付け係数αと、ステップS809での第2重み付け係数βを掛け合わせて重み付け値(aαβ)を求め、今回の重み付けカウント数Xを、前回の重み付けカウント数Xiに重み付け値(aαβ)を加えて算出し(X=Xi+aαβ)、ステップS811へ移行する。なお、ステップS804〜ステップS810は、乗員足元温度推定部に相当する。
【0083】
ステップS811では、ステップS310での今回の重み付けカウント数Xの算出に続き、今回の重み付けカウント数Xが、足元温度上昇しきい値として与えたカウント数しきい値Xn以上であるか否かを判断し、YES(X≧Xn)の場合はステップS813へ移行し、NO(X<Xn)の場合はステップS312へ移行する(乗員足元温度上昇判断部)。
ここで、カウント数しきい値Xnは、例えば、夏期に自動制御モードを選択しての走行実験を行い、その実験データから最適値を求めて固定値により与えるようにしても良い。また、寒暖の感じ方は乗員によって異なるため、カウント数しきい値Xnを、例えば、乗員の調整操作により可変値により与えるようにしても良い。
【0084】
ステップS812では、ステップS811でのX<Xnであるとの判断に続き、ステップS810にて算出された今回の重み付けカウント数Xを、前回の重み付けカウント数Xiに書き換え、ステップS804へ戻る。
【0085】
ステップS813では、ステップS811でのX≧Xnであるとの判断に続き、各ベンチレータ31,32,33,34,41,42(ベント吹き出し口)のみから冷気を吹き出すベントモードから、各ベンチレータ31,32,33,34,41,42(ベント吹き出し口)に加え、各足元吹出口61,62,63,64,65(フット吹き出し口)からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替え、ステップS814へ移行する(吹き出しモード切替部)。
【0086】
ステップS814では、ステップS813でのベントモードからバイレベルモードへの切り替えに続き、外気センサ92からの外気温度T(℃)を読み込み、ステップS815へ移行する。
【0087】
ステップS815では、ステップS814での外気温度Tの読み込みに続き、バイレベルモードへの切り替え時点からの継続時間として設定される設定時間Tnへの付加時間νを、外気温度Tが高温であるほど大きな数とする外気温関数f(T)により求め、ステップS816へ移行する。
【0088】
ステップS816では、ステップS815での付加時間νの算出に続き、バイレベルモードへの切り替え時点からの経過時間Tが、設定時間Tnと付加時間νの加算時間(Tn+ν)を超えているか否かを判断し、YES(T>Tn+ν)の場合はステップS317へ移行し、NO(T≦Tn+ν)の場合はステップS813へ戻る。
【0089】
ステップS817では、ステップS816での経過時間Tが加算時間(Tn+ν)を超えているとの判断に続き、加算時間(Tn+ν)が経過するまで維持したバイレベルモードから、各ベンチレータ31,32,33,34,41,42(ベント吹き出し口)のみから冷気を吹き出すベントモードに復帰し、ステップS801へ戻る。
なお、ステップS816→ステップS817→ステップS801へと進む流れは、ベントモード復帰部に相当する。
【0090】
なお、ハード系の構成は、実施例1の図1及び図2と同様であるので、図示および説明を省略する。
【0091】
次に、作用を説明する。
実施例2の車両用空調装置における作用を、「自動制御モードの選択走行時における吹き出し口切り替え作用」、「車速・エンジン回転数・外気温度による乗員足元温度推定作用」、「バイレベルモード継続時間の外気温度による設定作用」に分けて説明する。
【0092】
[自動制御モードの選択走行時における吹き出し口切り替え作用]
例えば、夏期にオートスイッチ82の投入操作により自動制御モードを選択し走行するときは、吹き出し口としてベント吹き出し口が自動的に選択され、ベント吹き出し口から冷気を車室内に吹き出すベントモードでの走行が維持される。
【0093】
したがって、図8のフローチャートにおいて、ステップS801→ステップS802→ステップS803→ステップS804→ステップS805→ステップS806→ステップS807→ステップS808→ステップS809→ステップS810→ステップS811へと進み、ステップS811にて、今回の重み付けカウント数Xがカウント数しきい値Xn未満であると判断され、ステップS812へ進む。その後、ステップS812にて、今回の重み付けカウント数Xがカウント数しきい値Xn以上であると判断されるまでは、図8のフローチャートにおいて、ステップS804→ステップS805→ステップS806→ステップS807→ステップS808→ステップS809→ステップS810→ステップS811→ステップS812へ進む流れが繰り返される。
【0094】
そして、ステップS811にて、今回の重み付けカウント数Xがカウント数しきい値Xn以上であると判断されると、図8のフローチャートにおいて、ステップS811からステップS813へと進み、ステップS813にて、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードから、ベント吹き出し口に加えフット吹き出し口からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替えられる。その後、ステップS814→ステップS815→ステップS816へと進み、ステップS816にて、経過時間Tが加算時間(Tn+ν)を超えていると判断されるまで、ステップS813→ステップS814→ステップS815→ステップS816へと進む流れが繰り返され、バイレベルモードが維持される。
【0095】
そして、ステップS816にて、経過時間Tが加算時間(Tn+ν)を超えていると判断されると、図8のフローチャートにおいて、ステップS816からステップS817へと進み、ステップS817にて、バイレベルモードでのフット吹き出し口からの冷気吹き出しを停止し、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードに戻される。その後、ステップS817からステップS801→ステップS802→ステップS803へと戻り、ステップS803では、前回の重み付けカウント数Xiが、Xi=0の初期値に戻される。
【0096】
このため、実施例1と同様に、コスト増や重量増を招くことなく、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行時、排気管系からの熱により生じる乗員足元の温度上昇が抑えられ、乗員の快適性が確保される。また、バイレベルモードを設定時間Tnだけ継続することで足元温度が十分に低下すると、不快と感じる領域に入る前にベントモードに戻され、乗員へ不快感を与えることを防止できる。
【0097】
[車速・エンジン回転数・外気温度による乗員足元温度推定作用]
図9は、実施例2の車両用空調装置において同一車速で同一外気温度であるがエンジン回転数が異なるベントモード走行時の重み付けカウント数特性の対比を示すタイムチャートであり、(a)は低エンジン回転時における重み付けカウント数特性をあらわし、(b)は高エンジン回転時における重み付けカウント数特性をあらわす。
【0098】
車速の高低による足元温度上昇勾配影響については、実施例1で説明した。しかし、足元温度の上昇勾配に影響を与える要因は、車速のみではなく、例えば、エンジン回転数の高低や外気温度の高低等も影響を与える。エンジン回転数の場合、仮に同一車速であっても、エンジン回転数が高いほど排気系を流れる排気ガス熱量が大きくなるという理由により、足元温度上昇勾配が大きくなる。また、外気温度の場合、仮に同一車速であっても、外気温度が高いほど外気との熱交換による排気系の冷却性が低くなるという理由により、足元温度上昇勾配が大きくなる。
【0099】
これに対し、実施例2では、車速V以外にエンジン回転数Nや外気温度Tの高低が足元温度上昇勾配に大きく影響を与えることに着目し、車速Vが高車速であるほど小さな数とする車速対応数aに、エンジン回転数Nが高回転数であるほど大きな数とする第1重み付け係数αと、外気温度Tが高温であるほど大きな数とする第2重み付け係数βを掛け合わせて重み付け値(aαβ)を求め、乗員足元温度推定値として、処理周期毎に取得される重み付け値(aαβ)を積算した重み付けカウント数X(=Xi+aαβ)を算出するようにした。
【0100】
すなわち、車速対応数aと第2重み付け係数βを掛け合わせた値が一定値であるベントモード走行時において、例えば、低エンジン回転数Nであり、第1重み付け係数αの値が小さいときには、図9(a)に示すように、重み付けカウント数Xは第1重み付け係数αの値を傾きとし、ベントモード継続時間Tv2(>Tv1)を要してカウント数しきい値Xnに達する。
【0101】
また、車速対応数aと第2重み付け係数βを掛け合わせた値が一定値であるベントモード走行時において、例えば、高エンジン回転数Nであり、第1重み付け係数αの値が大きいときには、図9(b)に示すように、重み付けカウント数Xは第1重み付け係数αの値を傾きとし、ベントモード継続時間Tv1(<Tv2)を要してカウント数しきい値Xnに達する。なお、この関係は、外気温度Tの高低に関しても同様である。
【0102】
したがって、車速対応数aとして、車速Vが高くなるほど小さな数を与えることで、積算により得られる重み付けカウント数Xの上昇勾配が、実際の足元温度の上昇勾配に沿ったものとなる。また、第1重み付け係数αとして、エンジン回転数Nが高回転数であるほど大きな数を与えることで、積算により得られる重み付けカウント数Xの上昇勾配が、実際の足元温度の上昇勾配に沿ったものとなる。さらに、第2重み付け係数βとして、外気温度Tが高温であるほど大きな数を与えることで、積算により得られる重み付けカウント数Xの上昇勾配が、実際の足元温度の上昇勾配に沿ったものとなる。すなわち、カウント数しきい値Xnを35℃程度まで上昇したときの値に設定することで、重み付けカウント数Xがカウント数しきい値Xn以上になったとの判断により、車速Vとエンジン回転数Nと外気温度Tの3要因の変動に対応し、足元温度が35℃程度まで上昇したことを精度良く推定することができる。
【0103】
[バイレベルモード継続時間の外気温度による設定作用]
図10は、実施例2の車両用空調装置において外気温度が異なるベントモード走行時での重み付けカウント数特性の対比を示すタイムチャートであり、(a)は低外気温における重み付けカウント数特性をあらわし、(b)は高外気温における重み付けカウント数特性をあらわす。
【0104】
実施例1では、ベントモードからバイレベルモードに切り替えた後、バイレベルモードを設定時間Tnだけ継続するようにした。しかし、バイレベルモードに切り替えた後の足元温度の低下勾配は、常に一定というわけではなく、例えば、外気温度の高低等も影響を与える。つまり、外気温度が高いほど足元が高熱雰囲気であるため、同じ温度の冷風を吹き出しても足元雰囲気の冷却速度が遅くなるという理由により、足元温度の低下勾配が小さくなる。
【0105】
これに対し、実施例2では、バイレベルモードに切り替えた後、外気温度Tの高低が足元温度の低下勾配に大きく影響を与えることに着目し、ベントモードからバイレベルモードに切り替えた後、バイレベルモードを維持する継続時間を、設定時間Tnに、外気温度Tが高温であるほど長くなる付加時間νを加算した加算時間(Tn+ν)に設定した。
【0106】
すなわち、ベントモードの継続時間Tvが同じ走行時において、外気温度Tが低外気温度であり、付加時間νの値がゼロとなるときには、図10(a)に示すように、バイレベルモードを維持する加算時間(Tn+ν)は、設定時間Tnとなり、設定時間Tnを経過するとバイレベルモードからベントモードへと復帰する。
【0107】
また、ベントモードの継続時間Tvが同じ走行時において、外気温度Tが高外気温度であり、付加時間νが大きな値となるときには、図10(b)に示すように、バイレベルモードを維持する加算時間(Tn+ν)は、設定時間Tnに付加時間νを加えたものとなり、加算時間(Tn+ν)を経過するまで待って、バイレベルモードからベントモードへと復帰する。
【0108】
したがって、バイレベルモードの継続時間を、加算時間(Tn+ν)により与え、外気温度Tが高温であるほど長い時間となるように設定することで、バイレベルモードでの足元温度の低下幅を、外気温度Tの高低にかかわらずほぼ一定幅とすることができる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0109】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用空調装置にあっては、実施例1の(1)〜(4)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
【0110】
(5) 前記走行状態情報検出手段として、車速を検出する車速検出手段(車速センサ96)と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段(エンジン回転数センサ97)と、外気温度を検出する外気温度検出手段(外気センサ92)を設け、前記乗員足元温度推定部(ステップS804〜ステップS810)は、車速Vが高車速であるほど小さな数とする車速対応数aに、エンジン回転数Nが高回転数であるほど大きな数とする第1重み付け係数αと、外気温度Tが高温であるほど大きな数とする第2重み付け係数βを掛け合わせて重み付け値(aαβ)を求め、乗員足元温度推定値として、処理周期毎に取得される重み付け値(aαβ)を積算した重み付けカウント数X(=Xi+aαβ)を算出し、前記乗員足元温度上昇判断部(ステップS811)は、前記重み付けカウント数Xが、予め設定されたカウント数しきい値Xn以上になると、乗員足元温度が上昇したと判断する。このため、車速風に加えエンジン回転数Nと外気温度Tによる乗員足元温度の上昇勾配変動影響が、ベントモードからバイレベルモードへの切り替え制御に反映され、渋滞路走行・高速道路走行・登坂路走行・降坂路走行・灼熱時走行等おいても精度良く乗員足元温度を推定することができる。
【0111】
(6) 外気温度を検出する外気温度検出手段(外気センサ92)を設け、前記ベントモード復帰部(ステップS813〜ステップS817)は、ベントモードからバイレベルモードに切り替えた後、バイレベルモードを維持する継続時間を、外気温度Tが高温であるほど長くなる可変時間に設定した。このため、バイレベルモードでの足元温度の低下幅を、外気温度Tの高低にかかわらず、快適温度範囲内に収まるほぼ一定の低下幅とすることができる。
【0112】
以上、本発明の車両用空調装置を実施例1および実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0113】
実施例1,2では、乗員足元温度を車速等により推定する例を示した。しかし、乗員足元温度を、温度センサからのセンサ検出値として得る例としても良い。さらに、する例であっても良い。
【0114】
実施例1では、乗員足元温度の上昇を車速により推定する例を示し、実施例1では、乗員足元温度の上昇を車速とエンジン回転数と外気温度により推定する例を示した。しかし、車速とエンジン回転数と外気温度以外の走行状態情報であって、足元温度上昇勾配に影響を与えるような他の要因を考慮しても良い。
【0115】
実施例1では、バイレベルモードの継続時間を固定時間により与え、実施例2では、バイレベルモードの継続時間を外気温度に応じた可変時間により与える例を示した。しかし、バイレベルモードの継続時間は、ベントモードの継続時間と同様に、車速やエンジン回転数を含めて設定した最適の可変時間により与えるような例としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0116】
実施例1,2では、前席と後席の乗員に対し吹き出し口の選択モードを自動制御できる車両用空調装置に対する適用例を示したが、前席の乗員のみに対し吹き出し口の選択モードを自動制御する車両用空調装置に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】実施例1の車両用空調装置におけるハード系の全体概略構成を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の車両用空調装置におけるソフト系の全体概略構成を示す制御ブロック図である。
【図3】実施例1の空調コントロールユニット10にて実行される自動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1の空調コントロールユニット10にて実行される自動制御処理にて用いられる車速域毎の重み付け定数a(第3設定定数a3、第2設定定数a2、第1設定定数a1)の大小関係を示す設定定数特性図である。
【図5】実施例1の車両用空調装置においてベントモード走行時における吹き出し口切り替え作用を示すタイムチャートで、(a)は重み付けカウント数特性をあらわし、(b)は足元温度特性をあらわす。
【図6】実施例1の車両用空調装置でベントモードが自動選択される自動制御モードでの低速走行時における足元温度上昇作用を示す作用説明図である。
【図7】実施例1の車両用空調装置でベントモードが自動選択される自動制御モードでの低速走行時における足元温度上昇作用を示す作用説明図である。
【図8】実施例2の空調コントロールユニット10にて実行される自動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施例2の車両用空調装置において同一車速で同一外気温度であるがエンジン回転数が異なるベントモード走行時の重み付けカウント数特性の対比を示すタイムチャートであり、(a)は低エンジン回転時における重み付けカウント数特性をあらわし、(b)は高エンジン回転時における重み付けカウント数特性をあらわす。
【図10】実施例2の車両用空調装置において外気温度が異なるベントモード走行時での重み付けカウント数特性の対比を示すタイムチャートであり、(a)は低外気温における重み付けカウント数特性をあらわし、(b)は高外気温における重み付けカウント数特性をあらわす。
【符号の説明】
【0118】
1 ブロワユニット
18 ブロワファンモータ
2 空調ユニット
3 フロントベントダクト
4 リヤベントダクト
5 デフダクト
6 フットダクト
7 冷凍サイクル
8 空調コントロール操作ユニット
81 モードスイッチ
82 オートスイッチ(自動制御モード選択手段)
83 エアコンスイッチ
84 温度調節ダイヤル
85 ファン調節ダイヤル
86 オフスイッチ
87 デフスイッチ
88 リヤウィンドウデフォッガスイッチ
89 吸込口スイッチ
9 入力センサ類
91 内気センサ
92 外気センサ(外気温度検出手段)
93 日射センサ
94 水温センサ
95 吸込温度センサ
96 車速センサ(車速検出手段)
97 エンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)
10 空調コントロールユニット
11 出力アクチュエータ類
111 エアミックスドアアクチュエータ
112 モードドアアクチュエータ
113 インテークドアアクチュエータ
114 コンプレッサコントロールバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調状態として自動制御モードを選択する自動制御モード選択手段と、自動制御モードの選択時、空調入力情報に基づき算出された吹き出し風温度に応じて自動的に吹き出し口を選択する自動制御手段と、を備えた車両用空調装置において、
前記自動制御手段は、ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行中、乗員足元温度の上昇が判断されると、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードから、ベント吹き出し口に加えフット吹き出し口からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替えることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用空調装置において、
前記自動制御手段は、ベントモードからバイレベルモードに切り替えて所定時間だけバイレベルモードを維持した後、再びベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードに戻すベントモード復帰部を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された車両用空調装置において、
ベント吹き出し口が選択されている自動制御モードでの走行中、走行状態情報を検出する走行状態情報検出手段を設け、
前記自動制御手段は、走行状態情報に基づいて乗員足元温度を推定する乗員足元温度推定部と、前記乗員足元温度推定部による乗員足元推定温度の上昇を判断する乗員足元温度上昇判断部と、乗員足元推定温度の上昇が判断されると、ベント吹き出し口のみから冷気を吹き出すベントモードから、ベント吹き出し口に加えフット吹き出し口からも冷気を吹き出すバイレベルモードに切り替える吹き出しモード切替部と、を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項4】
請求項3に記載された車両用空調装置において、
前記走行状態情報検出手段として、車速を検出する車速検出手段を設け、
前記乗員足元温度推定部は、車速を低速域から高速域までの複数の車速域に分け、各車速域について高速域であるほど低い数値による重み付け定数を求め、乗員足元温度推定値として、処理周期毎に取得される重み付け定数を積算した重み付けカウント数を算出し、
前記乗員足元温度上昇判断部は、前記重み付けカウント数が、予め設定されたカウント数しきい値以上になると、乗員足元温度が上昇したと判断することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項5】
請求項3に記載された車両用空調装置において、
前記走行状態情報検出手段として、車速を検出する車速検出手段と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、外気温度を検出する外気温度検出手段を設け、
前記乗員足元温度推定部は、車速が高車速であるほど小さな数とする車速対応数に、エンジン回転数が高回転数であるほど大きな数とする第1重み付け係数と、外気温度が高温であるほど大きな数とする第2重み付け係数を掛け合わせて重み付け値を求め、乗員足元温度推定値として、処理周期毎に取得される重み付け値を積算した重み付けカウント数を算出し、
前記乗員足元温度上昇判断部は、前記重み付けカウント数が、予め設定されたカウント数しきい値以上になると、乗員足元温度が上昇したと判断することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5の何れか1項に記載された車両用空調装置において、
外気温度を検出する外気温度検出手段を設け、
前記ベントモード復帰部は、ベントモードからバイレベルモードに切り替えた後、バイレベルモードを維持する継続時間を、外気温度が高温であるほど長くなる可変時間に設定したことを特徴とする車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−292349(P2009−292349A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148885(P2008−148885)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】