説明

車両用空調装置

【課題】冷房運転時は1段膨張サイクルとし、低回転時には低圧気筒を休止又はバイパスし高圧気筒のみで運転する2段圧縮式圧縮機を備えた車両用空調装置を提供する。
【解決手段】低圧圧縮機構(7)と高圧圧縮機構(9)を有する圧縮機(20)によって作動するヒートポンプシステムが、暖房時には、前記圧縮機(20)へ中間圧冷媒の流入を行う2段圧縮冷凍サイクルを構成し、かつ、冷房時には、1段圧縮1段膨張冷凍サイクルを構成するような冷媒回路を具備し、冷房時に、前記圧縮機(20)を駆動する電動モータ(5)の回転数(n)が、モータ効率の悪い所定値以下の範囲においては、前記高圧圧縮機構(9)のみで冷媒を圧縮させ、前記所定値より大きい範囲では、前記低圧圧縮機構(7)と前記高圧圧縮機構(9)の両方で冷媒を圧縮させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の暖房を、圧縮機への中間圧冷媒の流入を伴う2段圧縮冷凍サイクルで行うヒートポンプシステムに関するもので、冷房は中間圧冷媒を流入しない冷凍サイクルで運転し、かつ低回転時には圧縮機の低圧気筒(低圧圧縮機構)を休止又はバイパスし、高圧気筒(高圧圧縮機構)のみで運転する2シリンダ圧縮機(2段圧縮式圧縮機)を用いた車両用空調装置に関する。ここで、「2段圧縮冷凍サイクル」には、後述する2段圧縮2段膨張サイクル、2段圧縮1段膨張サイクルが含まれる。
【背景技術】
【0002】
一般に自動車用空調装置では暖房時の加熱熱源として自動車走行用エンジンの冷却水を用いるが、ハイブリッド自動車(HV、PHV)のようにエンジン廃熱が少ないために冷却水から得られる熱量が少ない場合や、又は、電気自動車(EV)、燃料電池自動車のようにもともとエンジンを有さないものにあっては、エンジン冷却水以外の加熱源を用いて暖房を行う必要がある。従来、このような車両用の空調装置としてヒートポンプシステムを採用したものが数多く提案されている。
【0003】
このような提案として、特許文献1には、低外気温時も暖房能力を確保するために、中間圧まで減圧された冷媒の気液を分離する気液分離器を設け、この気液分離器で分離されたガス冷媒を圧縮機の圧縮過程にインジョクションするガスインジョクション方式のヒートポンプを構成するシステムが示されている。これは、差圧を利用してインジェクションされた分だけ冷媒流量が増加するため、室内熱交換器(コンデンサ)へ流入する冷媒流量が増加して、室内熱交換器における空気への放熱量を増加させて、暖房能力を増加させることができるものである。さらにインジェクションポートの途中に発熱体の廃熱を回収可能なように熱交換器を設けてあり、これにより低外気温時における暖房能力をさらに増加する工夫がされている。
【0004】
しかし、このような2段圧縮サイクルによる流量増加や廃熱回収は冷房時には室内熱交換器の負荷増大になるのみであり、圧縮機動力が増える分だけシステム性能(以下COP)を低下させることになる。そのため、冷房時には中間圧冷媒の圧縮部への流入を遮断し、COPを向上するものがある。しかし、圧縮機の容量は暖房負荷に見合うように決めることが多いため、このようなサイクルであっても一年を通して用いると、後述するように小能力時の冷房運転においては回転数が低い条件になるため、圧縮機をモータ効率の悪い範囲で運転することになり、COP(成績係数)が悪化するという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3484871公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、暖房を圧縮機への中間圧冷媒の流入を伴う2段圧縮冷凍サイクルで行うヒートポンプシステムであって、冷房は中間圧冷媒を流入しない冷凍サイクルで運転し、かつ低回転時には圧縮機の低圧圧縮機構を休止又はバイパスし、高圧圧縮機構のみで運転する2シリンダ圧縮機を用いた車両用空調装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、低圧圧縮機構(7)と高圧圧縮機構(9)を有する圧縮機(20)によって作動するヒートポンプシステムを具備する車両用空調装置において、該ヒートポンプシステムが、暖房時には、前記圧縮機(20)へ中間圧冷媒の流入を行う2段圧縮冷凍サイクルを構成し、かつ、冷房時には、前記圧縮機(20)の低圧圧縮機構(7)と高圧圧縮機構(9)のうちの高圧圧縮機構(9)のみか又は両方で冷媒を圧縮させる1段圧縮1段膨張冷凍サイクルを構成するような冷媒回路を具備し、前記ヒートポンプシステムは、冷房時に、前記圧縮機(20)を駆動する電動モータ(5)の回転数(n)が、モータ効率の悪い所定値以下の範囲においては、前記圧縮機(20)の前記高圧圧縮機構(9)のみで冷媒を圧縮させ、冷房時に前記回転数(n)が、前記所定値より大きい範囲では、前記圧縮機(20)の前記低圧圧縮機構(7)と前記高圧圧縮機構(9)の両方で冷媒を圧縮させるように構成された車両用空調装置である。
【0008】
このように冷房運転時は1段膨張サイクルとし、所定回転数以下の低回転時には低圧気筒を休止して、高圧気筒のみで運転することによって、モータ回転数を上げてモータ効率の良い範囲で運転することができる。これにより、年間を通したCOP(成績係数)を向上させることができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、冷房時に前記回転数(n)が前記所定値以下の範囲において、前記圧縮機(20)の前記低圧圧縮機構(7)の圧縮作用を休止させたことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記圧縮機(20)が、ローリングピストン型2シリンダ圧縮機であることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記回転数(n)が、前記所定値以下の範囲において、前記ローリングピストン型2シリンダ圧縮機の前記低圧圧縮機構(7)の作動室の吸入側と吐出側とを仕切るベーンの仕切り作用を休止させる休止手段を有することを特徴とする。これにより、低圧圧縮機構の圧縮作用を休止させることができるので、駆動軸6で低圧圧縮機構7と高圧圧縮機構9が連結していても、高圧圧縮機構でのみで運転されることになる。また、低圧圧縮部のベーン先端とロータ間で発生する摺動損失をなくすことができる。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記休止手段は、前記ベーン端部に固定した永久磁石(52)と、前記低圧圧縮機構(7)のシリンダ側に設置された電磁石(55)を具備し、前記低圧圧縮機構(7)の圧縮休止時に電磁石で、前記ベーン端部に固定した永久磁石(52)を吸引し、圧縮再開時には電磁石(55)で反発させるように制御したことを特徴とする。
これにより、ベーンによる仕切り機能がなくなり、低圧圧縮機構を休止させることができる。しかも、圧縮再開時には電磁石への電流の向きを、休止時とは逆方向に変えて、ベーンに固定された永久磁石と電磁石とを反発させ、ベーンをロータ側に移動させて圧縮を再開する。このため圧縮再開時の応答性が極めて良好となる。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1から5のいずれか1項記載の発明において、前記回転数(n)として、前記エアコンの制御装置(ECU)から得られた信号を利用したことを特徴とする。これにより、回転数を検出するセンサを設ける必要がないため、簡素で低コストな構成にすることができる。
【0014】
請求項7の発明は、請求項1の発明において、冷房時に前記回転数(n)が前記所定値以下の範囲において、冷媒が、前記圧縮機(20)の前記低圧圧縮機構(7)をバイパスして前記低圧圧縮機構(7)を通過せずに、前記高圧圧縮機構(9)に流入するように冷媒回路を構成したことを特徴とする。
冷房運転時は1段膨張サイクルとし、所定回転数以下の低回転時には低圧圧縮機構をバイパスして、高圧圧縮機構のみで運転することによって、モータ回転数を上げてモータ効率の良い範囲で運転することができる。これにより、年間を通したCOP(成績係数)を向上させることができる。
【0015】
なお、上記に付した符号は、後述する実施形態に記載の具体的実施態様との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態が適用されたハイブリッド自動車の場合のシステムの説明図である。
【図2】暖房時の冷凍サイクルにおける本発明の一実施形態のローリングピストン型2シリンダ圧縮機の断面図である。
【図3】冷房時の冷凍サイクルにおける本発明の一実施形態のローリングピストン型2シリンダ圧縮機の断面図である。
【図4】(a)は、本発明の一実施形態の暖房時の冷凍サイクル図であり、(b)は、本発明の一実施形態の通常の冷房時の冷凍サイクル図であり、(c)は、本発明の一実施形態の低回転時の冷房時の冷凍サイクル図である。
【図5】(a)は、2段圧縮2段膨張サイクル、(b)は、2段圧縮1段膨張サイクルを示す説明図である。
【図6】電動モータの回転数とモータ効率の関係を示す一例としてのグラフである。
【図7】電磁石による吸引力を利用したベーン休止手段の一例である。
【図8】低圧圧縮機構の休止時のベーン休止手段の作動を示す説明図である。(a)は、電磁石への通電前、(b)は、電磁石への通電後、ベーンが電磁石の鉄心に近づいて吸着した図である。
【図9】低圧圧縮機構の再開時のベーン休止手段の作動を示す説明図である。(a)は、電磁石への通電中で再開前、(b)は、電磁石への通電停止、ベーンと電磁石の鉄心とが反発して離脱した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。各実施態様について、同一構成の部分には、同一の符号を付してその説明を省略する。
本発明の車両空調装置は、ハイブリッド自動車(HV、PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車などの余剰熱源を持たない車両や一般的ガソリン車において、ヒートポンプを用いて空気の加熱を行うようにした空調装置に適用されるものである。
【0018】
本発明の一実施形態が適用されたハイブリッド自動車(HV)の場合のシステムを、一例として説明する。図1は、本発明の一実施形態が適用されたハイブリッド自動車の場合のシステムの説明図である。本発明は、ハイブリッド自動車に限定されるものではなく、その他電気自動車などに広く適用することができる。
【0019】
図2は、暖房時の冷凍サイクルにおける本発明の一実施形態のローリングピストン型2シリンダ圧縮機の断面図である。図3は、冷房時の冷凍サイクルにおける本発明の一実施形態のローリングピストン型2シリンダ圧縮機の断面図である。本実施形態では、2シリンダ圧縮機として、図2に示すようなローリングピストン型圧縮機を使用したが、バイパス通路を設ければ、これに限定されずに、スクロール型やスライドベーン型などの2シリンダ圧縮機(2段圧縮式圧縮機)であっても良い。後述する休筒作動の容易性から、ローリングピストン型圧縮機が最適である。なお、低圧、高圧圧縮機構7、9の配置は図2、3の実施形態に限定されるものではなく、互いに隣接配置しても良い。
【0020】
図4(a)は、本発明の一実施形態の暖房時の冷凍サイクル図であり、(b)は、本発明の一実施形態の通常の冷房時の冷凍サイクル図であり、(c)は、本発明の一実施形態の低回転時の冷房時の冷凍サイクル図である。
ここで、「2段圧縮冷凍サイクル」には、2段圧縮2段膨張サイクル、2段圧縮1段膨張サイクルが含まれる。図5(a)は、2段圧縮2段膨張サイクル、(b)は、2段圧縮1段膨張サイクルを示す説明図である。これらは、いずれも圧縮機への中間圧冷媒の流入を伴っている。一方、図4(b)、(c)の両方とも、基本的には、1段圧縮1段膨張冷凍サイクルに含まれる。これらは、いずれも圧縮機への中間圧冷媒の流入を伴っていない。図4(b)は、低圧、高圧圧縮機構7、9の2段に圧縮されているが、全体としては、1段の圧縮と見ており、冷凍サイクルの1段圧縮の意味に、高圧、低圧の2段階に圧縮されても、1段圧縮と見做している。
【0021】
図1、2、3を参照して、本発明の一実施形態が適用された冷凍サイクルを、以下に説明する。
図1の実施形態は、車両空調装置用空調システムにローリングピストン型2シリンダ圧縮機が使用されている。HVAC(Heating、Ventilating and Air-Conditioning)ユニット4は、ファン40、第3熱交換器33、第2熱交換器32、エアミックスドア44を内蔵している。通常、エンジン冷却水からの温水を利用したヒータコアが、図1の32の部分に使用されているが、ここでは、32はヒートポンプのコンデンサである。
【0022】
圧縮機20は、図2、3に示すようなローリングピストン型2シリンダ圧縮機が使用されている。駆動軸6の端部に設けられた図上左右のクランク部6a、6bには、ロータ2が嵌合して、低圧、高圧圧縮機構7、9のシリンダ(図示せず)内面を公転して、作動室内の冷媒を圧縮する。モータ5のステータモータ5aは、ハウジング3に固定され、ロータモータ5bは、駆動軸6に固定されている。低圧圧縮機構7で圧縮された冷媒は、吐出孔23を経て、低段吐出口24に至る。また、高段吸入口25から吸入された冷媒は、同様に、高圧圧縮機構9で圧縮され、吐出孔26、連通孔27、モータ室8を経て、高段吐出口28に至る。(ローリングピストン型圧縮機の一般的構造については、新版第5版「冷凍空調便覧」第2巻機器編、社団法人日本冷凍協会、30〜35頁等参照。)
【0023】
図1の「イ」が示す矢印経路は、暖房時の経路であり、図2、図4(a)は、暖房時の冷凍サイクルである。図1の「ロ」が示す矢印経路は、冷房時であり、図3、図4(c)は、冷房時に気筒休止した場合の冷凍サイクルである。冷房時には、第2熱交換器32は、図1の点線のようにミックスドア44で熱交換しないように覆われる。
【0024】
図1の「イ」が示す矢印経路、図2、図4(a)のそれぞれを参照して、暖房時の冷凍サイクルを説明する。
圧縮機20の高段吐出口28から吐出された冷媒は、HVACユニット4の第2熱交換器32(室内熱交換器、コンデンサ)で、ファン40により送風された空気を加熱し、電気式の第1膨張弁114で膨張後、気液分離器42に流入する。気液分離器42で分離されたガス冷媒は、低段吐出口24から吐出されたガス冷媒と合流して高段吸入口25から圧縮機20に投入される(電磁弁117は、暖房時:開、冷房時:閉)。その後、高圧圧縮機構9で圧縮されて、第2熱交換器32へと流入する。一方、気液分離器42で分離された液冷媒は、第2膨張弁115で膨張(減圧)後、第1熱交換器31(室外熱交換器)を通過して蒸発した後、アキュムレータ41を通り、低段吸入口22から圧縮機20に投入され、2段圧縮2段膨張冷凍サイクルを繰り返すことになる。このとき、3方弁111は、図1の「イ」の矢印経路に示すように、第3熱交換器(室内エバポレータ)への冷媒回路は閉鎖されている。
【0025】
車両空調装置用ヒートポンプシステムにおいては、窓ガラスの曇り防止のために、室内熱交換器をエバポレータ及びコンデンサ機能を切り替えて使用することはせず、エバポレータ(後述する第3熱交換器33)及びコンデンサ(第2熱交換器32)を別々に構成している。これは、冷暖房を切り替えた場合に、一時的に発生するエバポレータの凝縮水が蒸発することに起因する窓曇りを防止することによる。
【0026】
暖房の場合、2段圧縮2段膨張冷凍サイクルは、熱効率が良いばかりでなく、次に述べるように、寒冷地対応の上から極めて有効である。寒冷地では、蒸発圧力の低下により圧縮機の吸入冷媒密度が低下し、それに比例して冷媒循環量が減少する。また、蒸発圧力の低下は、圧縮機での圧縮比を増大させるため、圧縮機の断熱圧縮効率が悪化してCOP(成績係数)も悪化させてしまう。これを改善するためには、気液分離器で分離されたガス冷媒を圧縮機の圧縮過程にインジョクションするヒートポンプシステムが有効となる。ガスインジェクションされた冷媒流量が圧縮機の吸入冷媒流量に加わり、室内熱交換器(コンデンサ)への冷媒流量が増加して、室内熱交換器(コンデンサ)での冷媒放熱量を増加させて、暖房能力を増加させることができる。以上の説明においては、暖房運転の場合、2段圧縮2段膨張冷凍サイクルで説明したが、図5(b)の2段圧縮1段膨張冷凍サイクルに冷媒回路を組み替えて実施しても良い。
【0027】
次に、図1の「ロ」が示す矢印経路、図3、図4(b)、(c)のそれぞれを参照して、冷房時の冷凍サイクルを説明する。
まず、通常時の冷房(高い冷房能力が必要な場合)の図4(b)の冷凍サイクルから説明する。この場合、3方弁111は「ロ」が示す矢印経路になっている。第1熱交換器31(室外熱交換器、この場合はコンデンサ)を通過して凝縮した冷媒は、第3膨張弁112で減圧されて、第3熱交換器(エバポレータ)33を通過して、アキュムレータ41を通り、図3に示すように、低段の吸入口22から入って、低圧圧縮機構7で圧縮後、低段吐出口24から、高段吸入口25へ流入する。この場合、電磁弁117は閉となっている。その後、圧縮冷媒ガスは、第2熱交換器32を通過するが、冷房時には、第2熱交換器32は、図1の点線のようにミックスドア44で熱交換しないように覆われている。
したがって、圧縮冷媒ガスは、熱変化することなく、第2熱交換器32通過した後、冷房時には、電磁弁114は全閉となっており、弁113は開であるので、第1熱交換器31(室外熱交換器、コンデンサ)を通過して凝縮し、同様な冷凍サイクルが繰り返される。
【0028】
通常、冷房運転の場合の圧縮機の容量は、暖房時に比べて小さい容量となるため、高い冷房能力が必要な場合以外は、圧縮機の回転数が低下することが多い。すなわち、2段圧縮式圧縮機の場合には、低圧圧縮機構(低圧気筒)の容量を1とすると、高圧圧縮機構(高圧気筒)の容量は0.6倍程度になっていることが多く、低圧圧縮機構の容量は、高圧圧縮機構の容量に比してかなり大きいものとなっている。2段圧縮機の容量は、大きい方の気筒の容量で決まってしまうため、高い冷房能力が必要な場合以外の通常の冷房運転では、圧縮機を駆動する電動モータ5が、回転数が、モータ効率の悪い低い領域で使用されてしまうことになる。このようなモータ効率の悪い低い領域での使用を避けるためには、容量の小さい高圧圧縮機構9のみで圧縮して、容量の大きい低圧圧縮機構7を休止するか、低圧圧縮機構7をバイパスすると、モータ効率の良い回転数領域で使用することができるのである。
【0029】
図5は、電動モータの回転数とモータ効率の関係を示す一例としてのグラフである。図5に示すように、低回転になるほど効率が悪いのは、モータ動力に占めるモータ損失の割合が増加するためである。これは、トルクを一定としたときに回転数が低いほどモータ動力は小さくなるが、そのトルクを出すための電流を流したときに発生する鉄損や銅損が、回転数に比例して減少しないことによる。
【0030】
本発明の一実施形態では、圧縮機の駆動電動モータ5の回転数nが、所定値以下の範囲において、2段圧縮式圧縮機20の低圧圧縮機構7を休止させるように構成したことを特徴とする。ローリングピストン型2シリンダ圧縮機の場合には、休止させるやり方として、ローリングピストン型2シリンダ圧縮機の低圧圧縮機構7の作動室の吸入側と吐出側とを仕切るベーンの仕切り作用を休止させるのが最も効果的である。一方、低圧圧縮機構を休止する回転数nの所定値は、図5を参照して一例として、4000rpmが閾値としてあげられるが、これに限定されず、電動モータそれぞれの特性に応じて定めればよい。また、回転数nの検出方法として、エアコンの制御装置ECUから得られた信号を利用すれば、回転数を測定するための特別なセンサを追加する必要がないため、簡素で低コストに構成することができる。
【0031】
図7は、電磁石による吸引力を利用したベーン休止手段の一例である。図8は、低圧圧縮機構の休止時のベーン休止手段の作動を示す説明図である。(a)は、電磁石への通電前、(b)は、電磁石への通電後、ベーンが電磁石の鉄心に近づいて吸着した図である。図9は、低圧圧縮機構の再開時のベーン休止手段の作動を示す説明図である。(a)は、電磁石への通電中で再開前、(b)は、電磁石への通電停止、ベーンと電磁石の鉄心とが反発して離脱した図である。
【0032】
図7〜9を参照して、以下、構成と作動について説明する。
図7に示すようにベーン51には板磁石52(例えば上52−1がN極、下52−2がS極)が一体に接着されており、ベーン下部には電磁石55が、圧縮運動によってベーンが最も鉄心に近づいたときにもベーン51と鉄心53には若干の隙間ができるように、配置されている。また、ベーン下部には吐出圧または中間圧の背圧が作用しており、ベーン51をロータ2に押付ける方向に力が働いている。漏れを防ぐため背圧室はキャップ57により密封されているが、同時にこれにより電磁石はシリンダ10に固定されている。
【0033】
まず、低圧の圧縮休止時の作動を説明すると、図8のように圧縮している途中で電磁石55に通電する。このときの電流の向きは、鉄心の上部がN極となるように設定されている。すると、ベーンが鉄心に近づいたときにベーンに接着された磁石の下52−2(S極)と電磁石55が引き合い、ベーン51は電磁石55に吸着される。これによりベーン51による仕切り機能がなくなり、低圧圧縮機構7は休止することになる。
【0034】
次に圧縮再開時の作動について説明すると、図5のように電磁石55への電流の向きを、休止時とは逆方向に変え、鉄心の上部がS極となるようにする。すると、ベーンに接着された磁石と電磁石が反発し、ベーン51はロータ側に移動し圧縮が再開することになる。
このようにベーンに板磁石を付けることで、バネをベーン下部に入れる必要がなくなり小さな体格で休止機構を構成することができる。しかも、ベーンの作動の応答性が極めてよくなり、作動の安定性、信頼性を高めることができる。
【0035】
以上のベーン休止手段は、本発明の実施形態に限らず、2シリンダ型ローリングピストン型圧縮機に、休止機構として広く利用することができる。また、2シリンダ型ローリングピストン型圧縮機に限定されること無く、単シリンダ、多シリンダ型にも負荷の大小に応じて、圧縮運転、非圧縮運転に切り替えたりする場合に利用することができる。
【0036】
単シリンダ、又は、多シリンダ型ローリングピストン型圧縮機において、ベーンの休止手段を設け、休止手段は、ベーン端部に固定した永久磁石52(板磁石)と、低圧圧縮機構7のシリンダ側に設置された電磁石55を具備し、低圧圧縮機構7の圧縮休止時に電磁石55で、ベーン端部に固定した永久磁石52を吸引し、圧縮再開時には電磁石55で反発させるように制御するとよい。
【0037】
以上の図7〜9の一実施形態に限定されずに、電磁石の位置と休止手段は様々な変形例が考えられる。一例として、電磁石でベーン側面を吸引させるように設置しても良い。また、背圧室を十分大きく取れる場合には、ベーン下部にバネを入れることによって、ベーンには磁石を接着しなくても休止機構を構成することが可能である。電磁弁によって背圧の連通路を遮断させても良い。
【0038】
ローリングピストン型圧縮機の場合には、ベーンをシリンダ内部に後退収納して、作動室の吸入側と吐出側とを仕切るベーンの仕切り作用を休止させることができるが、その他の形式の圧縮機においては、低圧圧縮機構7の圧縮作用を休止させる代わりに、冷媒回路にバイパス回路(低段吸入口22から低段吐出口24に抜けるバイパス回路)を設けて、これを必要時に電磁弁で開閉させて、モータ効率の悪い所定値以下の範囲において、高圧圧縮機構9のみによる1段圧縮1段膨張冷凍サイクルを構成しても良い。低圧圧縮機構7の圧縮作用が休止していない場合には、エネルギー損失が発生するので、ローリングピストン型圧縮機の場合のように、ベーンをシリンダ内部に収納して作動室の吸入側と吐出側とを仕切るベーンの仕切り作用を休止させる方が好ましい。
【0039】
本発明において、冷房運転時は1段膨張サイクルとし、所定回転数以下の低回転時には低圧気筒をバイパスするか休止して、高圧気筒のみで運転することによって、モータ回転数を上げてモータ効率の良い範囲で運転することができる。これにより、年間を通したCOP(成績係数)を向上させることができる。
一例として、次のような前提のもとで試算して、効果(年間動力比)を検討する。
(1)暖房も冷房もヒートポンプで行うカーアエコンシステムにおいて、年間の運転条件のうち、冷房の出現頻度は55%。
(2)気筒を休止する圧縮機の回転数の閾値(上述の所定回転数)は、4000rpmとし、これより以下の回転数で運転するときは気筒を休止し、気筒を休止しない場合には6000rpm以上で運転すると仮定(このときのモータ効率93%)。
以上の前提で試算した結果、年間で4.9kWh程度省動力化が見込める。これは従来例(気筒を休止しない場合)の年間動力を1とすると,本発明の動力は0.979となり、2.1%動力を減らせる効果が得られることになる。
【符号の説明】
【0040】
5 電動モータ
7 低圧圧縮機構
9 高圧圧縮機構
20 2段圧縮式圧縮機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低圧圧縮機構(7)と高圧圧縮機構(9)を有する圧縮機(20)によって作動するヒートポンプシステムを具備する車両用空調装置において、
該ヒートポンプシステムが、暖房時には、前記圧縮機(20)へ中間圧冷媒の流入を行う2段圧縮冷凍サイクルを構成し、かつ、冷房時には、前記圧縮機(20)の低圧圧縮機構(7)と高圧圧縮機構(9)のうちの高圧圧縮機構(9)のみか又は両方で冷媒を圧縮させる1段圧縮1段膨張冷凍サイクルを構成するような冷媒回路を具備し、
前記ヒートポンプシステムは、冷房時に、前記圧縮機(20)を駆動する電動モータ(5)の回転数(n)が、モータ効率の悪い所定値以下の範囲においては、前記圧縮機(20)の前記高圧圧縮機構(9)のみで冷媒を圧縮させ、
冷房時に前記回転数(n)が、前記所定値より大きい範囲では、前記圧縮機(20)の前記低圧圧縮機構(7)と前記高圧圧縮機構(9)の両方で冷媒を圧縮させるように構成された車両用空調装置。
【請求項2】
冷房時に前記回転数(n)が前記所定値以下の範囲において、前記圧縮機(20)の前記低圧圧縮機構(7)の圧縮作用を休止させたことを特徴とする請求項1に記載の車両空調装置。
【請求項3】
前記圧縮機(20)が、ローリングピストン型2シリンダ型圧縮機であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両空調装置。
【請求項4】
前記回転数(n)が、前記所定値以下の範囲において、前記ローリングピストン型2シリンダ圧縮機の前記低圧圧縮機構(7)の作動室の吸入側と吐出側とを仕切るベーンの仕切り作用を休止させる休止手段を有することを特徴とする請求項3に記載の車両空調装置。
【請求項5】
前記休止手段は、前記ベーン端部に固定した永久磁石(52)と、前記低圧圧縮機構(7)のシリンダ側に設置された電磁石(55)を具備し、前記低圧圧縮機構(7)の圧縮休止時に電磁石(55)で、前記ベーン端部に固定した永久磁石(52)を吸引し、圧縮再開時には電磁石(55)で反発させるように制御したことを特徴とする請求項4に記載の車両空調装置。
【請求項6】
前記回転数(n)として、前記エアコンの制御装置(ECU)から得られた信号を利用したことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両空調装置。
【請求項7】
冷房時に前記回転数(n)が前記所定値以下の範囲において、冷媒が、前記圧縮機(20)の前記低圧圧縮機構(7)をバイパスして前記低圧圧縮機構(7)を通過せずに、前記高圧圧縮機構(9)に流入するように冷媒回路を構成したことを特徴とする請求項1に記載の車両空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−1268(P2013−1268A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135119(P2011−135119)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】