説明

車両用立体音響装置

【課題】運転中など視界範囲内に音像を定位させるのが困難な状況であっても、視界範囲内に音像を明確に定位させる。
【解決手段】ドライバの前方で音像が定位する「前方定位音(メイン定位音M)」を発生する際、ドライバの後方で音像定位する「サブ定位音S」を発生する。この「サブ定位音S」は、ドライバの後方(視界範囲外)で定位する音であるため、視覚情報の影響を受けず、容易かつ明確にドライバの後方において音像が定位する。すると、人の脳内では、明確に音像定位する後方の「サブ定位音S」と、視界範囲内で音像定位する「前方定位音」を無意識で比較する。その結果、ドライバが視覚情報を取り入れる車両運転状態にあっても、視界範囲内に「前方定位音」を明確に定位させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右のスピーカ(2チャンネルのスピーカ)を用いて車両の乗員に「音の立体定位(音の「前後」、「前後左右」、「左右前後上下」等の定位)」を与える車両用の立体(3D)音響装置に関し、例えば車両の乗員に対して音声等により方向情報を与える車両用音声装置(ナビゲーションシステムや注意喚起装置等)に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
左右の2つのスピーカを用いて乗員に音の立体定位(音像定位)を与える車両用立体音響装置として、「バイノーラル録音+ヘッドフォン再生」の技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
バイノーラル録音は、ダミーへッドの左右の擬似耳に左右の録音用のマイク(マイクロフォンの略)を配置して録音を行なうものであり、バイノーラル録音によって録音された録音物をヘッドフォン(耳に直接音を与えるスピーカ:イヤースピーカを含む)を用いて左右の耳で直接再生することで、音の立体定位が可能になる技術である。
【0003】
音の立体定位を行なう再生装置は困難であるが、「バイノーラル録音+ヘッドフォン再生」では、録音時の「録音マイクの位置(擬似耳の位置)」と、再生時の「再生音発生位置(人の耳の位置)」とを一致させることで、「音の3D情報(音に含まれる立体定位に関する情報)」を「耳」において『正確に再現』することを可能としている。
【0004】
しかし、「スピーカの位置」と「耳」が離れると、片側スピーカの音が反対側の耳に到達するクロストークが発生して、「音の3D情報」を「耳」で正確に再現することができなくなり、「音の立体定位」が得られなくなる。
そこで、バイノーラル録音による録音物を超音波変調し、その超音波変調した超音波変調音を、乗員の頭部から離れた位置に設置した左右の再生用超音波スピーカから乗員の左右のそれぞれの耳に向けて与えることで、「スピーカの位置」と「耳」を離してもクロストークの発生を防いで「音の立体定位」を可能とする技術を本願出願人が提案している(周知技術ではない)。
【0005】
上記の提案技術により「前後」、「前後左右」、「左右前後上下」等の「音の立体定位」が可能になる。
しかし、視覚情報を積極的に取り入れる状況では、視界範囲内の視覚情報が優先されるため、視界範囲内において音像を定位させることが難しくなる。
このため、車両の乗員(特に運転中のドライバ)に対し、視界範囲内に音像を定位させることが困難になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−153687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、乗員が視覚情報を取り入れる状況であっても、視界範囲内の任意の方向に音像を定位させることのできる車両用立体音響装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔請求項1の手段〕
請求項1の車両用立体音響装置は、乗員に立体音を与える音響信号(バイノーラル録音による録音物等)を超音波変調し、その超音波変調した超音波変調音を、乗員の頭部から離れた位置に設置した左右の再生用超音波スピーカから乗員の左右のそれぞれの耳に向けて与えることでクロストークの発生を防ぎ、「前後」、「前後左右」、「左右前後上下」等の「音の立体定位」を可能にしている。
【0009】
しかるに、座席の前方から音が聞こえる「前方定位音」を発生する際、本発明を適用しない場合、聴覚情報より視覚情報が優先するため、「前方定位音」を視界範囲内の任意の方向に定位させることが困難になる。
これに対し、本発明の車両用立体音響装置は、少なくとも「前方定位音」を発生する際、乗員の前方以外の方向(座席後方や真上など)で音像が定位する「サブ定位音」を発生する。
【0010】
「サブ定位音」は、視界範囲外であるため、視覚情報の影響を受けず、乗員の任意の方向において容易かつ明確に音像が定位する。
すると、脳内では、明確に音像定位する「サブ定位音」と、視界範囲内で音像定位する「前方定位音」を無意識で比較するため、視界範囲内であっても「前方定位音」を任意の方向において明確に定位させる。
このようにして、請求項1の車両用立体音響装置は、乗員が視覚情報を取り入れる状況であっても、「前方定位音」が聞こえる方向(音像が定位する方向)を、乗員の視界範囲内の任意の方向において明確に定位させることができる。
【0011】
〔請求項2の手段〕
請求項2の音響信号は、バイノーラル録音による録音物である。
バイノーラル録音によって音響信号を得るため、クロストークキャンセル等の位相操作技術を用いなくても、「任意の方向に音像が定位する音響信号」を容易かつ明確に得ることができる。その結果、乗員の任意の方向において音像を明確に定位させることができる。
【0012】
〔請求項3の手段〕
請求項3におけるバイノーラル録音による録音物は、超音波変調音(可聴音を超音波変調した音)を録音用超音波スピーカから発生させた再生音を録音した超音波変調録音物である。
超音波は指向性が強いため、バイノーラル録音に用いられる左右の録音マイクに対して、音の広がりが抑えられて「録音に用いる音」を与えることができる。即ち、左右の録音マイクに対して明確な「音の3D情報」を与えることができる。
その結果、既存のバイノーラル録音に比較して、発音方向の定位性が飛躍的に高い録音物を得ることができ、音の反射やこもり音の発生し易い車室内であっても、乗員の任意の方向に音像を定位させる効果を高めることができる。
【0013】
〔請求項4の手段〕
請求項4においてバイノーラル録音に用いられる左右の擬似耳は、人の外耳を模した擬似耳介と擬似外耳道を備えるものであり、左右の録音マイクが左右の擬似外耳道の内部に配置される。
これにより、「録音に用いられた音」を人の耳により近づいた状態で録音できる。このため、バイノーラル録音に含まれる「音の3D情報」の精度を高めることができ、結果的にヘッドフォンを用いない車両用立体音響装置における「音の立体定位」の精度を向上させることができる。
【0014】
〔請求項5の手段〕
請求項5は、左右の再生用超音波スピーカから乗員の左右の耳に与える「サブ定位音」の音圧が、「前方定位音」の音圧より小さく設定されるものである。
これにより、「サブ定位音」の煩わしさを抑えて、「前方定位音」の明瞭性を高めることができる。
【0015】
〔請求項6の手段〕
請求項6における左右の再生用超音波スピーカは、それぞれの超音波の照射軸が平行よりも乗員側において内側に向いて配置(内振り配置)されるものである。
再生用超音波スピーカから放出された超音波変調音が、乗員の外耳道の影響が抑えられて鼓膜に到達する。
これにより、ヘッドフォンの使用状態に近づけることができ、ヘッドフォンを用いない車両用立体音響装置における「音の立体定位」の精度を向上させることができる。
【0016】
〔請求項7の手段〕
請求項7の車両用立体音響装置は、乗員に対して「方向に関する情報」を与える車両用音声装置(ナビゲーションシステムや注意喚起装置等)に用いられる。
上述したように、本発明はヘッドフォンを用いなくても正確な「音の立体定位」が可能であるため、乗員に対して「方向に関する情報」の方向性を素早く認知させることが可能になる。即ち、「方向の認知時間」を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車両用立体音響装置の構成図である。
【図2】バイノーラル録音に用いる録音機材の構成図である。
【図3】左右の再生用超音波スピーカの配置説明図である。
【図4】ダミーヘッドを用いた録音の周波数特性図である。
【図5】左右の再生用超音波スピーカの配置における周波数特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して[発明を実施するための形態]を説明する。
車両用立体音響装置は、車両の乗員に立体音を与える音響信号(バイノーラル録音の録音物等)を保存する再生用音源部1と、この再生用音源部1に保存された音響信号を再生する2チャンネル再生手段2とを具備する。
2チャンネル再生手段2は、再生用音源部1から出力される音響信号を超音波変調し、その超音波変調した超音波変調音を、乗員の頭部αから離れた位置に設置した左右の再生用超音波スピーカ3から乗員の左右のそれぞれの耳に向けて与える。
【0019】
一方、再生用音源部1は、
・乗員にとって任意の方向(前後左右等)から聞こえる複数の「メイン定位音M(乗員にとって座席前方から音が聞こえる「前方定位音」を含む)」を成す音響信号と、
・複数の「メイン定位音M」の音の方向性を際立たせる「サブ定位音S」を成す音響信号と、
を保存する。
【0020】
そして、この車両用立体音響装置は、複数の「メイン定位音M」のうち、少なくとも乗員にとって座席前方から音が聞こえる「前方定位音」を2チャンネル再生手段2によって再生する際、乗員にとって座席前方以外の方向(乗員の視界範囲外の方向:例えば後方や頭上等)から音が聞こえる「サブ定位音S」を、同時または交番あるいは時間差を持って再生する。
【実施例】
【0021】
以下において本発明を車両用音声装置に適用した具体例(実施例)を、図面を参照して説明する。以下の実施例は具体的な一例を示すものであって、本発明が実施例に限定されないことはいうまでもない。
なお、以下の実施例において、上記「発明を実施するための形態」と同一符号は同一機能物を示すものである。
【0022】
この実施例の車両用音声装置は、ドライバに対し、「方向に関する情報」を音声によって与える注意喚起装置であり、図1に示すように、
・バイノーラル録音の録音物(車両の乗員に立体音を与える音響信号に相当する)を保存する再生用音源部1と、
・この再生用音源部1に保存されたバイノーラル録音による録音物を再生する2チャンネル再生手段2と、
を具備する。
【0023】
(再生用音源部1が保存する録音物の説明)
この実施例の再生用音源部1が保存するバイノーラル録音の録音物は、2つの異なる可聴音(メイン定位音Mとサブ定位音S)をそれぞれ独立して超音波変調してなる超音波変調音をダミーヘッド4に与えて録音したものであり、その録音例を図2を参照して説明する。
【0024】
バイノーラル録音は、人体頭部を模したダミーヘッド4の左右の擬似耳5に配置された左右の録音マイク6を用いて録音を行うものである。
この実施例に用いるバイノーラル録音に用いるダミーヘッド4は、左右の擬似耳5に、人の外耳を模した擬似耳介5a(頭部から左右に突出する耳たぶ等)と擬似外耳道5b(いわゆる耳穴)を設けたものであり、左右の録音マイク6をそれぞれの左右の擬似外耳道5bの内部(奥部)に配置したものである。
【0025】
バイノーラル録音には、ダミーヘッド4に対して「メイン定位音Mとサブ定位音S(録音に用いる音)」を与える第1、第2録音用音波発生装置11a、11bと、ダミーヘッド4の左右の録音マイク6で捕らえた「メイン定位音Mとサブ定位音S(録音に用いられた音)」を録音する録音装置12とが用いられ、第1、第2録音用音波発生装置11a、11bおよび録音装置12はコントローラ13によって作動制御される。
【0026】
(第1、第2録音用音波発生装置11a、11bの説明)
第1、第2録音用音波発生装置11a、11bは、それぞれがパラメトリックスピーカを用いて超音波変調した音波(録音に用いる音)をダミーヘッド4に与えるものであり、パラメトリックスピーカにおいて超音波を発生する第1、第2録音用超音波スピーカ14a、14bの他に、
・録音の元になる「録音用音響信号(「メイン定位音Mの原音」および「サブ定位音Sの原音」を成す電気信号)を出力可能な第1、第2録音用音源部15a、15bと、
・第1、第2録音用音源部15a、15bから出力された「録音用音響信号」を超音波周波数に変調する第1、第2録音用超音波変調部16a、16bと、
・第1、第2録音用超音波スピーカ14a、14bを駆動する第1、第2録音用アンプ17a、17bと、
を備えて構成される。
【0027】
(i)第1録音用音源部15aは、コントローラ13から与えられる指示信号に基づいて「メイン定位音Mの原音」に相当する複数の「メイン定位信号(録音用音響信号)」を出力するように設けられ、
(ii)第2録音用音源部15bは、コントローラ13から与えられる指示信号に基づいて「サブ定位音Sの原音」に相当する「BGM信号(録音用音響信号)」を出力するように設けられている。
【0028】
具体的に、第1録音用音源部15aは、複数の「メイン定位信号」を発生可能な音源部であり、
理解補助の一例として、この実施例では、
・「前方にご注意下さい」、
・「右前方にご注意下さい」、
・「右にご注意下さい」、
・「右後方にご注意下さい」、
・「後方にご注意下さい」、
・「左後方にご注意下さい」、
・「左にご注意下さい」、
・「左前方にご注意下さい」、
の音声アナウンス信号(方向に関する情報)を出力可能に設けられている。
【0029】
一方、第2録音用音源部15bは、「メイン定位音M」に対する「サブ定位音S」の音源部であり、
理解補助の一例として、この実施例では、BGM(バック・グランド・ミュージックの略)信号を出力可能に設けられている。
なお、BGMは「補助定位音」の具体的な一例であり、限定されるものではなく、例えばアラーム音などの予兆音(「メイン定位音M」の発生の直前に発生させる音)など、種々変更可能なものである。
【0030】
第1、第2録音用超音波変調部16a、16bは、第1、第2録音用音源部15a、15bの出力する「メイン定位信号」を超音波変調するものである。
第1、第2録音用超音波変調部16a、16bの具体的な一例として、この実施例では、第1、第2録音用音源部15a、15bの出力信号を所定の「超音波周波数(例えば、25kHz等)における振幅変化(電圧の増減変化)」に変調するAM変調(振幅変調)を用いるものである。なお、超音波変調はAM変調に限定されるものではなく、PWM変調(パルス幅変調)など、他の超音波変調技術を用いても良い。
【0031】
第1、第2録音用アンプ17a、17bは、第1、第2録音用超音波変調部16a、16bで変調されたそれぞれ超音波信号に基づいて、第1、第2録音用超音波スピーカ14a、14bを独立駆動するもの(例えば、プッシュプルのB級アンプ、あるいはプッシュプルのD級アンプ等)であり、
(i)第1録音用超音波スピーカ14aが「メイン定位信号」を変調した超音波をダミーヘッド4へ向けて発生させ、
(ii)第2録音用超音波スピーカ14bが「BGM信号」を変調した超音波をダミーヘッド4へ向けて発生させるものである。
【0032】
ここで、車両用音声装置は、ドライバ(乗員の具体的な一例)の左右の耳に与える「サブ定位音S」の音圧を、「メイン定位音M(前方定位音など)」の音圧より例えば10dB〜20dBほど小さく設定している。
その具体的な手段としてこの実施例では、バイノーラル録音を行う際、第2録音用アンプ17bの駆動ゲインを第1録音用アンプ17aの駆動ゲインより下げている。さらに具体的に説明すると、この実施例では、第1録音用超音波スピーカ14aがダミーヘッド4に与える音圧より、第2録音用超音波スピーカ14bがダミーヘッド4に与える音圧が10dB以上低くなるように、第2録音用アンプ17bの駆動ゲインを設定している。
【0033】
第1、第2録音用超音波スピーカ14a、14bは、人間の可聴帯域よりも高い周波数(20kHz以上)の空気振動を発生させるものであり、限定されるものではないが、例えば、超音波の発生を行なう複数の超音波発生素子を用いて構成される。
複数の超音波発生素子は、支持板等に集合配置されて、スピーカアレイとして搭載されるものである。超音波発生素子の具体的な一例は、超音波の発生に適した小型の圧電スピーカであり、印加電圧(充放電)に応じて伸縮変位するピエゾ素子(圧電素子)と、このピエゾ素子の伸縮によって駆動されて空気に疎密波を生じさせる振動板とを用いて構成される。
【0034】
第1録音用超音波スピーカ14aからダミーヘッド4へ向けて照射された「メイン定位音M」を変調した超音波は、空気中を伝播するにつれて、空気の粘性等によって波長の短い超音波が歪んで鈍(なま)される。すると、伝播途中の空気中において超音波に含まれていた振幅成分が自己復調され、ダミーヘッド4において「メイン定位音M」が再生される。
同様に、第2録音用超音波スピーカ14bからダミーヘッド4へ向けて照射された「BGM」を変調した超音波は、空気中を伝播するにつれて、空気の粘性等によって波長の短い超音波が歪んで鈍(なま)される。すると、伝播途中の空気中において超音波に含まれていた振幅成分が自己復調され、ダミーヘッド4において「BGM」が再生される。
【0035】
(録音装置12の説明)
録音装置12は、ダミーヘッド4の左右の録音マイク6で捕らえた2チャンネルの「音波信号」を「録音物」としてメモリ18に保存(録音)するデジタル式の録音機材(パソコン等)であり、左右の録音マイク6でそれぞれ捕らえた2チャンネルの「録音物」をメモリ18内の独立したアドレスに記憶するものである。
【0036】
(録音方法の説明)
第1録音用超音波スピーカ14aは、録音毎にダミーヘッド4に対する相対位置(方向)が変更されるものであり、録音毎においてダミーヘッド4の略中心部に向けて超音波を照射するように設置される。
第2録音用超音波スピーカ14bは、常にダミーヘッド4の後方に設置され、ダミーヘッド4の後頭部の略中心部に向けて超音波を照射するように設置される。
なお、録音は無音室など残響の少ない場所にて録音されることが望ましいものであるが、もちろん限定されるものではない。
【0037】
(a)「前方にご注意下さい」の録音では、(i)ダミーヘッド4の正面に第1録音用超音波スピーカ14aを設置して、第1録音用超音波スピーカ14aをダミーヘッド4に向けるとともに、(ii)ダミーヘッド4の真後ろに第2録音用超音波スピーカ14bを設置して、第2録音用超音波スピーカ14bをダミーヘッド4の後頭部に向けた状態で、録音を行なって録音物をメモリ18に記録する。
これにより、メモリ18には、ダミーヘッド4の正面から「前方にご注意下さい」と聞こえると同時に、ダミーヘッド4の真後ろから「BGM」が聞こえる2チャンネルの「第1音響信号(録音物)」が保存される。
【0038】
(b)「右前方にご注意下さい」の録音では、(i)ダミーヘッド4の右前方に第1録音用超音波スピーカ14aを設置して、第1録音用超音波スピーカ14aをダミーヘッド4に向けるとともに、(ii)ダミーヘッド4の真後ろに第2録音用超音波スピーカ14bを設置して、第2録音用超音波スピーカ14bをダミーヘッド4の後頭部に向けた状態で、録音を行なって録音物をメモリ18に記録する。
これにより、メモリ18には、ダミーヘッド4の右前方から「右前方にご注意下さい」と聞こえると同時に、ダミーヘッド4の真後ろから「BGM」が聞こえる2チャンネルの「第2音響信号(録音物)」が保存される。
【0039】
(c)「右にご注意下さい」の録音では、(i)ダミーヘッド4の右方に第1録音用超音波スピーカ14aを設置して、第1録音用超音波スピーカ14aをダミーヘッド4に向けるとともに、(ii)ダミーヘッド4の真後ろに第2録音用超音波スピーカ14bを設置して、第2録音用超音波スピーカ14bをダミーヘッド4の後頭部に向けた状態で、録音を行なって録音物をメモリ18に記録する。
これにより、メモリ18には、ダミーヘッド4の右方から「右にご注意下さい」と聞こえると同時に、ダミーヘッド4の真後ろから「BGM」が聞こえる2チャンネルの「第3音響信号(録音物)」が保存される。
【0040】
(d)「右後方にご注意下さい」の録音では、(i)ダミーヘッド4の右後方に第1録音用超音波スピーカ14aを設置して、第1録音用超音波スピーカ14aをダミーヘッド4に向けるとともに、(ii)ダミーヘッド4の真後ろに第2録音用超音波スピーカ14bを設置して、第2録音用超音波スピーカ14bをダミーヘッド4の後頭部に向けた状態で、録音を行なって録音物をメモリ18に記録する。
これにより、メモリ18には、ダミーヘッド4の右後方から「右後方にご注意下さい」と聞こえると同時に、ダミーヘッド4の真後ろから「BGM」が聞こえる2チャンネルの「第4音響信号(録音物)」が保存される。
【0041】
(e)「後方にご注意下さい」の録音では、(i)ダミーヘッド4の真後ろに第1録音用超音波スピーカ14aを設置して、第1録音用超音波スピーカ14aをダミーヘッド4の後頭部に向けるとともに、(ii)ダミーヘッド4の真後ろに第2録音用超音波スピーカ14bを設置して、第2録音用超音波スピーカ14bをダミーヘッド4の後頭部に向けた状態で、録音を行なって録音物をメモリ18に記録する。
これにより、メモリ18には、ダミーヘッド4の後方から「後方にご注意下さい」と聞こえると同時に、ダミーヘッド4の真後ろから「BGM」が聞こえる2チャンネルの「第5音響信号(録音物)」が保存される。
【0042】
(f)「左後方にご注意下さい」の録音では、(i)ダミーヘッド4の左後方に第1録音用超音波スピーカ14aを設置して、第1録音用超音波スピーカ14aをダミーヘッド4に向けるとともに、(ii)ダミーヘッド4の真後ろに第2録音用超音波スピーカ14bを設置して、第2録音用超音波スピーカ14bをダミーヘッド4の後頭部に向けた状態で、録音を行なって録音物をメモリ18に記録する。
これにより、メモリ18には、ダミーヘッド4の左後方から「左後方にご注意下さい」と聞こえると同時に、ダミーヘッド4の真後ろから「BGM」が聞こえる2チャンネルの「第6音響信号(録音物)」が保存される。
【0043】
(g)「左にご注意下さい」の録音では、(i)ダミーヘッド4の左方に第1録音用超音波スピーカ14aを設置して、第1録音用超音波スピーカ14aをダミーヘッド4に向けるとともに、(ii)ダミーヘッド4の真後ろに第2録音用超音波スピーカ14bを設置して、第2録音用超音波スピーカ14bをダミーヘッド4の後頭部に向けた状態で、録音を行なって録音物をメモリ18に記録する。
これにより、メモリ18には、ダミーヘッド4の左方から「左にご注意下さい」と聞こえると同時に、ダミーヘッド4の真後ろから「BGM」が聞こえる2チャンネルの「第7音響信号(録音物)」が保存される。
【0044】
(h)「左前方にご注意下さい」の録音では、(i)ダミーヘッド4の左前方に第1録音用超音波スピーカ14aを設置して、第1録音用超音波スピーカ14aをダミーヘッド4に向けるとともに、(ii)ダミーヘッド4の真後ろに第2録音用超音波スピーカ14bを設置して、第2録音用超音波スピーカ14bをダミーヘッド4の後頭部に向けた状態で、録音を行なって録音物をメモリ18に記録する。
これにより、メモリ18には、ダミーヘッド4の左前方から「左前方にご注意下さい」と聞こえると同時に、ダミーヘッド4の真後ろから「BGM」が聞こえる2チャンネルの「第8音響信号(録音物)」が保存される。
【0045】
(車両用音声装置の具体的な説明)
この実施例の車両用音声装置は、
(i)上記の録音方法によってメモリ18に保存された上記「第1〜第8音響信号(録音物)」がコピー(複写)されたメモリ21を搭載する再生用音源部1と、
(ii)この再生用音源部1から出力された「第1〜第8音響信号(録音物)」の再生を行う2チャンネル再生手段2と、
(iii)「第1〜第8音響信号(録音物)」のうちの特定の「音響信号(録音物)」を再生用音源部1から出力させる注意監視手段22と、
を具備する。
【0046】
注意監視手段22は、
・車両周囲の状況を監視するモニター手段(超音波ソナーやCCDカメラ等を用いた画像解析手段等)と、
・モニター手段の監視結果から車両のどの方向に注意事項が発生したかを判定する注意方向判定手段と、
・注意方向判定手段の判定結果に基づいて、再生用音源部1から特定の「音響信号(録音物)」を出力させる再生信号指示手段と、
を具備する。
なお、この実施例に示す注意監視手段22は、理解補助のために用いた実施例説明用であり、種々変更可能なものである。
【0047】
具体的に、再生信号指示手段は、
(a)注意方向判定手段が前方に注意事項が発生したと判断した場合に、再生用音源部1から「第1音響信号(録音物)」を出力させ、
(b)注意方向判定手段が右前方に注意事項が発生したと判断した場合に、再生用音源部1から「第2音響信号(録音物)」を出力させ、
(c)注意方向判定手段が右方に注意事項が発生したと判断した場合に、再生用音源部1から「第3音響信号(録音物)」を出力させ、
(d)注意方向判定手段が右後方に注意事項が発生したと判断した場合に、再生用音源部1から「第4音響信号(録音物)」を出力させ、
(e)注意方向判定手段が後方に注意事項が発生したと判断した場合に、再生用音源部1から「第5音響信号(録音物)」を出力させ、
(f)注意方向判定手段が左後方に注意事項が発生したと判断した場合に、再生用音源部1から「第6音響信号(録音物)」を出力させ、
(g)注意方向判定手段が左方に注意事項が発生したと判断した場合に、再生用音源部1から「第7音響信号(録音物)」を出力させ、
(h)注意方向判定手段が左前方に注意事項が発生したと判断した場合に、再生用音源部1から「第8音響信号(録音物)」を出力させるものである。
【0048】
(2チャンネル再生手段2の説明)
2チャンネル再生手段2は、2チャンネルのパラメトリックスピーカを用いて「方向に関する情報」をドライバに与えるものであり、ドライバの左右の耳にそれぞれ向けて超音波を発生する左右の再生用超音波スピーカ3の他に、
・再生用音源部1から出力された2チャンネルの「音響信号(録音物)」を超音波周波数に変調する2チャンネルの再生用超音波変調部23と、
・左右の再生用超音波スピーカ3を駆動する2チャンネルの再生用アンプ24と、
を備えて構成される。
【0049】
左右の再生用超音波スピーカ3は、人間の可聴帯域よりも高い周波数(20kHz以上)の空気振動を発生させるものであり、第1、第2録音用超音波スピーカ14a、14bと基本構成が同じものであっても良いし、異なるタイプの超音波スピーカ(例えば、リボンスピーカ等)であっても良い。
【0050】
左右の再生用超音波スピーカ3は、ドライバの頭部αから離れた位置からドライバの左右の耳に向けて超音波を放出するものであり、具体的な設置例として、図1では、車両シート25(ヘッドレストや背凭上部等)に設置する例を示す。
なお、左右の再生用超音波スピーカ3の設置箇所は、車両シート25に限定されるものではなく、メータパネルの横(ダッシュボード等)、フロントガラス両サイドのピラー、車両の天井など、他の箇所に設置しても良い。
【0051】
また、左右の再生用超音波スピーカ3は、図3(a)に示すように、それぞれの超音波の照射軸が平行配置ではなく、図3(b)に示すように、それぞれの超音波の照射軸が内側に向いて配置(内振り配置)されるものである。
具体的に、左右の再生用超音波スピーカ3の超音波の照射軸がドライバ側で交差するものであり、照射軸の交差点はドライバの前方であっても良いし、ドライバの頭中であっても良いし、ドライバの後方であっても良い。
【0052】
2チャンネルの再生用超音波変調部23は、再生用音源部1の出力する2チャンネルの「音響信号(録音物)」をそれぞれ超音波変調するものであり、再生用超音波変調部23の具体的な一例として、この実施例では、再生用音源部1の出力信号を所定の「超音波周波数(例えば、25kHz等)における振幅変化」に変調するAM変調を用いるものである。なお、超音波変調はAM変調に限定されるものではなく、PWM変調など、他の超音波変調技術を用いても良い。
【0053】
2チャンネルの再生用アンプ24は、2チャンネルの再生用超音波変調部23で変調された超音波信号に基づいて、左右の再生用超音波スピーカ3を独立駆動するもの(例えば、プッシュプルのB級アンプ、あるいはプッシュプルのD級アンプ等)であり、左右の再生用超音波スピーカ3から「音響信号(録音物)」を変調した超音波をドライバの左右の耳に向けて発生させるものである。
【0054】
なお、ドライバの左右の耳に向けて照射された「音響信号(録音物)」を変調した超音波は、空気中を伝播するにつれて、空気の粘性等によって波長の短い超音波が歪んで鈍(なま)される。すると、伝播途中の空気中において超音波に含まれていた振幅成分が自己復調され、ドライバの左右の耳において「音声アナウンスとBGM(メイン定位音Mとサブ定位音S)」が再生される。あるいは、復調前にドライバの頭部αに到達した超音波は、ドライバの頭部α(耳付近等)において自己復調することでドライバの左右の耳において「音声アナウンスとBGM(メイン定位音Mとサブ定位音S)」が再生される。
【0055】
具体的な作動を下記に示す。
(a)注意方向判定手段が前方に注意事項が発生したと判断した場合、再生用音源部1から「第1音響信号(録音物)」が出力されると、ドライバの真後ろから「BGM」が聞こえるとともに、ドライバの正面前方から「前方にご注意下さい」のメイン定位音Mが聞こえる。
(b)注意方向判定手段が右前方に注意事項が発生したと判断した場合、再生用音源部1から「第2音響信号(録音物)」が出力されると、ドライバの真後ろから「BGM」が聞こえるとともに、ドライバの右前方から「右前方にご注意下さい」のメイン定位音Mが聞こえる。
【0056】
(c)注意方向判定手段が右方に注意事項が発生したと判断した場合、再生用音源部1から「第3音響信号(録音物)」が出力されると、ドライバの真後ろから「BGM」が聞こえるとともに、ドライバの右方から「右にご注意下さい」のメイン定位音Mが聞こえる。
(d)注意方向判定手段が右後方に注意事項が発生したと判断した場合、再生用音源部1から「第4音響信号(録音物)」が出力されると、ドライバの真後ろから「BGM」が聞こえるとともに、ドライバの右後方から「右後方にご注意下さい」のメイン定位音Mが聞こえる。
【0057】
(e)注意方向判定手段が後方に注意事項が発生したと判断した場合、再生用音源部1から「第5音響信号(録音物)」が出力されると、ドライバの真後ろから「BGM」が聞こえるとともに、ドライバの真後ろから「後方にご注意下さい」のメイン定位音Mが聞こえる。
(f)注意方向判定手段が左後方に注意事項が発生したと判断した場合、再生用音源部1から「第6音響信号(録音物)」が出力されると、ドライバの真後ろから「BGM」が聞こえるとともに、ドライバの左後方から「左後方にご注意下さい」のメイン定位音Mが聞こえる。
【0058】
(g)注意方向判定手段が左方に注意事項が発生したと判断した場合、再生用音源部1から「第7音響信号(録音物)」が出力されると、ドライバの真後ろから「BGM」が聞こえるとともに、ドライバの左方から「左にご注意下さい」のメイン定位音Mが聞こえる。
(h)注意方向判定手段が左前方に注意事項が発生したと判断した場合、再生用音源部1から「第8音響信号(録音物)」が出力されると、ドライバの真後ろから「BGM」が聞こえるとともに、ドライバの左前方から「左前方にご注意下さい」のメイン定位音Mが聞こえる。
【0059】
(実施例の効果1)
この実施例では、「第1〜第8音響信号(録音物)」を超音波変調してドライバの左右のそれぞれの耳に向けて与えるため、クロストークが防がれ、「メイン定位音M(音声アナウンス)」がドライバの任意の方向で明確に定位するとともに、「サブ定位音S(BGM)」がドライバの後方で明確に定位する。
しかるに、ドライバは運転中に視覚情報を積極的に取り入れているため、本発明を適用しない場合には、聴覚情報より視覚情報が優先し、「前方定位音(ドライバの前方で音像が定位する「前方にご注意下さい」、「右前方にご注意下さい」、「左前方にご注意下さい」のメイン定位音M)」を視界範囲内のそれぞれの方向に定位させることが困難になる。
【0060】
これに対し、本発明が適用されたこの実施例の車両用音声装置は、「前方定位音(前方にご注意下さい、右前方にご注意下さい、左前方にご注意下さい)」を発生する際、ドライバにとって座席後方から音が聞こえる「サブ定位音S」を発生する。
この「サブ定位音S」は、視界範囲外の後方で定位する音であるため、視覚情報の影響を受けず、容易かつ明確にドライバの後方において定位する。
すると、人の脳内では、後方において定位する「サブ定位音S」と視界範囲内の「前方定位音(前方にご注意下さい、右前方にご注意下さい、左前方にご注意下さい)」を無意識で比較し、「前方定位音(前方にご注意下さい、右前方にご注意下さい、左前方にご注意下さい)」を前方のそれぞれの方向に定位させる。
【0061】
このように、この実施例の車両用音声装置は、ドライバが視覚情報を取り入れる車両の運転状態にあっても、「前方定位音(前方にご注意下さい、右前方にご注意下さい、左前方にご注意下さい)」を視界範囲内のそれぞれの方向において明確に定位させることができる。
【0062】
(実施例の効果2)
この実施例では、「前方定位音(視界範囲内のメイン定位音M)」とは異なる他の「メイン定位音M」を再生する際も、ドライバの後方で定位する「サブ定位音S」を発生する。
すると、「前方定位音」とは異なる他の「メイン定位音M」も、座席後方で定位する「サブ定位音S」と脳内で無意識に比較するため、「前方定位音」とは異なる他の「メイン定位音M」の方向性(音像が定位する方向)もより明瞭にできる。
【0063】
(実施例の効果3)
再生用音源部1が保存する音響信号(録音物)は、バイノーラル録音によって録音された録音物である。
このように、この実施例では、バイノーラル録音によって音響信号(録音物)を得るため、クロストークキャンセル等の位相操作技術を用いなくても、「任意の方向に音像が定位する音響信号(メイン定位音Mおよびサブ定位音S)」を容易かつ明確に得ることができる。その結果、乗員の任意の方向において音像を明確に定位させることができる。
【0064】
(実施例の効果4)
再生用音源部1が保存する音響信号(録音物)は、「メイン定位音M」および「サブ定位音S」を超音波変調した超音波変調音をダミーヘッド4に与えて録音したものである。
超音波は指向性が強いため、左右の録音マイク6に対して明確な「音の3D情報」を与えることができる。その結果、超音波変調を行わない既存のバイノーラル録音に比較して、発音方向の定位性が飛躍的に高い録音物を得ることができる。これにより、音の反射やこもり音の発生し易い車室内であっても、乗員の任意の方向に音像を定位させる効果を高めることができる。
【0065】
(実施例の効果5)
バイノーラル録音に用いるダミーヘッド4に擬似耳介5aと擬似外耳道5bを設け、左右の録音マイク6を左右の擬似外耳道5bの内部に配置した。
これにより、「録音に用いられた音」を人の耳により近い状態で録音できる。
具体的に、擬似耳介5aと擬似外耳道5bを有さない一般的なダミーヘッド4の場合、図4の破線Aに示すように外耳(耳介+外耳道)の影響の無い周波数特性となり、正確な「音の3D情報」を録音できない不具合がある。
【0066】
これに対し、この実施例のダミーヘッド4は、擬似耳介5aと擬似外耳道5bを設けているため、図4の実線Bに示すように外耳(耳介+外耳道)の影響の有る周波数特性となり、正確な「音の3D情報」を録音することができる。
このように、ダミーヘッド4に擬似耳介5aと擬似外耳道5bを設けたことにより、バイノーラル録音に含まれる「音の3D情報」の精度を高めることができ、結果的にドライバに与える「音の立体定位」の精度を向上させることができる。
【0067】
(実施例の効果6)
左右の再生用超音波スピーカ3から乗員の左右の耳に与える「サブ定位音S」の音圧が、「メイン定位音M(前方定位音を含む)」の音圧より10dB以上小さく設定される。
これにより、「サブ定位音S」の影響を抑えて、「メイン定位音M(前方定位音を含む)」の明瞭性を高めることができる。
【0068】
(実施例の効果7)
左右の再生用超音波スピーカ3を内振り配置しているため、左右の再生用超音波スピーカ3から放出された超音波変調音が、ドライバの外耳道の影響が抑えられて鼓膜に到達する。その結果、「鼓膜」に与えられる「音の3D情報」の精度を高めることができる。
具体的に、左右の再生用超音波スピーカ3を平行配置する場合、超音波の進行方向と外耳道とが直交するため、図5の破線Cに示すように2kHz以下などの低い周波数領域が鼓膜に到達しなくなり、正確な「音の3D情報」が得られない不具合がある。
【0069】
これに対し、この実施例では、左右の再生用超音波スピーカ3を内振り配置しているため、超音波の一部が外耳道の内部に侵入し、図5の実線Dに示すように2kHz以下の低い周波数領域における鼓膜への到達度合が高まり、正確な「音の3D情報」をドライバに与えることができる。
このため、左右の再生用超音波スピーカ3がドライバの頭部αから離れていても、ヘッドフォンの使用状態に近づけることができ、ヘッドフォンを用いない車両用音声装置における「音の立体定位」の精度を高めることができる。
【0070】
(実施例の効果8)
ヘッドフォンを用いなくても正確な「音の立体定位」が可能であるため、車両への搭載が可能になる。
また、「方向に関する情報」を、その方向からドライバに与えることにより、注意方向を素早く認知させることが可能になり、「方向の認知時間」を短縮させることができる。このため、ドライバに対する注意喚起能力を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
上記実施例では、「メイン定位音M(実施例では音声アナウンス)」と「サブ定位音S」を同時に録音して、再生時に「メイン定位音M」と「サブ定位音S」を同時に発生する例を示したが、
(i)「メイン定位音M」と「サブ定位音S」を別々に録音し、再生時に「メイン定位音M」と「サブ定位音S」を同時に発生しても良いし、
(ii)「メイン定位音M」と「サブ定位音S」を別々に録音し、再生時に「サブ定位音S」と「メイン定位音M」を時間差を持って発生しても良い。
理解補助の目的で、上記(ii)の具体例を説明する。「サブ定位音S」の一例として座席の後方や上方等で定位するアラーム音やチャイム音等による「予兆音」を単独で録音する。そして、再生時には、「サブ定位音S(予兆音)」を発生した直後に「メイン定位音M(音声アナウンス等)」を発生させても良い。
【0072】
上記の実施例では、全ての「メイン定位音M(実施例では音声アナウンス)」の再生時に「サブ定位音S」を発生させる例を示したが、「メイン定位音M」の聞こえる方向が視界範囲外の場合(「サブ定位音S」を用いなくても音像定位が良好の場合)には、「メイン定位音M」のみを再生するように設けても良い。
【0073】
上記の実施例では、「サブ定位音S」の音像定位方向を座席後方(乗員の真後ろ)に設定する例を示したが、限定されるものではなく、座席上方(乗員の頭上)に設定するなど他の方向に設定しても良い。あるいは、「サブ定位音S」が「メイン定位音M」とは180°異なった方向から聞こえるようにしても良い。
【0074】
上記の実施例では、バイノーラル録音を行う際にダミーヘッド4を用いる例を示したが、ヘルメット型の如く人が装着するタイプのバイノーラル録音用の録音機材を用いるなど、録音方法は種々変更可能なものである。
【0075】
上記の実施例では、本発明を車両用の注意喚起装置に適用する例を示したが、限定されるものではなく、ナビゲーションシステムに適用して「方向に関する情報(音声アナウンス等)」を乗員に提供するように設けても良い。
【0076】
上記の実施例では、音声情報を乗員に与える車両用音声装置に本発明を適用する例を示したが、限定されるものではなく、音楽などを乗員に与える車両用オーディオ等に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0077】
1 再生用音源部
2 2チャンネル再生手段
3 再生用超音波スピーカ
4 ダミーヘッド
5 擬似耳
5a 擬似耳介
5b 擬似外耳道
6 録音マイク
14a 第1録音用超音波スピーカ
14b 第2録音用超音波スピーカ
M メイン定位音(前方定位音を含む)
S サブ定位音
α ドライバの頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員に立体音を与える音響信号を超音波変調し、その超音波変調した超音波変調音を、乗員の頭部(α)から離れた位置に設置した左右の再生用超音波スピーカ(3)から乗員の左右のそれぞれの耳に向けて与える2チャンネル再生手段(2)を具備する車両用立体音響装置であって、
この車両用立体音響装置は、少なくとも乗員にとって座席前方から音が聞こえる前方定位音(M)を発生する際、乗員にとって座席の前方以外の方向から音が聞こえるサブ定位音(S)を発生することを特徴とする車両用立体音響装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用立体音響装置において、
前記音響信号は、バイノーラル録音による録音物であることを特徴とする車両用立体音響装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用立体音響装置において、
前記バイノーラル録音による録音物は、可聴音を超音波変調した超音波変調音を録音用超音波スピーカ(14a、14b)から再生した再生音を録音した超音波変調録音物であることを特徴とする車両用立体音響装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の車両用立体音響装置において、
前記バイノーラル録音は、左右の擬似耳(5)に配置した左右の録音マイク(6)によって可聴音を録音するものであり、
前記バイノーラル録音に用いられる左右の前記擬似耳(5)は、人の外耳を模した擬似耳介(5a)と擬似外耳道(5b)を備え、左右の前記録音マイク(6)が左右の前記擬似外耳道(5b)の内部に配置されることを特徴とする車両用立体音響装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の車両用立体音響装置において、
左右の前記再生用超音波スピーカ(3)から乗員の左右の耳に与える補助の前記後方定位音の音圧は、前記前方定位音(M)の音圧より小さく設定されることを特徴とする車両用立体音響装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の車両用立体音響装置において、
左右の前記再生用超音波スピーカ(3)は、それぞれの超音波の照射軸が平行よりも乗員側において内側に向いて配置されることを特徴とする車両用立体音響装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の車両用立体音響装置において、
この車両用立体音響装置は、乗員に対して音によって方向に関する情報を与える車両用音声装置に用いられることを特徴とする車両用立体音響装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−34122(P2013−34122A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169485(P2011−169485)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】