説明

車両用耐熱ホース

【課題】安価で、層間接着性に優れた車両用耐熱ホースの提供を目的とする。
【解決手段】内層1と、その外周面に直接形成される外層2とを備えた車両用耐熱ホースである。上記内層1が下記の(a)〜(e)成分を含有するフッ素系ゴム組成物を用いて形成され、上記外層2が下記の(A)〜(C)成分を含有するアクリル系ゴム組成物を用いて形成されている。
(a)フッ素系ゴム。
(b)ポリオール系加硫剤。
(c)ポリオール系加硫促進剤。
(d)酸化マグネシウム。
(e)水酸化カルシウム。
(A)アクリル系ゴム。
(B)ベンゼンジオール。
(C)イミダゾール化合物およびジアミン系加硫剤の少なくとも一方。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や建設機械(建機)等の分野において使用される車両用耐熱ホースに関するものであり、詳しくは、ターボチャージャーシステムに装着されるターボエアーホース等の車両用耐熱ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境対応の一環として、内燃機関の熱効率を高めることや排ガス規制対応として、ターボチャージャーシステムを搭載した車両の普及が進んでいる。このターボチャージャーからインタークーラーやエンジンへ導かれる空気は、高温・高圧であることから、これらを輸送するホース材料には、高い耐熱性が求められる。
そこで、内層にフッ素ゴム組成物、外層にアクリルゴム組成物を使用したホースが提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−17485号公報
【特許文献2】特開2010−42669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2に記載のホースは、フッ素ゴム組成物中およびアクリル系ゴム組成物中に配合した過酸化物架橋剤により、内層と外層とを加硫接着しているため、層間接着力が不充分であり、界面剥離が生じるという課題がある。なお、接着剤を使用して内層と外層とを接着する手法も提案されているが、接着剤の塗布工程や乾燥工程等が必要となり、製品単価が高くなるという課題もある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、安価で、層間接着性に優れた車両用耐熱ホースの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の車両用耐熱ホースは、内層と、その外周面に直接形成される外層とを備えた車両用耐熱ホースであって、上記内層が下記の(a)〜(e)成分を含有するフッ素系ゴム組成物を用いて形成され、上記外層が下記の(A)〜(C)成分を含有するアクリル系ゴム組成物を用いて形成されているという構成をとる。
(a)フッ素系ゴム。
(b)ポリオール系加硫剤。
(c)ポリオール系加硫促進剤。
(d)酸化マグネシウム。
(e)水酸化カルシウム。
(A)アクリル系ゴム。
(B)ベンゼンジオール。
(C)イミダゾール化合物およびジアミン系加硫剤の少なくとも一方。
【0007】
すなわち、本発明者らは、安価で、層間接着性に優れた車両用耐熱ホース(以下、単に「耐熱ホース」という場合もある。)を得るため、鋭意研究を重ねた。そして、従来より使用されてきた過酸化物架橋剤に代わる加硫剤について研究を続ける過程で、耐熱ホースの内層用材料であるフッ素系ゴムの加硫剤としてポリオール加硫剤を使用するとともに、外層用材料であるアクリル系ゴムの加硫剤として、イミダゾール化合物およびジアミン系加硫剤の少なくとも一方を使用することを想起した。本発明者らは、さらに研究を続けた結果、上記ポリオール系加硫剤と、ポリオール系加硫促進剤と、受酸剤である酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムとを含有するフッ素系ゴム組成物を用いて、耐熱ホースの内層を形成するとともに、ゾルシノール等のベンゼンジオールと、上記イミダゾール化合物およびジアミン系加硫剤の少なくとも一方とを含有するアクリル系ゴム組成物を用いて外層を形成すると、加硫反応時に内層のフッ素系ゴムと外層のアクリル系ゴムとが共架橋することにより、接着剤を使用せずに(接着剤レス)内層と外層との層間接着性が向上することを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明の耐熱ホースは、フッ素系ゴム(a成分)、ポリオール系加硫剤(b成分)、ポリオール系加硫促進剤(c成分)、酸化マグネシウム(d成分)および水酸化カルシウム(e成分)を含有するフッ素系ゴム組成物を用いて内層が形成され、アクリル系ゴム(A成分)、ベンゼンジオール(B成分)、イミダゾール化合物およびジアミン系加硫剤の少なくとも一方(C成分)を含有するアクリル系ゴム組成物を用いて外層が形成されている。そのため、加硫反応時に内層のフッ素系ゴムと外層のアクリル系ゴムとが共架橋することにより、内層と外層との層間接着性が向上するという効果が得られる。また、本発明の耐熱ホースは、熱老化後もフッ素系ゴム層(内層)の界面が劣化しにくく、動的耐久性にも優れている。
【0009】
そして、上記ベンゼンジオール(B成分)の含有量が、アクリル系ゴム(A成分)100重量部に対して0.5〜5重量部であると、層間接着性と耐熱性とのバランスが良好となる。
【0010】
また、上記ポリオール系加硫促進剤(c成分)が有機オニウム化合物であると、フッ素系ゴム(a成分)のポリオール系加硫剤(b成分)による加硫がより良好となる。
【0011】
さらに、上記C成分のイミダゾール化合物が1,2−ジメチルイミダゾールであり、C成分のジアミン系加硫剤が2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンであると、アクリル系ゴム(A成分)の加硫がより良好となる。
【0012】
また、外層がA〜C成分とともに、さらに加硫促進剤(D成分)を含有するアクリル系ゴム組成物を用いて形成され、加硫促進剤(D成分)がチオウレア系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤の少なくとも一方であると、アクリル系ゴム(A成分)の加硫がより良好となる。
【0013】
そして、内層と外層とが直接加硫接着していると、接着剤レスとなり、接着剤の塗布工程や乾燥工程等が不要となるため、製品単価を安くすることができる。
【0014】
また、フッ素系ゴム組成物中にベンゼンジオール(レゾルシノール等)を含有させると、フッ素系ゴム(a成分)の加硫阻害が生じ、層間接着性が悪くなるおそれがあるが、ベンゼンジオール不含のフッ素系ゴム組成物を使用すると、フッ素系ゴム(a成分)の加硫阻害が生じるおそれがなくなり、層間接着性が特に良好となる。
【0015】
なお、本発明の車両用耐熱ホースにおける車両とは、自動車に限定されるものではなく、トラクター,耕運機,船舶、航空機、建設機械(建機)に使用されるショベルカーやクレーン車等をも意味する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の耐熱ホースを模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0018】
本発明の耐熱ホースは、例えば、図1に示すように、内層1の外周面に外層2が、接着剤を使用することなく(接着剤レス)、直接加硫接着されて構成されている。
【0019】
本発明においては、上記内層1が下記の(a)〜(e)成分を含有するフッ素系ゴム組成物を用いて形成され、上記外層2が下記の(A)〜(C)成分を含有するアクリル系ゴム組成物を用いて形成されている。これが、本発明の最大の特徴である。
(a)フッ素系ゴム。
(b)ポリオール系加硫剤。
(c)ポリオール系加硫促進剤。
(d)酸化マグネシウム。
(e)水酸化カルシウム。
(A)アクリル系ゴム。
(B)ベンゼンジオール。
(C)イミダゾール化合物およびジアミン系加硫剤の少なくとも一方。
【0020】
つぎに、各層の形成材料について説明する。
《フッ素系ゴム組成物(内層用材料)》
まず、本発明の耐熱ホースの内層用材料となるフッ素系ゴム組成物について説明する。
上記フッ素系ゴム組成物は、上記の通り、フッ素系ゴム(a成分)、ポリオール系加硫剤(b成分)、ポリオール系加硫促進剤(c成分)、酸化マグネシウム(d成分)および水酸化カルシウム(e成分)を必須成分とする。
【0021】
《フッ素系ゴム(a成分)》
フッ素系ゴム(a成分)としては、ポリオール加硫可能なものが用いられ、例えば、ビニリデンフルオライド(VDF)、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン、ビニリデンフルオライド、パーフルオロビニルエーテル、メチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル等のモノマーの1種もしくは2種以上との共重合体等があげられるが、ビニリデンフルオライド(VDF)を必須成分とするものが好ましい。上記フッ素系ゴム(a成分)の具体例としては、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(VDF/HFP共重合体)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフロルオエチレン共重合体(VDF/HFP/TFE共重合体)、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等があげられる。なかでも、層間接着性の点で、VDF/HFP共重合体、VDF/HFP/TFE共重合体が好ましい。
【0022】
上記フッ素系ゴム(a成分)は、熱老化後の界面劣化性の点から、フッ素含有量が66重量%以上が好ましく、特に好ましくは69重量%以上である。ただし、フッ素含有量が高すぎると、層間接着性が悪くなる傾向がみられるため、フッ素含有量の上限は71重量%以下が好ましい。
【0023】
《ポリオール系加硫剤(b成分)》
ポリオール系加硫剤(b成分)としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0024】
上記ポリオール系加硫剤(b成分)の含有量は、フッ素系ゴム(a成分)100重量部に対して0.5〜5重量部が好ましく、特に好ましくは1〜3重量部である。上記ポリオール系加硫剤(b成分)の含有量が少なすぎると、加硫が不充分となり、層間接着性が悪くなる傾向がみられ、上記ポリオール系加硫剤(b成分)の含有量が多すぎても、共架橋が不充分となり、層間接着性が悪くなる傾向がみられる。
【0025】
《ポリオール系加硫促進剤(c成分)》
ポリオール系加硫促進剤(c成分)としては、例えば、第四級アンモニウム塩や第四級ホスホニウム塩等の有機オニウム化合物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、第四級アンモニウム塩が好ましい。
【0026】
上記第四級アンモニウム塩としては、例えば、8−メチル−1,8−ジアザービシクロロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムヒドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウム−メチルスフェート、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムヒドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムヒドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0027】
また、上記第四級ホスホニウム塩としては、例えば、テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0028】
上記ポリオール系加硫促進剤(c成分)の含有量は、フッ素系ゴム(a成分)100重量部に対して0.2〜4重量部が好ましく、特に好ましくは0.3〜2重量部である。上記ポリオール系加硫促進剤(c成分)の含有量が少なすぎると、加硫が不充分となり、層間接着性が悪くなる傾向がみられ、上記ポリオール系加硫促進剤(c成分)の含有量が多すぎると、スコーチする傾向がみられる。
【0029】
《酸化マグネシウム(d成分)》
上記酸化マグネシウム(d成分)の含有量は、フッ素系ゴム(a成分)100重量部に対して0.5〜15重量部が好ましく、特に好ましくは1〜10重量部である。上記酸化マグネシウム(d成分)の含有量が少なすぎると、加硫が不充分となり、層間接着性が悪くなる傾向がみられ、上記酸化マグネシウム(d成分)の含有量が多すぎると、スコーチする傾向がみられる。
【0030】
《水酸化カルシウム(e成分)》
上記水酸化カルシウム(e成分)の含有量は、フッ素系ゴム(a成分)100重量部に対して1〜15重量部が好ましく、特に好ましくは2〜10重量部である。上記水酸化カルシウム(e成分)の含有量が少なすぎると、加硫が不充分となり、層間接着性が悪くなる傾向がみられ、上記水酸化カルシウム(e成分)の含有量が多すぎると、スコーチする傾向がみられる。
【0031】
本発明で使用するフッ素系ゴム組成物には、上記フッ素系ゴム(a成分)、ポリオール系加硫剤(b成分)、ポリオール系加硫促進剤(c成分)、酸化マグネシウム(d成分)および水酸化カルシウム(e成分)に加えて、カーボンブラック、加工助剤、老化防止剤等を必要に応じて配合しても差し支えない。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0032】
なお、上記フッ素系ゴム組成物は、ベンゼンジオール(レゾルシノール、カテコール、ハイドロキノン)不含のものが、層間接着性の点から好ましい。
【0033】
《カーボンブラック》
上記カーボンブラックとしては、例えば、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等のものがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、SRF級カーボンブラックが好ましい。
【0034】
上記カーボンブラックの含有量は、フッ素系ゴム(a成分)100重量部に対して、5〜40重量部が好ましく、特に好ましくは10〜20重量部である。
【0035】
本発明で使用するフッ素系ゴム組成物は、例えば、フッ素系ゴム(a成分)、ポリオール系加硫剤(b成分)、ポリオール系加硫促進剤(c成分)、酸化マグネシウム(d成分)および水酸化カルシウム(e成分)に加えて、カーボンブラック等を必要に応じて適宜に配合し、これらをニーダー,ロール,バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0036】
なお、フッ素系ゴム(a成分)、ポリオール系加硫剤(b成分)、およびポリオール系加硫促進剤(c成分)を混合してFKM(フッ素ゴム)プレコンパウンドを予め作製し、これに酸化マグネシウム(d成分)および水酸化カルシウム(e成分)等を加えて、上記と同様に混練することにより、フッ素系ゴム組成物を調製しても差し支えない。
【0037】
《アクリル系ゴム組成物》
つぎに、本発明の耐熱ホースの外層用材料となるアクリル系ゴム組成物について説明する。
上記アクリル系ゴム組成物は、上記の通り、アクリル系ゴム(A成分)、ベンゼンジオール(B成分)、イミダゾール化合物およびジアミン系加硫剤の少なくとも一方(C成分)を必須成分とする。
【0038】
《アクリル系ゴム(A成分)》
上記アクリル系ゴム(A成分)としては、イミダゾール化合物もしくはジアミン系加硫剤により加硫するものが好ましく、例えば、(メタ)アクリルモノマーの1種または2種以上を主成分とし、これにエチレンモノマーを導入したもの等があげられる。
なお、本発明において、(メタ)アクリルモノマーとは、アクリルモノマーあるいはメタクリルモノマーを意味する。
【0039】
上記アクリルモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート,エチルアクリレート,プロピルアクリレート,n−ブチルアクリレート,n−オクチルアクリレート,メトキシメチルアクリレート,メトキシエチルアクリレート,エトキシエチルアクリレート等のアクリレートがあげられる。また、上記メタクリルモノマーとしては、上記アクリルモノマーに対応するメタクリレートがあげられる。
【0040】
なお、上記アクリル系ゴム(A成分)には、架橋席含有モノマーを全体の5重量%以下の割合で共重合させても差し支えない。上記架橋席含有モノマーとしては、例えば、活性ハロゲン基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミド基、ジエン基等を有するモノマー等があげられる。なかでも、グリシジルメタアクリレート等のエポキシ基、マレイン酸モノブチル等のカルボキシル基が好ましい。
【0041】
《ベンゼンジオール(B成分)》
上記ベンゼンジオール(B成分)としては、例えば、1,3−ベンゼンジオール(レゾルシノール)、1,2−ベンゼンジオール(カテコール)、1,4−ベンゼンジオール(ハイドロキノン)があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0042】
上記ベンゼンジオール(B成分)の含有量は、アクリル系ゴム(A成分)100重量部に対して0.5〜5重量部が好ましく、特に好ましくは1〜3重量部である。上記ベンゼンジオール(B成分)の含有量が少なすぎると、層間接着性が悪くなる傾向がみられ、上記ベンゼンジオール(B成分)の含有量が多すぎると、層間接着性は向上するものの、耐熱劣化性が悪くなる傾向がみられる。
【0043】
《イミダゾール化合物およびジアミン系加硫剤の少なくとも一方(C成分)》
上記イミダゾール化合物としては、例えば、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0044】
また、上記ジアミン系加硫剤としては、例えば、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、BAPPともいう)、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N′−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、4,4′−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメート、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(以下、DPEともいう)、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N′−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0045】
上記特定の加硫剤(C成分)の含有量は、アクリル系ゴム(A成分)100重量部に対して0.2〜5重量部が好ましく、特に好ましくは1〜3重量部である。上記C成分の含有量が少なすぎると、アクリル系ゴム(A成分)の加硫が不充分となる傾向がみられ、上記C成分の含有量が多すぎると、スコーチする傾向がみられる。
【0046】
本発明で使用するアクリル系ゴム組成物には、上記アクリル系ゴム(A成分)、ベンゼンジオール(B成分)、イミダゾール化合物およびジアミン系加硫剤の少なくとも一方(C成分)に加えて、加硫促進剤(D成分)、カーボンブラック、可塑剤、老化防止剤等を必要に応じて配合しても差し支えない。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0047】
《加硫促進剤(D成分)》
上記加硫促進剤(D成分)としては、例えば、チオウレア系,チアゾール系,スルフェンアミド系,チウラム系,アルデヒドアンモニア系,アルデヒドアミン系,グアニジン系等の加硫促進剤があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、層間接着性の点で、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0048】
上記チオウレア系加硫促進剤としては、例えば、N,N′−ジフェニルチオウレア、N,N′−ジエチルチオウレア、N,N′−ジブチルチオウレア、ジブチルチオウレア、ジラウリルチオウレア、トリメチルチオウレア、エチレンチオウレア、2−メルカプトイミダゾリン、2−イミダゾリン−2−チオール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、層間接着性の点で、トリメチルチオウレアが好ましい。
【0049】
上記グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジン、o−トリル−ビグアニジン、ジカテコールボレートのジ−o−トリルグアニジン塩等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、層間接着性の点で、ジ−o−トリルグアニジンが好ましい。
【0050】
上記加硫促進剤(D成分)の含有量は、アクリル系ゴム(A成分)100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、特に好ましくは0.5〜4重量部である。上記加硫促進剤(D成分)の含有量が少なすぎると、層間接着性の向上効果が得にくくなる傾向がみられ、上記加硫促進剤(D成分)の含有量が多すぎると、スコーチする傾向がみられる。
【0051】
《カーボンブラック》
上記カーボンブラックとしては、例えば、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等のものがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、MAF級カーボンブラックが好ましい。
【0052】
上記カーボンブラックの含有量は、アクリル系ゴム(A成分)100重量部に対して、20〜100重量部が好ましく、特に好ましくは40〜80重量部である。
【0053】
《老化防止剤》
上記老化防止剤としては、例えば、カルバメート系,フェニレンジアミン系,フェノール系,ジフェニルアミン系,キノリン系等の老化防止剤や、ワックス類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0054】
上記老化防止剤の含有量は、アクリル系ゴム(A成分)100重量部に対して、0.5〜10重量部が好ましく、特に好ましくは1〜4重量部である。
【0055】
本発明で使用するアクリル系ゴム組成物は、例えば、アクリル系ゴム(A成分)、ベンゼンジオール(B成分)、イミダゾール化合物およびジアミン系加硫剤の少なくとも一方(C成分)に加えて、加硫促進剤(D成分)、カーボンブラック等を必要に応じて適宜に配合し、これらをニーダー,ロール,バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0056】
つぎに、本発明の耐熱ホースの製法について具体的に説明する。すなわち、前述の方法に従い、内層用材料となるフッ素系ゴム組成物、および外層用材料となるアクリル系ゴム組成物をそれぞれ調製する。そして、フッ素系ゴム組成物(内層用材料)およびアクリル系ゴム組成物(外層用材料)を、マンドレル上に共押出成形し、所定の条件(例えば、160℃×30分)で加熱しスチーム加硫した後、所定の条件(例えば、160℃×4時間)でオーブンにて二次加硫する。これにより、内層1の外周面に外層2が直接形成され、接着剤レスで両層が強固に接着してなる耐熱ホース(図1参照)を得ることができる。なお、本発明の耐熱ホースの製法においては、上記マンドレルは使用しなくても差し支えない。
【0057】
本発明の耐熱ホースは、前記図1に示した構造に限定されるものではなく、外層2の外周面に、さらに、ゴム材料からなる補強用の最外層等を形成しても差し支えない。なお、上記最外層の形成材料は、外層用材料と同様のアクリル系ゴム組成物であっても差し支えない。この場合、外層と最外層とは接着剤レスで直接加硫接着することができる。また、本発明の耐熱ホースは、内層1/外層2/補強糸層/最外層の構造であってもよく、補強糸層に接着剤処理を施しても良い。
【0058】
本発明の耐熱ホースにおいて、ホース内径は5〜100mmが好ましく、特に好ましくは40〜70mmである。また、内層1の厚みは0.2〜2mmが好ましく、特に好ましくは0.3〜1mmであり、外層2の厚みは0.5〜5.0mmが好ましく、特に好ましくは1〜3mmである。
【実施例】
【0059】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0060】
《フッ素系ゴム組成物A〜C(実施例用)、およびフッ素系ゴム組成物D,E(比較例用)の調製》
下記の表1に示すフッ素系ゴム(a成分)、ポリオール系加硫剤(b成分)およびポリオール系加硫促進剤(c成分)を同表に示す割合でニーダーに仕込み、混練してFKMプレコンパウンドを調製した。つぎに、上記FKMプレコンパウンドに、残りの成分を同表に示す割合で配合し、これらをロールで混練してフッ素系ゴム組成物を調製した。
【0061】
【表1】

【0062】
〔フッ素系ゴム(i)(a成分)〕
VDF/HFP共重合体(VDF/HFP=60/40:重量比)(フッ素含有量:66重量%)
〔フッ素系ゴム(ii)(a成分)〕
VDF/HFP/TFE共重合体(VDF/HFP/TFE=41/37/22:重量比)(フッ素含有量:69重量%)
〔フッ素系ゴム(iii) (a成分)〕
VDF/HFP/TFE共重合体(VDF/HFP/TFE=33/46/21:重量比)(フッ素含有量:71重量%)
【0063】
〔ポリオール系加硫剤(b成分)〕
ビスフェノールAF(東京化成工業社製、ビスフェノールAF)
【0064】
〔過酸化物架橋剤(比較例用)〕
ジクミルパーオキサイド(日本油脂社製、パークミルD−40)
【0065】
〔ポリオール系加硫促進剤(c成分)〕
8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド(和光純薬工業社製、DBU−B)
【0066】
〔カーボンブラック〕
SRF級カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストS)
【0067】
〔酸化マグネシウム(d成分)〕
協和科学社製、キョーワマグ150
【0068】
〔水酸化カルシウム(e成分)〕
近江化学社製、カルビット
【0069】
〔レゾルシノール(比較例用)〕
住友化学社製、レゾルシノール
【0070】
《アクリル系ゴム組成物a〜i(実施例用)、およびアクリル系ゴム組成物j,k(比較例用)の調製》
下記の表2に示す各成分を同表に示す割合で配合し、ロールを用いて混練して、アクリル系ゴム組成物を調製した。
【0071】
【表2】

【0072】
〔アクリル系ゴム(A成分)〕
エチルアクリレートとブチルアクリレートとグリシジルメタクリレートとの共重合ゴム(エチルアクリレート/ブチルアクリレート/グリシジルメタクリレート=59.5重量%/40.0重量%/0.5重量%)
【0073】
〔ステアリン酸〕
花王社製、ルナックS30
〔アミン系老化防止剤〕
4,4′(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(クロンプトン社製、ナウガード445)
〔カーボンブラック〕
MAF級カーボンブラック(東海カーボン社製、シースト116)
〔流動パラフィン〕
ESSO社製、クリストール70
〔可塑剤〕
ADEKA社製、アデカサイザーRS735
【0074】
〔レゾルシノール(1,3−ベンゼンジオール)(B成分)〕
住友化学社製、レゾルシノール
〔カテコール(1,2−ベンゼンジオール)(B成分)〕
宇部興産社製、カテコール
〔ハイドロキノン(1,4−ベンゼンジオール)(B成分)〕
精工化学社製、ハイドロキノン
【0075】
〔イミダゾール化合物(加硫剤)(C成分)〕
1,2−ジメチルイミダゾール(四国化成社製、SN−25)
【0076】
〔ジアミン系加硫剤(C成分)〕
2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(和歌山精化社製、BAPP)
【0077】
〔チオウレア化合物(チオウレア系加硫促進剤)(D成分)〕
トリメチルチオウレア(大内新興化学工業社製、ノクセラーTMU)
〔グアニジン系加硫促進剤(D成分)〕
ジ−o−トリルグアニジン(大内新興化学工業社製、ノクセラーDT)
【0078】
〔第四級アンモウニム塩〕
テトラエチルアンモニウムブロミド(東京化成工業社製、テトラエチルアンモニウムブロミド)
【0079】
〔実施例1〕
フッ素系ゴム組成物(内層用材料)およびアクリル系ゴム組成物(外層用材料)を、下記の表3に示す組み合わせで使用した耐熱ホースを作製した。すなわち、フッ素系ゴム組成物(内層用材料)およびアクリル系ゴム組成物(外層用材料)を、マンドレル上に共押出成形し、160℃で30分加熱しスチーム加硫した後、160℃で4時間オーブンにて二次加硫することにより、内層(厚み0.5mm)の外周面に外層(厚み2mm)が直接形成されてなる耐熱ホース(内径30mm、外径35mm)を作製した。
【0080】
〔実施例2〜11、比較例1〜5〕
フッ素系ゴム組成物(内層用材料)およびアクリル系ゴム組成物(外層用材料)の組み合わせを、下記の表3に示す組み合わせに変更する以外は、実施例1と同様にして耐熱ホースを作製した。
【0081】
【表3】

【0082】
このようにして得られた実施例および比較例の耐熱ホースを用いて、下記の基準に従い、層間接着性の評価を行った。この結果を、上記表3に示した。
【0083】
〔接着性(剥離強度、層間接着性)〕
各耐熱ホースから、厚み2.5mm(内層の厚み0.5mm、外層の厚み2mm)、幅25mmの試験片を切り出し、その試験片の内層を、引張試験機(JIS B 7721)を用いて、毎分50mmの速度で引き剥がし、その際の剥離強度(N/25mm)を測定するとともに、以下の基準により層間接着性の評価を行った。
〈評価〉
◎:剥離面において全面がゴム破壊状態にあるもの。
○:部分的にゴム破壊の状態があるもの。
×:全面が界面剥離の状態にあるもの。
【0084】
上記表3の結果より、実施例品は、いずれも剥離強度が強く、層間接着性に優れていた。
【0085】
これに対して、比較例1は、レゾルシノールを含有するフッ素系ゴム組成物Dを使用しているため、フッ素系ゴムの加硫阻害が生じ、内層と外層とが接着しなかった。
比較例2は、ベンゼンジオール(レゾルシノール、カテコール、ハイドロキノン)を含有しないアクリル系ゴム組成物jを使用しているため、層間接着性が劣っていた。
比較例3も、ベンゼンジオールを含有しないアクリル系ゴム組成物kを使用しているため、比較例2と同様、層間接着性が劣っていた。
比較例4は、過酸化物架橋剤を含有するフッ素系ゴム組成物Eを使用するとともに、ベンゼンジオールを含有しないアクリル系ゴム組成物jを使用しているため、比較例2と同様、層間接着性が劣っていた。
比較例5は、過酸化物架橋剤を含有するフッ素系ゴム組成物Eを使用しているため、ポリオール系加硫剤を含有するフッ素系ゴム組成物Bを使用した実施例4に比べて、層間接着性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の車両用耐熱ホースは、耐熱性が要求されるホース全般に使用可能であるが、自動車用のエアー系ホース、例えば、ガソリン蒸気やエンジンオイルのミストを含む空気混合物をエンジンから排出して再燃焼のためにエンジンに供給するためのエアー系ホースや、燃料系ホースとして有用である。具体的には、本発明の車両用耐熱ホースは、燃料ホース、エアーホース、ターボエアーホース(過給機用エアホース)、バキュームブレーキホース、コモンレールディーゼル燃料ホース、DPF(ディーゼル・パーティキュレート・フィルター)センサーホース等の自動車用耐熱ホースとして好適に用いることができる。なお、本発明の車両用耐熱ホースは、自動車用耐熱ホースに限らず、建機用、船舶用、航空機用耐熱ホースとしても使用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 内層
2 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と、その外周面に直接形成される外層とを備えた車両用耐熱ホースであって、上記内層が下記の(a)〜(e)成分を含有するフッ素系ゴム組成物を用いて形成され、上記外層が下記の(A)〜(C)成分を含有するアクリル系ゴム組成物を用いて形成されていることを特徴とする車両用耐熱ホース。
(a)フッ素系ゴム。
(b)ポリオール系加硫剤。
(c)ポリオール系加硫促進剤。
(d)酸化マグネシウム。
(e)水酸化カルシウム。
(A)アクリル系ゴム。
(B)ベンゼンジオール。
(C)イミダゾール化合物およびジアミン系加硫剤の少なくとも一方。
【請求項2】
(B)成分が、1,3−ベンゼンジオール(レゾルシノール)、1,2−ベンゼンジオール(カテコール)および1,4−ベンゼンジオール(ハイドロキノン)からなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1記載の車両用耐熱ホース。
【請求項3】
(B)成分の含有量が(A)成分100重量部に対して0.5〜5重量部である請求項1または2記載の車両用耐熱ホース。
【請求項4】
(c)成分が有機オニウム化合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用耐熱ホース。
【請求項5】
(C)成分のイミダゾール化合物が1,2−ジメチルイミダゾールであり、(C)成分のジアミン系加硫剤が2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンである請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用耐熱ホース。
【請求項6】
(b)成分の含有量が(a)成分100重量部に対して0.5〜5重量部、(c)成分の含有量が(a)成分100重量部に対して0.2〜4重量部、(d)成分の含有量が(a)成分100重量部に対して0.5〜15重量部であり、(e)成分の含有量が(a)成分100重量部に対して1〜15重量部であり、(C)成分の含有量が(A)成分100重量部に対して0.2〜5重量部である請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用耐熱ホース。
【請求項7】
外層が(A)〜(C)成分とともに、さらに下記の(D)成分を含有するアクリル系ゴム組成物を用いて形成され、(D)成分がチオウレア系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤の少なくとも一方である請求項1〜6のいずれか一項に記載の車両用耐熱ホース。
(D)加硫促進剤。
【請求項8】
内層と外層とが直接加硫接着している請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両用耐熱ホース。
【請求項9】
フッ素系ゴム組成物がベンゼンジオール不含である請求項1〜8のいずれか一項に記載の車両用耐熱ホース。
【請求項10】
外層の外周面に、上記(A)〜(C)成分を含有するアクリル系ゴム組成物を用いて形成されてなる最外層が直接形成されている請求項1〜9のいずれか一項に記載の車両用耐熱ホース。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−187852(P2012−187852A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54151(P2011−54151)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】