説明

車両用運行記録計の坂道検出装置及び坂道検出方法

【課題】坂道の検出を短い走行距離でも精度良く行い運行管理の適切な評価に繋がる車両用運行記録計の坂道検出装置及び坂道検出方法を提供する。
【解決手段】車両用運行記録計1は、CPU2、ROM3、電源回路4、インターフェース回路5、などから構成されている。また、坂道検出装置10は、気圧センサ11とインターフェース回路12とダイヤル13から構成されている。気圧センサ11は、車両の前方側に取り付けられる第1気圧センサ11Aと、車両の後方側に取り付けされる第2気圧センサ11Bと、から成る。走行中の車両周辺の気圧を所定間隔で気圧センサ11により測定し高度値Hを出力する。第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bの高度値の差ΔHを用いて勾配を算出し坂道を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスやトラック等の車両に搭載される車両用運行記録計の坂道検出装置及び坂道検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の安全運転と経済走行の観点から、特にバスやトラック等には運行記録計を備えることが義務づけられている。この運行記録計から安全運転日報が表示され解析されるが、安全運転分析の一つとしてエンジン回転数の適切さが評価される。しかしながら、坂道ではエンジンの回転超過は必然的に起こるもので、運転技術の公平から、運行記録計に気圧センサ等を設けて坂道を判定することが行われている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
図3は、特許文献1に開示された、従来の車両用運行記録計の坂道検出装置及び坂道検出方法を示す回路ブロック図である。
【0004】
車両用運行記録計101は、トラックの運転席近傍に設けられ、CPU102、ROM103、RAM120、時計回路121、電源回路104、インターフェース105などよりなり、エンジン回転数センサ122、速度センサ123、吸入空気量センサ124などトラックに本来装備されている各種センサからの出力信号や、トラックの適宜の位置に設けられる気圧計である気圧センサ111からの出力信号のほか、登録ターミナル125などの適宜の入力手段によって入力される作業情報が車両用運行記録計101に着脱自在に装着される記録媒体としてのメモリカード126に時間の経過とともに記録するよう構成されていることが開示されている。
【0005】
坂道検出方法は、坂道検出装置110としての気圧センサ111を利用して行われ、気圧センサ111の出力を車両用運行記録計101において適宜処理することにより、路面の進行方向への傾きθを得ることができる。この手段により、車両の走行状態が的確に把握され、運転者への省エネに対する意識を向上させることも開示されている。
【0006】
図4は、特許文献2に開示された、従来の車両用運行記録計の坂道検出装置及び坂道検出方法を示す回路ブロック図である。
【0007】
坂道検出装置210は、主に、CPU202、EEPROM203、気圧センサ211、などから構成されている。CPU202は、坂道検出装置210の動作全般を統括する制御部である。EEPROM203は、CPU202を動作させるためのプログラムや計測用データ等を格納する。気圧センサ211は、走行中の車両周辺の気圧を所定間隔で測定する。また、CPU202は、電源回路204を介して入力される車速センサからのspeed信号207を取得して、坂道検出の動作開始や各種演算を行う。更に、インターフェース回路212を介して、坂道の上り検出信号214、下り検出信号の出力215を行う。また2つのダイヤル213によって上りと下りの勾配の閾値を設定することが開示されている。
【0008】
坂道検出方法は、気圧センサ211を利用して行われ、単位走行距離約50mごとに気圧センサ211で高度値を算出し、単位走行距離ごとに算出した高度値の変化量を単位走行距離の50mで除した値(%)を勾配として得ることができる。そして、過去に算出した勾配が3回連続して同一方向への勾配である場合に坂道として判定するため、高い精度で坂道の検出ができ、運行管理や運転評価を適正に行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−46439号公報
【特許文献2】特開2010−39954号公報
【0010】
特許文献1記載の坂道検出装置及び坂道検出方法では、単に気圧センサ111を用いることが記載されているのみであり、具体的にどのように計測精度を上げて坂道を検出するかは記載されていない。
【0011】
また、特許文献2記載の坂道検出装置及び坂道検出方法では、気圧センサ211から得られた高度値の計測精度を上げることが記載されている。過去に算出した勾配が3回連続して同一方向への勾配である場合に坂道として判定することにより精度を上げているが、150m以上の走行距離を必要としており、より短い距離での検出ができないという課題を生じていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、坂道の検出を短い走行距離でも精度良く行い運行管理の適切な評価に繋がる車両用運行記録計の坂道検出装置及び坂道検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車両用運行記録計の坂道検出装置及び坂道検出方法は、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1) 車両用運行記録計に一体的に設けられる坂道検出装置であって、
少なくとも気圧センサとインターフェース回路とを備え、
前記気圧センサは、少なくとも2つ以上を備え、車両の前方側に取り付けられる第1気圧センサと車両の後方側に取り付けられる第2気圧センサとを含み、
前記第1気圧センサと前記第2気圧センサから測定されたそれぞれの高度値の差を取得して勾配を算出し坂道を判定すること。
(2) 上記(1)の坂道検出装置において、
前記第1気圧センサと前記第2気圧センサから測定されたそれぞれの高度値の差を取得して勾配を算出し、一定距離毎に平均値を算出し坂道を判定すること。
(3) 車両の走行距離を算出するステップと、
各気圧センサから一定距離毎に算出された高度値の変化量から勾配判定処理を行うステップと、
第1気圧センサと第2気圧センサから算出されたそれぞれの高度値からの差を基に高度差判定処理を行うステップと
一定距離毎に算出した勾配値を連続して数回行うことにより坂道判定処理を行うステップと、
を有すること。
(4) 上記(3)の坂道検出方法において、
前記第1気圧センサと前記第2気圧センサから算出されたそれぞれの高度値からの差をリアルタイムに記憶して、一定距離毎に平均値を算出して坂道判定処理をするステップと、を有することを特徴とする請求項3に記載した坂道検出方法。
前記第1気圧センサと前記第2気圧センサから算出されたそれぞれの高度値からの差をリアルタイムに記憶して、一定距離毎に平均値を算出して坂道判定処理をするステップと、を有すること。
【0014】
上記(1)の構成では、車両に取り付けられた第1気圧センサと第2気圧センサとの高度値の差をリアルタイムに算出でき、50〜100mの短い走行距離に於いても正確な坂道判定ができる坂道検出装置を提供できる。
上記(2)の構成では、より精度の勾配値を算出できる。
上記(3)の方法では、車両に取り付けられた第1気圧センサと第2気圧センサとの高度値の差をリアルタイムに算出でき、50〜100mの短い走行距離に於いても正確な坂道判定ができる坂道検出方法を提供できる。
上記(4)の方法では、より精度の勾配値を算出できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両前後に搭載された気圧センサの測定値の差を勾配として計測できるため、走行距離が短くても確実に高い精度で坂道を検出できる車両用運行記録計の坂道検出装置及び坂道検出方法を提供できる。
【0016】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態における車両用運行記録計の坂道検出装置の回路ブロック図である。
【図2】図1の発明の坂道検出方法を示すフローチャートである。
【図3】従来技術の回路ブロック図である。
【図4】従来技術の回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
<具体的手段>
図1の回路ブロック図に基づいて、本発明の一実施形態である車両用運行記録計の坂道検出装置を説明する。
【0020】
車両用運行記録計1は、CPU2、ROM(EEPROM)3、電源回路4、インターフェース回路5、などから構成されている。また、坂道検出装置10は、気圧センサ11とインターフェース回路12とダイヤル13から構成されている。気圧センサ11は、車両の前方側に取り付けられる第1気圧センサ11Aと、車両の後方側に取り付けされる第2気圧センサ11Bと、から成る。インターフェース回路12を介して、坂道の上り検出信号14、下り検出信号15の出力を行い車両用運行記録計1に記録する。またダイヤル13によって上りと下りの勾配の閾値を設定することができる。
【0021】
本発明の一実施形態として、既存の車両用運行記録計1に付随した一体型の坂道検出装置10として説明するが、CPU2、ROM3、電源回路4、インターフェース回路5、を含む構成としての別体型の坂道検出装置10であっても良い。
【0022】
CPU2は、車両用運行記録計1や坂道検出装置10の動作全般を統括する制御部である。また、CPU2は、電源回路4を介して入力されるIGN(イグニッション)信号6やインターフェース回路5を介して入力される車速センサからのspeed信号7を取得して坂道検出の動作開始や各種演算も行う。ROM3は、CPU2を動作させるためのプログラムや計測用データ等を格納する。
【0023】
気圧センサ11は、走行中の車両周辺の気圧を所定間隔(例えば約0.5秒間隔)で測定し、測高公式で算出される高度値Hを出力する。第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bは、例えば取り付け間隔Lが10m(大型バスや大型トラック等)の場合、勾配5%で0.5mの高低差が確保される。即ち、第1気圧センサ11Aの高度値H1と第2気圧センサ11Bの高度値H2との差ΔH(ΔH=H1−H2)が、0.5mであれば勾配5%であると算出できる。
勾配(%)=100×ΔH[m]/L[m]
の式で求められる勾配は、所定間隔(リアルタイム)で算出される複数の値の平均値を用いることが望ましい。例えば、一定走行距離30m毎に平均値を取り、2回の平均値がそれぞれ+%、+%であれば上り坂と判定する。
【0024】
上述したように、本発明の車両用運行記録計の坂道検出装置及び坂道検出方法は、少なくとも2つ以上の気圧センサ11A、11Bを備え、2つの気圧センサ11A、11Bで測定される高度値の差をリアルタイムで算出している。従って、第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bとの取り付け間隔Lを大きく取れることが有利であり、全長10mを越える大型バスや大型トラック等に最適である。
【0025】
<具体的方法>
図2のフローチャートに基づいて、本発明の一実施形態である車両用運行記録計の坂道検出方法を説明する。
【0026】
ステップS51:イグニッション信号ON後、CPU2は、速度信号入力処理を開始する。その際、気圧センサ11から得られる初期の高度値を算出する。
【0027】
ステップS52:speed信号7のパルス数をカウントして走行距離を算出する。
【0028】
ステップS53:一定の走行距離毎に気圧センサ11から気圧データを入手する。入手された気圧データを基に高度値を算出する。例えば30m毎や50m毎に高度値を算出するよう設定する。
【0029】
ステップS54:CPU2は加速度を算出処理する。
【0030】
ステップS55:CPU2は勾配判定処理を行う。ここで勾配とは、一定距離D毎に算出した高度値の変化量dHを一定距離Dで除した値(%)であり、
勾配[%]=100×dH[m]/D[m]
で示される式により所定回数分記録される。
【0031】
ステップS56:CPU2は、第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bから算出されたそれぞれの高度値からの差ΔHを基に高度差判定処理を行う。一定距離毎にリアルタイムで算出された個々のΔHを総和して算出回数で除することにより、一定距離毎の平均値を得ることができる。
【0032】
ステップS57:一定距離毎に行った勾配値を連続して数回行うことにより坂道判定処理をする。坂道であると判定した場合は、インターフェース回路12を介して、勾配が+%である場合は、坂道の上り検出信号14の出力を行い、勾配が−%である場合は、下り検出信号15の出力を行い車両用運行記録計1に記録する。
【0033】
本発明の坂道検出装置及び坂道検出方法では、算出した勾配が連続して近似値として同一であれば坂道と判定している。即ち、<+%、+%>であれば上り坂と判定し、<−%、−%>であれば下り坂として判定する。また、2つの気圧センサ11A、11Bによる差ΔHを、リアルタイムで算出しているため、短い距離、例えば30m毎で3回(計90m)や50m毎で2回(計100m)でも精度良く坂道判定ができる。
【0034】
<本発明のまとめ>
本発明の車両用運行記録計の坂道検出装置においては、車両用運行記録計1に一体的に設けられる坂道検出装置10であって、少なくとも気圧センサ11とインターフェース回路12とを備え、気圧センサ11は、少なくとも2つ以上を備え、車両の前方側に取り付けられる第1気圧センサ11Aと車両の後方側に取り付けられる第2気圧センサ11Bとから成り、第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bから測定されたそれぞれの高度値の差ΔHを取得して勾配を算出して坂道を判定することを特徴としている。
【0035】
この構成により、車両に取り付けられた第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bとの高度値の差ΔHをリアルタイムに算出でき、50〜100mの短い走行距離に於いても正確な坂道判定ができる坂道検出装置を提供できる。
【0036】
また、本発明の車両用運行記録計の坂道検出装置においては、第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bから測定されたそれぞれの高度値の差ΔHを取得して勾配を算出し、一定距離毎に平均値を算出し坂道を判定することを特徴としている。この構成により、より精度の勾配値を算出できる。
【0037】
本発明の車両用運行記録計の坂道検出方法においては、車両の走行距離を算出するステップと、各気圧センサ11A、11Bから一定距離毎に算出された高度値の変化量dHから勾配判定処理を行うステップと、第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bから算出されたそれぞれの高度値からの差ΔHを基に高度差判定処理を行うステップと一定距離毎に算出した勾配値を連続して数回行うことにより坂道判定処理を行うステップと、を有することを特徴としている。
【0038】
この方法により、車両に取り付けられた第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bとの高度値の差ΔHをリアルタイムに算出でき、50〜100mの短い走行距離に於いても正確な坂道判定ができる坂道検出方法を提供できる。
【0039】
また、本発明の車両用運行記録計の坂道検出方法においては、第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bから算出されたそれぞれの高度値からの差ΔHをリアルタイムに記憶して、一定距離毎に平均値を算出して坂道判定処理をするステップと、を有することを特徴としている。この方法により、より精度の勾配値を算出できる。
【0040】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0041】
本発明の一実施形態では、第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bとの差ΔHを用いて坂道の勾配を判定することを述べたが、第1気圧センサ11Aと第2気圧センサ11Bとが独立して一定走行距離に於ける高度値の変化量dHを比較することにより、精度の高い勾配判定処理を行うことも可能である。
【0042】
また、本発明の一実施形態では、2つの気圧センサ11A、11Bを説明したが、車両の前部に2つ、後部に2つ、計4つの気圧センサを設けても良い。4つの高度値を同時に比較することにより精度の高い値を得ることができる。
【0043】
気圧センサ11として第1気圧センサ11A及び第2気圧センサ11Bを記載したが、第1、第2の順序に特定されるものではない。
【符号の説明】
【0044】
1 車両用運行記録計
2 CPU
3 ROM(EEPROM)
10 坂道検出装置
11 気圧センサ
11A 第1気圧センサ
11B 第2気圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用運行記録計に一体的に設けられる坂道検出装置であって、
少なくとも気圧センサとインターフェース回路とを備え、
前記気圧センサは、少なくとも2つ以上を備え、車両の前方側に取り付けられる第1気圧センサと車両の後方側に取り付けられる第2気圧センサとを含み、
前記第1気圧センサと前記第2気圧センサから測定されたそれぞれの高度値の差を取得して勾配を算出し坂道を判定することを特徴とする坂道検出装置。
【請求項2】
前記第1気圧センサと前記第2気圧センサから測定されたそれぞれの高度値の差を取得して勾配を算出し、一定距離毎に平均値を算出し坂道を判定することを特徴とする請求項1に記載した坂道検出装置。
【請求項3】
車両の走行距離を算出するステップと、
各気圧センサから一定距離毎に算出された高度値の変化量から勾配判定処理を行うステップと、
第1気圧センサと第2気圧センサから算出されたそれぞれの高度値からの差を基に高度差判定処理を行うステップと
一定距離毎に算出した勾配値を連続して数回行うことにより坂道判定処理を行うステップと、
を有することを特徴とする坂道検出方法。
【請求項4】
前記第1気圧センサと前記第2気圧センサから算出されたそれぞれの高度値からの差をリアルタイムに記憶して、一定距離毎に平均値を算出して坂道判定処理をするステップと、を有することを特徴とする請求項3に記載した坂道検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−54694(P2013−54694A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194251(P2011−194251)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(501418498)矢崎エナジーシステム株式会社 (79)
【Fターム(参考)】