説明

車両用防汚素子

【課題】防汚効果を十分に奏すると共に、十分に高い耐環境性を備えた車両用防汚素子を提供する。
【解決手段】p型半導体からなる層と、その表面上に積層されたn型半導体からなる薄膜とを備え、薄膜は光触媒機能を有し、かつその膜厚が5nm以上60nm未満である車両用防汚素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用防汚素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のドアミラー等の車両用部材において、周囲環境からの汚染物質による汚れを防止する膜状の防汚素子が知られている。そのような防汚機能を有する素子材料としては、二酸化チタン(TiO)等の光触媒が代表例である。半導体である光触媒は、そのバンドギャップ以上のエネルギーを有する波長の光で励起されると、その内部に電子・正孔対が生成する。この生成した電子・正孔対による酸化還元反応に基づき、表面に付着した有機物は分解除去される。
【0003】
ところで、光触媒の活性を向上させる手段として、特許文献1には、SrTiO単結晶の基板上にレーザー蒸着法でアナターゼ型のTiO単結晶を成膜する方法が開示されている。また、特許文献2には、単斜晶系酸化ジルコニウム等の結晶化促進層上にTiO膜を成膜する手法が開示されている。これらの特許文献によると、TiO膜の結晶性を高めて結晶欠陥を抑制することにより光触媒活性が向上する旨、記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、光吸収領域を拡大することにより、光吸収効率が増大し、反応効率が向上した半導体光触媒の提供を意図して、p型及びn型の膜状半導体を具備する半導体光触媒が提案されている。さらに特許文献4には、バンドギャップ及びキャリア密度が特定の数値範囲内にあり、ドーパントが窒素であるp型光半導体とn型半導体とが接合した光触媒材料が提案されている。これらの特許文献によると、半導体のpn接合を利用することによって、光触媒活性を向上させる旨が示されている。
【特許文献1】特開2001−342022号公報
【特許文献2】国際公開第03/053577号パンフレット
【特許文献3】特開昭62−68547号公報
【特許文献4】特開2005−28225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らは、上記特許文献1〜4に記載のものを始めとする従来の光触媒について詳細に検討を行ったところ、このような従来の光触媒は、車両用防汚素子として適していないことを見出した。すなわち、特許文献1に開示された結晶性の高いTiOは、SrTiO単結晶上に成膜されるものであるが、SrTiO単結晶は汎用性がなく、かつ、この基材上にTiO単結晶を成膜することは技術的に困難である。また、特許文献2に記載されたTiO膜はその防汚効果が不十分であり更に改善の余地がある。しかも、基材である単斜晶系酸化ジルコニウム等は高額であるため、量産性に適しない。そして、特許文献3、4に記載された下層を有する光触媒膜は、いずれもその膜厚が60nm以上、130nm以上と厚すぎる。このような光触媒膜は、車両が様々な厳しい環境(例えば、高温、低温、高湿等)に曝されると、よりクラックが生じやすいため、耐環境性が十分とはいえず、車両用防汚素子に適用することは困難である。
【0006】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、上記特許文献1、2に記載された光触媒の態様を採用しなくても、防汚効果を十分に奏すると共に、十分に高い耐環境性を備えた車両用防汚素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、p型半導体からなる層と、その表面上に積層されたn型半導体からなる薄膜とを備え、薄膜は光触媒機能を有し、かつその膜厚が5nm以上60nm未満である車両用防汚素子を提供する。
【0008】
この車両用防汚素子によれば、p型半導体からなる層とn型半導体からなる薄膜とを積層してpn接合することにより、n型半導体の車両用防汚機能としての光触媒活性を十分に向上できる。これは、紫外線等の活性光線を本発明の車両用防汚素子に照射すると電子・正孔対が生成するところ、pn接合により、この電子・正孔対の再結合確率を下げることができるためと推測される。また、pn接合によって光触媒活性を高めているため、n型半導体が単結晶である必要はなく、単斜晶系酸化ジルコニウム等の高価な材料を基材として用いる必要もないため、この車両用防汚素子は、汎用性及び量産性にも十分優れている。更に、n型半導体からなる薄膜の膜厚を5nm以上60nm未満にすることにより、薄膜が車両の置かれる様々な厳しい環境に曝されても、クラックは生じ難くなる。その結果、本発明の車両用防汚素子は、その耐環境性を十分に高めることが可能となる。薄膜は膜厚がこの範囲内であれば、車両用防汚素子におけるものとしての十分な光触媒活性を保持することができる。
【0009】
また、薄膜の膜厚は従来と比較して薄くなるため、更なる低コスト化を図ることができる。さらに、本発明の車両用防汚素子は、薄膜の膜厚を5nm以上60nm未満の範囲内にすることにより、上記層の反りや歪みを抑制することができる。
【0010】
本発明の車両用防汚素子において、n型半導体が二酸化チタンであると好適である。これにより、車両用防汚機能としての光触媒活性を更に高めることができる。
【0011】
また、本発明の車両用防汚素子において、p型半導体が光溶解性を示さないものであると好ましい。ここで、「光溶解性」とは水分や有機溶媒との共存下で半導体に紫外線等の活性光線を照射すると、生じた正孔によって半導体自体が酸化溶解を起こす性質をいう。車両用防汚素子は通常、水分が存在する環境に曝されているため、光溶解性を有するp型半導体を材質として備えると酸化溶解してしまう。そうなると、n型半導体の光触媒活性が劇的に低下するため、車両用防汚素子として適合しなくなる。
【0012】
本発明の車両用防汚素子において、薄膜の上記層側とは反対側の表面上に親水性の無機酸化物膜が更に積層されてなると好ましい。親水性の無機酸化物膜を備えることで、この車両用防汚素子は、より良好な防曇性及び視認性を示すことができる。また、この車両用防汚素子は、親水機能を低下させるような汚れが付着した場合でも、上記薄膜におけるn型半導体の光触媒作用により、付着した汚れが分解されるので、優れた耐久性を示すことができる。これら高い防曇性等を示す無機酸化物膜と、高い防汚性を示す薄膜とを別々に備えることにより、この車両用防汚素子は良好な防曇性を長期間にわたり維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、防汚効果を十分に奏すると共に、十分に高い耐環境性を備えた車両用防汚素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
図1は、本発明の好適な第1の実施形態に係る車両用防汚素子を示す模式断面図である。図1に示す車両用防汚素子10は、p型半導体からなる層である基板14と、その表面上に積層されたn型半導体からなる薄膜12とを備えている。
【0016】
この車両用防汚素子10において、基板14は薄膜12を形成する際の基材としての機能を併せ持つものである。基板14の構成材料はp型半導体であれば特に限定されず、p型半導体としてより有効に作用するために、公知のドーパントを含んでいてもよい。基板14の構成材料としては、例えば、多結晶又は単結晶のシリコン、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化クロム、酸化モリブデン、リチウムドープ酸化ニッケル、銅アルミニウム複合酸化物、及び銅ガリウム複合酸化物が挙げられる。これらの中では、基材として用いることが容易な多結晶又は単結晶のシリコン、酸化ニッケル、リチウムドープ酸化ニッケル、銅アルミニウム複合酸化物、又は銅ガリウム複合酸化物が好ましい。また、単結晶のシリコンは、後述する薄膜12の構成材料としてTiOを採用した場合に、極めて優れた光触媒活性を薄膜12に付与することができるので、車両用防汚素子に飛躍的な防汚作用をもたらすことができる。
【0017】
上記p型半導体は、光溶解性を示さないものであると好ましい。これにより、水分共存下で基板14が酸化溶解して薄膜12の光触媒活性が低下する現象を有効に防ぐことができる。光溶解性を示すp型半導体としては、酸化亜鉛(ZnO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化亜鉛(ZnS)が挙げられるので、上記p型半導体はこれらを除いたものであることが好適である。
【0018】
薄膜12はn型半導体を構成材料とし、光触媒機能を有するものである。薄膜12の構成材料は、十分な光触媒活性を備えるものであれば特に限定されず、例えば、二酸化チタン(TiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ニオブ(NbO)、酸化インジウム(In)、酸化タンタル(Ta)、及び酸化スズ(SnO)が挙げられる。これらの中では、光触媒活性が特に高く、汎用性及び量産性により優れる観点から、TiO、SrTiO、及びWOが好ましく、TiOが更に好ましい。また、薄膜12はn型半導体としてのより有効に作用するために、公知のドーパントを含んでいてもよい。
【0019】
薄膜12の膜厚は、5nm以上60nm未満である。この膜厚を5nm以上とすることにより、5nm未満である場合と比較して、光触媒活性が向上し、車両用防汚素子としての防汚効果を十分に発揮することができる。また、この膜厚が60nm未満であると、60nm以上である場合と比較して、薄膜12の内部応力が小さくなるためにクラックの発生が抑制され、十分な耐環境性を示すことが可能となる。
【0020】
図2は、本発明の好適な第2の実施形態に係る車両用防汚素子を示す模式断面図である。図2に示す車両用防汚素子20は、基材26と、その基材26の表面上に形成されたp型半導体からなる層である第1薄膜24と、その第1薄膜24の表面上に積層されたn型半導体からなる第2薄膜12とを備えている。この車両用防汚素子20において、第2薄膜12は、第1の実施形態に係る薄膜12と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0021】
基材26は、その表面上に第1薄膜24及び第2薄膜12を順に積層するために設けられている。基材26の構成材料としては、例えば、ソーダライムガラス、石英ガラス等のガラス、ステンレス、チタン等の金属板が挙げられる。この基材26は基板を複数枚積層してなるものであってもよいが、車両用ミラー等の光学部材に具備される場合、可視光や紫外光に対して透明であることが好ましい。
【0022】
第1薄膜24の構成材料はp型半導体であれば特に限定されず、p型半導体としてより有効に作用するために、公知のドーパントを含んでいてもよい。第1薄膜24の構成材料としては、例えば、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化クロム、酸化モリブデン、リチウムドープ酸化ニッケル、銅アルミニウム複合酸化物、及び銅ガリウム複合酸化物が挙げられる。これらの中では、成膜が容易であり材料コストも安価である観点等から、酸化ニッケル、リチウムドープ酸化ニッケル、銅アルミニウム複合酸化物、又は銅ガリウム複合酸化物が好ましく、酸化ニッケルが特に好ましい。
【0023】
上記p型半導体は、第1の実施形態におけるものと同様に、光溶解性を示さないものであると好ましく、具体的には酸化亜鉛(ZnO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化亜鉛(ZnS)を除いたものであることが好適である。
【0024】
第1薄膜24の好適な膜厚は5〜50nmであり、更に好ましくは5〜30nmである。この膜厚が上記下限値未満であると、p型半導体としての作用が低下する傾向にある。
【0025】
第2の実施形態に係る車両用防汚素子20は、p型半導体として作用する第1薄膜24とは別に基材26を備えている。すなわち、第1の実施形態とは異なり、基材26がp型半導体としての機能を必要としないため、その用途に応じた構成材料を基材26に採用することができる。例えば、この車両用防汚素子20が車両用ミラーに備えられる場合、上述のとおりガラス等の、可視光や紫外光に対して透明である構成材料を用いることができる。また、この車両用防汚素子20が赤外レーザーによる測距システムに備えられる場合、赤外線に対して透明である材料を基材26の構成材料として用いることができる。
【0026】
図3は、本発明の好適な第3の実施形態に係る車両用防汚素子を示す模式断面図である。図3に示す車両用防汚素子30は、基材26と、その基材26の両表面上に形成されたp型半導体からなる第1薄膜24及び第3薄膜34と、それら第1薄膜24及び第3薄膜34の基材26側とは反対側の表面上にそれぞれ積層されたn型半導体からなる第2薄膜12及び第4薄膜32とを備えている。この車両用防汚素子30において、基材26、第1薄膜24及び第2薄膜12は、第2の実施形態に係るものと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0027】
第3薄膜34の構成材料はp型半導体であれば特に限定されず、例えば、第1薄膜24と同様のものが挙げられる。また、第3薄膜34の膜厚は第1薄膜24と同様であればよい。ただし、車両用防汚素子30における第1薄膜24と第3薄膜34とは、その構成材料及び膜厚が、それぞれ互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0028】
第4薄膜32はn型半導体を構成材料とし、光触媒機能を有するものである。第4薄膜32の構成材料及び膜厚は、第2薄膜12と同様のものを用いることができる。ただし、車両用防汚素子30における第2薄膜12と第4薄膜32とは、その構成材料及び膜厚が互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0029】
第3の実施形態に係る車両用防汚素子30は、基材26に光透過性の基板を用いると、視界を妨げることなく車両内、車両外に対して光触媒性を付与できるという利点を有する。光透過性の基板としては、可視光線又は紫外線を透過可能な基板が挙げられる。
【0030】
以上説明した第1の実施形態、並びに構成材料が可視光や紫外光に対して透明である基材26を用いた場合の第2及び第3の実施形態によれば、p型半導体としてNiOに代表される透明性の高いものを採用することで、自動車用ウィンドウ、ランプカバー等の透明な部材に車両用防汚素子を適用することができる。これらの実施形態においては、薄膜(第2薄膜)12及び第4薄膜32の膜厚を5nm以上60nm未満とすることにより、その耐クラック性を向上することができる。その結果、様々な厳しい環境下で使用される車両用防汚素子に備えられても十分な耐環境性を示し、優れた光触媒活性を長期間維持することが可能となる。
【0031】
図4は、本発明の好適な第4の実施形態に係る車両用防汚素子を示す模式断面図である。図4に示す車両用防汚素子40は、基材26と、その基材26の表面上に、基材26側から順に形成されたp型半導体からなる第1薄膜24、n型半導体からなる第2薄膜及び親水性の無機酸化物膜43と、基材26の第1薄膜24側とは反対側の表面上に設けられた反射膜45とを備えている。この車両用防汚素子40は、無機酸化物膜43表面を光の入射面とする鏡として機能する。車両用防汚素子40において、基材26、第1薄膜24及び第2薄膜12は、第2の実施形態に係るものと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0032】
無機酸化物膜43は、光触媒性を示す第2薄膜12の表面上に形成された膜であり、親水性材料を含むことにより、水滴に対して非常に優れたぬれ性(親水性)を示すものである。無機酸化物膜43は、確実に良好な親水性を得るために、少なくともその表面付近が多孔質であると好ましい。親水性材料は、優れたぬれ性を示すものであれば特に限定されず、多孔質の無機酸化物であってもよい。親水性材料としては、二酸化ケイ素(SiO)、並びに、三酸化二ホウ素(B)と二酸化ケイ素との混合物が挙げられ、二酸化ケイ素が好ましい。
【0033】
無機酸化物膜43は親水性を有する程度に親水性材料を含んでいればよいが、その親水機能を良好に発揮する観点から、親水性材料を主成分として含有することが好ましく、親水性材料からなることがより好ましい。
【0034】
無機酸化物膜43の膜厚は、第2薄膜12の光触媒作用を更に十分に発揮する観点等から、2〜30nmであることが好ましい。
【0035】
反射膜45は、基材26の表面上に形成された金属を含む反射膜である。反射膜45の構成材料は、無機酸化物膜43の膜厚と組み合わせた上で、鏡として機能する車両用防汚素子40の反射光が、所望の分光反射スペクトルを有するように適宜選択すればよく、単独種の金属であってもよく、合金であってもよく、炭素を少量含む鋼であってもよい。具体的には、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)、からなる群より選ばれる1種以上の金属、ステンレス鋼が挙げられる。
【0036】
これらの中では、耐薬品性及び耐食性を向上させる観点から、チタン、クロム、ニッケル、ニオブ、モリブデン、パラジウム及び白金からなる群より選ばれる1種以上の金属が好ましい。
【0037】
反射膜45は、それぞれ異なる材質である複数の金属膜を積層してなるものであってもよく、それぞれ異なる積層段階で形成された複数の金属膜を積層してなるものであってもよい。
【0038】
反射膜45の膜厚は、30〜80nmであると好ましく、50〜70nmであるとより好ましい。この膜厚が上記下限値を下回ると、車両用防汚素子40がハーフミラー化しやすくなる傾向にある。また、この膜厚が上記上限値を超えても反射率の変化はほとんどないため、材料コスト及び生産コストが過剰に高くなるだけである。
【0039】
第4の実施形態によると、車両用防汚素子40は、無機酸化物膜43の親水性により、その表面に付着する水滴を薄い膜状に広げるため、優れた防曇性を示すことができる。さらに、車両用防汚素子40の表面に、親水機能を低下させるような汚れが付着した場合でも、第2薄膜12の光触媒作用により、付着した汚れが分解される。これにより、無機酸化物膜43の親水機能の低減を十分に抑制でき、優れた防曇性を長期に亘って維持することが可能となる。すなわち、車両用防汚素子40はメンテナンスフリーの反射鏡として用いることができる。
【0040】
また、車両用防汚素子40は、第2薄膜12の膜厚が5nm以上60nm未満であることに起因して、その耐クラック性が十分に優れたものとなっている。そのため、高温、低温、高湿等の厳しい環境条件で使用される車両用防汚素子に備えられても十分な耐環境性を示す。この十分な耐環境性と、上述の防曇性及び防汚性に基づいて、車両用防汚素子40は、極めて優れた耐久性を示すことができる。
【0041】
車両用防汚素子40は、例えば、自動車に設けられる外部バックミラー及びサイドミラーの鏡部分として用いられると好ましい。これらは雨、汚れに晒されやすく、しかも高温、低温、高湿の厳しい環境下で使用される。そのため、車両用防汚素子40を備えた上記外部バックミラー又はサイドミラーは、車両用防汚素子40の優れた防曇性、防汚性及び耐環境性を一層有効に発揮することができる。
【0042】
次に、車両用防汚素子の製造方法について、第4の実施形態における車両用防汚素子40を例にとって説明する。この製造方法では、まず、洗浄された基材26が準備される。次に基材26の片方の表面上に反射膜45が、好適には公知の真空蒸着法あるいはスパッタリング法等の乾式成膜法により形成される。続いて、基材26の他方の表面上に第1薄膜24が、好適には公知の真空蒸着法あるいはスパッタリング法等の乾式成膜法により形成される。
【0043】
次いで、第1薄膜24の表面上に第2薄膜12が、公知のゾルゲル法に代表される湿式成膜法、又は、公知の真空蒸着法あるいはスパッタリング法等の乾式成膜法により形成される。そして、第2薄膜12の表面上に無機酸化物膜43が、好適には公知の真空蒸着法又はスパッタリング法等の乾式成膜法により形成されて、車両用防汚素子40が得られる。なお、それぞれの膜が2種以上の材質からなる場合、原料となるペレットやスパッタターゲットがそれら2種以上の材質からなるものであってもよい。あるいは、単独種の材質からなる複数種のペレットやスパッタターゲットを用いて、共蒸着によりそれらの膜を形成してもよい。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0045】
例えば、本発明の第1、第2及び第3の実施形態において、薄膜(第2薄膜)12及び/又は第4薄膜32の表面上に更に親水性の無機酸化物膜を備えてもよい。この無機酸化物膜は、第4の実施形態における無機酸化物膜43と同様の構成材料及び膜厚であればよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
まず、基材を兼ねた第1薄膜としてp型の単結晶シリコンウェハを準備した。このシリコンウェハはその主面における結晶面が(100)面であり、厚さが0.5mmであった。次いで、そのシリコンウェハの主面上に第2薄膜である二酸化チタンからなる薄膜を、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚が5nmとなるように形成した。形成条件は、ターゲット材料:金属チタン、ガス種類:Ar/O=1/1(圧力比)、ガス圧力:5Pa、投入DC電力:100W、基板温度:315℃であった。こうして第1薄膜及び第2薄膜を積層してなる防汚素子を得た。
【0048】
(実施例2)
第1薄膜として準備したp型の単結晶シリコンウェハを、主面における結晶面が(100)面であるものに代えて、主面における結晶面が(110)面であるものとした以外は実施例1と同様にして防汚素子を得た。
【0049】
(実施例3)
第1薄膜として準備したp型の単結晶シリコンウェハを、主面における結晶面が(100)面であるものに代えて、主面における結晶面が(111)面であるものとした以外は実施例1と同様にして防汚素子を得た。
【0050】
(実施例4)
まず、ソーダライムガラス基材の表面上に、第1薄膜として酸化ニッケルからなる薄膜を、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚が5nmとなるように形成した。形成条件は、ターゲット材料:金属ニッケル、ガス種類:O、ガス圧力:5Pa、投入DC電力:100W、基板温度:室温であった。次いで、第1薄膜の表面上に第2薄膜である二酸化チタンからなる薄膜を、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚が50nmとなるように形成した。形成条件は、ターゲット材料:金属チタン、ガス種類:Ar/O=1/1(圧力比)、ガス圧力:5Pa、投入DC電力:100W、基板温度:室温であった。こうしてガラス基材上に第1薄膜及び第2薄膜を順に積層してなる防汚素子を得た。
【0051】
(比較例1)
まず、基材を兼ねた薄膜としてn型の単結晶シリコンウェハを準備した。このシリコンウェハはその主面における結晶面が(100)面であり、厚さが0.5mmであった。次いで、そのシリコンウェハの主面上に第2薄膜である二酸化チタンからなる薄膜を、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚が5nmとなるように形成した。形成条件は、ターゲット材料:金属チタン、ガス種類:Ar/O=1/1(圧力比)、ガス圧力:5Pa、投入DC電力:100W、基板温度:315℃であった。こうしてn型の単結晶シリコンウェハ上に第2薄膜を積層してなる防汚素子を得た。
【0052】
(比較例2)
石英ガラス基材の表面上に、二酸化チタンからなる薄膜を、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚が50nmとなるように形成した。形成条件は、ターゲット材料:金属チタン、ガス種類:Ar/O=1/1(圧力比)、ガス圧力:5Pa、投入DC電力:100W、基板温度:室温であった。こうしてガラス基材上に二酸化チタンからなる薄膜を積層してなる防汚素子を得た。
【0053】
(比較例3)
まず、石英ガラス基材の表面上に、酸化ジルコニウム(ZrO)からなる薄膜を、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚が5nmとなるように形成した。形成条件は、ターゲット材料:金属ジルコニウム、ガス種類:O、ガス圧力:1Pa、投入DC電力:300W、基板温度:室温であった。次いで、ZrOからなる薄膜の表面上に二酸化チタンからなる薄膜を、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚が5nmとなるように形成した。形成条件は、ターゲット材料:金属チタン、ガス種類:O、ガス圧力:1Pa、投入DC電力:300W、基板温度:室温であった。こうしてガラス基材上に酸化ジルコニウムからなる薄膜及び二酸化チタンからなる薄膜を順に積層してなる防汚素子を得た。
【0054】
(比較例4)
酸化ジルコニウムからなる薄膜を形成せず、石英ガラス基材の表面上に直接二酸化チタンからなる薄膜を形成した以外は比較例3と同様にして、ガラス基材上に二酸化チタンからなる薄膜を積層してなる防汚素子を得た。
【0055】
(比較例5)
主面における結晶面が(100)面であるp型の単結晶シリコンウェハに代えて、ソーダライムガラス基材を用いた以外は実施例1と同様にして、ガラス基材上に二酸化チタンからなる薄膜を積層してなる防汚素子を得た。
【0056】
[光触媒活性(防汚性)の評価1]
得られた防汚素子の二酸化チタン側の表面全体にオイルを薄く塗布して汚染した。次に、紫外線(ブラックライト、照射強度:1.0±0.2W/cm)を、オイルを塗布した表面に照射した。照射開始後、随時水滴を紫外線照射した表面に滴下し、その接触角を測定した。水滴の接触角が10°以下になるのに要する時間を測定した。結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例1について、水滴の接触角の経時変化を図1に示す。図1において(a)は比較例1、(b)は実施例1に係るものである。紫外線を24時間照射しても水滴の接触角が10°以下にならない場合は、「>24」で示した。また、オイルで汚染せずに紫外線を照射しても水滴の接触角が10°以下にならない場合は「−−−」で示した。
【0057】
【表1】



【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】第1の実施形態に係る車両用防汚素子の模式断面図である。
【図2】第2の実施形態に係る車両用防汚素子の模式断面図である。
【図3】第3の実施形態に係る車両用防汚素子の模式断面図である。
【図4】第4の実施形態に係る車両用防汚素子の模式断面図である。
【図5】防汚素子に対して紫外線を連続的に照射した際の水滴接触角の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
10、20、30、40…車両用防汚素子、12…薄膜(第2薄膜)、14、24…第1薄膜、26…基材、32…第4薄膜、34…第3薄膜、43…無機酸化物膜、45…反射膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型半導体からなる層と、その表面上に積層されたn型半導体からなる薄膜と、を備え、
前記薄膜は光触媒機能を有し、かつその膜厚が5nm以上60nm未満である
車両用防汚素子。
【請求項2】
前記n型半導体が二酸化チタンである、請求項1記載の車両用防汚素子。
【請求項3】
前記p型半導体が光溶解性を示さないものである、請求項1又は2に記載の車両用防汚素子。
【請求項4】
前記薄膜の前記層側とは反対側の表面上に親水性の無機酸化物膜が更に積層されてなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用防汚素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−161777(P2008−161777A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352186(P2006−352186)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000148689)株式会社村上開明堂 (185)
【Fターム(参考)】