説明

車体パネル開口部の防水構造

【課題】高圧水が車体パネルの開口部に吹き付けられた場合に、開口部からの水の浸入を防止する。
【解決手段】車室を区画する車体パネルPに形成された開口部P1から車外の水が車室に浸入するのを防止する車体パネル開口部の防水構造において、車体パネルPにおける開口部P1の周縁部に車室側から押し付けられ、該開口部P1の周縁部をシールするシール部材18と、シール部材18の車外に臨む面18aにおける開口部P1周りを車外側から覆うように設けられる止水部22とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車室を区画するための車体パネルに形成された開口部から室内へ水が浸入するのを防止するための車体パネル開口部の防水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両のエンジンルームと車室とは、ダッシュパネルと呼ばれる車体パネルによって区画されている。ダッシュパネルには、例えば、空調装置に車外の空気を取り入れるための開口部、空調装置の熱交換媒体給排用パイプを通すための開口部等が形成されている。
【0003】
このような構造を開示する文献としては、例えば、特許文献1、2がある。特許文献1では、洗車時等にダッシュパネルの開口部から車室内に水が浸入した場合に、車室内に配設されているハーネスに水がかからないようにするための防水シートを設けることが開示されている。
【0004】
特許文献2では、空調装置の熱交換媒体給排用パイプを支持するブラケットに、弾性材からなるシール部材を設け、シール部材を車室側からダッシュパネルの開口部周縁に押し当て、これによって開口部をシールするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−100811号公報
【特許文献2】特開2006−168608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1のものでは、防水シートによってハーネスに水が付着するのを回避できるものの、ダッシュパネルの開口部は開口したままなので、水が車室に浸入してしまう虞れがある。水が車室に浸入すると、悪臭の発生源となるので好ましくない。
【0007】
一方、特許文献2では、シール部材をダッシュパネルに押し付けて開口部周りをシールしているので、車外から水が多少かかった程度であれば、車室への浸入は防止できる。ところが、洗車時には、高圧水を噴射する高圧洗車機が用いられることがある。高圧洗車機が用いられた場合には、ダッシュパネルの開口部に高圧水が吹き付けられることが想定され、特許文献2のようにシール部材をダッシュパネルに押し付けていても、高圧水が当たったシール部材は変形し、シール部材とダッシュパネルの開口部周縁との間に隙間ができ、この隙間から水が車室に浸入することが考えられる。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高圧水が車体パネルの開口部に吹き付けられた場合に、開口部からの水の浸入を防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための、本発明では、車体パネルの開口部周縁に高圧水が直接かからないようにした。
【0010】
第1の発明は、車室を区画する車体パネルに形成された開口部から車外の水が車室に浸入するのを防止する車体パネル開口部の防水構造において、上記車体パネルにおける開口部の周縁部に車室側から押し付けられ、該開口部の周縁部をシールするシール部材と、上記シール部材の車外に臨む面における上記開口部周りを車外側から覆うように設けられる止水部とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
この構成によれば、シール部材の車外側の面における開口部周りが、止水部によって車外側から覆われることになる。これにより、例えば高圧洗車機を用いて洗車する際に高圧水が開口部周りに向けて噴射された場合に、その高圧水が止水部に当たることになり、シール部材の車外側の面における開口部周りには直接当たらない。その結果、シール部材の変形が抑制されることになり、シール部材によるシール性が維持される。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、止水部は、車体パネルに一体成形され、開口部の周縁部から車外側に突出する段差状に形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
この構成によれば、止水部を設けるにあたって部品点数の増加が抑制される。
【0014】
第3の発明は、第1の発明において、止水部は、車体パネルの車外側に配設されるインシュレータに形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
この構成によれば、車体パネルに設けられるインシュレータの一部を利用して止水部を形成することが可能になるので、部品点数の増加が抑制される。
【0016】
第4の発明は、第3の発明において、開口部は、車室に配設される空調装置の熱交換媒体給排用パイプが挿通する挿通口であり、止水部は、上記熱交換媒体給排用パイプの接触によって外力を受けたときに変形するように形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
この構成によれば、熱交換媒体給排用パイプを車体に組み付ける際には、車体パネルの開口部を挿通させることになる。このとき、熱交換媒体給排用パイプが止水部に接触することが考えられるが、止水部は外力を受けたときに変形可能であるため、熱交換媒体給排用パイプ及び止水部の両方に無理な力がかかるのを抑制することが可能になる。
【0018】
第5の発明は、請求項3に記載の車体パネル開口部の防水構造において、
開口部は、車室に配設される空調装置の熱交換媒体給排用パイプが挿通する挿通口であり、止水部は、車外側へ向けて拡大するフレア形状とされていることを特徴とするものである。
【0019】
この構成によれば、熱交換媒体給排用パイプを車体に組み付ける際に、車体パネルの開口部を挿通させるとき、熱交換媒体給排用パイプが止水部に引っ掛かるようになるのが抑制される。
【0020】
第6の発明は、第4または5の発明において、止水部は、車体パネルの開口部の周方向の所定範囲に設けられ、上記止水部の中途部には、上記開口部の径方向に切れ込まれた切れ込み部が形成されていることを特徴とするものである。
【0021】
この構成によれば、開口部の周方向の所定範囲に亘って水の浸入防止効果が十分に得られる。そして、熱交換媒体給排用パイプを開口部に挿通させるとき、止水部の一部にパイプが接触した際に、切れ込み部が形成されていることで、その止水部の一部が変形し易くなり、熱交換媒体給排用パイプ及び止水部の両方に無理な力がかかるのを抑制することが可能になる。
【0022】
第7の発明は、第3から6のいずれか1つに記載の車体パネル開口部の防水構造において、開口部は車体パネルの上下方向に延びる部位に形成され、止水部には、上記開口部の下部に対応する部位に、該止水部とシール部材との間に溜まった水を排水するための排水孔が形成されていることと特徴とするものである。
【0023】
この構成によれば、水が止水部とシール部材との間に溜まった場合には排水孔から排水されることになり、溜まったままとなり難い。
【0024】
第8の発明は、第3から7のいずれか1つの発明において、止水部は、インシュレータの本体部分よりも薄肉に形成されていることを特徴とするものである。
【0025】
この構成によれば、熱交換媒体給排用パイプの組付の際に、車体パネルの開口部を挿通させるとき、止水部が薄肉となっているので、熱交換媒体給排用パイプが止水部に接触した場合に止水部が簡単に変形するようになる。
【0026】
第9の発明は、第3から8のいずれか1つの発明において、止水部とインシュレータの本体部分との境界部には、該止水部が車外側へ折れるようにするための折り目が設けられていることを特徴とするものである。
【0027】
この構成によれば、熱交換媒体給排用パイプの組付の際に、車体パネルの開口部を挿通させるとき、パイプが止水部に接触した場合に、止水部が折り目を起点として簡単に折れ曲がり変形する。
【0028】
第10の発明は、第3から9のいずれか1つの発明において、止水部とインシュレータの本体部分との境界部には、ミシン目が設けられていることを特徴とするものである。
【0029】
この構成によれば、熱交換媒体給排用パイプの組付時に、車体パネルの開口部を挿通させる際、パイプが止水部に接触したときに、止水部が境界部のミシン目を起点として簡単に変形する。
【0030】
第11の発明は、第3から10のいずれか1つの発明において、止水部は、インシュレータの本体部分と共に弾性材で構成されていることを特徴とするものである。
【0031】
この構成によれば、熱交換媒体給排用パイプの組付の際に、車体パネルの開口部を挿通させるとき、パイプが止水部に接触した場合に、止水部が弾性変形する。
【発明の効果】
【0032】
第1の発明によれば、車体パネルにおける開口部の周縁部にシール部材を車室側から押し付け、このシール部材の車外側の面における開口部周りを車外側から止水部で覆うようにしたので、高圧水がシール部材の開口部周りに直接当たらないようになる。これにより、シール部材の変形を抑制できるので、シール部材と車体パネルの開口部の周縁部との間に隙間ができず、水の浸入を防止できる。
【0033】
第2の発明によれば、止水部を車体パネルに一体成形したので、部品点数の増加を抑制して低コスト化を図ることができる。
【0034】
第3の発明によれば、インシュレータの一部を利用して止水部を形成することができるので、部品点数の増加を抑制して低コスト化を図ることができる。
【0035】
第4の発明によれば、熱交換媒体給排用パイプが止水部に接触したときに変形するので、熱交換媒体給排用パイプの組付時に熱交換媒体給排用パイプが止水部に接触しても、熱交換媒体給排用パイプ及び止水部の損傷を防止できる。
【0036】
第5の発明によれば、止水部をフレア形状としたことで、熱交換媒体給排用パイプの組付の際に、車体パネルの開口部を挿通させるとき、熱交換媒体給排用パイプが止水部に引っ掛かるようになるのを抑制でき、組付作業性を良好にできる。
【0037】
第6の発明によれば、止水部を開口部の周方向の所定領域に設け、止水部の中途部に切れ込み部を設けたので、開口部の広い範囲に亘って水の浸入防止効果を十分に得ながら、熱交換媒体給排用パイプ及び止水部の損傷を防止できる。
【0038】
第7の発明によれば、止水部に排水孔を設けたので、止水部とシール部材の間に溜まった水を排水でき、悪臭の発生源となるのを回避できる。
【0039】
第8の発明によれば、止水部をインシュレータの本体部分よりも薄肉にしたので、熱交換媒体給排用パイプの組付の際に、熱交換媒体給排用パイプが止水部に接触したときに止水部を簡単に変形させることができる。これにより、熱交換媒体給排用パイプ及び止水部の損傷を防止できる。
【0040】
第9の発明によれば、止水部とインシュレータの本体部分との境界部には折り目を設けたので、熱交換媒体給排用パイプの組付の際に、熱交換媒体給排用パイプが止水部に接触したときに止水部を折り曲げ変形させることができる。これにより、熱交換媒体給排用パイプ及び止水部の損傷を防止できる。
【0041】
第10の発明によれば、止水部とインシュレータの本体部分との境界部にはミシン目を設けたので、第9の発明と同様に、熱交換媒体給排用パイプ及び止水部の損傷を防止できる。
【0042】
第11の発明によれば、止水部は、インシュレータの本体部分と共に弾性材で構成したので、熱交換媒体給排用パイプの組付の際に、熱交換媒体給排用パイプが止水部に接触したときに止水部を弾性変形させることができ、熱交換媒体給排用パイプ及び止水部の損傷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態にかかる車体の一部を示す図である。
【図2】車体のダッシュパネル近傍の拡大図である。
【図3】ダッシュパネルの開口部近傍をエンジンルーム側から見た図である。
【図4】空調装置を組み付ける際に上方にずれている場合を説明する図2相当図である。
【図5】変形例1にかかり、車体のダッシュパネル下部近傍の拡大図である。
【図6】変形例2にかかる図2相当図である。
【図7】変形例3にかかる図2相当図である。
【図8】変形例4にかかる図3相当図である。
【図9】変形例5にかかる図3相当図である。
【図10】変形例6にかかる図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0045】
図1は、本発明の実施形態にかかる車体パネル開口部の防水構造が適用された車両の一部を示すものである。
【0046】
尚、この実施形態の説明では、説明の便宜を図るために、車両前側を単に「前」といい、車両後側を単に「後」といい、車両左側を単に「左」といい、車両右側を単に「右」というものとする。
【0047】
この車両は乗用自動車であり、前部にエンジンルームEが設けられ、エンジンルームEの後側に乗員を載せるための車室Rが設けられている。エンジンルームEと車室Rとは、ダッシュパネル(車体パネル)Pによって区画されている。また、図示しないが、車室の底部には、前後方向に延びるフロアパネルが設けられている。
【0048】
ダッシュパネルPは、フロアパネルの前端から上方へ延びるように形成されている。このダッシュパネルPは鋼板からなるものである。ダッシュパネルPの前面にはインシュレータ20が設けられている。
【0049】
ダッシュパネルPの上下方向中央部近傍には、後述する4本のパイプ12a,12a,13a,13a(図3に示す)が挿通されるダッシュパネル開口部(挿通口)P1が形成されている。図3に破線で示すように、ダッシュパネル開口部P1の上縁及び下縁は左右方向に延びている。ダッシュパネル開口部P1の左縁部及び右縁部は上下方向に延びている。ダッシュパネル開口部P1の上縁と左右両縁部との境界部分は、円弧を描くように湾曲している。また、ダッシュパネル開口部P1の下縁と左右両縁部との境界部分も、円弧を描くように湾曲している。
【0050】
図1に示すように、車室Rの前端部には空調装置10が配設されている。空調装置10は、いわゆるフルセンタタイプの空調装置であり、インストルメントパネルA(仮想線で外形を示す)の内部に収容されている。空調装置10は、車外の空気と車室の空気との一方を選択して取り入れて温度調節した後、車室の各部に供給するように構成された周知のものである。
【0051】
具体的には、空調装置10は、内外気切替箱11と、冷却用熱交換器12と、加熱用熱交換器13と、冷却用熱交換器12及び加熱用熱交換器13を収容する樹脂製のケース14とを備えている。内外気切替箱11には、車外に連通する外気導入口11aと、車室に連通する内気導入口11bとが形成されている。外気導入口11aと内気導入口11bとは、図示しないダンパによって開閉されるようになっている。外気導入口11aは、図示しないダクトによって車外に連通している。
【0052】
また、ケース14内には、冷却用熱交換器12を通過する空気量と、加熱用熱交換器13を通過する空気量とを変更するダンパ(図示せず)が設けられている。さらに、ケース14内には、デフロスタ口、ベント口及びフット口をそれぞれ開閉するダンパ(図示せず)も設けられている。
【0053】
冷却用熱交換器12は、冷凍サイクルの一要素である蒸発器を構成するものであり、冷媒(熱交換媒体)を蒸発させ、そのときの気化熱によって空気を冷却するようになっている。冷却用熱交換器12には、冷媒給排用パイプ12a,12aが接続されている。冷媒給排用パイプ12a,12aは、ケース14の側方を通ってケース14の前壁よりも前方へ突出するように形成されている。冷媒給排用パイプ12a,12aの突出方向は略水平である。冷媒給排用パイプ12a,12aには、エンジンルーム側から延びる別のパイプ(図示せず)がそれぞれ接続されるようになっている。
【0054】
また、加熱用熱交換器13は、エンジンを循環する高温の冷却水(熱交換媒体)によって空気を加熱するようになっている。加熱用熱交換器13には、熱媒体給排用パイプ13a,13aが接続されている。これら熱媒体給排用パイプ13a,13aも、ケース14の側方を通ってケース14の前壁よりも前方へ突出するように形成されている。熱媒体給排用パイプ13a,13aの突出方向も略水平である。熱媒体給排用パイプ13a,13aにも、エンジンルーム側から延びる別のパイプ(図示せず)がそれぞれ接続されるようになっている。
【0055】
ケース13の前壁部には、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aを支持するためのブラケット17が設けられている。このブラケット17は、ケース14の上下方向中央部近傍に配置され、ダッシュパネルPの車室側の面と略平行に延びる厚肉板状に形成されている。空調装置10を車体に搭載した状態で、ブラケット17の前面とダッシュパネル開口部P1とが対向するようになっており、かつ、ブラケット17はダッシュパネルPから後方へ離れて位置している。また、ブラケット17の前面は、ダッシュパネル開口部P1よりも大きく形成されている。
【0056】
図2に示すように、ブラケット17には、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aが貫通する貫通孔17a,17aが形成されている。冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aは、貫通孔17a,17aにそれぞれ挿通された状態で保持されている。図3に示すように、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aは、前端(先端)側から見て、それら4本のパイプ12a,12a,13a,13aの中心を結ぶと略正四角形となるように位置付けられている。また、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aと、ダッシュパネルPにおけるダッシュパネル開口部P1の周縁部との間には、所定の隙間が形成される。この隙間は、各部材の製造上の誤差を許容するためと、後述する空調装置10の組付の際に、パイプ12a,12a,13a,13aと、ダッシュパネル開口部P1の周縁部とが接触しないようにするためのものである。
【0057】
ブラケット17の前面には、シール部材18が設けられている。シール部材18は、例えば発泡樹脂材からなり、ブラケット17の前面に沿って延びる厚肉板状に形成されている。この発泡樹脂材は、弾性を有しており、ダッシュパネル開口部P1よりも大きく形成されている。また、シール部材18はブラケット17の前面によりダッシュパネル開口部P1の周縁部の全周に亘って押し付けられるようになっている。尚、シール部材18は、多層構造であってもよいし、単層構造であってもよい。
【0058】
次に、インシュレータ20の構造について説明する。インシュレータ20は、ダッシュパネルPの前面に貼り付けられており、遮音性及び断熱性を持つ部材からなるものである。インシュレータ20を構成する部材としては、例えばフェルト等が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0059】
インシュレータ20には、ダッシュパネル開口部P1に対応する部位に、インシュレータ開口部21が形成されている。図3に示すように、インシュレータ開口部21の大きさは、ダッシュパネル開口部P1よりも小さく設定されている。
【0060】
インシュレータ20におけるインシュレータ開口部21の周りの部位は、本発明の止水部22を構成している。止水部22は、シール部材18の車外に臨む面18aにおけるダッシュパネル開口部P1周りを車外側から覆うように設けられている。止水部22は、インシュレータ開口部21の全周に亘って環状をなしている。よって、シール部材18のダッシュパネル開口部P1周りは、止水部22により全周に亘って覆われることになる。また、止水部22は、柔軟性があり、後述する空調装置10の組付の際に、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aが接触したときに容易に変形する。
【0061】
止水部22におけるインシュレータ開口部21径方向の寸法は、ダッシュパネルPの肉厚寸法よりも長く設定されている。具体的には、ダッシュパネルPの肉厚寸法の2倍以上である。
【0062】
止水部22には、複数の切り込み部23が周方向に間隔をあけて形成されている。切り込み部23は、インシュレータ開口部21の内縁からインシュレータ開口部21の径方向(ダッシュパネル開口部P1の径方向に相当)外方に延びている。切り込み部23の長さは、正面視(図3に示す)でインシュレータ開口部21の内縁からダッシュパネル開口部P1の内縁までの寸法よりも長く設定されており、切り込み部23の終端は正面視でダッシュパネル開口部P1の内縁よりも外方に位置している。切り込み部23は、インシュレータ開口部21の4つの角部に対応する部位にも設けられている。
【0063】
切り込み部23の形成により、止水部22は周方向に複数の部分に分割されることになる。これにより、止水部22が周方向に連続した一体物である場合に比べて、各部分が車外方向及び室内方向へ変形し易くなっている。
【0064】
次に、空調装置10を車両に搭載する要領について説明する。尚、インシュレータ20は、空調装置10を車両に搭載する前にダッシュパネルPに貼り付けられている。よって、ダッシュパネル開口部P1の周縁部はインシュレータ20の止水部22により覆われている。また、シール部材18は空調装置10のブラケット17に貼り付けられている。さらに、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aはケース14に組み付けられている。
【0065】
まず、空調装置10を室内まで搬送する。そして、空調装置10を前方へ移動させていき、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aをダッシュパネル開口部P1に後側から挿通する。このとき、搬送装置の動きの誤差等により、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aが正規の位置から上下方向ないし左右方向にずれた状態で前方へ移動することが想定される。図4では、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aが上方へずれている場合を示している。この場合、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aの前端がインシュレータ20の止水部22に接触してしまう。すると、止水部22が前方へ押されて変形する。この止水部22の変形により、止水部22と、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aとには無理な力がかからず、破損することはない。
【0066】
図1に示すように、空調装置10が所定位置に搭載されると、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aがダッシュパネル開口部P1からエンジンルームE側に突出する。また、シール部材18がダッシュパネルPに押し付けられる。
【0067】
次に、高圧洗車機を使用して洗車が行われた場合について説明する。高圧洗車機からエンジンルームEへ噴射された高圧水がダッシュパネル開口部P1周りに達することがある。その高圧水は、止水部22に当たることになり、シール部材18の車外側の面18aにおけるダッシュパネル開口部P1周りには直接当たらない。その結果、シール部材18の変形が抑制されることになり、シール部材18によるシール性が維持される。
【0068】
以上説明したように、この実施形態によれば、シール部材18の車外側の面18aにおけるダッシュパネル開口部P1周りを車外側から止水部22で覆うようにしたので、ダッシュパネル開口部P1周りに向けて噴射された高圧水は、止水部22によってシール部材18のダッシュパネル開口部P1周りに直接当たらないようにすることができる。これにより、シール部材18の変形を抑制できるので、シール部材18とダッシュパネル開口部P1の周縁部との間に隙間ができず、水の浸入を防止できる。
【0069】
また、インシュレータ20の一部を利用して止水部22を設けるようにしたので、部品点数の増加を抑制して低コスト化を図ることができる。
【0070】
また、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aが止水部22に接触したときに止水部22が変形するので、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aの組付の際にパイプ12a,12a,13a,13aが止水部22に接触しても、パイプ12a,12a,13a,13a及び止水部22の損傷を防止できる。
【0071】
また、止水部22をダッシュパネル開口部P1の周方向の全周に亘って設け、止水部22の中途部に切れ込み部23を設けたので、ダッシュパネル開口部P1の広い範囲に亘って水の浸入防止効果を十分に得ながら、止水部22を変形させて、冷媒給排用パイプ12a,12a、熱媒体給排用パイプ13a,13a及び止水部22の損傷を防止できる。
【0072】
尚、図5に示す変形例1のように、止水部22の下部には、止水部22とシール部材18との間に溜まった水を排水するための排水孔24を形成してもよい。排水孔24は、止水部22を厚み方向に貫通している。これにより、止水部22とシール部材18との間に水が溜まったままになるのを防止できる。排水孔24は、複数設けてもよい。また、排水孔24の代わりに切り欠き部を設け、切り欠き部から水を排水するようにしてもよい。
【0073】
また、図6に示す変形例2のように、止水部22の肉厚をインシュレータ20の本体部分の肉厚よりも薄くしてもよい。これにより、止水部22が室内側及び車外側へ向けて変形し易くなる。よって、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aが組付の際に止水部22に接触したときに止水部22を簡単に変形させることができ、冷媒給排用パイプ12a,12a、熱媒体給排用パイプ13a,13a及び止水部22の損傷を防止できる。
【0074】
また、図7に示す変形例3のように、止水部22を車外側へ向けて拡大するフレア形状としてもよい。これにより、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aが組付の際に止水部22に接触したとき、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aが止水部22に引っ掛かり難くなる。
【0075】
また、図8に示す変形例4のように、止水部22とインシュレータ20の本体部分との境界部には、ミシン目26を設けてもよい。これにより、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aの組付の際に、パイプ12a,12a,13a,13aが止水部22に接触したとき、止水部22がミシン目26を起点として簡単に変形するようになるので、冷媒給排用パイプ12a,12a、熱媒体給排用パイプ13a,13a及び止水部22の損傷を防止できる。
【0076】
また、図9に示す変形例5のように、止水部22とインシュレータ20の本体部分との境界部には、折り目29を設けてもよい。折り目29は、インシュレータ20の表面に形成した溝で構成することができる。これにより、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aの組付の際に、パイプ12a,12a,13a,13aが止水部22に接触したとき、止水部22が折り目29を起点として簡単に変形するようになるので、冷媒給排用パイプ12a,12a、熱媒体給排用パイプ13a,13a及び止水部22の損傷を防止できる。
【0077】
また、図10に示す変形例6のように、ダッシュパネルPに止水部P2を一体成形してもよい。止水部P2は、ダッシュパネル開口部P1の周縁部から車外側に突出する段差状に形成されている。この変形例6では、止水部P2を設けるにあたって部品点数の増加が抑制される。
【0078】
また、止水部22、P2は、ダッシュパネル開口部P1の全周に亘って設けることなく、周方向の一部にのみ設けてもよく、また、周方向に断続して設けてもよい。
【0079】
また、インシュレータ20は、例えば、発泡ゴム等の弾性材で構成してもよく、この場合にインシュレータ20に止水部22を一体成形することで、止水部22が弾性変形可能となる。よって、冷媒給排用パイプ12a,12a及び熱媒体給排用パイプ13a,13aの組付の際に、パイプ12a,12a,13a,13aが止水部22に接触したとき、冷媒給排用パイプ12a,12a、熱媒体給排用パイプ13a,13a及び止水部22の損傷を防止できる。
【0080】
また、上記実施形態では止水部22の幅を全周に亘って略同じにしているが、これに限らず、一部のみを広くしてもよいし、狭くしてもよい。この場合、エンジンルームEの構造上、水のかかり易い部分の幅を広くするのが好ましい。
【0081】
また、止水部22は、インシュレータ20とは別部材で構成し、インシュレータ20やダッシュパネルPに取り付けるようにしてもよい。
【0082】
また、本発明は、ダッシュパネルP以外にも、車室を区画する車体パネルに形成された開口部から車外の水が車室に浸入するのを防止する場合に適用することができる。
【0083】
また、ダッシュパネル開口部P1の大きさ及び形状は任意に設定することが可能であり、同様にインシュレータ開口部21の大きさ及び形状も任意に設定できる。
【0084】
また、車体パネルに空調装置10への外気取り入れ用の開口部が形成されている場合には、その開口部からの水の浸入を防止する場合に本発明を適用することが可能である。
【0085】
また、車体パネルに空調装置10の結露水を排出するための開口部が形成されている場合には、その開口部からの水の浸入を防止する場合に本発明を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明にかかる車体パネル開口部の防水構造は、例えば、車両用空調装置のパイプを挿通させるための開口部が形成されたダッシュパネルに適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
10 空調装置
12 冷却用熱交換器
12a 冷媒給排用パイプ(熱交換媒体給排用パイプ)
13 加熱用熱交換器
13a 熱媒体給排用パイプ(熱交換媒体給排用パイプ)
20 インシュレータ
21 インシュレータ開口部
22 止水部
24 排水孔
26 ミシン目
29 折り目
E エンジンルーム(車外)
P ダッシュパネル(車体パネル)
P1 ダッシュパネル開口部
P2 止水部
R 車室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室を区画する車体パネルに形成された開口部から車外の水が車室に浸入するのを防止する車体パネル開口部の防水構造において、
上記車体パネルにおける開口部の周縁部に車室側から押し付けられ、該開口部の周縁部をシールするシール部材と、
上記シール部材の車外に臨む面における上記開口部周りを車外側から覆うように設けられる止水部とを備えていることを特徴とする車体パネル開口部の防水構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車体パネル開口部の防水構造において、
止水部は、車体パネルに一体成形され、開口部の周縁部から車外側に突出する段差状に形成されていることを特徴とする車体パネル開口部の防水構造。
【請求項3】
請求項1に記載の車体パネル開口部の防水構造において、
止水部は、車体パネルの車外側に配設されるインシュレータに形成されていることを特徴とする車体パネル開口部の防水構造。
【請求項4】
請求項3に記載の車体パネル開口部の防水構造において、
開口部は、車室に配設される空調装置の熱交換媒体給排用パイプが挿通する挿通口であり、
止水部は、上記熱交換媒体給排用パイプの接触によって外力を受けたときに変形するように形成されていることを特徴とする車体パネル開口部の防水構造。
【請求項5】
請求項3に記載の車体パネル開口部の防水構造において、
開口部は、車室に配設される空調装置の熱交換媒体給排用パイプが挿通する挿通口であり、
止水部は、車外側へ向けて拡大するフレア形状とされていることを特徴とする車体パネル開口部の防水構造。
【請求項6】
請求項4または5に記載の車体パネル開口部の防水構造において、
止水部は、車体パネルの開口部の周方向の所定範囲に設けられ、
上記止水部の中途部には、上記開口部の径方向に切れ込まれた切れ込み部が形成されていることを特徴とする車体パネル開口部の防水構造。
【請求項7】
請求項3から6のいずれか1つに記載の車体パネル開口部の防水構造において、
開口部は車体パネルの上下方向に延びる部位に形成され、
止水部には、上記開口部の下部に対応する部位に、該止水部とシール部材との間に溜まった水を排水するための排水孔が形成されていることを特徴とする車体パネル開口部の防水構造。
【請求項8】
請求項3から7のいずれか1つに記載の車体パネル開口部の防水構造において、
止水部は、インシュレータの本体部分よりも薄肉に形成されていることを特徴とする車体パネル開口部の防水構造。
【請求項9】
請求項4から8のいずれか1つに記載の車体パネル開口部の防水構造において、
止水部とインシュレータの本体部分との境界部には、該止水部が車外側へ折れるようにするための折り目が設けられていることを特徴とする車体パネル開口部の防水構造。
【請求項10】
請求項4から9のいずれか1つに記載の車体パネル開口部の防水構造において、
止水部とインシュレータの本体部分との境界部には、ミシン目が設けられていることを特徴とする車体パネル開口部の防水構造。
【請求項11】
請求項3から10のいずれか1つに記載の車体パネル開口部の防水構造において、
止水部は、インシュレータの本体部分と共に弾性材で構成されていることを特徴とする車体パネル開口部の防水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−218864(P2011−218864A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87062(P2010−87062)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000152826)株式会社日本クライメイトシステムズ (154)
【Fターム(参考)】