車体前部のエンジン吸気通路構造
【課題】車体前部に設けられた熱交換器の上方にエンジンの吸気通路の入口部が配置されていると共に、車体前部の外表面をなすバンパフェイシャの前記熱交換器に対向する部位に空気導入開口部が設けられている場合に、冠水走行時に、エンジンの吸気通路入口部に水が侵入する虞を低減可能な車体前部のエンジン吸気通路構造を提供する。
【解決手段】空気導入開口部4aの上部側に臨む入口部10aと、吸気通路入口部Eniに接続された出口部10bとを有するダクト10を設ける。
【解決手段】空気導入開口部4aの上部側に臨む入口部10aと、吸気通路入口部Eniに接続された出口部10bとを有するダクト10を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンパフェイシャの空気導入開口部から導入した空気を、熱交換器の上方に配置されたエンジンの吸気通路の入口部に導く車体前部のエンジン吸気通路構造に関し、自動車の車体構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の車体前部には、エンジンの冷却水を冷却する熱交換器(ラジエータ)が配設されていると共に、車体前部の外表面をなすバンパフェイシャにおける前記熱交換器に対向する部位には、前記熱交換器冷却用の空気を導入する空気導入開口部が設けられている。
【0003】
その場合に、前記熱交換器の上方に、エンジンの吸気通路の入口部を配置し、前記空気導入開口部から導入された空気の一部をバンパフェイシャ後方の空間を介して前記吸気通路の入口部に導入可能に構成する場合があるが、このような構成の場合、雨天時には、空気導入開口部から空気と共に侵入してきた雨水がエンジンの吸気通路入口部に侵入し、エンジンに不具合を生じさせる虞がある。
【0004】
この問題に対処可能なものとして、特許文献1に記載のものがある。すなわち、特許文献1に記載のものにおいては、空気導入開口部と吸気通路入口部との間の空間に、複数のスリットを有する雨水遮蔽部材(文献1におけるエアガイト部材)を設け、該遮蔽部材により雨水の侵入を抑制するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−343244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、道路が冠水している状態での自動車の走行中においては、エンジンの吸気通路の入口部が熱交換器の上方に設けられている場合でも、以下のような問題が生じ得る。すなわち、冠水状態で自動車を走行させると、図15に示すように、バンパフェイシャの空気導入開口部から車体内部に水が侵入してくることとなるが、このとき、空気導入開口部の後方に配置された熱交換器が、侵入してきた水に対して抵抗(壁)となって、熱交換器前方の水がバンパフェイシャと熱交換器との間の空間等においてエンジンの吸気通路入口部の高さまで盛り上がり、その結果、この盛り上がった水が該吸気通路入口部に侵入し、エンジンに不具合を生じさせる虞があるのである。
【0007】
そこで、本発明は、冠水走行時に、エンジンの吸気通路入口部に水が侵入する虞を低減可能な車体前部のエンジン吸気通路構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0009】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、車体前部に設けられた熱交換器の上方にエンジンの吸気通路の入口部が配置されていると共に、車体前部の外表面をなすバンパフェイシャの前記熱交換器に対向する部位に空気導入開口部が設けられた車体前部のエンジン吸気通路構造であって、前記空気導入開口部の上部側に臨む入口部と、前記吸気通路入口部に接続された出口部とを有するダクトが設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、前記空気導入開口部は、車両正面視で前記熱交換器よりも車幅方向外方まで広がっており、前記ダクトの入口部は、前記空気導入開口部における前記熱交換器よりも車幅方向外方の部分に臨んで設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、前記ダクトの入口部は、前記空気導入開口部内で車幅方向に離間して複数設けられていると共に、該ダクトの各入口部よりも高く、かつ吸気通路入口部よりも低い位置において車幅方向に延び、ダクトの各入口部の下流側を接続する接続部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、前記ダクトの接続部に水抜き部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、前記ダクトは、前記バンパフェイシャと、該バンパフェイシャの裏面に対向するように設けられた部材とを含んで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
次に、本発明の効果について説明する。
【0015】
まず、請求項1に記載の発明によれば、バンパフェイシャの空気導入開口部から導入された空気の一部は、バンパフェイシャの空気導入開口部の上部側に臨む入口部と、前記吸気通路の入口部に接続された出口部とを有するダクトを介してエンジンの吸気通路の入口部に導かれることとなる。
【0016】
したがって、冠水走行時において、冠水面の高さが前記ダクトの入口部よりも低い限り、空気導入開口部から車体前部に侵入した水が、ダクトの入口部の後方かつ熱交換器の前方で吸気通路入口部の高さまで盛り上がったとしても、ダクトの内部に侵入するのが防止されることとなる。すなわち、冠水走行時に、エンジンの吸気通路入口部から水が侵入してエンジンに不具合が生じる虞が低減されることとなる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記空気導入開口部は、車両正面視で前記熱交換器よりも車幅方向外方まで広がっており、前記ダクトの入口部は、前記空気導入開口部における前記熱交換器よりも車幅方向外方の部分に臨んで設けられているから、熱交換器の前方にはダクトの入口部が存在しないこととなる。したがって、空気導入開口部に臨んでダクトの入口部を設けたとしても、熱交換器への空気の導入を阻害することがない。
【0018】
ところで、冠水面の高さは変動するので、該冠水面の高さが前記ダクトの入口部よりも一時的に高くなった場合を想定しておくことが好ましい。また、ダクト内に水が入ると、エンジンへの空気供給量が減少するので、これに対する考慮も必要である。
【0019】
そこで、請求項3に記載の発明においては、前記ダクトの入口部を、前記空気導入開口部内で車幅方向に離間して複数設けると共に、該ダクトの各入口部よりも高く、かつ吸気通路入口部よりも低い位置において車幅方向に延び、ダクトの各入口部の下流側を接続する接続部を設けたものであり、これによれば、ダクトの入口部と吸気通路入口部との間に、その中間高さ位置において、車幅方向に延びる接続部による拡大空間が確保されることとなる。したがって、ダクトの入口部から水が侵入した場合でも、ダクト内が水で充満しにくくなり、その結果、ダクト内に侵入した水がエンジンの吸気通路入口部に達しにくくなると共に、吸気通路入口部への空気の流通が確保されることとなる。また、ダクトの入口部が複数設けられているので、ダクトの入口部の一部から水が入ったような場合でも、エンジンの運転に必要な空気量を確保しやすくなる。
【0020】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記接続部に、水抜き部が形成されているから、入口部からダクト内に水が侵入した場合でも、接続部の水抜き部を介して排水されることとなる。したがって、ダクト内に侵入した水がエンジンの吸気通路入口部に一層達しにくくなる。
【0021】
また、請求項5に記載の発明によれば、前記ダクトは、バンパフェイシャを含んで構成されているから、自動車においては一般に設けられる部材を利用してダクトを形成することができる。また、前記ダクトは、バンパフェイシャの裏面に対向するように設けられた部材を含んでいるので、バンパフェイシャの剛性を向上させつつ、ダクトを構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る自動車の前部構造について説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態に係る自動車1の前端部には、バンパ2が設けられている。バンパ2の後方には、エンジンが配置されるエンジンルームが設けられていると共に、該エンジンルームの前部にはエンジンの冷却水を冷却するラジエータRaが設けられている。ラジエータRaは、正面視略矩形状のシュラウド部材3を介して車体に固定されている。また、このラジエータRaの上方後方には、エンジンの吸気通路の入口部Eniが設けられている。
【0024】
バンパ2は、車体前端部の意匠面を構成するバンパフェイシャ4と、該バンパフェイシャ4の裏面に対向して設けられると共に前記シュラウド部材3のアッパ部3aに取り付けられ、バンパフェイシャ4を裏面側から支持するバンパフェイシャ支持部材5とを有している。
【0025】
バンパフェイシャ4には、前記ラジエータRaに対向する部位に、空気を導入する空気導入開口部4aが設けられている。空気導入開口部4aは、車両正面視でラジエータRaよりも車幅方向外方に広がっている。
【0026】
空気導入開口部4aには、該開口部4aを装飾する(該開口部4aを車幅方向に横断するバンパレインフォースメントRを隠蔽する)グリル部材6が設けられている。また、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aには、該空気導入開口部4aとほぼ同形状で、前記グリル部材6をフェイシャ支持部材5に取り付けるための枠状のグリル支持部材7が設けられている。なお、このように空気導入開口部4aを横切るグリル部材6が設けられていることにより、空気導入開口部4aは、上部側の部分(バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上縁部とグリル部材6の上縁部との間の部分)と下部側の部分(バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの下縁部とグリル部材6の下縁部との間の部分)との2つに分割されることとなる。以下、必要に応じ、これを空気導入開口部4aの上部側部分、下部側部分という。
【0027】
バンパフェイシャ支持部材5は、シュラウド部材3のアッパ部3aとほぼ同じ幅及び高さを有し、該アッパ部3a等に取り付けられる。
【0028】
シュラウド部材3は、樹脂製で、左右のサイドフレーム(図示せず)等の車体構成部材に固定されており、アッパ部3aの左右端側には前後に貫通する貫通部3b,3bが設けられている。これらの開口部3b,3bのうち、車両正面から見て左側の開口部3bは、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上部側部分から導入された空気をエンジンルームにおけるシュラウド部材3の後方部分に導入するために設けられ、右側の開口部3bは、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上部側部分から導入された空気をエンジンの吸気通路の入口部Eniに導くために設けられている。そして、右側の開口部3bには、後方に延びる筒状の接続フランジ部3eが設けられ、該フランジ部3eに吸気通路Enの入口部Eniが接続されている(図5参照)。
【0029】
ここで、本実施の形態においては、前記空気導入開口部4aの上部側部分から導入された空気を、エンジンルームにおけるシュラウド部材3の後方部分、及びエンジンの吸気通路の入口部Eniに導くダクト10が、前記バンパフェイシャ4と、前記バンパフェイシャ支持部材5と、前記シュラウド部材3とで構成されている。
【0030】
以下、このダクト10を構成する前記各部材の構造について詳しく説明すると、まず、バンパフェイシャ支持部材5は、図2に示すように、車幅方向中央においてバンパフェイシャ4の車幅方向中央部内面にほぼ沿うように後上りに形成されたフェイシャ中央部支持面部5aと、該フェイシャ中央部支持面部5aの上部後端側から左右に延び、バンパフェイシャ4の上縁部を支持するフェイシャ上縁部支持部5bと、フェイシャ中央部支持面部5aの下方に設けられ、前記グリル支持部材7の上辺部7aが固定されるグリル固定部5cと、前記フェイシャ上縁部支持部5bの車幅方向外端部から後方に延び、前記シュラウド部材3のアッパ部3aの上面に固定される支持部材固定部5d,5dと、前記フェイシャ中央部支持面部5aの左右にそれぞれ設けられ、前記ダクト10の下側部分を構成する下側ダクト部5e,5eとを有している。なお、ダクト10の上側部分は、バンパフェイシャ4における該下側ダクト部5eの上方に位置する面部により構成される。
【0031】
下側ダクト部5eは、図3にもあわせて示すように、フェイシャ中央部支持部5aの左右端に設けられた内側側面部50aと、該内側側面部50aの下端から車幅方向に広がる底面部50bと、該底面部50bの車幅方向外端とフェイシャ上縁部支持部5bとの間に設けられた外側側面部50cと、後面部50dと、該後面部50dに前記シュラウド部材3の開口部3bの前方位置において形成された複数の出口開口部50e…50eとを有して前方側及び上方側が開放された概ね箱状の本体部50fを有している。
【0032】
本体部50fは、図3からわかるように、空気導入開口部4aよりも上方に位置していると共に、該本体部50fの車幅方向外端側下方には、該本体部50fに空気を導くための前方に突出する樋状のガイド部50gが設けられている。
【0033】
図4に示すように、ガイド部50gは、グリル部材6の上縁部に沿ってほぼ水平に形成された導風面部6aに概ね連続するように設けられた底面部51aと、底面部51aの後端から本体部50fの底面部50bの前端近傍まで上方に立ち上がる後面部51cとを有している。また、図3からわかるように、該底面部51aの左右には、上方に立ち上がり、ガイド部50gの側方から水が侵入するのを防止する側面部51b,51bが設けられている。
【0034】
このガイド部50gの下部は、空気導入開口部4aの上部側部分における前記ラジエータRaよりも車幅方向外方部分に臨むように、前記底面部50bよりも低い位置に設けられている。ここで、このガイド部50gの下部は、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上縁部4a′とでダクト10の入口部10aを構成する。なお、図1、図2等からわかるように、バンパフェイシャ4及びバンパフェイシャ支持部材5は左右対称に構成されており、したがって、入口部10aは、空気導入開口部4aの上部側部分における前記ラジエータRaの左右にそれぞれ臨むように存在している。
【0035】
また、下側ダクト部5eには、図3、図4に示すように、ガイド部50gの後面部51cの上端から前方にほぼ水平に突出する庇部50hが設けられている。この庇部50hは、ダクト10の入口部10aからガイド部50gを経由して侵入してきた雨滴等の水分を下面に付着させて落下させることにより、該水分が該庇部50hよりも下流側(エンジンの吸気通路の入口部Eni側。図3,図4において上方)に侵入するのを防止するため、また冠水時にダクト10の入口部10aから侵入した水が庇部50hよりも下流側(同上)に侵入するのを防止するために設けられている。なお、この庇部50hは、図3〜図6からわかるように、車幅方向中央側にも延長されて下側ダクト部5eのほぼ全幅に渡って形成されている。
【0036】
また、下側ダクト部5eには、図3、図5、図6からわかるように、ガイド部50gよりも車幅方向中央側において、庇部50hの後端部からやや前方斜め下方に向かって突出する案内部50iが設けられている。この案内部50iは、車幅方向中央側が低くされ、庇部50hから落下した水分や、冠水時にダクト10の入口部10aから侵入した水を、車幅方向中央側に設けられた後述する案内部連結部52の水抜き部10cに導くように構成されている。
【0037】
ここで、図1、図2からわかるように、前述のグリル支持部材7の上辺部7aは、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上縁部の裏面側に沿うように車幅方向に延びていると共に、図4に示すように、下側ダクト部5eのガイド部50gの上方においては、ほぼ水平な横面部70aを有している。そして、この横面部70aの後端は、前後方向で前記庇部50hの前端位置にほぼ位置しており、ダクト10の入口部10aから導入された空気を前記庇部50hの下方を確実に経由させることにより、空気に含まれる雨滴等の水分を庇部50hにより確実に遮断可能になっている。
【0038】
また、図5、図6からわかるように、グリル支持部材7の上辺部7aにおける下側ダクト部5eのガイド部50gよりも車幅方向内方側の部分には、フェイシャ4の内面位置から斜め後方下方に突出し、先端部(後端部)が前記案内部50iの前端部に近接するように形成された突出壁部70bが設けられている。これにより、バンパフェイシャ4内面と前記案内部50iの前端部との隙間がほぼふさがれることとなり、空気導入開口部4aにおけるガイド部50gよりも車幅方向内方部分から侵入した空気に含まれる水や、車体下部側から上方に巻き上げられた水が、ダクト10内の空間に侵入しないように構成されている。
【0039】
また、図3、図7からわかるように、バンパフェイシャ支持部材5のフェイシャ中央部支持面部5aの下方には、前記左右の下側ダクト部5e,5eの庇部50h及び案内部50iに連続するように前方側が開放する断面略コ字状に形成された案内部連結部52が設けられている。ここで、この案内部連結部52、及び前記左右の案内部50iは、ダクト10の各入口部10a,10aよりも高く、かつ吸気通路入口部Eniよりも低い位置において車幅方向に延びており、特許請求の範囲の接続部に対応する(以下、適宜、接続部10cという)。
【0040】
案内部連結部52の中央部分52′は、図3からわかるように、底面部52aがその左右よりも低くされていると共に、図8、図10、図11からわかるように、前記中央部分52′の底面部52aの前端52a′と、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上縁部4a′(グリル支持部材7の下端部)との間には、前後方向に所定量の隙10d(特許請求の範囲における水抜き部に対応する。以下、この隙10dのことを水抜き部10dという)が設けられ、案内部連結部52の中央部分52′にその左右から流れてきた水を該水抜き部10dを介してダクト10の外部に排出可能に構成されている。その場合に、この隙10dは、中央部分52′の車幅方向ほぼ全体にわたって設けられているので、容易に比較的大きな水抜き部10dを形成しやすくなる。なお、中央部分52′の底面部52aがその左右よりも低くされているのは、左右から流入してきた水の量が多く、水抜き部10dからすぐに排出できないような場合に、この水を一時貯留可能とするためである。
【0041】
ここで、バンパフェイシャ支持部材5は、図9に示すように、下側ダクト部5eの前部、詳しくは前記下側ダクト部5eのガイド部50g、庇部50h、及び案内部50i、及び外側側面部50cの前部50c′を構成する下側ダクト前部構成部材11,11と、これら以外の部分を構成する本体部材13とで構成されている。なお、図9には、グリル支持部材7も示している。
【0042】
その場合に、これらの部材11,11,13は、いずれも樹脂で形成されているが、これらのうち下側ダクト前部構成部材11,11は、本体部材13よりも剛性が低い低剛性材を用いて形成されている。これは、当該自動車の前突等時における衝撃吸収能力の向上、及びシュラウド部材3の破損防止等を目的としている。特に、下側ダクト部5eのガイド部50gは、底面部51a及び側面部51b,51bを有して、前方に突出する形状とされているので、剛性が高くなりやすいが、このような場合に、効果的に剛性を低下させることができる。ここで、低剛性材としては、例えばエラストマが利用可能である。また、本体部材13としては、例えばPP等が利用される。
【0043】
また、本体部材13においても、フェイシャ支持面部5aの下部左右部分には、フェイシャ支持部材5の車幅方向中央部分の剛性を小さくするための開口部13d…13dが形成されている。
【0044】
次に、これらの部材11,13と、バンパフェイシャ4と、グリル支持部材7との間の固定及び支持等について説明する。
【0045】
まず、図9により本体部材13と下側ダクト前部構成部材11との固定について説明すると、本体部材13には、下側ダクト部5eの底面部50b部分の前方において平面視で略矩形状の枠体部13aが設けられており、該枠体部13aに下側ダクト前部構成部材11における案内部50i部分が上方から載置されるようになっている。そして、本体部材13における下側ダクト部5eの底面部50b部分に設けられたボス部13b,13bと、下側ダクト前部構成部材11の庇部50h部分の後端に設けられた取付片部11a,11aとが前後に重ねられて、ネジ(図示せず)により固定される(図2、図3参照)。また、本体部材13の枠体部13aの前辺部に設けられた取付部13c,13cと、下側ダクト前部構成部材11の案内部50i部分の前端に設けられた取付片部11b,11bとが、ネジにより固定される。
【0046】
また、図10に示すように、本体部材13のフェイシャ支持面部5aの略中央に形成されたエンブレム部13dの裏面に設けられた取付部13e,13gと、バンパフェイシャ4の裏面に設けられたボス部4e,4fとが、ネジにより締結される。
【0047】
また、図11に示すように、本体部材13のフェイシャ支持面部5aには、バンパフェイシャ4の中央部分とが当接する当接部13fが設けられている。
【0048】
また、図6に示すように、前述のグリル支持部材7の突出壁部70bの後端部に形成されたボス部70dと、本体部材13の枠体部13aの前辺部に設けられた取付部13e(図9参照)とがネジにより固定される。
【0049】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
【0050】
まず、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aから導入された空気の吸気通路Enの入口部Eniへの流通について説明すると、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aから導入された空気の一部は、図3〜図5に白抜き矢印で示すように、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上部側部分に臨む入口部10aと、前記吸気通路Enの入口部Eniに接続された出口部10bとを有するダクト10を介して、エンジンの吸気通路Enの入口部Eniに導かれることとなる。
【0051】
したがって、冠水走行時において、冠水面の高さがダクト10の入口部10aよりも低い限り、空気導入開口部4aから車体前部に侵入した水がダクト10の入口部10aの後方かつ熱交換器Raの前方でエンジンの吸気通路Enの入口部Eniの高さまで盛り上がったとしても、ダクト10の内部に侵入するのが抑制されることとなる。すなわち、冠水走行時に、エンジンの吸気通路Enの入口部Eniから水が侵入してエンジンに不具合が生じる虞が低減されることとなる。
【0052】
また、前記空気導入開口部4aは、車両正面視で前記熱交換器Raよりも車幅方向外方まで広がっており、前記ダクト10の入口部10aは、前記空気導入開口部4aにおける前記熱交換器Raよりも車幅方向外方の部分に臨んで設けられているから、熱交換器Raの前方にはダクト10の入口部10aが存在しないこととなる。したがって、空気導入開口部4aに臨んでダクト10の入口部10aを設けたとしても、熱交換器Raへの空気の導入を阻害することがない。
【0053】
ところで、冠水面の高さは変動するので、該冠水面の高さが前記ダクト10の入口部10aよりも一時的に高くなった場合を想定しておくことが好ましい。また、ダクト10内に水が入ると、エンジンへの空気供給量が減少するので、これに対する考慮も必要である。
【0054】
そこで、本実施の形態においては、前記ダクト10の入口部10aを、前記空気導入開口部4a内で車幅方向に離間して2個設けると共に、該ダクト10の各入口部10a,10aよりも高く、かつエンジンの吸気通路Enの入口部Eniよりも低い位置において車幅方向に延び、これらの入口部10a,10aの下流側を接続する接続部10cを設けたものであり、これによれば、ダクト10の入口部10aと前記吸気通路Enの入口部Eniとの間に、その中間高さ位置において、車幅方向に延びる接続部10cによる拡大空間が確保されることとなる。したがって、冠水面の高さが前記ダクト10の入口部10aよりも一時的に高くなって、図3、図4に網掛け矢印で示すように、ダクト10の入口部10aから水が侵入した場合でも、接続部10c内に水が流入することにより、ダクト10内が水で充満しにくくなり、その結果、ダクト10内に侵入した水がエンジンの吸気通路Enの入口部Eniに達しにくくなると共に、該入口部Eniへの空気の流通が確保されることとなる。また、ダクト10の入口部10aが複数設けられているので、ダクト10の入口部10a,10aの一部から水が入ったような場合でも、エンジンの運転に必要な空気量を確保しやすくなる。また、ダクト10の途中には、ほぼ水平に設けられた庇部50hが設けられているから、入口部10aから侵入してきた水が、庇部50hよりも下流側(上方)に侵入するのが防止され、ダクト10内に侵入した水がエンジンの吸気通路Enの入口部Eniに一層達しにくくなる
【0055】
また、前記接続部10cには、水抜き部10dが形成されているから、入口部10aからダクト10内に水が侵入した場合でも、図3、図8に前記網掛け矢印で示すように、接続部10cの水抜き部10dを介して排水されることとなる。したがって、ダクト10内に侵入した水がエンジンの吸気通路Enの入口部Eniに一層達しにくくなる。
【0056】
また、前記ダクト10は、バンパフェイシャ4を含んで構成されているから、自動車においては一般に設けられる該フェイシャ4を利用してダクト10を形成することができる。また、前記ダクト10は、バンパフェイシャ4の裏面に対向するように設けられたフェイシャ支持部材5を含んでいるので、バンパフェイシャ4の剛性を向上させつつ、ダクト10を構成することができる。
【0057】
なお、本実施の形態によれば、冠水時以外、例えば雨天時等においても以下のような作用、効果が得られる。
【0058】
すなわち、このダクト10の途中には、ほぼ水平に設けられた庇部50hが設けられているから、例えば雨天時等に、空気導入開口部4aから図3、図4に前記網掛け矢印で示すように入口部10aを経由して侵入してきた雨滴が、庇部50hの下面に付着して落下することとなる。すなわち、雨水が庇部50hよりも下流側(上方)に侵入するのが防止されることとなる。
【0059】
また、左右の庇部50hの下方には、それぞれ案内部50iが設けられていると共に、左右の案内部50i,50iの間において車幅方向に延びて両案内部50i,50iを連結し、侵入した水を排出する案内部連結部52が設けられているから、庇部50hから落下した雨水が受け止められて、車幅方向中央側に設けられた案内部連結部52に導かれ、該案内部連結部52の水抜き部10cから車外に排出されることとなる。
【0060】
また、本実施の形態においては、自動車の前突時等において、以下のような効果も得られる。すなわち、当該自動車1のバンパ2に例えば斜め前方から衝撃荷重が作用した場合について説明すると、この衝撃荷重は、剛性の低いバンパフェイシャ4を介してバンパフェイシャ支持部材5に入力されることとなるが、本実施の形態においては、バンパフェイシャ支持部材5の車幅方向両端側の下側ダクト前部構成部材11は、低剛性材で構成されているから、該部材11が破損することにより、衝撃荷重が吸収されることとなる。
【0061】
特に、ダクト10を形成すると、ダクト10を構成する例えば壁部によりバンパフェイシャ支持部材5の剛性が上って衝撃吸収が行われるにくくなる虞があるが、本発明においては、下側ダクト前部構成部材11を低剛性材で構成したから、ダクト10を形成した場合でも、衝撃吸収が良好に行われる。また、下側ダクト部5eの前部を構成する下側ダクト前部構成部材11が破損することにより、バンパフェイシャ支持部材5における本体部材13の破損が防止されることとなる。また、バンパフェイシャ支持部材5の後方に配置され、開口部3aにダクト10が接続されたシュラウド部材3の破損も防止されることとなる。
【0062】
また、本体部材13は、十分な剛性を有しているので、通常時におけるバンパフェイシャ4の変形抑制も良好に実現されることとなる。
【0063】
なお、本発明は、前記第1の実施の形態で説明した態様だけでなく、他の態様でも実現可能であり、他の例として次に第2の実施の形態を説明する。
【0064】
図12に示すように、この第2の実施の形態においては、ダクト110は、バンパフェイシャ104の開口部104aの上部側とシュラウド部材103の上辺部103aの開口部103bとを連結する専用の部材により構成されている。
【0065】
このダクト110は、図13にもあわせて示すように、前端部及び前後方向の中間部にバンパフェイシャ104裏面への固定片部110c,110c,110d,110e,110eを有している。そして、前端部上部の固定片部110c,110cが、バンパフェイシャ104の開口104aの上縁部裏面に形成されたボス104bに螺子止めされ、前端部の下部の固定片部110dが、グリル部材106の上縁部裏面に形成されたボス106aに螺子止めされている。また、前後方向中間部の固定片部110e,110eが、バンパフェイシャ104の裏面における開口104aの上縁部の上方に形成されたボス104cに螺子止めされている。
【0066】
また、図14にも示すように、シュラウド部材103の上辺部103aには、前後に突出する筒状の貫通部103cが形成されており、前記ダクト110の出口部110bが、該貫通部103cの前部側に接続されると共に、該貫通部103cの後部側にエンジンの吸気通路Enの入口部Eniが接続されている。すなわち、ダクト110の出口部110bが、貫通部103cを介して吸気通路Enの入口部Eniに接続されている。なお、ダクト110の出口部110bの内寸は、貫通部103cの外寸よりも成形精度等を考慮して若干大きくされており、その結果、その隙間からラジエータRaの熱気が侵入する虞があるので、前記ダクト110の出口部110bの後端部にはこれを防止するためのスポンジ材111が設けられている。
【0067】
また、ダクト110の内部の入口部110a寄りと出口部110b寄りの2ケ所に、ダクトの入口部110aから侵入してきた水が出口部110bに達するのを規制するための土手状の水切り部110f,110fが設けられている。
【0068】
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態同様、バンパフェイシャ104の空気導入開口部104aから導入された空気の一部は、バンパフェイシャ104の空気導入開口部104aの上部側に臨む入口部110aと、前記吸気通路Enの入口部Eniに接続された出口部110bとを有するダクト110を介してエンジンの吸気通路Enの入口部Eniに導かれることとなる。
【0069】
したがって、冠水走行時において、冠水面の高さがダクト110の入口部110aよりも低い限り、空気導入開口部104aから車体前部に侵入した水が、ダクト110の入口部110aの後方かつ熱交換器Raの前方でエンジンの吸気通路Enの入口部Eniの高さまで盛り上がったとしても、ダクト110の内部に侵入するのが抑制されることとなる。すなわち、冠水走行時に、エンジンの吸気通路Enの入口部Eniから水が侵入してエンジンに不具合が生じる虞が低減されることとなる。
【0070】
また、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態のようなフェイシャ支持部材が設けられないような場合や、異なる構造のフェイシャ支持部材が設けられる場合においても、単純な構造のダクトを追加するだけで、前述の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、冠水走行時にエンジンの吸気通路入口部に水が侵入するのを抑制することができ、自動車産業に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る自動車の前部の一部破断正面図である。
【図2】バンパフェイシャ支持部材の単体斜視図である(なお、左半分についてはグリル支持部材が取り付けられた状態で示している)
【図3】図1の矢印A部分の拡大図である。
【図4】図3のB−B断面図(端面図)である。
【図5】図3のC−C断面図(端面図)である。
【図6】図3のD−D断面図(端面図)である。
【図7】図3のE−E断面図(端面図)である。
【図8】図3のF−F断面図(端面図)である。
【図9】バンパフェイシャ支持部材の構成部材、及びグリル支持部材の単体斜視図である。
【図10】図3のG−G断面図(端面図)である。
【図11】図3のH−H断面図(端面図)である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る自動車の前部の一部透視斜視図である。
【図13】図12のJ−J断面図(端面図)である。
【図14】ダクトとシュラウド部材との接続部分の分離状態での斜視図である。
【図15】解決課題の説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1 自動車
3 シュラウド部材
3b 開口部(ダクトの出口部)
4 バンパフェイシャ
4a 空気導入開口部
5 バンパフェイシャ支持部材(バンパフェイシャの裏面に対向して設けられた部材)
10 ダクト
10a 入口部
10b 出口部
10c 接続部
10d 水抜き部
En エンジンの吸気通路
Eni 吸気通路の入口部
Ra ラジエータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンパフェイシャの空気導入開口部から導入した空気を、熱交換器の上方に配置されたエンジンの吸気通路の入口部に導く車体前部のエンジン吸気通路構造に関し、自動車の車体構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の車体前部には、エンジンの冷却水を冷却する熱交換器(ラジエータ)が配設されていると共に、車体前部の外表面をなすバンパフェイシャにおける前記熱交換器に対向する部位には、前記熱交換器冷却用の空気を導入する空気導入開口部が設けられている。
【0003】
その場合に、前記熱交換器の上方に、エンジンの吸気通路の入口部を配置し、前記空気導入開口部から導入された空気の一部をバンパフェイシャ後方の空間を介して前記吸気通路の入口部に導入可能に構成する場合があるが、このような構成の場合、雨天時には、空気導入開口部から空気と共に侵入してきた雨水がエンジンの吸気通路入口部に侵入し、エンジンに不具合を生じさせる虞がある。
【0004】
この問題に対処可能なものとして、特許文献1に記載のものがある。すなわち、特許文献1に記載のものにおいては、空気導入開口部と吸気通路入口部との間の空間に、複数のスリットを有する雨水遮蔽部材(文献1におけるエアガイト部材)を設け、該遮蔽部材により雨水の侵入を抑制するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−343244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、道路が冠水している状態での自動車の走行中においては、エンジンの吸気通路の入口部が熱交換器の上方に設けられている場合でも、以下のような問題が生じ得る。すなわち、冠水状態で自動車を走行させると、図15に示すように、バンパフェイシャの空気導入開口部から車体内部に水が侵入してくることとなるが、このとき、空気導入開口部の後方に配置された熱交換器が、侵入してきた水に対して抵抗(壁)となって、熱交換器前方の水がバンパフェイシャと熱交換器との間の空間等においてエンジンの吸気通路入口部の高さまで盛り上がり、その結果、この盛り上がった水が該吸気通路入口部に侵入し、エンジンに不具合を生じさせる虞があるのである。
【0007】
そこで、本発明は、冠水走行時に、エンジンの吸気通路入口部に水が侵入する虞を低減可能な車体前部のエンジン吸気通路構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0009】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、車体前部に設けられた熱交換器の上方にエンジンの吸気通路の入口部が配置されていると共に、車体前部の外表面をなすバンパフェイシャの前記熱交換器に対向する部位に空気導入開口部が設けられた車体前部のエンジン吸気通路構造であって、前記空気導入開口部の上部側に臨む入口部と、前記吸気通路入口部に接続された出口部とを有するダクトが設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、前記空気導入開口部は、車両正面視で前記熱交換器よりも車幅方向外方まで広がっており、前記ダクトの入口部は、前記空気導入開口部における前記熱交換器よりも車幅方向外方の部分に臨んで設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、前記ダクトの入口部は、前記空気導入開口部内で車幅方向に離間して複数設けられていると共に、該ダクトの各入口部よりも高く、かつ吸気通路入口部よりも低い位置において車幅方向に延び、ダクトの各入口部の下流側を接続する接続部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、前記ダクトの接続部に水抜き部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、前記ダクトは、前記バンパフェイシャと、該バンパフェイシャの裏面に対向するように設けられた部材とを含んで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
次に、本発明の効果について説明する。
【0015】
まず、請求項1に記載の発明によれば、バンパフェイシャの空気導入開口部から導入された空気の一部は、バンパフェイシャの空気導入開口部の上部側に臨む入口部と、前記吸気通路の入口部に接続された出口部とを有するダクトを介してエンジンの吸気通路の入口部に導かれることとなる。
【0016】
したがって、冠水走行時において、冠水面の高さが前記ダクトの入口部よりも低い限り、空気導入開口部から車体前部に侵入した水が、ダクトの入口部の後方かつ熱交換器の前方で吸気通路入口部の高さまで盛り上がったとしても、ダクトの内部に侵入するのが防止されることとなる。すなわち、冠水走行時に、エンジンの吸気通路入口部から水が侵入してエンジンに不具合が生じる虞が低減されることとなる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記空気導入開口部は、車両正面視で前記熱交換器よりも車幅方向外方まで広がっており、前記ダクトの入口部は、前記空気導入開口部における前記熱交換器よりも車幅方向外方の部分に臨んで設けられているから、熱交換器の前方にはダクトの入口部が存在しないこととなる。したがって、空気導入開口部に臨んでダクトの入口部を設けたとしても、熱交換器への空気の導入を阻害することがない。
【0018】
ところで、冠水面の高さは変動するので、該冠水面の高さが前記ダクトの入口部よりも一時的に高くなった場合を想定しておくことが好ましい。また、ダクト内に水が入ると、エンジンへの空気供給量が減少するので、これに対する考慮も必要である。
【0019】
そこで、請求項3に記載の発明においては、前記ダクトの入口部を、前記空気導入開口部内で車幅方向に離間して複数設けると共に、該ダクトの各入口部よりも高く、かつ吸気通路入口部よりも低い位置において車幅方向に延び、ダクトの各入口部の下流側を接続する接続部を設けたものであり、これによれば、ダクトの入口部と吸気通路入口部との間に、その中間高さ位置において、車幅方向に延びる接続部による拡大空間が確保されることとなる。したがって、ダクトの入口部から水が侵入した場合でも、ダクト内が水で充満しにくくなり、その結果、ダクト内に侵入した水がエンジンの吸気通路入口部に達しにくくなると共に、吸気通路入口部への空気の流通が確保されることとなる。また、ダクトの入口部が複数設けられているので、ダクトの入口部の一部から水が入ったような場合でも、エンジンの運転に必要な空気量を確保しやすくなる。
【0020】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記接続部に、水抜き部が形成されているから、入口部からダクト内に水が侵入した場合でも、接続部の水抜き部を介して排水されることとなる。したがって、ダクト内に侵入した水がエンジンの吸気通路入口部に一層達しにくくなる。
【0021】
また、請求項5に記載の発明によれば、前記ダクトは、バンパフェイシャを含んで構成されているから、自動車においては一般に設けられる部材を利用してダクトを形成することができる。また、前記ダクトは、バンパフェイシャの裏面に対向するように設けられた部材を含んでいるので、バンパフェイシャの剛性を向上させつつ、ダクトを構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る自動車の前部構造について説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態に係る自動車1の前端部には、バンパ2が設けられている。バンパ2の後方には、エンジンが配置されるエンジンルームが設けられていると共に、該エンジンルームの前部にはエンジンの冷却水を冷却するラジエータRaが設けられている。ラジエータRaは、正面視略矩形状のシュラウド部材3を介して車体に固定されている。また、このラジエータRaの上方後方には、エンジンの吸気通路の入口部Eniが設けられている。
【0024】
バンパ2は、車体前端部の意匠面を構成するバンパフェイシャ4と、該バンパフェイシャ4の裏面に対向して設けられると共に前記シュラウド部材3のアッパ部3aに取り付けられ、バンパフェイシャ4を裏面側から支持するバンパフェイシャ支持部材5とを有している。
【0025】
バンパフェイシャ4には、前記ラジエータRaに対向する部位に、空気を導入する空気導入開口部4aが設けられている。空気導入開口部4aは、車両正面視でラジエータRaよりも車幅方向外方に広がっている。
【0026】
空気導入開口部4aには、該開口部4aを装飾する(該開口部4aを車幅方向に横断するバンパレインフォースメントRを隠蔽する)グリル部材6が設けられている。また、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aには、該空気導入開口部4aとほぼ同形状で、前記グリル部材6をフェイシャ支持部材5に取り付けるための枠状のグリル支持部材7が設けられている。なお、このように空気導入開口部4aを横切るグリル部材6が設けられていることにより、空気導入開口部4aは、上部側の部分(バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上縁部とグリル部材6の上縁部との間の部分)と下部側の部分(バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの下縁部とグリル部材6の下縁部との間の部分)との2つに分割されることとなる。以下、必要に応じ、これを空気導入開口部4aの上部側部分、下部側部分という。
【0027】
バンパフェイシャ支持部材5は、シュラウド部材3のアッパ部3aとほぼ同じ幅及び高さを有し、該アッパ部3a等に取り付けられる。
【0028】
シュラウド部材3は、樹脂製で、左右のサイドフレーム(図示せず)等の車体構成部材に固定されており、アッパ部3aの左右端側には前後に貫通する貫通部3b,3bが設けられている。これらの開口部3b,3bのうち、車両正面から見て左側の開口部3bは、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上部側部分から導入された空気をエンジンルームにおけるシュラウド部材3の後方部分に導入するために設けられ、右側の開口部3bは、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上部側部分から導入された空気をエンジンの吸気通路の入口部Eniに導くために設けられている。そして、右側の開口部3bには、後方に延びる筒状の接続フランジ部3eが設けられ、該フランジ部3eに吸気通路Enの入口部Eniが接続されている(図5参照)。
【0029】
ここで、本実施の形態においては、前記空気導入開口部4aの上部側部分から導入された空気を、エンジンルームにおけるシュラウド部材3の後方部分、及びエンジンの吸気通路の入口部Eniに導くダクト10が、前記バンパフェイシャ4と、前記バンパフェイシャ支持部材5と、前記シュラウド部材3とで構成されている。
【0030】
以下、このダクト10を構成する前記各部材の構造について詳しく説明すると、まず、バンパフェイシャ支持部材5は、図2に示すように、車幅方向中央においてバンパフェイシャ4の車幅方向中央部内面にほぼ沿うように後上りに形成されたフェイシャ中央部支持面部5aと、該フェイシャ中央部支持面部5aの上部後端側から左右に延び、バンパフェイシャ4の上縁部を支持するフェイシャ上縁部支持部5bと、フェイシャ中央部支持面部5aの下方に設けられ、前記グリル支持部材7の上辺部7aが固定されるグリル固定部5cと、前記フェイシャ上縁部支持部5bの車幅方向外端部から後方に延び、前記シュラウド部材3のアッパ部3aの上面に固定される支持部材固定部5d,5dと、前記フェイシャ中央部支持面部5aの左右にそれぞれ設けられ、前記ダクト10の下側部分を構成する下側ダクト部5e,5eとを有している。なお、ダクト10の上側部分は、バンパフェイシャ4における該下側ダクト部5eの上方に位置する面部により構成される。
【0031】
下側ダクト部5eは、図3にもあわせて示すように、フェイシャ中央部支持部5aの左右端に設けられた内側側面部50aと、該内側側面部50aの下端から車幅方向に広がる底面部50bと、該底面部50bの車幅方向外端とフェイシャ上縁部支持部5bとの間に設けられた外側側面部50cと、後面部50dと、該後面部50dに前記シュラウド部材3の開口部3bの前方位置において形成された複数の出口開口部50e…50eとを有して前方側及び上方側が開放された概ね箱状の本体部50fを有している。
【0032】
本体部50fは、図3からわかるように、空気導入開口部4aよりも上方に位置していると共に、該本体部50fの車幅方向外端側下方には、該本体部50fに空気を導くための前方に突出する樋状のガイド部50gが設けられている。
【0033】
図4に示すように、ガイド部50gは、グリル部材6の上縁部に沿ってほぼ水平に形成された導風面部6aに概ね連続するように設けられた底面部51aと、底面部51aの後端から本体部50fの底面部50bの前端近傍まで上方に立ち上がる後面部51cとを有している。また、図3からわかるように、該底面部51aの左右には、上方に立ち上がり、ガイド部50gの側方から水が侵入するのを防止する側面部51b,51bが設けられている。
【0034】
このガイド部50gの下部は、空気導入開口部4aの上部側部分における前記ラジエータRaよりも車幅方向外方部分に臨むように、前記底面部50bよりも低い位置に設けられている。ここで、このガイド部50gの下部は、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上縁部4a′とでダクト10の入口部10aを構成する。なお、図1、図2等からわかるように、バンパフェイシャ4及びバンパフェイシャ支持部材5は左右対称に構成されており、したがって、入口部10aは、空気導入開口部4aの上部側部分における前記ラジエータRaの左右にそれぞれ臨むように存在している。
【0035】
また、下側ダクト部5eには、図3、図4に示すように、ガイド部50gの後面部51cの上端から前方にほぼ水平に突出する庇部50hが設けられている。この庇部50hは、ダクト10の入口部10aからガイド部50gを経由して侵入してきた雨滴等の水分を下面に付着させて落下させることにより、該水分が該庇部50hよりも下流側(エンジンの吸気通路の入口部Eni側。図3,図4において上方)に侵入するのを防止するため、また冠水時にダクト10の入口部10aから侵入した水が庇部50hよりも下流側(同上)に侵入するのを防止するために設けられている。なお、この庇部50hは、図3〜図6からわかるように、車幅方向中央側にも延長されて下側ダクト部5eのほぼ全幅に渡って形成されている。
【0036】
また、下側ダクト部5eには、図3、図5、図6からわかるように、ガイド部50gよりも車幅方向中央側において、庇部50hの後端部からやや前方斜め下方に向かって突出する案内部50iが設けられている。この案内部50iは、車幅方向中央側が低くされ、庇部50hから落下した水分や、冠水時にダクト10の入口部10aから侵入した水を、車幅方向中央側に設けられた後述する案内部連結部52の水抜き部10cに導くように構成されている。
【0037】
ここで、図1、図2からわかるように、前述のグリル支持部材7の上辺部7aは、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上縁部の裏面側に沿うように車幅方向に延びていると共に、図4に示すように、下側ダクト部5eのガイド部50gの上方においては、ほぼ水平な横面部70aを有している。そして、この横面部70aの後端は、前後方向で前記庇部50hの前端位置にほぼ位置しており、ダクト10の入口部10aから導入された空気を前記庇部50hの下方を確実に経由させることにより、空気に含まれる雨滴等の水分を庇部50hにより確実に遮断可能になっている。
【0038】
また、図5、図6からわかるように、グリル支持部材7の上辺部7aにおける下側ダクト部5eのガイド部50gよりも車幅方向内方側の部分には、フェイシャ4の内面位置から斜め後方下方に突出し、先端部(後端部)が前記案内部50iの前端部に近接するように形成された突出壁部70bが設けられている。これにより、バンパフェイシャ4内面と前記案内部50iの前端部との隙間がほぼふさがれることとなり、空気導入開口部4aにおけるガイド部50gよりも車幅方向内方部分から侵入した空気に含まれる水や、車体下部側から上方に巻き上げられた水が、ダクト10内の空間に侵入しないように構成されている。
【0039】
また、図3、図7からわかるように、バンパフェイシャ支持部材5のフェイシャ中央部支持面部5aの下方には、前記左右の下側ダクト部5e,5eの庇部50h及び案内部50iに連続するように前方側が開放する断面略コ字状に形成された案内部連結部52が設けられている。ここで、この案内部連結部52、及び前記左右の案内部50iは、ダクト10の各入口部10a,10aよりも高く、かつ吸気通路入口部Eniよりも低い位置において車幅方向に延びており、特許請求の範囲の接続部に対応する(以下、適宜、接続部10cという)。
【0040】
案内部連結部52の中央部分52′は、図3からわかるように、底面部52aがその左右よりも低くされていると共に、図8、図10、図11からわかるように、前記中央部分52′の底面部52aの前端52a′と、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上縁部4a′(グリル支持部材7の下端部)との間には、前後方向に所定量の隙10d(特許請求の範囲における水抜き部に対応する。以下、この隙10dのことを水抜き部10dという)が設けられ、案内部連結部52の中央部分52′にその左右から流れてきた水を該水抜き部10dを介してダクト10の外部に排出可能に構成されている。その場合に、この隙10dは、中央部分52′の車幅方向ほぼ全体にわたって設けられているので、容易に比較的大きな水抜き部10dを形成しやすくなる。なお、中央部分52′の底面部52aがその左右よりも低くされているのは、左右から流入してきた水の量が多く、水抜き部10dからすぐに排出できないような場合に、この水を一時貯留可能とするためである。
【0041】
ここで、バンパフェイシャ支持部材5は、図9に示すように、下側ダクト部5eの前部、詳しくは前記下側ダクト部5eのガイド部50g、庇部50h、及び案内部50i、及び外側側面部50cの前部50c′を構成する下側ダクト前部構成部材11,11と、これら以外の部分を構成する本体部材13とで構成されている。なお、図9には、グリル支持部材7も示している。
【0042】
その場合に、これらの部材11,11,13は、いずれも樹脂で形成されているが、これらのうち下側ダクト前部構成部材11,11は、本体部材13よりも剛性が低い低剛性材を用いて形成されている。これは、当該自動車の前突等時における衝撃吸収能力の向上、及びシュラウド部材3の破損防止等を目的としている。特に、下側ダクト部5eのガイド部50gは、底面部51a及び側面部51b,51bを有して、前方に突出する形状とされているので、剛性が高くなりやすいが、このような場合に、効果的に剛性を低下させることができる。ここで、低剛性材としては、例えばエラストマが利用可能である。また、本体部材13としては、例えばPP等が利用される。
【0043】
また、本体部材13においても、フェイシャ支持面部5aの下部左右部分には、フェイシャ支持部材5の車幅方向中央部分の剛性を小さくするための開口部13d…13dが形成されている。
【0044】
次に、これらの部材11,13と、バンパフェイシャ4と、グリル支持部材7との間の固定及び支持等について説明する。
【0045】
まず、図9により本体部材13と下側ダクト前部構成部材11との固定について説明すると、本体部材13には、下側ダクト部5eの底面部50b部分の前方において平面視で略矩形状の枠体部13aが設けられており、該枠体部13aに下側ダクト前部構成部材11における案内部50i部分が上方から載置されるようになっている。そして、本体部材13における下側ダクト部5eの底面部50b部分に設けられたボス部13b,13bと、下側ダクト前部構成部材11の庇部50h部分の後端に設けられた取付片部11a,11aとが前後に重ねられて、ネジ(図示せず)により固定される(図2、図3参照)。また、本体部材13の枠体部13aの前辺部に設けられた取付部13c,13cと、下側ダクト前部構成部材11の案内部50i部分の前端に設けられた取付片部11b,11bとが、ネジにより固定される。
【0046】
また、図10に示すように、本体部材13のフェイシャ支持面部5aの略中央に形成されたエンブレム部13dの裏面に設けられた取付部13e,13gと、バンパフェイシャ4の裏面に設けられたボス部4e,4fとが、ネジにより締結される。
【0047】
また、図11に示すように、本体部材13のフェイシャ支持面部5aには、バンパフェイシャ4の中央部分とが当接する当接部13fが設けられている。
【0048】
また、図6に示すように、前述のグリル支持部材7の突出壁部70bの後端部に形成されたボス部70dと、本体部材13の枠体部13aの前辺部に設けられた取付部13e(図9参照)とがネジにより固定される。
【0049】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
【0050】
まず、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aから導入された空気の吸気通路Enの入口部Eniへの流通について説明すると、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aから導入された空気の一部は、図3〜図5に白抜き矢印で示すように、バンパフェイシャ4の空気導入開口部4aの上部側部分に臨む入口部10aと、前記吸気通路Enの入口部Eniに接続された出口部10bとを有するダクト10を介して、エンジンの吸気通路Enの入口部Eniに導かれることとなる。
【0051】
したがって、冠水走行時において、冠水面の高さがダクト10の入口部10aよりも低い限り、空気導入開口部4aから車体前部に侵入した水がダクト10の入口部10aの後方かつ熱交換器Raの前方でエンジンの吸気通路Enの入口部Eniの高さまで盛り上がったとしても、ダクト10の内部に侵入するのが抑制されることとなる。すなわち、冠水走行時に、エンジンの吸気通路Enの入口部Eniから水が侵入してエンジンに不具合が生じる虞が低減されることとなる。
【0052】
また、前記空気導入開口部4aは、車両正面視で前記熱交換器Raよりも車幅方向外方まで広がっており、前記ダクト10の入口部10aは、前記空気導入開口部4aにおける前記熱交換器Raよりも車幅方向外方の部分に臨んで設けられているから、熱交換器Raの前方にはダクト10の入口部10aが存在しないこととなる。したがって、空気導入開口部4aに臨んでダクト10の入口部10aを設けたとしても、熱交換器Raへの空気の導入を阻害することがない。
【0053】
ところで、冠水面の高さは変動するので、該冠水面の高さが前記ダクト10の入口部10aよりも一時的に高くなった場合を想定しておくことが好ましい。また、ダクト10内に水が入ると、エンジンへの空気供給量が減少するので、これに対する考慮も必要である。
【0054】
そこで、本実施の形態においては、前記ダクト10の入口部10aを、前記空気導入開口部4a内で車幅方向に離間して2個設けると共に、該ダクト10の各入口部10a,10aよりも高く、かつエンジンの吸気通路Enの入口部Eniよりも低い位置において車幅方向に延び、これらの入口部10a,10aの下流側を接続する接続部10cを設けたものであり、これによれば、ダクト10の入口部10aと前記吸気通路Enの入口部Eniとの間に、その中間高さ位置において、車幅方向に延びる接続部10cによる拡大空間が確保されることとなる。したがって、冠水面の高さが前記ダクト10の入口部10aよりも一時的に高くなって、図3、図4に網掛け矢印で示すように、ダクト10の入口部10aから水が侵入した場合でも、接続部10c内に水が流入することにより、ダクト10内が水で充満しにくくなり、その結果、ダクト10内に侵入した水がエンジンの吸気通路Enの入口部Eniに達しにくくなると共に、該入口部Eniへの空気の流通が確保されることとなる。また、ダクト10の入口部10aが複数設けられているので、ダクト10の入口部10a,10aの一部から水が入ったような場合でも、エンジンの運転に必要な空気量を確保しやすくなる。また、ダクト10の途中には、ほぼ水平に設けられた庇部50hが設けられているから、入口部10aから侵入してきた水が、庇部50hよりも下流側(上方)に侵入するのが防止され、ダクト10内に侵入した水がエンジンの吸気通路Enの入口部Eniに一層達しにくくなる
【0055】
また、前記接続部10cには、水抜き部10dが形成されているから、入口部10aからダクト10内に水が侵入した場合でも、図3、図8に前記網掛け矢印で示すように、接続部10cの水抜き部10dを介して排水されることとなる。したがって、ダクト10内に侵入した水がエンジンの吸気通路Enの入口部Eniに一層達しにくくなる。
【0056】
また、前記ダクト10は、バンパフェイシャ4を含んで構成されているから、自動車においては一般に設けられる該フェイシャ4を利用してダクト10を形成することができる。また、前記ダクト10は、バンパフェイシャ4の裏面に対向するように設けられたフェイシャ支持部材5を含んでいるので、バンパフェイシャ4の剛性を向上させつつ、ダクト10を構成することができる。
【0057】
なお、本実施の形態によれば、冠水時以外、例えば雨天時等においても以下のような作用、効果が得られる。
【0058】
すなわち、このダクト10の途中には、ほぼ水平に設けられた庇部50hが設けられているから、例えば雨天時等に、空気導入開口部4aから図3、図4に前記網掛け矢印で示すように入口部10aを経由して侵入してきた雨滴が、庇部50hの下面に付着して落下することとなる。すなわち、雨水が庇部50hよりも下流側(上方)に侵入するのが防止されることとなる。
【0059】
また、左右の庇部50hの下方には、それぞれ案内部50iが設けられていると共に、左右の案内部50i,50iの間において車幅方向に延びて両案内部50i,50iを連結し、侵入した水を排出する案内部連結部52が設けられているから、庇部50hから落下した雨水が受け止められて、車幅方向中央側に設けられた案内部連結部52に導かれ、該案内部連結部52の水抜き部10cから車外に排出されることとなる。
【0060】
また、本実施の形態においては、自動車の前突時等において、以下のような効果も得られる。すなわち、当該自動車1のバンパ2に例えば斜め前方から衝撃荷重が作用した場合について説明すると、この衝撃荷重は、剛性の低いバンパフェイシャ4を介してバンパフェイシャ支持部材5に入力されることとなるが、本実施の形態においては、バンパフェイシャ支持部材5の車幅方向両端側の下側ダクト前部構成部材11は、低剛性材で構成されているから、該部材11が破損することにより、衝撃荷重が吸収されることとなる。
【0061】
特に、ダクト10を形成すると、ダクト10を構成する例えば壁部によりバンパフェイシャ支持部材5の剛性が上って衝撃吸収が行われるにくくなる虞があるが、本発明においては、下側ダクト前部構成部材11を低剛性材で構成したから、ダクト10を形成した場合でも、衝撃吸収が良好に行われる。また、下側ダクト部5eの前部を構成する下側ダクト前部構成部材11が破損することにより、バンパフェイシャ支持部材5における本体部材13の破損が防止されることとなる。また、バンパフェイシャ支持部材5の後方に配置され、開口部3aにダクト10が接続されたシュラウド部材3の破損も防止されることとなる。
【0062】
また、本体部材13は、十分な剛性を有しているので、通常時におけるバンパフェイシャ4の変形抑制も良好に実現されることとなる。
【0063】
なお、本発明は、前記第1の実施の形態で説明した態様だけでなく、他の態様でも実現可能であり、他の例として次に第2の実施の形態を説明する。
【0064】
図12に示すように、この第2の実施の形態においては、ダクト110は、バンパフェイシャ104の開口部104aの上部側とシュラウド部材103の上辺部103aの開口部103bとを連結する専用の部材により構成されている。
【0065】
このダクト110は、図13にもあわせて示すように、前端部及び前後方向の中間部にバンパフェイシャ104裏面への固定片部110c,110c,110d,110e,110eを有している。そして、前端部上部の固定片部110c,110cが、バンパフェイシャ104の開口104aの上縁部裏面に形成されたボス104bに螺子止めされ、前端部の下部の固定片部110dが、グリル部材106の上縁部裏面に形成されたボス106aに螺子止めされている。また、前後方向中間部の固定片部110e,110eが、バンパフェイシャ104の裏面における開口104aの上縁部の上方に形成されたボス104cに螺子止めされている。
【0066】
また、図14にも示すように、シュラウド部材103の上辺部103aには、前後に突出する筒状の貫通部103cが形成されており、前記ダクト110の出口部110bが、該貫通部103cの前部側に接続されると共に、該貫通部103cの後部側にエンジンの吸気通路Enの入口部Eniが接続されている。すなわち、ダクト110の出口部110bが、貫通部103cを介して吸気通路Enの入口部Eniに接続されている。なお、ダクト110の出口部110bの内寸は、貫通部103cの外寸よりも成形精度等を考慮して若干大きくされており、その結果、その隙間からラジエータRaの熱気が侵入する虞があるので、前記ダクト110の出口部110bの後端部にはこれを防止するためのスポンジ材111が設けられている。
【0067】
また、ダクト110の内部の入口部110a寄りと出口部110b寄りの2ケ所に、ダクトの入口部110aから侵入してきた水が出口部110bに達するのを規制するための土手状の水切り部110f,110fが設けられている。
【0068】
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態同様、バンパフェイシャ104の空気導入開口部104aから導入された空気の一部は、バンパフェイシャ104の空気導入開口部104aの上部側に臨む入口部110aと、前記吸気通路Enの入口部Eniに接続された出口部110bとを有するダクト110を介してエンジンの吸気通路Enの入口部Eniに導かれることとなる。
【0069】
したがって、冠水走行時において、冠水面の高さがダクト110の入口部110aよりも低い限り、空気導入開口部104aから車体前部に侵入した水が、ダクト110の入口部110aの後方かつ熱交換器Raの前方でエンジンの吸気通路Enの入口部Eniの高さまで盛り上がったとしても、ダクト110の内部に侵入するのが抑制されることとなる。すなわち、冠水走行時に、エンジンの吸気通路Enの入口部Eniから水が侵入してエンジンに不具合が生じる虞が低減されることとなる。
【0070】
また、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態のようなフェイシャ支持部材が設けられないような場合や、異なる構造のフェイシャ支持部材が設けられる場合においても、単純な構造のダクトを追加するだけで、前述の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、冠水走行時にエンジンの吸気通路入口部に水が侵入するのを抑制することができ、自動車産業に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る自動車の前部の一部破断正面図である。
【図2】バンパフェイシャ支持部材の単体斜視図である(なお、左半分についてはグリル支持部材が取り付けられた状態で示している)
【図3】図1の矢印A部分の拡大図である。
【図4】図3のB−B断面図(端面図)である。
【図5】図3のC−C断面図(端面図)である。
【図6】図3のD−D断面図(端面図)である。
【図7】図3のE−E断面図(端面図)である。
【図8】図3のF−F断面図(端面図)である。
【図9】バンパフェイシャ支持部材の構成部材、及びグリル支持部材の単体斜視図である。
【図10】図3のG−G断面図(端面図)である。
【図11】図3のH−H断面図(端面図)である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る自動車の前部の一部透視斜視図である。
【図13】図12のJ−J断面図(端面図)である。
【図14】ダクトとシュラウド部材との接続部分の分離状態での斜視図である。
【図15】解決課題の説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1 自動車
3 シュラウド部材
3b 開口部(ダクトの出口部)
4 バンパフェイシャ
4a 空気導入開口部
5 バンパフェイシャ支持部材(バンパフェイシャの裏面に対向して設けられた部材)
10 ダクト
10a 入口部
10b 出口部
10c 接続部
10d 水抜き部
En エンジンの吸気通路
Eni 吸気通路の入口部
Ra ラジエータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部に設けられた熱交換器の上方にエンジンの吸気通路の入口部が配置されていると共に、車体前部の外表面をなすバンパフェイシャの前記熱交換器に対向する部位に空気導入開口部が設けられた車体前部のエンジン吸気通路構造であって、
前記空気導入開口部の上部側に臨む入口部と、前記吸気通路入口部に接続された出口部とを有するダクトが設けられていることを特徴とする車体前部のエンジン吸気通路構造。
【請求項2】
前記請求項1に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、
前記空気導入開口部は、車両正面視で前記熱交換器よりも車幅方向外方まで広がっており、
前記ダクトの入口部は、前記空気導入開口部における前記熱交換器よりも車幅方向外方の部分に臨んで設けられていることを特徴とする車体前部のエンジン吸気通路構造。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、
前記ダクトの入口部は、前記空気導入開口部内で車幅方向に離間して複数設けられていると共に、
該ダクトの各入口部よりも高く、かつ吸気通路入口部よりも低い位置において車幅方向に延び、ダクトの各入口部の下流側を接続する接続部が設けられていることを特徴とする車体前部のエンジン吸気通路構造。
【請求項4】
前記請求項3に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、
前記ダクトの接続部に水抜き部が設けられていることを特徴とする車体前部のエンジン吸気通路構造。
【請求項5】
前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、
前記ダクトは、前記バンパフェイシャと、該バンパフェイシャの裏面に対向するように設けられた部材とを含んで構成されていることを特徴とする車体前部のエンジン吸気通路構造。
【請求項1】
車体前部に設けられた熱交換器の上方にエンジンの吸気通路の入口部が配置されていると共に、車体前部の外表面をなすバンパフェイシャの前記熱交換器に対向する部位に空気導入開口部が設けられた車体前部のエンジン吸気通路構造であって、
前記空気導入開口部の上部側に臨む入口部と、前記吸気通路入口部に接続された出口部とを有するダクトが設けられていることを特徴とする車体前部のエンジン吸気通路構造。
【請求項2】
前記請求項1に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、
前記空気導入開口部は、車両正面視で前記熱交換器よりも車幅方向外方まで広がっており、
前記ダクトの入口部は、前記空気導入開口部における前記熱交換器よりも車幅方向外方の部分に臨んで設けられていることを特徴とする車体前部のエンジン吸気通路構造。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、
前記ダクトの入口部は、前記空気導入開口部内で車幅方向に離間して複数設けられていると共に、
該ダクトの各入口部よりも高く、かつ吸気通路入口部よりも低い位置において車幅方向に延び、ダクトの各入口部の下流側を接続する接続部が設けられていることを特徴とする車体前部のエンジン吸気通路構造。
【請求項4】
前記請求項3に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、
前記ダクトの接続部に水抜き部が設けられていることを特徴とする車体前部のエンジン吸気通路構造。
【請求項5】
前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車体前部のエンジン吸気通路構造において、
前記ダクトは、前記バンパフェイシャと、該バンパフェイシャの裏面に対向するように設けられた部材とを含んで構成されていることを特徴とする車体前部のエンジン吸気通路構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−36797(P2010−36797A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204070(P2008−204070)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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