説明

車体取付用グリップ部

【課題】熱可塑性エラストマーからなるグリップ部に車体側板状体を挿入して自動車用ウェザーストリップ又は自動車用トリムを車体に取付ける場合に、挿入力を低減させ保持力を増加させることのできるグリップ部を提供する。
【解決手段】自動車用ウェザーストリップ100又は自動車用トリムを構成する、断面略逆U字形で、内壁面に車体側板状体を挟持するインナーリップ部11を備えた、長尺の車体取付用グリップ部1において、前記インナーリップ部11の少なくとも車体側板状体と当接する部位は、硬度ショアA20〜50度の熱可塑性エラストマーからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ウェザーストリップ又は自動車用トリムを構成する、車体取付用グリップ部に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用ウェザーストリップ又は自動車用トリムには、車体に取付けるための車体取付用グリップ部が設けられている。
例えば、図5に示すように、自動車用ウェザーストリップ100は、車体側板状体200を包み込む断面略逆U字形で長尺のグリップ部4、及び対向する開閉体に弾接する中空シール部2から構成されている。また、グリップ部4の内壁面には、複数のインナーリップ部41が設けられ、さらにグリップ部4には、断面略逆U字形の芯材3が埋設されている。
そして、インナーリップ部41が車体側板状体200を挟持することにより、自動車用ウェザーストリップ100が車体に取付けられている。
グリップ部4の材料としては、エチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)等のゴム材や、熱可塑性エラストマー(TPE)等の熱可塑性樹脂材が用いられる。
また、中空シール部2の材料としてはスポンジゴムやTPE熱可塑性樹脂材等が用いられる。
【0003】
このように、自動車用ウェザーストリップ又は自動車用トリムは様々な材料を用いて製造されるが、自動車用トリムにおける材料の硬度の違いに関する発明として、特許文献1には、硬度の異なる材料を組み合わせることで、自動車用オープニングトリムに設けられたヒレ部の反り返りを調整する発明が記載されている。
【特許文献1】特許第3024668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで本発明においては、グリップ部の材料として熱可塑性エラストマー(TPE)を用いた場合の問題点に着目した。
前述のように、グリップ部の材料としては、エチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)や熱可塑性エラストマー(TPE)等が用いられるが、TPEを用いた場合には、EPDMを用いた場合と比較して、車体側板状体をグリップ部に挿入する場合(グリップ部を車体側板状体に嵌着する場合)に、以下の問題が生じる。
すなわち、車体側板状体の挿入時の抵抗力(以下、「挿入力」という)が高くなり、逆に車体側板状体を引き抜くときの抵抗力(以下、「保持力」という)が低くなる、いわば「挿入しにくく、抜けやすい」状態となるのである。
【0005】
このような問題は、特に比較的小さいグリップ部(例えば、グリップ部の断面の幅が6.5mm程度以下、高さが11mm程度以下)において発生しやすい。
この理由を図6及び図7を用いて説明する。
図6に示すように、自動車用ウェザーストリップ100のグリップ部4の内壁面には、複数のインナーリップ部41が設けられている。このインナーリップ部41は、図7に示すように車体側板状体200が挿入された場合には、グリップ部4の内壁面側に折曲する。
【0006】
ここで、特に比較的小さいグリップ部においては、剛性向上のためインナーリップ部41の厚さを確保する必要があり、図6に示すようにインナーリップ部41とグリップ部4の内壁面との間隔が狭くなる。従って、図7に示すように車体側板状体200を挿入する場合には、インナーリップ部41とグリップ部4の内壁面の間隔がさらに狭くなりほとんどなくなってしまう。
このため車体側板状体200の挿入時には、インナーリップ部41が折曲しにくいため挿入力が高くなり、逆に車体側板状体200の引き抜き時には、インナーリップ部41と車体側板状体200との静摩擦係数がEPDMと比較して小さいため、保持力が低くなるのである。
【0007】
これを改善するためには、挿入力を低減させて保持力を増加させる必要があるが、挿入力の低減と保持力の増加は背反の関係にあるため、挿入力を低減しようとすると保持力も低減してしまうなど、両立させることは難しい。
【0008】
そこで、本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、熱可塑性エラストマーからなるグリップ部に車体側板状体を挿入して自動車用ウェザーストリップ又は自動車用トリムを車体に取付ける場合に、挿入力を低減させ保持力を増加させることのできるグリップ部を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に係る発明の車体取付用グリップ部(1)は、自動車用ウェザーストリップ(100)又は自動車用トリムを構成する、断面略逆U字形で、内壁面に車体側板状体(200)を挟持するインナーリップ部(11)を備えた、長尺の車体取付用グリップ部(1)において、前記インナーリップ部(11)の少なくとも車体側板状体(200)と当接する部位は、硬度ショアA20〜50度の熱可塑性エラストマーからなることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記インナーリップ部(11)は、前記車体側板状体(200)との静摩擦係数が2.0以上であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、断面略逆U字形の芯材(3)が埋設されたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に係る発明は、請求項3に記載の発明において、前記芯材(3)は熱可塑性樹脂からなることを特徴とする。
【0013】
なお、括弧内の記号は、発明を実施するための最良の形態および図面に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、自動車用ウェザーストリップ又は自動車用トリムを構成する車体取付用グリップ部の内壁面に備えられたインナーリップ部の少なくとも車体側板状体と当接する部位は、硬度ショアA20〜50度の低硬度の熱可塑性エラストマーからなるので、グリップ部に車体側板状体を挿入したときに、挿入力を低減させ保持力を増加させることができる。
挿入力を低減させるのは、低硬度の熱可塑性エラストマーを用いることにより、挿入時にインナーリップ部が折曲しやすくなるためである。また、保持力を増加させるのは、低硬度にすると熱可塑性エラストマーを構成するゴム分比率が増加し、車体側板状体との静摩擦係数が増加することによるものである。
従って、静摩擦係数がある値以上の領域で、挿入力と保持力が調和し、実用上支障のないグリップ部を提供することができるものである。
【0015】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、インナーリップ部と車体側板状体との静摩擦係数が2.0以上であるので、グリップ部に車体側板状体を挿入したときの保持力を確実に増加させることができる。
【0016】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の作用効果に加えて、グリップ部に断面略逆U字形の芯材が埋設されているので、グリップ部の剛性を高めることができる。
【0017】
また、請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の作用効果に加えて、芯材が熱可塑性樹脂からなるので、グリップ部の軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、図1及び図2を参照して、本発明の実施形態1に係る車体取付用グリップ部について説明する。
図1は本発明の実施形態1に係る車体取付用グリップ部を用いた自動車用ウェザーストリップの断面図であり、図2は図1に示す自動車用ウェザーストリップを車体側板状体に取付けた状態を示す図である。
【0019】
図1に示すように、実施形態1に係る車体取付用グリップ部1は、自動車用ウェザーストリップ100の構成部材として用いられている。
自動車用ウェザーストリップ100は、車体側板状体200を包み込む断面略逆U字形で長尺のグリップ部1、及び対向する開閉体に弾接する中空シール部2から構成されている。また、グリップ部1の内壁面には、複数のインナーリップ部11が設けられ、さらにグリップ部1には、断面略逆U字形の芯材3が埋設されている。
【0020】
ここで、インナーリップ部11は、ショア硬度A20〜50度の熱可塑性エラストマーからなり、グリップ部1のインナーリップ部11以外の部分は、インナーリップ部11よりも高硬度の熱可塑性エラストマーからなっている。
ショア硬度A20〜50度の熱可塑性エラストマーとしては、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)等があげられる。
また、インナーリップ部11は、車体側板状体200との静摩擦係数が2.0以上であることが好ましい。
【0021】
なお、中空シール部2の材料としてはスポンジゴム等が用いられる。
また、以上のような構成の自動車用ウェザーストリップ100は、押出成形又は型成形等により製造される。
【0022】
実施形態1に係る車体取付用グリップ部1を用いた自動車用ウェザーストリップ100によれば、車体取付用グリップ部1の内壁面に備えられたインナーリップ部11は、硬度ショアA20〜50度の低硬度の熱可塑性エラストマーからなるので、グリップ部1に車体側板状体200を挿入したときに、挿入力を低減させ保持力を増加させることができる。
挿入力を低減させるのは、低硬度の熱可塑性エラストマーを用いることにより、挿入時にインナーリップ部11が曲がりやすくなるためである。また、保持力を増加させるのは、低硬度にすると熱可塑性エラストマーを構成するゴム分比率が増加し、車体側板状体200との静摩擦係数が増加することによるものである。
従って、静摩擦係数がある値以上の領域で、挿入力と保持力が調和し、実用上支障のないグリップ部を提供することができるものである。
【0023】
ここで、インナーリップ部材料の違いによる、挿入力及び保持力の比較例を表1に示す。
表1においては、実施例1〜実施例4として、インナーリップ部11に塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)の硬度ショアA20〜50度である熱可塑性エラストマーを用いた場合を示している。
さらに比較例1としてエチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)を用いた場合、また比較例2として硬度ショアAが65度である高硬度のオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を用いた場合を示している。
【0024】
【表1】

表1に示すように、インナーリップ部に硬度ショアA20〜50度の熱可塑性エラストマーを用いた実施例1〜実施例4においては、挿入力及び保持力が比較例1のEPDMを用いた場合の数値に近く、実用上支障ない評価を得ることができている。また、この場合静摩擦係数も2.0以上を示している。
一方、硬度ショアAが65度である高硬度のオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を用いた比較例2においては、比較例1と比べて、挿入力が高く保持力が低いという実用上支障が生じる結果となっている。
【0025】
なお、グリップ部1の大きさは特に限定されないが、特に比較的小さいグリップ部1(例えばグリップ部1の断面の幅が6.5mm程度以下、高さが11mm程度以下)を用いた自動車用ウェザーストリップ100において、より効果を発揮する。
このような比較的小さいグリップ部1においては、剛性向上のためインナーリップ部11の厚さを確保する必要があり、インナーリップ部11とグリップ部1の内壁面との間隔が狭くなるため、インナーリップ部11が折曲しにくくなっているためである。
【0026】
また、実施形態1においては、グリップ部1のインナーリップ部11以外の部分は、高硬度の熱可塑性エラストマーからなるので、コスト面や傷つき性の観点から優れたグリップ部1を提供することができる。
【0027】
次に、図3を参照して、本発明の実施形態2に係る車体取付用グリップ部を用いた自動車用ウェザーストリップについて説明する。
図3は、実施形態2に係る車体取付用グリップ部を用いた自動車用ウェザーストリップの断面図である。
【0028】
実施形態2に係る自動車用ウェザーストリップ100の構成は、実施形態1に係る自動車用ウェザーストリップ100と同様であるが、グリップ部1の材質が異なる。
すなわち、実施形態2においては、グリップ部1のうちインナーリップ部11以外の部分もインナーリップ部11と同様に、ショア硬度A20〜50度の熱可塑性エラストマーからなっている。
【0029】
実施形態2に係る車体取付用グリップ部1を用いた自動車用ウェザーストリップ100によれば、グリップ部1のうちインナーリップ部11とインナーリップ部11以外の部分が、ともに低硬度の熱可塑性エラストマーからなるため、同一材料を用いることにより自動車用ウェザーストリップの成形が効率的になる。
【0030】
なお、実施形態1及び実施形態2においては、ともにグリップ部1に断面略逆U字形の芯材3を埋設しているので、グリップ部1の剛性を高めることができる。
芯材3は必ずしも埋設する必要はないが、実施形態2に係るグリップ部1のように、グリップ部全体を低硬度の熱可塑性エラストマーで構成したような場合は、剛性を高めるために、特に芯材3を埋設することが好ましい。
さらに、芯材3を熱可塑性樹脂とすることで、自動車用ウェザーストリップ100の軽量化を図ることができる。
【0031】
また、インナーストリップ部11は、全体が硬度ショアA20〜50度の熱可塑性エラストマーである必要はなく、少なくとも車体側板状体200と当接する部位が硬度ショアA20〜50度の熱可塑性エラストマーであればよい。
従って、インナーストリップ11のうち、図4に示すように、(a)全体、(b)根元を除く部分、(c)根元の上側を除く部分、(d)上側を除く部分に対して、それぞれ硬度ショアA20〜50度の熱可塑性エラストマーを用いるという構成にすることが可能である。
【0032】
以上、実施形態1及び実施形態2においては、車体取付用グリップ部1と中空シール部2からなる自動車用ウェザーストリップ100について説明したが、本発明は、これに限らずセンサーウェザーストリップ、シートトリム、ウィンド周りのトリム等に適用することができ、特に小型断面のウェザーストリップ又はトリムにおいて効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態1に係るグリップ部を用いた自動車用ウェザーストリップの断面図である。
【図2】図1に示す自動車用ウェザーストリップを車体側板状体に嵌着した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態2に係るグリップ部を用いた自動車用ウェザーストリップの断面図である。
【図4】他の実施形態に係るグリップ部の拡大断面図である。
【図5】従来例に係る自動車用ウェザーストリップを車体側板状体に嵌着した状態を示す斜視図である。
【図6】従来例に係る自動車用ウェザーストリップの断面図である。
【図7】従来例に係る自動車用ウェザーストリップを車体側板状体に嵌着した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1、4 グリップ部
2 中空シール部
3 芯材
11、41 インナーリップ部
100 自動車用ウェザーストリップ
200 車体側板状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用ウェザーストリップ又は自動車用トリムを構成する、断面略逆U字形で、内壁面に車体側板状体を挟持するインナーリップ部を備えた、長尺の車体取付用グリップ部において、
前記インナーリップ部の少なくとも車体側板状体と当接する部位は、硬度ショアA20〜50度の熱可塑性エラストマーからなることを特徴とする車体取付用グリップ部。
【請求項2】
前記インナーリップ部は、前記車体側板状体との静摩擦係数が2.0以上であることを特徴とする請求項1に記載の車体取付用グリップ部。
【請求項3】
断面略逆U字形の芯材が埋設されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車体取付用グリップ部。
【請求項4】
前記芯材は熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項3に記載の車体取付用グリップ部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−44341(P2006−44341A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225135(P2004−225135)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【Fターム(参考)】