説明

車体後部構造

【課題】アンダーボディにロアバックインナー部材を結合後のロアバックアウター部材の取り付けが容易に実施でき、両部材どうしを正しい相対位置関係で結合し易い車体後部構造を提供する。
【解決手段】車体の後部開口部25の下部縁に沿って配置されたロアバック部材2が、中空箱状で横長のロアバックインナー部材3と、ロアバックインナー部材3の後部に設けられた取り付け用の開口部3Mと、開口部3Mを後方から閉じるロアバックアウター部材4とを備え、ロアバックインナー部材3に、バックドア8の施錠用のストライカ12がロアバックインナー部材3の裏面に当て付けた補強板14を介して取付けてあり、補強板14にロアバックアウター部材4の上端を車体前方から受け止めるための延長部14Pを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の後部開口部を閉鎖可能なバックドアと、前記後部開口部の下部縁に沿って配置されたロアバック部材とを備えた自動車用の車体後部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車体後部構造に関連する先行技術文献情報として下記に示す特許文献1がある。この特許文献1に記された車体後部構造では、車体のアンダーボディの後部を十分に補強する目的で、箱型の断面構成によって十分な強度と剛性が付与されたロアバック部材が、同アンダーボディの後縁部に結合されている。
【0003】
尚、車体組み立て時に、ロアバック部材をアンダーボディの後縁部に溶接などで結合する際には、溶接治具を進入させ得る空間の確保が難しいため、箱型のままで取付けることが困難である。したがって、一般には、ロアバック部材を、アンダーボディに取り付ける箱状のロアバックインナー部材と、取り付けたロアバックインナー部材に後方から蓋状に重ね合わされるロアバックアウター部材とに分割した構成としている。このロアバックインナー部材には、溶接治具を進入させ得る作業用開口部を形成しておき、同作業用開口部を介してロアバックインナー部材を溶接などによってアンダーボディに結合後、同作業用開口部が蓋状のロアバックアウター部材によって閉鎖される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−25656号公報(0022段落、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような特許文献1に記された車体後部構造では、アンダーボディに結合されたロアバックインナー部材の作業用開口部をロアバックアウター部材によって閉鎖し、両者を結合させる作業に際して、ロアバックアウター部材が特にその上端部位からロアバックインナー部材の箱状の凹部内に車体前方向きに落ち込んでしまい、両部材どうしを正しい相対位置関係で結合することが困難になる虞があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上に例示した従来技術による車体後部構造が与える課題に鑑み、アンダーボディにロアバックインナー部材を結合後のロアバックアウター部材の取り付けが容易に実施でき、両部材どうしを正しい相対位置関係で結合し易い車体後部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による車体後部構造の特徴構成は、
車体の後部開口部を閉鎖可能なバックドアと、前記後部開口部の下部縁に沿って配置されたロアバック部材とを備え、
前記ロアバック部材が、中空箱状で横長のロアバックインナー部材と、前記ロアバックインナー部材の前部をアンダーボディに取り付けるために同ロアバックインナー部材の後部に設けられた開口部と、前記開口部を後方から閉じるように前記ロアバックインナー部材に取り付けられるロアバックアウター部材とを備え、
前記ロアバックインナー部材に、前記バックドアの施錠用のストライカが、前記ロアバックインナー部材の裏面に当て付けた補強板を介して取付けてあり、
前記補強板に、前記ロアバックアウター部材の上端を車体前方から受け止めるための延長部が形成されている点にある。
【0008】
上記の特徴構成による車体後部構造では、アンダーボディに結合されたロアバックインナー部材の開口部をロアバックアウター部材によって閉じる作業を行う際に、ロアバックアウター部材の上端が、ストライカの補強板に形成された延長部によって受け止められることで、ロアバックアウター部材の上端がロアバックインナー部材の開口部内に落ち込む虞がないため、ロアバックアウター部材の取り付けが容易に実施でき、両部材どうしを正しい相対位置関係で結合し易くなるという効果が得られる。
【0009】
また、上記の特徴構成による車体後部構造では、ロアバックアウター部材の上端がロアバックインナー部材の開口部内に落ち込むのを規制する機能を、既存の部材であるストライカの補強板に持たせているため、ロアバックアウター部材の落ち込みを規制する手段として別部材を設ける構成に比して構造の簡素化が図られ、さらに、コスト・重量・生産性の各面で有益である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図3のI−I矢視に沿った車体後部構造を示す破断側面図である。
【図2】本発明に係る車体後部構造におけるロアバックアウター部材の取り付け状態を示す破断側面図である。
【図3】本発明に係る車体後部構造の右半分付近を示す後面図である。
【図4】本発明に係る車体後部構造の作用を示す斜視図である。
【図5】図3のV−V矢視に沿った車体後部構造を示す破断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明による車体後部構造を適用した車両の後部を概略的に示す断面図である。
図1に示された車体後部構造は、車体のアンダーボディ20の後端に、中空箱状で横長のロアバック部材2を取り付け、ロアバック部材2を車体幅方向の左右から挟むように1対のリアサイドパネル30が延出された形態を有する。ロアバック部材2の上方に形成された車体の後部開口部25は、車体のルーフ付近に設置された横向き軸心廻りで揺動可能なバックドア8によって閉鎖可能になっている。
ロアバック部材2の後方下端には、一対のステー9を介して樹脂製のバンパー10が取り付けられる。
【0012】
ロアバック部材2は、後方に開口した箱状のロアバックインナー部材3と、ロアバックインナー部材3の開口部3Mを閉じる概して平板状のロアバックアウター部材4とに分割されている。
ロアバック部材2をアンダーボディ20に取り付ける際は、図2に示すように、ロアバック部材2の開口部3Mを利用した手法で、ロアバックインナー部材3をアンダーボディ20の下方に延設されたアンダーボディ補強材20R(図3を参照のこと)の後端に結合し、その後、ロアバックアウター部材4によって開口部3Mが閉じられる。ロアバック部材2のアンダーボディ補強材20Rへの結合は、開口部3Mに進入させた溶接トーチによる溶接などで実現されるが、ボルトなどを用いた結合としてもよい。
【0013】
ロアバックインナー部材3は、概してL字状の断面を備えた下方部材3Aと、下方部材3Aの上方空間を覆うように予め結合された上方部材3Bとで構成されている。上方部材3Bは、下方部材3Aの上端から車体の前方に向けて概して水平に延設されたフランジ部3Fに溶接されている。
上方部材3Bの車体幅方向に関する中心付近は、下方に陥没するようにプレス成形されており、この陥没部を構成する概してL字状断面の後方寄りには、バックドア8を施錠するためのストライカ12が取り付けられている。上方部材3Bの下面側には、前記L字状断面の全体に亘って、やはり断面がL字状の補強板14が溶接またはボルト締めによって固定されており、ストライカ12は、これら上方部材3B及び補強板14に対してボルト(不図示)で共締めされている。
【0014】
図4に示すように、車体の幅方向に沿って延びた長尺板状のロアバックアウター部材4の取り付けでは、先ず、図2に示すように、ロアバックアウター部材4をロアバックインナー部材3に対して正しい位置に位置決めし、ロアバックインナー部材3とロアバックアウター部材4との上端部位3C,4Cどうし及び下端部位3D,4Dどうしを、車体の幅方向に沿って互いに離間配置された複数箇所の溶接によって結合し、次に、ロアバックアウター部材4の左右両端付近に形成されたネジ孔4Hに挿通したボルトBをリアサイドパネル30の縦壁部材30Aに締結する(図3及び図5をも参照のこと)。
【0015】
上述した、ロアバックアウター部材4をロアバックインナー部材3に対して正しい位置に位置決めする操作、及び、ロアバックアウター部材4とロアバックインナー部材3とを溶接する操作では、従来以下のような問題が見られた。すなわち、特に、両部材3,4の上端において、ロアバックアウター部材4の上端部位4Cがロアバックインナー部材3の上端部位3Cを車両前方側に越えてしまい、開口部3Mから車体前方向きに落ち込み易い傾向があるため、正しい相対位置関係で両部材3,4を溶接固定し難いという問題である。これは、両部材3,4の上端に形成されたフランジ状の上端部位3C,4Cが、ストライカ12の取り付け角度に起因して、水平に近い角度で傾斜状に形成されているためである。
【0016】
そこで、本発明による車体後部構造では、図2に示すように、ロアバックアウター部材4の上端を、車体前方から受け止めるための手段として、ストライカ12用の補強板14の後方側の端部に、斜め下向きに突出した突設片14P(延長部の一例)が屈曲形成されている。
【0017】
したがって、ロアバックアウター部材4をロアバックインナー部材3に対して正しい位置に位置決めする工程、及び、ロアバックアウター部材4とロアバックインナー部材3とを溶接する工程において、ロアバックアウター部材4の上端に形成されたフランジ状の部位4Cを、突設片14Pに押し当てながら操作すれば、ロアバックアウター部材4の上端が開口部3Mから車体前方向きに落ち込む現象が防止され、両部材3,4の上端のフランジ状の上端部位3C,4Cどうしの相対位置も自動的に正しく設定されるため、両部材3,4を比較的容易に正しい相対位置関係で溶接固定できるようになった。また、突設片14Pの屈曲形成によって補強板14そのものの剛性も高められている。
【0018】
補強板14に設ける突設片14Pは、図2に示すような下向きに屈曲形成された形態でもよいが、下向きに延出した被当接部位と、被当接部位から更に車両前方向きに屈曲形成された補助延出部とを備えた形態、或いは、補強板14の後端付近に下向きに突出したストライカ12の傾斜姿勢とは逆に後方に向けて次第に下降する第1屈曲部と、前記第1屈曲部の後端から上向きに延出する第2屈曲部とを設け、同第2屈曲部でロアバックアウター部材4の上端を受ける形態としてもよい。
【0019】
尚、図3及び図4に示すように、ロアバックアウター部材4の剛性を少なくとも部分的に高めるための手段として、ロアバックアウター部材4には複数のビード4B1,4B2,4B3が形成されている。これらのビード4B1,4B2,4B3は、ロアバックアウター部材4をプレス成形する際に、金型の一部にビード用の凹凸部を設けておくことで、同凹凸部に相当する部位が車両の後方向きに隆起状に突出形成されたものである。
【0020】
ビード4B1,4B2,4B3は、ロアバックアウター部材4の車両幅方向に関する中央に形成された単一の小さな第1ビード4B1と、車両幅方向に関して第1ビード4B1の外側に形成された全部で4本の最も長い第2ビード4B2と、車両幅方向に関して第2ビード4B2のさらに外側に形成された全部で8個の第3ビード4B3とからなる。
【0021】
前述した、ロアバックアウター部材4をロアバックインナー部材3に対して正しい位置に位置決めする工程、及び、ロアバックアウター部材4とロアバックインナー部材3とを溶接する工程では、ロアバックアウター部材4のフランジ状の上端部位4Cに設けられた第1ビード4B1を、突設片14Pに対して、両部材の互いに概して平行に延出された面どうしが接当するように押し当てれば、正しく位置決めされる。また、剛性を高められた第1ビード4B1が突設片14Pに押し当てられることで、ロアバック部材2の全体としての剛性も高く確保される。さらに、ビード4B1,4B2,4B3を設けることで、ロアバックアウター部材4のスプリングバック現象も抑制される。
【0022】
尚、これらのビード4B1,4B2,4B3は、いずれも、ロアバックインナー部材3への取り付け後における平面視においてジグザグ状を呈するように、ロアバックアウター部材4の上端にて、上方向きに開放された形態を有するので、例えば車外からバックドア8の下端付近などを介してロアバックインナー部材3とロアバックアウター部材4の境界付近に流れ込む水を外部に排出するための水抜き孔としても有効に機能する。
また、図1に示すように、互いに溶接されたフランジ状の上端部位3C,4Cには、ゴム製などの帯状シール16が外嵌状に取り付けられる。帯状シール16の車両後方側の端部は、バックドア8を閉鎖したときに、バックドア8の下端付近の車両前方向きの面と当接される。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、車体の後部開口部を閉鎖可能なバックドアと、記後部開口部の下部縁に沿って配置されたロアバック部材とを備え、ロアバック部材が、中空箱状で横長のロアバックインナー部材と、ロアバックインナー部材の前部をアンダーボディに取り付けるために同ロアバックインナー部材の後部に設けられた開口部と、開口部を後方から閉じるようにロアバックインナー部材に取り付けられるロアバックアウター部材とを備えた車体後部構造の改良された構成として、特にハッチバック式の乗用車や商用車に利用できる。
【符号の説明】
【0024】
2 ロアバック部材
3 ロアバックインナー部材
3M 開口部
4 ロアバックアウター部材
8 バックドア
12 ストライカ
14 補強板
14P 突設片(延長部)
20 アンダーボディ
25 後部開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の後部開口部を閉鎖可能なバックドアと、前記後部開口部の下部縁に沿って配置されたロアバック部材とを備え、
前記ロアバック部材が、中空箱状で横長のロアバックインナー部材と、前記ロアバックインナー部材の前部をアンダーボディに取り付けるために同ロアバックインナー部材の後部に設けられた開口部と、前記開口部を後方から閉じるように前記ロアバックインナー部材に取り付けられるロアバックアウター部材とを備え、
前記ロアバックインナー部材に、前記バックドアの施錠用のストライカが、前記ロアバックインナー部材の裏面に当て付けた補強板を介して取付けてあり、
前記補強板に、前記ロアバックアウター部材の上端を車体前方から受け止めるための延長部が形成されている車体後部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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