説明

車体構造

【課題】 車体に衝撃エネルギーが加わったときの乗員の保護効果を高めた車体構造を提供する。
【解決手段】 車体構造100は、車体骨格部2と、車体骨格部2と独立して形成されている車室部8を備えている。車体骨格部2は、繊維強化複合材料で形成されているとともに車幅方向を短軸とする楕円形状である。車体骨格部2の内側には、補強部材4a〜4dと支持部材10a、10bが所定の張力をもって接合されている。車室部8は支持部材10a、10bによって車体骨格部2に支持されている。車体に衝撃エネルギーが加わると楕円形状の車体骨格部の全体に衝撃が伝播して楕円形状の車体骨格部の全体が変形する。楕円形状の車体骨格部の全体で衝撃エネルギーを吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体に衝撃エネルギーが加えられたときの乗員の保護効果を高める車体構造が種々に開発されている。
【0003】
特許文献1に、車体に衝撃エネルギーが加えられたときに乗員に伝わる衝撃エネルギーを緩和する車体構造が開示されている。この技術では、乗員が乗車する車室部を、車体の下部を構成する車体骨格部から独立して形成し、車室部を車体骨格部に対して相対移動可能にすることにより、車体に衝撃エネルギーが加えられたときに乗員に伝わる衝撃エネルギーを緩和する。
【0004】
【特許文献1】特開2004−338421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に記載の車体構造は、車体に衝撃エネルギーが加えられた場合に、衝撃エネルギーが加えられた近傍の車体骨格部が局所的に変形することによって衝撃エネルギーを吸収する方式であるために、衝撃エネルギーが過大な場合には、車体骨格部が局所的に大きく変形する。
【0006】
本発明は、車体に衝撃エネルギーが加えられた場合に、車体が局所的に大きく変形することを防止し、乗員の保護効果をさらに高めた車体構造を提供することを目的とする。
本発明は、衝撃エネルギーが加えられた近傍の車体骨格部のみならず、車体骨格部の全体が変形することによって衝撃エネルギーを吸収する。車体骨格部の全体が変形することによって、車体が局所的に大きく変形する現象が生じないようにする。安全に衝撃エネルギーを吸収する車体構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車体の下部を構成する車体骨格部と、車体骨格部と独立して形成されている車室部を備えている車体構造に関する。
本発明の車体構造では、車体骨格部が繊維強化複合材料で形成されているとともに車幅方向を短軸とする楕円形状である。
【0008】
繊維強化複合材料(以下、FRP(Fiber Reinforced Plastics)と記載する)は、例えばガラス繊維等の強化繊維に流動性樹脂を含浸して硬化することによって成形される材料である。車体骨格部を楕円形状のFRPで形成すると、車体骨格部にばね特性を持たせることができる。すなわち、車体骨格部を楕円形状のFRPで形成すると、車体骨格部に衝撃エネルギーが加わったときに、その衝撃エネルギーが楕円形状のFRPの全体を変形させることに費やされる。楕円形状のFRPの全体が変形することによって楕円形状のFRPの全体で衝撃エネルギーを吸収する。車体の一部を局所的に変形させて衝撃エネルギーを吸収する従来の技術に比して、より安全に衝撃エネルギーを吸収することが可能となる。
【0009】
例えば車体の前面から衝撃エネルギーが加えられた場合には、楕円形状の車体骨格部の前面側のみならず、車体骨格部の両側面部と後面部でも変形して衝撃エネルギーを吸収する。すなわち、楕円形状のFRPのばね特性によって、楕円形状のFRPの全体が車幅方向へ広がるように変形し、衝撃エネルギーを吸収する。
車体の側面から衝撃エネルギーが加えられた場合には、楕円形状の車体骨格部の側面側のみならず、車体骨格部の前面側、後面側、ならびに衝撃エネルギーを受けていない側面側でも変形して衝撃エネルギーを吸収する。すなわち、楕円形状のFRPのばね特性によって、楕円形状のFRPの全体が車長方向へ広がるように変形し、衝撃エネルギーを吸収する。
いずれの方向からの衝撃に対しても楕円形状のFRPの全体が変形して衝撃エネルギーを吸収する。衝撃箇所の近傍が局所的に変形して衝撃エネルギーを吸収する場合に比して車体構成部材の変形量の最大量を小さく抑えることができる。
また、車室部は車体骨格部と独立して形成されているため、衝撃によって車体骨格部が変形しても車室部は影響を受けにくい。本発明の車体構造によると、車体に加わった衝撃エネルギーを楕円形状のFRPの全体に分散して吸収することができる。車体に衝撃エネルギーが加わったときの乗員の保護効果をさらに高めることができる。
【0010】
楕円形状の周方向に伸びる繊維束を樹脂で固めたFRPで車体骨格部を形成することが好ましい。
この場合、車体に加わった衝撃エネルギーを楕円形状のFRPの全体に分散して吸収することができる。さらに、平行に伸びる繊維と繊維の間にせん断力を作用させ、周方向に走るクラックを発生させることによって衝撃エネルギーを吸収することができる。極めて安全に衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0011】
強化繊維で形成されている補強部材をさらに備えていることが好ましい。この場合、補強部材の両端が、楕円形状の前記車体骨格部に所定の張力をもって接合されている。
ここでいう所定の張力は、補強部材に撓みが生じない程度の張力をいう。補強部材は、車幅方向に接合されていてもよいし、車長方向に接合されていてもよいし、両方向に接合されていてもよい。補強部材は複数本形成されていてもよい。補強部材は、強化繊維の束がロープ状に編みこまれたものであってもよいし、強化繊維の束が樹脂で固められたものであってもよい。
【0012】
車幅方向に補強部材が接合されていると、車体骨格部が車幅方向に広がるように変形するときに、補強部材に強い張力が作用する。このとき補強部材の一部が破断することによって衝撃エネルギーが吸収される。
車長方向に補強部材が接合されていると、車体骨格部が車長方向に広がるように変形するときに、補強部材に強い張力が作用する。このとき補強部材の一部が破断することによって衝撃エネルギーが吸収される。
補強部材を付加することによって、エネルギー吸収特性を調整することができる。
【0013】
強化繊維で形成されている支持部材をさらに備えていることも好ましい。この場合、その支持部材の両端が楕円形状の車体骨格部に接合されており、支持部材の張力によって、車室部を車体骨格部に支持する。
支持部材の張力は、支持部材に撓みが生じない程度の張力であればよい。支持部材は複数本形成されていてもよい。支持部材は、強化繊維の束がロープ状に編みこまれていてもよいし、強化繊維の束が樹脂で固められたものであってもよい。
【0014】
車体が急停止する場合、車室部に対して慣性力が働くため、車体骨格部の停止後も車室部は移動し続けようとする。上記の車体構造によると、衝撃エネルギーによって車体骨格部が車幅方向に広がるように変形するときに、支持部材の両端が強い張力で引き付けられる。その結果、衝撃によって車室部が車体骨格部から離れてしまうことがない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、車体に衝撃エネルギーが加えられたときに車体骨格部の全体で衝撃エネルギーを吸収し、乗員の保護効果が極めて高い車体構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
下記に説明する実施例の好ましい特徴を列記する。
(第1特徴) 車体の両側面における車体骨格部の上下間の幅が、車体の前面および後面における車体骨格部の上下間の幅よりも小さい幅で形成されている。
(第2特徴) 車体骨格部の周方向に伸びる強化繊維が連続配向されて車体骨格部が形成されている。
(第3特徴) 補強部材および支持部材の材料としてアラミド繊維を用いる。
(第4特徴) 車室部の材料としてポリカーボネートを用いる。
【実施例】
【0017】
(第1実施例)
図1に、本発明の第1実施例である車体構造100の模式的な斜視図を示す。
車体構造100は、車体の下部を構成する車体骨格部2を備えている。車体骨格部2はFRPを材料として形成されている。車体骨格部2は、車幅方向を短軸とする楕円形状に形成されている。車体骨格部2には、補強部材4a〜4dが接合されている。車長方向には1本の補強部材4aが接合されている。車幅方向には3本の補強部材4b〜4dが接合されている。車体骨格部2には、支持部材10a、10bが接合されている。支持部材10aは、車室部8の後部上方を経由している。支持部材10aの両端は、車体骨格部2に接合されている。支持部材10aの両端は、車体骨格部2に接合されている。支持部材10bは、車室部8の前方を経由している。支持部材10bの両端は、車体骨格部2に接合されている。車室部8は、支持部材10a、10bの張力によって車体骨格部2に支持されている。図示6a〜6dは、車体骨格部2に搭載される車輪を示す。車体構造100は、車体骨格部2と独立して形成されている車室部8を備えている。なお明瞭化のため、車輪6a〜6dおよび車室部8は透明視して図示している。車室部8は乗員が乗降することができる空間を備えている。車室部8の底面は補強部材4a〜4dによって支持されている。なお本実施例では車室部8の形状が卵型であるが、箱型等であってもよい。
【0018】
車体骨格部2は、例えばフィラメントワインディング工法によって製造することができる。具体的には、長尺の炭素繊維、あるいは長尺のガラス繊維を、楕円形状の型に巻き取る。次に、巻き取った強化繊維の間に流動性を有する熱硬化性樹脂を含浸した後、熱硬化する。熱硬化性樹脂にはエポキシ樹脂等を用いることができる。次に、樹脂で硬化させた強化繊維を楕円形状の型から抜き取ることによって、楕円形状の車体骨格部2を形成することができる。
【0019】
補強部材4a〜4d、支持部材10a、10bの材料には、炭素繊維、アラミド繊維等を用いることができる。ロープ状に撚ったものでもよいし、熱硬化性樹脂等で硬化することによって強度を向上させてもよい。
車室部8の材料には、鉄、アルミ等を用いることができるが、車体の軽量化を図るべくCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の材料を用いることが好ましい。
【0020】
車体構造100によると、車体の前面から衝撃エネルギーが加えられた場合には、車体骨格部2の前面から車体骨格部2の全体に衝撃エネルギーが伝播し、車幅方向へ広がるように車体骨格部2が変形する。このとき補強部材4b〜4dの一部が破断することによって衝撃エネルギーが吸収され、車室部8に加わる衝撃エネルギーが緩和される。車体の側面に衝撃エネルギーが加えられた場合にも、車体骨格部2の全体に衝撃エネルギーが伝播し、車長方向へ広がるように車体骨格部2が変形する。このとき補強部材4aの一部が破断することによって衝撃エネルギーが吸収され、車室部8に加わる衝撃エネルギーが緩和される。なお車体構造100では、通常走行中は、車体骨格部2のばね特性が働かないため、安定して走行することができる。さらに車体構造100では、FRPを車体骨格部2の材料とすることによって、車体の軽量化を図ることができ、軽量相当分の衝撃エネルギーを減少させることができる。
【0021】
図2に、車体構造100の模式的な上面図を示す。車体の前面に衝撃エネルギーが加えられた場合、図示A方向の向きで車体骨格部2に衝撃エネルギーが加わる。車体骨格部2に加わった衝撃エネルギーは、車体骨格部2の全体に伝播し、車幅方向へ広がる方向(図示B方向)に車体骨格部2が変形する。衝撃エネルギーが加えられた近傍の車体骨格部2が局所的に変形することがない。
車体の側方に衝撃エネルギーが加えられた場合、車体骨格部2に加わった衝撃エネルギーは、車体骨格部2の全体に伝播し、車長方向へ広がる方向に車体骨格部2が変形する。衝撃エネルギーが加えられた近傍の車体骨格部2が局所的に変形することがない。
【0022】
図3に、車体構造100の模式的な側面図を示す。走行中の車体骨格部2に対して図示A方向の向きの衝撃エネルギーが加わって車体が停止すると、停止後も車室部8は慣性力によって図示C方向の向きに移動しようとする。一方、衝撃エネルギーによって車体骨格部2が車幅方向へ広がるように変形すると、支持部材10a、10bの両端が強い張力で引き付けられる。このとき支持部材10bによって、車室部8の前方が走行中よりも強い力で支持されるため、車室部8が図示C方向に移動しようとする力が抑制される。さらに、衝撃エネルギーによって車室部8が上方へ移動する方向に力が加わった場合でも、車室部8の上方を支持している支持部材10aが強い張力で引き付けられることによって、車室部8が上方へ移動しようとする力が抑制される。そのため、衝撃エネルギーによって車室部8が車体骨格部2から離れてしまうことがない。
【0023】
また図3に示すように、車体の両側面における車体骨格部2の上下間の幅W2を、車体の前面および後面における車体骨格部2の上下間の幅W1、W3よりも小さい幅で形成することが好ましい。車体の両側面における車体骨格部2の上下間の幅が小さい幅で形成されていると、乗員が車室部8へ容易に乗降することができる。
【0024】
図4に、車体骨格部2の簡略図を示す。車体骨格部2では過度な衝撃エネルギーを受けたときにクラック12が発生することがある。クラック12が発生することによって衝撃エネルギーが吸収される。FRPは金属等のように均一な材料ではないため、脆性破壊を生じる。車体骨格部2に加わる衝撃は厚み方向の中立軸で最大となる。従って、図4に示すように、車体骨格部2の厚みW4の中立軸に沿ってクラック12が発生し、車体骨格部2の周方向Dに沿ってクラック12が進行する。クラック12は周方向Dに伸びる繊維と繊維の間に生じるせん断力によって発生する。過度な衝撃エネルギーを受けた場合でも、車体骨格部2の周方向Dに沿って発生するクラック12によって衝撃エネルギーが吸収されるために、車室部8は衝撃エネルギーの影響を受けにくい。
【0025】
本発明の車体構造では、車体骨格部の周方向に伸びる強化繊維が連続配向されて車体骨格部が形成されていることが好ましい。周方向に沿って伸びるクラックを発生させることによって衝撃エネルギーを吸収することができる。車室部は衝撃エネルギーの影響を受けにくい。
【0026】
本発明の車体構造では、補強部材および支持部材の材料としてアラミド繊維を用いることが好ましい。アラミド繊維を用いることによって補強部材および支持部材の強度を向上させることができる。
【0027】
本発明の車体構造では、車室部の材料としてポリカーボネートを用いることが好ましい。車室部を軽量化することができ、軽量相当分の衝撃エネルギーを減少させることができる。
【0028】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施例である車体構造100の模式的な斜視図を示す。
【図2】車体構造100の模式的な上面図を示す。
【図3】車体構造100の模式的な側面図を示す。
【図4】車体骨格部2の簡略図を示す。
【符号の説明】
【0030】
2:車体骨格部
4a〜4d:補強部材
6a〜6d:車輪
8:車室部
10a、10b:支持部材
12:クラック
W1〜W3:車体骨格部の幅
W4:車体骨格部の厚み
A:車体前面からの衝撃エネルギーが加わる方向
B:車体前面からの衝撃エネルギーで車体骨格部が変形する方向
C:車体前面からの衝撃エネルギーで車室部が移動しようとする方向
D:車体骨格部の周方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の下部を構成する車体骨格部と、その車体骨格部と独立して形成されている車室部を備えている車体構造であり、
前記車体骨格部が、繊維強化複合材料で形成されているとともに車幅方向を短軸とする楕円形状であることを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記車体骨格部が、前記楕円形状の周方向に伸びる繊維束を樹脂で固めた繊維強化複合材料で形成されていることを特徴とする請求項1の車体構造。
【請求項3】
強化繊維で形成されている補強部材をさらに備えており、
その補強部材の両端が、前記楕円形状の前記車体骨格部に所定の張力をもって接合されていることを特徴とする請求項1または2の車体構造。
【請求項4】
強化繊維で形成されている支持部材をさらに備えており、
その支持部材の両端が、前記楕円形状の前記車体骨格部に接合されており、
前記車室部が、前記支持部材の張力によって、前記車体骨格部に支持されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−23706(P2010−23706A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188443(P2008−188443)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】