説明

車体骨格部材の補強構造

【課題】ピラー等の車体骨格部材の強度を補強しかつ折れにくくすることができる補強構造を提供する。
【解決手段】ピラー13の周壁30に熱処理部40が形成されている。熱処理部40は多数の帯状硬化部50の集りからなる。帯状硬化部50は、それぞれ周壁30の長手方向に延びている。これら帯状硬化部50の長さを互いに異ならせることにより、主焼入れ領域40aと硬さ徐変領域40b,40cとが形成されている。主焼入れ領域40aは、周壁30の単位面積当たりに占める帯状硬化部50の面積の割合が、周壁30の長手方向の他の部位において帯状硬化部50が占める面積の割合よりも大きい領域である。硬さ徐変領域40b,40cは、主焼入れ領域40aから周壁30の長手方向に離れるほど帯状硬化部50の占める面積の割合が減少するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のピラー等の車体骨格部材を補強するための車体骨格部材の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディは、サイドメンバやクロスメンバあるいはピラーなどの車体骨格部材を含んでいる。例えばボディの側部を構成するピラーは、アウタパネルおよびインナパネルと、必要に応じて設けるリンフォース部材(補強材)などによって構成されている。車体骨格部材は曲げ荷重に対して十分な強度を有することが望まれている。特にピラーのようにボディの側部を構成する車体骨格部材は、車体側方から入力する衝突荷重に対して大きな強度が必要である。
【0003】
このため従来は、例えば下記特許文献1に記載されているように、高周波焼入れ装置によって車体骨格部材の一部、例えばリンフォースの平面部や稜線部に焼入れを行なうことが提案されている。このような高周波焼入れによって、車体骨格部材の曲げ強度を高めることが可能である。また特許文献2のように、レーザ焼入れ装置を用いて車体骨格部材に焼入れを行なうことも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−48567号公報
【特許文献2】特開2010−173422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術のように、高周波焼入れあるいはレーザ焼入れによって車体骨格部材の平面部に均一な焼入れ部を形成すると、焼入れ部自体の強度は高くなるが、焼入れ部の端において焼入れ部と非焼入れ部との間に大きな硬度差が生じる。このため車体側方から入力する衝突荷重を想定した場合に、焼入れ部では折れが生じにくいが、焼入れ部と非焼入れ部との境界部分に応力が集中し、折れの起点になることが考えられる。
【0006】
従って本発明の目的は、車体骨格部材の強度を高めるとともに折れにくくすることができる車体骨格部材の補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車体骨格部材の補強構造は、車体骨格部材の周壁の少なくとも一部に該周壁の長手方向に延びる熱処理部を有している。この熱処理部は、帯状に焼入れがなされた複数の帯状硬化部の集まりからなる。しかもこの熱処理部は、主焼入れ領域と、硬さ徐変領域とを有している。主焼入れ領域は、前記周壁の単位面積当たりに占める前記帯状硬化部の面積の割合が、前記周壁の長手方向の他の部位において前記帯状硬化部が占める面積の割合よりも大きい領域である。硬さ徐変領域は、熱処理部の端部に形成され、前記主焼入れ領域から前記周壁の長手方向に離れるほど前記帯状硬化部が占める面積の割合が減少するようになっている。
【0008】
車体骨格部材の一例は自動車のピラーであるが、本発明はピラー以外の車体骨格部材に適用されてもよい。また車体骨格部材は複数の鋼板を組合わせてなるものでもよいし、押出し材のように一体成形されたものでもよい。
【0009】
前記複数の帯状硬化部の一例は、それぞれレーザ焼入れによって形成されている。また前記帯状硬化部がそれぞれ前記周壁の長手方向に延びていてもよい。その場合、帯状硬化部の長さを互いに異ならせることによって、前記硬さ徐変領域を形成することができる。ピラーのように稜線部を有する車体骨格部材の場合には、稜線部に近い位置にある帯状硬化部の長さを、前記稜線部から離れた位置にある帯状硬化部の長さよりも大きくしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車体骨格部材の補強構造によれば、曲げの荷重が入力する車体骨格部材を熱処理部によって補強できるとともに、熱処理部の端部が折れの起点になることを抑制でき、車体骨格部材を折れにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】自動車のボディの一部を示す斜視図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る補強構造を有するピラーの側面図。
【図3】図2中のF3−F3線に沿うピラーの断面をレーザ焼入れ装置と共に示す図。
【図4】図2に示されたピラーの熱処理部を模式的に示す斜視図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る車体骨格部材の熱処理部を示す斜視図。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る車体骨格部材の熱処理部を示す斜視図。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る車体骨格部材の熱処理部を示す斜視図。
【図8】本発明の第5の実施形態に係る車体骨格部材の熱処理部を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の第1の実施形態に係る車体骨格部材の補強構造について、図1から図4を参照して説明する。
図1は自動車のボディ10の一部を示している。このボディ10は、車体骨格部材の一例であるサイドメンバ11と、クロスメンバ12と、ピラー13などを含んでいる。図2は、ピラー13を車体外側から見た側面図、図3はピラー13の断面図である。以下に、ピラー13を例に挙げて、車体骨格部材の補強構造について説明する。
【0013】
図2と図3に示すようにピラー13は、車体外側に位置するアウタパネル20と、車体内側に位置するインナパネル21と、必要に応じて設けるリンフォース部材(図示せず)などを含んでいる。アウタパネル20とインナパネル21は鋼板からなり、フランジ部22,23を溶接することによって互いに結合されている。図3中のW1は溶接箇所の一例を示している。このピラー13はハット形の閉断面を有している。
【0014】
図3に示されるようにピラー13は、その周壁30を構成する車体前側の縦壁31と、車体外側の側面壁32と、車体後側の縦壁33とを有している。またこのピラー13は、ピラー13の長手方向(上下方向)に沿う稜線部35,36を有している。一方の稜線部35は、車体前側の縦壁31と側面壁32とが交わる角部をなしている。他方の稜線部36は、車体後側の縦壁33と側面壁32とが交わる角部をなしている。
【0015】
本実施形態のピラー13の長手方向の一部、具体的にはピラー13の上部付近とピラー13の下部付近に、曲げ強度が特に望まれる領域S1,S2(図2に2点鎖線で示す)が存在する。これらの領域S1,S2は、ボディ10の側面方向から衝突荷重が入力したときに応力集中が生じる可能性がある。よって、ピラー13を補強するために熱処理部40が設けられている。これらの領域S1,S2をそれぞれ熱処理部40によって補強することにより、ボディ10の側面方向から入力する衝突荷重に対してピラー13の曲げ強度を高めることができる。
【0016】
前記熱処理部40はピラー13の周壁30の長手方向に沿って上下方向に延びている。図4は熱処理部40を模式的に示す斜視図である。この熱処理部40は、帯状に焼入れがなされた複数の帯状硬化部50の集まりからなる。帯状硬化部50は、それぞれ周壁30の長手方向(図2において上下方向)に延びている。しかもこの熱処理部40は、周壁30の長手方向に延びる主焼入れ領域40aと、主焼入れ領域40aの一端側に形成された第1の硬さ徐変領域40bと、主焼入れ領域40aの他端側に形成された第2の硬さ徐変領域40cとを有している。
【0017】
主焼入れ領域40aは、周壁30の単位面積当たりに占める帯状硬化部50の面積の割合が、周壁30の長手方向の他の部位において帯状硬化部50が占める面積の割合よりも大きい領域である。硬さ徐変領域40b,40cは、主焼入れ領域40aから周壁30の長手方向に離れるほど帯状硬化部50が占める面積の割合が減少するようになっている。
【0018】
図4に示されるように、周壁30の長手方向に延びる帯状硬化部50の長さを互いに異ならせることにより、主焼入れ領域40aと硬さ徐変領域40b,40cとが形成されている。しかもこれら帯状硬化部50のうち、稜線部35,36に近い位置にある帯状硬化部50aの長さを、稜線部35,36から離れた位置にある帯状硬化部50bの長さよりも大きくしている。
【0019】
帯状硬化部50は、周壁30の一部をレーザ焼入れ装置60によって帯状に焼入れすることによって形成されている。実際の帯状硬化部50は、外観上、他の部位との見分けがつきにくいが、この明細書では説明の便宜のために、図4から図8において、帯状硬化部50が実線で模式的に描かれている。
【0020】
図3に示されたレーザ焼入れ装置60は、レーザヘッド61と、レーザ発振器62と、レーザ発振器62が出力したレーザビームをレーザヘッド61に導くガイド部材63と、レーザ制御部64などを備えている。レーザヘッド61は例えばロボットアームなどに設けられている。ボディ10(図1に示す)は、図示しない保持手段によって所定位置に保持されている。
【0021】
このレーザ焼入れ装置60は、ピラー13の熱処理部40の焼入れを行なう際に、熱処理部40に向けてレーザビーム70を照射するとともに、熱処理部40の範囲内でレーザビーム70を高速スキャンする機能を有している。レーザ制御部64は、レーザビーム70を照射した箇所が焼入れ可能温度となるように、レーザ発振器62を制御する機能を有している。
【0022】
例えば図2に示す領域S1に熱処理部40を形成する場合、レーザ焼入れ装置60によって領域S1に向けてレーザビーム70を照射することにより、レーザビーム70が照射された箇所を焼入加熱温度(例えばγ鉄が生じるオーステナイト化温度)まで加熱するとともに、レーザビーム70を移動させる。こうすることにより、レーザビーム70によって局部的に加熱された箇所の熱が周囲の低温部によって急速に奪われることにより、焼入れ組織(例えばマルテンサイト)が生じる温度勾配で急冷される。こうして帯状硬化部50の集まりからなる熱処理部40が形成される。他方の領域S2の熱処理部40も同様にレーザ焼入れ装置60によって焼入れが行なわれる。
【0023】
本実施形態によれば、曲げ強度が特に必要とされる領域S1,S2に、レーザ焼入れ装置60によって熱処理部40を形成することができるため、ピラー13の曲げ強度を高めることができる。このためボディ10の側方から衝突荷重が入力したときのピラー13の変形を抑制することができる。
【0024】
しかも本実施形態の熱処理部40は、主焼入れ領域40aの両端側にそれぞれ硬さ徐変領域40b,40cが形成されているため、熱処理部40の端部において硬さが急激に変化することを抑制できる。その結果、熱処理部40の端部に応力が集中することが回避され、熱処理部40の端部が折れの起点になることを回避できる。このためボディ10の側方から障害物が衝突することを想定した場合に、ピラー13の折れが抑制され、障害物がボディ10内に進入する程度を小さくすることができる。しかもピラー13の部分焼入れによるピラー13の高強度化が図れるため、ボディ10の軽量化に寄与することができる。
【0025】
図5は本発明の第2の実施形態に係る車体骨格部材80の熱処理部81を示している。この熱処理部81は、互いに平行な多数の帯状硬化部50が互いに接近していることにより、面状に広がった外観の熱処理部81となっている。この熱処理部81は、第1の実施形態(図4)と同様に、帯状硬化部50の占める面積の割合が大きい主焼入れ領域81aと、主焼入れ領域81aから周壁30の長手方向に離れるにつれて帯状硬化部50の占める面積の割合が小さくなる硬さ徐変領域81a,81bとを有している。またこの熱処理部81は、車体骨格部材80の稜線部35,36を含む領域に形成されている。このような熱処理部81を有する車体骨格部材80は、第1の実施形態のピラー13(図4)と同様に、曲げに対して強度が大きくかつ折れにくいものである。
【0026】
図6は本発明の第3の実施形態に係る車体骨格部材80の熱処理部81を示している。この熱処理部81も、互いに平行な多数の帯状硬化部50が互いに接近していることにより、実質的に面状の外観をなしている。この熱処理部81は、稜線部35,36を含まない周壁30に形成されている。それ以外は第1および第2の実施形態(図4,図5)と共通であるため、第1および第2の実施形態と共通の部分に共通の符号を付して説明を省略する。
【0027】
図7は本発明の第4の実施形態に係る車体骨格部材90の熱処理部91を示している。この熱処理部91は、帯状硬化部50が周壁30の幅方向に延びている。この熱処理部91は稜線部35,36を含む領域に形成されている。またこの熱処理部91は、帯状硬化部50の占める面積の割合が大きい主焼入れ領域91aと、主焼入れ領域91aから周壁30の長手方向に離れるにつれて帯状硬化部50が占める面積の割合が小さくなる硬さ徐変領域91a,91bとを有している。この熱処理部91によって、稜線35,36を含む領域が補強されている。
【0028】
図8は本発明の第5の実施形態に係る車体骨格部材90の熱処理部91を示している。この実施形態の熱処理部91は、稜線部35,36を含まない周壁30の一部に形成されている。それ以外は第4の実施形態(図7)と共通であるため、第4の実施形態と共通の部分に共通の符号を付して説明を省略する。
【0029】
なお前記帯状硬化部50は、レーザ焼入れ装置以外の焼入れ手段によって形成されてもよい。また前記各実施形態では、複数の部材(アウタパネル20とインナパネル21等)を組合わせることによって車体骨格部材が形成されているが、これに限ることはなく、例えば押出し材のように一体成形された車体骨格部材に本発明が適用されてもよい。また、熱処理部の形状(パターン)や長さ、幅、配置等の具体的な態様を種々に変更して実施できることは言うまでもない。本発明は、ピラー以外の車体骨格部材、例えばサイドメンバやクロスメンバなど、要するに曲げ強度が重視される車体骨格部材に適用されてもよい。また、引張圧縮強度など焼入れにより強度向上が図れる全ての形態の部材に対して適用されてもよい。
【符号の説明】
【0030】
13…ピラー(車体骨格部材)
30…周壁
40…熱処理部
40a…主焼入れ領域
40b,40c…硬さ徐変領域
50…帯状硬化部
81…熱処理部
81a…主焼入れ領域
81b,81c…硬さ徐変領域
91…熱処理部
91a…主焼入れ領域
91b,91c…硬さ徐変領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体骨格部材の補強構造であって、
該車体骨格部材の周壁の少なくとも一部に該周壁の長手方向に延びる熱処理部を有し、
前記熱処理部は、帯状に焼入れがなされた複数の帯状硬化部の集まりからなり、かつ、
前記熱処理部は、前記周壁の単位面積当たりに占める前記帯状硬化部の面積の割合が、前記周壁の長手方向の他の部位において前記帯状硬化部が占める面積の割合よりも大きい主焼入れ領域と、
前記主焼入れ領域から前記周壁の長手方向に離れるほど前記帯状硬化部が占める面積の割合が減少する硬さ徐変領域と、
を具備したことを特徴とする車体骨格部材の補強構造。
【請求項2】
前記複数の帯状硬化部がそれぞれ焼入れによって形成された帯状硬化部であることを特徴とする請求項1に記載の車体骨格部材の補強構造。
【請求項3】
前記複数の帯状硬化部がそれぞれ前記周壁の長手方向に延びていることを特徴とする請求項1または2に記載の車体骨格部材の補強構造。
【請求項4】
前記複数の帯状硬化部の長さを互いに異ならせることによって前記硬さ徐変領域が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の車体骨格部材の補強構造。
【請求項5】
前記車体骨格部材が前記周壁の長手方向に沿う稜線部を有し、前記稜線部に近い位置にある帯状硬化部の長さが、前記稜線部から離れた位置にある帯状硬化部の長さよりも大であることを特徴とする請求項4に記載の車体骨格部材の補強構造。
【請求項6】
前記複数の帯状硬化部がそれぞれ前記周壁の幅方向に延びていることを特徴とする請求項1または2に記載の車体骨格部材の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−131326(P2012−131326A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284414(P2010−284414)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】