説明

車体骨格部材

【課題】車体骨格部材の全体に荷重を均等に分散して安定した圧縮変形を確保し、衝撃吸収を効率的にできるようにする。
【解決手段】ハット形部材3と平板部材9と互いに接合して閉断面構造のサイドメンバ1を形成する。ハット形部材3の互いに対向する対向壁部11,13と、対向壁部11,13相互をつなぐ底壁部15と、ハット形部材3のフランジ壁部5,7と平板部材9の接合壁部21,23とを溶接接合する溶接接合壁部25,27との5つの壁部に、凹凸形状部29をそれぞれ形成する。5つの壁部において互いに隣り合う一対の壁部は、一方が凹部で他方が凸部となるように互いに位相のずれた凹凸形状部29を有し、かつ溶接接合壁部25,27における一般面34からの凹凸形状部29の立ち上がり面となる傾斜面33にスポット溶接打点31を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃荷重を受けたときに圧縮変形する車体骨格部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車体骨格部材として車両前後方向に延設されるサイドメンバが、断面コ字形の両側部にフランジ面を備えたハット形部材と、ハット形部材の開口部を塞ぐ平板部材とで閉断面構造としたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
そして、このサイドメンバは、断面コ字形状部分の互いに対向する壁部及び、この各壁部をつなぐ壁部の3つの壁部に凹凸形状部を設け、車両前後方向の衝撃荷重を受けたときに、この凹凸形状部を積極的に圧縮変形させて、衝撃吸収機能を持たせている。
【特許文献1】特開平4−231268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記しサイドメンバは、その凹凸形状部を、上記3つの壁部における隣り合う壁部については、その一方に凹部を、他方に凸部をそれぞれ形成することで、衝撃吸収効率の向上を図っている。
【0005】
ところが、ハット形部材と平板部材とを接合固定するフランジ面については、平板形状であって凹凸形状部を設定していないので、車体骨格部材としてその全体に荷重を均等に分散できず、安定した圧縮(潰れ)変形が得にくく、衝撃吸収が効率的にできない恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、車体骨格部材の全体に荷重を均等に分散して、安定した圧縮変形を確保し、衝撃吸収を効率的にできるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ほぼハット型断面の第1部材と、この第1部材のフランジ壁部に接合して閉断面構造を構成する第2部材とを有する車体骨格部材であって、前記一対のフランジ壁部と、前記第1壁部,第2壁部及び第3壁部の5つの壁部における互いに隣り合う一対の壁部は、一方が凹部で他方が凸部となるように互いに位相のずれた凹凸形状部を有し、かつ前記フランジ壁部の前記凹凸形状部の傾斜部に溶接固定点を設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一対のフランジ壁部と、第1壁部,第2壁部及び第3壁部の5つの壁部における互いに隣り合う一対の壁部は、一方が凹部で他方が凸部となるように互いに位相のずれた凹凸形状を有しているので、各壁部相互の境界部分である角部の剛性が向上し、車体骨格部材が長手方向に圧縮荷重を受けたときに、凹凸形状部によって促進される圧縮変形がより安定化する。
【0009】
この際、第1部材の一対のフランジ壁部についても、第1壁部及び第2壁部に対し、互いに隣り合う一対の壁部が、一方が凹部で他方が凸部となるように互いに位相のずれた凹凸形状部を有するものとしているので、車体骨格部材が長手方向に圧縮荷重を受けたときに、その全体に荷重を均等に分散して安定した圧縮変形を確保でき、より効率的に衝撃吸収を行うことができる。
【0010】
そしてさらに、フランジ壁部の傾斜部に溶接固定点を設定することで、溶接固定点を設定するためにフランジ壁部に溶接用の専用の平坦面を形成する必要がない。このため、フランジ壁部にも凹凸形状部を形成することによる圧縮変形が有効になされ、フランジ壁部に溶接固定点を設定しても、衝撃吸収機能を充分確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態に係わる車体骨格部材としてのサイドメンバ1の一部を斜視図として示しており、このサイドメンバ1は、車両底部の車幅方向両側部にあって車両前後方向に延設されている。
【0013】
上記したサイドメンバ1は、第1部材としてのハット形断面形状を呈するハット形部材3と、このハット形部材3の開口部を塞ぐクロージング部材であって該ハット形部材3の一対のフランジ壁部5,7にスポット溶接にて接合固定される第2部材としての平板部材9とをそれぞれ備えている。
【0014】
ハット形部材3は、例えば板材をプレス成形したもので、フランジ壁部5,7のほか、該フランジ壁部5,7に隣接して互いに対向する位置にある第1壁部及び第2壁部としての対向壁部11及び13と、これら各対向壁部11,13のフランジ壁部5,7と反対側の端部同士を接続し、フランジ壁部5,7とほぼ平行に延びる第3壁部としての底壁部15とをそれぞれ備えている。
【0015】
すなわち、第1部材であるハット形部材3は、互いに対向する対向壁部11,13と、これら対向壁部11,13の一端部同士を接続する底壁部15と、前記対向壁部11,13の各一方の他端部から、各他方の端部側と反対側の方向に延びる一対のフランジ壁部5,7とをそれぞれ備えている。
【0016】
なお、図1の例では、底壁部15の両側部の角部に面取りを施すように斜面17,19を形成してあるが、この斜面17,19は特に設けなくてもよい。また、この斜面17,19は、以後、底壁部15に含まれるもの(底壁部15の一部)として説明する。
【0017】
一方、平板部材9は、1枚の平板状の板材であって、幅方向両側部近傍に位置する接合壁部21,23を、ハット形部材3のフランジ壁部5,7に重ね合わせてスポット溶接にて接合固定する。この各接合固定部分におけるハット形部材3のフランジ壁部5,7と平板部材9の接合壁部21,23とで、一対の溶接接合壁部25,27を構成している。
【0018】
そして、図1中の矢印Aで示すサイドメンバ1の長手方向の適宜位置には、凹凸形状部29を形成している。凹凸形状部29は、ハット形部材3の一対の対向壁部11,13及び底壁部15と、一対の溶接接合壁部25,27の5つの壁部にそれぞれ形成している。
【0019】
ここで、本実施形態では、サイドメンバ1の上記5つの壁部の凹凸形状部29が、サイドメンバ1の長手方向に沿って凹部と凸部とが繰り返し形成される波形状となるように屈曲形成している。その際、5つの壁部において互いに隣り合う一対の壁部は、一方が凹部で他方が凸部となるように互いに位相のずれた凹凸形状部29としている。
【0020】
例えば、互いに隣り合う一対の壁部として、溶接接合壁部25と対向壁部11についてみれば、凹凸形状部29は、溶接接合壁部25が、図1中で紙面手前側のサイドメンバ1端部から、ハット形部材3側から見て凹部,凸部の順に形成され、一方対向壁部11が、ハット形部材3側から見て凸部,凹部の順に形成されている。
【0021】
同様にして、互いに隣り合う一対の壁部として、対向壁部11と底壁部15についてみれば、凹凸形状部29は、対向壁部11が、図1中で紙面手前側のサイドメンバ1端部から、ハット形部材3側から見て凸部,凹部の順に形成され、底壁部15が、ハット形部材3側から見て凹部,凸部の順に形成されている。
【0022】
すなわち、凹凸形状部29は、サイドメンバ1の長手方向と直交する平面内の周囲を回る方向の各壁部に沿って、凹部と凸部とが交互に形成されていることになる。
【0023】
図2は、図1の溶接接合壁部25における凹凸形状部29のB−B断面図である。ただし、図1に対して凹凸形状部29の凹部及び凸部の数を多くしてある。この場合、溶接固定点であるスポット溶接打点31は、波形状(凹凸形状)の傾斜面33に設定するとともに、波形状の2周期毎に設定している。このようなスポット溶接打点31は、凹凸形状部29を含め溶接接合壁部25,27の全長にわたり適宜位置に設定している。
【0024】
なお、上記した傾斜面33は、溶接接合壁部25,27における平面状の一般面34に対して直角な方向に対し傾斜する傾斜部を構成している。したがって、溶接接合壁部25,27における一般面34からの凹凸形状部29の傾斜面33にスポット溶接打点31を設定したことになる。
【0025】
また、溶接接合壁部25,27のスポット溶接打点31を設定した凹凸形状部29には、ハット形部材3のフランジ壁部5,7と、該フランジ壁部5,7と対応する部分である平板部材9の接合壁部21,23との間に隙間35を形成している。
【0026】
このような構造のサイドメンバ1は、車両前後方向に衝撃荷重を受けることで、その長手方向に圧縮する方向の荷重を受けることになる。この際、サイドメンバ1には凹凸形状部29を設定しているので、凹凸形状部29に応力が集中して長手方向に容易に圧縮変形(軸圧壊)し、衝撃荷重を吸収する。
【0027】
ここで、本実施形態では、上記した凹凸形状部29を設定するにあたり、対向壁部11,13及び底壁部15と、溶接接合壁部25,27の5つの壁部において、互いに隣り合う一対の壁部は、一方が凹部で他方が凸部となるように互いに位相のずれた凹凸形状を有しているので、各壁部相互の境界部分である角部(本実施形態では、斜面17,19としている)の剛性が向上し、軸圧壊方向の圧縮荷重を受けたときに、凹凸形状部29によって促進される圧縮変形がより安定化する。
【0028】
例えば、互いに隣り合う一対の壁部同士で、本実施形態のように凹凸部の形状について位相がずれておらず、双方ともに凸部のみ、もしくは凹部のみとなっている場合には、角部の剛性が低く、例えば、正方形の閉断面がひし形にゆがむように変形してしまう。
【0029】
また、本実施形態では、溶接接合壁部25,27についても、隣り合う壁部である対向壁部11,13との間で、一方が凹部で他方が凸部となるように互いに位相のずれた凹凸形状部29としているので、衝撃荷重を受けたときにサイドメンバ1の全体に荷重を均等に分散して、安定した圧縮変形を確保でき、より効率的に衝撃吸収を行うことができる。
【0030】
さらに、本実施形態では、図2に示すように、溶接接合壁部25,27におけるスポット溶接打点31を、波形状の傾斜面33に設定しているので、スポット溶接打点31を設定するために溶接接合壁部25,27に溶接用の専用の平坦面を形成する必要がない。このため、凹凸形状部29を設けることによる圧縮変形が有効になされ、溶接接合壁部25,27にスポット溶接打点31を設定しても、衝撃吸収機能を充分確保することができる。
【0031】
また、本実施形態では、図2に示すように、溶接接合壁部25,27におけるスポット溶接打点31を、波形状の2周期毎に設定している。この際、スポット溶接打点31を、特に傾斜面33における傾斜長さ方向の中央に設定することで、図2中で上部のハット形部材3と同下部の平板部材9とで、スポット溶接打点31相互間の波形状に沿った長さをほぼ等しくすることができる。
【0032】
これにより、前記した圧縮方向の衝撃荷重を受けたときに、スポット溶接打点31相互間の長さが互いに同じとなるハット形部材3と平板部材9がほぼ均一に圧縮され、スポット溶接打点31への応力集中を低減でき、溶接固定状態を安定して確保したまま圧縮変形が効率よくなされるものとなる。
【0033】
なお、上記した例では、溶接接合壁部25,27におけるスポット溶接打点31を、波形状の2周期毎に設定しているが、3周期毎以上に設定してもよい。要するに、ハット形部材3と平板部材9とで、スポット溶接打点31相互間の波形状に沿った長さをほぼ等しくできればよく、このため1周期毎でも理論的には上記長さを等しくすることが可能であるが、現実的には極めて困難であるので、少なくとも2周期毎に設定することが望ましい。
【0034】
また、図2に示すように、上記溶接接合壁部25,27の凹凸形状部29におけるハット形部材3と平板部材9との間に隙間35を設けることで、複数のスポット溶接打点31の位置にばらつきが発生したときのこれら両部材3,9の変形差を吸収することができ、前記した圧縮変形を効率よく確保することができる。
【0035】
図3は、本発明の第2の実施形態を示す、図2に対応する断面図である。第2の実施形態は、図2の溶接接合壁部25,27における凹凸形状部29を、波の形成方向(図2中で右方向)に全体的に寝かせた形状としている。これにより、凹凸形状部29の凹部または凸部の頂点を境にしてその両側の傾斜面37,39の傾斜角度を互いに異ならせており、ここではスポット溶接打点31を設定している傾斜面37の傾斜角度を、傾斜面39の傾斜角度よりも緩やかにしている。
【0036】
したがって、溶接接合壁部25,27の凹凸形状部29に対してスポット溶接を行う場合には、傾斜がより緩やかな傾斜面37に対して図示しないスポット溶接ガンを接近させればよく、傾斜のきつい傾斜面39に対してスポット溶接ガンを接近させる場合に比較して作業性が向上し、生産性向上に寄与することができる。
【0037】
図4は、車体骨格部材であるサイドメンバ1の前記衝撃荷重を受けたときの反力特性図で、実線が本発明の各実施形態に対応し、破線が従来構造に対応している。これによれば、本発明の実施形態では、衝撃荷重を受けた当初は、従来に比較して反力が低減しており、特に衝突初期の荷重吸収性能が向上していることがわかる。
【0038】
なお、上記各実施形態では、車体骨格部材としてサイドメンバ1を例にとって説明したが、軸方向(長手方向)に圧縮荷重を受ける車体骨格部材であれば、サイドメンバ1に限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わるサイドメンバの一部を示す斜視図である。
【図2】図1のB−B断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態を示す、図2に対応する断面図である。
【図4】本発明と従来構造の車体骨格部材の反力特性図である。
【符号の説明】
【0040】
1 サイドメンバ(車体骨格部材)
3 ハット形部材(第1部材)
5,7 ハット形部材のフランジ壁部
9 平板部材(第2部材)
11 ハット形部材の対向壁部(第1壁部)
13 ハット形部材の対向壁部(第2壁部)
15 ハット形部材の底壁部(第3壁部)
29 凹凸形状部
31 スポット溶接打点(溶接固定点)
33 傾斜面(傾斜部)
35 隙間
37 傾斜が緩やかな傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1壁部及び第2壁部と、これら第1壁部及び第2壁部の一端部同士を接続する第3壁部と、前記第1壁部及び第2壁部の各一方の他端部から、各他方の端部側と反対側の方向に延びる一対のフランジ壁部とをそれぞれ備えるほぼハット型断面の第1部材と、この第1部材の前記フランジ壁部に接合して、前記第1部材と共に閉断面構造を構成する第2部材とを有する車体骨格部材であって、前記一対のフランジ壁部と、前記第1壁部,第2壁部及び第3壁部の5つの壁部における互いに隣り合う一対の壁部は、一方が凹部で他方が凸部となるように互いに位相のずれた凹凸形状部を有し、かつ前記フランジ壁部の前記凹凸形状部の傾斜部に溶接固定点を設定したことを特徴とする車体骨格部材。
【請求項2】
前記凹凸形状部は、車体骨格部材の長手方向に沿って凹部と凸部とが繰り返し形成される波形状を有し、この波形状の凹部と凸部とが繰り返し形成される方向の少なくとも2周期毎に前記溶接固定点を設定したことを特徴とする請求項1に記載の車体骨格部材。
【請求項3】
前記傾斜部は、前記凹部または凸部の頂点を境にしてその両側の前記傾斜部の傾斜角度を互いに異ならせ、これら互いに異なる傾斜角度の傾斜部のうち傾斜が緩やかな傾斜部に前記溶接固定点を設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の車体骨格部材。
【請求項4】
前記凹凸形状部の前記第1部材のフランジ壁部と前記第2部材の前記フランジ壁部と対応する部分との間には、隙間を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車体骨格部材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車体骨格部材は、車幅方向両側部において車両前後方向に延設されるサイドメンバであることを特徴とする車体骨格部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−64549(P2010−64549A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230932(P2008−230932)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】