説明

車椅子

【課題】シート全体を前後左右に傾け、或いは垂直軸回りに回動させることができ、嚥下障害や呼吸障害等の重度の身体障害を有する者等にとって好適な姿勢を容易に取らせることができる車椅子の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の車椅子1は、車輪3a,3bを備えた車体フレーム2と、少なくとも2軸回りに回動自在に形成された支持継手部6を介して車体フレーム2上に支持されたシートフレーム7と、車体フレーム2とシートフレーム7の間に配設されシートフレーム7を可動範囲内の任意の姿勢で支持固定する姿勢支持固定部15と、を備えた構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は搭乗者が快適な姿勢を取ることができる車椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、重度の身体障害を有する者等の中には通常の姿勢(上半身を略垂直にし、腰と膝を略直角に折り曲げて座った姿勢)で車椅子に座ることさえ困難な者がいる。例えば、嚥下障害を有する者は通常の姿勢ではスムーズに嚥下できない。また、筋ジストロフィの患者等のように呼吸障害を有する者は通常の姿勢では良好な呼吸状態を保てない。したがって、このような身体障害を有する者は、常時或いは食事時等の状況に応じてスムーズな嚥下や良好な呼吸が可能な姿勢を取る必要がある。
そこで、搭乗者の姿勢を傾けることができる車椅子として、特許文献1に示すようなリクライニング式車椅子が開発されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−62015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では以下のような課題を有していた。
(1)特許文献1のリクライニング式車椅子では、シートの背もたれ部の前後の傾きを調整して搭乗者の上半身の姿勢を前後方向にのみ傾けてやることができるが、座部のみ又は座部及び背もたれ部を前後左右に傾けることができず、例えば座部を前方へ約10°以上傾けること等ができないため上述の嚥下障害や呼吸障害等の重度の身体障害を有する者にとって好適な姿勢を取るには不十分であるという課題を有していた。
【0005】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、シート全体を前後左右に傾け、或いは垂直軸回りに回動させることができ、嚥下障害や呼吸障害等の重度の身体障害を有する者等にとって好適な姿勢を容易に取らせることができる車椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の車椅子は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の車椅子は、車輪を備えた車体フレームと、少なくとも2軸回りに回動自在に形成された支持継手部を介して前記車体フレーム上に支持されたシートフレームと、前記車体フレームと前記シートフレームの間に配設され前記シートフレームを可動範囲内の任意の姿勢で支持固定する姿勢支持固定部と、を備えた構成を有している。
【0007】
この構成により、以下のような作用を有する。
(1)シートフレームを支持継手部を中心とした2軸回り、すなわち前後左右に所定の可動範囲で任意に傾動させることができ、傾動させた状態で姿勢支持固定部により固定することができ、搭乗者にとって好適な姿勢、例えば嚥下障害を有するものであれば嚥下し易い姿勢、呼吸障害を有する者であれば良好な呼吸状態を保てる姿勢等を無理なく取らせることができる。
(2)搭乗者が有する身体障害や使用状態(食事時等)に応じて、簡単な操作でその場でシート全体を所望の傾きに容易に変更することができる。
(3)身体障害者等をシートに座らせた状態でシートフレームを傾動させその者にとって好適な姿勢が取れる傾きを探しながら調整することができる。
(4)シートフレームの前後方向と左右方向の傾きの調整を同時に一回の操作で、或いは個別に数回の動作で行うことができる。
【0008】
ここで、支持継手部としては、水平面上の2軸(x軸及びy軸)回りに回動自在なユニバーサルジョイントやフック継手、又は水平面上の2軸回りに加え垂直軸(z軸)回りに回動自在な、すなわち3軸回りに回動自在な球ジョイント等が用いられる。なお、垂直軸回りに回動自在に配設したユニバーサルジョイントを用いて3軸回りに回動自在としてもよい。支持継手部の2軸又は3軸等の回動軸は、互いに交わらないように形成してもよいが、1点で交わるように形成することが好ましい。左斜め前や右斜め後等へ傾ける動作をスムーズに行えるためである。
姿勢支持固定部としては、車体フレームとシートフレームとの間に並列に配設された2個以上のリンク等が用いられる。リンクとしては、ガスダンパーやオイルダンパー等の伸縮自在なシリンダ部や1以上の関節を有するアーム等が用いられ、シリンダ部の伸縮や関節の回動を固定するメカニカルロック機構や保持ブレーキ等の伸縮固定手段や回動固定手段等を有するものが用いられる。
シートフレームには、シートの両側部に肘等を置くアームレストやシートの前部に足を置くフットレストを設けることができる。また、アームレストやフットレストの角度を調節する角度調節部を設けることができる。これにより、シートフレームを傾けると同時にアームレストやフットレストの角度を調節することができ、確実に且つ楽に適した姿勢を取らせることができる。
【0009】
本発明の請求項2に記載の車椅子は、請求項1に記載の発明において、前記支持継手部が球ジョイントである構成を有している。
【0010】
この構成により、請求項1の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)球ジョイントによりシートフレームの重量や搭乗者の体重等の垂直方向の負荷に十分耐えることができ、耐久性に優れると共に負荷が大きくてもスムーズに傾きを変更できる。
(2)前後方向と左右方向の傾きだけでなく、垂直軸回りに回動させることができ、可動範囲が広く種々の姿勢に対応できる。
【0011】
本発明の請求項3に記載の車椅子は、請求項1又は2に記載の発明において、前記車体フレームに立設され前記シートフレームを支持する支柱部と、前記支柱部の上端部又は下端部若しくは中間部に配設された前記支持継手部と、を備えた構成を有している。
【0012】
この構成により、請求項1又は2の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)所定長さの支柱部を設けることで、シートの座面を所定高さに形成することができると共に、車体フレームとシートフレームの間に姿勢支持固定部を設けるための十分な空間を形成することができる。
【0013】
ここで、支持継手部は支柱部の上端部に設け、シートの座面に近い位置に設けることが好ましい。シートフレームを傾ける際、特に搭乗者が座った状態で傾ける際の安定性に優れるためである。
支柱部にラックピニオンやネジ機構、ガスダンパー等を用いた高さ調整手段を設けることにより、シートフレームの座面等の高さを搭乗者等に合わせて調整することもできる。
【0014】
本発明の請求項4に記載の車椅子は、請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の発明において、前記支持継手部が前記シートフレームの略重心を通る垂線上に配設された構成を有している。
【0015】
この構成により、請求項1乃至3の内いずれか1項の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)搭乗者がシートに座った状態でシートフレームを傾ける操作を行う際に、姿勢支持固定部によるシートフレームの固定を解除した時に、搭乗者の体重等でシートフレームが不意に急に傾くことを防ぐことができる。
(2)介助者等がシートフレームに固定されたハンドル等を押したり引いたりしてシートフレームを傾ける操作を少ない労力でスムーズに行うことができる。
【0016】
ここで、支持継手部はシートフレームの重心より前方に設けてもよい。シートフレームの固定を解除した際に体重等で急に傾いても、背もたれ部がある後方へ傾くので、搭乗者がシートから投げ出されるのを防ぐことができる。
【0017】
本発明の請求項5に記載の車椅子は、請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の発明において、前記姿勢支持固定部による支持固定を手動で解除する手動解除レバーを備えた構成を有している。
【0018】
この構成により、請求項1乃至4の内いずれか1項の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)手動解除レバーを操作するだけで姿勢支持固定によりシートフレームの固定と固定解除を切り換えることができ、シートフレームを傾ける操作を少ない労力でスムーズに行うことができる。
【0019】
本発明の請求項6に記載の車椅子は、請求項1乃至5の内いずれか1項に記載の発明において、前記姿勢支持固定部が一端部及び他端部が少なくとも2軸回りに回動自在に形成された結合継手部を介して前記車体フレーム及び前記シートフレームに各々結合された少なくとも2個の伸縮自在なシリンダ部を備え、各々の前記シリンダ部が伸縮固定手段を備えた構成を有している。
【0020】
この構成により、請求項1乃至5の内いずれか1項の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)各々のシリンダ部を伸縮させることでシートフレームを傾動させることができ、各々のシリンダ部の伸縮を固定するだけで傾動した状態で強固に固定することができる。
【0021】
ここで、結合継手部としては、ユニバーサルジョイント、球ジョイント、フック継手等が用いられる。
なお、少なくとも2個のシリンダ部を備えているので、支持継手部として2軸回りに回動自在なものを用いた場合は、シートフレームを所望の姿勢で確実に固定できる。支持継手部として3軸回りに回動自在なものを用いた場合は、3個以上のシリンダ部を用いることで、シートフレームを所望の姿勢で確実に固定できる。
伸縮固定手段としては、各々のシリンダ部に一体に配設されたメカニカルロックや保持ブレーキ等が用いられる。各々の伸縮固定手段は、上述の手動解除レバー等を用いて同時に固定及び固定解除することができ、全てのシリンダ部について同時にその伸縮を固定及び固定解除することができる。これにより、シートフレームの傾き調整操作をスムーズに行うことができる。
シリンダ部の配置としては、シリンダ部の向きが互いに平行でなく且つ端部が同一の点にないもの等が少ない個数で自由度が高く且つ安定性に優れることから好適に用いられる。なお、シリンダ部を左右対称に配設する場合は、対称な一対のシリンダ部に対して平行でないシリンダ部が少なくとも1個以上設けられる。
【0022】
本発明の請求項7に記載の車椅子は、請求項6に記載の発明において、前記支持継手部が3軸回りに回動自在に形成され、前記姿勢支持固定部が少なくとも3個の前記シリンダ部を備えた構成を有している。
【0023】
この構成により、請求項6の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)支持継手部として3軸回りに回動自在な球ジョイント等を用いた場合であっても、少なくとも3個のシリンダ部を用いることで、シートフレームを前後方向及び左右方向に傾動させ、垂直軸回りに回動させることができ、所望の姿勢で確実に固定できる。
【0024】
本発明の請求項8に記載の車椅子は、請求項6又は7に記載の発明において、前記シリンダ部が前記支持継手部を介して左右対称に配設された構成を有している。
【0025】
この構成により、請求項6又は7の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)シリンダ部が左右対称に配設されているので、シートフレームを安定して支持固定することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本発明の車椅子によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)シートフレームを支持継手部を中心とした2軸回りに所定の可動範囲で任意に傾動させることができ、傾動させた状態で姿勢支持固定部により固定することができ、嚥下障害や呼吸障害等の重度の身体障害者にとって好適な姿勢を無理なく取らせることができる車椅子を提供することができる。
(2)搭乗者が有する身体障害や使用状態(食事時等)に応じて、簡単な操作でその場でシート全体を所望の傾きに容易に変更することができる簡易性に優れた車椅子を提供することができる。
(3)身体障害者等をシートに座らせた状態でシートフレームを傾動させその者にとって好適な姿勢が取れる傾きを探しながら調整することができる傾き調整が容易な車椅子を提供することができる。
(4)シートフレームの前後方向と左右方向の傾きの調整を同時に一回の操作で、或いは個別に数回の動作で行うことができる操作性に優れ傾き調整が容易な車椅子を提供することができる。
【0027】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)球ジョイントによりシートフレームの重量や搭乗者の体重等の垂直方向の負荷に十分耐えることができ、耐久性に優れると共に負荷が大きくてもスムーズに傾きを変更できる車椅子を提供することができる。
(2)前後方向と左右方向の傾きだけでなく、垂直軸回りに回動させることができ、可動範囲が広く種々の姿勢に対応できると共に座部への乗り降りがし易く利便性に優れる車椅子を提供することができる。
【0028】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)所定長さの支柱部を設けることで、シートの座面を所定高さに形成することができると共に、車体フレームとシートフレームの間に姿勢支持固定部を設けるための十分な空間を形成することができ姿勢支持固定部を無理なく配置できる車椅子を提供することができる。
【0029】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の内いずれか1項の効果に加え、
(1)姿勢支持固定部によるシートフレームの固定を解除した時に、搭乗者の体重等でシートフレームが不意に急に傾くことを防ぐことができる安定性及び安全性に優れた車椅子を提供することができる。
(2)シートフレームを傾ける操作を少ない労力でスムーズに行うことができる操作性に優れた車椅子を提供することができる。
【0030】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の内いずれか1項の効果に加え、
(1)手動解除レバーを操作するだけで姿勢支持固定によりシートフレームの固定と固定解除を切り換えることができ、シートフレームを傾ける操作を少ない労力でスムーズに行うことができる車椅子を提供することができる。
【0031】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1乃至5の内いずれか1項の効果に加え、
(1)各々のシリンダ部を伸縮させることでシートフレームを傾動させることができ、各々のシリンダ部の伸縮を固定するだけで傾動した状態で強固に固定することができる車椅子を提供することができる。
【0032】
請求項7に記載の発明によれば、請求項6の効果に加え、
(1)支持継手部として3軸回りに回動自在な球ジョイント等を用いた場合であっても、少なくとも3個のシリンダ部を用いることで、所望の姿勢で確実に固定できる車椅子を提供することができる。
【0033】
請求項8に記載の発明によれば、請求項6又は7の効果に加え、
(1)シリンダ部が左右対称に配設されているので、シートフレームを安定して支持固定することができる安定性に優れた車椅子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の一実施の形態について、図1乃至図4を用いて説明する。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1における車椅子の要部側面図であり、図2は図1のA−A線の要部矢視断面図である。なお、図2においては説明をわかり易くするために座部は破線で記載し背もたれ部は図示を省略している。
図中、1は実施の形態1における車椅子、2は車体フレームである。車体フレーム2は丸型鋼棒等からなる一対のサイドフレーム部材2aの略中央部及びその後部を丸型鋼棒等からなる中央連結部材2bと後部連結部材2cとで連結して形成されている。3a,3bは車体フレームの各サイドフレーム部材2aの前後に配設された前輪及び後輪(車輪)、4は後輪3bに添設された後輪ストッパであり、レバー4aを傾動させるとストッパ体4bが後輪3bに圧接し回動を止めることができる。5は中央連結部材2bの中央部に立設固定された円柱状の支柱部、6は支柱部5の上端部に配設され後述のシートフレームの略重心を通る垂線上に配設された球ジョイントからなる支持継手部、6aは支持継手部6の球体部、6bは球面状の内面を有し球体部6aに嵌合した嵌合部、7は支持継手部6を介して支柱部5の上端部に支持固定された略L字状のシートフレームである。シートフレーム7は丸型鋼管等からなる一対のL字状サイドフレーム部材7a及び一対の背もたれフレーム部材7bの所定部を丸型鋼棒等からなる上部横架部材7cや下部横架部材7d、及びその他の図示しない横架部材や継手固定板7e(図2参照)等で連結して形成されている。8はシートフレーム7の座面に配設された座部8aと背もたれ面に配設された背もたれ部8bとを有するシートであり、座部8aは板状支持体の上面にクッションを配設して形成され、背もたれ部8bは背もたれフレーム部材7b間にクッションを張設して形成されている。
【0035】
図中、9はシートフレーム7の背もたれフレーム部材7bの所定高さに軸着されたアームレストフレーム、10はアームレストフレーム9に固定されたアームレスト、11はアームレスト角度可変機構である。アームレスト角度可変機構11は、支軸11aを中心として回動するアームレストフレーム9の端部に突設された固定軸11bを有し、固定軸11bを半円板11cに形成された固定孔11dに挿入することでアームレスト10を所定の角度で固定することができる。12はシートフレーム7の前端部に軸着されたフットレストフレーム、13はフットレストフレーム12の先端部に配設されたフットレスト、14はフットレスト角度可変機構である。フットレスト角度可変機構14は、支軸14aを中心として回動するフットレストフレーム12の支軸14aから所定長さ離れた位置に回動軸14bで軸着された係止体14cを有し、係止体14cに並設された複数の凹溝部14dの内、所定の凹溝部14dを係止ピン14eに係止することでフットレストフレーム12を所定の角度で、及びフットレスト13の所定の位置で固定することができる。
【0036】
図中、15は姿勢支持固定部であり、左右対称に配設された一対の内側シリンダ部16a,16bと左右対称に配設された一対の外側シリンダ部17a,17bの合計4個のシリンダ部とそれらの両端部を車体フレーム2及びシートフレーム7に結合する後述の結合継手部とで構成されている。結合継手部はピストン側結合継手部18とシリンダ側結合継手部19とを有し、内側シリンダ部16a,16bの上端部(ピストンの端部)はピストン側結合継手部18を介してシートフレーム7の下部横架部材7dに結合され、下端部(シリンダの端部)はシリンダ側結合継手部19を介して車体フレーム2の中央連結部材2bに結合されている。外側シリンダ部17a,17bの上端部(ピストンの端部)はピストン側結合継手部18を介してシートフレーム7のL字状サイドフレーム部材7aに結合され、下端部(シリンダの端部)はシリンダ側結合継手部19を介して車体フレーム2のサイドフレーム部材2aの後端部近傍に結合されている。ピストン側結合継手部18及びシリンダ側結合継手部19の詳細については後述する。
【0037】
図3は手動開放レバー及び伸縮固定部の動作を説明するための説明図である。
図中、21はシートフレーム7の上部横架部材7cに固定された一対の手動開放レバー、22はシリンダ部16a,16b,17a,17bのシリンダ23aに配設されたピストン23bを固定する伸縮固定部、24は手動開放レバー21から伸縮固定部22の可動部25に接続されたワイヤ、26はワイヤチューブである。なお、本実施の形態1においては、伸縮固定部22を有するシリンダ部16a,16b、いわゆるメカニカルロックを用いた場合について説明する。
手動開放レバー21を握らない状態では常にロック(メカニカルロック機構)が作動しており、例えばシリンダ23a内に配設された図示しないコイルばねのねじり力を用いてピストン23bの移動が固定されると共に、手動開放レバー21を矢印の方向に握ることでワイヤ24が引っ張られると可動部25が可動してコイルばねの内径を大きくし、ピストン23bのロックを解除してシリンダ部16a,16b,17a,17bが自由に伸縮する。なお、メカニカルロックを用いることでロック及びロック解除の応答性が良く操作性に優れ、強固且つ確実にロックできるので安定性及び安全性に優れる。なお、伸縮固定部22としてはこれに限られるものではなく、摩擦力による保持ブレーキを用いることができる。この場合も手動開放レバー21を握らない状態で常時ロックし、握った場合にロックが解除されるように構成される。
【0038】
図4(a)はシリンダ側結合継手部の要部斜視図であり、図4(b)はピストン側結合継手部の要部斜視図である。
図4(a)において、31はシリンダ23aの下端部に溶接等で固定される略コ字状のシリンダ固定部材、32は車体フレーム2の中央連結部材2b等に溶接等で固定される略コ字状のフレーム固定部材、33は連結回動部材、34は連結回動部材33の一端部をシリンダ固定部材31の対向壁間に軸着する第1の回動軸、35は連結回動部材33の他端部をフレーム固定部材32の対向壁間に軸着する第2の回動軸である。
図4(b)において、36はピストン23bの上端部にナットによる螺着等で固定される略コ字状のピストン固定部材、37はシートフレーム7の下部横架部材7d等に溶接等で固定される略コ字状のフレーム固定部材、38は連結回動部材、39は連結回動部材38の一端部をピストン固定部材36の対向壁間に軸着する第3の回動軸、40は連結回動部材38の他端部をフレーム固定部材37の対向壁間に軸着する第4の回動軸である。
なお、第1の回動軸34と第2の回動軸35、及び、第3の回動軸39と第4の回動軸40は互いに交わらないねじれの位置に配設されている。
【0039】
以上のように構成された本実施の形態1における車椅子1について、その使用方法を図1乃至図4を用いて説明する。
まず、シート8の座部8aに身体障害者等を着座させ、アームレスト10に肘及び下腕を置き、フットレスト13に足を置く。次に、左右の後輪ストッパ4で後輪3bを固定する。そして、介護者等は車椅子1の後部でシートフレーム7の上部横架部材7cに固定された一対の手動開放レバー21を握る。これにより、全てのシリンダ部16a,16b,17a,17bの伸縮固定部22が解除され、シートフレーム7は車体フレーム2に対して、支持継手部6を中心として前後方向、左右方向に傾動自在、及び支柱部5の軸回り方向に回動自在となる。介護者等は手動開放レバー21と共に上部横架部材7等を握ってシートフレーム7を押したり引いたりしてその傾き等を搭乗した身体障害者等の様子を確認しながら適した傾き等に調整する。調整した後、手動開放レバー21から手を離すことにより、全てのシリンダ部16a,16b,17a,17bの伸縮固定部22が作動し、調整した傾きでシートフレーム7が固定される。次に、シートフレーム7の傾き等に合わせて、アームレスト10やフットレスト13の角度や位置を搭乗者の姿勢や合わせて変更する。
【0040】
以上のように本実施の形態1における車椅子は構成されているので、以下のような作用を有する。
(1)前輪3a及び後輪3bを備えた車体フレーム2と、少なくとも2軸回りに回動自在に形成された支持継手部6を介して車体フレーム上に支持されたシートフレーム7と、車体フレーム2とシートフレーム7の間に配設されシートフレーム7を可動範囲内の任意の姿勢で支持固定する姿勢支持固定部15と、を備えているので、シートフレーム7を支持継手部6を中心とした3軸回り、すなわち前後左右に所定の可動範囲で任意に傾動させることができ、垂直軸回りに回動させることができ、傾動及び回動させた状態で姿勢支持固定部15により固定することができ、搭乗者にとって好適な姿勢、例えば嚥下障害を有するものであれば嚥下し易い姿勢、呼吸障害を有する者であれば良好な呼吸状態を保てる姿勢等を無理なく取らせることができる。
(2)姿勢支持固定部15の複数のシリンダ部16a,16b,17a,17bが手動解除レバー21の操作で解除される伸縮固定部22(伸縮固定手段)を備えているので、搭乗者が有する嚥下障害や呼吸障害等の身体障害や使用状態(食事時等)に応じて、簡単な操作でその場でシート8全体を所望の傾きに容易に変更し、固定することができる。
(3)身体障害者等をシート8に座らせた状態でシートフレーム7を傾動させその者にとって好適な姿勢が取れる傾きを探しながら調整することができると共に、シートフレーム7の前後方向と左右方向の傾きの調整を同時に一回の操作ででき、目的とする姿勢まで直線的に1回の操作で傾けることができ、また個別に数回の操作で行うこともでき、操作性に優れる。
(4)支持継手部6として3軸(x軸、y軸、z軸)回りに回動自在な球ジョイントを備えているので、シートフレーム7の重量や搭乗者の体重等の垂直方向の負荷に十分耐えることができ、耐久性に優れると共にスムーズに傾きを変更でき、且つ、前後方向と左右方向の傾きだけでなく、垂直軸回りに回動させることができ、可動範囲が広く種々の姿勢に対応できる。
(5)支柱部5を備えているので、シート8の座部8aを所定高さに形成することができると共に、車体フレーム2とシートフレーム7の間に姿勢支持固定部15のシリンダ部16a,16b,17a,17bを設けるための十分な空間を形成することができる。
(6)支持継手部6がシートフレーム7の略重心を通る垂線上に配設されているので、搭乗者がシート8に座った状態でシートフレーム7を傾ける操作を行う際に、姿勢支持固定部15によるシートフレーム7の固定を解除した時に、搭乗者の体重等でシートフレーム7が不意に急に傾くことを防ぐことができる。また、介助者がシートフレーム7に固定された上部横架部材7c等を押したり引いたりしてシートフレーム7を傾ける操作を少ない労力でスムーズに行うことができる。
(7)左右対称に配設された4個のシリンダ部16a,16b,17a,17bを備えているので、シートフレーム7を前後方向及び左右方向に傾動させ、垂直軸回りに回動させることができ、シートフレーム7を所望の姿勢で安定して確実に支持固定することができる。
(8)内側シリンダ部16a,16bと外側シリンダ部17a,17bとが左右対称に配設されると共に側面から見て略90°の角度をなしてX字状に配置されているので、安定性に優れ、且つ可動範囲を広くとりながらシート8の傾動又は回動に伴うシリンダ部同士の干渉を防止できる。また、シリンダ部16a,16b,17a,17bが支柱部5や支持継手部6の後部側に配設されているので、搭乗者の脚等がシリンダ部部16a,16b,17a,17bに接触するのを防止でき安全性に優れる。
(9)アームレスト10やフットレスト13を備えると共に、アームレスト角度可変機構11及びフットレスト角度可変機構14を備えているので、シートフレーム7を傾けると同時にアームレスト10やフットレスト13の角度や位置を調節することができ、搭乗者に確実に且つ楽に適した姿勢を取らせることができる。
【0041】
(実施の形態2)
図5(a)は実施の形態2における車椅子の支柱部の要部正面図であり、図5(b)は支持継手部の要部斜視図である。
図中、41は車体フレームの中央連結部材2bとシートフレームの継手固定板7eとの間に立設された上部支柱部41aと下部支柱部41bとからなる支柱部、42は支柱部41の中間部に配設されたユニバーサルジョイントからなる支持継手部、43は支持継手部42の立方体状の連結体、44aは上部支柱部41aの下端部を連結体43に軸着するx軸回動軸、44bは下部支柱部41bの上端部を連結体43に軸着するy軸回動軸である。x軸回動軸44aとy軸回動軸44bは連結体43の中心で直交するように配設されている。
【0042】
以上のように構成された実施の形態2における車椅子が実施の形態1と異なる点は、球ジョイントからなる支持継手部6に替えてユニバーサルジョイントからなる支持継手部42を備えた点である。この相異により、実施の形態1の作用に加え、シートフレームを支持継手部のx軸回動軸44a及びy軸回動軸44bを中心とした2軸回り、すなわち前後左右に所定の可動範囲で任意に傾動させることができるという作用を有する。
【0043】
(実施の形態3)
図6は実施の形態3における車椅子の要部側面図である。
図中、2は車体フレーム、5は支柱部、6は支持継手部、8はシート、10はアームレスト、11はアームレスト角度可変機構、13はフットレスト、14はフットレスト角度可変機構、15は姿勢支持固定部、16aは内側シリンダ部、17aは外側シリンダ部、18はピストン側結合継手部、19はシリンダ側結合継手部であり、これらは実施の形態1において説明したものと同様のものであるので同一の符号を付けて説明を省略する。51は実施の形態3における車椅子、52は座部フレーム部材52aと背もたれフレーム部材52bとにより構成されるシートフレーム、53は座部フレーム部材52aの座部8aの後部側に固定され背もたれフレーム部材52bの下端部が軸着された背もたれ軸支部、54は背もたれ部8bを傾動させる背もたれ用シリンダ部である。背もたれ用シリンダ部54の上端部(ピストンの端部)は背もたれフレーム部材52bの背面に軸着され、下端部(シリンダの端部)は座部フレーム部材52aの後端部に軸着されている。
なお、実施の形態1と異なり、内側シリンダ部16aの上端部はピストン側結合継手部18を介して座部フレーム部材52aの横架部材52c又は座部フレーム部材52aに固定された座板等に結合されている。
背もたれ用シリンダ部54は内側シリンダ部16や外側シリンダ部17aと同様のものであり、図3に示す伸縮固定部22を備え、図示しない手動開放レバーにより伸縮及びロックされ、背もたれ部8bを傾動させ所定の傾斜角度で固定することができる。なお、背もたれ部8bの傾動手段としてはこれに限られるものではなく、ラチェットを用いたリクライニング機構等、種々の手段を用いることができる。
【0044】
以上のように本実施の形態3における車椅子51は構成されているので、実施の形態1の作用に加え、シート8を前後左右に傾動、垂直軸回りに回動させることができると共に、背もたれ部8bを前後に傾動(リクライニング)させることができるので、搭乗する者が有する種々の身体障害や容態等に広く対応でき、介護もし易く使用性に優れるという作用を有する。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明は車椅子に関し、特に本発明によればシート全体を前後左右に傾け、或いは垂直軸回りに回動させることができ、嚥下障害や呼吸障害等の重度の身体障害を有する者等にとって好適な姿勢を容易に取らせることができる車椅子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施の形態1における車椅子の要部側面図
【図2】図1のA−A線の要部矢視断面図
【図3】手動開放レバー及び伸縮固定部の動作を説明するための説明図
【図4】(a)シリンダ側結合継手部の要部斜視図(b)ピストン側結合継手部の要部斜視図
【図5】(a)実施の形態2における車椅子の支柱部の要部正面図(b)支持継手部の要部斜視図
【図6】実施の形態3における車椅子の要部側面図
【符号の説明】
【0047】
1 車椅子
2 車体フレーム
2a サイドフレーム部材
2b 中央連結部材
2c 後部連結部材
3a 前輪(車輪)
3b 後輪(車輪)
4 後輪ストッパ
4a レバー
4b ストッパ体
5 支柱部
6 支持継手部
6a 球体部
6b 嵌合部
7 シートフレーム
7a L字状サイドフレーム部材
7b 背もたれフレーム部材
7c 上部横架部材
7d 下部横架部材
7e 継手固定板
8 シート
8a 座部
8b 背もたれ部
9 アームレストフレーム
10 アームレスト
11 アームレスト角度可変機構
11a 支軸
11b 固定軸
11c 半円板
11d 固定孔
12 フットレストフレーム
13 フットレスト
14 フットレスト角度可変機構
14a 支軸
14b 回動軸
14c 係止体
14d 凹溝部
14e 係止ピン14e
15 姿勢支持固定部
16a,16b 内側シリンダ部
17a,17b 外側シリンダ部
18 ピストン側結合継手部
19 シリンダ側結合継手部
21 手動開放レバー
22 伸縮固定部
23a シリンダ
23b ピストン
24 ワイヤ
25 可動部
26 ワイヤチューブ
31 シリンダ固定部材
32 フレーム固定部材
33 連結回動部材
34 第1の回動軸
35 第2の回動軸
36 ピストン固定部材
37 フレーム固定部材
38 連結回動部材
39 第3の回動軸
40 第4の回動軸
41 支柱部
41a 上部支柱部
41b 下部支柱部
42 支持継手部
43 連結体
44a x軸回動軸
44b y軸回動軸
51 車椅子
52 シートフレーム
52a 座部フレーム部材
52b 背もたれフレーム部材
52c 横架部材
53 背もたれ軸支部
54 背もたれ用シリンダ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を備えた車体フレームと、少なくとも2軸回りに回動自在に形成された支持継手部を介して前記車体フレーム上に支持されたシートフレームと、前記車体フレームと前記シートフレームの間に配設され前記シートフレームを可動範囲内の任意の姿勢で支持固定する姿勢支持固定部と、を備えていることを特徴とする車椅子。
【請求項2】
前記支持継手部が球ジョイントであることを特徴とする請求項1に記載の車椅子。
【請求項3】
前記車体フレームに立設され前記シートフレームを支持する支柱部と、前記支柱部の上端部又は下端部若しくは中間部に配設された前記支持継手部と、を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車椅子。
【請求項4】
前記支持継手部が前記シートフレームの略重心を通る垂線上に配設されていることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の車椅子。
【請求項5】
前記姿勢支持固定部による支持固定を手動で解除する手動解除レバーを備えていることを特徴とする請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の車椅子。
【請求項6】
前記姿勢支持固定部が一端部及び他端部が少なくとも2軸回りに回動自在に形成された結合継手部を介して前記車体フレーム及び前記シートフレームに各々結合された少なくとも2個の伸縮自在なシリンダ部を備え、各々の前記シリンダ部が伸縮固定手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至5の内いずれか1項に記載の車椅子。
【請求項7】
前記支持継手部が3軸回りに回動自在に形成され、前記姿勢支持固定部が少なくとも3個の前記シリンダ部を備えていることを特徴とする請求項6に記載の車椅子。
【請求項8】
前記シリンダ部が前記支持継手部を介して左右対称に配設されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の車椅子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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