説明

車載レーダのアンテナ軸調整装置

【課題】電磁波の送信回路および受信回路を有するアンテナと、その送信波および受信波を処理してターゲットとの距離・角度などを計測する信号処理部と、を備える車載レーダのアンテナ軸調整装置において、アンテナ軸を簡単かつ短時間に調整できるようにする。
【解決手段】車両の中心線に対するアンテナ軸のズレ角度を所定値A以内に収めるべく調整するための機械的な手段と、特定の指示操作によりアンテナ軸の調整モードを設定する手段(S2)と、調整モードが設定されるとアンテナ軸調整用の基準反射板に対して電磁波の送受信を行うことによりアンテナ軸のズレ角度を計測する手段(S3)と、この計測値をアンテナ軸のズレ角度補正量としてメモリに設定する手段(S5)と、通常のレーダ動作時に計測されるターゲットとの角度をメモリの設定値に基づいて補正する手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ACCシステム等に好適な車載レーダのアンテナ軸調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載レーダは、車両の前方に存在するターゲット(先行車や障害物)との距離・方向・相対速度を計測するセンサとして、ACC(Adaptive Cruse Control:車間距離制御)システムのほか、CMS(Collision Mitigation Brake System:衝突被害軽減システム)等に用いられる(特許文献1〜特許文献5)。このような車載レーダ装置については、測定精度を確保する上から、アンテナ軸(アンテナの送信軸)の方向を車両の中心線方向と平行に合わせるため、車両の製造ラインなどにおいて、車体に対する取付角度を正しく調整することが要求される。
【特許文献1】特開2005−134266号
【特許文献2】特開2005−082124号
【特許文献3】特開2003−205804号
【特許文献4】特開平10−272963号
【特許文献5】特開平11−151950号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の場合、車載レーダ装置に調整用ボルトが備えられ、作業員は、テスタを用いてアンテナ軸の車両中心線方向に対するズレ角度に相応する表示を確認しながら、調整用ボルトを回さなければならないため、調整が難しく長時間を要する。アンテナ軸のズレ角度は、例えば、±0.1deg以内に抑えることが要求される。
【0004】
この発明は、このような不具合を改善するための有効な手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、電磁波の送信回路および受信回路を有するアンテナと、その送信波および受信波を処理して車両の前方に存在するターゲットとの距離・角度などを計測する信号処理部と、を備える車載レーダのアンテナ軸調整装置において、車両の中心線に対するアンテナ軸のズレ角度を所定値A以内に収めるべく調整するための機械的な手段と、車両の前方にアンテナ軸調整用の基準反射板を反射面の中心線が車両の中心線方向をむく配置状態に設定する手段と、特定の指示操作によりアンテナ軸の調整モードを設定する手段と、調整モードが設定されるとアンテナ軸調整用の基準反射板に対して電磁波の送受信を行うことにより車両の中心線に対するアンテナ軸のズレ角度を計測する手段と、この計測値をアンテナ軸のズレ角度補正量としてメモリに設定する手段と、調整モード以外のレーダ動作時に計測されるターゲットとの角度をメモリの設定値に基づいて補正する手段と、を備えることを特徴とする。
【0006】
第2の発明は、第1の発明に係るアンテナ軸調整装置において、前記アンテナ軸のズレ角度補正量が所定値A以内でないときにアンテナ軸のズレ角度補正量がNGであることを表示する手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明に係るアンテナ軸調整装置において、前記機械的な手段は、車両の前面に固定されるブラケットと、ブラケットに車載レーダを取付角度が調整可能に支持する機構と、この機構を操作するための調整用ボルトと、アンテナ軸のズレ角度が所定値A以内かどうかを確認するための手段としてブラケットと車載レーダとの間に設定される位置合わせ用の目印と、を備えることを特徴する。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明においては、アンテナ軸の調整モードが設定されると、アンテナ軸調整用の基準反射板に対し、電磁波を送受信することにより、アンテナ軸のズレ角度が計測され、アンテナ軸のズレ角度補正量としてメモリに設定される。そして、アンテナ軸の調整モード以外のレーダ動作時においては、アンテナの送信波および受信波に基づいて、車両の前方に存在するターゲットとの距離・角度などが計測されるが、ターゲットの角度については、メモリの設定値(アンテナ軸のズレ角度補正量)を加えて補正されるので、レーダ測定精度を確保することができる。調整モードの設定時においては、必要な場合、機械的な手段を操作することでアンテナ軸の方向合わせ(アンテナの取付角度の調整)が行われるものの、アンテナ軸のズレ角度を所定値A以内に収めるだけで済む。つまり、作業者は、アンテナ軸のズレ角度を厳密に調整する必要がなく、アンテナ軸の調整を簡単かつ短時間に処理することが可能となる。
【0009】
第2の発明においては、「NG」が表示されると、作業者は、機械的な手段に拠るアンテナ軸の調整を行うことにより、アンテナ軸のズレ角度補正量を所定値A以内の値に設定することができる。
【0010】
第3の発明においては、車載レーダの取付角度は、調整用ボルトを操作することより調整される。その際、目印に拠り、車載レーダとブラケットとの位置合わせ度合いが推定可能となり、これに応じて調整用ボルトを操作することにより、車載レーダの取付角度を簡単かつ容易に調整することができる。つまり、目印に拠り、アンテナ軸のズレ角度を所定値A以内に収める調整が簡単かつ容易に行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図に基づいて、この発明の実施形態に係る車載レーダのアンテナ軸調整装置を説明する。図1において、10は車両であり、11は車載レーダである。車載レーダ11は、車両の前面において、車両の中心線mから水平方向へ平行移動するオフセット位置に装着される。pは車両の中心線mと直角に交わる車幅方向において、オフセット位置を車両の中心線mと平行に通る方向をオフセット軸である。
【0012】
12は車両製造ライン上の車両10(車載レーダを備える)に対し、その前方に配置されるアンテナ軸整用の基準反射板であり、その反射面の中心線が車両の中心線方向をむく(つまり、反射面の中心線がオフセット軸pと一致する)配置状態にセットされる。
【0013】
車載レーダ11は、アンテナと、レーダ信号処理部と、を主体に構成される。アンテナは、電磁波(ミリ波)の送信回路およびその反射波の受信回路を備える。レーダ信号処理部は、通常のレーダ動作時にアンテナの送受波および受信波を処理してレーダ検知範囲内に存在するターゲット(先行車や障害物など)との距離・角度などを演算し、上位の制御装置(ACCコントロールユニット等)へ出力する。
【0014】
アンテナ軸nの調整に対処するため、レーダ信号処理部においては、特定の指示操作によりアンテナ軸nの調整モードを設定する手段と、調整モードが設定されるとアンテナ軸nの調整用基準反射板12に対して電磁波を送受信することによりこれら送受信波を処理して車両の中心線mに対するアンテナ軸nのズレ角度を計測する手段と、この計測値をアンテナ軸nのズレ角度補正量としてメモリに設定する手段と、アンテナ軸nのズレ角度補正量が所定値A以内でないときにアンテナ軸nのズレ角度補正量が「NG」であることを表示する手段と、調整モード以外のレーダ動作時に計測されるターゲットとの角度をメモリの設定値(アンテナ軸のズレ角度補正量)に基づいて補正する手段と、が備えられる。
【0015】
図2および図3は、車載レーダの組付状態を説明するものであり、車両10の中心線mに対するアンテナ軸nのズレ角度を所定値A(±1.0deg)以内に収めるべく調整するための機械的な手段が備えられる。機械的な手段は、車両の前面に固定されるブラケット15と、ブラケット15に車載レーダ11を取付角度が調整可能に支持する機構と、この機構を操作するための調整用ボルトA〜Cと、から構成される。
【0016】
調整用ボルトAは、基準となるボルトであり、固定のまま動かさないものとする。調整用ボルトBは、垂直方向の調整に使用するものであり、調整用ボルトCは、水平方向の調整に使用するものである。車載レーダ11とブラケット15との間に基準面a,b(目印)が設定される。車載レーダ11は、車両の前面に固定されるブラケット15に対し、基準面a,bが段差なく面一に連なる状態に組み付けると、車両の中心線mに対するアンテナ軸nのズレ角度が所定値A以内に収められるようになっている。図2においては、車載レーダ11は、ブラケット15を介してキャブのフロントメンバ16に装着される。
【0017】
車両10は、製造ライン上を搬送され、車載レーダ11の組付後、アンテナ軸調整用の基準反射板12に対し、図1のような配置状態に停止される。この状態において、作業者に拠る特定の指示操作により、アンテナ軸nの調整モードが設定されると、アンテナ軸調整用の基準反射板12に対し、車載レーダ11が動作して車両の中心線mに対するアンテナ軸nのズレ角度が計測され、その計測値をアンテナ軸nのズレ角度補正量としてメモリに設定するのである。
【0018】
アンテナ軸nのズレ角度補正量が所定値A以内でないときは、アンテナ軸のズレ角度補正量が「NG」であることが表示される。その際、作業者は、機械的な手段に拠るアンテナ軸の調整を行うことになるが、アンテナ軸のズレ角度を所定値A以内に収めるだけで良く、厳密に調整する(アンテナ軸のズレ角度を従前のように±0.1deg以内に抑える)必要がないので、アンテナ軸の調整を簡単かつ短時間に処理することが可能となる。また、基準面a,bに拠り、車載レーダ11とブラケット15との位置合わせ度合いが推定可能となり、これに応じて調整用ボルトCを操作することにより、簡単かつ容易にアンテナ軸のズレ角度を所定値A以内に収めることができる。
【0019】
調整モード以外のレーダ動作時においては、アンテナの送信波および受信波に基づいて、車両の前方に存在するターゲットとの距離・角度などが計測される。ターゲットの角度については、メモリの設定値(アンテナ軸のズレ角度補正量)を加えて補正されるので、レーダ測定精度を確保することができる(図5、参照)。この場合、信号処理回路においては、自車の走行車線内に存在する、自車との距離が最も近い、ターゲットが選定されるが、既述の補正により、自車の走行車線内に存在するターゲットを正確に選定することができる。
【0020】
図4は、車載レーダ11の信号処理部で行われる制御内容を説明するフローチャートであり、電源の投入により、所定の制御周期ごとに実行される。
【0021】
S1においては、図1のように配置される車両の車載レーダ11に対し、アンテナ軸nの調整未実施かどうかを確認する。車載レーダ11は、出荷時(車両への組付前)の初期設定により、アンテナ軸nの調整未実施フラグがオンかつメモリの設定値(アンテナ軸nのズレ角度補正量)が0のため、アンテナ軸の調整未実施としてS2へ進む。
【0022】
S2においては、特定のスイッチ(MODE/DIST SW)により、アンテナ軸nの調整モードの設定(開始)操作が行われると、アンテナ軸nの調整モードを開始する。S3においては、アンテナ軸nの調整用基準反射板に対し、車載レーダ11が動作してアンテナ軸nのズレ角度を計測する処理が正常に終了するかどうか、を判定する。
【0023】
S3の判定がyesのときは、特定のスイッチ(MODE SW)により、アンテナ軸nの調整モードの解除(終了)操作が行われると、S4において、アンテナ軸nの調整未実施フラグをオフしてS5へ進む一方、S3の判定がnoのときは、特定のスイッチ(MODE SW)により、アンテナ軸nの調整モードの解除(終了)操作が行われると、S9において、アンテナ軸nの調整未実施フラグがオン(アンテナ軸nの調整未実施)のままを表示し、S2へ戻る。
【0024】
作業者は、アンテナ軸nの調整モードの解除(終了)操作とアンテナ軸nの調整モードの解除(終了)操作との間に車載レーダ11のディスプレイが正常表示かどうかを確認することになり、アンテナ軸の調整未実施との表示(「NG」)を受けると、S3の「正常終了」を得るに必要な対処(機械的な手段によりアンテナ軸を調整する作業を含む)を講じつつ、アンテナ軸の調整モードの設定(開始)操作から繰り返すことになる。
【0025】
S5においては、アンテナ軸のズレ角度(S3の計測値)を補正量としてメモリに設定する。S6においては、アンテナ軸のズレ角度補正量(S5の設定値)が所定値A以内かどうかを判定する。S6の判定がyesのときは、S7およびS8において、アンテナ軸のズレ角度補正量が正常であることを表示する一方、S6の判定がnoのときは、S10およびS11において、アンテナ軸のズレ角度補正量が異常であることを表示し、S2へ戻る。
【0026】
作業者は、アンテナ軸のズレ角度補正量が異常であるとの表示(「NG」)を受けると、S5の判定がyes(所定値A以内のズレ角度補正量)を得るべく、機械的な手段を操作してアンテナ軸nを調整しつつ、アンテナ軸nの調整モードの設定(開始)操作から繰り返すことになる。
【0027】
このような構成により、車載レーダ11がターゲットの角度を補正する機能を備えるので、アンテナ軸のズレ角度を所定値A(±1.0deg)以内に収めるだけで良く、従前のように±0.1deg以内に抑える必要がないので、アンテナ軸nの調整を簡単かつ短時間に処理することができる。
【0028】
図4の制御については、車両の製造ラインのほか、車両の修理工場においても、アンテナ軸調整用の基準反射板12を設備することにより、実行可能となる。また、図4の点線枠内の処理については、上位の制御装置に設定しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】アンテナ軸調整装置の説明図である。
【図2】車載レーダの組付状態を例示する斜視図である。
【図3】車載レーダおよびブラケットの説明図である。
【図4】車載レーダの制御内容を説明するフローチャートである。
【図5】車載レーダの制御内容に係る説明図である。
【符号の説明】
【0030】
10 車両
11 車載レーダ
12 アンテナ軸調整用の基準反射板
15 ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波の送信回路および受信回路を有するアンテナと、その送信波および受信波を処理して車両の前方に存在するターゲットとの距離・角度などを計測する信号処理部と、を備える車載レーダのアンテナ軸調整装置において、車両の中心線に対するアンテナ軸のズレ角度を所定値A以内に収めるべく調整するための機械的な手段と、車両の前方にアンテナ軸調整用の基準反射板を反射面の中心線が車両の中心線方向をむく配置状態に設定する手段と、特定の指示操作によりアンテナ軸の調整モードを設定する手段と、調整モードが設定されるとアンテナ軸調整用の基準反射板に対して電磁波の送受信を行うことにより車両の中心線に対するアンテナ軸のズレ角度を計測する手段と、この計測値をアンテナ軸のズレ角度補正量としてメモリに設定する手段と、調整モード以外のレーダ動作時に計測されるターゲットとの角度をメモリの設定値に基づいて補正する手段と、を備えることを特徴とする車載レーダのアンテナ軸調整装置。
【請求項2】
前記アンテナ軸のズレ角度補正量が所定値A以内でないときにアンテナ軸のズレ角度補正量がNGであることを表示する手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ軸調整装置。
【請求項3】
前記機械的な手段は、車両の前面に固定されるブラケットと、ブラケットに車載レーダを取付角度が調整可能に支持する機構と、この機構を操作するための調整用ボルトと、アンテナ軸のズレ角度が所定値A以内かどうかを確認するための手段としてブラケットと車載レーダとの間に設定される位置合わせ用の目印と、を備えることを特徴する請求項1または請求項2に記載のアンテナ軸調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−66092(P2010−66092A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231906(P2008−231906)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】