説明

車載用ワイヤハーネス及び電線用クランプ

【課題】ベルト付きの電線用クランプにおいて、車載用ワイヤハーネスの電線を、支持体に近接した位置に保持することと、電線の保持位置の変位を防止することとを両立でき、さらに、ベルトによる電線の保持力の緩みを防止できること。
【解決手段】ベルト30付きの電線用クランプ1におけるベルト支持部20は、留め具10のフランジ部12における2箇所に対向して立設された縦壁部21と、ベルト30の一端が固定され、縦壁部21に架設されてフランジ部12に対向する壁を形成するベルト支持壁部22と、ベルト支持壁部22におけるフランジ部12に対向する面22Aに突設され、ベルト支持壁部22とフランジ部12との間に形成されたベルト通し孔20Aに通されたベルト30の溝31に嵌り込むベルト規制部23と、ベルト支持壁部22の一部に形成され、ベルト支持壁部22におけるベルト規制部が設けられた領域に可撓性を与えるスリット24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線を支持体に保持するベルト付きの電線用クランプ及びそれを備えた車載用ワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に代表される車両に設けられるワイヤハーネスは、自動車のボディなどの支持体に固定する作業を容易にするため、電線の部分に、支持体に設けられた取付孔の縁部に保持される電線用クランプが取り付けられる。
【0003】
電線用クランプは、ワイヤハーネスの電線が固定される電線支持部と、その電線支持部に固定され、支持体に形成された取付孔に挿入されることによって取付孔の縁部に保持される留め具とを備える。電線支持部は、例えば、粘着テープにより電線が固定される棒状又は板状の部分、又は電線に巻き付けられることによって電線を支持するベルトなどである。
【0004】
図7及び図8は、従来の電線用クランプの一例であるベルト付きの電線用クランプ100の斜視図及びワイヤハーネスの電線が従来の電線用クランプ100により支持体に保持された状態を示す縦断面図である。ベルト付きの電線用クランプ100は、留め具10とベルト支持部200とベルト30とが設けられれている。
【0005】
ベルト30は、図8に示されるように、電線9の周囲に巻き付けられ、これにより電線9を保持する部分である。このベルト30における2つの端の一方は固定端であり、他方は自由端である。また、ベルト30の一方の面には、ベルト30の長手方向において複数配列された溝31が形成されている。
【0006】
留め具10は、ベルト支持部200が固定されたフランジ部12と、自動車のボディ又はインストルメントパネル内のリンホースなどの支持体7に形成された取付孔7Aに挿入される挿入部11とを有している。フランジ部12における一方の面にベルト支持部200が固定され、他方の面に挿入部11が立設されている。フランジ部12は、取付孔7Aを塞ぐように、取付孔7Aの面積よりも大きな面積で形成されている。例えば、フランジ部12は、長孔であるの取付孔7Aとほぼ相似な形状で取付孔7Aよりも一回り大きな面を有する皿状に形成されている。
【0007】
留め具10は、フランジ部12と取付孔7Aに挿入される挿入部11とにより取付孔7Aの縁部(支持体)を把持する用具である。挿入部11は、フランジ部12の一方の面に立設された柱部111と、その柱部111の両側に張り出して設けられた2つの張出部113とを備える。2つの張出部113は、可撓性を有し、柱部111の両側に張り出した幅が、取付孔7Aの幅よりも大きな幅で形成されている。
【0008】
挿入部11が取付孔7Aに挿入される際に、2つの張出部113は、取付孔7Aの縁部(支持体7)に接して押圧され、柱部111の両側に張り出す幅が、取付孔の幅まで収縮する。挿入部11が取付孔7Aの内側へさらに押し込められると、2つの張出部113の形状は、取付孔7Aの縁部の裏側において、取付孔7Aの幅よりも大きな幅になるまで復帰する。その結果、2つの張出部113各々の外側に形成された爪部113Aが、取付孔7Aの縁部の裏側に引っ掛かり、爪部113Aとフランジ部12とが、取付孔7Aの縁部を表裏両側から挟み込む。その結果、留め具10が支持体7に保持される。
【0009】
ベルト支持部200は、ベルト30と留め具10とを連結する部分である。ベルト支持部200は、留め具10に固定された連結部201及びベルト規制部202と、連結部201の2箇所に対向して立設された縦壁部210と、それら縦壁部210に架設されたベルト支持壁部220とを有する。ベルト支持壁部220には、ベルト30の一端(固定端)が固定されている。
【0010】
連結部201は、フランジ部23と縦壁部210とを連結する部分であり、2つの連結部201の間に変位部202が設けられている。2つの縦壁部210と、変位部202と、変位部20に対向するベルト支持壁220は、ベルト30が自由端側から挿入されるベルト通し孔200Aを形成している。
【0011】
変位部202は、ベルト通し孔200Aの周囲の壁の一部を形成し、その一端がフランジ部12に固定された片持ち梁状の部分である。変位部202は、その可撓性により、ベルト通し孔200Aの高さ方向において変位可能である。ベルト通し孔200Aの高さ方向は、ベルト通し孔200Aに通されたベルト30の厚み方向に相当する。
【0012】
図8に示されるように、変位部202におけるベルト通し孔200A側の面には、ベルト30の溝31に嵌り込むベルト規制部230が突設されている。ベルト30がその自由端からベルト通し孔200Aに通された場合に、ベルト規制部230は、変位部202の弾性力によってベルト30側へ押圧され、ベルト30の溝31に嵌り込む。これにより、ベルト規制部230は、ベルト通し孔200Aから抜ける方向へのベルト30の動きを規制する。
【0013】
ベルト規制部230によりベルト30の動きが規制されると、電線9に巻かれたベルト30は、電線9の周面に密着する状態で保持される。即ち、変位部202及びベルト規制部230は、電線9の周囲に巻かれたベルト30の輪の大きさを保持する機能を有する。なお、ベルト規制部230は、ベルト30がベルト通し孔200Aに挿入される方向に移動したときにのみ溝31から外れやすくなるように、ベルト通し孔200Aにおけるベルト30の入口側の面が傾斜面となっている。
【0014】
図7及び図8に示される電線用クランプ100において、変位部202は、フランジ部12に対して片持ち梁状に支持されるため、フランジ部12からその横方向(フランジ部12の面に平行な方向)へ張り出して形成されている。そのため、変位部202とともにベルト通し孔200Aを形成する縦壁部210及びベルト支持壁部220を含むベルト支持部200は、フランジ部12からその横方向へ張り出して形成されている。以下、このような構造を有する電線用クランプのことを片持ち梁タイプの電線用クランプと称する。
【0015】
また、特許文献1の図3には、図7及び図8に示される電線用クランプ100と同様の電線用クランプが示されている。但し、特許文献1の図3に示される電線用クランプにおいては、電線用クランプ100におけるフランジ部12、変位部202及びベルト支持壁部220の各々に相当する部分が、階層的に積み上げられた構造を有している。即ち、特許文献1の図3に示される電線用クランプは、ベルト支持部200に相当する部分全体が、フランジ部12に相当する部分に対して階層的に積み上げられた構造を有している。以下、このような構造を有する電線用クランプのことを、階層タイプの電線用クランプと称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2009−273278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
図8に示されるように、従来の片持ち梁タイプの電線用クランプ100においては、変位部202がベルト規制部230をベルト30から引き離す方向へ変位するためのスペースが、フランジ部12の側方に確保される。そのため、片持ち梁タイプの電線用クランプ100は、階層タイプの電線用クランプに比べ、電線9を支持体7に対してより近い位置で保持することができる。その結果、電線9と支持体7との間のデッドスペースが小さくなり、電線9を狭いスペースに保持できるというメリットが得られる。
【0018】
しかしながら、従来の片持ち梁タイプの電線用クランプ100においては、電線9の荷重又は支持体7の振動などに起因してベルト30に力が加わった場合に、片持ち梁状のベルト支持部200全体が撓み、ベルト30の位置が変位しやすい。そのため、図8において二点鎖線(仮想線)で示されるように、片持ち梁タイプの電線用クランプ100は、ベルト30が変位して電線9の保持位置が変位しやすいという問題点があった。電線9の保持位置が変位すると、電線9が周囲の部材と接触し、騒音(異音)及び電線9の破損などの問題が発生する。
【0019】
また、従来の片持ち梁タイプの電線用クランプ100において、片持ち梁状のベルト支持部200の剛性を高めるためにベルト支持部200の厚みが大きく形成されると、結局、上述したメリットが失われてしまう。
【0020】
また、特許文献1に示されるような従来の階層タイプの電線用クランプにおいては、ベルト支持部がフランジ部に対して強固に固定される。そのため、従来の階層タイプの電線用クランプは、電線の荷重又は支持体の振動などに起因してベルトに多少の力が加わった場合でも、電線の保持位置が変位しにくいというメリットを有している。
【0021】
しかしながら、従来の階層タイプの電線用クランプにおいては、変位部がベルト規制部をベルトから引き離す方向へ変位するためのスペースが、階層構造を構成するフランジ部と変位部との間に確保される。そのため、従来の階層タイプの電線用クランプは、電線を支持体に対して近い位置で保持することができないという問題点があった。
【0022】
また、昨今、車両に搭載される部品の数が急増しているため、電線配置用のスペースをより小さくすることが要求される。そのため、電線用クランプは、従来の片持ち梁タイプの電線用クランプ100と比べても、電線を支持体に対してより近い位置で保持できることが望ましい。例えば、図8に示される電線用クランプ100において、ベルト支持部200の高さを、変位部202の厚み分、さらにはベルト支持壁部220の厚み分だけ低くできれば好適である。電線を支持体に対してより近い位置で保持することは、次の2つの理由により、省スペース効果が高い。第1の理由は、前述したように、電線と支持体との間のデッドスペースを小さくできることである。第2の理由は、振動又は電線の重みなどに起因する電線の保持位置の変位幅が小さくなるため、電線の周囲に確保すべきスペースを小さくできることである。
【0023】
また、電線用クランプにおいて、電線を支持体に対して近い位置で保持するために、フランジ部と電線との間に位置するベルト支持部の厚みを薄くすることが考えられる。しかしながら、ベルト支持部の厚みを薄くし過ぎると、電線に巻かれたベルトに対し、フランジ部から引き離す方向への強い力が加わった場合に、ベルト支持部が撓んでベルト通し孔が拡がり、ベルト規制部がベルトの溝から外れやすくなる。即ち、電線を支持体に対して近い位置で保持するためにベルト支持部の厚みを薄くすることは、ベルトによる電線の保持力の緩みにつながりやすいという問題点があった。
【0024】
本発明は、ベルト付きの電線用クランプにおいて、車載用ワイヤハーネスの電線を、支持体に近接した位置に保持することと、電線の保持位置の変位を防止することとを両立でき、さらに、ベルトによる電線の保持力の緩みを防止できることにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係る車載用ワイヤハーネスは、電線と、その電線に巻き付けられたベルトと、そのベルトの一端が固定されたベルト支持部と、そのベルト支持部が第1の面に固定されたフランジ部とそのフランジ部の第2の面に立設され支持体の取付孔に挿入される挿入部とによって取付孔の縁部を把持する留め具とを備える。さらに、ベルト支持部は、以下に示される各構成要素を備える。
(1)第1の構成要素は、フランジ部における第1の面の2箇所に対向して立設された支柱部である。
(2)第2の構成要素は、ベルトの一端が固定され、支柱部に架設されてフランジ部に対向する壁を形成するベルト支持壁部である。
(3)第3の構成要素は、ベルト支持壁部におけるフランジ部に対向する面に突設され、ベルト支持壁部とフランジ部との間に形成されたベルト通し孔に通されたベルトの溝に嵌り込むことによってベルト通し孔から抜ける方向へのベルトの動きを規制するベルト規制部である。
(4)第4の構成要素は、ベルト支持壁部の一部に形成され、ベルト支持壁部におけるベルト規制部が設けられたベルト規制領域に可撓性を与える部分である撓み構造部である。
【0026】
また、本発明に係る車載用ワイヤハーネスにおいて、ベルト支持部における撓み構造部が、ベルト支持壁部におけるベルト規制領域の両側に形成されたスリットであることが考えられる。或いは、ベルト支持部における撓み構造部は、ベルト支持壁部におけるベルト規制領域を含む一部の領域又はベルト規制領域の周囲の領域に形成され、他の部分よりも厚みの薄い薄肉部であることも考えられる。
【0027】
また、本発明に係る電線用クランプは、以上に示した本発明に係る車載用ワイヤハーネスを構成するベルトと、ベルト支持部と、留め具とを備える。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る電線用クランプにおいて、ベルト支持壁部は、フランジ部に対向して配置され、フランジ部との間にベルト通し孔を形成する。即ち、本発明に係る電線用クランプは、片持ち梁タイプではなく階層タイプであるため、ベルト支持部がフランジ部に対して強固に固定される。従って、本発明に係る電線用クランプにおいては、電線の荷重又は支持体の振動などに起因してベルトに多少の力が加わった場合でも、電線の保持位置が変位しにくい。
【0029】
一方、本発明に係る電線用クランプは、階層タイプであるが、ベルト支持壁部に対向する従来の変位部を備えていない。本発明に係る電線用クランプにおけるベルト規制部は、従来とは異なり、フランジ部に対向するベルト支持壁部に突設されている。そして、ベルト支持壁部におけるベルト規制部が、ベルト通し孔に通されたベルトから遠ざかる方向へ変位可能なように、ベルト支持壁部には、ベルト支持壁部におけるベルト規制部が設けられた領域(ベルト規制領域)に可撓性を与える部分である撓み構造部が設けられている。この撓み構造部は、スリット又は薄肉部などである。
【0030】
ベルト規制部は、撓み構造部の作用により、ベルトがベルト通し孔に通された場合に、ベルト規制領域の弾性力によってベルト側へ押圧されつつ、ベルトにおける溝以外の部分からの圧力によって退避する。また、ベルト規制部は、対向する位置にベルトの溝が存在する場合にはその溝に嵌り込む。ここで、ベルト支持壁部におけるベルト規制領域は、フランジ部側(ベルト通し孔側)に対して反対側へ変位する。即ち、フランジ部とベルト支持部との間おいて、ベルト規制部が変位するための特別なスペースを確保する必要がない。
【0031】
従って、本発明に係る電線用クランプにおいては、ベルト通し孔を形成するフランジ部とベルト支持部との間隔を最小限に抑えることができ、電線を支持体に対してより近い位置で保持することができる。即ち、本発明に係る電線用クランプは、車載用ワイヤハーネスの電線を、支持体に近接した位置に保持することと、電線の保持位置の変位を防止することとを両立できる。その結果、電線を狭いスペースに保持することが可能であり、また、電線が周囲の部材と接触し、騒音(異音)及び電線の破損などの問題を回避できる。
【0032】
また、本発明において、ベルト支持壁部におけるベルト規制領域が変位するためのスペースは、フランジ部側(ベルト通し孔側)に対して反対側に確保されるが、そこは、ベルトが電線に対して密着して巻かれた状態になるまでは解放された空間である。そして、ベルトが電線に対して密着して巻かれた状態になると、ベルト支持壁部は、フランジ部側(ベルト通し孔側)に対して反対側から電線によって押圧される。
【0033】
ベルト支持壁部が電線によって押圧されると、ベルト支持壁部におけるベルト規制領域は、ベルトから遠ざかる方向へ変位しにくい。しかも、本発明に係る電線用クランプにおいては、ベルト規制部は、従来とは異なり、ベルトに対してフランジ部側とは反対側に存在する。従って、本発明に係る電線用クランプにおいては、ベルトが電線に対して密着して巻かれた状態になると、ベルトに対してそれをフランジ部側から引き離す方向の力が加わった場合でも、ベルト規制部はベルトの溝から外れにくい。その結果、電線に巻かれたベルトに強い力が加わった場合でも、ベルトによる電線の保持力が緩みにくい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係る電線用クランプ1の斜視図である。
【図2】電線用クランプ1の主要部の正面図である。
【図3】電線用クランプ1の主要部の平面図である。
【図4】電線用クランプ1の主要部の縦断面図である。
【図5】車載用ワイヤハーネスの電線が電線用クランプ1により支持体に保持された状態を示す縦断面図である。
【図6】電線用クランプ1の応用例における主要部の正面図である。
【図7】従来のベルト付き電線用クランプ100の斜視図である。
【図8】ワイヤハーネスの電線が従来の電線用クランプ100により支持体に保持された状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する性格は有さない。
【0036】
以下、図1から図5を参照しつつ、本発明の実施形態に係る電線用クランプ1について説明する。電線用クランプ1は、自動車に搭載されるワイヤハーネスの電線を自動車のボディ又はインストルメントパネル内のリンホースなどの支持体に保持する用具である。
【0037】
図1から図4に示されるように、電線用クランプ1は、留め具10と、ベルト支持部20と、ベルト30とを備えている。この電線用クランプ1は、例えば、ポリプロピレン(PP)又はポリアミド(PA)などの熱可塑性樹脂からなる一体成型部材である。なお、図1から図3において、ベルト30の一部の記載が省略されている。また、図4において、ベルト30の一部及び留め具10の一部の記載が省略されている。また、図4は、ベルト30の幅方向の中心線に沿う縦断面の図である。
【0038】
図5は、車載用ワイヤハーネスの電線9が電線用クランプ1により支持体に保持された状態を示す縦断面図である。図5に示される車載用ワイヤハーネスは、本発明の実施形態に係る車載用ワイヤハーネスの一例である。なお、図5は、ベルト30の幅方向の中心線に沿う縦断面の図である。また、図5において、留め具10の一部の記載が省略されている。
【0039】
電線用クランプ1において、留め具10は、図5に示されるように、自動車のボディ又はインストルメントパネル内のリンホースなどの支持体7に形成された取付孔7Aに挿入されることにより、その取付孔7Aの縁部(支持体7)に保持される部分である。
【0040】
ベルト30は、図5に示されるように、電線9の周囲に巻き付けられ、これにより電線9を保持する部分である。このベルト30における2つの端の一方は固定端であり、他方は自由端である。また、ベルト30の一方の面には、ベルト30の長手方向において複数配列された溝31が形成されている。この溝31は、ベルト30が電線9に巻かれたときに内側となる面に形成されている。
【0041】
留め具10は、ベルト支持部20が固定されたフランジ部12と、支持体7に形成された取付孔7Aに挿入される挿入部11とを有している。フランジ部12における一方の面にベルト支持部20が固定され、他方の面に挿入部11が立設されている。フランジ部12は、取付孔7Aを塞ぐように、取付孔7Aの面積よりも大きな面積で形成されている。例えば、フランジ部12は、長孔であるの取付孔7Aとほぼ相似な形状で取付孔7Aよりも一回り大きな面を有する皿状に形成されている。
【0042】
留め具10は、フランジ部12と取付孔7Aに挿入される挿入部11とにより取付孔7Aの縁部(支持体)を把持する用具である。挿入部11は、フランジ部12の一方の面の2箇所に立設された柱部111と、それら柱部111に架設された梁部112と、梁部112の両側に張り出して設けられた2つの張出部113とを備える。2つの張出部113は、可撓性を有し、梁部112の両側に張り出した幅が、取付孔7Aの幅よりも大きな幅で形成されている。
【0043】
挿入部11が取付孔7Aに挿入される際に、2つの張出部113は、取付孔7Aの縁部(支持体7)に接して押圧され、梁部112の両側に張り出す幅が、取付孔7Aの幅まで収縮する。挿入部11が取付孔7Aの内側へさらに押し込められると、2つの張出部113の形状は、取付孔7Aの縁部の裏側において、取付孔7Aの幅よりも大きな幅になるまで復帰する。その結果、2つの張出部113各々の外側に形成された爪部113Aが、取付孔7Aの縁部の裏側に引っ掛かり、爪部113Aとフランジ部12とが、取付孔7Aの縁部を表裏両側から挟み込む。その結果、留め具10が支持体7に保持される。
【0044】
ベルト支持部20は、ベルト30と留め具10とを連結する部分である。図1〜図3に示されるように、ベルト支持部20は、留め具10のフランジ部12における挿入部11が設けられた面と反対側の面に固定されており、縦壁部21、ベルト支持壁部22及びベルト規制部23を備えている。
【0045】
2つの縦壁部21は、フランジ部12における挿入部11が設けられた面と反対側の面の2箇所に対向して立設された壁であり、ベルト支持壁部22を支持する支柱として機能する。ベルト支持壁部22は、フランジ部12における挿入部11が設けられた面と反対側の面に対向するように、2つの縦壁部21に架設されている。これにより、相互に対向する2つの縦壁部21と、それらに跨るベルト支持壁部22と、これに対向するフランジ部12とが、ベルト30がその自由端から通されるベルト通し孔20Aの周囲の壁を形成している。
【0046】
また、ベルト支持壁部22の縁部には、ベルト30の一端(固定端)が、2つの縦壁21に跨る範囲に渡って固定されている。また、ベルト支持壁部22におけるフランジ部12に対向する側の第1の面22Aには、ベルト規制部23が突設されている。
【0047】
ベルト規制部23は、ベルト30がその自由端からベルト支持壁部22とフランジ部12との間に形成されたベルト通し孔20Aに通された場合に、ベルト30の溝31に嵌り込む部分である。ベルト規制部23は、ベルト30の溝31に嵌り込むことにより、ベルト通し孔20Aから抜ける方向へのベルト30の動きを規制する。
【0048】
ベルト規制部23によりベルト30の動きが規制されると、電線9に巻かれたベルト30は、電線9の周囲に沿う環状に保持される。即ち、ベルト規制部23は、電線9の周囲に巻かれたベルト30の輪の大きさを保持する機能を有する。なお、ベルト規制部23は、ベルト30がベルト通し孔20Aに挿入される方向に移動したときにのみ溝31から外れやすくなるように、ベルト通し孔20Aにおけるベルト30の入口側の面が傾斜面となっている。
【0049】
また、ベルト30の溝31は、ベルト30がベルト通し孔20Aに挿入される方向に移動したときにのみベルト規制部23が溝31から外れやすくなるように、ベルト通し孔20Aにおけるベルト30の入口側の面が傾斜面となっている。
【0050】
また、図1〜図3に示されるように、ベルト支持壁部22におけるベルト規制部23が設けられた領域の両側には、ベルト規制部23を基準に左右対称なスリット24が形成されている。以下、ベルト支持壁部22におけるベルト規制部23が設けられた領域のことをベルト規制領域と称する。
【0051】
図4は、ベルト支持壁部22のベルト規制領域が、フランジ部12に対向する側と反対側の第2の面22Bの方向へ変位するように撓む状態を示している。ベルト規制領域は、その両側の部分がスリット24によって他の部分と分断されることにより、スリット24が存在しない場合よりも、ベルト通し孔20Aの高さ方向における可撓性が高まる。ベルト通し孔20Aの高さ方向は、ベルト通し孔20Aに通されたベルト30の厚み方向に相当する。
【0052】
即ち、2箇所に設けられたスリット24は、ベルト支持壁部22におけるベルト規制部23が設けられたベルト規制領域の可撓性を与える部分として機能する。なお、これら2箇所のスリット24は、撓み構造部の一例である。
【0053】
図6は、図2(正面図)及び図3(平面図)に示された電線用クランプ1の応用例における主要部の正面図である。図2及び図3に示される例では、ベルト規制領域の両側の2箇所のスリット24は、ベルト支持壁22に形成されたスリット状の貫通孔である。
【0054】
一方、図6に示される応用例では、ベルト規制領域の両側の2箇所のスリット24は、ベルト支持壁22に対してその端部から形成されたスリット状の切り込みである。スリット24が、図6に示されるようなスリット状の切り込みであることにより、一体成型品である電線用クランプ1の製造に用いられる金型機構の構造が簡素化される。即ち、スリット状の切り込みを形成するための金型を抜く方向は、ベルト通し孔20Aを形成するための金型を抜く方向と平行にすることができる。そのため、図6に示される電線用クランプ1を製造するための金型機構は、スリット24を形成するための金型のスライド機構を必要とせず、構造が簡素化される。
【0055】
電線用クランプ1は、前述したように、片持ち梁タイプではなく階層タイプであるため、ベルト支持壁部22がフランジ部12に対して強固に固定される。従って、電線用クランプ1においては、電線9の荷重又は支持体7の振動などに起因してベルト30に多少の力が加わった場合でも、電線9の保持位置が変位しにくい。
【0056】
また、電線用クランプ1は、階層タイプであるが、ベルト支持壁部22に対向する従来の変位部202(図7,図8参照)を備えていない。電線用クランプ1におけるベルト規制部23は、従来とは異なり、フランジ部12に対向するベルト支持壁部22に突設されている。そして、ベルト支持壁部22におけるベルト規制部23が、ベルト通し孔20Aに通されたベルト30から遠ざかる方向(第2の面22B側)へ変位可能なように、ベルト支持壁部22には、ベルト規制領域に可撓性を与えるためのスリット24が設けられている。
【0057】
ベルト規制部23は、スリット24の作用により、ベルト30がベルト通し孔20Aに通された場合に、ベルト規制領域の弾性力によってベルト30側へ押圧されつつ、ベルト30における溝31以外の部分からの圧力によって第2の面22B側へ退避する。即ち、電線用クランプ1においては、フランジ部12とベルト支持壁部22との間おいて、ベルト規制部23が変位するための特別なスペースは確保されていない。また、ベルト規制部23は、対向する位置にベルト30の溝31が存在する場合には、図5に示されるように、その溝31に嵌り込む。
【0058】
従って、電線用クランプ1においては、ベルト通し孔20Aを形成するフランジ部12とベルト支持壁部22との間隔を最小限に抑えることができ、電線9を支持体に対してより近い位置で保持することができる。即ち、電線用クランプ1は、車載用ワイヤハーネスの電線9を、支持体7に近接した位置に保持することと、電線9の保持位置の変位を防止することとを両立できる。その結果、電線9を狭いスペースに保持することが可能であり、また、電線9が周囲の部材と接触し、騒音(異音)及び電線の破損などの問題を回避できる。
【0059】
また、電線用クランプ1において、ベルト支持壁部22におけるベルト規制領域が変位するためのスペースは、第2の面22B側に確保されるが、その第2の面22B側は、ベルト30が電線9に対して密着して巻かれた状態(図5の状態)になるまでは解放された空間である。そして、図5に示されるように、ベルト30が電線9に対して密着して巻かれた状態になると、ベルト支持壁部22は、その第2の面22B側から電線9によって押圧される。
【0060】
ベルト支持壁部22が電線9によって第2の面22B側から押圧されると、ベルト支持壁部22におけるベルト規制領域は、ベルト通し孔20A内のベルト30から遠ざかる方向へ変位しにくい。しかも、電線用クランプ1においては、ベルト規制部23は、従来とは異なり、ベルト30に対してフランジ部12側とは反対側に存在する。
【0061】
従って、電線用クランプ1においては、ベルト30が電線に対して密着して巻かれた状態になると、ベルト30に対してそれをフランジ部12側から引き離す方向の力が加わった場合でも、ベルト規制部23はベルト30の溝31から外れにくい。その結果、電線9に巻かれたベルト30に強い力が加わった場合でも、ベルト30による電線9の保持力が緩みにくい。
【0062】
以上に示した実施形態では、ベルト支持壁部22のベルト規制領域に可撓性を与える構造として、ベルト支持壁部22のスリット24が設けられたが、他の構造が採用されることも考えられる。例えば、ベルト規制領域に可撓性を与える構造は、ベルト支持壁部22における一部の領域に形成され、他の部分よりも厚みの薄い部分である薄肉部であることが考えられる。この薄肉部は、例えば、ベルト支持壁部22におけるベルト規制領域の周囲の領域、又はベルト規制領域を含む領域に形成されることが考えられる。
【0063】
ベルト支持壁部22におけるベルト規制領域又はその周囲の領域に薄肉部が形成されることにより、ベルト規制領域は、その薄肉部が存在しない場合よりも、ベルト通し孔20Aの高さ方向における可撓性が高まる。従って、電線用クランプ1は、スリット24の代わりに薄肉部が形成されたベルト支持壁部22を備える場合にも、前述した実施形態と同様の作用及び効果を発揮する。
【符号の説明】
【0064】
1 電線用クランプ
7 支持体
7A 取付孔
9 電線
10 留め具
11 挿入部
12 フランジ部
20 ベルト支持部
20A ベルト通し孔
21 縦壁部(支柱部)
22 ベルト支持壁部
23 ベルト規制部
24 スリット
30 ベルト
31 溝
111 柱部
112 梁部
113 張出部
113A 爪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線と、該電線に巻き付けられたベルトと、該ベルトの一端が固定されたベルト支持部と、該ベルト支持部が第1の面に固定されたフランジ部と該フランジ部の第2の面に立設され支持体の取付孔に挿入される挿入部とによって前記取付孔の縁部を把持する留め具と、を備えた車載用ワイヤハーネスであって、
前記ベルト支持部は、
前記フランジ部における前記第1の面の2箇所に対向して立設された支柱部と、
前記ベルトの一端が固定され、前記支柱部に架設されて前記フランジ部に対向する壁を形成するベルト支持壁部と、
前記ベルト支持壁部における前記フランジ部に対向する面に突設され、前記ベルト支持壁部と前記フランジ部との間に形成されたベルト通し孔に通された前記ベルトの溝に嵌り込むことによって前記ベルト通し孔から抜ける方向への前記ベルトの動きを規制するベルト規制部と、
前記ベルト支持壁部の一部に形成され、前記ベルト支持壁部における前記ベルト規制部が設けられたベルト規制領域に可撓性を与える部分である撓み構造部と、を備えることを特徴とする車載用ワイヤハーネス。
【請求項2】
前記撓み構造部は、前記ベルト支持壁部における前記ベルト規制領域の両側に形成されたスリットである請求項1に記載の車載用ワイヤハーネス。
【請求項3】
前記撓み構造部は、前記ベルト支持壁部における前記ベルト規制領域を含む一部の領域又は前記ベルト規制領域の周囲の領域に形成され、他の部分よりも厚みの薄い薄肉部である請求項1に記載の車載用ワイヤハーネス。
【請求項4】
電線に巻き付けられるベルトと、該ベルトの一端が固定されたベルト支持部と、該ベルト支持部が第1の面に固定されたフランジ部と該フランジ部の第2の面に立設され支持体の取付孔に挿入される挿入部とにより前記取付孔の縁部を把持する留め具と、を備えた電線用クランプであって、
前記ベルト支持部は、
前記フランジ部における前記第1の面の2箇所に対向して立設された支柱部と、
前記支柱部に架設されて前記フランジ部に対向する壁を形成し、前記ベルトの第1の端が固定されたベルト支持壁部と、
前記ベルト支持壁部における前記フランジ部に対向する面に突設され、前記ベルトがその第2の端から前記ベルト支持壁部と前記フランジ部との間に形成されたベルト通し孔に通された場合に、前記ベルトの溝に嵌り込むことによって前記ベルト通し孔から抜ける方向への前記ベルトの動きを規制するベルト規制部と、
前記ベルト支持壁部の一部に形成され、前記ベルト支持壁部における前記ベルト規制部が設けられたベルト規制領域に可撓性を与える部分である撓み構造部と、を備えることを特徴とする電線用クランプ。
【請求項5】
前記撓み構造部は、前記ベルト支持壁部における前記ベルト規制領域の両側に形成されたスリットである請求項4に記載の電線用クランプ。
【請求項6】
前記撓み構造部は、前記ベルト支持壁部における前記ベルト規制領域を含む一部の領域又は前記ベルト規制領域の周囲の領域に形成され、他の部分よりも厚みの薄い薄肉部である請求項4に記載の電線用クランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−10474(P2012−10474A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143496(P2010−143496)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】