説明

車載LANシステムの接続検査方法

【課題】不揮発性メモリ(EEPROM)に記憶されている、ネットワーク環境に接続された電子制御ユニットの接続情報が消去できない。
【解決手段】電子制御機器がネットワーク環境に接続された電子制御ユニットの接続情報を読み取って、電子制御機器の第1の記憶部(RAM)と第2の記憶部(EEPROM)に所定の情報を記憶し、第1の記憶部に所定の情報が記憶されているときは、接続情報の読み取りを行わず、第2の記憶部の内容を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載ネットワーク環境に接続された電子制御ユニットから得た情報に基づいて、電子制御機器が所定の機能を実現する車載LANシステムの接続検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載ネットワーク環境に接続された電子制御ユニットから得た情報に基づいて、電子制御機器が所定の機能を発揮する車載LANシステムにあっては、システムの異常の有無を、製造のなるべく初期の段階で発見して解決する必要があるため、所定の電子制御ユニットが確実に接続されていることについて、電子制御機器の出荷時や車両の出荷時に検査する必要がある。また、車両出荷後においても、事故や故障等で電子制御ユニットを交換したとき、あるいはバッテリーを交換したときに、所定の電子制御ユニットが確実に接続されているか否かを検査できるようにする必要がある。
【0003】
この接続検査は、例えば、車両固有の車両識別情報を不揮発性メモリ(以下、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)と称する)に記憶する技術(特許文献1)を用いて、電子制御機器に内蔵されたEEPROMに、予め、車載ネットワーク環境に接続されるべき電子制御ユニットに付与された固有のID(以下、ユニットIDと呼ぶ)を記憶しておき、記憶されたユニットIDと、実際に車載LANに接続された電子制御ユニットのユニットIDとを比較することによって行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3758356号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、車載ネットワーク環境に接続される電子制御ユニットの種類や数は、車両の種類や車両の仕様によって異なっており、なおかつ、電子制御ユニットの種類も多大であるため、前述した接続検査を、少しでも効率的に行うことができる方法が望まれていた。
【0006】
しかし、そのような要望に沿った検査方法の提案はなされていないのが現状である。
【0007】
車載LANシステムの接続検査は、電子制御機器が完成した段階(以後第1ステップと呼ぶ)、電子制御機器を車両に搭載した段階(以後第2ステップと呼ぶ)、そして、車両出荷後(以後第3ステップと呼ぶ)の3段階で行われることが望ましい。
【0008】
第1ステップの検査では、電子制御機器に接続される電子制御ユニットのユニットIDを、予め、電子制御機器の中のEEPROMに記憶しておき、電子制御機器が、各電子制御ユニットから出力されたユニットIDを受信して、受信したユニットIDを、EEPROMに記憶しておいたユニットIDと比較し、所定の電子制御ユニットが車載ネットワーク環境に接続されていることがチェックされる。そして、検査で問題がなかったときには、EEPROMに記憶されていたユニットIDをクリアする。
【0009】
次に、第2ステップの検査で、実際に車載される電子制御ユニットを接続して、電子制御機器が車載ネットワーク環境に接続されたユニットIDを取得し、取得したユニットIDがEEPROMに記憶されて、車両が出荷される。
【0010】
ここで、第2ステップの検査を行うには、電子制御機器が、電子制御ユニットから車載ネットワーク環境に送出された信号を受信する度に、受信した信号に含まれるユニットIDを、EEPROMに記憶できる構成にしておく必要がある。
【0011】
しかしながら、その構成によると、第1ステップの検査を行った後で、EEPROMに記憶されたユニットIDをクリアする前に、電子制御ユニットからのユニットIDの送出を停止する必要がある。さもないと、EEPROMに記憶されたユニットIDがクリアされた後で、車載ネットワーク環境を流れるユニットIDが再度EEPROMに記憶されてしまうためである。
【0012】
一方、第1ステップの検査が終了する度にユニットIDの送出を停止して、その後でEEPROMに記憶されたユニットIDをクリアするのは非常に手間がかかるため、検査を効率的に行う観点から望ましいことではない。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、車載ネットワーク環境に接続された、電子制御機器と電子制御ユニットとの接続検査を効率的に行うことができる検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る車載LANシステムの接続検査方法は、車載LANシステムにおける電子制御機器と電子制御ユニットとの接続検査を効率的に行うものである。
【0015】
すなわち、本発明の請求項1に記載の車載LANシステムの接続検査方法は、車内に配設された車載LAN、もしくは、車載LANを模した検査用LANで構成されるネットワーク環境と、ネットワーク環境に接続され、電源が供給されている間は記憶内容が保持され、電源が供給されていないときには記憶内容が消去される第1の記憶部と、電源の供給状態に拘わらず、記憶内容が保持される第2の記憶部とを有し、ネットワーク環境を流れる情報に基づいて所定の機能を発揮する電子制御機器と、ネットワーク環境に接続され、電子制御機器を作動させるために必要な情報を出力する少なくとも1つの電子制御ユニットと、ネットワーク環境と電子制御機器と電子制御ユニットとに電源を供給する電源供給部と、を備えた車載LANシステムにおいて、電子制御機器と電子制御ユニットとの接続状態を検査する接続検査方法であって、第1の記憶部の第1のフラグが立っていないときに、電子制御機器が、ネットワーク環境に接続された電子制御ユニットの種類を検出する工程と、電子制御機器が、ネットワーク環境に接続された電子制御ユニットの種類を検出したときに、第1の記憶部に所定の第1のフラグを立てるとともに、第2の記憶部に、ネットワーク環境に接続された電子制御ユニットの種類に対応する第2のフラグを立てる工程と、電子制御機器が検出した、ネットワーク環境に接続された電子制御ユニットの種類と、第2のフラグの状態とが等しいときに、電子制御機器が、電子制御ユニットのネットワーク環境への接続状態は正常であると判断する工程と、第1のフラグが立っているときには、ネットワーク環境に接続された電子制御ユニットの種類の検出を行わない工程と、第2のフラグを消去する工程と、電源供給部からの電源の供給を停止させ、第1のフラグを消去させる工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
このように構成された車載LANシステムの接続検査方法によれば、電子制御機器の第1の記憶部に第1のフラグが立っていないときにネットワーク環境に接続された電子制御ユニットの種類が検出されたときには、検出された電子制御ユニットの種類に対応する第2のフラグが、電子制御機器の第2の記憶部に記憶されるとともに、第1の記憶部に所定の第1のフラグが立てられる。そして、電子制御機器が検出したネットワーク環境に接続された電子制御ユニットの種類と、第2のフラグの状態とが等しいときに、電子制御ユニットのネットワーク環境への接続状態は正常であると判断される。さらに、所定の第1のフラグが立っているときには、電子制御機器が、ネットワーク環境に接続された電子制御ユニットの種類の検出を行わないため、ネットワーク環境に電子制御ユニットが接続されて、その電子制御ユニットの種類を表す情報がネットワーク環境に流れている場合であっても、第2のフラグがクリアされた状態を保持することができ、これによって、第1ステップの検査から第2ステップの検査に確実に移行することができるため、車載LANシステムにおける電子制御ユニットの接続検査を効率的に行うことができる。
【0017】
また、本発明の請求項2に記載の車載LANシステムの接続検査方法は、電子制御ユニットの代わりに、電子制御機器に接続される可能性のある全ての電子制御ユニットが接続されていることと等価な状態であることを表す情報をネットワーク環境に出力する擬似信号発生手段を接続する工程を含むことを特徴とする。
【0018】
このように構成された車載LANシステムの接続検査方法によれば、ネットワーク環境に擬似信号発生手段が接続されるため、接続される可能性のある全ての電子制御ユニットが接続されているという最も複雑な状況を容易に作り出すことができるため、これによって、車載LANシステムにおける電子制御ユニットの接続検査を効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る車載LANシステムの接続検査方法によれば、車載ネットワーク環境に接続された、電子制御機器と電子制御ユニットとの接続検査を効率的に行うことができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る車載LANシステムの接続検査方法を適用する車載電子制御装置の一般的な構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る車載LANシステムの接続検査方法を適用する車載電子制御装置の具体的な構成を示す第1のブロック図である。
【図3】本発明の実施例1に係る車載LANシステムの接続検査方法を適用する車載電子制御装置の具体的な構成を示す第2のブロック図である。
【図4】図2、図3の車載LANシステムにおける接続検査方法の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る車載LANシステムの接続検査方法の実施例について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0022】
本実施例1は、本発明を、車両内に配設されたネットワーク環境(車載LAN)に接続された電子制御機器の検査に適用したものである。以下、本発明の実施例を図1、図2、図3に従って説明する。
【0023】
本装置は、図1に示すように、主に、車両(図1、図2、図3には図示しない)内に配設された、ネットワーク環境を構成するLAN10と、LAN10に接続され、所定の制御動作を行うとともに、その状態や制御結果をLAN10に送出する、第1の電子制御ユニット20と第2の電子制御ユニット30と第3の電子制御ユニット40と、LAN10を流れる情報に基づいて所定の機能を発揮する電子制御機器50と、電子制御機器50の内部に設置され、所定の演算処理を行うCPU60と、電源供給部100から電源が供給されているときのみ記憶動作を行い、電源の供給が停止すると記憶内容が消去される、演算処理の途中経過や他の電子制御ユニットから取得した情報の記憶等に用いるRAMから構成された第1の記憶部70と、電源の供給状態に拘わらず記憶動作を行い、演算処理の初期設定値や必要な定数の記憶等に用いるEEPROMから構成された第2の記憶部80と、LAN10、および各電子制御ユニット(20、30、40)、電子制御機器50に電源を供給する電源供給部100とを有している。
【0024】
なお、本実施例1は、電子制御機器50の検査方法に関する。すなわち、各電子制御ユニット(20、30、40)が、LAN10を経由して、電子制御機器50に確実に接続していることの検査と、電子制御機器50の動作に問題がないことの検査を行うものである。
【0025】
なお、図1では、3つの電子制御ユニット(20、30、40)がLAN10に接続されているが、これは3つに限定されるものではなく、構成されるシステムによって、必要な電子制御ユニットの個数は変動する。
【0026】
図2は、図1の具体的な構成例を示すものである。すなわち、車両に搭載され、車速やエンジン回転数や定速走行装置の動作状態等の車両情報を表示したり、車両の状態に異常が発生したときに警告情報を表示したりするメーターを構成する電子制御機器を図示したものである。
【0027】
図2の構成を説明すると、LAN10の具体的な構成例として、CAN(Car Area Network)プロトコルを有し、そこに接続されたユニット間で情報の送受信を行うCAN15に、オートマチックトランスミッションの制御を司るATコントロールユニット25(第1の電子制御ユニット20に対応)と、定速走行機能の制御を司るクルーズコントロールユニット35(第2の電子制御ユニット30に対応)と、横滑り防止機能やアンチロックブレーキ機能の制御を司るABSコントロールユニット45(第3の電子制御ユニット40に対応)と、メーターの表示機能の制御を司るメーターコントロールユニット55(電子制御機器50に対応)と、CAN15、および各電子制御ユニット(25、35、45)、メーターコントロールユニット55に電源を供給する電源供給部100とが接続されている。
【0028】
また、メーターコントロールユニット55の内部には、CAN15を経由して、各電子制御ユニット(25、35、45)から送信された情報に基づいて、演算処理により、車両情報を表示する計器や警告灯を有するメーター90の表示状態や警告灯の表示状態を決定するCPU60と、メーター90に出力する情報を決定する演算処理の途中経過や、他の電子制御ユニットから取得した情報の記憶や読み出しが可能で、電源供給部100から電源が供給されている間のみ記憶内容を保持することができる、第1の記憶部70を構成するRAM75と、メーター90に出力する情報を決定する演算処理の初期設定値や必要な定数等が記憶されるとともに、新たな情報の書き込みも可能であり、電源供給部100からの電源の供給状態に拘わらず記憶内容を保持することができる、第2の記憶部80を構成するEEPROM85とが備えられている。
【0029】
本実施例1で行われる検査は、全部で3つのステップからなる。
【0030】
第1ステップの検査は、メーターコントロールユニット55を製造する工場において、図3の構成、すなわち、ATコントロールユニット25と、クルーズコントロールユニット35と、ABSコントロールユニット45の代わりに、それら3つの電子制御ユニットを含む、メーターコントロールユニット55に接続される可能性のある全ての電子制御ユニットが接続されているのと等価な状態を再現できる擬似信号発生手段である擬似信号発生器52が接続された状態で行われる検査である。
【0031】
このように擬似信号発生器52を用いて検査を行うのは、メーターコントロールユニット55に接続される電子制御ユニットの種類は車両によって異なるため、最終的にどのような電子制御ユニットが接続されるかわからないためである。一方、メーターコントロールユニット55は、想定される全ての電子制御ユニットが接続された状態であっても正常に動作するように製造されているため、この第1ステップの検査においては、考えられる最も複雑な構成で検査を行う訳である。
【0032】
なお、この第1ステップの検査は、車載状態で行う必要はなく、CAN15は、台上に構築された検査用CANであってもよい。
【0033】
第2ステップの検査は、車両を製造する工場にて、図2の構成によって行われる検査である。すなわち、擬似信号発生器52が取り外され、実際に車両に搭載される電子制御ユニットの例として、例えば、ATコントロールユニット25と、クルーズコントロールユニット35と、ABSコントロールユニット45とが接続された状態で行われる検査である。
【0034】
そして、第3ステップの検査は、車両が出荷された後で、図2の構成によって行われる検査である。但し、顧客が検査を意識することはなく、検査は、エンジンをかける度に、自動的に行われる。
【0035】
以下、本実施例1に係る車載LANシステムの第1ステップから第3ステップに亘る検査方法について、図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0036】
最初に、第1ステップの検査の流れを説明する。
【0037】
まず、ステップS2において、擬似信号発生器52が接続されているか否かが判定される。擬似信号発生器52は、CAN15に接続される可能性のある全ての電子制御ユニットが接続されていることを表す擬似信号をCAN15に送出することができる信号発生器である。すなわち、擬似信号発生器52から送出される擬似信号には、CAN15に接続される可能性のある全ての電子制御ユニットに付与された、ユニットIDが含まれている。
【0038】
このような擬似信号発生器52を接続するのは、車両によって接続される電子制御ユニットの種類が異なるため、全てのバリエーションを個別に検査していたのでは、多大な手間と時間を要するため、検査の効率をあげるために、図3の構成によって、仮想的に最も複雑な状態を作って検査を行うためである。
【0039】
擬似信号発生器52が接続されていると判定された場合、ステップS3において、EEPROM85の所定のアドレスに、全ての電子制御ユニットが接続されていることを表す第2のフラグが立てられる。
【0040】
第2のフラグは、EEPROM85の所定のアドレスに確保された、CAN15に接続され得る電子制御ユニットの最大個数に相当するビット数の領域に、擬似信号発生器52が出力してメーターコントロールユニット55が受信した擬似信号の中からユニットIDが検出されたときに、検出された電子制御ユニットに対応するビットに“1”を記憶し、ユニットIDが検出されないときは“0”を記憶する構成になっている。すなわち、本実施例1の場合、確保された全てのビットに“1”が記憶される。
【0041】
なお、後述する第1のフラグは、RAM75の所定のアドレスに、擬似信号発生器52が出力してメーターコントロールユニット55が受信した擬似信号の中から、ユニットIDが検出されたときに“1”を記憶し、ユニットIDが検出されないときは“0”を記憶する構成になっている。
【0042】
次に、ステップS8において、メーターコントロールユニット55で、CAN15を流れる擬似信号を受信する。
【0043】
そして、受信した擬似信号の中に含まれているユニットIDが、ステップS3でEEPROM85の所定のアドレスに記憶された第2のフラグの状態と一致しているとき、全ての電子制御ユニットが、正しくCAN15に接続されているものと判断される。
【0044】
一方、ステップS8において、受信した擬似信号に含まれているユニットIDと第2のフラグの内容が異なっている場合、電子制御ユニットの接続に問題があるため、ステップS10において、メーター90のインジケータに異常を示す表示がなされる。検査員は、この異常表示に基づいて異常の原因究明と対策を行う。
【0045】
なお、ステップS8において、受信した擬似信号に含まれているユニットIDと第2のフラグの状態とが等しいときは、ステップS9において、メーターコントロールユニット55の動作確認を行う。ここでは、例えば擬似信号発生器52から所定の車速信号をCANに送出して、メーター90の車速計が所定の車速を示すことを確認したり、CAN15を通してメーターコントロールユニット55に接続される可能性のある全ての電子制御ユニットが接続されているものと仮定して、擬似信号発生器52から、予め決められた所定の信号をCANに送出し、その信号に対応するメーター90のインジケータが点灯するか否かを確認したりすることによって行えばよい。
【0046】
ステップS9において、メーター90が正常に動作することが確認されると、ステップS4に戻る。
【0047】
一方、ステップS9において、メーターコントロールユニット55の動作に異常があるときは、ステップS10に移行し、メーター90のインジケータに異常を示す表示がなされる。検査員は、この異常表示に基づいて異常の原因究明と対策を行う。
【0048】
検査が区切りのよいところまで終了したとき、あるいは、検査が完全に終了したとき、擬似信号発生器52から所定の信号がCANに送出される。この所定の信号は、検査が区切りのよいところまで終了したこと、あるいは、検査が全て終了したことを検出して自動的に送出してもよいし、検査員の操作によって送出してもよい。
【0049】
ステップS11において、CPU60がこの所定の信号を受信したとき、もしくは、擬似信号発生器52をCAN15から取り外したことが検出されたときに、ステップS12において第2のフラグの内容がクリアされる。
【0050】
なお、ステップS11において、所定の信号が検出されないとき、または、擬似信号発生器の取り外しが検出されないときは、ステップS4に移行する。
【0051】
ステップS12の後、ステップS13において、第2のフラグがクリアされたことが確認される。第2のフラグがクリアされていることが確認されると、ステップS4に移行する。もし、メーターコントロールユニット55の内部故障等によって第2のフラグがクリアされないときは、ステップS10に移行し、メーター90のインジケータに異常を示す表示がなされる。検査員は、この異常表示に基づいて異常の原因究明と対策を行う。
【0052】
次に、ステップS4にて、電源供給部100からメーターコントロールユニット55に電源が供給されていることが確認される。これは、第1ステップの検査が全て終了して検査員が電源供給部100からの電源供給を停止したか否かを判断する処理である。
【0053】
ステップS4において、電源が供給されていないと判断されると、ステップS5において第1のフラグがクリアされ、ステップS6にて第1ステップの検査を終了する。実際は、電源供給部100からの電源供給を停止すると、RAM75の記憶内容は保持されずにクリアされるため、RAM75に記憶されている第1のフラグの内容は、自動的にクリアされる。
【0054】
一方、ステップS4において、電源が供給されていると判断されると、ステップS7に移行し、第2のフラグが立っているか否かが判定される。
【0055】
ここで、ステップS11からステップS4に移行したときは、第2のフラグに何らかの情報が記憶されているため、ステップS8に移行し、以後、先に説明した処理が繰り返される。
【0056】
一方、ステップS13からステップS4に移行したときは、第2のフラグがクリアされているため、ステップS14に移行する。
【0057】
ステップS14では、RAM75の所定のアドレスに、第1のフラグが立っているか否かが判定される。
【0058】
もし、第1のフラグが立っていると判定されると、ステップS9に移行する。その後、先に説明した処理が繰り返される。
【0059】
ここで、ステップS14において、第1のフラグが立っていると判定されたときに、メーターコントロールユニット55が、擬似信号発生器52からCAN15に出力された擬似信号の受信を行わないでステップS9に移行することが本発明の特徴である。
【0060】
すなわち、この特徴を有することによって、第1のフラグが立っていると判断されたときは、第2のフラグに情報が書き込まれることはなく、これによって、CAN15に擬似信号が流れているときであっても、第2のフラグがクリアされた状態を保持することが可能となる。
【0061】
一方、ステップS14において、第1のフラグが立っていないと判定されたときには、ステップS15に移行する。
【0062】
ステップS15では、メーターコントロールユニット55でCAN15を流れる擬似信号を受信し、受信した擬似信号の中からユニットIDが検出される。
【0063】
その後、ステップS16において、RAM75の所定のアドレスに、擬似信号発生器52が出力してメーターコントロールユニット55が受信した擬似信号の中にユニットIDが検出されたことを示す所定の値が書き込まれることによって、第1のフラグが立てられる。
【0064】
さらに、ステップS17において、EEPROM85の所定のアドレスに、ステップS15で検出されたユニットIDに対応する第2のフラグが立てられる。その後、ステップS9に移行し、先に説明した処理が繰り返される。
【0065】
そして、全ての検査が終了すると、メーターコントロールユニット55は、車両を組み立てる工場に納入される。
【0066】
次に、第2ステップの検査の流れを説明する。第2ステップの検査は、図2に示すように、擬似信号発生器52の代わりに、実際に車載される電子制御ユニット(25、35、45)が接続された状態で行われる。
【0067】
本実施例1では、オートマチックトランスミッションの制御を司るATコントロールユニット25と、定速走行機能の制御を司るクルーズコントロールユニット35と、横滑り防止機能やアンチロックブレーキ機能の制御を司るABSコントロールユニット45とが接続されるものとする。
【0068】
第2ステップの検査は、ステップS2で擬似信号発生器52が接続されているか否かを判定するところから始まる。第2ステップの検査を行うときに、擬似信号発生器52は接続されていないため、ステップS4に移行する。
【0069】
次に、ステップS4において、電源供給部100からメーターコントロールユニット55に電源が供給されているか否かが判定される。そして、電源が供給されているときは、ステップS7に移行する。
【0070】
ステップS7において、EEPROM85の所定のアドレスに第2のフラグが立っているか否かが判定される。本実施例1の場合、先に説明した第1ステップの検査が終了した時点で、第2のフラグはクリアされているため、ステップS7において、第2のフラグが立っていないと判定され、ステップS14に移行する。
【0071】
次に、ステップS14において第1のフラグが立っているか否かが判定される。第1ステップの検査において、電源供給部100からの電源供給を停止したことにより、RAM75の中の第1のフラグはクリアされているため、第1のフラグは立っていないと判定され、ステップS15に移行する。
【0072】
次に、ステップS15において、メーターコントロールユニット55が、各電子制御ユニット(25、35、45)からCAN15に送出された信号を受信する。なお、この信号には、各電子制御ユニット(25、35、45)がCAN15に接続されていることを表すユニットIDをはじめ、各電子制御ユニット(25、35、45)から出力される固有の情報が、予め決められたフォーマットに従って流れている。そして、メーターコントロールユニット55がこの信号の中のユニットIDを表す信号を受信したら、ステップS16に移行する。
【0073】
ステップS16では、RAM75の所定のアドレスに、各電子制御ユニット(25、35、45)が出力してメーターコントロールユニット55が受信した信号の中にユニットIDが検出されたことを示す所定の値が書き込まれることによって、第1のフラグが立てられる。
【0074】
さらに、ステップS17において、EEPROM85の所定のアドレスに、ステップS15で検出された、電子制御ユニットを表すユニットIDに対応する第2のフラグが立てられる。
【0075】
その後、ステップS9に移行し、メーターコントロールユニット55の動作確認が行われる。この動作確認は、ステップS15で受信したユニットIDで示される、CAN15に接続されている各電子制御ユニット(25、35、45)から、予め決められた所定の形式の信号を出力し、メーターコントロールユニット55がその信号を受信して、受信した信号に基づいて、メーター90に所定の表示がなされることを確認することによって行われる。
【0076】
ステップS9において、メーターコントロールユニット55が正常に動作していると判定されたときは、ステップS11に移行する。
【0077】
ステップS11では、所定の信号が発生したこと、もしくは、擬似信号発生器52が取り外されたことが検出されるが、第2ステップの検査では、いずれも該当しないため、ステップS4に移行する。
【0078】
一方、ステップS9において、メーターコントロールユニット55が正常に動作していないときは、ステップS10に移行し、メーター90のインジケータに異常を示す表示がなされる。検査員は、この異常表示に基づいて異常の原因究明と対策を行う。
【0079】
ステップS11からステップS4に移行した後、電源供給部100からの電源供給が停止するまで、動作確認が繰り返される。
【0080】
動作確認が終了し、車両のイグニッションスイッチを切断し、電源供給部100からの電源供給が停止すると、ステップS4において電源が供給されていないと判定される。電源の供給が停止すると、RAM75の記憶内容はクリアされるため、ステップS5において、第1のフラグの内容がクリアされて、ステップS6で第2ステップの検査を終了する。
【0081】
そして、ステップS17において、EEPROM85に記憶された第2のフラグの状態が保持されたまま、車両は顧客の元に出荷される。
【0082】
なお、製造される車両の仕様によっては、搭載される電子制御ユニットの種類が異なる場合がある。例えば、定速走行装置が搭載されない車両の場合、図2において、クルーズコントロールユニット35が接続されない。このような場合であっても、第2ステップの検査は図4のフローチャートに従って行われる。
【0083】
すなわち、ステップS15で受信したユニットIDを表す信号の中に、クルーズコントロールユニット35に対応するユニットIDが含まれないときには、ステップS17において設定される第2のフラグの中に、クルーズコントロールユニット35に対応するフラグは書き込まれない。
【0084】
そして、ステップS9の動作確認は、クルーズコントロールユニット35が接続されていないものとして行われる。
【0085】
このように、第2ステップの検査は、実際にCAN15に接続されている電子制御ユニットの種類に応じて行われる。
【0086】
次に、第3ステップの検査の流れを説明する。第3ステップの検査は、出荷された車両が顧客の手元に渡った後で、車両のエンジンがかかる度に行われる。
【0087】
第3ステップの検査は、ステップS2で擬似信号発生器52が接続されているか否かを判定するところから始まる。このとき、擬似信号発生器52は接続されていないため、ステップS4に移行する。
【0088】
次に、ステップS4において、電源供給部100からメーターコントロールユニット55に電源が供給されているか否かが判定される。そして、電源が供給されているときは、ステップS7に移行する。
【0089】
ステップS7において、第2のフラグが立っているか否かが判定される。本実施例1の場合、第2ステップの検査において、EEPROM85の中に設定された第2のフラグに、CAN15に接続された電子制御ユニットを表すユニットIDに対応する値が記憶されているため、ステップS7において、第2のフラグが立っていると判定され、ステップS8に移行する。
【0090】
次に、ステップS8において、CAN15から受信したユニットIDと、EEPROM85の中に設定された第2のフラグの状態とを比較する。
【0091】
ここで、CAN15から受信したユニットIDと、EEPROM85の中に設定された第2のフラグの状態が異なるときは、ステップS10に移行し、メーター90のインジケータに異常を示す表示がなされる。このとき、車両の使用者は、車両を販売店に持ち込んで、販売店において、異常表示の内容に基づいて異常の原因究明と対策が行われる。
【0092】
一方、ステップS8において、受信したユニットIDと、EEPROM85の中に設定された第2のフラグの状態が等しいときは、ステップS9に移行し、メーターコントロールユニット55の動作確認が行われる。この動作確認は、例えば、CAN15に接続された各電子制御ユニット(25、35、45)から所定の形式の信号を出力し、メーターコントロールユニット55がその信号を受信して、受信した信号に基づいて、メーター90に所定の表示がなされることを確認することによって行われる。なお、このステップS9の動作確認は、メーターコントロールユニット55が実際に動作している際に、バックグラウンドで行われるため、車両の使用者が動作確認を意識することはない。
【0093】
また、ステップS9において、メーターコントロールユニット55が正常に動作していないときは、ステップS10に移行し、メーター90のインジケータに異常を示す表示がなされる。このとき、車両の使用者は、車両を販売店に持ち込んで、販売店において、異常表示の内容に基づいて異常の原因究明と対策が行われる。
【0094】
一方、ステップS9において、メーターコントロールユニット55が正常に動作しているときは、ステップS11に移行し、所定の信号が発生したこと、もしくは、擬似信号発生器52が取り外されたことが検出されるが、第3ステップの検査では、いずれも該当しないため、ステップS4に移行する。その後、電源供給部100からの電源供給が停止するまで、第3ステップの検査が繰り返される。
【0095】
動作確認が終了し、車両のイグニッションスイッチが切断され、電源供給部100からの電源供給が停止すると、ステップS4において電源が供給されていないと判定される。電源の供給が停止すると、RAM75の記憶内容はクリアされるため、ステップS5において、第1のフラグの内容がクリアされて、ステップS6で第3ステップの検査を終了する。
【0096】
以上、説明したように、実施例1に係る車載LANシステムの接続検査方法によれば、第1の記憶部70を構成するRAM75に第1のフラグが立っているときには、メーターコントロールユニット55が、CAN15に接続された電子制御ユニットのユニットIDを表す情報の受信を行わないため、CAN15に電子制御ユニットが接続されて、その電子制御ユニットの種類を表すユニットIDがCAN15に流れている場合であっても、予期しないタイミングで第2のフラグに情報が書き込まれることがないため、第2の記憶部80を構成するEEPROM85の中に設定された第2のフラグのみがクリアされた状態を保持することができ、これによって、第1ステップの検査から第2ステップの検査に確実に移行することができ、車載LANシステムにおける電子制御ユニットの接続検査を効率的に行うことができるという効果が得られる。
【0097】
さらに、本発明の車載LANシステムの接続検査方法によれば、工場の生産ラインで行われる検査のみならず、車両出荷後であっても、同一のソフトウェアを用いて検査を行うことができるため、様々な場面における検査を、ソフトウェアを変更することなく効率的に実施できるという効果が得られる。
【0098】
また、本実施例では、メーターコントロールユニット55の検査を例にあげて説明したが、検査対象はメーターコントロールユニット55に限定されるものではない。すなわち、ドアやパワーウインドの開閉制御や照明の点消灯制御等を行うボディーコントロールユニットをはじめとする、車載LANに接続された、その他の電子制御機器の検査にも適用することができるのは言うまでもない。
【0099】
さらに、本実施例で説明した車載LANは、CAN15によって構成されているが、これは、CAN以外のプロトコルを有するLANで構成されていても構わない。
【0100】
なお、本発明は、ガソリン車のみならず、ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車等、車両の動力源の種類に拘わらず、車載ネットワーク環境を有する車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0101】
15 CAN
25 ATコントロールユニット
35 クルーズコントロールユニット
45 ABSコントロールユニット
52 擬似信号発生器
55 メーターコントロールユニット
60 CPU
75 RAM
85 EEPROM
90 メーター
100 電源供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車内に配設された車載LAN、もしくは、前記車載LANを模した検査用LANで構成されるネットワーク環境と、
前記ネットワーク環境に接続され、電源が供給されている間は記憶内容が保持され、電源が供給されていないときには前記記憶内容が消去される第1の記憶部と、電源の供給状態に拘わらず、記憶内容が保持される第2の記憶部とを有し、前記ネットワーク環境を流れる情報に基づいて所定の機能を発揮する電子制御機器と、
前記ネットワーク環境に接続され、前記電子制御機器を作動させるために必要な情報を出力する少なくとも1つの電子制御ユニットと、
前記ネットワーク環境と前記電子制御機器と前記電子制御ユニットとに電源を供給する電源供給部と、
を備えた車載LANシステムにおいて、前記電子制御機器と前記電子制御ユニットとの接続状態を検査する接続検査方法であって、
前記第1の記憶部の第1のフラグが立っていないときに、前記電子制御機器が、前記ネットワーク環境に接続された前記電子制御ユニットの種類を検出する工程と、
前記電子制御機器が、前記ネットワーク環境に接続された前記電子制御ユニットの種類を検出したときに、前記第1の記憶部に所定の第1のフラグを立てるとともに、前記第2の記憶部に、前記ネットワーク環境に接続された前記電子制御ユニットの種類に対応する第2のフラグを立てる工程と、
前記電子制御機器が検出した、前記ネットワーク環境に接続された前記電子制御ユニットの種類と、前記第2のフラグの状態とが等しいときに、前記電子制御機器が、前記電子制御ユニットの前記ネットワーク環境への接続状態は正常であると判断する工程と、
前記第1のフラグが立っているときには、前記ネットワーク環境に接続された前記電子制御ユニットの種類の検出を行わない工程と、
前記第2のフラグを消去する工程と、
前記電源供給部からの電源の供給を停止させ、前記第1のフラグを消去させる工程とを含むことを特徴とする車載LANシステムの接続検査方法。
【請求項2】
前記電子制御ユニットの代わりに、前記電子制御機器に接続される可能性のある全ての前記電子制御ユニットが接続されていることと等価な状態であることを表す情報を前記ネットワーク環境に出力する擬似信号発生手段を接続する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の車載LANシステムの接続検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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