説明

車輌の変速状態推定装置

【課題】 クラッチがオン状態にあることを検出する手段を要することなく変速機のシフト位置を正確に推定する。
【解決手段】 エンジン回転数Neに対する駆動輪の車輪速度Vnwの比として速度比Rnwが演算され(S20、30)、速度比に基づきシフト位置Psが推定され(S40)、変速比の変化率DVnwが演算され(S50)、ローパスフィルタ処理後の速度比の変化率DVnwfが演算される(S60)。そして速度比、速度比の変化率、ローパスフィルタ処理後の変化率等に基づき変速中であるか否かが判別され(S80、100)、変速中でないと判定されたときにはシフト位置の更新許可条件が満たされているかが判別され(S90〜110)、更新許可条件が満たされているときにはシフト位置Psが推定されたシフト位置に更新される(S150)。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等の車輌の変速機に係り、更に詳細には変速機のシフト位置を推定する変速状態推定装置に係る。
【0002】
【従来の技術】自動車等の車輌に於いてマニュアル式の変速機のシフト位置を推定する変速状態推定装置の一つとして、例えば特開平3−70638号公報に記載されている如く、駆動輪の車輪速度とエンジン回転数とに基づき変速機のシフト位置を推定するよう構成された変速状態推定装置が従来より知られている。かかる変速状態推定装置によれば、変速機のシフトレバーの位置等を検出する手段を要することなく変速機のシフト位置を推定することができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】一般に、クラッチがオフの状態にあるときには、駆動輪の車輪速度とエンジン回転数との関係が変速機の変速比に対応する関係にならないため、駆動輪の車輪速度とエンジン回転数との関係のみに基づいてシフト位置を推定する場合には、クラッチオフ時等に於いてシフト位置が誤推定されることがある。
【0004】そのため上記従来の変速状態推定装置に於いては、クラッチがオン状態にあることを検出し、クラッチがオン状態にあるときに駆動輪の車輪速度とエンジン回転数との関係に基づいてシフト位置を推定することにより、上述の如き誤推定を防止するようになっている。従って上述の如き従来の変速状態推定装置に於いては、クラッチがオン状態にあることを検出する手段が必須であるという問題がある。
【0005】本発明は、駆動輪の車輪速度とエンジン回転数との関係に基づいてシフト位置を推定するよう構成された従来の変速状態推定装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、エンジン回転数に対する変速機の出力軸回転速度の比を演算するだけでなく、その比の変化率の大きさをも判定することにより、クラッチがオン状態にあることを検出する手段を要することなく変速機のシフト位置を正確に推定することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ちエンジン回転数と変速機の出力軸回転速度とに基づき変速機のシフト位置を推定する車輌の変速状態推定装置にして、エンジン回転数に対する出力軸回転速度の比を求め、前記比の変化率の大きさが基準値を越えているかの判定結果及び前記比に基づき変速機のシフト位置を推定することを特徴とする車輌の変速状態推定装置によって達成される。
【0007】一般に、クラッチがオン状態にあるときには、エンジン回転数に対する変速機の出力軸回転速度の比は変速比の拘束を受けるので、変速機のシフト位置に拘わらずエンジン回転数に対する出力軸回転速度の比の変化率は実質的に0であるが、クラッチがオフ状態にあるときには、エンジンの出力軸が変速機の入力軸に対しフリーの状態になり、エンジン回転数に対する変速機の出力軸回転速度の比が変速比の拘束を受けなくなるため、エンジン回転数に対する出力軸回転速度の比の変化率の大きさが大きくなる。
【0008】上記請求項1の構成によれば、エンジン回転数に対する出力軸回転速度の比の変化率の大きさが基準値を越えているかの判定結果及び前記比に基づき変速機のシフト位置が推定されるので、クラッチがオフ状態にあり変速中の虞れがあるか否かを考慮して変速機のシフト位置を推定することが可能になる。
【0009】
【課題解決手段の好ましい態様】本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、変速状態推定装置は少なくともエンジン回転数に対する出力軸回転速度の比の変化率の大きさに基づき変速中であるか否かを判定し、変速中でないと判定された場合にエンジン回転数に対する出力軸回転速度の比に基づきシフト位置を推定するよう構成される(好ましい態様1)。
【0010】本発明の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、変速状態推定装置はエンジン回転数に対する出力軸回転速度の比の変化率をローパスフィルタ処理し、ローパスフィルタ処理後の変化率の大きさが基準値を越えているときには変速中であると判定するよう構成される(好ましい態様2)。
【0011】本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、変速状態推定装置は変速中でないと判定されたときには推定されたシフト位置が第一の所定の時間以上変化していないか否かを判定し、推定されたシフト位置が第一の所定の時間以上変化していないと判定されないときにはシフト位置を推定されたシフト位置に更新しないよう構成される(好ましい態様3)。
【0012】本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3の構成に於いて、推定されたシフト位置が第一の所定の時間以上変化していないと判定されたいときには判定が変速中であるより変速中でないに変化した時点より第二の所定の時間以内であるか否かを判定し、判定が変速中であるより変速中でないに変化した時点より第二の所定の時間以内であると判定されたときにはシフト位置を推定されたシフト位置に更新するよう構成される(好ましい態様4)。
【0013】本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様4の構成に於いて、変速状態推定装置は判定が変速中であるより変速中でないに変化した時点より第二の所定の時間以内でないと判定されたときには推定されたシフト位置が第三の所定の時間以上変化していないか否かを判定し、推定されたシフト位置が第三の所定の時間以上変化していないと判定されないときにはシフト位置を推定されたシフト位置に更新するよう構成される(好ましい態様5)。
【0014】本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、変速状態推定装置はエンジン回転数に対する出力軸回転速度の比が変速機の最高速段の変速比に対応する基準値よりも大きい場合、又はエンジン回転数に対する出力軸回転速度の比の変化率をローパスフィルタ処理した値の大きさが第四の所定時間以上基準値よりも大きい場合に変速中であると判定するよう構成される(好ましい態様6)。
【0015】本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、変速状態推定装置はエンジン回転数に対する出力軸回転速度の比が変速機の最高速段の変速比に対応する基準値よりも小さく且つエンジン回転数に対する出力軸回転速度の比の変化率をローパスフィルタ処理した値の大きさが第五の所定時間以上基準値よりも小さく且つエンジン回転数に対する出力軸回転速度の比の変化率の大きさが第六の所定時間以上基準値よりも小さい場合に変速中でないと判定するよう構成される(好ましい態様7)。
【0016】
【発明の実施の形態】以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0017】図1は後輪駆動車に適用された本発明による変速状態推定装置の一つの実施形態を示す概略構成図である。
【0018】図1に於いて、10はエンジンを示しており、エンジン10の駆動力はクラッチ12及びマニュアル式変速機14を介してプロペラシャフト16へ伝達される。プロペラシャフト16の駆動力はディファレンシャル18により左後輪車軸20L及び右後輪車軸20Rへ伝達され、これにより駆動輪である左右の後輪22RL及び22RRが回転駆動される。
【0019】尚図1には示されていないが、クラッチ12は運転者により操作されるクラッチペダルに連動してオン−オフ制御され、また変速機14のシフト位置(変速段)は図1には示されていないシフトレバーが運転者によって操作されることにより切替えられる。また図示の実施形態に於いては、変速機14は前進5段、後進1段の変速を行なうようになっている。
【0020】一方左右の前輪22FL及び22FRは従動輪であると共に操舵輪であり、図1には示されていないが運転者によるステアリングホイールの転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置によりタイロッドを介して操舵される。
【0021】図1には詳細に示されていないが、エンジン10の出力はメインスロットルバルブの開度が運転者により操作されるアクセルペダルの踏み込み量に応じて制御されることによって制御され、またサブスロットルバルブの開度がエンジン制御コンピュータ24により車輌の走行状態に応じて制御されることにより制御される。
【0022】エンジン制御コンピュータ24にはエンジン回転数センサ26よりエンジン回転数Neを示す信号が入力され、また図1には示されていない他のセンサより吸入空気量その他のエンジン制御情報を示す信号が入力される。エンジン回転数Neを示す信号はエンジン制御コンピュータ24より車輌運動制御コンピュータ28へ出力される。
【0023】左右の前輪22FL、22FR及び左右の後輪22RL、22RRの制動力は制動装置32の油圧回路34により対応するホイールシリンダ36FL、36FR、36RL、36RRの制動圧が制御されることによって制御される。図には示されていないが、油圧回路34はリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル38の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ40により制御され、また必要に応じて後に説明する如く車輌運動制御コンピュータ28により制御される。
【0024】車輌運動制御コンピュータ28には、エンジン制御コンピュータ24よりのエンジン回転数Neを示す信号に加えて、車輪速度センサ42FL及び42FRよりそれぞれ左後輪及び右後輪の車輪速度Vwrl及びVwrrを示す信号が入力され、また操舵角θ、車輌の横加速度Gy、車速V、車輌のヨーレートγ等を示す信号も入力される。
【0025】尚エンジン制御コンピュータ24及び車輌運動制御コンピュータ28は、実際にはそれぞれCPU、ROM、RAM、入出力ポート装置等を含み、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された周知の構成のマイクロコンピュータであってよい。
【0026】車輌運動制御コンピュータ28は、駆動輪である左右後輪の車輪速度Vwrl及びVwrrの平均値として駆動輪の車輪速度Vwrを演算し、エンジン回転数Neに対する駆動輪の車輪速度Vwrの比Rnwを演算し、この速度比Rnwに基づき変速機14のシフト位置Psを推定する。また車輌運動制御コンピュータ28は速度比Rnwの変化率DVnwを演算すると共にそのローパスフィルタ処理後の値DVnwfを演算し、速度比Rnw及びローパスフィルタ処理後の値DVnwfに基づき変速中であるか否かを判定し、変速中でない判定されるときには変速機のシフト位置を推定されたシフト位置に更新する。
【0027】また車輌運動制御コンピュータ28は車輌のヨーレートγ等に基づき車輌がスピン状態又はドリフトアウト状態にあるか否かを判定し、車輌の挙動を安定化させるために制動力を付与すべき車輪の目標スリップ率を演算し、それらの車輪のスリップ率が目標スリップ率になるよう制動力を制御し、これにより車輌にスピン抑制方向又はドリフトアウト抑制方向のヨーモーメントを与えると共に車輌を減速させて挙動を安定化させる。この場合、推定される変速機14のシフト位置は例えば上記挙動制御に於ける駆動輪の駆動力の推定等に使用される。
【0028】尚車輌の挙動制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、挙動制御は当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実施されてよく、また図示の実施形態に於いては車輌の挙動を制御する車輌運動制御コンピュータ28により変速機14の変速状態が推定されるようになっているが、変速機の変速状態は車輌に搭載される任意の制御装置により推定されるよう構成されてよく、更に推定される変速機14の変速状態は挙動制御以外の任意の車輌制御に使用されてよい。
【0029】次に図2乃至図4に示されたフローチャートを参照して図示の実施形態に於ける変速状態推定ルーチンについて説明する。尚図2乃至図4に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。また図示のフローチャートに於いて、フラグFは変速中でないと判定されているか否かに関するものであり、0は変速中でないと判定されていることを示し、1は変速中でないと判定されていることを示している。
【0030】まずステップ10に於いてはエンジン回転数Neを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては駆動輪の車輪速度Vwrが左右後輪の車輪速度Vwrl及びVwrrの平均値として下記の式1に従って演算される。
Vwr=(Vwrl+Vwrr)/2 ……(1)
【0031】ステップ30に於いては速度比Rnwが下記の式2に従ってエンジン回転数Neに対する駆動輪の車輪速度Vwrの比として演算され、ステップ40に於いては速度比Rnwが変速機14の各変速段について予め設定された何れの下限値と上限値との間にあるかに基づき、変速機14のシフト位置Psが推定される。
Rnw=Vwr/Ne ……(2)
【0032】ステップ50に於いては変速比Rnwの時間微分値として変速比の変化率DVnwが演算され、ステップ60に於いては例えばバターワースフィルタ処理により速度比の変化率DVnwがローパスフィルタ処理され、これによりローパスフィルタ処理後の速度比の変化率DVnwfが演算される。
【0033】ステップ70に於いてはフラグFが1であるか否かの判別、即ち前回の判定が変速中であるとの判定であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ80へ進む。
【0034】ステップ80に於いては図3に示されたルーチンに従って変速中であるか否かの判別、即ち変速機14の変速操作が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ90に於いてフラグFが1にセットされた後ステップ10へ戻り、否定判別が行われたときにはステップ120へ進む。
【0035】ステップ100に於いては図4に示されたルーチンに従って変速中でないか否かの判別、即ち変速機14の変速操作が行われていないか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ110に於いてフラグFが0にリセットされた後ステップ120へ進み、否定判別が行われたときにはそのままステップ10へ戻る。
【0036】ステップ120に於いてはステップ40に於いて推定された変速機14のシフト位置PsがTa(正の定数)時間以上変化していないか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ10へ戻り、肯定判別が行われたときにはステップ130へ進む。
【0037】ステップ130に於いては変速中である状態より変速中でない状態に変化した時点よりTb(正の定数)時間以内であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ150へ進み、否定判別が行われたときにはステップ140へ進む。
【0038】ステップ140に於いてはステップ40に於いて推定されたシフト位置PsがTc(Taよりも大きい正の定数)時間以上変化していないか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ10へ戻り、肯定判別が行われたときにはステップ150へ進む。
【0039】ステップ150に於いては現サイクルに於いて推定されたシフト位置Psが前回更新されたシフト位置と異なる場合には、シフト位置が現サイクルに於いて推定されたシフト位置に更新され、しかる後ステップ10へ戻る。
【0040】図3に示されている如く、ステップ70に於いて実行される変速中判定ルーチンのステップ72に於いては、変速機14が第5速にある場合に於けるエンジン回転数Neに対する駆動輪の車輪速度Vwrの比よりも大きい正の定数をRnwaとして、速度比Rnwが基準値Rnwaよりも大きいか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには変速中であると考えられるのでステップ90へ進み、否定判別が行われたときにはステップ74へ進む。
【0041】ステップ74に於いてはローパスフィルタ処理後の変速比の変化率DVnwfの絶対値がTd(正の定数)時間以上基準値DVfb(正の定数)よりも大きいか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには変速中であると考えられるのでステップ90へ進み、否定判別が行われたときにはステップ120へ進む。
【0042】また図4に示されている如く、ステップ80に於いて実行される変速中でない判定ルーチンのステップ82に於いては、変速比Rnwが基準値Rnwa未満であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ10へ戻り、肯定判別が行われたときにはステップ84へ進む。
【0043】ステップ84に於いてはローパスフィルタ処理後の速度比の変化率DVnwfの絶対値がTe(正の定数)時間以上に亘り基準値DVfc(正の定数)未満であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ10へ戻り、肯定判別が行われたときにはステップ86へ進む。
【0044】ステップ86に於いては速度比の変化率DVnwの絶対値がTf(正の定数)時間以上に亘り基準値DVd(正の定数)未満であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ10へ戻り、肯定判別が行われたときには変速中でないと考えられるのでステップ110へ進む。
【0045】かくして図示の実施形態によれば、ステップ20及び30に於いてエンジン回転数Neに対する駆動輪の車輪速度Vnwの比として速度比Rnwが演算され、ステップ40に於いて速度比Rnwに基づき変速機14のシフト位置Psが推定され、ステップ50に於いて変速比Rnwの変化率DVnwが演算され、ステップ60に於いてローパスフィルタ処理後の速度比の変化率DVnwfが演算される。
【0046】そしてステップ70に於いて前回の判定が「変速中」であるか否かが判定され、前回の判定が「変速中」ではないときにはステップ80に於いて速度比Rnw及びローパスフィルタ処理後の値DVnwfに基づき変速中であるか否かが判定され、前回の判定が「変速中」であるときにはステップ100に於いて速度比Rnw、速度比の変化率DVnw、ローパスフィルタ処理後の値DVnwfに基づき変速中でないか否かが判定される。
【0047】ステップ80又は100に於いて変速中でないと判定されると、原則的にステップ150に於いてシフト位置Psが今回推定されたシフト位置に更新されるが、ステップ80又は100に於いて変速中あると判定されると、シフト位置の更新は行われない。
【0048】従って図示の実施形態によれば、変速機14の変速が行われていない状況が判定され、変速が行われていない状況に於ける速度比Rnwに基づき変速機14のシフト位置が推定されるので、変速機14の変速の影響を受けることなく変速機14のシフト位置を正確に推定することができ、またクラッチ12の状態を検出する手段の必要性を排除することができる。
【0049】特に図示の実施形態によれば、ステップ80又は100に於いて変速中でないと判定されたときには、ステップ120に於いて推定されたシフト位置PsがTa時間以上変化していないか否かの判別が行われ、推定されたシフト位置PsがTa時間以上変化していないと判定されないときにはステップ150に於けるシフト位置の更新は行われない。
【0050】従ってステップ80又は100に於いて変速中でないと判定された場合であっても、ステップ120に於いて否定判別が行われたときには、換言すればステップ80又は100に於ける変速中でないとの判定又はシフト位置Psの推定が不完全である虞れがあるときには、シフト位置の更新は行われないので、ステップ120の判別が行われない場合に比して変速機14のシフト位置を正確に推定することができる。
【0051】また図示の実施形態によれば、ステップ120に於いて推定されたシフト位置PsがTa時間以上変化していないと判定されたときには、ステップ130に於いて変速中である状態より変速中でない状態に変化した時点よりTb時間以内であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにステップ150へ進む。
【0052】従ってステップ120に於いて肯定判別が行われるとステップ130の判別が行われることなくシフト位置Psが更新される場合に比して、変速機14のシフト位置を正確に推定することができる。
【0053】更に、ステップ130に於いて否定判別が行われたときには、ステップ140に於いて推定されたシフト位置PsがTc時間以上変化していないか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ150に於いてシフト位置Psが更新される。従ってステップ130に於いて否定判別が行われたときにはステップ140が実行されることなくステップ10へ戻る場合に比して、変速機14のシフト位置を正確に推定することができる。
【0054】また図示の実施形態によれば、ステップ70の変速中判定のステップ72に於いて速度比Rnwが基準値Rnwaよりも大きいか否かの判別が行われ、またステップ74に於いてはローパスフィルタ処理後の変速比の変化率DVnwfの絶対値がTd時間以上基準値DVfbよりも大きいか否かの判別が行われるので、ステップ72の判定が行われない場合や、ローパスフィルタ処理されていない変速比の変化率DVnwの絶対値が所定の時間以上基準値よりも大きいか否かの判別が行われる場合に比して、正確に変速機14が変速中であるか否かを判定することができる。
【0055】また図示の実施形態によれば、ステップ80の変速中でない判定のステップ82に於いて変速比Rnwが基準値DVa未満であるか否かの判別が行われ、ステップ84に於いてローパスフィルタ処理後の速度比の変化率DVnwfの絶対値がTe時間以上に亘り基準値DVfc未満であるか否かの判別が行われ、ステップ86に於いて速度比の変化率DVnwの絶対値がTf時間以上に亘り基準値DVd未満であるか否かの判別が行われ、これらの全てのステップに於いて肯定判別が行われた場合にのみステップ100以降が実行されるので、ステップ82、84、86の判別の何れかが実行されない場合に比して正確に変速機14が変速中でない状況を判定することができる。
【0056】以上に於ては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0057】例えば図示の実施形態に於いては、変速機の出力軸回転速度に相当する回転速度として駆動輪の平均車輪速度が演算されるようになっているが、変速機の出力軸回転速度に相当する回転速度として変速機の出力軸の回転速度やプロペラシャフトの回転速度が検出されてもよい。
【0058】また図示の実施形態に於いては、ステップ80又は100に於いて変速中であると判定されたときにはそのままステップ10へ戻るようになっているが、変速中であると判定されたときには例えば挙動制御に於ける制御の係数や定数が変速機の変速中用の値に設定されるよう修正されてもよい。
【0059】また図示の実施形態に於いては、ステップ80又は100に於いて変速中でないと判定されたときには、ステップ120〜140の判別が行われるようになっているが、ステップ120又はステップ130及び140の判別が省略されてもよく、ステップ120〜140の判別が省略されてもよい。
【0060】また図示の実施形態に於いては、ステップ70の変速中判定のステップ72に於いて速度比Rnwが基準値Rnwaよりも大きいか否かの判別が行われるようになっているが、このステップは省略されてもよい。
【0061】同様に図示の実施形態に於いては、ステップ80の変速中でない判定に於いてステップ82〜86の三つの判別が行われるようになっているが、これらのステップの何れかが省略されてもよい。
【0062】また図示の実施形態に於いては、車輌は後輪駆動車であるが、本発明の変速状態推定装置は前輪駆動車や四輪駆動車に適用されてもよく、前者の場合には駆動輪の車輪速度は左右前輪の車輪速度の平均値に設定され、後者の場合には駆動輪の車輪速度は例えば四輪駆動のモードに応じて当技術分野に於いて公知の要領にて推定される車体速度に設定されてよい。
【0063】更に図示の実施形態に於いては、変速機はマニュアル式の変速機であり、本発明の変速状態推定装置はマニュアル式の変速機のシフト位置の推定に適したものであるが、本発明の変速状態推定装置は自動変速機のシフト位置の推定に適用されてもよい。
【0064】
【発明の効果】以上の説明より明らかである如く、本発明によれば、エンジン回転数に対する出力軸回転速度の比の変化率の大きさが基準値を越えているかの判定結果及び前記比に基づき変速機のシフト位置が推定されるので、クラッチがオフ状態にあり変速中の虞れがあるか否かを考慮して変速機のシフト位置を推定することができ、これによりクラッチの状態を検出する手段を要することなく変速機のシフト位置を正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】後輪駆動車に適用された本発明による変速状態推定装置の一つの実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図示の実施形態に於ける変速状態推定のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図3】図示の実施形態に於ける変速中判定のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図4】図示の実施形態に於ける変速中でない判定のサブルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
10…エンジン
12…クラッチ
14…変速機
24…エンジン制御コンピュータ
28…車輌運動制御コンピュータ
32…制動装置
34…油圧回路
36FL〜36RR…ホイールシリンダ
42FL、42FR…車輪速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】エンジン回転数と変速機の出力軸回転速度とに基づき変速機のシフト位置を推定する車輌の変速状態推定装置にして、エンジン回転数に対する出力軸回転速度の比を求め、前記比の変化率の大きさが基準値を越えているかの判定結果及び前記比に基づき変速機のシフト位置を推定することを特徴とする車輌の変速状態推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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