説明

車輪支持用転がり軸受ユニット

【課題】鉄系合金と軽合金とを組み合わせて構成した外輪6aを備えた構造で、軽合金により造られた本体部28の形状を工夫する事により、必要とする強度及び剛性を確保しつつ、より一層の軽量化を図れる構造を実現する。
【解決手段】本体部28の外周面に形成した静止側フランジ12aの軸方向外側面で、円周方向に関して各ねじ孔若しくは通孔と同じ複数位置に補強リブ33、33を形成する事により、外輪6aの軽量化を図ると共に。外輪6aの強度及び剛性を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットの改良に関する。具体的には、軽量化の為に構成部材の一部をアルミニウム系合金、マグネシウム系合金等の軽合金製とした構造で、必要とする強度及び剛性を確保しつつ、より一層の軽量化を図れる構造の実現を意図したものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を構成するホイール1、及び、制動用回転部材であって制動装置であるディスクブレーキを構成するロータ2は、例えば特許文献1に記載され、図7に示す様な構造により、懸架装置を構成するナックル3に回転自在に支持する。この為に、このナックル3に形成した円形の支持孔4部分に、車輪支持用転がり軸受ユニット5を構成する外輪6を、複数本のボルト7により固定している。又、この車輪支持用転がり軸受ユニット5を構成する、内輪相当部材であるハブ8に、前記ホイール1及びロータ2を、複数本のスタッド9とナット10とにより結合固定している。又、前記外輪6の内周面に複列の外輪軌道11a、11bを、外周面に静止側フランジ12を、それぞれ形成している。この様な外輪6は、この静止側フランジ12を前記ナックル3に、前記各ボルト7で結合する事により、このナックル3に対し支持固定している。
【0003】
又、前記ハブ8は、ハブ本体13と内輪14とから成る。このうちのハブ本体13の外周面の一部で、前記外輪6の外端開口から突出した部分に、回転側フランジ15を形成している。尚、軸方向に関して「外」とは、自動車への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、図1、3〜8の左側を言う。反対に、自動車への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、図1、3〜8の右側を、軸方向に関して「内」と言う。又、前記ハブ本体13の外端部には、パイロット部と呼ばれる位置決め筒部16を、このハブ本体13と同心に設けている。前記ホイール1及びロータ2は、この位置決め筒部16に外嵌する事により径方向の位置決めを図った状態で、前記回転側フランジ15の外側面に、前記各スタッド9とナット10とにより結合固定している。
【0004】
又、前記ハブ本体13の外周面の中間部に、前記複列の外輪軌道11a、11bのうちの外側の外輪軌道11aに対向する内輪軌道17aを、同じく内端部に小径段部18を、それぞれ形成している。そして、この小径段部18に、前記内輪14を外嵌している。この内輪14の外周面には、前記複列の外輪軌道11a、11bのうちの内側の外輪軌道11bに対向する、内輪軌道17bを形成している。この様な内輪14は、前記ハブ本体13の内端部を径方向外方に塑性変形させて形成したかしめ部19により、このハブ本体13に対し固定している。そして、前記両外輪軌道11a、11bと前記両内輪軌道17a、17bとの間に玉20、20を、それぞれ複数個ずつ転動自在に設けている。この状態でこれら各玉20、20は、前記両外輪軌道11a、11bと前記両内輪軌道17a、17bとに、両列同士の間で互いに逆方向で背面組み合わせ型の接触角を付与された状態で、転がり接触する。又、この状態で、前記各玉20、20に所定の予圧を付与している。この構成により前記ハブ8を前記外輪6の内径側に、がたつきなく、且つ、ラジアル荷重及びアキシアル荷重を支承しつつ回転可能に支持している。又、前記各玉20、20を設置した円筒状の空間の両端開口部は、それぞれシールリング21a、21bにより密閉している。
【0005】
更に、図示の例は、駆動輪(FF車の前輪、FR車及びRR車の後輪、4WD車の全車輪)用の車輪支持用転がり軸受ユニット5である為、前記ハブ8の中心部に、スプライン孔22を形成している。そして、このスプライン孔22に、等速ジョイント用外輪23の外端面に固設したスプライン軸24を挿入している。これと共に、このスプライン軸24の先端部にナット25を螺合し、更に締め付ける事により、前記ハブ本体13を、このナット25と前記等速ジョイント用外輪23との間に挟持している。
【0006】
又、図8は、従動輪(FF車の後輪、FR車及びRR車の前輪)用の車輪支持用転がり軸受ユニット5dを示している。この車輪支持用転がり軸受ユニット5dは、従動輪用である為、ハブ8aを構成するハブ本体13aの中心部にスプライン孔を設けていない。その他の部分の構造及び作用は、上述した駆動輪用の車輪支持用転がり軸受ユニット5の場合と同様である。
尚、図示は省略するが、外輪相当部材を車輪と共に回転するハブとし、内輪相当部材を懸架装置に対し支持固定する静止側軌道輪とする車輪支持用転がり軸受ユニットも、例えば特許文献2に記載される等により、従来から広く知られている。
【0007】
駆動輪用であるか従動輪用であるか、更には内輪回転型であるか外輪回転型であるかを問わず、車輪支持用転がり軸受ユニット5、5dは、懸架装置を構成するばねよりも路面側に設けられる、所謂ばね下荷重であるから、乗り心地や走行安定性を中心とする走行性能を向上させる為には、少しでも軽量化する事が望まれる。この様な事情に鑑みて、例えば特許文献3には、外輪のうちで両外輪軌道を設けた部分を鉄系合金製とすると共に、これら両外輪軌道以外の部分を軽合金製とした車輪支持用転がり軸受ユニットが記載されている。但し、上記特許文献3に記載された構造は、材料的な工夫により軽量化を図るだけであった為、軽合金製の部分の強度及び剛性を十分に確保すると、この軽合金製部分の容積が嵩み、十分な軽量化を図る事が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−299759号公報
【特許文献2】特開平7−167138号公報
【特許文献3】特開2010−209964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、鉄系合金と軽合金とを組み合わせて構成した外輪相当部材を備えた構造で、このうちの軽合金により造られた部分の形状を工夫する事により、必要とする強度及び剛性を確保しつつ、より一層の軽量化を図れる車輪支持用転がり軸受ユニットを実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットは、外輪相当部材と、内輪相当部材と、複数個の転動体とを備える。
このうちの外輪相当部材は、内周面に複列の外輪軌道を有するもので、これら両外輪軌道を設けた部分を含む一部を鉄系合金製とし、少なくとも外径寄り部分を含む残部を軽合金製とし、この残部のうちの外周面から径方向外方に突出する状態でフランジ部を形成している。
又、前記内輪相当部材は、外周面に複列の内輪軌道を有する。
更に、前記各転動体は、これら両内輪軌道と前記両外輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ、転動自在に設けられている。
特に、本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに於いては、前記フランジ部の軸方向側面の円周方向複数箇所に補強リブを形成して、この外輪相当部材の強度及び剛性の確保を図っている。
【0011】
この様な本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットを実施する場合に、例えば請求項2〜3に記載した発明の様に、前記両列の転動体に、背面接触型の接触角を付与する。
この場合に、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記両外輪軌道を、互いに独立した1対の外輪素子の内周面に形成する。そして、前記残部の内径寄り部分に形成され、軸方向両側部分に比べて内径が小さくなった小径部を軸方向両側から挟持する状態で、前記両外輪素子を前記残部に保持する。
或いは、請求項3に記載した発明の様に、前記両外輪軌道を、1個の外輪素子の内周面の軸方向に離隔した2箇所位置に形成する。そして、この外輪素子の外周面の軸方向中間部に形成した、軸方向両側部分に対して径方向に突出若しくは凹入した凹凸係合部を、前記残部に包埋した状態で、前記外輪素子を前記残部の内径側に保持する。
更に、この様な請求項3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記凹凸係合部を、軸方向に隣接する部分に対して突出若しくは凹入する形状とする事に加え、円周方向に関しても凹凸が繰り返される形状とする。
【0012】
又、上述の様な本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットを実施する場合に、例えば請求項5に記載した発明の様に、前記外輪相当部材の残部の外径寄り部分の円周方向複数箇所に、この外輪相当部材を懸架装置に支持固定するか、若しくはこの外輪相当部材に車輪を結合固定する為のボルトを螺合若しくは挿通する為の、ねじ孔若しくは通孔を形成する。そして、前記各補強リブが、円周方向に関する位相において、前記各ねじ孔若しくは通孔と同じ位置に形成されている。
更には、本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットを実施する場合に、例えば請求項6に記載した発明の様に、前記外輪相当部材の残部と、ナックル等の懸架装置を構成する部材とを一体とする。
【発明の効果】
【0013】
上述の様に本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合には、軽合金製の外輪相当部材の外径寄り部分である、この外輪相当部材の残部のフランジ部に、円周方向に関して複数箇所に補強リブを形成している。この為、軽合金製であるこの残部の断面係数を大きくして、この残部を含む、前記外輪相当部材の強度及び剛性を確保している。この結果、必要とする強度及び剛性を確保しつつ、車輪支持用転がり軸受ユニットのより一層の軽量化を図れる。
【0014】
又、請求項2に記載した発明によれば、形状が単純な外輪素子を使用して、前記外輪相当部材の内周面に複列の外輪軌道を設けられるので、製造コストを低く抑えられる。
これに対して、請求項3に記載した発明によれば、外輪素子と、軽合金製である前記外輪相当部材の残部との結合強度を確保し易い。この場合に、請求項4に記載した発明の構造によれば、前記外輪素子と前記残部とが相対回転する現象である、クリープを確実に防止できる。
【0015】
又、請求項5に記載した発明によれば、懸架装置と外輪相当部材とを結合する為のボルトの設置部分に、この外輪相当部材のうちで、軽合金製の残部に加わるモーメントの作用方向に、前記補強リブを設ける様にして、このモーメントにより前記残部に、亀裂等の損傷が発生し難くできる。
更に、請求項6に記載した発明によれば、ナックル等の懸架装置を構成する部材と前記外輪相当部材とを結合するボルトそのものが不要になり、前述したばね下荷重の、より一層の軽減を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】同じく、図1の右側から見た側面図。
【図3】同じく斜視図。
【図4】図1の右下部に相当する部分断面図(a)と、この本体部に鍔付のスリーブを設置した状態の2例を示す部分断面図(b)(c)。
【図5】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1の右上部に相当する部分断面図。
【図6】本発明の実施の形態の第3例を示す断面図。
【図7】従来構造の第1例を示す断面図。
【図8】同第2例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態の第1例]
図1〜4は、請求項1、2、5に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の車輪支持用転がり軸受ユニット5aは、外輪相当部材である外輪6aと、内輪相当部材であるハブ8aと、それぞれが転動体である複数個の玉20a、20aとを備える。本例の車輪支持用転がり軸受ユニット5aは、内輪回転型の従動輪用のものである為、前記外輪6aの外周面で、軸方向中間部内寄り部分に、特許請求の範囲に記載したフランジ部に相当する静止側フランジ12aを形成している。又、前記ハブ8aの軸方向外端部で、前記外輪6aよりも軸方向外方に突出した部分の外周面に、回転側フランジ15aを形成している。この回転側フランジ15aには、この回転側フランジ15aにホイール1やディスク2(図7参照)を結合する為のスタッド9a、9aの基端部を内嵌固定している。
【0018】
前記外輪6aは、内周面に複列の外輪軌道11a、11bを有するもので、それぞれが軸受鋼製であり、特許請求の範囲中の一部に相当する1対の外輪素子27a、27bと、同じく残部に相当する本体部28とを組み合わせて成る。前記両外輪軌道11a、11bは、それぞれ前記両外輪素子27a、27bの内周面に形成されている。前記本体部28の内周面は、軸方向中間部に設けた小径部29と、この小径部29の軸方向両側部分に設けた大径部30a、30bとから成る、段付円筒状としている。この小径部29の軸方向両端縁とこれら両大径部30a、30bの端縁とは、前記外輪6aの中心軸に対し直角方向に存在する段差面により連続させている。前記両外輪素子27a、27bは、前記両大径部30a、30bの内径側に保持固定されている。
【0019】
上述の様な本体部28は、アルミニウム系合金、マグネシウム系合金等の軽合金を鋳造(ダイキャスト成型、溶湯鍛造も含む)する事により、或いは素材に鍛造加工を施す事により、一体成形している。鋳造により造る場合には、前記両外輪素子27a、27bを前記両大径部30a、30bの内径側に鋳包む(モールドする)。この際、これら両外輪素子27a、27bの肩部(内径が小さくなった部分)を、前記小径部29側に位置させる(肩部側端面を前記段差面に突き当てる)。前記本体部28を構成する軽合金の線膨張係数は、前記両外輪素子27a、27bを構成する軸受鋼の線膨張係数よりも高いので、インサート成形後に、これら両外輪素子27a、27bの外周面と前記両大径部30a、30bの内周面とは、前記本体部28の熱収縮に基づく高い面圧で当接し、これら両外輪素子27a、27bが前記本体部28の内径側に、がたつきなく保持される。但し、この場合には、この本体部28を鋳造する際の熱で、前記両外輪素子27a、27bの内周面に形成した前記両外輪軌道11a、11bの硬度が不足する可能性がある。そこで、必要に応じて、前記本体部28を鋳造後、これら両外輪軌道11a、11bを、高周波熱処理により焼き入れ硬化させる。これに対して、前記本体部28を鍛造加工により造る場合には、加工後の本体部28の大径部30a、30bに前記両外輪素子27a、27bを、締り嵌めで内嵌固定する。この場合、必要に応じて、これら両外輪素子27a、27bを冷却した状態で嵌合する冷し嵌め、前記本体部28を加熱した状態で嵌合する焼き嵌め、この本体部28を加熱すると共に前記両外輪素子27a、27bを冷却した状態で嵌合する冷やし焼き嵌めの何れかを行う。
【0020】
一方、前記ハブ8aは、中炭素鋼等の鋼製のハブ本体13aと、このハブ本体13aの軸方向内端寄り部分に設けた小径段部18aに外嵌した内輪14aとを、このハブ本体13aの内端部を径方向外方に塑性変形させる事により形成したかしめ部19aにより非分離に結合固定して成る。この様なハブ8aの外周面には、複列の内輪軌道17a、17bを設けている。これら両内輪軌道17a、17bは、前記ハブ8aの軸方向中央側の外径が小さく、同じく両端側の外径が大きくなる方向に設けられている。
【0021】
前記各玉20a、20aは、前記両外輪軌道11a、11bと前記両内輪軌道17a、17bとの間に、両列毎に複数個ずつ、図示しない保持器により保持された状態で、転動自在に設けられている。この状態で前記各玉20a、20aには、背面接触型の接触角と共に、予圧を付与している。尚、前記外輪6aの内周面と前記ハブ8aの外周面との間に存在し、前記各玉20a、20aを配置した内部空間31の軸方向両端開口部は、軸方向外端開口部をシールリング21a、軸方向内端開口部をカバー32によりそれぞれ塞いでいる。
【0022】
更に、本例の場合には、前記静止側フランジ12aの外周面の円周方向複数箇所(例えば4箇所)を径方向外方に突出させて、これら各突出部にそれぞれねじ孔若しくは通孔35、35を形成している。これらねじ孔若しくは通孔35、35は、前記静止側フランジ12aと、ナックル3等の懸架装置の構成部材とを結合する為のボルト7(図7参照)を螺合若しくは挿通する為のものである。前記静止側フランジ12aにねじ孔を形成する場合には、前記ナックル3側に設けた通孔を挿通したボルト7の先端部を、このねじ孔に螺合し更に締め付ける。これに対して、前記静止側フランジ12aに通孔を形成する場合には、これら各通孔を挿通したボルト7の先端部を、前記ナックルに形成したねじ孔に螺合し更に締め付ける。
【0023】
特に、本例の車輪支持用転がり軸受ユニット5aの場合には、前記静止側フランジ12aの形状を工夫する事により、前記外輪6aに必要とされる強度及び剛性を確保しつつ、この外輪6aに関して、より一層の軽量化を図っている。即ち、本例の場合には、前記静止側フランジ12aの軸方向外側面の円周方向複数箇所に、補強リブ33,33を形成している。そして、これら各補強リブ33、33を、円周方向に関する位相において前記各ねじ孔若しくは通孔35、35と同じ位置に形成し、更に補強リブ33と外輪6a及び静止側フランジ12aとの接合面には隅R部34を設けて、外輪6aの強度及び剛性の確保を図っている。要するに、これら各補強リブ33、33を形成する事により、前記静止側フランジ12aを設けた前記外輪6aの容積を抑えて軽量化を図り、前記各補強リブ33、33の存在に基づいてこの外輪6aの断面係数を確保する等により、この外輪6aの径方向及びモーメントの作用方向に関する強度及び剛性を確保している。
【0024】
尚、前記静止側フランジ12aにねじ孔を形成し、前記ボルト7の先端部をこのねじ孔に螺合して締め付ける際に、軽合金製である前記静止側フランジ12aの側に、直接ねじ孔を設ける事もできるが、前記ボルト7の締め付けトルクを十分に高くして、このボルト7による結合強度を十分に高くする必要がある場合には、図4の(a)に鎖線で示す様に、内周面に雌ねじを形成した円筒状のスリーブ36を、この静止側フランジ12aの一部に包埋支持(インサート成形)する事が好ましい。この場合に於いて、スリーブ36として、図4の(b)(c)に示す様な外向フランジ状の鍔部38を備えたものを使用する事が好ましい。この鍔部38を、前記静止側フランジ12aの軸方向両側面のうちで、前記ボルト7の頭部と反対側の側面である、軸方向外側面に当接させれば、このボルト7の締め付けに伴って前記スリーブ36に加わるスラスト力を確実に支承できる。前記鍔部38は、図4の(b)に示す様に、前記静止側フランジ12aの軸方向外側面から突出させたままの状態とする事もできるが、図4の(c)に示す様に、この軸方向外側面から突出しない様に、前記静止側フランジ12a内に包埋すれば、隣接する部材との干渉防止上有利である。尚、この静止側フランジ12aの一部に前記スリーブ36を支持する方法は、このスリーブ36の形状に応じて適宜選択する。図4の(a)に示す様な円筒状のスリーブ36を使用する場合には、このスリーブを前記静止側フランジ12aの一部にインサート成形により保持固定する。これに対して、図4の(b)(c)に示す様な、鍔部38を備えたスリーブ36を使用する場合には、インサート成形による他、鋳造により形成後の通孔35に嵌合する事もできる。この場合の嵌合は、締り嵌めが好ましいが、隙間嵌めでも良い。
【0025】
上述の様に本発明の車輪支持用転がり軸受ユニット5aの場合には、外輪6aの外径寄り部分である、軽合金製の前記本体部28の外周面に静止側フランジ12aを設け、この静止側フランジ12aの軸方向外側面の円周方向に関して複数箇所に補強リブ33、33を形成している。この為、この本体部28の断面係数を大きくして、この本体部28を含む、前記外輪6aの強度及び剛性を確保している。この結果、必要とする強度及び剛性を確保しつつ、前記車輪支持用転がり軸受ユニット5aのより一層の軽量化を図れる。
又、本例の構造によれば、それぞれ形状が単純である1対の外輪素子27a、27bを使用して、前記外輪6aの内周面に複列の外輪軌道11a、11bを設けられるので、製造コストを低く抑えられる。
【0026】
[実施の形態の第2例]
図5は、請求項1、3、4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の車輪支持用転がり軸受ユニット5bの場合には、外輪6bの内周面に設けた複列の外輪軌道11a、11bを、1個の外輪素子27cの内周面の軸方向に離隔した2箇所位置に形成している。軸受鋼製である、この外輪素子27cの外周面の軸方向中間部に、特許請求の範囲に記載した凹凸係合部に相当する突条部37を、円周方向に関し連続して、或いは間欠的に形成している。そして、軽合金製である本体部28aを前記外輪素子27cの外径側に、この外輪素子27cをモールドする状態で形成して、この外輪素子27cを前記本体部28aの内径側に保持している。この状態でこれら外輪素子27cと本体部28aとは、前記突条部37をこの本体部28aを構成する軽合金が包み込む事により、強固に結合する。更に、この突条部37を円周方向に関して間欠的に形成すれば、前記外輪素子27cと前記本体部28aとの相対回転(クリープ)も、確実に防止できる。
この様な本例の場合には、前記両外輪軌道11a、11bを有する外輪素子27cを一体とした事により、これら両外輪軌道11a、11bの剛性を高くできる。
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
【0027】
[実施の形態の第3例]
図6は、請求項1、2、6に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の車輪支持用転がり軸受ユニット5cの場合には、外輪6cを構成する本体部28cと、懸架装置を構成するナックル3aとを一体としている。この様な本例の構造によれば、これら本体部28cとナックル3aとを結合するボルト7(図7参照)が不要になり、強度及び剛性をより一層向上させ、しかも、ばね下荷重の、より一層の軽減を図れる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1、2例の何れかと同様であるから、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
図示の例は、何れも本発明を、内輪回転型の従動輪用の車輪支持用転がり軸受ユニットに適用した場合に就いて示したが、本発明は、外輪回転型で従動輪用の、或いは内輪回転型の駆動輪用の車輪支持用転がり軸受ユニットに適用する事もできる。
又、複列に配置された玉のピッチ円直径、玉径、玉数は、必ずしも同じである必要はなく、互いに異ならせる事もできる。
更には、各転動体として、玉に代えて円すいころを使用する事もできる。更には、大きな荷重を受ける側の列を構成する転動体を円すいころとし、他の列を構成する転動体を玉とする事もできる。何れの場合でも、両列同士の間で転動体の数が異なっても良い。
尚、本発明の如く、軌道面部分を鉄系合金製とし、その他の部分を軽合金製とする構造で、ハブの如き内輪相当部材の軽量化を、必要とする強度及び剛性を確保しつつ図る事もできる。
【0029】
転動体としてセラミック製の玉を使用し、保持器を樹脂製とし、アルミニウム合金製のカバーを使用して、外輪及び内輪以外の部分も軽量化すれば、車輪支持用転がり軸受ユニットを更に軽量化する事が出来る。
又、車輪支持用転がり軸受ユニットの温度が上昇した場合には、アルミニウム合金の熱膨張率が鉄よりも大きい為に、軸方向内端開口部を塞いでいるカバーと外輪との嵌合力が弱まり、カバーが軸方向に変位する可能性がある。従って、カバーの材料としては、外輪と同等の熱膨張率を有するアルミニウム合金等の材料を使用する事が好ましい。カバーを鉄系の材料により製作する場合には、外輪と嵌合するカバーの外周部に、ゴムなどの弾性材を加硫接着する、或いは接着剤を塗布する事も出来る。
【符号の説明】
【0030】
1 ホイール
2 ディスク
3、3a ナックル
4 支持孔
5、5a、5b、5c、5d 車輪支持用転がり軸受ユニット
6、6a、6b、6c 外輪
7 ボルト
8、8a ハブ
9、9a スタッド
10 ナット
11a、11b 外輪軌道
12、12a 静止側フランジ
13、13a ハブ本体
14、14a 内輪
15、15a 回転側フランジ
16 位置決め部
17a、17b 内輪軌道
18、18a 小径段部
19、19a かしめ部
20、20a 玉
21a、21b シールリング
22 スプライン孔
23 等速ジョイント用外輪
24 スプライン軸
25 ナット
27a、27b、27c 外輪素子
28、28a、28c 本体部
29 小径部
30a、30b 大径部
31 内部空間
32 カバー
33 補強リブ
34 隅R部
35、35a ねじ孔若しくは通孔
36 スリーブ
37 突条部
38 鍔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪相当部材と、外周面に複列の内輪軌道を有する内輪相当部材と、これら両内輪軌道と前記両外輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備え、前記外輪相当部材のうちで前記両外輪軌道を設けた部分を含む一部を鉄系合金製とし、少なくとも外径寄り部分を含む残部を軽合金製とし、この残部のうちの外周面から径方向外方に突出する状態でフランジ部を形成した車輪支持用転がり軸受ユニットに於いて、このフランジ部の軸方向側面の円周方向複数箇所に補強リブを形成して、この外輪相当部材の強度及び剛性の確保を図った事を特徴とする車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記両列の転動体に、背面接触型の接触角が付与されており、前記両外輪軌道が、互いに独立した1対の外輪素子の内周面に形成されており、前記残部の内径寄り部分に形成され、軸方向両側部分に比べて内径が小さくなった小径部を軸方向両側から挟持する状態で、前記両外輪素子が前記残部に保持されている、請求項1に記載した車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項3】
前記両列の転動体に、背面接触型の接触角が付与されており、前記両外輪軌道が、1個の外輪素子の内周面の軸方向に離隔した2箇所位置に形成されており、この外輪素子の外周面の軸方向中間部に形成された、軸方向両側部分に対して径方向に突出若しくは凹入した凹凸係合部が、前記残部に包埋された状態で、前記外輪素子が前記残部の内径側に保持されている、請求項1に記載した車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項4】
前記凹凸係合部が、軸方向に隣接する部分に対して突出若しくは凹入する形状である事に加え、円周方向に関しても凹凸が繰り返される形状である、請求項3に記載した車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項5】
前記外輪相当部材の残部の外径寄り部分の円周方向複数箇所に、この外輪相当部材を懸架装置に支持固定するか、若しくはこの外輪相当部材に車輪を結合固定する為のボルトを螺合若しくは挿通する為の、ねじ孔若しくは通孔が形成されており、前記各補強リブが、円周方向に関する位相において、これら各ねじ孔若しくは通孔と同じ位置に形成されている、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項6】
前記外輪相当部材の残部と懸架装置を構成する部材とが一体である、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した車輪支持用転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−112011(P2013−112011A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257176(P2011−257176)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】