説明

軌道回路故障部位特定装置

【課題】故障部位をケーブルやレールまで高い確度で切り分けるうえ使い易くする。
【解決手段】軌道回路10から送電端電圧値Vsと送電端電流値Isと受電端電圧値Vrを測定部21〜23にて継続的に測定し、それを測定データ収集手段25にて測定データ記憶部26に蓄積する。その蓄積データから、平常時特性値算出手段27にて不在線時基準インピーダンスZbと不在線時基準受信電圧Vdと在線時基準受信レベルVeと在線時基準インピーダンスZaと基準インピーダンス比Zcを求め、故障時特性値算出手段28にて不在線時送電インピーダンスZgと送電インピーダンス比Zhと不在線時受信レベルViと在線時判定受信レベルVjを求め、それらの算出値に基づき場合分け判別手段29にて送信ケーブル12とレール14と受信ケーブル16の短絡と断線等を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の軌道回路について故障有無の判定に加えて故障部位の特定も行う軌道回路故障部位特定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道回路は、列車検知等のため、列車の走行する軌道を幾つかの区間に区切って、各区間の一端から列車検知信号を送信するとともに、該当区間の他端から列車検知信号を受信するものであり、列車在線中の区間では列車の車輪や車軸によって軌道が短絡されることに基づき、受信信号の有/無に応じて列車の無/有を判別するようになっている(例えば非特許文献1や特許文献1を参照)。
また、このような軌道回路の送信装置では診断ルーチンやウォッチドッグタイマを具えていて自己診断するものが知られている(例えば特許文献2参照)。
さらに、CTC向けでは伝送レベルを検出して送受の伝送装置と中間の伝送回線との何れに不具合が有るかを一個所で判断するようになったものもある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−262895号公報
【特許文献2】特開2000−168554号公報
【特許文献3】特開2005−029009号公報
【特許文献4】実開平3−50583号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】鉄道電気技術者のための信号概論「軌道回路」第3頁、社団法人日本鉄道電気技術協会出版、平成17年5月20日改訂版2刷発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同様に、軌道回路についても、受信信号のレベルを検出して閾値で判別することで、軌道回路の故障を検知することができると期待されるが、軌道回路の場合は列車在線状況に応じて受信信号レベルが大幅に変化するので、列車不在線時に限って故障判定を行うといった改造は必要であり、そうすれば軌道回路でも受信装置や軌道側の故障を検知できる。
もっとも、軌道回路では、送受信装置や判定装置がセンタや駅の機器室に纏めて設置されているが、軌道の各区間は長距離に亘って広く展開しているうえ、それらの間にも長い列車検知信号伝送ケーブルが敷設されていることから、軌道側の故障の発生時には長い送信側ケーブルと軌道内区間と受信側ケーブルのうち何処に不具合があるのかを探し回らなければならないので、現場の復旧には多大な時間がかかっている。
【0006】
この不都合は従来の閾値判定では軌道側を細分化してまで故障部位を特定することができなかった為なので、閾値を多段化する等のことでケーブルと軌道との切り分けができれば、復旧時間が短縮されて、上記の不都合が大幅に改善されるはずである。
しかしながら、ケーブル長が接続毎に大きく異なるうえ、軌道の区間の長さも場所によって異なるため、個々の敷設状況を反映させて多数の閾値を適切な値に設定するのは面倒かつ困難であり、従来技術の単なる転用では使い易い装置を作ることができない。
そこで、閾値判定の手法や物理量を工夫して、ケーブルと軌道まで高い確度で切り分けられて而も使い易い軌道回路故障部位特定装置を実現することが技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の軌道回路故障部位特定装置は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、軌道回路に接続されて前記軌道回路の送電端電圧および送電端電流と前記軌道回路の受電端電圧とを継続的に測定する測定部と、その測定で得た測定値を測定データ記憶部に蓄積する測定データ収集手段と、その蓄積データから平常時かつ列車不在線時の測定値を抽出して送電端電圧値と送電端電流値との比に対応した不在線時基準インピーダンスを求める平常時特性値算出手段と、前記蓄積データから故障時かつ列車不在線時の測定値を抽出して送電端電圧値と送電端電流値との比に対応した不在線時送電インピーダンスを求めるとともにそれと前記不在線時基準インピーダンスとの比に対応した送電インピーダンス比を求める故障時特性値算出手段と、前記送電インピーダンス比と閾値との大小に基づいて前記軌道回路の送信ケーブル断線とレール破断と受信ケーブル断線と短絡故障を判別する場合分け判別手段とを備えている。
【0008】
また、本発明の軌道回路故障部位特定装置は(解決手段2)、上記解決手段1の軌道回路故障部位特定装置であって、前記平常時特性値算出手段が前記蓄積データから平常時かつ列車不在線時の測定値を抽出して受電端電圧値に対応した不在線時基準受信電圧を求めるものであり、前記故障時特性値算出手段が前記蓄積データから故障時かつ列車不在線時の受電端電圧値を抽出してそれと前記不在線時基準受信電圧との比に対応した軌道回路故障時受信レベルを求めるものであり、前記場合分け判別手段が短絡故障と判別したとき更に前記軌道回路故障時受信レベルと閾値との大小に基づいて前記軌道回路のレール短絡を判別するものであることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の軌道回路故障部位特定装置は(解決手段3)、上記解決手段2の軌道回路故障部位特定装置であって、前記平常時特性値算出手段が前記蓄積データから平常時かつ列車在線時の測定値を抽出して送電端電圧値と送電端電流値との比に対応した在線時基準インピーダンスを求めるとともにそれと前記不在線時基準インピーダンスとの比に対応した基準インピーダンス比を求めるものであり、前記場合分け判別手段が短絡故障と判別したとき更に前記送電インピーダンス比と前記基準インピーダンス比との大小に基づいて前記軌道回路のレール短絡と送信ケーブル短絡と受信ケーブル短絡を判別するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このような本発明の軌道回路故障部位特定装置にあっては(解決手段1)、軌道回路に故障の無い平常時から軌道回路に接続しておけば、軌道回路の送電端電圧および送電端電流と軌道回路の受電端電圧とが継続的に測定されて蓄積される。そして、軌道回路の故障時に平常時特性値算出手段と故障時特性値算出手段と場合分け判別手段を動作させると、蓄積データに基づいて軌道回路の送信ケーブル断線とレール破断と受信ケーブル断線と短絡故障が判別される。この判別手法は、多数かつ各種の軌道回路について断線状態と短絡状態を確認した結果、百発百中とまではいかないが、十中八九を超える高い率で正解を出すことができる。しかも、軌道回路の実現方式が同じであれば閾値もケーブルやレールの長さに依らず同じで良いので、使い易いものとなっている。
【0011】
また、本発明の軌道回路故障部位特定装置にあっては(解決手段2)、蓄積データに基づいて軌道回路のレール短絡までも判別される。さらに、本発明の軌道回路故障部位特定装置にあっては(解決手段3)、蓄積データに基づいて軌道回路の送信ケーブル短絡と受信ケーブル短絡までも判別される。
したがって、この発明によれば、ケーブルと軌道の切り分けまで高い確度で行えるうえ使い易い軌道回路故障部位特定装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1について、軌道回路故障部位特定装置の全体構造を示すブロック図である。
【図2】場合分け判別手段のうち共振コンデンサが無い場合の判別手順を示すフローチャートである。
【図3】場合分け判別手段のうち共振コンデンサが有る場合の判別手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施例2について、軌道回路故障部位特定装置の全体構造を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
このような本発明の軌道回路故障部位特定装置について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜2により説明する。
図1〜3に示した実施例1は、上述した解決手段を総て具現化しているが一区間を対象にしたベーシックなものであり、図4に示した実施例2は、多数の区間を対象にした実用的なものである。
なお、ここで述べる実施例は、軌道回路のうちSMETと呼ばれるものに適合させたものであり、SMETとは、83/100Hz軌道回路のINVや分周軌道回路の大形分周器で必要な電源装置を安価にするため、軌道に時分割送信して6軌道回路を1送信器に集約したものである。
【実施例1】
【0014】
本発明の軌道回路故障部位特定装置の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、軌道回路故障部位特定装置20の全体構造を示すブロック図であり、図2は、場合分け判別手段29の判別手順のうち共振コンデンサCが無い場合の判別手順を示すフローチャートであり、図3は、場合分け判別手段29の判別手順のうち共振コンデンサCが有る場合の判別手順を示すフローチャートである。
【0015】
軌道回路故障部位特定装置20の説明に先立って接続先の軌道回路10の基本構成を説明する。軌道回路10は、機器室の送信部11で発生させた例えば120Hzの交流信号を、送信ケーブル12で現場の軌道へ伝送してからインピーダンスボンド13を介してレール14における両端絶縁の対象区間に対してその一端側から送り込むとともに、その対象区間の他端側からインピーダンスボンド15を介して拾い上げ更に受信ケーブル16にて機器室の受信部17へ伝送してから検出し、その検出信号のレベルに応じてレール14の対象区間における列車の有無を例えば軌道回路リレーTRの出力で示すものである。
【0016】
この軌道回路故障部位特定装置20は(図1参照)、軌道回路10のレール14の一区間を対象とするベーシックなものであり、軌道回路10に接続されて例えば一定周期で測定を繰り返す測定部21〜23と、その測定結果に基づいて軌道回路10の故障部位特定のための推定演算を行う解析部24とを具えている。
測定部21〜23は、レール14の対象区間を介して送受信される上述の交流信号について、送信部11から送信ケーブル12への送出部位の送電端電圧を測定する送電端電圧測定部21と、その送出部位の送電端電流を測定する送電端電流測定部22と、受信ケーブル16から受信部17への入力部位の受電端電圧を測定する受電端電圧測定部23を具えている。
【0017】
解析部24は、適宜な演算装置と記憶装置とを具備していれば鉄道分野で多用されているフェールセーフコンピュータでも良く市販の汎用コンピュータでも良く、A/D変換回路やデータ入力プログラムで具現化された回路測定データ収集手段25と、ハードディスク等の不揮発性大容量メモリに割り付けられた測定データ記憶部26と、何れもプログラムで具現化された平常時特性値算出手段27と故障時特性値算出手段28と場合分け判別手段29とを具えている。動作指示等を与える入力装置としてのキーボードやマウスと、判別結果を提示する出力装置としてのディスプレイも、具えている。
【0018】
測定データ収集手段25は、送電端電圧測定部21,送電端電流測定部22,受電端電圧測定部23の測定にて得られた測定値をそれぞれ送電端電圧値Vs,送電端電流値Is,受電端電圧値Vrとして入力するが、その際、送電端電圧値Vsを送電端電流値Isで割って送電端インピーダンスZsを算出するとともに、受電端電圧値Vrが既定の閾値Thを上回っているか否かに応じて列車不在線か列車在線かを示す列車不在線情報Trを演算してから、それらのデータを時刻tと組にして測定データ記憶部26に追加書込するようになっている。測定データ記憶部26は、例えば先入れ先出し方式で数日間や数周間といった長期間に亘って組データが時系列で蓄積されるようになっている。
【0019】
測定データ収集手段25や測定部21〜23は基本的に常時稼動してデータを蓄積し続けるが、平常時特性値算出手段27と故障時特性値算出手段28と場合分け判別手段29は、故障に気づいた者の操作によって入力装置にて動作指示が与えられたときに動作するようになっている。その指示では、軌道回路10に故障が無かったことが判明している平常時の初期と終期に加え、故障の発生が判明した故障時期も、手動入力にて与えられるようになっている。なお、測定データ収集手段25が各測定値Vs,Is,Vrを入力する度にその値が既知の正常範囲に収まっているか正常範囲を逸脱したかを調べる等のことで故障の発生や平常時の初期と終期と故障時期などを自動で検知するようにしても良い。
【0020】
平常時特性値算出手段27は、先ず、測定データ記憶部26をアクセスして、そこに記憶保持されている蓄積データから平常時の測定値を抽出してそれを列車在線時のデータと列車不在線時のデータとに分け、列車在線時と列車不在線の各測定値Vr,Zs毎に多数の値を一つに纏めるものであり、その際、測定値集約処理では平均値算出等を行うことで集約しながら雑音成分を抑制し、抽出処理では、時刻tが平常時の初期から終期までの間に入る組データから測定値を抽出し、データ分類処理では、列車在線情報Trの値で分けるが、列車在線から列車不在線へ又は列車不在線から列車在線へ変化した前後のデータを処理対象から外すことで安定状態の測定値を用いるようになっている。
【0021】
平常時特性値算出手段27は、次いで、列車在線時の代表値と列車不在線時の代表値とに集約された平常時の各測定値Vr,Zsから判別用の基準値を幾つか求めるようになっている。具体的には、平常時かつ列車在線時の送電端インピーダンスZsを在線時基準インピーダンスZaに採用し、平常時かつ列車不在線時の送電端インピーダンスZsを不在線時基準インピーダンスZbに採用し、在線時基準インピーダンスZaを不在線時基準インピーダンスZbで割ることで基準インピーダンス比Zcを算出し、平常時かつ列車不在線時の受電端電圧値Vrを不在線時基準受信電圧Vdに採用し、平常時かつ列車在線時の受電端電圧値Vrを在線時基準受信レベルVeに採用するようになっている。
【0022】
故障時特性値算出手段28は、先ず、測定データ記憶部26をアクセスして、そこに記憶保持されている蓄積データから故障時の測定値を抽出してそれを列車在線時のデータと列車不在線時のデータとに分け、列車在線時と列車不在線の各測定値Vr,Zs毎に多数の値を一つに纏めるものであり、その際、測定値集約処理では平均値算出等を行うことで集約しながら雑音成分を抑制し、抽出処理では、時刻tが故障時期から現在までの間に入っている組データから測定値を抽出し、データ分類処理では、列車在線情報Trの値で分けるが、列車在線から列車不在線へ又は列車不在線から列車在線へ変化した前後のデータを処理対象から外すことで安定状態の測定値を用いるようになっている。
【0023】
故障時特性値算出手段28は、次いで、列車在線時の代表値と列車不在線時の代表値とに集約された故障時の各測定値Vr,Zsから、判別用の基準値を幾つか求めるようになっている。具体的には、故障時かつ列車不在線時の送電端インピーダンスZsを不在線時送電インピーダンスZgに採用し、不在線時送電インピーダンスZgを不在線時基準インピーダンスZbで割ることで送電インピーダンス比Zhを算出し、故障時かつ列車不在線時の受電端電圧値Vrを不在線時基準受信電圧Vdで割ってから対数関数を適用して20log(Vr/Vd)の演算を行うことで不在線時受信レベルViを算出し、正常時の列車在線時の受電端電圧値Vrに対する在線時判定受信レベルVjに採用するようになっている。
【0024】
場合分け判別手段29は、上述した基準インピーダンス比Zcと在線時基準受信レベルVeと送電インピーダンス比Zhと不在線時受信レベルViと在線時判定受信レベルVjとに基づいて場合分けを行うものであるが、更にきめ細かく場合分けするために、軌道回路10の受信部17が受信ケーブル16との接続部に共振コンデンサCを接続されているか否かを示すパラメータ設定も、参照するようになっている。
そして(図2参照)、受信部17に共振コンデンサCが接続されていない場合は、送電インピーダンス比Zh、不在線時受信レベルVi、在線時判定受信レベルVj及び在線時基準受信レベルVe、送電インピーダンス比Zh及び基準インピーダンス比Zc、という順に調べて軌道回路10の何処が故障しているかを判別するようになっている。
【0025】
すなわち、場合分け判別手段29は、送電インピーダンス比Zhと三つの閾値“5.0”,“1.5”,“1.0”とを比較して(ステップS21)、送電インピーダンス比Zhが5.0以上であれば軌道回路10のうち送信ケーブル12が断線していると判定し、送電インピーダンス比Zhが5.0未満であって1.5以上であれれば軌道回路10のうちレール14が破断していると判定し、送電インピーダンス比Zhが1.5未満であって1.0以上であれば軌道回路10のうち受信ケーブル16が断線していると判定する。送電インピーダンス比Zhが1.0未満の場合は、更に不在線時受信レベルViと閾値“−40dB”とを比較して(ステップS22)、不在線時受信レベルViが−40dB以上であれば軌道回路10のうちレール14が短絡していると判定するようになっている。
【0026】
不在線時受信レベルViが−40dB未満の場合、場合分け判別手段29は、更に在線時判定受信レベルVjと在線時基準受信レベルVeとを比較して(ステップS23)、在線時基準受信レベルVeが在線時判定受信レベルVj以上であれば軌道回路10のうち送信ケーブル12か受信ケーブル16が短絡していると判定する。在線時基準受信レベルVeが在線時判定受信レベルVjより小さい場合は、更に送電インピーダンス比Zhと基準インピーダンス比Zcとを比較して(ステップS24)、送電インピーダンス比Zhが基準インピーダンス比Zc以上であれば軌道回路10のうち受信ケーブル16が短絡していると判定し、送電インピーダンス比Zhが基準インピーダンス比Zcより小さければ軌道回路10のうち送信ケーブル12が短絡していると判定するようになっている。
【0027】
また(図3参照)、受信部17に共振コンデンサCが接続されている場合、場合分け判別手段29は、送電インピーダンス比Zhと二つの閾値“5.0”,“1.0”とを比較して(ステップS31)、送電インピーダンス比Zhが5.0以上であれば軌道回路10のうち送信ケーブル12が断線していると判定し、送電インピーダンス比Zhが5.0未満であって1.0以上であれれば軌道回路10のうちレール14が破断していると判定する。それから、送電インピーダンス比Zhが1.0未満の場合は、更に不在線時受信レベルViと閾値“−20dB”とを比較して(ステップS32)、不在線時受信レベルViが−20dB以上であれば軌道回路10のうちレール14が短絡していると判定するようになっている。
【0028】
不在線時受信レベルViが−20dB未満の場合、場合分け判別手段29は、再び送電インピーダンス比Zhと閾値“0.665”とを比較して(ステップS33)、送電インピーダンス比Zhが0.665以上であれば軌道回路10のうち受信ケーブル16が断線していると判定し、送電インピーダンス比Zhが0.665未満の場合は更に不在線時受信レベルViと閾値“−40dB”とを比較して(ステップS34)、不在線時受信レベルViが−40dB以上であれば軌道回路10のうちレール14が短絡していると判定し、不在線時受信レベルViが−40dB未満の場合は更に在線時判定受信レベルVjと在線時基準受信レベルVeとを比較して(ステップS35)、在線時基準受信レベルVeが在線時判定受信レベルVj以上であれば軌道回路10のうち送信ケーブル12か受信ケーブル16が短絡していると判定するようになっている。
【0029】
在線時基準受信レベルVeが在線時判定受信レベルVjより小さい場合、場合分け判別手段29は、更に送電インピーダンス比Zhと基準インピーダンス比Zcとを比較して(ステップS36)、送電インピーダンス比Zhが基準インピーダンス比Zc以上であれば軌道回路10のうち受信ケーブル16が短絡していると判定し、送電インピーダンス比Zhが基準インピーダンス比Zcより小さければ軌道回路10のうち送信ケーブル12が短絡していると判定するようになっている。このような共振コンデンサCが有る場合における後半の判別処理S34〜S36は、共振コンデンサCの影響が小さいため、上述した共振コンデンサCが無い場合における後半の判別処理S22〜S24と、同じになっている。
【0030】
この実施例1の軌道回路故障部位特定装置20について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図1は、軌道回路故障部位特定装置20を軌道回路10に接続して使用するところのブロック図である。
【0031】
軌道回路故障部位特定装置20を使用して軌道回路10の故障部位を特定させるには、予め軌道回路故障部位特定装置20を軌道回路10に付設して、軌道回路10が故障するよりも前の平常時から軌道回路故障部位特定装置20を稼動させておく。軌道回路故障部位特定装置20の設置時には、送信部11から送信ケーブル12への交流信号送出部位に送電端電圧測定部21の電圧測定用ケーブルと送電端電流測定部22の電流測定用ケーブルを接続し、受信ケーブル16から受信部17への交流信号入力部位に受電端電圧測定部23の電圧測定用ケーブルを接続し、解析部24には共振コンデンサCの有無を含む軌道回路構成,軌道回路長,及び送電ケーブル長を示すパラメータ値を初期設定しておく。
【0032】
そうすると、軌道回路故障部位特定装置20では、随時、軌道回路10における交流信号の送電端電圧と送電端電流と受電端電圧とが測定部21〜23によって継続的に測定され、その測定の度にそれで得られた送電端電圧値Vsと送電端電流値Isと受電端電圧値Vrが、測定部21〜23から解析部24に引き渡され、解析部24において測定データ収集手段25によって測定データ記憶部26に蓄積される。その際、送電端インピーダンスZsや列車在線情報Trが演算されてから、計測値Vs,Is,Vrを取得した時刻tと各計測値Vs,Is,Zs,Vr,Trとが組データにされるとともに時刻tや列車在線情報Trをキーにして検索可能なデータ記憶形式で蓄積される。
【0033】
そして、軌道回路10も軌道回路故障部位特定装置20も稼動を続けている状況で、軌道回路10が故障したときには、軌道回路故障部位特定装置20に対し、その入力装置を操作して、判明している平常時の初期と平常時の終期と故障時期とを入力したうえで、故障部位特定処理の実行を指示する。この指示を受けた後は、軌道回路故障部位特定装置20の解析部24が自動で処理を行い、測定データ記憶部26に保持されている蓄積データすなわち時刻tと送電端電圧値Vsと送電端電流値Isと送電端インピーダンスZsと列車在線情報Trの組データの多数組集合から軌道回路10の故障部位が推定される。
【0034】
すなわち、平常時特性値算出手段27によって、測定データ記憶部26の蓄積データから平常時の各測定値Vr,Zsが抽出されて代表値に纏められ、それから在線時基準インピーダンスZaと在線時基準インピーダンスZabと基準インピーダンス比Zcと不在線時基準受信電圧Vdと在線時基準受信レベルVeが算出される。また、故障時特性値算出手段28によって、測定データ記憶部26の蓄積データから故障時の各測定値Vr,Zsが抽出されて代表値に纏められ、それと平常時特性値算出手段27の算出値とから不在線時送電インピーダンスZgと送電インピーダンス比Zhと不在線時受信レベルViと在線時判定受信レベルVjが算出される。
【0035】
さらに、場合分け判別手段29によって、共振コンデンサCの有無に基づく場合分けが行われてから、送電インピーダンス比Zhと不在線時受信レベルViと在線時判定受信レベルVj及び在線時基準受信レベルVeと送電インピーダンス比Zh及び基準インピーダンス比Zcに基づく場合分けも行われて、軌道回路10において送信ケーブル12とレール14と受信ケーブル16のうちどれが故障しているかに加え、断線等なのか短絡なのかといった故障状態も判別される。
こうして、軌道回路10の故障部位が、推定ではあるが送信ケーブル12,16なのかレール14なのかまで切り分けて特定され、出力装置に提示される。
【0036】
また、その故障部位の推定確度は、首都圏に敷設されている標準施工の軌道を対象にして、多数の区間について確認したところ、75%に近い良好なものであった。レール14の軌道構成が、分岐の無い棒線でも、インピーダンスボンドの無い片分岐でも、インピーダンスボンドの有る片分岐でも、直列軌道の片分岐でも、両側で分岐しているシーサスでも、良好であった。また、レール14の長さが50m〜600mの範囲で、ケーブル12の長さが50m〜2kmの範囲で、ケーブルの電線の断面積が1.25mm〜10mmの範囲で、故障部位の推定確度は良好であることが確認できた。
【実施例2】
【0037】
本発明の軌道回路故障部位特定装置の実施例2について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図4は、軌道回路故障部位特定装置40の全体構造を示すブロック図である。
【0038】
この軌道回路故障部位特定装置40が上述した実施例1の軌道回路故障部位特定装置20と相違するのは、軌道回路故障部位特定対象をレール14の一区間だけでなく多数の区間に広げるために、対象区間それぞれに一つずつ測定部21〜23が設けられている点と、幾つかの測定部21〜23から測定結果をデータ収集する集約装置41が適宜分散して設置されている点と、多数の区間を対象としてデータ蓄積と故障部位特定処理を行えるよう機能拡張されて解析部24が装置解析部44になっている点と、複数の集約装置41から通信回線42を介して伝送されて来た収集データが総て解析部44に引き渡されるようになっている点である。このような機能拡張により実用に適うものとなっている。
【0039】
[その他]
上記実施例では、電圧や電流を測定する対象として軌道回路の列車検知信号である交流信号を流用したが、列車検知信号から弁別される列車検知信号とは別の故障部位特定用信号を使用するようにしても良く、その場合は、故障部位特定用信号の生成送信回路や弁別受信回路が追加されて測定部21〜23に並設される。
また、上記実施例では測定データ収集手段25がデータ収集のついでに送電端インピーダンスZsや列車在線情報Trの算出を済ませるようになっていたが、その算出処理は平常時特性値算出手段27や故障時特性値算出手段28が基準インピーダンス比Zcや送電インピーダンス比Zhの算出前に行うようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の軌道回路故障部位特定装置は、上述した軌道回路(SMET)に適用が限定される訳でなく、閾値変更など軽微な修正を施すことで容易に、商用軌道回路・分倍周軌道回路・分周軌道回路などの交流軌道回路や、直流軌道回路にも適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10…軌道回路、11…送信部、
12…送信ケーブル、13…インピーダンスボンド、14…レール、
15…インピーダンスボンド、16…受信ケーブル、17…受信部、
20…軌道回路故障部位特定装置、
21…送電端電圧測定部、22…送電端電流測定部、
23…受電端電圧測定部、24…解析部、25…測定データ収集手段、
26…測定データ記憶部、27…平常時特性値算出手段、
28…故障時特性値算出手段、29…場合分け判別手段、
40…軌道回路故障部位特定装置、
41…集約装置、42…通信回線、44…解析部、
C…共振コンデンサ、Vs…送電端電圧値、Is…送電端電流値、
Zs…送電端インピーダンス、Vr…受電端電圧値、
Tr…列車在線情報、Za…在線時基準インピーダンス、
Zb…不在線時基準インピーダンス、Zc…基準インピーダンス比、
Vd…不在線時基準受信電圧、Ve…在線時基準受信レベル、
Zg…不在線時送電インピーダンス、Zh…送電インピーダンス比、
Vi…不在線時受信レベル、Vj…在線時判定受信レベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道回路に接続されて前記軌道回路の送電端電圧および送電端電流と前記軌道回路の受電端電圧とを継続的に測定する測定部と、その測定で得た測定値を測定データ記憶部に蓄積する測定データ収集手段と、その蓄積データから平常時かつ列車不在線時の測定値を抽出して送電端電圧値と送電端電流値との比に対応した不在線時基準インピーダンスを求める平常時特性値算出手段と、前記蓄積データから故障時かつ列車不在線時の測定値を抽出して送電端電圧値と送電端電流値との比に対応した不在線時送電インピーダンスを求めるとともにそれと前記不在線時基準インピーダンスとの比に対応した送電インピーダンス比を求める故障時特性値算出手段と、前記送電インピーダンス比と閾値との大小に基づいて前記軌道回路の送信ケーブル断線とレール破断と受信ケーブル断線と短絡故障を判別する場合分け判別手段とを備えている軌道回路故障部位特定装置。
【請求項2】
前記平常時特性値算出手段が前記蓄積データから平常時かつ列車不在線時の測定値を抽出して受電端電圧値に対応した不在線時基準受信電圧を求めるものであり、前記故障時特性値算出手段が前記蓄積データから故障時かつ列車不在線時の受電端電圧値を抽出してそれと前記不在線時基準受信電圧との比に対応した軌道回路故障時受信レベルを求めるものであり、前記場合分け判別手段が短絡故障と判別したとき更に前記軌道回路故障時受信レベルと閾値との大小に基づいて前記軌道回路のレール短絡を判別するものであることを特徴とする請求項1記載の軌道回路故障部位特定装置。
【請求項3】
前記平常時特性値算出手段が前記蓄積データから平常時かつ列車在線時の測定値を抽出して送電端電圧値と送電端電流値との比に対応した在線時基準インピーダンスを求めるとともにそれと前記不在線時基準インピーダンスとの比に対応した基準インピーダンス比を求めるものであり、前記場合分け判別手段が短絡故障と判別したとき更に前記送電インピーダンス比と前記基準インピーダンス比との大小に基づいて前記軌道回路のレール短絡と送信ケーブル短絡と受信ケーブル短絡を判別するものであることを特徴とする請求項2記載の軌道回路故障部位特定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−207449(P2011−207449A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79641(P2010−79641)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000207470)大同信号株式会社 (83)
【Fターム(参考)】