説明

軌道回路方式

【課題】 漏れ変動に強く、しかも短絡感度の高い軌道回路方式を提供する。
【解決手段】 所定の列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に供給する送信機器群及びそのレールの受電端に接続される列車検知を行う受信機器群で構成される軌道回路を有する軌道回路方式であって、前記軌道回路を軌道回路内で実質的にインピーダンスの異なる複数の軌道回路にするとともに、それら複数の軌道回路を重畳又は切替えて使用し、かつ、各軌道回路毎に列車検知を行うとともに、環境条件等の所定の条件に基づいていずれか一つの軌道回路の列車検知を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車位置を検知するための軌道回路方式に係り、特に、短絡感度の向上及び漏れ変動に対する性能向上を両立させたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の軌道回路は、列車の走行するレールを列車の走行方向に沿って所定長さに区分し、その区分されたレールを電気回路の一部とするように構成されている。そして、その区分されたレールの送電端(始端)には、所定の列車検知信号(以下、「TD信号」というときもある。)が供給(印加)されるように構成されていて、その区分されたレールの受電端(終端)でその供給されたTD信号が所定の受信レベルを越えて受信されているときにそのレール上に列車が存在(在線)していないと判定されるように構成されている。また、区分されたレール上に列車が在線して左右のレールが列車の車軸(車輪)で短絡されると、受電端の受信レベルが低下するので、受電端の受信レベルが所定以下に低下したときは、区分されたレール、すなわち、軌道回路上に列車が在線していると判定されるように構成されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
ところで、この従来の軌道回路において、短絡感度及び漏れ変動に対するレベル変動は、レールに接続する送信機器群及び受信機器群のインピーダンスに大きく影響を受ける性質を有している。すなわち、従来の軌道回路において、インピーダンスを高くすると短絡感度は向上するが漏れ変動に対して弱くなり、これとは逆に、インピーダンスを低くすると漏れ変動に対して強くなるが短絡感度が低下するという性質を有している。
【0004】
漏れ変動及び短絡感度について図5に示す4端子回路網を用いてさらに説明する。なお、この4端子回路網は、軌道回路の機能に及ぼす電気的な影響を一時定数の形で表わしたものである。図5中、Rは、レール抵抗(Ω/km)であって、一般に単位長当りの質量が大きいほど抵抗値は低く、TD信号の周波数が高くなると表皮効果により漸増する性質を有している。また、Lは、レールインダクタンス(mH/km)で、軌間(左右のレール間隔)でほぼ決まる値であり、TD信号の周波数が高くなると漸減する性質を有している。さらに、Gは、レール間漏れコンダクタンス(S/km)で、最も変化の激しい定数である。すなわち、このレール間漏れコンダクタンスは、例えば、軌道構造やレール締結装置の電気的性能が降雨(トンネル内の漏水を含む)や晴天の相違、あるいは、ゴミの付着等の環境条件等により大きく影響を受け、大きく変動する性質を有している。そして、Cは、レール間キャパシタンス(μF/km)で、軌道構造等により左右されるが、通常、軌道回路の電気的特性に大きな影響を与えることがない。
【0005】
上述のように、軌道回路の一時定数のうち、レール間漏れコンダクタンスGは、大きく変動する性質を有しているので、この漏れ変動に対応した列車検知を行わないと適切な列車検知ができなくなるという問題点を有している。そこで、従来の軌道回路では、この問題点を解決するために、受信端における受信レベルの変動を学習して漏れコンダクタンスGの変化に対応できるようにした軌道回路が提案されている(特許文献1,2参照)。
【0006】
次に、この軌道回路における列車の有無を検知する軌道リレーの動作を決定する短絡感度について説明する。先ず、上記一時定数のレール抵抗RとレールインダクタンスLとからは、レールインピーダンスZが求められる。すなわち、そのレールインピーダンスZは、Z=R+jωLとして求められ、このレールインピーダンスZが大きくなるとレールの電圧降下が大きくなることを表わしている。そして、このレールインピーダンスZが大きいほど、つまり、TD信号の周波数が高くなるほど、さらに、レール間漏れコンダクタンスGが大きくなるほど軌道回路のTD信号の減衰が大きくなり、軌道リレーに加わる電圧(軌道リレー電圧)が低下する性質を有している。ところで、短絡感度は、軌道リレーを落下(OFF)することのできる短絡抵抗の最大値であり、その短絡感度Zsdは、軌道リレーの使用時の電圧をVtrとし、軌道リレーの落下電圧をVtrd とし、レールの任意箇所から送信側と受信側を見た並列インピーダンス(任意インピーダンス)をZx としたときに、Zsd=Zx /(Vtr/Vtrd )−1として求められる。通常、商用周波数軌道回路のような低周波軌道回路における短絡感度Zsdは、複軌条(インピーダンスボンド有り)で0.06Ω以上、単軌条(インピーダンスボンド無し)で0.1Ω以上とされている(非特許文献1参照)。そして、上記式から明らかなように、短絡感度Zsdは、インピーダンスZx が大きくなると、すなわち、TD信号の周波数が高くなると短絡感度が向上することが分かる。
【特許文献1】特開2003−11815号公報
【特許文献2】特開平9−226580号公報
【非特許文献1】鉄道技術者のための電気概論・信号シリーズNo.9「軌道回路」 平成14年4月10日 日本鉄道電気技術協会(改訂版)発行P.43〜52
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、上記従来の軌道回路は、レールに接続される送受信器群のインピーダンスに大きく影響を受け、そのインピーダンスを高くすると、すなわち、TD信号の周波数を高くなると短絡感度は向上するが、漏れ変動に対して弱くなり、これとは逆に、インピーダンスを低くすると、すなわちTD信号の周波数を低くすると、漏れ変動には強くなるが、短絡感度が低下するという相反する性質を有している。すなわち、上記従来の軌道回路は、短絡感度の向上と漏れ変動に対する性能向上を同時に満たすことができないという性質を有している。
【0008】
このため、短絡感度を確保しつつ漏れ変動に応じて列車検知の基準値を変化させる学習機能を備えた軌道回路においては、過剰な学習が行われると、漏れの回復時に列車検知ができなくなるおそれがあるので、過剰な学習に対して何らかの対策をとる必要があった。また、従来の学習機能を備えた軌道回路では、漏れ変動に対しては対処できても帰線電流(電車電流)の不平衡等に対する妨害耐量が小さくなる等の不都合があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、漏れ変動に強く、しかも短絡感度が高く、さらにノイズに強い軌道回路方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る軌道回路方式は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、所定の列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に供給する送信機器群及びそのレールの受電端に接続される列車検知を行う受信機器群で構成される軌道回路を有する軌道回路方式であって、前記軌道回路を軌道回路内で実質的にインピーダンスの異なる複数の軌道回路にするとともに、それら複数の軌道回路を重畳又は切替えて使用し、かつ、各軌道回路毎に列車検知を行うとともに、環境条件等の所定の条件に基づいて列車検知結果を採用する軌道回路を変更することを特徴としている。
本発明に係る軌道回路方式は、上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、周波数の異なる複数の列車検知信号を生成する列車検知信号生成回路と、その列車検知信号生成回路で生成された周波数の異なる複数の列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に重畳して供給するとともに、それら周波数の異なる複数の列車検知信号のうちのいずれか一つの列車検知信号の周波数で共振するように構成された送信機器群と、その送信機器群と同じ周波数で共振するように構成され、かつ、前記複数の周波数毎に列車検知を行うとともに、環境条件等の所定の条件に基づいていずれか一つの周波数に係る列車検知を採用する、前記レールの受電端に接続された受信機器群と、からなることを特徴としている。
本発明に係る軌道回路方式は、上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、周波数の異なる複数の列車検知信号を時分割で生成する列車検知信号生成回路と、その列車検知信号生成回路で生成された周波数の異なる複数の列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に供給するとともに、それら周波数の異なる複数の列車検知信号のうちのいずれか一つの列車検知信号の周波数で共振するように構成された送信機器群と、その送信機器群と同じ周波数で共振するように構成され、かつ、前記複数の周波数毎に列車検知を行うとともに、環境条件等の所定の条件に基づいていずれか一つの周波数に係る列車検知を採用する、前記レールの受電端に接続された受信機器群と、からなることを特徴としている。
本発明に係る軌道回路方式は、上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、所定の周波数からなる列車検知信号を生成する列車検知信号生成回路と、その列車検知信号生成回路で生成された所定の周波数からなる列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に供給するとともに、その所定の周波数で共振するように構成された第1の送信機器群と、前記列車検知信号生成回路で生成された所定の周波数からなる列車検知信号を前記列車の走行するレールの送電端に供給するとともに、その所定の周波数で共振しないように構成された第2の送信機器群と、前記第1の送信機器群と同じ周波数で共振するように構成されるとともに、列車検知を行う前記レールの受電端に接続された第1の受信機器群と、前記列車検知信号生成回路を生成された所定の周波数で共振しないように構成されるとともに、列車検知を行う前記レールの受電端に接続された第2の受信機器群と、環境条件等の所定の条件に基づいて前記第1の送信機器群及び第1の受信機器群の組合わせ、又は前記第2の送信機器群及び第2の受信機器群の組合わせに切替える切替手段と、からなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に記載の軌道回路方式は、所定の列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に供給する送信機器群及びそのレールの受電端に接続される列車検知を行う受信機器群で構成される軌道回路を有する軌道回路方式であって、前記軌道回路を軌道回路内で実質的にインピーダンスの異なる複数の軌道回路にするとともに、それら複数の軌道回路を重畳又は切替えて使用し、かつ、各軌道回路毎に列車検知を行うとともに、環境条件等の所定の条件に基づいて列車検知結果を採用する軌道回路を変更するので、インピーダンスを高くすると短絡感度が向上するが漏れ変動に弱くなり、インピーダンスを低くすると漏れ変動が強くなるが短絡感度が低下するという従来の軌道回路の欠点を克服して、漏れ変動に強く、しかも短絡感度が高く、さらにノイズに強い軌道回路とすることができる。
本発明の請求項2に記載の軌道回路方式は、周波数の異なる複数の列車検知信号を生成する列車検知信号生成回路と、その列車検知信号生成回路で生成された周波数の異なる複数の列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に重畳して供給するとともに、それら周波数の異なる複数の列車検知信号のうちのいずれか一つの列車検知信号の周波数で共振するように構成された送信機器群と、その送信機器群と同じ周波数で共振するように構成され、かつ、前記複数の周波数毎に列車検知を行うとともに、環境条件等の所定の条件に基づいていずれか一つの周波数に係る列車検知を採用する、前記レールの受電端に接続された受信機器群とからなるので、インピーダンスを高くすると短絡感度が向上するが漏れ変動に弱くなり、インピーダンスを低くすると漏れ変動が強くなるが短絡感度が低下するという従来の軌道回路の欠点を克服して、漏れ変動に強く、しかも短絡感度が高く、さらにノイズに強い軌道回路とすることができる。
本発明の請求項3に記載の軌道回路方式は、周波数の異なる複数の列車検知信号を時分割で生成する列車検知信号生成回路と、その列車検知信号生成回路で生成された周波数の異なる複数の列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に供給するとともに、それら周波数の異なる複数の列車検知信号のうちのいずれか一つの列車検知信号の周波数で共振するように構成された送信機器群と、その送信機器群と同じ周波数で共振するように構成され、かつ、前記複数の周波数毎に列車検知を行うとともに、環境条件等の所定の条件に基づいていずれか一つの周波数に係る列車検知を採用する、前記レールの受電端に接続された受信機器群とからなるので、インピーダンスを高くすると短絡感度が向上するが漏れ変動に弱くなり、インピーダンスを低くすると漏れ変動が強くなるが短絡感度が低下するという従来の軌道回路の欠点を克服して、漏れ変動に強く、しかも短絡感度が高く、さらにノイズに強い軌道回路とすることができる。
本発明の請求項4に記載の軌道回路方式は、所定の周波数からなる列車検知信号を生成する列車検知信号生成回路と、その列車検知信号生成回路で生成された所定の周波数からなる列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に供給するとともに、その所定の周波数で共振するように構成された第1の送信機器群と、前記列車検知信号生成回路で生成された所定の周波数からなる列車検知信号を前記列車の走行するレールの送電端に供給するとともに、その所定の周波数で共振しないように構成された第2の送信機器群と、前記第1の送信機器群と同じ周波数で共振するように構成されるとともに、列車検知を行う前記レールの受電端に接続された第1の受信機器群と、前記列車検知信号生成回路を生成された所定の周波数で共振しないように構成されるとともに、列車検知を行う前記レールの受電端に接続された第2の受信機器群と、環境条件等の所定の条件に基づいて前記第1の送信機器群及び第1の受信機器群の組合わせ、又は前記第2の送信機器群及び第2の受信機器群の組合わせに切替える切替手段とからなるので、インピーダンスを高くすると短絡感度が向上するが漏れ変動に弱くなり、インピーダンスを低くすると漏れ変動が強くなるが短絡感度が低下するという従来の軌道回路の欠点を克服して、漏れ変動に強く、しかも短絡感度が高く、さらにノイズに強い軌道回路とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。図1(a)は、一実施の形態に係る軌道回路方式のブロック図であり、同図(b)はその詳細図である。
【0013】
図中、1は、図示しない列車の走行するレールを列車の走行する方向に沿って所定長さに区分された左右一対の鉄製のレールである。そして、そのレール1の送電端には送信機器群2が接続され、また、そのレール1の受電端には受信機器群3が接続されている。上記送信機器群2には、本発明の列車検知信号生成回路に相当する、互いに周波数の異なるTD信号を発生する複数(図示の例では2個)の信号発生器4a,4bがそれぞれ接続されている。図示の例では、信号発生器4aから送出されるTD信号の周波数はf1 (以下、このf1 を信号f1 というときもある。)とされ、信号発生器4bから送出されるTD信号の周波数はf2 (以下、このf2 を信号f2 というときもある。)とされている。これら周波数f1 ,f2 のうち、周波数f2 は、送信機器群2及び受信機器群3においてそれぞれ高インピーダンスとなるように決められている。
【0014】
信号発生器4aから送出されたTD信号は、増幅回路5aで増幅処理されたのち、バンドパスフィルタ6aでフィルタ処理されて周波数f1 のみのTD信号がレール1の送電端に設けられているインピーダンスボンドの巻線(以下、この巻線を一次巻線という。)N1 に対設して巻回されている二次巻線N2 を介してレール1に供給されるように構成されている。
【0015】
信号発生器4bから送出されたTD信号は、増幅回路5bで増幅処理されたのち、バンドパスフィルタ6bでフィルタ処理されて周波数f2 のみのTD信号がレール1の送電端に設けられているインピーダンスボンドの一次巻線N1 に対設して巻回されている二次巻線N2 を介してレール1に供給されるように構成されている。したがって、レール1の送電端には、周波数f1 のTD信号と周波数f2 のTD信号とが重畳して供給されるように構成されている。
【0016】
図1(b)中、C1 は、二次巻線N2 に並列されたコンデンサであり、このコンデンサC1 と二次巻線N2 とにより、送信機器群2が上記2つの信号発生器4a,4bのうちのいずれか一つの周波数(図示の例ではf2 )で共振できるようにその容量が決められている。したがって、この送信機器群2においては、信号発生器4bから送出されたTD信号の周波数f2 に対して図1(a)の上方に示されるように高いインピーダンスZを有している。
【0017】
図1(b)中、TRは軌道リレーであって、レール1の受電端に設けられているインピーダンスボンドの一次巻線N1 に対設して巻回されている二次巻線N2 に接続されている。なお、この二次巻線N2 には、必要に応じて位相調整回路(後述する図4(b)の符号7参照)が接続される。
【0018】
図1(b)中、C2 は、二次巻線N2 に並列されたコンデンサであり、このコンデンサC2 と二次巻線N2 とにより、上記送信機器群2と同様に信号発生器4bから送出された周波数f2 で共振できるように決められている。したがって、この受信機器群3においては、信号発生器4bから送出されたTD信号の周波数f2 に対して図1(a)の上方に示されるように高いインピーダンスZを有している。
【0019】
図2は、上記構成からなる軌道回路方式の軌道リレーTRの入力信号の受信レベルVと漏れコンダクタンスGとの関係を示している。この図から明らかなように、インピーダンスZの小さい周波数f1 においては、漏れコンダクタンスGが大きいときであっても、つまり、降雨の状態であっても所定以上の受信レベルを確保することができ、また、インピーダンスZの大きい周波数f2 においては、漏れコンダクタンスGが小さいときに、つまり晴天の状態において高い受信レベルが得られることが分かる。したがって、図2の左側の四角で示される部分においては、周波数f1 をマスクするマスク処理(フィルタ処理)することにより信号f2 に基づいて効果的な列車検知(軌道リレーTRの扛上,落下)を行うことができる。同様に、図2の右側の四角で示される部分においては、周波数f2 をマスクするマスク処理(フィルタ処理)することにより信号f1 に基づいた効果的な列車検知(軌道リレーTRの扛上,落下)を行うことができる。なお、図2の例では、マスク処理する範囲を左側及び右側の一部としているが、例えば、図2のf1 線とf2 線の交点から左側全部をf1 をマスクする範囲とし、その交点の右側全部をマスク処理するようにしてもよい。
【0020】
信号f1 がマスク処理された信号f2 に基づく列車検知の検知レベル(しきい値)は、信号f2 がマスク処理された信号f1 に基づく列車検知の検知レベルよりも高く設定される。なお、図2の中間部分(左右の四角に挾まれた部分)は、上記2つの検知レベルのうちのいずれか一つが使用される。この2つの検知レベルの選択は、信号f1 又は信号f2 の受信レベルを監視し、所定の受信レベルに基づいて一義的に決めることができる。つまり、従来の軌道回路のような学習機能を備えることなく簡単な選択回路で検知レベルの変換を行うことができる。したがって、上記図1(a),(b)に示される受信機器群3(後述する図3及び図4にそれぞれ示される受信機器3も同じ。)には、図示しないが、上述したマスク処理回路及び選択回路が含まれている。
【0021】
上記構成からなる軌道回路方式においては、信号f1 の他に送信機器群2及び受信機器群3で共振する信号f2 を用いているので、インピーダンスZを高くすると短絡感度が向上するが漏れ変動に弱くなり、インピーダンスZを低くすると漏れ変動に強くなるが短絡感度が低下するという従来の軌道回路の問題点を克服でき、漏れ変動に強く、しかも短絡感度の高い軌道回路とすることができる。また、ノイズに強い軌道回路とすることができる。なお、上述の例では、使用される信号は、互いに周波数の異なる2つの信号f1 ,f2 としたが、これを互いに周波数の異なる3個以上の信号とすることもできる。
【0022】
図3は、本発明の他の実施の形態に係る軌道回路方式であり、ここでは、本発明の列車検知信号生成回路に相当する一つの信号発生器4から、上記図1(a),(b)に示される信号f1 ,f2 を時分割に送出するようにしている。この図3における軌道回路においても、送信機器群2及び受信機器群3が信号f2 でそれぞれ共振するように構成されているので、上記図1(a),(b)で示される軌道回路と同様の列車検知効果を得ることができる。
【0023】
図4(a),(b)は、本発明のさらに他の実施の形態を示すもので、信号発生器4bは、上記図1(a),(b)と同様の信号f2 を発生させるように構成されている。そして、一対の送信機器群2a,2b及び一対の受信機器群3a,3bが用意され、これら一対の機器群2a,2b、3a,3bは、本発明の切替手段に相当するスイッチ回路(切替回路)Sにより信号f2 では共振しない送信機器群2a及び受信機器群3aと、信号f2 で共振する送信機器群2b及び受信機器群3bとが択一的に切替えられるように構成されている。なお、これら一対の機器群2a,2b、3a,3bは、実際に一対の構成とするのではなく、図4(b)に示されるように、コンデンサC1 ,C2 をスイッチ回路SでON,OFFさせることにより実現される。
【0024】
図4(b)中、Tは、信号発生器4bを送信機器群2a,2bに接続するためのマッチングトランスであり、また、7は、軌道リレーTRに対する信号の位相を調整する周知の位相調整回路である。
【0025】
図4(a),(b)に示される軌道回路方式においては、スイッチ回路Sにより送信機器群2a及び受信機器群3aが選択されたときは、上記図1(a),(b)及び図3の信号f1 がレール1に供給されたときと同様の低いインピーダンスの下に列車検知が行われ、他方、スイッチ回路Sにより送信機器群2b及び受信機器群3bが選択されたときは、高いインピーダンスの下に列車検知が行われる。したがって、この図4(a),(b)に示される軌道回路方式においても、上記図1(a),(b)及び図3でそれぞれ示される軌道回路方式と同様の列車検知効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は本発明の一実施の形態に係る軌道回路方式のブロック図、(b)はその詳細図である。
【図2】受信レベルと漏れコンダクタンスとの関係を示すグラフである。
【図3】本発明の他の実施の形態に係る軌道回路方式のブロック図である。
【図4】(a)は本発明のさらに他の実施の形態に係る軌道回路方式のブロック図、(b)はその詳細図である。
【図5】軌道回路を4端子回路網で表わした説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 レール
2,2a,2b 送信機器群
3,3a,3b 受信機器群
4,4a,4b 信号発生器
5a,5b 増幅回路
6a,6b バンドパスフィルタ
TR 軌道リレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に供給する送信機器群及びそのレールの受電端に接続される列車検知を行う受信機器群で構成される軌道回路を有する軌道回路方式であって、
前記軌道回路を軌道回路内で実質的にインピーダンスの異なる複数の軌道回路にするとともに、それら複数の軌道回路を重畳又は切替えて使用し、かつ、各軌道回路毎に列車検知を行うとともに、環境条件等の所定の条件に基づいて列車検知結果を採用する軌道回路を変更することを特徴とする軌道回路方式。
【請求項2】
周波数の異なる複数の列車検知信号を生成する列車検知信号生成回路と、
前記列車検知信号生成回路で生成された周波数の異なる複数の列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に重畳して供給するとともに、それら周波数の異なる複数の列車検知信号のうちのいずれか一つの列車検知信号の周波数で共振するように構成された送信機器群と、
前記送信機器群と同じ周波数で共振するように構成され、かつ、前記複数の周波数毎に列車検知を行うとともに、環境条件等の所定の条件に基づいていずれか一つの周波数に係る列車検知を採用する、前記レールの受電端に接続された受信機器群と、
からなることを特徴とする軌道回路方式。
【請求項3】
周波数の異なる複数の列車検知信号を時分割で生成する列車検知信号生成回路と、
前記列車検知信号生成回路で生成された周波数の異なる複数の列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に供給するとともに、それら周波数の異なる複数の列車検知信号のうちのいずれか一つの列車検知信号の周波数で共振するように構成された送信機器群と、 前記送信機器群と同じ周波数で共振するように構成され、かつ、前記複数の周波数毎に列車検知を行うとともに、環境条件等の所定の条件に基づいていずれか一つの周波数に係る列車検知を採用する、前記レールの受電端に接続された受信機器群と、
からなることを特徴とする軌道回路方式。
【請求項4】
所定の周波数からなる列車検知信号を生成する列車検知信号生成回路と、
前記列車検知信号生成回路で生成された所定の周波数からなる列車検知信号を列車の走行するレールの送電端に供給するとともに、その所定の周波数で共振するように構成された第1の送信機器群と、
前記列車検知信号生成回路で生成された所定の周波数からなる列車検知信号を前記列車の走行するレールの送電端に供給するとともに、その所定の周波数で共振しないように構成された第2の送信機器群と、
前記第1の送信機器群と同じ周波数で共振するように構成されるとともに、列車検知を行う前記レールの受電端に接続された第1の受信機器群と、
前記列車検知信号生成回路を生成された所定の周波数で共振しないように構成されるとともに、列車検知を行う前記レールの受電端に接続された第2の受信機器群と、
環境条件等の所定の条件に基づいて前記第1の送信機器群及び第1の受信機器群の組合わせ、又は前記第2の送信機器群及び第2の受信機器群の組合わせに切替える切替手段と、
からなることを特徴とする軌道回路方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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