軌道監視装置と方法
【課題】自動追尾式トータルステーションの視準が一巡する空白時間に生じた異常を検知できる装置と方法を提供する。
【解決手段】不動点に設置するための自動追尾式トータルステーションと、軌道や枕木に設置するための複数の測点と、枕木に設置するための傾斜計と、各信号を取り込むコンピュータとより構成する。自動追尾式トータルステーションでは複数個所の測点群を一巡して視準し、傾斜計では、各枕木の傾斜を計測し、自動追尾式トータルステーションと傾斜計の信号をコンピュータに入力する。
【解決手段】不動点に設置するための自動追尾式トータルステーションと、軌道や枕木に設置するための複数の測点と、枕木に設置するための傾斜計と、各信号を取り込むコンピュータとより構成する。自動追尾式トータルステーションでは複数個所の測点群を一巡して視準し、傾斜計では、各枕木の傾斜を計測し、自動追尾式トータルステーションと傾斜計の信号をコンピュータに入力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道監視装置と方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
列車が通過する軌道の近くで行う近接工事では、軌道への影響を抑えるために各種の工夫がなされている。
しかし自然条件によっては軌道の上下方向、水平方向、あるいは合成方向への変位が発生する場合も想定される。
そのために従来は、変状計測手段としては自動追尾式トータルステーション(以下「TS」)、またはワイヤー式、リンク式等で変状を計測している。
あるいは多数本の枕木に測点を設置し、TSで多数の測点を視準して枕木の変位、すなわち路床の変位を測定する方法もまた採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−255145号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の軌道監視装置や監視方法にあっては、次のような問題点が想定される。
<1> 一般の現場では測点の数が40〜50点設置してあるが、このような多数の測点をTSで視準して一巡するには10分から20分の時間を要する。
<2> その一巡する間に軌道等に変位が発生した場合、現状では状況を把握することが出来ない。
<3> 一方、山手線のように3分間隔で列車が通過すると、TSの視準が一巡する間に複数本の列車が通過することになるので、せっかくTSでの監視をしていながら、一巡する間隔では枕木の変位を知ることなく列車が変位した位置へ到達してしまう可能性も想定される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために本発明の軌道監視装置は、自動追尾式トータルステーションと、軌道や枕木に設置するための複数の測点と、枕木に設置するための傾斜計と、各信号を取り込むコンピュータとより構成し、自動追尾式トータルステーションでは複数個所の測点を一巡して視準し、傾斜計では、各枕木の傾斜を連続的に計測し、自動追尾式トータルステーションと傾斜計の信号をコンピュータに入力するように構成したものである。
また本発明の軌道監視方法は、上記の装置を使用し、自動追尾式トータルステーションの一巡時間の間に各傾斜計の平均値と標準偏差値を算出し、こうして算出した平均値と標準偏差値を基に次回の管理値を設定し、この管理値と現時点の計測値を比較して枕木の変位を求める方法を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の軌道監視装置と方法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 多数の測点を対象としてTSでの視準が一巡する間に、もし一部の枕木に変位が生じたとしても、直ちにその変位を確認することができる。
<2> そのためにTSの一巡時間よりも短い間隔で列車が通過しても、TSが一巡する間に、間接的に枕木に設置した傾斜計の変化を観察する事で変位を把握できる。
<3> 機器の設定値が温度の影響で変化しても、前回測定した、各傾斜計の平均値・標準偏差を参考に個別の傾斜計毎に次回の管理基準を再計画するため、日変化の影響をキャンセルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の軌道監視方法の実施例の説明図。
【図2】軌道監視装置の設置例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>装置。
本発明の装置は、自動追尾式トータルステーション1と、複数の測点と、枕木に設置するための傾斜計と、それらの信号を処理するコンピュータとより構成する。
【0010】
<2>自動追尾式トータルステーション。
この自動追尾式トータルステーション(TS)1装置はすでに多数の製品が市販されているものであり、それらを使用することができる。
このTS1を、軌道に接近した不動点に設置する。
なお、座標修正処理を行うことができるTSもすでに市販されており、そのような装置を使用する場合には不動点に設置する必要はない。
【0011】
<3>測点。
測点2は、測量用のプリズムより構成した、監視ポイントを示す装置であり、前記のTS1とセットになって市販されているので、その機能はすでに公知である。
この測点2を、たとえば5mピッチで、各枕木4ごとに1基づつ設置する。
前記したように、通常はこの測点を間隔をおいて40〜50か所の枕木4に設置することになる。
この測点2をTS1で測定して各測点の「通り」や高低を求める。
【0012】
<4>傾斜計。
傾斜計3も公知の装置である。
傾斜計3は、センサに対し左右の傾斜だけを出力するもの、あるいは左右の傾斜だけではなく、前後のピッチ角も出力できるものが市販されている。
ここで前後とは列車の進行方向を、左右とは列車の進行方向を横断する方向を意味する。
この傾斜計3を、測点2を設置した枕木4に1台づつ取り付ける。
傾斜計3の信号はデータロガーという測定収集器に送り、コンピュータでデータ処理する。
【0013】
<5>視準作業。
不動点、あるいは修正機能を備えたものでは任意の点に設置したTS1は自動追尾機能を備えているので、複数個所の測点2群を順次視準して一巡する。
この一巡には、前記したように15分から20分を要するから、ひとつの測点2のおいては、前回の視準と、次回の視準との間に空白時間が生じ、その空白時間内に大きな変形が生じている可能性もある。
しかし各枕木4には傾斜計3が設置してあり、各枕木4の変位を常時計測しているから、この傾斜計3の信号によって、TS1の一巡する間の空白時間における枕木4の傾斜の発生を直ちに把握することができる。
傾斜計3は枕木4の傾斜を検知するだけであるから、もし枕木4がまったく傾斜せずに沈下したり上昇した場合には検知できないことになる。
しかし、実際には枕木4がまったく傾斜せずに平行移動することはないから、傾斜計3の信号によって異常の発生を検知できる。
【0014】
<6>傾斜のキャンセル。
枕木4は列車の通過ごとに振動を受けるから、その振動による傾斜と、地盤の傾斜とを区別する必要がある。
そのために、傾斜計の計測データを移動平均処理する事で一時的な振動などの影響を排除する。
すなわちTS1が一巡するサイクル内における、傾斜計3の平均値と、標準偏差とを設定しておく。
この偏差の内に収まる信号は、列車の通過によるものとし、警報などの発生には至らない。
この偏差の上限、下限を越える計測値が得られた場合は、地盤の沈下などが発生したものと推定する。
【0015】
<7>日変化のキャンセル。
レール5や枕木4は一日の内の夜昼による温度差、日射の影響または、年間の気候の変化等によって測定結果に異常な変化を生じる。
そこで平均値と標準偏差はTS1が一巡するごとに前回の値を基準として更新するように構成して、その影響をキャンセルすることができる。
すなわち毎回,基準管理値を再設定することで日変化の影響をキャンセルするものである。
【0016】
<8>傾斜計とTSとを併用する理由。
枕木4の傾斜の異常だけを監視するためであれば、傾斜計3のみの使用によっても可能である。
しかしそれでは枕木4が前後、左右方向へ傾斜したことは分かるが、その沈下量や水平方向への移動量の大小は分からない。
そこでそうした移動量はTS1によって検知する。
しかし繰り返すようにTS1の検知には空白時間がある。
その空白時間における異常の発生を、傾斜計3で検知することで補うのが本願発明である。
このように、TS1で観測することで変位の絶対量を把握できるが、傾斜計3等の機器では相対的な変化しか測定することが出来ない。
本発明の装置、方法ではこの2つを組み合わせることで相対的変化を絶対変化量として把握することができるものである。
【符号の説明】
【0017】
1:自動追尾式トータルステーション(TS)
2:測点
3:傾斜計
4:枕木
5:レール
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道監視装置と方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
列車が通過する軌道の近くで行う近接工事では、軌道への影響を抑えるために各種の工夫がなされている。
しかし自然条件によっては軌道の上下方向、水平方向、あるいは合成方向への変位が発生する場合も想定される。
そのために従来は、変状計測手段としては自動追尾式トータルステーション(以下「TS」)、またはワイヤー式、リンク式等で変状を計測している。
あるいは多数本の枕木に測点を設置し、TSで多数の測点を視準して枕木の変位、すなわち路床の変位を測定する方法もまた採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−255145号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の軌道監視装置や監視方法にあっては、次のような問題点が想定される。
<1> 一般の現場では測点の数が40〜50点設置してあるが、このような多数の測点をTSで視準して一巡するには10分から20分の時間を要する。
<2> その一巡する間に軌道等に変位が発生した場合、現状では状況を把握することが出来ない。
<3> 一方、山手線のように3分間隔で列車が通過すると、TSの視準が一巡する間に複数本の列車が通過することになるので、せっかくTSでの監視をしていながら、一巡する間隔では枕木の変位を知ることなく列車が変位した位置へ到達してしまう可能性も想定される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために本発明の軌道監視装置は、自動追尾式トータルステーションと、軌道や枕木に設置するための複数の測点と、枕木に設置するための傾斜計と、各信号を取り込むコンピュータとより構成し、自動追尾式トータルステーションでは複数個所の測点を一巡して視準し、傾斜計では、各枕木の傾斜を連続的に計測し、自動追尾式トータルステーションと傾斜計の信号をコンピュータに入力するように構成したものである。
また本発明の軌道監視方法は、上記の装置を使用し、自動追尾式トータルステーションの一巡時間の間に各傾斜計の平均値と標準偏差値を算出し、こうして算出した平均値と標準偏差値を基に次回の管理値を設定し、この管理値と現時点の計測値を比較して枕木の変位を求める方法を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の軌道監視装置と方法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 多数の測点を対象としてTSでの視準が一巡する間に、もし一部の枕木に変位が生じたとしても、直ちにその変位を確認することができる。
<2> そのためにTSの一巡時間よりも短い間隔で列車が通過しても、TSが一巡する間に、間接的に枕木に設置した傾斜計の変化を観察する事で変位を把握できる。
<3> 機器の設定値が温度の影響で変化しても、前回測定した、各傾斜計の平均値・標準偏差を参考に個別の傾斜計毎に次回の管理基準を再計画するため、日変化の影響をキャンセルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の軌道監視方法の実施例の説明図。
【図2】軌道監視装置の設置例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>装置。
本発明の装置は、自動追尾式トータルステーション1と、複数の測点と、枕木に設置するための傾斜計と、それらの信号を処理するコンピュータとより構成する。
【0010】
<2>自動追尾式トータルステーション。
この自動追尾式トータルステーション(TS)1装置はすでに多数の製品が市販されているものであり、それらを使用することができる。
このTS1を、軌道に接近した不動点に設置する。
なお、座標修正処理を行うことができるTSもすでに市販されており、そのような装置を使用する場合には不動点に設置する必要はない。
【0011】
<3>測点。
測点2は、測量用のプリズムより構成した、監視ポイントを示す装置であり、前記のTS1とセットになって市販されているので、その機能はすでに公知である。
この測点2を、たとえば5mピッチで、各枕木4ごとに1基づつ設置する。
前記したように、通常はこの測点を間隔をおいて40〜50か所の枕木4に設置することになる。
この測点2をTS1で測定して各測点の「通り」や高低を求める。
【0012】
<4>傾斜計。
傾斜計3も公知の装置である。
傾斜計3は、センサに対し左右の傾斜だけを出力するもの、あるいは左右の傾斜だけではなく、前後のピッチ角も出力できるものが市販されている。
ここで前後とは列車の進行方向を、左右とは列車の進行方向を横断する方向を意味する。
この傾斜計3を、測点2を設置した枕木4に1台づつ取り付ける。
傾斜計3の信号はデータロガーという測定収集器に送り、コンピュータでデータ処理する。
【0013】
<5>視準作業。
不動点、あるいは修正機能を備えたものでは任意の点に設置したTS1は自動追尾機能を備えているので、複数個所の測点2群を順次視準して一巡する。
この一巡には、前記したように15分から20分を要するから、ひとつの測点2のおいては、前回の視準と、次回の視準との間に空白時間が生じ、その空白時間内に大きな変形が生じている可能性もある。
しかし各枕木4には傾斜計3が設置してあり、各枕木4の変位を常時計測しているから、この傾斜計3の信号によって、TS1の一巡する間の空白時間における枕木4の傾斜の発生を直ちに把握することができる。
傾斜計3は枕木4の傾斜を検知するだけであるから、もし枕木4がまったく傾斜せずに沈下したり上昇した場合には検知できないことになる。
しかし、実際には枕木4がまったく傾斜せずに平行移動することはないから、傾斜計3の信号によって異常の発生を検知できる。
【0014】
<6>傾斜のキャンセル。
枕木4は列車の通過ごとに振動を受けるから、その振動による傾斜と、地盤の傾斜とを区別する必要がある。
そのために、傾斜計の計測データを移動平均処理する事で一時的な振動などの影響を排除する。
すなわちTS1が一巡するサイクル内における、傾斜計3の平均値と、標準偏差とを設定しておく。
この偏差の内に収まる信号は、列車の通過によるものとし、警報などの発生には至らない。
この偏差の上限、下限を越える計測値が得られた場合は、地盤の沈下などが発生したものと推定する。
【0015】
<7>日変化のキャンセル。
レール5や枕木4は一日の内の夜昼による温度差、日射の影響または、年間の気候の変化等によって測定結果に異常な変化を生じる。
そこで平均値と標準偏差はTS1が一巡するごとに前回の値を基準として更新するように構成して、その影響をキャンセルすることができる。
すなわち毎回,基準管理値を再設定することで日変化の影響をキャンセルするものである。
【0016】
<8>傾斜計とTSとを併用する理由。
枕木4の傾斜の異常だけを監視するためであれば、傾斜計3のみの使用によっても可能である。
しかしそれでは枕木4が前後、左右方向へ傾斜したことは分かるが、その沈下量や水平方向への移動量の大小は分からない。
そこでそうした移動量はTS1によって検知する。
しかし繰り返すようにTS1の検知には空白時間がある。
その空白時間における異常の発生を、傾斜計3で検知することで補うのが本願発明である。
このように、TS1で観測することで変位の絶対量を把握できるが、傾斜計3等の機器では相対的な変化しか測定することが出来ない。
本発明の装置、方法ではこの2つを組み合わせることで相対的変化を絶対変化量として把握することができるものである。
【符号の説明】
【0017】
1:自動追尾式トータルステーション(TS)
2:測点
3:傾斜計
4:枕木
5:レール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動追尾式トータルステーションと、
軌道や枕木に設置するための複数の測点と、
枕木に設置するための傾斜計と、
各信号を取り込むコンピュータとより構成し、
自動追尾式トータルステーションでは複数個所の測点群を一巡して視準し、
傾斜計では、各枕木の傾斜を計測し、
自動追尾式トータルステーションと傾斜計の信号をコンピュータに入力するように構成した軌道監視装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置を使用し、
自動追尾式トータルステーションの一巡時間の間に各傾斜計の平均値と標準偏差値を算出し、
こうして算出した平均値と標準偏差値を基に次回の管理値を設定し、
この管理値と現時点の計測値を比較して枕木の変位を求める、
軌道監視方法。
【請求項1】
自動追尾式トータルステーションと、
軌道や枕木に設置するための複数の測点と、
枕木に設置するための傾斜計と、
各信号を取り込むコンピュータとより構成し、
自動追尾式トータルステーションでは複数個所の測点群を一巡して視準し、
傾斜計では、各枕木の傾斜を計測し、
自動追尾式トータルステーションと傾斜計の信号をコンピュータに入力するように構成した軌道監視装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置を使用し、
自動追尾式トータルステーションの一巡時間の間に各傾斜計の平均値と標準偏差値を算出し、
こうして算出した平均値と標準偏差値を基に次回の管理値を設定し、
この管理値と現時点の計測値を比較して枕木の変位を求める、
軌道監視方法。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2012−7300(P2012−7300A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141748(P2010−141748)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
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