説明

軟体動物加工品の製造方法

【課題】柔軟且つ種々の調理を可能とする軟体動物加工品の製造方法を提供する。
【解決手段】生又は前処理した軟体動物を減圧下で水蒸気により加熱する減圧加熱工程と、減圧加熱工程後の軟体動物を加圧下で加熱する加圧加熱工程とを備える軟体動物加工品の製造方法を提供する。軟体動物を減圧下で水蒸気により加熱するため、身肉の収縮を抑制するとともに急激な水分蒸発を抑制して、身崩れしにくい状態で加熱する。次いで、加圧下で加熱することにより、弾力が小さくなるまで組織を破壊して加熱することができる。このとき、減圧加熱工程によって表面のタンパク質が硬化しているため、加圧加熱においても、身肉の収縮を良好に抑制できる。この製造方法では、調味料などの液体成分を必要としないため、所望の調味をして、あるいは、調味をせずに柔軟に加工することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タコ、イカ、貝などの軟体動物加工品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イカ、タコやサザエ、アワビ、アサリなどの貝類、いわゆる軟体動物は、生で、あるいは種々に加工されて提供されている。これらは、主として味や食感、すなわち弾力や硬さを味わうことが多いが、一方で、イイダコや小マイカなどの軟らか煮や含ませ煮など、容易に噛み切れる程度まで柔らかく調理したものもある。また、貝類においても、柔らかく、且つ着色および調味液の濁りを防いで味付け加工品を得る方法として、例えば、アワビを下味用調味液に浸して常圧で短時間煮込んだ後、減圧状態で煮込み、本味用調味液とともに耐圧容器に封入して1気圧100℃にて殺菌する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開昭60−58058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の軟体動物加工品は、いずれも柔らかい調理品とするために、濃厚な調味液に浸した状態で煮込まれている。このため、これらの軟体動物加工品は、味付けされており、他の料理に利用することが困難である。
そこで、本発明では、柔らかく且つ種々の調理を可能とする軟体動物加工品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための手段として、本発明の第1発明は、生又は前処理した軟体動物を減圧下で水蒸気により加熱する減圧加熱工程と、減圧加熱工程後の軟体動物を加圧下で加熱する加圧加熱工程とを備える軟体動物加工品の製造方法を提供する。
この製造方法によれば、軟体動物は減圧加熱工程において、減圧下で水蒸気により加熱するため、身肉の収縮を抑制するとともに急激な水分蒸発を抑制して、身崩れ、特に表皮が破れにくい状態で加熱する。減圧加熱工程では、少なくとも軟体動物の表面のタンパク質を硬化させることが好ましい。次いで、加圧加熱工程において加圧下で加熱することにより、弾力が小さくなるまで組織を破壊して加熱することができる。このとき、減圧加熱工程によって表面のタンパク質が硬化しているため、加圧加熱においても、旨みの溶出や身肉の収縮を良好に抑制できる。このように、本発明に係る軟体動物加工品の製造方法では、調味料などの液体成分を必要としないため、軟体動物をそのまま、あるいは所望の調味をして柔らかく加工することができる。
なお、本明細書および特許請求の範囲において「減圧」は大気圧未満の圧力を意味し、「加圧」は大気圧を超える圧力を意味する。
【0005】
また、本発明の第2発明は、第1発明において、減圧加熱工程では、50℃以上90℃以下の温度で12,000Pa以上71,000Pa以下の圧力で加熱する軟体動物加工品の製造方法である。
この製造方法によれば、減圧加熱工程における条件が緩やかで身肉が崩れにくく、且つ速やかに軟体動物の表面のタンパク質を硬化させることができ、風味や外観を良好に保持して軟体動物加工品を製造することができる。
【0006】
また、本発明の第3発明は、第1または第2発明において、加圧加熱工程では、105℃以上125℃以下の温度で、飽和蒸気圧より29,000Pa以上78,000Pa以下高い圧力で加熱する軟体動物加工品の製造方法である。
この製造方法では、加圧加熱工程における条件が、軟体動物において弾力を発揮するタンパク質繊維等を良好に分解等して、柔軟な軟体動物加工品を製造することができる。また、この加圧加熱工程の条件において、十分にタンパク質等の軟体動物構成成分を分解することにより、海産物特有の旨みを引き出すことも可能である。
【0007】
本発明の第4発明は、第1ないし第3発明において、加圧加熱工程より後に、軟体動物加工物を冷凍する冷凍工程を備える軟体動物加工品の製造方法である。
この製造方法によれば、軟体動物加工物を冷凍することにより、長期の保存が可能となり、輸送や、種々の調理への適用が容易な軟体動物加工品を得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、柔らかく且つ種々の調理を可能とする軟体動物加工品の製造方法を提供することにより、軟らかな軟体動物の種々の料理を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明に係る軟体動物加工品の製造方法は、生又は前処理した軟体動物の水蒸気による減圧加熱工程と、減圧加熱工程後の軟体動物の加圧加熱工程とを備える。
【0010】
本発明において用意される軟体動物は、食料品として利用されるイカ、タコなどの頭足類や貝類などである。例えば、イカとしては、コウイカ科、ヤリイカ科、スルメイカ科の各種食用とされるイカを使用することができ、例えば、マイカ、マツイカ、ローリゴ、スルメイカを挙げることができる。また、タコとしては、マダコ、イイダコ、水ダコ、など、各種食用とされるタコ科のタコを挙げることができる。イカ類、タコ類においては、丸ごとでも良いが、通常の方法により内臓、軟骨など食べない器官を除去したものが好ましく、適宜、部分ごとに切り分けたり、所定の大きさにカットしたものを使用することができる。
また、貝類としては、ホタテ、アサリ、ハマグリなどの二枚貝でもよいし、トコブシ、ロコ貝、サザエ、ツブ貝、トルコサザエなどの巻貝やアワビなどを挙げることができる。貝類は、殻付きでもよいし、むきみとされていても良い。また、むきみでは、内臓を除去したものや、外套膜(通称ひも)のみ、貝柱のみなど所定の部分のみとされていても良い。
【0011】
軟体動物は、表面を洗浄した後そのまま本製造方法に用いることができる。また、適宜、冷蔵、冷凍、パーシャルフリージングなどした軟体動物を用いることもできる。
また、本発明で用いる軟体動物は、前処理が施されたものであってもよい。前処理としては、油、エキス、スープ、塩、味噌、醤油等に漬ける含浸処理、発酵処理、塩、コショウ、小麦粉、片栗粉、米粉、ゴマ、けし、青海苔、他種々の食材よりなる粉、フレーク等の付着処理など、従来、軟体動物において用いられる各種調理あるいは加工方法及びその一部分を挙げることができる。また、これらの処理のうち2種類以上が組み合わされて前処理とされていてもよい。
【0012】
本発明の製造方法における減圧加熱工程では、生又は前処理した軟体動物を減圧下で水蒸気により加熱する。
減圧加熱工程における圧力は特に限定されないが、典型的には10,000Pa以上80,000Pa以下である。圧力が10,000Pa未満であると、身肉中の水分が沸騰しやすくなる。また、圧力が80,000Paを越えると、水分蒸発が緩慢になり、処理に要する時間が長くなり、身肉の風味が落ちやすくなる。好ましくは、12,000Pa(50℃における飽和水蒸気圧)以上71,000Pa(90℃における飽和水蒸気圧)以下の圧力とする。さらに好ましくは、16,000Pa(55℃における飽和水蒸気圧)以上48,000Pa(80℃における飽和水蒸気圧)以下の圧力とする。
【0013】
減圧加熱工程では、タンパク質が凝固する温度以上に加熱する。好ましくは、タンパク質の凝固温度以上であって凝固温度に近い温度に加熱されると、タンパク質の必要以上の凝固を避けて身肉の状態や風味の悪化を効果的に抑制して、効率よく水分を蒸発させるなどの処理ができる。具体的には、加熱温度は、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがさらに好ましく、より好ましくは60℃以上である。一方、水の沸騰や軟体動物の身肉の状態や風味の変化等を起こし難くするためには温度は低い方が良く、加熱温度は、90℃以下であることが好ましく、80℃以下であるとより好ましい。このため、好ましい範囲としては、55℃以上80℃以下であり、さらに好ましくは、60℃以上80℃以下である。
【0014】
減圧加熱工程における減圧方法は、特に限定されないが、典型的には、処理する軟体動物を所定の密閉可能な処理容器に封入し、その処理容器の内部を真空吸引する。また、減圧加熱工程では、水蒸気により加熱するため、典型的には、真空吸引しつつ処理容器内に水蒸気を導入する。ここで、水蒸気は、温度に対して異なる飽和水蒸気圧力を示すため、処理容器内の気体のほとんどを水蒸気とする場合、加熱温度に対して圧力の上限が決定される。すなわち、処理容器内を水蒸気で満たして減圧加熱工程をする場合、圧力または加熱温度を決定することにより、これに対応して最低加熱温度または最高圧力が決まる。
【0015】
したがって、加熱の効率および水分の緩やかな蒸発のため、処理容器内の圧力を水蒸気によって形成する場合、50℃では飽和水蒸気圧力が12,000Paとなり、90℃では70,000Paとなる。また、飽和水蒸気温度が約55℃となる、16,000Pa以上とし、同温度が約80℃となる、48,000Pa以下とすることが好ましい。より好ましくは、飽和水蒸気温度が約60℃以上80℃以下となる、19,000Pa以上に48,000Pa以下とする。
なお、軟体動物中の水分を除去しながら加熱したい場合は、処理空間内の圧力を所定の制御温度から3℃以上10℃以下高い温度に対応する飽和蒸気圧力に制御することが好ましい。この制御により、減圧下における軟体動物内の水分の急激な蒸発を効果的に抑止して、効率よく水分を除去することができる。
【0016】
減圧加熱工程は、少なくとも身肉の表面のタンパク質が凝固するまで行う。したがって、身肉の内部のタンパク質は、凝固していてもよいし、未凝固であってもよい。なお、タコ類やイカ類では、その表皮の剥がれを抑制するため、表皮と表皮に接触する内部組織とが凝固するまで行うことが好ましい。減圧加熱工程では、軟体動物の身肉を、減圧によって膨張させた状態で水分を蒸発させながらゆっくり凝固させるため、身肉の縮みを抑制して調理できる。また、水蒸気による加熱により、軟体動物に加熱のために調味液に浸すなどの処理を必要としないため、軟体動物から旨み成分が水溶液に溶出することを抑制して、より濃厚な味、風味を備える身肉を有する軟体動物に調理することができる。
【0017】
本発明にかかる製造方法では、減圧加熱工程後の軟体動物を、加圧下で加熱して加圧加熱工程を行う。加圧加熱工程では、軟体動物の身肉を弾力が小さくなる又は容易に噛み切れる程度まで柔らかくする。なお、減圧加熱工程を経た軟体動物を、そのまま連続して加圧加熱工程で処理することが好ましいが、減圧加熱工程後に、冷却処理、冷凍処理などして保存した後、加圧加熱工程で処理してもよい。
【0018】
加圧加熱工程は、従来公知の方法によって行うことができ、加熱方法は減圧加熱工程と同様、特に限定されず、また、加熱媒体として食用油などを用いることもできる。加熱媒体が水蒸気であると、身肉の乾燥による収縮を抑制しながら軟体動物の内部まで加熱することができる。また、減圧加熱工程が水蒸気を加熱媒体とするため、本工程も水蒸気を加熱媒体とすると、同一処理容器内で2つの工程を連続して行うことができ、好ましい。
【0019】
加圧加熱工程では、減圧加熱工程より高温で軟体動物を加熱する。軟体動物の種類や大きさ等によって変化するが、加熱温度は110℃以上であり、120℃以上であることが好ましい。また、身肉の食感や味、風味の保持の点で125℃以下であることが好ましい。
加圧量は、大気圧より大きい圧力であり、特に限定されないが、軟体動物の弾力を構成する組織が破壊され、且つその外見が破損しない範囲とされる。
【0020】
水蒸気を加熱媒体として用い、処理容器内のほとんどの気体を水蒸気で構成する場合には、減圧加熱工程と同様、加圧状態と加熱温度とはほぼ対応される。特に、水蒸気を加熱媒体として用いる場合、少なくとも加熱温度(水蒸気温度)が約110℃となる、145,000Pa以上とし、好ましくは、加熱温度が約120℃となる202,000Pa以上、あるいは加熱温度が約125℃となる、232,000Pa以上に維持する。
加圧加熱工程では、処理容器内の圧力を加熱温度に対応する飽和水蒸気圧力よりも29,000Pa〜78,000Pa高くすることが好ましい。この圧力では、加圧下における軟体動物からの水分の急激な蒸発を効果的に抑制しながら効率よく加圧加熱により軟体動物を軟化することができる。
加圧加熱工程における加熱時間は、特に限定されないが、軟体動物の身肉が十分軟化するまで行う。特に、弾力を低減したい場合は、所望の弾力に落ちるまで加圧加熱工程を続ける。また、特に海産物特有の旨みを引き出したい場合も、加圧加熱工程をより長くし、例えば、弾力がある程度以上落ちるまで加圧加熱を続けることが好ましい。このため、軟体動物の大きさ、種類や所望される軟らかさによって変化するが、例えば、加圧加熱工程に要する時間は5〜40分であり、好ましくは20〜40分である。
【0021】
加圧加熱後は、そのまま放置しあるいは積極的に冷却し、また、圧力を下げることにより、常圧に戻すことにより、軟体動物加工品を得ることができる。さらに、加圧加熱後の軟体動物加工物において水分を凝固させて冷凍する冷凍工程を施すことができる。冷凍工程は、例えば、軟体動物の表面および殻と身肉との間、また身肉内の水分をある程度除去した上で、温度を下げることによって行うことができる。なお、水分の除去は、減圧乾燥など、公知の方法を用いて行うことができる。冷凍工程によって冷凍させた軟体動物加工品は、保存性が良好である。
【0022】
以下に、加圧加熱工程後の冷却方法として好ましい形態の一つである減圧乾燥工程について説明する。
減圧乾燥工程では、加圧加熱工程後の加圧状態から減圧状態まで圧力を下げて軟体動物の内部及び表面の水分を蒸発させる。水分の蒸発により、軟体動物加工物を内部及び表面の全体について効率よく冷却することができ、軟体動物加工物に旨みや風味などを良好に保持させることができる。また、特にタコ類、イカ類など表皮を有する軟体動物においては、表皮と身肉の両方を連続的に冷却させることができる。このため、冷却に伴う収縮が表皮と身肉とで同時期に起こるため、表皮の剥がれを抑制して冷却することができる。
【0023】
減圧乾燥工程は、水分の急激な蒸発や、表皮と身肉との収縮の差異が大きくなることを防ぐため、徐々に減圧することが好ましい。なお、減圧乾燥工程における温度は特に限定されないが、典型的には、気体の膨張に伴って自然と温度を下げることができる。具体的には、減圧乾燥工程では、2000Pa以上32,000Pa以下まで、10分以上30分以下の時間をかけて減圧することが好ましい。より好ましくは、2300Pa以上31,000Pa以下まで減圧する。目標とされる圧力まで減圧した後、この減圧状態を1分以上10分以下の時間保持することが好ましい。
【0024】
減圧乾燥工程後は、徐々に空気等を導入して処理空間内を常圧に戻し、軟体動物加工品を取り出すことができる。あるいは、減圧状態を維持して処理空間内を冷却して、そのまま、冷蔵工程あるいは冷凍工程等の冷却保存工程を実施することもできる。減圧に引き続き冷却(凍結)も行うことにより、水分状態が良好で、タコ類、イカ類では身肉に表皮が良好に一体化した冷蔵あるいは冷凍等の冷却加工品が得られる。また、冷却、冷凍工程までを1つの処理容器機による一連の工程とすることにより容易に衛生的に良好な軟体動物加工品を得ることができる。
【0025】
この製造方法により得られる軟体動物加工品は、身肉が軟化されているとともに、肉厚を保持し、軟体動物に由来する味、風味を備えている。このため、そのままで、軟らかな軟体動物料理として食することができる。また、特に加圧加熱工程によって弾力を構成するタンパク質がある程度分解されることにより、海産物特有の旨みや風味がより濃厚に付与されており、美味である。また、前処理で着色などしない場合は、軟体動物本来の色(加熱による赤色化後の赤色等も含む)を保持し、また軟体動物本来の形状を保持しているため、外観がよい。
【0026】
また、本製造方法そのものは、特に調味する工程を必要としないため、本製造方法の前処理において、あるいは、本製造方法によって得られる軟体動物加工物について、所望の調理をして種々の柔らかい軟体動物料理を提供することができる。例えば、従来の軟らか煮や含ませ煮などと同様の調味液を用いて煮るなどの料理をすることにより、軟体動物自体に本来の味が付いた料理とすることも可能である。また、従来軟らか煮や含ませ煮では、重炭酸ソーダ等を含むアルカリ性調味液を使用することによって表皮の剥がれが著しくなる、という問題点があったが、本製造方法による軟体動物加工品を用いることにより、表皮が身肉に良好に一体化されて外見が良く、且つ従前と同様の味付けを有する料理を得ることも可能である。
【0027】
また、弾力が小さくなるまで加工した軟体動物加工品は、子供や老人などの咀嚼力が小さい人においても美味しく食べることができ、軟体動物が豊富に含むアミノ酸やミネラルを容易に摂取することができる。特に、本来、タコ類、イカ類では、人体による栄養吸収率が高いことがわかっており、有力な栄養補給源とすることが可能である。さらに、より長く加熱加圧工程を施した軟体動物では、海産物特有の旨み、風味が増しているため、新しい料理や調理素材としての利用も期待できる。例えば、これらの軟体動物加工品は、弾力が少なく柔らかいため、一般的な咀嚼力の人はもちろん咀嚼力が低下した人でも気軽に楽しめる酒の肴などとすることも考えられる。
【実施例1】
【0028】
原料規格においてT−4(1.5〜2kg)の冷凍されたタコを自然解凍後、タコ重量に対して1%の塩を加え、タコが完全に水没するまで水を加えて10回転/分で20分間撹拌洗浄した。その後、タコ重量に対して5%の塩とタコが完全に水没する量の水を加えて、30回転/分の速度で撹拌して40分間塩揉みし、次いで、タコを取り出してタコ重量に対して0.2%のミョウバンとタコが完全に水没する量の水を加えて15回転/分で撹拌しながら40分間ミョウバン揉みをした。その後、タコに対して水を注入しながら10回転/分の速度で10〜20分間撹拌洗浄した。その後、タコをトレイに並べ、エアー・スチーム式高温高圧調理殺菌装置(STERI−ACE、(株)ニッセン製)に投入して、温度70℃、圧力39,000Paで10分間、水蒸気により減圧加熱処理した。次いで、同装置において温度を105℃、110℃、120℃の3条件において、圧力をそれぞれ149,000Pa、225,400Pa、及び245,000Paにして、それぞれ30分、水蒸気により加圧加熱処理した。その後、加圧状態の装置内を9,800Paまで減圧してから10分間放置して減圧乾燥し、さらに−35℃の凍結庫内で凍結した。得られたタコ加工品を、加圧加熱処理の温度が低い方から試料1,2,3とした。また、減圧加熱処理しないで温度120℃、圧力245,000Paで30分間、水蒸気により加圧加熱処理および減圧乾燥処理し、同様に冷凍したものを試料4とした。
試料1〜4について、自然解凍した後、表皮の状態および食感について調べた。結果を表1に示す。なお、食感において比較対照とした煮ダコとは、試料1〜3と同様に前処理してから95〜98℃の熱湯で7〜8分ボイルし、水冷により冷却した後、同様に凍結させ、自然解凍したものである。
【0029】
【表1】



【0030】
タコでは、減圧加熱処理をしない試料4では表皮の破れが見られたのに対し、減圧加熱処理をした試料1〜3ではいずれも表皮の破れが無いことから、減圧加熱処理により、表皮が身肉に安定化することが明らかとなった。また、減圧加熱処理に加えてさらに120℃の温度での加圧加熱処理をした試料3では、身肉が非常に柔らかくなっており、咀嚼力の弱い人でも難なく食べられる程度に柔らかくできることが明らかとなった。一方、105℃、110℃での加圧加熱処理をした試料1,2においても、減圧加熱処理をしないで加圧加熱処理をした試料4より身肉が柔らかくなった。このことから、減圧加熱処理がタコの身肉をより柔らかくすることに寄与することが明らかとなった。この理由については確認できていないが、減圧加熱処理により、身肉の収縮を抑制すること、また、減圧加熱においてもタンパク質を加熱すること等によると推測される。
【0031】
なお、大きさの異なるタコ、原料規格においてT−2(3〜4kg)、T−7(0.5〜0.9kg)のタコについて、試料3における処理条件によって処理したところ、試料3と同様、いずれも表皮の破れが無かった。また、比較対照として、T−2ではボイル時間を9〜10分に、T−7ではボイル時間を5〜6分に変えて上述と同様に作成した煮ダコを作成し、食感を比較すると、いずれも本方法による処理をしたタコがより柔らかく良好な食感を有していた。また、原料規格においてT−1(4kg超)のタコについては、加圧加熱時間を40分とする他は同様の処理によって、原料規格においてT−8(0.3〜0.5kg)のタコでは、加圧加熱時間を20分とする他は同様の処理によって、表皮の破れが無く、また、煮ダコより柔らかく良好な食感を有する加工品が得られた。なお、煮ダコは、T−1ではボイル時間を10〜15分、T8ではボイル時間を4〜5分として、上述の方法により調理したものである。このことから、タコにおいては、大きさに関係なく、上記減圧加熱工程によって、表皮と身肉とを良好に一体化して身肉の収縮を抑制でき、加圧加熱によって表皮の破れを防げることがわかった。また、タコが大きいほど加圧加熱時間を長くし、タコが短いほど加圧加熱時間を短くすることで、身肉全体を十分に加熱して弾力が少なく良好な食感を有するように加工できることが明らかとなった。なお、前処理の塩揉みおよびミョウバン揉みについては、通常と同様の考え方により、それぞれT−1,T−2については50分、T−7については25分、T−8については20分と大きいものほど長く、小さいものほど短い時間に変えて処理した。
【実施例2】
【0032】
実施例1と同じ原料規格T−4のタコについて、実施例1と同様に洗浄、塩揉み、ミョウバン揉み、及び洗浄後、トレイに載せて実施例1と同じエアー・スチーム式高温高圧調理殺菌装置において、温度70℃、圧力39,000Paで10分間、水蒸気により減圧加熱処理し、次いで、温度120℃、圧力245,000Paの条件で、20分、30分、40分と時間を変えて、水蒸気により加圧加熱処理した。その後、実施例1と同様に減圧乾燥処理し、冷凍処理(凍結)した。得られたタコ加工品を、加圧加熱処理の時間が短い方から試料5,6,7とした。
得られた試料5〜7を自然解凍後、表皮の状態および食感について調べた。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】



【0034】
この結果から、タコにおいては、加圧加熱処理の時間に関係なく、70℃、39,000Pa、10分の水蒸気による減圧加熱処理によって、表皮が良好に身肉に一体化し、破れが無い状態にできることが明らかとなった。一方、加圧加熱処理の時間が20分と短い試料5では、試料6よりも軟らかさが少なく、加圧加熱時間が、適度の弾力を備えるようにするためには有用であることが明らかとなった。一方、加圧加熱処理の時間が40分と長い試料7では、身肉が十分柔らかく、むしろ柔らか過ぎるという違和感があった。このことから、加圧加熱時間が長すぎると、弾力を付与するタンパク質繊維が分解されすぎて、柔らかくなり過ぎ、喫食する人によっては心地よい触感とならないおそれがあることが明らかとなった。
【実施例3】
【0035】
重量300〜350gのマツイカの冷凍品を3%の塩水に浸漬し、バブリングして3時間放置して完全に解凍した。その後、内臓とカラスとを除去し、3%食塩水で洗浄後、3%食塩水にマツイカを完全に浸漬させ、25回転/分で5分間撹拌洗浄して塩揉みした。その後、水道水で洗浄後、マツイカをトレイに並べ、エアー・スチーム式高温高圧調理殺菌装置(STERI−ACE、(株)ニッセン製)に投入して、温度70℃、圧力39,000Paで10分間、水蒸気により減圧加熱処理した。次いで、同装置において温度120℃、圧力を245,000Paにして、20分または30分、水蒸気により加圧加熱処理した。その後、加圧状態の装置内を9,800Paまで減圧してから10分間放置して減圧乾燥し、さらに−35℃の凍結庫内に投入して凍結した。得られたマツイカ加工品を、加圧加熱処理の時間が短い方から試料8,9とした。
また、上記方法で解凍後のマツイカを開いて平らにしたいわゆる開きについても、加圧加熱処理における時間を20分として同様に処理し、マツイカ開き加工品を得た。得られた加工品を試料10とした。
さらに、重量300〜350gのスルメイカについても、加圧加熱処理の時間を30分として同様に処理し、スルメイカ加工品を得た。この加工品を試料11とした。
さらに、重量100〜150gのローリゴについても、加圧加熱処理の時間を20分として同様に処理し、ローリゴ加工品を得た。この加工品を試料12とした。
得られた試料8〜12について、自然解凍した後、表皮の状態及び食感について調べた。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】



試料8〜12のいずれにおいても、表皮の破れが無く、また身肉は柔らかく良好であった。試料8,9のいずれにおいてもほぼ同じ状態のマツイカ加工品が得られ、この試験の範囲において、マツイカを良好に調理できることがわかった。
【実施例4】
【0037】
剥き身の状態で重量150〜180gの生のアワビを3%の食塩水で洗浄して足身の汚れ及びぬめりを除去した後、足身面を斜め上に向けてトレイに載せ、エアー・スチーム式高温高圧調理殺菌装置(STERI−ACE、(株)ニッセン製)に投入して、温度70℃、圧力39,000Paで10分間、水蒸気により減圧加熱処理した。次いで、同装置において温度120℃、圧力を245,000Paにして、20分または30分、水蒸気により加圧加熱処理した。その後、加圧状態の装置内を9,800Paまで減圧してから10分間放置して減圧乾燥し、さらに−35℃の凍結庫内で凍結した。得られたアワビ加工品を、加圧加熱処理の時間が短い方から試料13,14とした。
また、剥き身の状態で重量180〜210gの生のアワビを、加圧加熱時間を30分として同様に処理してアワビ加工品を得た。この加工品を試料15とした。
また、殻付きの状態で重量300〜360gの生のアワビを3%の食塩水で洗浄して足身の汚れ及びぬめり、および殻の汚れを除去した後、加圧加熱時間を30分として同様に処理してアワビ加工品を得た。この加工品を試料16とした。
得られた試料13〜16について自然解凍した後、食感について調べた。結果を表4に示す。なお、食感において比較対照とした煮アワビとは、実施例と同じ前処理をした後、95〜98℃の熱湯で10分間ボイルし、水冷によって冷却したものを同様に凍結させてから自然解凍したものである。試料3〜16およびこの煮アワビを同じ厚みにスライスして試食した。
【0038】
【表4】



試料13〜16のいずれも身肉が柔らかく、咀嚼力の小さい人でも美味しく食べられる軟らかさだった。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
生又は前処理した軟体動物を減圧下で水蒸気により加熱する減圧加熱工程と、
減圧加熱工程後の軟体動物を加圧下で加熱する加圧加熱工程と
を備える軟体動物加工品の製造方法。
【請求項2】
減圧加熱工程では、50℃以上90℃以下の温度で12,000Pa以上71,000Pa以下の圧力で加熱する、請求項1に記載の軟体動物加工品の製造方法。
【請求項3】
加圧加熱工程では、105℃以上125℃以下の温度で、飽和蒸気圧より29,000Pa以上78,000Pa以下高い圧力で加熱する、請求項2又は3に記載の軟体動物加工品の製造方法。
【請求項4】
加圧加熱工程より後に、軟体動物加工物を冷凍する冷凍工程を備える、請求項1から3のいずれかに記載の軟体動物加工品の製造方法。