説明

軟磁性成形体の製造方法

【課題】直流重畳特性の改善されたフェライト被覆軟磁性粒子の圧粉成形体を提供する。
【解決手段】軟磁性粒子の表面にフェライトめっきを施したフェライト被覆軟磁性粒子を用いた軟磁性成形体の製造方法において、フェライトめっき軟磁性粒子を酸素含有雰囲気中で熱処理した後、圧粉成形及び成形後の熱処理を行うことを特徴とする軟磁性成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性成形体の製造方法に関し、より詳しくは、フェライト被覆軟磁性粒子を圧粉成形した軟磁性成形体の製造方法に関する。本発明の製造方法により製造された軟磁性成形体は、スイッチング電源などに搭載されるトランスやリアクトルなどの磁気部品に適している。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器は小型・軽量化されてきており、なおかつ、低消費電力化が求められている。これに伴い、電子機器に搭載される電源として高効率かつ小型のスイッチング電源に対する要求が高まっている。特にノート型パソコンや携帯電話等の小型情報機器、薄型CRT、フラットパネルディスプレイ等に用いられるスイッチング電源では、小型・薄型化が強く求められている。
【0003】
しかし、スイッチング電源では、その主要な構成部品であるトランスやリアクトルなどの磁気部品が大きな体積を占めており、スイッチング電源を小型・薄型化するためには、これら磁気部品の体積を縮小することが必要不可欠となっていた。
【0004】
従来、このような磁気部品には、センダストやパーマロイ等の金属磁性材料や、フェライト等の酸化物磁性材料が使用されていた。
【0005】
金属磁性材料は、一般に高い飽和磁束密度と透磁率を有するが、電気抵抗率が低いため、特に高周波数領域では渦電流損失が大きくなってしまう。スイッチング電源では、高効率化および小型化のため回路を高周波駆動することが行われているが、上記の渦電流損失の影響から高周波駆動できないため金属磁性材料をスイッチング電源用の磁気部品に使用することは困難である。
【0006】
一方、フェライトに代表される酸化物磁性材料は、金属磁性材料に比べ電気抵抗率が高いため、高周波数領域でも発生する渦電流損失が小さい。しかしながら、トランスやリアクトルを小型化した場合、コイルに流す電流は同じでも磁心にかかる磁場は強くなってしまう。一般に、フェライトの飽和磁束密度は金属磁性材料に比べて小さく、スイッチング電源の磁気部品として使用した場合、上記の理由によりその小型化には限界がある。
【0007】
つまり、いずれの材料を用いても、スイッチング電源の磁気部品に対して要求される、高周波駆動と小型化の双方を満足させることは困難となっていた。
【0008】
最近、金属磁性材料および酸化物磁性材料の両者の長所を有する磁性材料として、1〜10μmの粒子からなる金属磁性材の表面をM-FexO4(但しM=Ni、Mn、Zn、x≦2)で表されるスピネル組成の金属酸化物磁性材で被覆してなる高密度焼結磁性体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、湿式フェライト製造法によりフェライトで金属磁性材の表面を被覆した後、水素または水素+窒素の還元性雰囲気中で熱処理してフェライトの完全な被覆を形成している。
【0009】
さらに、表面に超音波励起フェライトめっきによって形成されたフェライト層の被覆を有する金属または金属間化合物の強磁性体微粒子粉末が圧縮成形され、前記フェライト層を介して前記強磁性体粒子間に磁路を形成するものであることを特徴とする複合磁性材料の提案もある(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
【特許文献1】特開昭56−38402号公報
【特許文献2】国際公開第03/015109号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
フェライト被覆軟磁性粉末の圧粉成形体を用いると、成形体の透磁率は増大する。しかし、直流重畳特性が低いという問題がある。直流重畳特性とは、成形体に直流磁場を印加して成形体内部に磁場を形成すると成形体の透磁率が低下する特性を言う。磁気部品用磁性材料としては、直流磁場が印加されても成形磁性体透磁率が低下しないあるいは低下量が少ないことが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような状況に鑑み、本発明者らは鋭意検討の結果、フェライトめっき軟磁性粒子を粒子の状態で熱処理した後、圧粉成形および圧粉成形後の熱処理を行うと、直流磁場が印加されても成形磁性体透磁率の低下量が少ないことを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明の軟磁性成形体の製造方法は、軟磁性粒子の表面にフェライトめっきを施したフェライト被覆軟磁性粒子を用いた軟磁性成形体の製造方法において、フェライトめっき軟磁性粒子を酸素含有雰囲気中で熱処理した後、圧粉成形および圧粉成形後の熱処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、直流重畳特性の改善されたフェライト被覆軟磁性粒子の圧粉成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において、軟磁性粒子としては、例えば純鉄、鉄系合金、鉄−ケイ素合金、パーマロイをはじめとした鉄−ニッケル合金、センダスト合金、コバルトおよびコバルト系合金、ニッケルおよびニッケル合金、各種アモルファス合金などの各種の軟磁性材料からなる粒子を挙げることができる。軟磁性粒子は、これらの材料を、ガス還元法、固体還元法、熱分解法、電解法、機械的粉砕法、噴霧法(アトマイズ法)などの各種製法によって粒子状とすることにより得られる。軟磁性粒子の形状は、球状、粒状、楕円体状、円板状、フレーク状、針状、鋭角状、樹枝状、繊維状、板状、立方体状その他各種形状が可能であり、これらを単独または複数種組み合わせて用いることができる。圧縮成形によって形状の変形を生じてもよい。軟磁性粒子の粒子サイズは、粒子内部での渦電流の発生が少なく、加圧成形時にフェライトめっき層の損傷が少なく、かつ高い電気抵抗率を保った成形体が容易に得られるような範囲とする。粒子内部での渦電流の発生が少なく、加圧成形時のフェライトめっき層の損傷を低減し、かつ高い電気抵抗率の成形体を得るには、平均粒子径が小さい方が有利である一方で、平均粒子径があまり小さくなると、磁気特性の確保および必要な比透磁率の獲得が困難になる。したがって、軟磁性粒子の粒子サイズは、100nm〜300μmが好ましく、1μm〜30μmの範囲がさらに好ましい。
【0016】
フェライトとしては、NiZnフェライト、MnZnフェライトなどがあるが、いずれの組成のフェライトも用いることができる。
フェライトめっきとしては公知のフェライトめっき方法を採用でき、超音波励起を用いる場合も用いない場合も適用可能である。フェライトめっき膜の膜厚は通常、20〜200nm程度であるが、膜厚によらず適用可能である。
【0017】
本発明においては、フェライト被覆軟磁性粒子を酸素含有雰囲気中、粒子の状態で熱処理する。この酸素含有雰囲気は大気であることが好ましく、熱処理雰囲気の酸素分圧を調整するために大気に窒素、あるいは不活性ガスを混合してもよい。また、大気の代わりに酸素を用いて、酸素と窒素あるいは不活性ガスの混合ガス中で熱処理を行ってもよい。
酸素含有雰囲気中の酸素含有率は、0.1〜20at%であることが好ましい。不活性ガス中や酸素含有率0.1at%未満の雰囲気では熱処理の効果が不十分で直流重畳特性が低くなり、20at%を超えると比透磁率の低い酸化物が形成されるためと推測されるが、成形体の比透磁率が大きくならないので好ましくない。
【0018】
熱処理は、500〜600℃で10〜30分、昇温速度100℃/分未満の緩速加熱熱処理を行うか、急速加熱熱処理を行うことが好ましい。緩速加熱熱処理において、熱処理温度が500℃未満あるいは熱処理時間が10分未満の場合はフェライトの熱処理が完了せず、直流重畳特性の向上が不充分となる。熱処理温度が600℃を超えるあるいは熱処理時間が30分を超える場合は軟磁性金属まで酸化されてしまい、成形体の透磁率が低下する。
【0019】
急速加熱熱処理とは、最高到達温度を700℃以上、好ましくは700〜1200℃とし、少なくとも500℃以上における昇温速度及び降温速度を100℃以上、好ましくは200〜1000℃/minの速度で行い、最高到達温度での保持時間を30秒以下、好ましくは1〜10秒とする熱処理である。
【0020】
急速加熱熱処理において、最高到達温度が1200℃を超えるあるいは最高到達温度での保持時間が10秒を超えるか、500℃以上における昇温速度、降温速度が100℃/分未満であると軟磁性金属まで酸化されてしまい、成形体の透磁率が低下する。最高到達温度700℃未満であるとフェライトの熱処理が完了せず、直流重畳特性の向上が不充分となる。
【0021】
フェライトは、軟磁性粒子表面にめっきした状態では、Feなどの金属原子と酸素原子との組成比が最適な値からずれており、めっき後、フェライトめっき軟磁性粒子を熱処理することにより金属原子と酸素原子との最適組成が実現される。最適組成が実現されることにより、フェライト透磁率が向上し、直流重畳特性が向上する。
【0022】
フェライト被覆軟磁性粒子の熱処理は粒子の状態で熱処理する必要があり、圧粉成形後の熱処理では成形体表面のみフェライト透磁率が向上するだけで、成形体としては、直流重畳特性の向上が不充分となる。
【0023】
圧粉成形方法としては、金型を用いて、例えば上下方向から加圧圧縮する単軸圧縮成形、圧縮圧延成形、フェライトめっき軟磁性粒子をゴム型などにつめて全方向から加圧圧縮する静圧圧縮成形、これらを温間で行う温間単軸圧縮成形、温間静圧圧縮成形(WIP)、熱間で行う熱間単軸圧縮成形および熱間静圧圧縮成形(HIP)などを用いることができる。これらの圧粉成形は、1回または複数回行ってもよく、その際異なる圧縮成形方法を用いてもよい。圧縮温度は、成形性が向上する温度であって、フェライトめっき層が保たれる温度であれば特に制限させるものではない。成形が容易であり、かつフェライトめっき層が保たれる温度は、室温以上500℃未満である。加熱手段としては、抵抗加熱、輻射加熱、熱媒による伝導加熱、誘導加熱、高周波誘導加熱、放電プラズマ加熱などの当該技術において知られている任意の加熱手段を用いることができる。圧縮圧力は、良好な成形体が得られ、フェライトめっき層が保たれる圧力であれば特に制限されない。例えば200〜2000MPa、好ましくは400〜1000MPaである。
【0024】
成形の際には、ステアリン酸塩、ワックスなどの潤滑剤、および成形のために、ポリビニルアルコール、セルロースなどの補助剤を用いることができる。しかし、これらは、加温時に成形体から揮発するなどして成形体に残留しないものであることが望ましい。
【0025】
本発明においては、得られた圧粉成形体を熱処理することが好ましい。圧粉成形体の熱処理は、急速加熱(昇温速度100〜600℃/分、好ましくは200〜400℃/分で600〜800℃まで加熱し、1〜10秒保持後、同様の冷却速度で冷却する)とすることが好ましい。この熱処理は酸素含有雰囲気で行ってもよく、窒素ガス、不活性ガスあるいは窒素と不活性ガスの混合ガス中で行ってもよい。
この熱処理により、圧粉成形品の透磁率を増大させることができる。
【0026】
上記熱処理の処理温度が上記範囲より高すぎたり、処理時間が上記範囲より長すぎたりすると、フェライトと金属磁性粒子間で原子の相互拡散が発生することとなる。また、比透磁率の虚数部のピークとなる周波数が変化して高周波で使えなくなったりする。すなわち、過度の高温、長時間の加熱は周波数特性の悪化をもたらすので好ましくない。また、上記範囲より熱処理温度が低すぎたり、処理時間が短すぎたりすると、熱処理により達成しようとする効果が不十分となるので好ましくない。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を用いて、本発明をさらに説明する。
【0028】
[実施例1]
軟磁性粒子として水アトマイズ法により作製した平均粒子径8μmのNi78Mo5Feパーマロイ(Niが78重量%、Moが5重量%、残りがFeからなるパーマロイ)粒子粉末を用い、超音波励起フェライトめっき法によりフェライトめっき軟磁性粒子を作製した。
【0029】
めっき反応液としてはFeCl+NiCl+ZnClの水溶液、酸化液としてはNaNO+NHOHを用いて超音波励起フェライトめっきを行い、フェライト組成(Ni0.5Zn0.5)Fe、めっき膜厚50nmのフェライトめっき軟磁性粒子を得た。
【0030】
このフェライトめっき軟磁性粒子を大気中で処理温度550℃、保持時間15分、昇温・降温速度30℃/分で熱処理を行った。
【0031】
超鋼製の金型中に、熱処理したフェライトめっき軟磁性粒子を投入し、全体をよくならした後、上パンチをはめ込み、プレスにより8ton/cm(784MPa)で圧縮成形して、内径3mm、外径8mm、厚さ0.3mmのトロイダル状の成形体を得た。
【0032】
この成形体を大気中で昇温速度300℃/分で700℃まで加熱し、1秒保持後、冷却速度300℃/分で冷却した。得られた成形体の比透磁率と透磁率の低下率(直流磁場0A/mのときの透磁率に対する100A/mの直流磁場印加時の透磁率の割合)を表1に示す。
【0033】
[比較例1]
軟磁性粒子として実施例1で用いたと同様のパーマロイ粒子を用い、めっき後のフェライトめっき軟磁性粒子の熱処理を行わず、そのまま圧縮成形した以外は実施例1と同様にした。得られた成形体の比透磁率と透磁率の低下率を実施例1の結果とともに表1に示す。
【0034】
[実施例2]
軟磁性粒子として実施例1で用いたと同様のパーマロイ粒子を用い、実施例1と同様にしてフェライトめっき軟磁性粒子を得た。このフェライトめっき軟磁性粒子を酸素濃度20at%の酸素/Ar混合ガス中、処理温度550℃、保持時間15分、100℃以上における昇温・降温速度30℃/分で熱処理を行った。この熱処理フェライトめっき軟磁性粒子を用い、実施例1と同様にして内径3mm、外径8mm、厚さ0.3mmのトロイダル状の成形体を得、実施例1と同様の条件で熱処理した。得られた成形体の比透磁率と透磁率の低下率を実施例1の結果とともに表1に示す。
【0035】
[実施例3]
フェライトめっき後の軟磁性粒子の熱処理を、大気中、最高到達温度を700℃、最高到達温度での保持時間1秒、400℃以上における昇温、降温速度を300℃/分の急速熱処理とした以外は実施例1と同様にした。得られた成形体の比透磁率と透磁率の低下率を実施例1の結果とともに表1に示す。
【0036】
[比較例2]
酸素を含有しない雰囲気として、フェライトめっき軟磁性粒子の熱処理をAr中で行った以外は実施例1と同様にして軟磁性成形体を圧粉成形、及び圧粉成形後の熱処理(大気中)を行った。得られた成形体の比透磁率と透磁率の低下率を実施例1の結果とともに表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から、フェライトめっき後の軟磁性粒子の熱処理を行わなかった場合、直流重畳特性(透磁率の低下率)が低いのに対して、本発明の方法によれば、緩速熱処理でも急速熱処理でも直流重畳特性が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の製造方法によれば、金属磁性材料および酸化物磁性材料の両者の長所を有し、かつ、直流重畳特性の向上した磁性材料を得ることができ、特にノート型パソコンや携帯電話等の小型情報機器、薄型CRT、フラットパネルディスプレイ等に用いられるスイッチング電源に搭載されるトランスやリアクトルなどとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粒子の表面にフェライトめっきを施したフェライト被覆軟磁性粒子を用いた軟磁性成形体の製造方法において、フェライトめっき軟磁性粒子を酸素含有雰囲気中で熱処理した後、圧粉成形および圧粉成形後の熱処理を行うことを特徴とする軟磁性成形体の製造方法。
【請求項2】
前記酸素含有雰囲気が大気であることを特徴とする請求項1記載の軟磁性成形体の製造方法。
【請求項3】
前記酸素含有雰囲気が、大気あるいは酸素と、窒素あるいは不活性ガスとの混合ガス雰囲気であることを特徴とする請求項1記載の軟磁性成形体の製造方法。
【請求項4】
フェライトめっき軟磁性粒子の熱処理が、急速加熱熱処理であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟磁性成形体の製造方法。
【請求項5】
フェライトめっき軟磁性粒子の熱処理が、500〜600℃で10〜30分、昇温速度100℃/分未満の緩速加熱熱処理であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟磁性成形体の製造方法。
【請求項6】
前記圧粉成形後の熱処理が急速加熱処理であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の軟磁性成形体の製造方法。

【公開番号】特開2007−211299(P2007−211299A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33018(P2006−33018)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】