説明

軟磁性複合圧密コアの製造方法。

【課題】本発明は、表面部分での比抵抗の低下を抑制することができる軟磁性複合圧密コアの提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、Mg含有酸化膜を具備してなる酸化物被覆軟磁性粒子と無機系バインダとを混合して金型により圧密して軟磁性複合圧密コアを製造し、該軟磁性複合圧密コアを金型から取り出した後、その表面を無機酸により酸洗し、表面のFeの酸化スケールを除去し、圧密後の軟磁性金属粒子が表面に沿って延伸した塑性変形による導通部を除去することにより、その内側の圧密軟磁性金属粒子とそれを覆っている酸化膜を表面に露出させた状態として高比抵抗化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ、アクチュエータ、リアクトル、トランス、チョークコア、磁気センサコアなどの各種電磁気回路部品の素材として使用される軟磁性複合圧密コアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ、アクチュエータ、磁気センサなどの磁心用材料として、鉄粉末、Fe−Al系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Ni系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Cr系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Si系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Si−Al系鉄基軟磁性合金粉末(以下、これらを軟磁性金属粒子と総称する)を圧密し、熱処理して得られた軟磁性焼結材が知られている。この種の軟磁性焼結材にあっては、磁束密度が高い反面、比抵抗が低いために、高周波特性が悪いという問題がある。そこで比抵抗を高めて高周波特性を向上させるために、軟磁性金属粒子を水ガラスまたは低融点ガラスにより結合した圧粉軟磁性材料などが提案されている(特許文献1または特許文献2参照)。
【0003】
しかし、前記軟磁性金属粒子を水ガラスまたは低融点ガラスで結合した複合軟磁性焼結材は、軟磁性金属粒子と水ガラスまたは低融点ガラスとは密着性が悪いために、軟磁性金属粒子を水ガラスまたは低融点ガラスで結合して強度を確保しようとすると、水ガラスまたは低融点ガラスの中に軟磁性金属粒子が分散する程度に大量の水ガラスまたは低融点ガラスと混合しなければならず、このように水ガラスまたは低融点ガラスを大量に使用して得られた圧粉軟磁性材料の比抵抗は大きくなるものの磁束密度が極端に低下し、モータ、アクチュエータ、磁気センサの磁心など各種電子部品の材料として使用することができない問題があった。
【0004】
そこで、高磁束密度と高比抵抗の両立を図る目的において、軟磁性金属粒子相とこれを包囲する粒界相からなり、前記粒界相が六方晶構造を有するZnO型相、立方晶構造を有するFeとZnの混合酸化物相およびガラス相とからなり、前記六方晶構造を有するZnO型相が前記軟磁性金属粒子相に接して分散されており、前記ガラス相が前記立方晶構造を有するFeとZnの混合酸化物相が前記ZnO型相に接して分散されており、前記ガラス相が前記立方晶構造を有するFeとZnの混合酸化物相に接して挟まれて分散されている組織を有する複合軟磁性焼結材が提供されている。(特許文献3参照)
一方、化学メッキなどの化学的な方法あるいは塗布法などによりMg含有フェライト膜を被覆したMg含有酸化鉄被覆鉄粉末を低融点ガラス粉末とともに混合してから圧密形成し、熱処理して圧粉磁性材を製造する方法も知られている。(特許文献4参照)
【0005】
また、金属磁性粒子を含む磁性体粉末を前記金属磁性粒子間の絶縁を確保しつつ結合して圧粉磁性体コアを製造する方法において、磁性体粉末と金型との摩擦により成形体であるコアの表面に膜状の導電部が形成されてしまい、表面における渦電流損失が大きくなることの対策として圧粉磁性体コアの表層部を塩酸などの無機酸で除去する技術が開示されている。(特許文献5参照)
【特許文献1】特開平5−258934号公報
【特許文献2】特開昭63−158810号公報
【特許文献3】特開2004−253787号公報
【特許文献4】特開2004−297036号公報
【特許文献5】特開2006−229203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献3に記載されている複合軟磁性焼結材によれば、FeとZnの混合酸化物相が600℃を越える温度で加熱すると分解してしまう問題がある。しかし、この分解が生じない程度の温度での焼成、例えば、600℃での焼成では特許文献3に記載されているガラス粉末は溶融しないために、軟磁性金属粒子相同士の結着性を高めることが難しかった。
また、ガラス粉末を酸化亜鉛被覆軟磁性金属粒子に添加混合して成形すると、ガラス粉末−酸化亜鉛被膜(絶縁層)の摩擦が発生し、酸化亜鉛被膜が損傷しやすいために、高比抵抗の軟磁性複合圧密焼成材を得ることが難しかった。
【0007】
次に、前記特許文献5に記載されている技術では、Fe又はFe合金の圧粉成形体を無機酸で処理することが開示されてはいるものの、磁性体粉末に使用する金属磁性粒子及びそれらの粒子を絶縁分離する絶縁材とそれらを覆うバインダにおいて、酸化物、硫化物、窒化物等の酸に溶解し易いものは絶縁材の材料としては不向きであると記載されているのみであり、具体的な絶縁材が開示されていない。
そこで本発明者らは、Feを溶解するために塩酸を使用した場合、磁性体粉末の周囲を囲む絶縁材として著名なリン酸絶縁皮膜を用い、有機系バインダを用いて実験したところ、塩酸の酸洗によりリン酸絶縁皮膜と有機系バインダの双方が溶解されて酸洗部分が絶縁破壊されることがわかり、圧粉成型体を単に酸洗したとしても、比抵抗の高いものは容易には得られない問題があることを知見した。
【0008】
本発明は前記の問題に鑑みて創案されたものであり、その目的は、酸洗により表面の絶縁破壊を引き起こすことなく表面の酸化スケールと塑性変形による導通部を除去することにより、高比抵抗であり、渦電流損失の少ない軟磁性複合圧密コアの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Fe系の軟磁性焼結材の研究を行い、金型を用いたプレス成形後においても表面の絶縁状態が破壊されることがない軟磁性複合圧密コアを提供できる技術の一具体例として、Mg含有酸化物被覆型あるいはAl酸化物被覆型の軟磁性金属粒子を用いることを基本とする。
即ち、Fe系の軟磁性金属粉末を予め酸化雰囲気中で加熱することにより軟磁性金属粒子の表面に酸化鉄の膜を形成した酸化処理軟磁性金属粒子を作製し、この酸化処理軟磁性金属粒子にMg粉末を添加し、造粒転動攪拌混合装置で混合して得られた混合粉末を不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中において加熱するなどした後、更に、必要に応じて酸化性雰囲気中で加熱する酸化処理を施してMg含有酸化物被覆型の軟磁性金属粒子を得る技術によるMg含有酸化物被膜を用いる。
この技術によれば、一般に知られているMgO−FeO−Fe系の中で代表される(Mg,Fe)O、(Mg,Fe)などのMg−Fe−O三元系各種酸化物のうちで、少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が軟磁性粒子の表面に形成されたものを得ることができる。
【0010】
この少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜をFe系の軟磁性金属粒子の表面に形成したMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子にあっては、Fe系の軟磁性金属粒子に対する酸化膜の密着性が従来材料に比べて格段に優れていることから、プレス成形時に絶縁皮膜である酸化膜が破壊されることが少なく、酸化膜がFe系の軟磁性金属粒子同士の間に確実に存在するので、プレス成形後に高温歪取り焼成を行っても酸化膜の絶縁性が低下することがなく、高比抵抗を維持できるので、渦電流損失が低くなり、更に歪取り焼成後に保磁力を低減できることから、ヒステリシス損失を低く抑えることができ、従って低損失の軟磁性複合圧密焼成材を得ることができる技術である。
本発明者らはこの技術に着目し、前述のMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子を圧密成形して得られる圧密材を研究したところ、本願発明に到達した。
【0011】
(1)上記目的を達成するために本発明の軟磁性複合圧密コアの製造方法は、Fe系の軟磁性金属粒子及び該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化膜あるいはAlの酸化膜を具備してなる酸化物被覆軟磁性粒子と無機系バインダとを混合して金型により圧密し、酸化物被覆軟磁性粒子を前記無機系バインダにより接合してなる軟磁性複合圧密コアを製造し、該軟磁性複合圧密コアを金型から取り出した後、その表面を塩酸により酸洗し、圧密後の軟磁性金属粒子が表面に沿って延伸した塑性変形による導通部を除去することにより、その内側の圧密軟磁性金属粒子とそれを覆っている酸化膜を表面に露出させた状態として高比抵抗化することを特徴とする。
【0012】
(2)上記目的を達成するために本発明の軟磁性複合圧密コアの製造方法は、前記無機酸として濃塩酸を用いることを特徴とする。
(3)上記目的を達成するために本発明の軟磁性複合圧密コアの製造方法は、前記Mg含有酸化膜として(Mg,Fe)Oを主体とする酸化膜を用いることを特徴とする。
(4)上記目的を達成するために本発明の軟磁性複合圧密コアの製造方法は、前記Fe系の軟磁性金属粒子が、Feに、Si、Al、Ni、Cr、Co、Vのうちの少なくとも1種以上を添加してなる組成系とされてなることを特徴とする。
(5)上記目的を達成するために本発明の軟磁性複合圧密コアの製造方法は、前記無機系バインダとして、Siレジン、低融点ガラス、金属酸化物のいずれかを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法においては、Fe系の軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆したMg含有酸化物被覆膜とを良好な密着性でもって形成することができ、更にMg含有酸化物被覆膜を備えたFe系の軟磁性金属粒子どうしを、それらの粒界に存在するバインダで接合しているので、粒界部分におけるMg含有酸化物被覆膜との密着力も高いものとできるので、高強度な軟磁性複合圧密コアを得ることができる。
しかも、前記Mg含有酸化物被覆膜は圧密成形後もFe系の軟磁性金属粒子の周囲に確実に存在させることができるので高い比抵抗を得ることができ、渦電流損失の低い軟磁性複合圧密コアを得ることができる。
その上、該軟磁性複合圧密コアの表面を塩酸などの無機酸により酸洗すると、Mg含有酸化物被覆膜はFeを溶解する酸にも極めて強く、耐酸性に優れ、酸洗により表面部分の酸化スケールや塑性変形による導通部を能率良く溶解除去できるので、表面部分での比抵抗の低下を防止して渦電流損失の少ない軟磁性複合圧密コアを得ることができる。
【0014】
前記電磁気回路部品として、例えば、磁心、電動機コア、発電機コア、ソレノイドコア、イグニッションコア、リアクトルコア、トランスコア、チョークコイルコアまたは磁気センサコアなどとしての利用が可能であり、いずれにおいても優れた特性を発揮し得る電磁気回路部品を提供できる。
そして、これら電磁気回路部品を組み込んだ電気機器には、電動機、発電機、ソレノイド、インジェクタ、電磁駆動弁、インバータ、コンバータ、変圧器、継電器、磁気センサシステム等があり、これら電気機器の高効率高性能化や小型軽量化を行うことができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明ではまず、(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が軟磁性金属粒子の表面に被覆形成されたMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子(軟磁性金属粒子)を作製する。
この被覆軟磁性金属粒子を得るためには、以下の各種の原料粉末を用い、後述する(A)〜(D)に記載の方法のいずれかを選択して実施すれば良い。
この発明のMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子の製造方法において使用する原料粉末としてのFe系軟磁性金属粒子は、従来から一般に知られている鉄粉末、絶縁処理鉄粉末、Fe−Al系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Ni系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Cr系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Si系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Si−Al系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末またはFe−P系鉄基軟磁性合金粉末であることが好ましい。
更に具体的には、鉄粉末は純鉄粉末であり、絶縁処理鉄粉末は、リン酸塩被覆鉄粉末、またはシリカのゾルゲル溶液(シリケート)もしくはアルミナのゾルゲル溶液などの湿式溶液を添加し混合して鉄粉末表面に被覆したのち乾燥して焼成した酸化ケイ素もしくは酸化アルミニウム被覆鉄粉末であり、Fe−Al系鉄基軟磁性合金粉末はA1:0.1〜20%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Al系鉄基軟磁性合金粉末(例えば、Fe−15%Alからなる組成を有するアルパーム粉末)であることが好ましい。
【0016】
また、Fe−Ni系鉄基軟磁性合金粉末はNi:35〜85%を含有し、必要に応じてMo:5%以下、Cu:5%以下、Cr:2%以下、Mn:0.5%以下の内の1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるニッケル基軟磁性合金粉末(例えば、Fe−49%Ni粉末)であり、Fe−Cr系鉄基軟磁性合金粉末はCr:1〜20%を含有し、必要に応じてAl:5%以下、Nil5%以下の内の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Cr系鉄基軟磁性合金粉末であり、Fe−Si系鉄基軟磁性合金粉末は、Si:0.1〜10%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Si系鉄基軟磁性合金粉末であることが好ましい。
また、Fe−Si−Al系鉄基軟磁性合金粉末は、Si:0.1〜10%、Al:0.1〜20%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Si−Al系鉄基軟磁性合金粉末であり、Fe−C−V系鉄基軟磁性合金粉末は、C:0.1〜52%、V:0.1〜3%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末であり、Fe−C系鉄基軟磁性合金粉末は、C:0.1〜52%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末であり、Fe−P系鉄基軟磁性合金粉末は、P:0.5〜1%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−P系鉄基軟磁性合金粉末(以上、%は質量%を示す)であることが好ましい。
【0017】
そして、これらFe系の軟磁性金属粒子は平均粒径:5〜500μmの範囲内にある軟磁性金属粒子を使用することが好ましい。その理由は、平均粒径が5μmより小さすぎると、粉末の圧縮性が低下し、軟磁性金属粒子の体積割合が低くなるために磁束密度の値が低下するので好ましくなく、一方、平均粒径が500μmより大きすぎると、軟磁性金属粒子内部の渦電流が増大して高周波における透磁率が低下することによるものである。
【0018】
(A)これらの各種軟磁性金属粒子のいずれかを原料粉末とし、酸化雰囲気中で室温〜500℃に保持する酸化処理を施した後、この原料粉末にMg粉末を添加し混合して得られた混合粉末を温度:150〜1100℃、圧力:1×10−12〜1×10−1MPaの不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中で加熱し、さらに必要に応じて酸化雰囲気中、温度:50〜400℃で加熱すると、軟磁性金属粒子表面にMgを含む酸化絶縁被膜を有するMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子が得られる。
このMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子は、従来のMgフェライト膜を形成したMg含有酸化物被覆軟磁性粒子に比べて密着性が格段に優れたものとなり、このMg含有酸化物被覆軟磁性粒子をプレス成形して圧粉体を作製しても絶縁被膜が破壊し剥離することが少なく、また、このMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子の圧粉体を温度:400〜1300℃で焼成して得られた軟磁性複合圧密コアは粒界にMg含有酸化膜が均一に分散し、粒界三重点にMg含有酸化膜が集中して分散することのない組織が得られる。
【0019】
前述の製造方法の場合、酸化処理した軟磁性金属粒子を原料粉末とし、この原料粉末にMg粉末を添加し混合して得られた混合粉末を温度:150〜1100℃、圧力:1×10−12〜1×10−1MPaの不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中で加熱するには、前記混合粉末を転動させながら加熱することが好ましい。
【0020】
(B)前記軟磁性金属粒子を酸化雰囲気中で室温〜500℃に保持することにより軟磁性粉末の表面に酸化物を形成した酸化物被覆軟磁性粉末に一酸化ケイ素粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:600〜1200℃保持の条件で加熱し、さらにMg粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:400〜800℃保持の条件で加熱すると、軟磁性粉末の表面にMg−Si含有酸化膜が形成されたMg−Si含有酸化物被膜軟磁性粉末が得られ、この方法で作製したMg−Si含有酸化物被膜軟磁性粉末を用いて作製した軟磁性複合圧密コアは、従来のSiOを生成する化合物とMgCOまたはMgOの粉末からなる混合物を圧縮成形し焼結して得られた複合軟磁性焼結材よりも密度、抗折強度、比抵抗および磁束密度が優れている。
【0021】
(C)前記軟磁性金属粒子を酸化雰囲気中で室温〜500℃に保持することにより軟磁性金属粒子の表面に鉄の酸化膜を形成した酸化物被覆軟磁性金属粉末に一酸化ケイ素粉末およびMg粉末を同時に添加し混合した後、または、混合しながら真空雰囲気中、温度:400〜1200℃保持の条件で加熱すると、軟磁性金属粒子の表面にMg−Si含有酸化物膜が形成されたMg−Si含有酸化物被膜軟磁性金属粉末が得られる。この方法で作製したMg−Si含有酸化物被覆軟磁性金属粉末を用いて作製した軟磁性複合圧密コアは、従来のSiOを生成する化合物とMgCOまたはMgOの粉末からなる混合物を圧縮成形し焼結して得られた複合軟磁性焼結材よりも密度、抗折強度、比抵抗および磁束密度を優れさせることができる。
【0022】
(D)前記軟磁性金属粒子を酸化雰囲気中で室温〜500℃に保持することにより軟磁性金属粒子の表面に鉄の酸化膜を形成した酸化物被覆軟磁性金属粉末にMg粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:400〜800℃保持の条件で加熱すると軟磁性金属粉末の表面にMg含有酸化膜が形成されたMg含有酸化物被覆軟磁性金属粉末が得られる。
このMg含有酸化物被覆軟磁性金属粉末にさらに一酸化ケイ素粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:600〜1200℃保持の条件で加熱すると、軟磁性粉末の表面にMg−Si含有酸化物膜が形成されたMg−Si含有酸化物被覆軟磁性金属粉末が得られ、この方法で作製したMg−Si含有酸化物被覆軟磁性金属粉末を用いて作製した軟磁性複合圧密コアであれば、従来のSiOを生成する化合物とMgCOまたはMgOの粉末からなる混合物を圧縮成形し焼結して得られた複合軟磁性焼結材よりも密度、抗折強度、比抵抗およぴ磁束密度が優れさせることができる。
前記一酸化ケイ素粉末の添加量は0.01〜1質量%の範囲内にあることが好ましく、前記Mg粉末の添加量は0.05〜1質量%の範囲内にあることが好ましい。
前記真空雰囲気は、圧力:1×10−12〜1×10−1MPaの真空雰囲気であることが好ましい。
【0023】
前記の製造方法に用いる一酸化ケイ素(SiO)粉末は、酸化ケイ素の内でも最も蒸気圧が高い酸化物であるところから、加熱により軟磁性金属粒子の表面に酸化ケイ素成分を蒸着させ易く、蒸気圧の低い二酸化ケイ素(SiO)粉末を混合して加熱しても軟磁性金属粒子の表面に十分な厚さの酸化ケイ素膜が形成されないおそれがある。酸化物被覆軟磁性粉末に一酸化ケイ素(SiO)粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:600〜1200℃に保持することにより軟磁性金属粒子の表面にSiOx(ただし、x;1〜2)膜を形成した酸化ケイ素膜被覆軟磁性粉末が生成し、この酸化ケイ素膜被覆軟磁性粉末にさらにMg粉末を添加し混合しながら真空雰囲気中で加熱すると、Mg−Si−Fe−OからなるMg−Si含有酸化物膜が軟磁性粉末に被覆したMg−Si含有酸化物被覆軟磁性粉末が得られる。
【0024】
前述の酸化物被覆軟磁性金属粒子は、軟磁性金属粒子を酸化雰囲気中(例えば、大気中)、温度:室温〜500℃に保持することにより軟磁性粉末の表面に鉄酸化膜を形成して作製することができる。そして、この鉄酸化膜はSiOおよび/またはMgの被覆性を向上させる効果がある。酸化物被覆軟磁性金属粒子を作製する際に酸化雰囲気中で500℃を越えて加熱すると、軟磁性金属粒子が凝集して軟磁性金属粒子の集合体が生成し、焼結したりして均一な表面酸化ができなくなるので好ましくない。したがって、酸化物被覆軟磁性金属粒子の製造時の加熱温度は室温〜500℃に定めた。一層好ましい範囲は室温〜300℃である。酸化雰囲気は乾燥した酸化雰囲気であることが一層好ましい。
【0025】
この発明で用いるMg−Si含有酸化物被覆軟磁性金属粒子において、酸化物被覆軟磁性金属粒子に添加するSiO粉末量を0.01〜1質量%に限定したのは、SiO粉末の添加量が0.01質量%未満では酸化物被覆軟磁性金属粒子の表面に形成される酸化ケイ素膜の厚さが不足するのでMg−Si含有酸化物膜に含まれるSiの量が不足し、したがって、比抵抗の高いMg−Si含有酸化物膜が得られないので好ましくなく、一方、1質量%を越えて添加すると、形成されるSiOx(x;1〜2)酸化ケイ素膜の厚さが厚くなり過ぎて、得られたMg−Si含有酸化物被覆軟磁性金属粒子を圧粉し焼成して得られた軟磁性複合圧密焼成材の密度が低下するようになるおそれがある。
【0026】
また、この発明のMg−Si含有酸化物被覆軟磁性金属粒子の製造方法において、Mg粉末の添加量を0.05〜1質量%の範囲に設定したのは、Mg粉末の添加量が0.05質量%未満では酸化物被覆軟磁性金属粒子の表面に形成されるMg膜の厚さが不足してMg−Si含有酸化物膜に含まれるMgの量が不足し、従って、十分な厚さのMg−Si酸化物膜が得られないので好ましくなく、一方、1質量%を越えて添加すると、形成されるMg膜の厚さが厚くなり過ぎて、得られたMg−Si含有酸化物被覆軟磁性粉末を圧粉し焼成して得られた軟磁性複合圧密焼成材の密度が低下するようになるので好ましくないからである。
【0027】
この発明で用いるMg−Si含有酸化物被覆軟磁性金属粒子の製造方法において、酸化物被覆軟磁性金属粒子にSiO粉末、Mg粉末またはSiO粉末およびMg粉末の混合粉末を添加し混合する条件を温度600〜1200℃の真空雰囲気としたのは、600℃未満で加熱してもSiOの蒸気圧が小さいために十分な厚さのSiO膜またはMg−Si含有酸化物被膜が得られないためであり、一方、1200℃を越えて混合すると軟磁性金属粒子が焼結するようになって所望のMg−Si含有酸化物被覆軟磁性金属粒子が得られないので好ましくないからである。また、その時の加熱雰囲気は圧力:1×10−12〜1×10−1MPaの真空雰囲気中であることが好ましく、更に転動しながら加熱することが一層好ましい。
【0028】
酸化物被覆軟磁性金属粒子を作製するときに使用する軟磁性金属粒子は平均粒径:5〜500μmの範囲内にある軟磁性粉末を使用することが好ましい。その理由は、平均粒径が5μmより小さすぎると、粉末の圧縮性が低下し、軟磁性粉末の体積割合が低くなるために磁束密度の値が低下するので好ましくなく、一方、平均粒径が500μmより大きすぎると、軟磁性粉末内部の渦電流が増大して高周波における透磁率が低下することによるものである。
軟磁性金属粒子の酸化処理は、Mgの被覆性を向上させる効果があり、酸化雰囲気中、温度150〜500℃または蒸留水または純水中、温度:50〜100℃に保持することにより行う。この場合、いずれも50℃未満では効率的でなく、一方、酸化雰囲気中で500℃を越えて保持すると焼結が起るために好ましくないからである。酸化雰囲気は乾燥した酸化雰囲気であることが一層好ましい。
【0029】
「堆積膜」という用語は、通常、真空蒸着やスパッタされた皮膜構成原子が例えば基板上に堆積された皮膜を示すが、本発明において用いる堆積膜とは、酸化鉄膜を有するFe系軟磁性金属粒子の酸化鉄(Fe−O)とMgが反応を伴って当該Fe系軟磁性金属粒子表面に堆積した皮膜、本発明ではMg含有酸化膜を示す。このFe系軟磁性金属粒子の表面に形成されているMg−Fe−O三元系酸化膜の膜厚は、圧粉成形後に軟磁性複合圧密コアの高磁束密度と高比抵抗を得るために、5nm〜500nmの範囲内にあることが好ましい。ここでの膜厚が5nmより薄いと、圧粉成形した軟磁性複合圧密焼成材の比抵抗が充分ではなく、渦電流損失が増加するので好ましくなく、膜厚が500nmを越える厚さでは、圧粉成形した軟磁性複合圧密焼成材の磁束密度が低下するので好ましくない。このような範囲において更に好ましいMg含有酸化膜の膜厚は、5nm〜200nmの範囲内である。
ただし、後述する酸洗処理する場合を考慮してMg含有酸化膜の好ましい膜厚範囲は、50nm〜200nmの範囲である。膜厚範囲が50nm未満では、後述の酸洗工程において堆積膜が薄すぎて、本来耐酸性に強い本願発明の堆積膜であっても、軟磁性金属粒子の絶縁被覆状態が不十分となり易く、比抵抗の向上効果を満足に得ることができなくなる傾向がある。
【0030】
前述の方法により作製されたMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子は、その表面にMg含有酸化膜が形成され、このMg含有酸化膜は酸化ケイ素や酸化アルミニウムと反応して複合酸化物が形成され、軟磁性金属粒子の粒界に高抵抗を有する複合酸化物が介在した高比抵抗を有する軟磁性複合圧密焼成材が最終的に得られるとともに、酸化ケイ素や酸化アルミニウムを介して焼結されるために機械的強度の優れた軟磁性複合圧密焼成材を製造することができる。この場合、酸化ケイ素や酸化アルミニウムが主体となって焼結されるところから保磁力を小さく保つことができ、したがって、ヒステリシス損の少ない軟磁性複合圧密焼成材を製造することができる、前記焼成は、不活性ガス雰囲気中あるいは非酸化性ガス雰囲気中において、温度:400〜1300℃で行われることが好ましい。
【0031】
「軟磁性複合圧密コアの製造」
以上説明した方法により前述の如く作製したMg含有酸化膜で被覆した軟磁性金属粒子を使用して軟磁性複合圧密コアを製造するには、まず、前述の方法で作製したMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粒子に絶縁性のバインダ(結着材)としてのSiレジン、低融点ガラスあるいは金属酸化物のいずれかを混合してから通常の方法で圧粉成形し、不活性ガス雰囲気中、あるいは、非酸化性雰囲気中において焼成して軟磁性複合圧密コアの前駆体を製造する。
【0032】
この工程においては、第1に、前述の方法により作製したMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子に、無機系バインダとしてのSiレジン、あるいは、Bi−B、SnO−P、SiO−B−ZnO、SiO−B−RO、LiO−ZnOのいずれかからなる低融点ガラスを規定量配合する。
Siレジンの添加量は、0.2〜1.5質量%の範囲内とすることができる。
あるいは、先のSiレジンあるいは低融点ガラスに代えて、Mg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子に、酸化アルミニウム、酸化棚素、酸化バナジウム、酸化ビスマス、酸化アンチモンおよび酸化モリブデンの内の1種または2種以上の金属酸化物をB、V、Bi、Sb、MoO換算で0.05〜1質量%の範囲内で配合しても良い。
前述のバインダを混合した後に金型を用いて圧粉成形し、得られた圧粉成形体を温度:500〜1000℃で非酸化性雰囲気中において焼成し、軟磁性複合圧密コアの前駆体を製造する。また、金属酸化物としてステアリン酸亜鉛を用いることもできる。
先の焼成雰囲気として例えば、窒素ガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気、あるいは水素ガス雰囲気などの非酸化性雰囲気を選択することができる。
【0033】
本発明では、先の軟磁性複合圧密コアの前駆体の抗折強度を高めるなどの目的において、酸化性雰囲気中において、400℃〜600℃の温度範囲内に加熱する熱処理を施しておくことが好ましい。
ここでの酸化性雰囲気における熱処理により、前駆体における(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜を軟磁性金属粒子の表面に被覆形成した被覆軟磁性金属粒子と、それらの界面に存在する(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が変成し、軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化物とを具備してなるMg含有酸化物被覆軟磁性粒子が、酸化鉄を含むシリコン酸化物、低融点ガラスの成分を含む酸化物、Mgを含有する鉄酸化物のいずれかを主体とする粒界層を介し複数結合されてなる構造となり、軟磁性複合圧密コアの前駆体を得ることができる。
【0034】
以上説明の方法により得られた軟磁性複合圧密コアの前駆体は、前記複数のMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子の粒界層を介する結合が、前記軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化膜とを具備してなるMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子と、前述の低融点ガラスまたは金属酸化物との混合圧密熱処理により得られた結合であり、前記Mg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子間の粒界層に存在する酸化鉄が、前記軟磁性金属粒子から粒界にFe成分が析出され酸化物とされて分散成長されたものであり、前記粒界層に隣接するMg含有酸化膜が、前記混合圧密焼成処理以前のMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子に備えられていたMg含有酸化膜から得られたものである。
前記Mg含有酸化膜被覆軟磁性粒子を囲む粒界層にあっては、酸化鉄を含むシリコン酸化物、低融点ガラスの成分を含む酸化物、Mgを含有する鉄酸化物のいずれかを主体とする組織を有する。
【0035】
以上の製造方法により得られた軟磁性複合圧密コアの前駆体は高密度、高強度、高比抵抗および高磁束密度を有し、この軟磁性複合圧密焼成材は、高磁束密度で高周波低鉄損の特徴を有する事からこの特徴を生かした各種電磁気回路部品の材料として使用できる。
また、以上の製造方法により得られた軟磁性複合コアの前駆体にあっては、(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜とその界面に存在する低融点ガラスあるいは金属酸化物を酸化雰囲気において焼成することにより、成長させた酸化鉄を含む低融点ガラスの成分を含む粒界層、または、酸化鉄を含む金属酸化物を主体とする粒界層を備えているので、特にMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子同士の接合が良好になされていて、抗折強度を更に高くすることができ、高強度軟磁性複合圧密コアを得ることができる。その上、本製造方法により得られた軟磁性複合圧密焼成材は、高磁束密度で高周波低鉄損の特徴を兼ね備える優れた特徴を有する。
【0036】
前記構成の軟磁性複合圧密コアの前駆体は、前述の高密度、高強度、高比抵抗および高磁束密度を有し、高周波低鉄損の特徴を本来は有するはずであるが、金型に前記軟磁性金属粒子とバインダなどを挿入して圧密後、金型から取り出した状態においては、特に表面の比抵抗が低下した状態となり易い。
これは、軟磁性複合圧密コアの前駆体を構成する軟磁性金属粒子がFeを主体としてなり、Fe含有量の高い材料であるので、Fe主体の軟磁性金属粒子自体の伸びが大きいという性質を有するが故に、金型の内面と擦り合う部分においては、軟磁性金属粒子が金型の面方向に伸びる結果、先に説明した如く粒径を揃えた粒子状の軟磁性金属粒子を混合していたとしても、高温高圧にて圧密した場合、塑性加工により伸びた軟磁性金属粒子が軟磁性複合圧密コアの面方向に層状となって、軟磁性金属粒子同士を磁気的に短絡する塑性変形に伴う導通部が存在するので、表面の比抵抗が低下し、渦電流損失が増加する問題がある。特に高周波電気部品として用いる場合に、渦電流損失はコアの表面部分において特に影響を受けると考えられる。
従って本願発明では、軟磁性複合圧密コアの前駆体に以下に説明する酸洗処理を行い、表面における比抵抗の低下を防止した状態の軟磁性複合圧密コアを製造する。
【0037】
図1は酸洗する前の金型取り出し後の軟磁性複合圧密コアの部分断面を示す顕微鏡写真の模式図であるが、表面よりも内側では多数の不定形の軟磁性金属粉末の圧密粒子1が粒界層を介して結合された組織を有するが、表面部分においては、組織が図1の縦方向(表面の面方向)、換言すると、圧密方向に沿って長く伸びるように形成された塑性変形による導通部3を有する組織とされている。
図1に示す圧密粒子1の間の粒界には拡大してみると、(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜とバインダ層が存在し、各圧密粒子1を絶縁分離している。しかし、塑性変形による導通部3にあっては、圧粉粒子が面方向に広く薄く伸ばされるとともに(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜は表面の面方向に平行になるように引き延ばされて配置されている。
この状態では表面部分において比抵抗が低下するので、以下の酸洗処理を行う。
【0038】
まず、濃度35%程度の濃塩酸を用いて室温にて軟磁性複合圧密コアを酸洗し、軟磁性複合圧密コアの表面の酸化スケールとその下の圧密変形流動域を除去する。
前記構造の軟磁性複合圧密コアにおいて、軟磁性複合圧密コア内部の軟磁性金属粒子の表面部分には(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が形成されているので、図2に示す軟磁性複合圧密コアの表面部分の顕微鏡写真の模式図の如く酸化スケールと塑性変形による導通部とが除去された後の圧密粒子1が多数結合された組織とすることができ、目的の軟磁性複合圧密コアAを得ることができる。
これにより(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化膜を有する軟磁性金属粒子をバインダと混合して圧密して個々に軟磁性金属粒子どうしを絶縁分離した組織状態であって、内部側から表面側まで一貫した組織状態の軟磁性複合圧密コアAを得ることができる。この図2に示す組織を有する軟磁性複合圧密コアAであるならば、表面の比抵抗を高くすることができるので、渦電流損失を抑制した高周波特性に優れた軟磁性複合圧密コアを提供することができる。
【0039】
また、Fe系の軟磁性金属粒子1と該軟磁性金属粒子1の表面に被覆したMg含有酸化物被覆膜とを良好な密着性でもって形成することができ、更にMg含有酸化物被覆膜を備えたFe系の軟磁性金属粒子どうしを、それらの粒界に存在するバインダで接合しているので、粒界部分におけるMg含有酸化物被覆膜との密着力も高いものとできるので、高強度な軟磁性複合圧密コアを得ることができる。
しかも、前記Mg含有酸化物被覆膜は圧密成形後もFe系の軟磁性金属粒子の周囲に確実に存在させることができるので高い比抵抗を得ることができ、渦電流損失の低い軟磁性複合圧密コアを得ることができる。
なお、酸洗後の軟磁性複合圧密コアAの表面においては、複数の圧密粒子1においてそれらの粒界部分にはMgO酸化層とバインダの層が存在するが、圧密粒子1の表面に露出している部分の大部分は酸洗によりFeを主体とする圧密粒子1が溶解されて露出した面1aが連続され、隣接する圧密粒子1の境界部分にMgO酸化層とバインダの層からなる境界層1bが露出された面として構成される。なお、軟磁性複合圧密コアAにおいて比抵抗を測定する場合、表面に露出している圧密粒子1はMgO酸化層とバインダの層からなる境界層1bと空気により絶縁分離されるので比抵抗は充分に高い値とされる。
なお、得られた軟磁性複合圧密コアAは別途絶縁容器やケースに封入して使用されたり、樹脂層により覆って実使用に供されるので、具体的な使用形態において圧密粒子1が表面に露出していることに問題はない。
【実施例】
【0040】
平均粒径100μmの軟磁性金属粉末(純鉄粉)に対して0.1質量%のMg粉末を配合し、この配合粉末をアルゴンガス雰囲気中、造粒転動攪拌混合装置によって転動することによりMg含有酸化物被覆軟磁性粒子を作製した。なお、この造粒転動攪拌混合装置によって転動する前段階の処理において例えば大気中220℃にて加熱処理を0〜60分間行うことができ、この加熱処理時間に応じて軟磁性金属粒子に生成する酸化膜厚に応じて得られるMgO膜「(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜」の厚さを調整することができる。
【0041】
前記各MgO膜を形成した軟磁性複合金属粒子に対し、シリコーンレジンを0.3質量%混合し、金型にて8t/cm(784MPa)の成形圧力にて圧密形成して軟磁性複合圧密コアの前駆体試料(サイズ60×10×5mm)を複数製造した。
これらの前駆体試料に対し、35%濃塩酸に室温で浸漬する酸洗い試験を行い、酸洗時間を、0分、1分、2分、3分、5分、10分、15分、20分、25分の各値にセットして酸洗した各前駆体試料の比抵抗を測定した結果を試料1の各試験例として以下の表1に示す。
【0042】
次に、MgO層の被覆に代えて、先の例と同じ材料の軟磁性金属粉末にリン酸絶縁皮膜を被覆してなる軟磁性複合金属粉末を準備した。
リン酸絶縁皮膜付鉄粉は圧粉磁心用に一般に市販されているものを用いた。ベースの軟磁性金属粉末は、先の例と同じく、平均粒径100μmの純鉄粉であり、皮膜の厚さは100nm程度である。
このリン酸絶縁皮膜付きの軟磁性複合金属粉末に有機系バインダとしてシリコーンレジンを0.3質量%混合し、8t/cm(784MPa)の成形圧力にて圧密形成して軟磁性複合圧密コアの前駆体(サイズ60×10×5mm)を複数製造した。
これらの前駆体に対し、35%濃塩酸に室温で浸漬する酸洗試験を行い、酸洗時間を、0分、1分、2分、3分、5分、10分、15分、20分、25分の各値に設定して酸洗した各前駆体試料の比抵抗(μΩm)を測定した結果を試料2の各試験例として、以下の表1に示す。
【0043】
「表1」
酸洗時間
試料1 0分:比抵抗 2343、 1分:比抵抗 3970、
2分:比抵抗 5530、 3分:比抵抗 7240、
5分:比抵抗 10849、
10分:比抵抗 13070、 15分:比抵抗 12568、
20分:比抵抗 14378、 25分:比抵抗 12896、
試料2 0分:比抵抗 683、 1分:比抵抗 889、
2分:比抵抗 1341、 3分:比抵抗 1946、
5分:比抵抗 2549、
10分:比抵抗 2837、 15分:比抵抗 2089、
20分:比抵抗 1893、 25分:比抵抗 983、
【0044】
表1に示す結果を図3に示す。表1と図3に示す結果から明らかなように、(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜を有する軟磁性金属粒子を圧密した軟磁性複合圧密コアの各試料1は、同じ酸洗時間で比較すると、試料2に対して遙かに高い比抵抗を示した。
特に、試料2は酸洗しても試料1の酸洗前と同レベルの比抵抗にしかならず、酸洗時間が25分と長くなるにつれて逆に比抵抗が劣化し始めている。これは、試料2の組織構造では酸洗時間が長くなると、絶縁皮膜が破壊され始めることを意味する。また、試料2では酸洗したとしても、比抵抗の向上効果は少ないことが判明した。
こられに対して試料1は、酸洗前の段階で試料2の3倍以上の比抵抗を示す上、酸洗を数分間行うことにより急激に比抵抗が向上し、5分で10000(μΩm)を超え、10分以上の処理では12000(μΩm)を超える優れた比抵抗を示した。
以上の結果から、試料1においては比抵抗値に対する酸洗処理の効果が著しく高いことを確認できた。
【0045】
図4は表1の試料1において酸洗する前の状態の金属組織断面写真を示し、図5は10分間酸洗した試料の金属組織断面写真を示し、図6は図4に示す金属組織の部分拡大写真、図7は図5に示す金属組織の部分拡大写真を示すが、図4または図6に示す如く表面に酸化スケールが形成され、その内側に塑性変形による導通部が形成されていた状態から、酸洗によりこれらの組織を除去することができ、図4と図6に示す写真から、軟磁性金属粒子が個々に絶縁膜に覆われた状態で表面に存在する軟磁性複合圧密コアとなっていることが明らかである。
【0046】
次に、MgO膜厚を変更した試料による酸洗後の電気比抵抗の変化について試験した。先の軟磁性複合金属粉末を製造する際、前述した造粒転動攪拌混合装置によって転動する前段階の処理において大気中220℃にて加熱処理を0〜60分間行う際、この加熱処理時間に応じて軟磁性金属粒子に生成する酸化膜厚を調整し、この酸化膜厚に応じてMgO膜厚を変更した試料を複数製造し、酸洗前と10分間酸洗した後の電気比抵抗を測定した。その結果を以下の表2と図8に示す。
「表2」
MgO膜厚(nm) 酸洗前比抵抗 酸洗後比抵抗
試料3 30 760 2500
試料4 32 890 3310
試料5 42 1768 6680
試料6 45 2076 9300
試料7 61 2456 14210
試料8 84 3843 13070
試料9 98 3541 14230
試料10 103 3182 16730
試料11 155 4654 14220
【0047】
また、先の試験に加え、MgO膜厚を変更した試料による成形体密度を測定した結果を以下の表3と図9に示す。
「表3」
MgO膜厚(nm) 成形体密度(Mg/cm
試料3 30 7.49
試料4 32 7.51
試料5 42 7.48
試料6 45 7.47
試料7 61 7.45
試料8 84 7.44
試料9 98 7.39
試料10 103 7.4
試料11 155 7.37
試料12 200 7.35
試料13 270 7.08
試料14 400 6.5
【0048】
先に記載した表2と図8に示す試験結果から見て、MgOの膜厚30〜155nmの範囲において酸洗効果によりいずれの試料も酸洗後の比抵抗が向上していることが明らかとなり、酸洗による効果が明らかになった。なお、MgO膜厚30nm、32nmの試料の酸洗後の比抵抗の上昇割合より、MgO膜厚42nm、45nmの試料の方が酸洗後の比抵抗の上昇割合が大きく、MgO膜厚61nm〜155nmの試料の方が酸洗後の比抵抗の上昇割合がより一層大きくなっている。
これは、MgO膜厚が小さい範囲では、酸洗により表面部分の酸化膜が除去された上にそれよりも内側のMgO膜まで酸洗による影響を受けた結果と推定される。このことから、酸洗後において、より高い比抵抗を得るためには、MgO膜厚42nm以上であることが好ましく、MgO膜厚61nm以上であることがより好ましいと思われる。
次に、表3と図9に示す結果から、30nm〜200nmの範囲でMgO膜厚を大きくした場合、成形体密度として、7.35〜7.51Mg/cmの範囲の高い密度を得られるが、MgO膜厚270nmにおいて成形体密度が7.08Mg/cmと低下を始め、MgO膜厚400nmでは形成体密度が6.5Mg/cmの低い値となる。
このことから成形体密度として7Mg/cmを超える値を得るためにはMgO膜厚として270nm以下とすることが望ましく、より高い成形体密度を得るためには、MgO膜厚を30nm〜200nmの範囲とすることがより望ましいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明による軟磁性材は、電磁気回路部品として、例えば、磁心、電動機コア、発電機コア、ソレノイドコア、イグニッションコア、リアクトルコア、トランスコア、チョークコイルコアまたは磁気センサコアなどとしての利用が可能であり、いずれにおいても優れた特性を発揮し得る電磁気回路部品へ適用ができる。
そして、これら電磁気回路部品を組み込んだ電気機器には、電動機、発電機、ソレノイド、インジェクタ、電磁駆動弁、インバータ、コンバータ、変圧器、継電器、磁気センサシステム等があり、これら電気機器の高効率高性能化や小型軽量化ができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は本発明に係る軟磁性複合圧密コアの酸洗前の前駆体の状態を示す断面模式図。
【図2】図2は本発明に係る酸洗後の軟磁性複合圧密コアを示す断面模式図。
【図3】図3は本発明に係る軟磁性複合圧密コアに対する酸洗時間と比抵抗ρの関係を示すグラフ。
【図4】図4は酸洗前の軟磁性複合圧密コアの金属組織を示す断面写真を示す図。
【図5】図5は酸洗後の軟磁性複合圧密コアの金属組織を示す断面写真を示す図。
【図6】図6は図4に示す軟磁性複合圧密コアの金属組織を示す拡大断面写真を示す図。
【図7】図7は図5に示す軟磁性複合圧密コアの金属組織を示す拡大断面写真を示す図。
【図8】図8はMgO膜厚を変更した試料による酸洗後の電気比抵抗の変化について試験した結果を示す図。
【図9】図9はMgO膜厚を変更した試料による成形体密度の変化について試験した結果を示す図。
【符号の説明】
【0051】
1 軟磁性金属粒子、
2 酸化スケール、
3 塑性変形による導通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe系の軟磁性金属粒子及び該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化膜あるいはAlの酸化膜を具備してなる酸化物被覆軟磁性粒子と無機系バインダとを混合して金型により圧密し、酸化物被覆軟磁性粒子を前記無機系バインダにより接合してなる軟磁性複合圧密コアを製造し、該軟磁性複合圧密コアを金型から取り出した後、その表面を無機酸により酸洗し、圧密後の軟磁性金属粒子が表面に沿って延伸した塑性変形による導通部を除去することにより、その内側の圧密軟磁性金属粒子とそれを覆っている酸化膜を表面に露出させた状態として高比抵抗化することを特徴とする軟磁性複合圧密コアの製造方法。
【請求項2】
前記無機酸として濃塩酸を用いることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性複合圧密コアの製造方法。
【請求項3】
前記Mg含有酸化膜として(Mg,Fe)Oを主体とする酸化膜を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の軟磁性複合圧密コアの製造方法。
【請求項4】
前記Fe系の軟磁性金属粒子が、Feに、Si、Al、Ni、Cr、Co、Vのうちの少なくとも1種以上を添加してなる組成系とされてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軟磁性複合圧密コアの製造方法。
【請求項5】
前記無機系バインダとして、Siレジン、低融点ガラス、金属酸化物のいずれかを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の軟磁性複合圧密コアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−164317(P2009−164317A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74(P2008−74)
【出願日】平成20年1月4日(2008.1.4)
【出願人】(306000315)三菱マテリアルPMG株式会社 (130)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】