説明

転がり玉軸受の予圧装置及びその予圧装置を有するモータ

【課題】予圧ばねの取り扱いを容易にするとともに、転がり玉軸受に予圧を適切にかけることができる転がり玉軸受の予圧装置を提供する。
【解決手段】コイル状ばねによる転がり玉軸受の定圧予圧構造100において、中空の弾性部材と、前記弾性部材の両側の開口のそれぞれに挿入する2つのホルダー103とを備え、前記ホルダーが、前記弾性部材の開口に挿入したときに該挿入した開口の端部に当接して該弾性部材の弾性方向への延びを係止する鍔部106と、前記弾性部材の反対側の開口から挿入した他のホルダーと係合して該他のホルダーとの離間を係止する爪部104、105とを有し、前記弾性部材の両側から挿入した前記ホルダー同士が前記爪部によって係合して、予圧に必要な荷重を得られる長さに保持するとともに、前記弾性部材は前記ホルダーから露出して予圧装置を構成し、前記転がり玉軸受が該転がり玉軸受の外輪でのみ前記予圧装置と接触することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル状ばねによる転がり玉軸受の予圧装置及びその予圧装置を有するモータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等の回転軸の軸受として転がり玉軸受を使用する場合、その軸受に内部すきまがあると玉の遊びが大きく、軸受の剛性も弱いため、軸の回転振動が大きくなる。そこで、従来、玉の遊びを減少させるよう軸受に予圧する予圧構造が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、軸に設けた軌道溝に転動体を介して外輪を装着し、外輪にアキシャル方向の予圧を行うことによって、転動体の遊びを減少する予圧構造を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−82425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、転がり玉軸受に予圧する予圧構造においては、コイル状ばねの弾性力を利用するものが一般的であるが、コイル状ばねのみをそのままモータ等の回転軸に通し、そのコイル状ばねの端面で直接に転がり玉軸受を予圧する構造の場合、均一に予圧がかかるよう、コイル終端面を平面加工しなくてはならないという問題があった。また、回転軸と転がり玉軸受の組み立てにおいて、コイル状ばねが自由長に戻ろうとする弾性力により転がり玉軸受が押し戻され、組み立てが困難であるという問題があった。
【0006】
これに対して、特許文献1に記載の転がり軸受装置では、筒内にコイル状ばねを収容する内筒に外筒を被せ、内筒の外周面と外筒の内周面とがコイル状ばねの弾性の向きすなわちアキシャル方向に摺動可能に構成している。さらに、内筒と外筒とを両側から押圧してコイル状ばねを強制的に圧縮した後、外筒・内筒の係止部により外筒・内筒を係止し、軸受間に組み付けた後に係止を解除することで軸受に予圧を付与している。これによりコイル状ばねの端面が直接に軸受に接することはないので、端面研磨の必要はなくなるが、転がり軸受装置を円筒内に配置する場合は係止を解除することが出来ないため、軸と軸受の組み立てにおいて、コイル状ばねの弾性力が邪魔になることに変わりはなく、また、コイル状ばねが内筒および外筒に内包されてしまうので、コイル状ばねの有無や種類等を後から視認することはできず予圧を適切にかけることができない場合があるという問題もあった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、予圧ばねの取り扱いを容易にするとともに、予圧を適切にかけることができる転がり玉軸受の予圧装置及びその予圧装置を有するモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、転がり玉軸受の定圧予圧構造において、中空であって弾性方向両側に開口を有する弾性部材と、前記弾性部材の両側の開口のそれぞれに挿入する2つのホルダーとを備え、前記ホルダーが、前記弾性部材の開口に挿入したときに該挿入した開口の端部に当接して該弾性部材の弾性方向への延びを係止する鍔部と、前記弾性部材の反対側の開口から挿入した他のホルダーと係合して該他のホルダーとの離間を係止する爪部とを有し、前記弾性部材の両側から挿入した前記ホルダー同士が前記爪部によって係合して、前記弾性部材を自由長より短く、且つ、予圧に必要な荷重を得られる長さに保持するとともに、前記弾性部材は前記ホルダーから露出して予圧装置を構成し、前記予圧装置によって前記転がり玉軸受に予圧をかけるとき、前記転がり玉軸受が該転がり玉軸受の外輪でのみ前記予圧装置と接触することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記転がり玉軸受と、前記転がり玉軸受の予圧装置は、円筒状の軸受ライナーの内周面に配置され、前記弾性部材の両側の前記ホルダーのうち、前記転がり玉軸受と接触しない側の前記ホルダーが、軸受ライナーの内周面と嵌合固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、予圧ばねの取り扱いを容易にするとともに、転がり玉軸受に予圧を適切にかけることができる転がり玉軸受の予圧装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態の転がり玉軸受の予圧に用いる予圧装置を示す斜視図である。
【図2】図1に示した予圧装置100からコイル状ばね101を取り除いた状態を示す斜視図である。
【図3】1つのホルダー103を示す斜視図である。
【図4】上下の2つのホルダー103とその間に保持されるコイル状ばね101を示す側面図である。
【図5】図1に示した予圧装置100を示す側面図であって図中左側半分は中心軸の位置で破断して示す側断面図であり、(a)は爪部104と爪部105とが係合した状態を示す図であり、(b)は転がり玉軸受に予圧をかけている状態を示す図である。
【図6】図1に示した予圧装置100を組み込んだモータを示す側断面図である。
【図7】図5とは別の予圧装置の例を示す図であって、(a)はより細いコイル状ばねを用いた場合を示す図であり、(b)はより太いコイル状ばねを用いた場合を示す図である。
【図8】図1に示した予圧装置とは別の例を示す図であり、転がり玉軸受に予圧をかけるように組み込んだ状態を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本実施の形態の転がり玉軸受の予圧に用いる予圧装置を示す斜視図である。
【0014】
予圧装置100は、上下の2つのホルダー103の間に予圧用の弾性部材であるコイル状ばね101を設け、上下のホルダー103同士が係合することによってコイル状ばね101を蓄勢状態で保持する。
【0015】
なお、本実施の形態では、予圧用の弾性部材として、コイル状ばねを用いるが、本発明はこれに限られるものではなく、たとえば円筒状のゴム部材等を予圧用の弾性部材として用いることもできる。
【0016】
図2は、図1に示した予圧装置100からコイル状ばね101を取り除いた状態を示す斜視図である。
【0017】
また図3は、1つのホルダー103を示す斜視図である。
【0018】
本実施の形態では、同形状のホルダー103を2つ用意し、この上下の2つのホルダー103の間にコイル状ばね101を保持する。
【0019】
各ホルダー103は、爪部104および105を有し、この爪部104および105によって、対向するホルダー103と係合する。また、各ホルダー103は、環状の鍔部106を有し、この鍔部106によって、コイル状ばね101の弾性方向の端部を押さえ、対向するホルダー103との間にコイル状ばね101を保持する。
【0020】
上のホルダー103と下のホルダー103との周方向の位置合わせは、上のホルダー103の爪部104と下のホルダー103の爪部105とが嵌まり、上のホルダー103の爪部105と下のホルダー103の爪部104とが嵌まるようにする。
【0021】
なお、本実施の形態では、爪部を2箇所としているが、3箇所以上であっても良い。また、爪部とは別に、上のホルダー103と下のホルダー103をコイル状ばね101が伸縮する際に発生する周方向の荷重を緩和するための係合部を設けても良い。
【0022】
図4は、上下の2つのホルダー103とその間に保持されるコイル状ばね101を示す側面図である。
【0023】
コイル状ばね101はその弾性方向両端に開口を有し、その両端から、上下の2つのホルダー103の鍔部106とは反対の側を挿入する。2つのホルダー103のうち一方のホルダー103の爪部104は、他方のホルダー103の爪部105と係合し、また、一方のホルダー103の爪部105は、他方のホルダー103の爪部104と係合する。
【0024】
図5は、図1に示した予圧装置100を示す側面図であって図中左側半分は中心軸の位置で破断して示す側断面図であり、(a)は爪部104と爪部105とが係合した状態を示す図であり、(b)は転がり玉軸受(図示せず)に予圧をかけている状態を示す図である。
【0025】
一方のホルダー103の爪部104と、他方のホルダー103の爪部105とが係合し、また、一方のホルダー103の爪部105と、他方のホルダー103の爪部104とが係合すると、コイル状ばね101の弾性力で、互いの爪部104と爪部105とが当接し、一方のホルダー103と他方のホルダー103とがこれ以上離間しないように係止される。この状態で、コイル状ばね101は自由長よりも短くなるように圧縮され、蓄勢状態にある(図5(a)参照)。
【0026】
図5(b)に示すように、予圧装置100を、コイル状ばね101の弾性方向外側からさらに圧縮すると、一方のホルダー103の鍔部106と他方のホルダー103の鍔部106との距離は縮まり、互いの爪部104と爪部105との当接は離れて距離aを有する。この状態においては、距離aによりコイル状ばね101の蓄勢が転がり玉軸受(図示せず)に予圧をかけ、また、転がり玉軸受の取り付けやすさのため、互いの鍔部106同士がさらに近づける余裕を有する。
【0027】
本実施の形態の予圧装置100は、2つのホルダー103によって押さえられているので、コイル状ばね101を圧縮する際に暴れないように容易に制御可能であり、転がり玉軸受に予圧をかけるように組み込む際の作業を容易に行うことができる。
【0028】
また、本実施の形態の予圧装置100は、中空であって弾性方向両側に開口を有するコイル状ばね101の両側の開口のそれぞれにホルダー103を挿入して、ホルダー103がコイル状ばね101を隠さずに、外周方向からコイル状ばね101を視認可能に構成したので、コイル状ばね101の有無や種類等を後から容易に視認することができる。
【0029】
図6は、図1に示した予圧装置100を組み込んだモータを示す側断面図である。
【0030】
モータ1は、転がり玉軸受3および10を介して回転軸2を回動自在に保持している。本実施の形態では予圧装置100によって転がり玉軸受3および10に予圧をかける構成としている。
【0031】
転がり玉軸受3および10は軸受ライナー20の内周面に配置されており、予圧装置100は、軸受ライナー20の内周面内側に突出して径小となる凸部21と転がり玉軸受3との間に介在する。
【0032】
転がり玉軸受10は、内輪14と外輪15との間に複数の玉16を設けて、玉16によって内輪14と外輪15とが相対的に回動自在にしている。回転軸2は内輪14の内周面に圧入されるなどして固定され、外輪15の外周面は軸受ライナー20の内周面に配置される。外輪15の下端面は軸受ライナー20の内周面の凸部21の上面に当接している。
【0033】
転がり玉軸受3は、内輪4と外輪5との間に複数の玉6を設けて、玉6によって内輪4と外輪5とが相対的に回動自在にしている。回転軸2は内輪4の内周面に圧入されるなどして固定され、外輪5の外周面は軸受ライナー20の内周面に空隙を有して配置される。
【0034】
予圧装置100の上部の鍔部106の上面は軸受ライナー20の内周面の凸部21の下面に当接し、予圧装置100の下部の鍔部106の下面は転がり玉軸受3の外輪5にのみ当接する。転がり玉軸受3の外輪5は予圧装置100により下向きに荷重を受ける。転がり玉軸受3の外輪5に加わった荷重は、玉6、内輪4、回転軸2を経由し、転がり玉軸受10の内輪14、玉16、外輪15へと伝わる。これによって転がり玉軸受3および10に適切に予圧をかけることができる。
【0035】
図7は、図5とは別の予圧装置の例を示す図であって、(a)はより細いコイル状ばねを用いた場合を示す図であり、(b)はより太いコイル状ばねを用いた場合を示す図である。図中、図5と同じ構成部材には同じ参照番号を付し、詳しい説明は省略する。
【0036】
図7(a)の例では、予圧装置1100は、図5のコイル状ばね101の代わりにコイル状ばね1101を用いている。コイル状ばね1101はコイル状ばね101より細く、所望の予圧力を得ることができる。
【0037】
図7(b)の例では、予圧装置2100は、図5のコイル状ばね101の代わりにコイル状ばね2101を用いている。コイル状ばね2101はコイル状ばね101より太く、所望の予圧力を得ることができる。
【0038】
本実施の形態では、図5(b)、図7(a)、図7(b)のそれぞれにおいて、組み込まれたコイル状ばねを例えば目視やカメラ撮影等によって自動認識することが可能であり、所望の予圧力を得るための太さのコイル状ばねが組み込まれているかを容易に識別可能である。
【0039】
図8は、図1に示した予圧装置とは別の例を示す図であり、転がり玉軸受に予圧をかけるように組み込んだ状態を示す側断面図である。図中、図6と同じ構成部材には同じ参照番号を付し、詳しい説明は省略する。
【0040】
この例では、転がり玉軸受3および10を介して回転軸2を回動自在に保持している。本実施の形態では予圧装置3100によって転がり玉軸受3および10に予圧をかける構成としている。
【0041】
図6に示した予圧装置100では、ホルダー103を2つ用意し、この2つでコイル状ばね101をはさんで構成したが、この図8の例の予圧装置3100は、図8において上方のホルダーをホルダー103とは別のホルダー1103にしている。
【0042】
ホルダー1103は、環状の鍔部1106を有し、この鍔部1106によって、コイル状ばね101の弾性方向の端部を押さえ、対向するホルダー103との間にコイル状ばね101を保持する。
【0043】
上のホルダー1103と下のホルダー103との周方向の位置合わせは、上のホルダー1103の爪部1104と下のホルダー103の爪部105とが嵌まり、上のホルダー1103の爪部1105と下のホルダー103の爪部104とが嵌まるようにする。
【0044】
転がり玉軸受3および10は中空円筒状の軸受ライナー1020の内周面に配置されている。
【0045】
予圧装置3100のホルダー1103は、嵌合圧入によって軸受ライナー1020の内周面にホルダー1103の鍔部1106の外周面が固定され、ホルダー103の鍔部106が転がり玉軸受3の外輪5に荷重をかける。
【0046】
転がり玉軸受10の外輪15の下端面は、予圧装置3100のホルダー1103の鍔部1106の上端面に当接する。
【0047】
図6の例では、軸受ライナー20の内径円筒部に、転がり玉軸受10や予圧装置100の軸方向位置を設定するために、転がり玉軸受10や予圧装置100の受け部としての凸部21を設けるように内径円筒部の一部を径小にする必要がある。この場合、軸受ライナー20において上下の転がり玉軸受のそれぞれを収容する転がり玉軸受収容部の同軸度を得るためには高い加工技術が必要となる。
【0048】
図8の例のように、軸受ライナー1020の内径円筒部の一部に、ホルダー1103の鍔部1106を嵌合圧入固定する構造とすると、軸受ライナー1020において上下の転がり玉軸受のそれぞれを収容する転がり玉軸受収容部の同軸度を高い精度で容易に加工できるようになる。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、実施の形態については上記に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更および組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 モータ
2 回転軸
3、10 転がり玉軸受
4、14 内輪
5、15 外輪
6、16 玉
100 予圧装置
101 弾性部材(コイル状ばね)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり玉軸受の定圧予圧装置において、
中空であって弾性方向両側に開口を有する弾性部材と、前記弾性部材の両側の開口のそれぞれに挿入する2つのホルダーとを備え、
前記ホルダーが、前記弾性部材の開口に挿入したときに該挿入した開口の端部に当接して該弾性部材の弾性方向への延びを係止する鍔部と、前記弾性部材の反対側の開口から挿入した他のホルダーと係合して該他のホルダーとの離間を係止する爪部とを有し、
前記弾性部材の両側から挿入した前記ホルダー同士が前記爪部によって係合して、前記弾性部材を自由長より短く、且つ、予圧に必要な荷重を得られる長さに保持するとともに、前記弾性部材は前記ホルダーから露出して予圧装置を構成し、
前記予圧装置によって前記転がり玉軸受に予圧をかけるとき、前記転がり玉軸受が該転がり玉軸受の外輪でのみ前記予圧装置と接触することを特徴とする転がり玉軸受の予圧装置。
【請求項2】
前記転がり玉軸受と、前記転がり玉軸受の予圧装置は、円筒状の軸受ライナーの内周面に配置され、前記弾性部材の両側の前記ホルダーのうち、片側の前記ホルダーの外周面が、軸受ライナーの内周面と嵌合固定することを特徴とする請求項1に記載の転がり玉軸受の予圧装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の転がり玉軸受の予圧装置を有するモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−52569(P2012−52569A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193642(P2010−193642)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】