転がり軸受、搬送ロボット及びフィルム搬送装置
【課題】潤滑性が良く低トルクな転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪1と、外輪2と、該内外輪間に周方向に所定の間隔で配置された複数の玉3と、ポケット4内に玉3を転動自在に保持する保持器5と、を備えた転がり軸受10であって、保持器5は、隣接するポケット4間に、径方向に貫通する複数の貫通孔6又は複数のディンプルを有し、ポケット4と貫通孔6又はディンプルは金属製の扁平材からフォトファブリケーションにより一括に形成され、複数の貫通孔は、網目状に設けられている。
【解決手段】内輪1と、外輪2と、該内外輪間に周方向に所定の間隔で配置された複数の玉3と、ポケット4内に玉3を転動自在に保持する保持器5と、を備えた転がり軸受10であって、保持器5は、隣接するポケット4間に、径方向に貫通する複数の貫通孔6又は複数のディンプルを有し、ポケット4と貫通孔6又はディンプルは金属製の扁平材からフォトファブリケーションにより一括に形成され、複数の貫通孔は、網目状に設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、搬送ロボット及びフィルム搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイ(FPD)や太陽電池などの素材に用いられるフィルムの開発が盛んになされており、厚さが数ミクロン程度のものまで登場している。このフィルムは、図17に示すように、いくつかの駆動ローラ101と多数の従動ローラ102から構成されるフィルム搬送装置100で搬送されている。この従動ローラ102はフィルム104からの摩擦力で回転し、フィルム104を円滑に搬送したり、一つ前の従動ローラ102との相対位置を変化させることでフィルム104の上下方向の角度を変えたりする機能を果たしている。
【0003】
この従動ローラ102はフィルム104との摩擦力だけで回転しているため、フィルム104の走行速度とローラ表面の速度とが同一であることが重要で、そのため従動ローラ102は極めて小さい接線力で回転しなければならない。従って、このフィルム搬送装置100の従動ローラ102の支持軸受には、極めて小さなモーメントで回転起動し、その後、安定して回転し続ける、低トルク性能が求められている。
【0004】
従って、図18に示すプレス成形部品121で玉123を挟み込むいわゆる波形保持器122を用いた従来の転がり軸受120では、軸受120が回転する際は玉123が保持器122の全重量に起因する摩擦力を受けて回転し始めるため、起動トルクが大きくならざるを得ず、回転中も動摩擦トルクの変動が大きいため、フィルム搬送ローラの支持軸受としては好適とはいえない。それゆえ、従動ローラの支持軸受として使用される転がり軸受の保持器は、軽量化による低トルク化を図るため、図19及び図20に示すように厚みの薄い扁平形状とすることが考えられる。
【0005】
この保持器を金属で製作すると、保持器131、132が玉133からの圧力を受けて保持器131、132の広い範囲が内外輪に押し付けられて摺動し、保持器131、132の摩耗が著しく進行して潤滑剤が早期に劣化するおそれがあった。特に転がり軸受が真空環境中で使用される場合、潤滑剤に真空グリースや固体潤滑材等の真空環境対応の潤滑剤を用いるが、それらは常圧用のものに比べて潤滑性能が劣るため、より潤滑不良が生じやすい。
【0006】
一方、図21に示すように、保持器を用いずに負荷ボール145と負荷ボール145との間に無負荷ボール146を介在させることも考えられるが、無負荷ボール146の分だけ荷重容量が小さくなり高荷重容量化を望むことができなかった。また、無負荷ボール146を用いずに全て負荷ボール145とすると、高荷重容量化できるが、負荷ボール145同士が隣接するためその接触点で互いの回転速度方向が逆になり負荷ボール145の競り合いが生じ負荷ボール145の摩耗が極端に大きくなって耐久性能が低くなってしまう。
【0007】
これまで金属製保持器の摩耗を軽減するものとして種々の技術が提案されており、また一方で、金属製保持器による不具合を解消するため、転がり軸受に樹脂製の保持器を使用することが提案されている(例えば特許文献1〜6)。樹脂製の保持器は、金属製のものに比べて弾性変形しやすく、保持器が玉から圧力を受けた際に保持器が局所的に変形することで圧力を緩和し、保持器が広い範囲で内外輪に押し付けられて摺動するという状態が発生しにくくなるといった利点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第06/080527号
【特許文献2】特許第1964342号明細書
【特許文献3】特開平11−336772号公報
【特許文献4】特開平11−182552号公報
【特許文献5】特開2003−074561号公報
【特許文献6】特開2003−214438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの技術を適用してもフィルム搬送装置の従動ローラ用支持軸受として要求される潤滑性能や耐摩擦性能を十分に満たすことはできなかった。また、真空環境中で用いられる転がり軸受の場合、真空装置のベーキングや半導体製造工程の高温下での処理等により樹脂からの放出ガスが生じるため、樹脂製の保持器を使用することは好まれなかった。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、潤滑性が良く低トルクな転がり軸受、搬送ロボット及びフィルム搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内輪と、外輪と、該内外輪間に周方向に所定の間隔で配置された複数の玉と、ポケット内に前記玉を転動自在に保持する保持器と、を備えた転がり軸受であって、
前記保持器は、隣接する前記ポケット間に、径方向に貫通する複数の貫通孔を有し、
前記ポケットと前記貫通孔は金属製の扁平材からフォトファブリケーションにより一括に形成され、
前記複数の貫通孔は、網目状に設けられていることを特徴とする転がり軸受。
(2)前記貫通孔は、周方向に頂角を持つように傾斜した矩形形状を有することを特徴とする(1)に記載の転がり軸受。
(3)前記隣接するポケット間距離は、前記玉の直径の2倍以下に設定されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の転がり軸受。
(4)前記保持器は、前記ポケットがそれぞれ軸方向一方側に開口する開口部を有し、前記開口部を下にしたとき、前記軸方向一方側の保持器端部が前記玉の最下点位置と略等しい位置にあることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の転がり軸受。
(5)前記保持器の厚さは、0.1mm〜2mmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の転がり軸受。
(6)前記内輪の軌道面,前記外輪の軌道面,及び前記転動体の転動面の少なくとも一つを、1〜10g/m2の厚みの潤滑被膜で覆うか、又は、以下の3種の潤滑被膜のいずれか一つで覆ったことを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の転がり軸受。
(i)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとを含有する潤滑被膜
(ii)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
(iii)アルキル化シクロペンタン又はポリフェニルエーテルを主成分とする潤滑剤とふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
(7)軸受内径IDと径方向幅Δdとの関係がΔd/ID<0.187を満たすことを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の転がり軸受。
(8)真空環境下で使用されることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載の転がり軸受。
(9)(1)乃至(8)のいずれかに記載の転がり軸受を備えた搬送ロボット。
(10)(1)乃至(8)のいずれかに記載の転がり軸受を備えたフィルム搬送装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の(1)に記載の転がり軸受によれば、隣接するポケット間に、径方向に貫通する複数の貫通孔又は複数のディンプルを有するので、複数の貫通孔又はディンプルが潤滑剤の油溜まりとして機能し、潤滑剤が滞留し潤滑不良になるのを抑制することができる。また、複数の貫通孔又はディンプルにより金属製の保持器が可撓性を有するため、玉からの圧力を緩和し内外輪との摺動面積や摺動頻度を軽減することができる。さらに、複数の貫通孔又はディンプルにより保持器が軽量化され低トルク化を図ることができる。また、複数の貫通孔が網目状に設けられているので潤滑剤の滞留がよく、可撓性がよく、潤滑性能及び耐摩擦性能をさらに向上させることができる。
【0013】
本発明の(2)に記載の転がり軸受によれば、周方向に頂角を持つように傾斜した矩形形状とすることで、矩形形状の角部が動圧溝でいうヘリングボーンとして機能するばかりか、傾斜角度を持たない場合に比べて内外輪対向面内の力学的等方性が優れるので可撓性が等方的になり、玉からどの方向の圧力に対しても弾性変形が生じやすくなる。
【0014】
本発明の(3)に記載の転がり軸受によれば、隣接するポケット間距離は、玉の直径の2倍以下に設定されているので、多くの玉を装填可能であり、それに比例して荷重容量を大きくすることができる。
【0015】
本発明の(4)に記載の転がり軸受によれば、軸方向一方側に開口する開口部を有するので、軸方向一方側から保持器を装着することができ組付け性を向上させることができる。また、ポケット開口部を下にしたとき、軸方向一方側の保持器端部が玉の最下点位置と略等しい位置にあるので、スカート部が短くなった分だけ重量が軽減されるとともに内外輪との対向面積が少なくなるため、摩擦面積が減少した分、低トルク化を図ることができる。さらに、保持器組付け時にパチン代をのり越える際に発生することがあるスカート部の塑性変形を抑制することができる。
【0016】
本発明の(5)に記載の転がり軸受によれば、剛性を維持するとともにフォトファブリケーションにおける製造時間を短縮することができる。
【0017】
本発明の(6)に記載の転がり軸受によれば、真空環境下において放出ガス量を低減することができる。
【0018】
本発明の(7)に記載の転がり軸受によれば、薄肉軸受に適用することにより内外輪に押し付けられた保持器と内外輪とが摺動して保持器が玉から外れてしまう、薄肉軸受に見られる損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図2】図1の転がり軸受から保持器を分離して示した斜視図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る転がり軸受から保持器を分離して示した斜視図である。
【図6】フォトファブリケーション後の扁平材を環状に溶接して形成する過程の模式図であり、(A)はフォトファブリケーション後の扁平材の斜視図、(B)は扁平材をプレス成形して環状にした斜視図、(C)は扁平材の長手方向両端部を重畳して溶接することにより形成した保持器の斜視図である。
【図7】図5の保持器の重畳部の拡大図である。
【図8】両端部先端を突き合わせて溶接した突き合わせ部の拡大図である。
【図9】図5の転がり軸受から外輪を外した状態を示す側面図である。
【図10】図9の保持器のスカート部を短くした状態を示す側面図である。
【図11】図9の保持器のスカート部が塑性変形した状態を示す斜視図である。
【図12】ガス放出量試験装置の断面図である。
【図13】被膜厚さと放出ガス量、耐久性の関係を示すグラフである。
【図14】放出ガス量の比較データを示すグラフである。
【図15】潤滑被膜の温度と総サイクル数の関係を示すグラフである。
【図16】(A)は動摩擦トルク試験装置の外観斜視図であり、(B)は(A)の破線部の拡大図である。
【図17】フィルム搬送装置の部分斜視図である。
【図18】従来の転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図19】従来の他の転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図20】従来の他の転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図21】従来の他の転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る転がり軸受の各実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで、転がり軸受は、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、4点接触玉軸受などの種類があるが、以下の説明においては、外輪の軸方向一方側にカウンタボアが形成されたアンギュラ玉軸受又は深溝玉軸受を例に説明するが、これに限定されるものではない。<第1実施形態>
本実施形態の転がり軸受10は、図1に示すように、内輪1と、外輪2と、該内輪1と外輪2間に周方向に所定の間隔で配置された複数の玉3と、ポケット4内に玉3を転動自在に保持する保持器5と、を備えたアンギュラ玉軸受であって、軸受内径IDと径方向幅Δdとの関係がΔd/ID<0.187を満たす薄肉軸受である。なお、径方向幅Δdは、軸受外径と軸受内径の差の1/2を意味する。
【0021】
保持器5は、図1に示すように、金属性の扁平材から構成された環状の保持器であり、周方向に所定の間隔で形成されたポケット4と保持器表面全体に亘って網目状に配置された径方向(厚み方向)に貫通する複数の貫通孔6が扁平材からフォトファブリケーションで一括形成されたものであり、周方向で隣接するポケット4間には柱部7が形成されている。金属性の扁平材としてその材質は特に限定されるものではないが、容易に塑性変形しない、ばね限界値の大きい材料、例えばSUS304及びSUS301のテンションアニールされたステンレスばね用鋼板、SUS631等の析出硬化されたステンレスばね用鋼板、S60CやS65Cをベーナイト処理したベーナイト鋼帯、あるいはS60C、S65Cに加えてSK85、SK95、SKS81等の工具鋼の焼き入れ鋼帯等を用いるのが好ましい。特に、SK85、S95等の焼き入れ鋼帯はじん性が高いので、薄くて変形しにくい必要がある本発明の保持器には好適である。また、保持器5の厚みは、0.1mm〜2mm程度が好ましく、0.1mm〜1mm程度がさらに好ましい。この厚みにすることにより、剛性を維持するとともにフォトファブリケーションにおける製造時間を短縮することができる。
【0022】
ここでフォトファブリケーション(Photo Fabrication)とは、光学的転写技術、フォトリソグラフィー(Photo Lithography)を用いた加工技術の総称で、フォトエッチング(Photo Etching)、フォトフォーミング(Photo Forming)、リフトオフ(Lift-Off)及びそれらを複合した加工技術全体を意味し、材料表面を化学的、または電気化学的に溶解させたり、材料表面に金属を堆積させたり、写真的技法を用いて行なうこの精密加工方法を総称したものある。
【0023】
フォトエッチングを例に説明すると、金属性の扁平材を用いて厚み方向両側からフォトエッチングを行なう。このとき、片側からのみ行うこともできるが、両側からフォトエッチングを行うことが好ましい。フォトエッチングは表面から厚み方向深部に掘り進む際に表面の方が材料が多く削り取られる傾向があり、例えば0.2mmの扁平材に貫通孔を設ける場合、片側からフォトエッチングを行うと、表面と貫通した後の裏面とでは、孔の径寸法に20〜40μm程度の大きさの違いが生じる。そんため、板厚中央で、孔が連通してポケット4及び貫通孔6を形成するように表裏両方からフォトエッチングを行なうことが好ましい。
【0024】
ポケット4は、隣接するポケット間距離が玉3の直径の2倍以下になるように設定され、各ポケット4には軸方向一方側に開口部41が形成され、開口部41には玉3の抜けを防止するパチン代が設けられている。
【0025】
各貫通孔6は、周方向に頂角を持つように傾斜した矩形形状を呈しているが、円形であっても傾斜しない矩形など任意の形状とすることができる。周方向に頂角を持つように傾斜した矩形形状とすることで、矩形形状の角部が動圧溝でいうヘリングボーンとして機能するばかりか、傾斜角度を持たない場合に比べて内外輪対向面内の力学的等方性が優れるので可撓性が等方的になり、玉3からどの方向の圧力に対しても弾性変形が生じやすくなる。この点で孔の形状が六角形で頂角が周方向に向いていることが機能的に最も好ましい。
【0026】
この転がり軸受10は、図2で示すように、内輪1と外輪2との間に玉3を組み込んだ組立体の軸方向から、フォトファブリケーション後環状に溶接された保持器5を装填することで組立てられる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の転がり軸受10によれば、保持器5のポケット4及び複数の貫通孔6は、金属性の扁平材からフォトファブリケーションにより一括に形成されるので、ポケット4及び貫通孔6の周囲にバリやカエリを生じることなく表面を平滑に保ったまま、保持器5の外郭とポケット4と貫通孔6を同時に形成することができる。
【0028】
また、保持器5の隣接するポケット4間に径方向に貫通する複数の貫通孔6が設けられているので、複数の貫通孔6は油溜まりとして機能し潤滑剤を保持することで転がり軸受10の潤滑不足を低減することができる。ここで、各貫通孔6の大きさが大きすぎると油溜まりとして機能できなくなるばかりか、剛性が低くなってしまうため、対向する頂角間距離を直径とする円に換算した場合にその径が0.2mm〜1mmの範囲内であることが好ましい。0.2mm以下であれば、フォトファブリケーションで安定的に形成できなくおそれがある。
【0029】
また、複数の貫通孔6により保持器5が可撓性を有するので玉3からの圧力を局所的に弾性変形することで緩和し、内外輪1,2との摺動面積や摺動頻度を軽減する機能を有する。また、金属製の保持器5であるため、真空装置のベーキングや処理工程によって200℃を超える高温になったとしても樹脂保持器に懸念される熱変形や多量の放出ガスを生じることがないにも関わらず、樹脂保持器のような局所的な弾性作用を得ることができる。従って、保持器5は、耐熱性を有する金属製保持器の利点と可撓性を有する樹脂製保持器の利点をあわせもっている。
【0030】
さらに、保持器5は扁平材から構成されるとともに、貫通孔6の分だけ軽量化することができ、軸受の低トルク化を図ることができる。
【0031】
また、保持器5は、隣接するポケット4間距離が玉3の直径の2倍以下になるように設定されているので、負荷ボールと無負荷ボールとを交互に配置するアンギュラ薄肉軸受と比べて玉数を1〜1.7倍程度に増やすことで荷重容量を1〜1.7倍程度に増やすことができる。
【0032】
なお、各貫通孔6の代わりに、保持器5の板厚の途中まで窪んで底のあるディンプルを設けてもよい。ディンプルは、フォトエッチングにより一方の面に孔を設けて、他方の面に設けないようにして孔が板厚の途中まで掘り込まれた止まり孔とすることにより形成することができる。ディンプルであっても、油溜まりとして機能するのはもちろん、厚みの薄い部分が多数形成されることで可撓性が付与され、玉3からの圧力を緩和することができる。
【0033】
また、貫通孔6又はディンプルの形状、大きさは保持器全体で画一である必要はなく、例えば内輪1と外輪2の非軌道面(軌道面以外の面)に対向する部分には小さい径の貫通孔6又はディンプルを配置して耐摩擦性能を選択的に改善したり、幅の細い柱部7には剛性を確保するため貫通孔6又はディンプルを形成しなくてもよい。なお、貫通孔6とディンプルを混在させてもよい。
【0034】
<第2実施形態>
次に第2実施形態の転がり軸受について図3を参照して説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
第2実施形態の転がり軸受10Aは、複数の保持器片5Aを組み合わせて1つの環状の保持器5Bを構成するものである。
各保持器片5Aには、第1実施形態の保持器5と同様に、周方向に所定の間隔で形成されたポケット4と保持器表面全体に亘って網目状に配置された径方向(厚み方向)に貫通する複数の貫通孔6がフォトファブリケーションで一括形成されている。
そして、各保持器片5Aは端部に半割れポケット4aが形成されており、隣接する保持器片5Aの端部に形成された半割れポケット4aで玉3を挟むことで隣接する保持器片5A同士が重畳することなく1つの環状の保持器5Bを形成している。即ち、複数の玉3のうち保持器片5Aの端部に位置する玉3は隣接する2つの保持器片5Aの半割れポケット4aにより形成される1つのポケット4bに挟持され、他の玉3は1つの保持器片5Aのポケット4に保持されている。
本実施形態の転がり軸受10Aにおいても第1実施形態の転がり軸受10と同様の作用効果を得ることができ、さらに本実施形態の転がり軸受10Aによれば、扁平材の長手方向両端部を溶接する溶接処理を省略することができる。
【0035】
<第3実施形態>
次に第3実施形態の転がり軸受について図4を参照して説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
第3実施形態の転がり軸受10Bは、保持器5Cの各ポケットには軸方向一方側に開口部が形成されておらず球状の各ポケット4cに玉3が保持されている。
保持器5Cには、第1実施形態の保持器5と同様に、周方向に所定の間隔で形成されたポケット4cと保持器表面全体に亘って網目状に配置された径方向(厚み方向)に貫通する複数の貫通孔6がフォトファブリケーションで一括形成されている。
この転がり軸受10Bは、保持器5Cに玉3を組み込んで内輪1と一体に保持し、熱して拡径させた外輪2のカウンタボア2a側から装填し組立てられている。
本実施形態の転がり軸受10Bにおいても第1実施形態の転がり軸受10と同様の作用効果を得ることができ、さらに本実施形態の転がり軸受10Bによれば、玉3はポケット4cに囲繞されているので軸受の潤滑剤が劣化して、保持器5Cと内外輪1、2との摺動が発生しても保持器5Cが外れることがない。
【0036】
<第4実施形態>
次に第4実施形態の転がり軸受について図5を参照して説明する。
第4実施形態の転がり軸受10Cは、図5に示すように、内輪1と、外輪2と、該内輪1と外輪2間に周方向に所定の間隔で配置された複数の玉3と、ポケット4内に玉3を転動自在に保持する保持器5Dと、を備えた深溝玉軸受であり、薄肉軸受ではない点で第1〜第3実施形態の転がり軸受10、10A、10Bと相違している。
【0037】
保持器5Dは、金属性の扁平材から構成された環状の保持器であり、周方向に所定の間隔で形成されたポケット4と保持器表面全体に亘って網目状に配置された径方向(厚み方向)に貫通する複数の貫通孔6がフォトファブリケーションで一括形成されたものであり、周方向で隣接するポケット4間には柱部7が形成されている。
【0038】
ポケット4は、隣接するポケット間距離が玉3の直径の2倍以下になるように設定され、各ポケット4には軸方向一方側に開口部41が形成され、開口部41には玉3の抜けを防止するパチン代が設けられている。
【0039】
この転がり軸受10Cは、内輪1と外輪2との間に玉3を組み込んだ組立体の軸方向から、フォトファブリケーション後環状に溶接された保持器5Dを装填することで組立てられる。
【0040】
図6はフォトファブリケーション後の扁平材を環状に溶接して形成する過程の模式図であり、図7は保持器5Dの重畳部の拡大図である。
図6(A)に示すフォトファブリケーション後の扁平材50は、ポケット4と網目状の貫通孔6に加えて、長手方向両端部51、52をハーフエッチングすることにより長手方向両端部51、52に板厚方向で互いに反対方向に窪んだ凹部53が形成されている。長手方向両端部51、52は、長手方向において同じ長さを有し、板厚の略半分の厚さとなっている。そして、この扁平材50をプレス成形により環状に丸め(図6(B))、長手方向両端部51、52を重ね合わせた重畳部54の少なくとも一部を溶接して環状の保持器5Dを形成している(図6(C))。重畳部54は、板厚の略半分の厚さの長手方向両端部51、52を重ね合わせたものであるので、その内外周面は略面一となってなだらかな曲面をなしている。
【0041】
本実施形態の転がり軸受10Cにおいても第1実施形態の転がり軸受10と同様の作用効果を得ることができる。さらに、本実施形態の転がり軸受10Cによれば、フォトファブリケーションにおいて、重畳部54を構成する扁平材50の長手方向両端部51、52は重畳して溶接した状態で略面一となるようにハーフエッチングされて構成されるので、長手方向両端部51、52同士を突き合わせた突き合わせ部55を溶接した図8に示す保持器5Eに比べて、溶接の出来栄えによって突き合わせ部55に凹凸が生じて真円度が低下し、軸受の回転に伴って凸部が内外輪と摺動して軸受トルクが増大、変動するのを抑制することができる。これにより、扁平材50から容易に環状の保持器5Dを製造することができ、保持器5Dと内外輪1、2との摺動を抑制し低トルク化を図ることができる。なお、この溶接方法について、第1及び第3実施形態の保持器5、5Cにも適用することができる。
【0042】
本実施系形態においては、長手方向両端部51、52をハーフエッチングすることにより、長手方向両端部51、52に凹部を形成したが、これに限定されず、長手方向両端部51、52にそれぞれ凹凸を設けて重畳した状態で互いの凹凸が係合して面一となるように形成してもよい。これにより、重畳部の凹凸の係合により周方向のせん断力に対する剛性を向上させることができる。
なお、本発明においては、端部同士を溶接して環状に形成した図8の保持器5Eを排除するものではない。
【0043】
図9は、外輪2を取り除いた本実施形態の転がり軸受10Cを示す斜視図である。図9に示すように、保持器5Dにおいては柱部7の軸方向略中央部に玉3の中心が位置している。即ち、保持器5Dの軸方向長さが玉3の中心に対し等配されているが、図10に示すように、転がり軸受10Cのポケット4の開口部41を下にして置いたとき、柱部7の開口側端部75を玉3の最下点位置と略等しくなるようにしてもよい。
【0044】
このように柱部7の開口側端部75を短くすることで、内外輪1、2に対向する保持器5Dの対向面積が小さくなるので、摺動による摩擦抵抗を低減することができ、さらに減少した面積分だけ軽量化されるので低トルク化することができる。また、柱部7の最も細い部分から開口側端部75までの距離が短くなり、パチン代をのり越える際に図11に示すように柱部7が塑性変形することを防止できる。なお、開口側端部75が遠ければ遠いほど小さな力で塑性変形するため柱部7をより短くすることが好ましいが、開口部41を下にして置いたときに少なくとも開口側端部75が玉3の中心位置より下側にないとパチン代を確保できないため、開口側端部75が玉3の最下点位置と略等しいことが好ましい。
【0045】
次に上述した転がり軸受10〜10Cに適用される潤滑剤について説明する。
内輪1及び外輪2の軌道面、玉3の転動面には、潤滑油又はグリースからなる潤滑被膜が形成されている。この潤滑被膜を、ふっ素油被膜か、若しくは、以下の3種の潤滑被膜(以降はDFO潤滑剤と記す)のうちのいずれか一つとすることが好ましい。
【0046】
(i)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとを含有する潤滑被膜(ii)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
(iii)アルキル化シクロペンタン又はポリフェニルエーテルを主成分とする潤滑剤とふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
このようなふっ素油被膜又はDFO潤滑剤による潤滑法は、低発塵性及び低アウトガス性が非常に優れており、清浄度の極めて高い環境下や高真空環境下において好適に使用可能である。
【0047】
<ふっ素油被膜>
図12の試験装置で潤滑剤のガス放出量について調べた。この装置は、オリフィス71を介して左右に分けられた第1の真空槽72および第2の真空槽73と、ターボポンプ74と補助ポンプ75とヒータ76と各真空槽72、73に設けた真空計77、78とからなる。ヒータ76は、第1の真空槽72に設けた転がり軸受10を置く台79を加熱する。
【0048】
ヒータ76により第1の真空槽72内に設置した転がり軸受10を100℃に加熱し、ターボポンプ74と補助ポンプ75で、第2の真空槽73を排気する。第1の真空槽72はオリフィス71で第2の真空槽73と連通しているため、第2の真空槽73も真空になる。転がり軸受10から放出されたガスはオリフィス71を通過して、第2の真空槽73に移動する。第1の真空槽72の真空計77で測定された圧力P1と、第2の真空槽73の真空計78で測定された圧力P2から下記の(1)式により、オリフィス71を通過したガス量Qが算出できる。Cはオリフィス71のコンダクタンスである。
Q=C(P1−P2)‥‥(1)
【0049】
この装置を使用して、転がり軸受10の軌道面にふっ素油の被膜を、0.5g/m2 、1.0g/m2 、1.5g/m2 、2.0g/m2 、3.0g/m2 、5.0g/m2 、10.0g/m2 、15.0g/m2 の各量となるように形成した場合の、100℃での放出ガス量を測定した。その結果を図13のグラフに曲線Aで示す。図13のグラフの直線Bは、転がり軸受10の軸受空間にふっ素グリースを軸受空間体積の10%充填して、図12の装置を用いて放出ガス量を測定した場合の結果を示す。
【0050】
このグラフから、ふっ素油被膜量が12g/m2 以上になると、ふっ素油被膜からの放出ガス量がふっ素グリースの場合の放出ガス量より多くなる。よって、ふっ素油被膜量は10g/m2 以下とすることが好ましい。
また、転がり軸受10の軌道面に0.5g/m2 、1.0g/m2 、1.5g/m2 のふっ素油被膜を形成して、回転試験を行った。試験条件は、軸受姿勢:垂直軸、回転速度:200/min(一方向回転)、温度:100℃、圧力環境:真空であり、軸受トルクが初期値の2倍を超えた時の総回転数を寿命とした。また、総回転数が1.0×107 を超えても軸受トルクが初期値の2倍を超えない場合は、その時点で試験を打ち切った。
【0051】
その結果も図13に「△」で示してある。図13において矢印は試験打ち切りを意味し、ふっ素油被膜量が1.0g/m2 以上で、良好な耐久性が得られることが分かる。これらの結果から、ふっ素油被膜量は1.0g/m2 以上10g/m2 以下とすることが好ましい。
【0052】
<DFO被膜>
転がり軸受10の軌道面に2.0g/m2 のDFO被膜を形成して、上記と同じ方法で100℃での放出ガス量を測定した。図14は、その測定した放出ガス量の結果を示す。このグラフから、PFPE基油とMAC基油の場合は、ふっ素油被膜を形成した場合よりも放出ガス量が少なかった。
【0053】
また、これらの潤滑被膜を形成した各転がり軸受を不図示の回転試験機に取り付けて、±45°の揺動を行い耐久性を調べた。試験条件は、回転速度:150/min、温度:100℃、130℃、150℃、圧力環境:真空であり、軸受トルクが初期値の2倍を超えた時の総サイクル数を寿命とした。また、総サイクル数が5×106 を超えても軸受トルクが初期値の2倍を超えない場合は、その時点で試験を打ち切った。その結果を図15のグラフに示す。この結果から、転がり軸受の潤滑被膜をDFO被膜とした方がふっ素油被膜とした場合よりも耐久性に優れていることが分かる。この結果から、DFO潤滑は、転がり軸受の潤滑被膜はDFO被膜の方がふっ素油被膜よりもより耐久性に優れていることが分かる。
【0054】
<実施例>
次に本発明の転がり軸受を用いた耐久試験と動摩擦トルク試験について説明する。
【0055】
< 耐久試験1>
試験用軸受として、内径約200mmの4種類の軸受を用いて、耐久試験を行なった。試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。
【0056】
−試験用軸受−
【0057】
【表1】
【0058】
−試験条件−
・軸受姿勢:垂直軸
・回転速度:40/min
・温度:常温
・回転方向:揺動±90°
・荷重条件:アキシャル荷重のみ
・圧力環境:真空
・終了条件:軸受トルクが初期値の2倍を越えたとき、又は、総回転数が1.0×107回(サイクル)を超えたとき
【0059】
耐久試験の結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
この結果から、ふっ素油塗布潤滑であってもDFO潤滑であっても、実施例1及び2の本発明の薄肉軸受の方が耐久性が向上していることが分かる。また、ふっ素塗布潤滑の場合は、実施例1と比較例1を比較して、実施例1の方が比較例1よりも約5倍の耐久性能を示しているのに対し、DFO潤滑の場合は、実施例2と比較例2を比較して、実施例2の方が比較例2よりも10倍超の耐久性能を示している。従って、本発明の薄肉軸受はDFO潤滑の耐久性能をより高める効果があるといえる。
【0062】
< 耐久試験2>
試験用軸受として、内径約200mmの4種類の軸受を用いて、耐久試験を行なった。試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。なお、表3中、玉数比は比較例4の図21に記載の転がり軸受のスペーサボールによるセパレート方式(以降、スペーサボール形式と記す。)の保持器における負荷ボール145の装填個数を1として、それを基準に玉数の比をとったものである。実施例3は玉(負荷ボール)を全ポケットに装填せずに間引いて配置したものである。
【0063】
−試験用軸受−
【0064】
【表3】
【0065】
−試験条件−
・軸受姿勢:垂直軸
・回転速度:40/min
・温度:常温
・回転方向:揺動±90°
・荷重条件:アキシャル荷重のみ
・圧力環境:真空
・終了条件:軸受トルクが初期値の2倍を越えたとき、又は、総回転数が1.0×107回(サイクル)を超えたとき
【0066】
耐久試験の結果を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
この結果から、比較例3の場合は、玉数比が1.5倍であっても走行距離は105台であるのに対し、実施例1の保持器に変更すると玉数比が1倍であるにもかかわらず、耐久性能が向上し、スペーサボール形式の比較例4とほぼ同等となっている。さらに、実施例4のように玉数比を1.5倍にした場合、格段に耐久性能が向上している。これにより、本発明の薄肉軸受によれば、潤滑性能の向上と耐荷重性能の向上の両者に同時に寄与していることが分かる。
【0069】
< 耐久試験3>
試験用軸受として、内径約200mmの4種類の軸受を用いて、耐久試験を行なった。試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。
【0070】
−試験用軸受−
【0071】
【表5】
【0072】
−試験条件−
・軸受姿勢:垂直軸
・回転速度:40/min
・温度:常温
・回転方向:揺動±90°
・荷重条件:アキシャル荷重のみ
・圧力環境:真空
・終了条件:軸受トルクが初期値の2倍を越えたとき、又は、総回転数が1.0×107回(サイクル)を超えたとき
【0073】
耐久試験の結果を表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
この結果から、ふっ素油塗布潤滑であってもDFO潤滑であっても、実施例5及び6の本発明の薄肉軸受の方が耐久性が向上していることが分かる。また、ふっ素塗布潤滑の場合は、実施例5と比較例5を比較して、実施例5の方が比較例5よりも約4倍の耐久性能を示した。また、DFO潤滑の場合は、実施例6と比較例6を比較して、実施例6の方が比較例6よりも3倍超の耐久性能を示した。
< 耐久試験4>
試験用軸受として、内径約15mmの4種類の軸受を用いて、耐久試験を行なった。
試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。
【0076】
−試験用軸受−
【0077】
【表7】
【0078】
−試験条件−
・軸受姿勢:垂直軸
・回転速度:1000/min
・温度:常温
・回転方向:一方向回転
・荷重条件:アキシャル荷重とモーメント荷重の複合
・圧力環境:真空
・終了条件:軸受トルクが初期値の2倍を越えたとき、又は、総回転数が1.0×108回(サイクル)を超えたとき
【0079】
耐久試験の結果を表8に示す。
【0080】
【表8】
【0081】
この結果から、ふっ素油塗布潤滑の場合は、実施例7と比較例7を比較して、波形保持器と本発明の保持器とは耐久性において優劣がないが、DFO潤滑の場合は、実施例8と比較例8を比較して、実施例8の方が比較例8よりも耐久性能が向上していることがわかる。
また、比較例7と比較例8を比較すると、ふっ素油塗布潤滑の場合に比べてDFO潤滑の方が耐久性が向上していて、DFO潤滑による耐久性向上の効果が表れているが、本発明の実施例7と実施例8を比較すると、さらに耐久性が向上して実施例8においては試験打ち切りとなっている。従って、本発明の転がり軸受はDFO潤滑の耐久性能をより高める効果があるといえる。
【0082】
< 動摩擦トルク試験1>
図16の試験装置で転がり軸受の動摩擦トルクについて調べた。この装置は、同軸配置された2個の試験軸受200の内輪201に回転軸202を装填して予圧荷重を負荷し、該2個の転がり軸受200の中間点から接線方向に糸を伸ばして、その端に接続されたフォースゲージ203により回転軸202を回転させた場合の外輪204の連れ回りの接線力を測定し、そこから軸受トルクを算出するものである。
試験用軸受として、内径約15mmの2種類の軸受を用いて、動摩擦トルク試験を行なった。試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。
【0083】
−試験用軸受−
【0084】
【表9】
【0085】
−試験条件−
・軸受姿勢:水平軸
・回転速度:300/min、1000/min
・温度:常温
・回転方向:一方向回転
・荷重条件:アキシャル荷重(予圧荷重)のみ
・圧力環境:常圧
・測定項目:動摩擦トルク(接線方向荷重)、30分連続運転後の動摩擦トルクを採用
【0086】
動摩擦トルク試験の結果を表10に示す。なお、動摩擦トルク比とは、比較例9の動摩擦トルク(1軸受分)を1とした場合の、動摩擦のトルク比を表わしている。
【0087】
【表10】
【0088】
この結果から、本発明の転がり軸受は、低トルク化に大きな効果があることが分かった。また、実施例9と実施例10を比較して、柱部7の開口側端部75を短くすることでさらにトルクを低くすることが分かった。これにより、トルクの極めて小さい転がり軸受を構築することができる。
【0089】
< 動摩擦トルク試験2>
試験用軸受として、内径約15mmの2種類の軸受をそれぞれ10個ずつ用意し動摩擦トルク試験を行なった。試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。
【0090】
−試験用軸受−
【0091】
【表11】
【0092】
−試験条件−
・軸受姿勢:水平軸
・回転速度:300/min、1000/min
・温度:常温
・回転方向:一方向回転
・荷重条件:アキシャル荷重(予圧荷重)のみ
・圧力環境:常圧
・測定項目:動摩擦トルク(接線方向荷重)、30分連続運転後の動摩擦トルクを採用
【0093】
動摩擦トルク試験の結果を表12に示す。なお、表12中、実施例22〜32の動摩擦トルク(1軸受分)の平均値を1とした場合の動摩擦トルク比を表わしている。
【0094】
【表12】
【0095】
この結果から、ハーフエッチング処理を施さないものに比べてハーフエッチング処理を施したものは、低トルク化に大きな効果があることが分かった。このように、ハーフエッチング処理を施し重畳して溶接することでトルクの極めて小さい転がり軸受を構築することができる。
【0096】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 内輪
2 外輪
3 玉
4 ポケット
5、5B、5C、5D、5E 保持器
6 貫通孔
10、10A、10B、10C 転がり軸受
41 開口部
51、52 長手方向端部
53 凹部
54 重畳部
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、搬送ロボット及びフィルム搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイ(FPD)や太陽電池などの素材に用いられるフィルムの開発が盛んになされており、厚さが数ミクロン程度のものまで登場している。このフィルムは、図17に示すように、いくつかの駆動ローラ101と多数の従動ローラ102から構成されるフィルム搬送装置100で搬送されている。この従動ローラ102はフィルム104からの摩擦力で回転し、フィルム104を円滑に搬送したり、一つ前の従動ローラ102との相対位置を変化させることでフィルム104の上下方向の角度を変えたりする機能を果たしている。
【0003】
この従動ローラ102はフィルム104との摩擦力だけで回転しているため、フィルム104の走行速度とローラ表面の速度とが同一であることが重要で、そのため従動ローラ102は極めて小さい接線力で回転しなければならない。従って、このフィルム搬送装置100の従動ローラ102の支持軸受には、極めて小さなモーメントで回転起動し、その後、安定して回転し続ける、低トルク性能が求められている。
【0004】
従って、図18に示すプレス成形部品121で玉123を挟み込むいわゆる波形保持器122を用いた従来の転がり軸受120では、軸受120が回転する際は玉123が保持器122の全重量に起因する摩擦力を受けて回転し始めるため、起動トルクが大きくならざるを得ず、回転中も動摩擦トルクの変動が大きいため、フィルム搬送ローラの支持軸受としては好適とはいえない。それゆえ、従動ローラの支持軸受として使用される転がり軸受の保持器は、軽量化による低トルク化を図るため、図19及び図20に示すように厚みの薄い扁平形状とすることが考えられる。
【0005】
この保持器を金属で製作すると、保持器131、132が玉133からの圧力を受けて保持器131、132の広い範囲が内外輪に押し付けられて摺動し、保持器131、132の摩耗が著しく進行して潤滑剤が早期に劣化するおそれがあった。特に転がり軸受が真空環境中で使用される場合、潤滑剤に真空グリースや固体潤滑材等の真空環境対応の潤滑剤を用いるが、それらは常圧用のものに比べて潤滑性能が劣るため、より潤滑不良が生じやすい。
【0006】
一方、図21に示すように、保持器を用いずに負荷ボール145と負荷ボール145との間に無負荷ボール146を介在させることも考えられるが、無負荷ボール146の分だけ荷重容量が小さくなり高荷重容量化を望むことができなかった。また、無負荷ボール146を用いずに全て負荷ボール145とすると、高荷重容量化できるが、負荷ボール145同士が隣接するためその接触点で互いの回転速度方向が逆になり負荷ボール145の競り合いが生じ負荷ボール145の摩耗が極端に大きくなって耐久性能が低くなってしまう。
【0007】
これまで金属製保持器の摩耗を軽減するものとして種々の技術が提案されており、また一方で、金属製保持器による不具合を解消するため、転がり軸受に樹脂製の保持器を使用することが提案されている(例えば特許文献1〜6)。樹脂製の保持器は、金属製のものに比べて弾性変形しやすく、保持器が玉から圧力を受けた際に保持器が局所的に変形することで圧力を緩和し、保持器が広い範囲で内外輪に押し付けられて摺動するという状態が発生しにくくなるといった利点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第06/080527号
【特許文献2】特許第1964342号明細書
【特許文献3】特開平11−336772号公報
【特許文献4】特開平11−182552号公報
【特許文献5】特開2003−074561号公報
【特許文献6】特開2003−214438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの技術を適用してもフィルム搬送装置の従動ローラ用支持軸受として要求される潤滑性能や耐摩擦性能を十分に満たすことはできなかった。また、真空環境中で用いられる転がり軸受の場合、真空装置のベーキングや半導体製造工程の高温下での処理等により樹脂からの放出ガスが生じるため、樹脂製の保持器を使用することは好まれなかった。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、潤滑性が良く低トルクな転がり軸受、搬送ロボット及びフィルム搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内輪と、外輪と、該内外輪間に周方向に所定の間隔で配置された複数の玉と、ポケット内に前記玉を転動自在に保持する保持器と、を備えた転がり軸受であって、
前記保持器は、隣接する前記ポケット間に、径方向に貫通する複数の貫通孔を有し、
前記ポケットと前記貫通孔は金属製の扁平材からフォトファブリケーションにより一括に形成され、
前記複数の貫通孔は、網目状に設けられていることを特徴とする転がり軸受。
(2)前記貫通孔は、周方向に頂角を持つように傾斜した矩形形状を有することを特徴とする(1)に記載の転がり軸受。
(3)前記隣接するポケット間距離は、前記玉の直径の2倍以下に設定されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の転がり軸受。
(4)前記保持器は、前記ポケットがそれぞれ軸方向一方側に開口する開口部を有し、前記開口部を下にしたとき、前記軸方向一方側の保持器端部が前記玉の最下点位置と略等しい位置にあることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の転がり軸受。
(5)前記保持器の厚さは、0.1mm〜2mmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の転がり軸受。
(6)前記内輪の軌道面,前記外輪の軌道面,及び前記転動体の転動面の少なくとも一つを、1〜10g/m2の厚みの潤滑被膜で覆うか、又は、以下の3種の潤滑被膜のいずれか一つで覆ったことを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の転がり軸受。
(i)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとを含有する潤滑被膜
(ii)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
(iii)アルキル化シクロペンタン又はポリフェニルエーテルを主成分とする潤滑剤とふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
(7)軸受内径IDと径方向幅Δdとの関係がΔd/ID<0.187を満たすことを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の転がり軸受。
(8)真空環境下で使用されることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載の転がり軸受。
(9)(1)乃至(8)のいずれかに記載の転がり軸受を備えた搬送ロボット。
(10)(1)乃至(8)のいずれかに記載の転がり軸受を備えたフィルム搬送装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の(1)に記載の転がり軸受によれば、隣接するポケット間に、径方向に貫通する複数の貫通孔又は複数のディンプルを有するので、複数の貫通孔又はディンプルが潤滑剤の油溜まりとして機能し、潤滑剤が滞留し潤滑不良になるのを抑制することができる。また、複数の貫通孔又はディンプルにより金属製の保持器が可撓性を有するため、玉からの圧力を緩和し内外輪との摺動面積や摺動頻度を軽減することができる。さらに、複数の貫通孔又はディンプルにより保持器が軽量化され低トルク化を図ることができる。また、複数の貫通孔が網目状に設けられているので潤滑剤の滞留がよく、可撓性がよく、潤滑性能及び耐摩擦性能をさらに向上させることができる。
【0013】
本発明の(2)に記載の転がり軸受によれば、周方向に頂角を持つように傾斜した矩形形状とすることで、矩形形状の角部が動圧溝でいうヘリングボーンとして機能するばかりか、傾斜角度を持たない場合に比べて内外輪対向面内の力学的等方性が優れるので可撓性が等方的になり、玉からどの方向の圧力に対しても弾性変形が生じやすくなる。
【0014】
本発明の(3)に記載の転がり軸受によれば、隣接するポケット間距離は、玉の直径の2倍以下に設定されているので、多くの玉を装填可能であり、それに比例して荷重容量を大きくすることができる。
【0015】
本発明の(4)に記載の転がり軸受によれば、軸方向一方側に開口する開口部を有するので、軸方向一方側から保持器を装着することができ組付け性を向上させることができる。また、ポケット開口部を下にしたとき、軸方向一方側の保持器端部が玉の最下点位置と略等しい位置にあるので、スカート部が短くなった分だけ重量が軽減されるとともに内外輪との対向面積が少なくなるため、摩擦面積が減少した分、低トルク化を図ることができる。さらに、保持器組付け時にパチン代をのり越える際に発生することがあるスカート部の塑性変形を抑制することができる。
【0016】
本発明の(5)に記載の転がり軸受によれば、剛性を維持するとともにフォトファブリケーションにおける製造時間を短縮することができる。
【0017】
本発明の(6)に記載の転がり軸受によれば、真空環境下において放出ガス量を低減することができる。
【0018】
本発明の(7)に記載の転がり軸受によれば、薄肉軸受に適用することにより内外輪に押し付けられた保持器と内外輪とが摺動して保持器が玉から外れてしまう、薄肉軸受に見られる損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図2】図1の転がり軸受から保持器を分離して示した斜視図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る転がり軸受から保持器を分離して示した斜視図である。
【図6】フォトファブリケーション後の扁平材を環状に溶接して形成する過程の模式図であり、(A)はフォトファブリケーション後の扁平材の斜視図、(B)は扁平材をプレス成形して環状にした斜視図、(C)は扁平材の長手方向両端部を重畳して溶接することにより形成した保持器の斜視図である。
【図7】図5の保持器の重畳部の拡大図である。
【図8】両端部先端を突き合わせて溶接した突き合わせ部の拡大図である。
【図9】図5の転がり軸受から外輪を外した状態を示す側面図である。
【図10】図9の保持器のスカート部を短くした状態を示す側面図である。
【図11】図9の保持器のスカート部が塑性変形した状態を示す斜視図である。
【図12】ガス放出量試験装置の断面図である。
【図13】被膜厚さと放出ガス量、耐久性の関係を示すグラフである。
【図14】放出ガス量の比較データを示すグラフである。
【図15】潤滑被膜の温度と総サイクル数の関係を示すグラフである。
【図16】(A)は動摩擦トルク試験装置の外観斜視図であり、(B)は(A)の破線部の拡大図である。
【図17】フィルム搬送装置の部分斜視図である。
【図18】従来の転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図19】従来の他の転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図20】従来の他の転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図21】従来の他の転がり軸受を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る転がり軸受の各実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで、転がり軸受は、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、4点接触玉軸受などの種類があるが、以下の説明においては、外輪の軸方向一方側にカウンタボアが形成されたアンギュラ玉軸受又は深溝玉軸受を例に説明するが、これに限定されるものではない。<第1実施形態>
本実施形態の転がり軸受10は、図1に示すように、内輪1と、外輪2と、該内輪1と外輪2間に周方向に所定の間隔で配置された複数の玉3と、ポケット4内に玉3を転動自在に保持する保持器5と、を備えたアンギュラ玉軸受であって、軸受内径IDと径方向幅Δdとの関係がΔd/ID<0.187を満たす薄肉軸受である。なお、径方向幅Δdは、軸受外径と軸受内径の差の1/2を意味する。
【0021】
保持器5は、図1に示すように、金属性の扁平材から構成された環状の保持器であり、周方向に所定の間隔で形成されたポケット4と保持器表面全体に亘って網目状に配置された径方向(厚み方向)に貫通する複数の貫通孔6が扁平材からフォトファブリケーションで一括形成されたものであり、周方向で隣接するポケット4間には柱部7が形成されている。金属性の扁平材としてその材質は特に限定されるものではないが、容易に塑性変形しない、ばね限界値の大きい材料、例えばSUS304及びSUS301のテンションアニールされたステンレスばね用鋼板、SUS631等の析出硬化されたステンレスばね用鋼板、S60CやS65Cをベーナイト処理したベーナイト鋼帯、あるいはS60C、S65Cに加えてSK85、SK95、SKS81等の工具鋼の焼き入れ鋼帯等を用いるのが好ましい。特に、SK85、S95等の焼き入れ鋼帯はじん性が高いので、薄くて変形しにくい必要がある本発明の保持器には好適である。また、保持器5の厚みは、0.1mm〜2mm程度が好ましく、0.1mm〜1mm程度がさらに好ましい。この厚みにすることにより、剛性を維持するとともにフォトファブリケーションにおける製造時間を短縮することができる。
【0022】
ここでフォトファブリケーション(Photo Fabrication)とは、光学的転写技術、フォトリソグラフィー(Photo Lithography)を用いた加工技術の総称で、フォトエッチング(Photo Etching)、フォトフォーミング(Photo Forming)、リフトオフ(Lift-Off)及びそれらを複合した加工技術全体を意味し、材料表面を化学的、または電気化学的に溶解させたり、材料表面に金属を堆積させたり、写真的技法を用いて行なうこの精密加工方法を総称したものある。
【0023】
フォトエッチングを例に説明すると、金属性の扁平材を用いて厚み方向両側からフォトエッチングを行なう。このとき、片側からのみ行うこともできるが、両側からフォトエッチングを行うことが好ましい。フォトエッチングは表面から厚み方向深部に掘り進む際に表面の方が材料が多く削り取られる傾向があり、例えば0.2mmの扁平材に貫通孔を設ける場合、片側からフォトエッチングを行うと、表面と貫通した後の裏面とでは、孔の径寸法に20〜40μm程度の大きさの違いが生じる。そんため、板厚中央で、孔が連通してポケット4及び貫通孔6を形成するように表裏両方からフォトエッチングを行なうことが好ましい。
【0024】
ポケット4は、隣接するポケット間距離が玉3の直径の2倍以下になるように設定され、各ポケット4には軸方向一方側に開口部41が形成され、開口部41には玉3の抜けを防止するパチン代が設けられている。
【0025】
各貫通孔6は、周方向に頂角を持つように傾斜した矩形形状を呈しているが、円形であっても傾斜しない矩形など任意の形状とすることができる。周方向に頂角を持つように傾斜した矩形形状とすることで、矩形形状の角部が動圧溝でいうヘリングボーンとして機能するばかりか、傾斜角度を持たない場合に比べて内外輪対向面内の力学的等方性が優れるので可撓性が等方的になり、玉3からどの方向の圧力に対しても弾性変形が生じやすくなる。この点で孔の形状が六角形で頂角が周方向に向いていることが機能的に最も好ましい。
【0026】
この転がり軸受10は、図2で示すように、内輪1と外輪2との間に玉3を組み込んだ組立体の軸方向から、フォトファブリケーション後環状に溶接された保持器5を装填することで組立てられる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の転がり軸受10によれば、保持器5のポケット4及び複数の貫通孔6は、金属性の扁平材からフォトファブリケーションにより一括に形成されるので、ポケット4及び貫通孔6の周囲にバリやカエリを生じることなく表面を平滑に保ったまま、保持器5の外郭とポケット4と貫通孔6を同時に形成することができる。
【0028】
また、保持器5の隣接するポケット4間に径方向に貫通する複数の貫通孔6が設けられているので、複数の貫通孔6は油溜まりとして機能し潤滑剤を保持することで転がり軸受10の潤滑不足を低減することができる。ここで、各貫通孔6の大きさが大きすぎると油溜まりとして機能できなくなるばかりか、剛性が低くなってしまうため、対向する頂角間距離を直径とする円に換算した場合にその径が0.2mm〜1mmの範囲内であることが好ましい。0.2mm以下であれば、フォトファブリケーションで安定的に形成できなくおそれがある。
【0029】
また、複数の貫通孔6により保持器5が可撓性を有するので玉3からの圧力を局所的に弾性変形することで緩和し、内外輪1,2との摺動面積や摺動頻度を軽減する機能を有する。また、金属製の保持器5であるため、真空装置のベーキングや処理工程によって200℃を超える高温になったとしても樹脂保持器に懸念される熱変形や多量の放出ガスを生じることがないにも関わらず、樹脂保持器のような局所的な弾性作用を得ることができる。従って、保持器5は、耐熱性を有する金属製保持器の利点と可撓性を有する樹脂製保持器の利点をあわせもっている。
【0030】
さらに、保持器5は扁平材から構成されるとともに、貫通孔6の分だけ軽量化することができ、軸受の低トルク化を図ることができる。
【0031】
また、保持器5は、隣接するポケット4間距離が玉3の直径の2倍以下になるように設定されているので、負荷ボールと無負荷ボールとを交互に配置するアンギュラ薄肉軸受と比べて玉数を1〜1.7倍程度に増やすことで荷重容量を1〜1.7倍程度に増やすことができる。
【0032】
なお、各貫通孔6の代わりに、保持器5の板厚の途中まで窪んで底のあるディンプルを設けてもよい。ディンプルは、フォトエッチングにより一方の面に孔を設けて、他方の面に設けないようにして孔が板厚の途中まで掘り込まれた止まり孔とすることにより形成することができる。ディンプルであっても、油溜まりとして機能するのはもちろん、厚みの薄い部分が多数形成されることで可撓性が付与され、玉3からの圧力を緩和することができる。
【0033】
また、貫通孔6又はディンプルの形状、大きさは保持器全体で画一である必要はなく、例えば内輪1と外輪2の非軌道面(軌道面以外の面)に対向する部分には小さい径の貫通孔6又はディンプルを配置して耐摩擦性能を選択的に改善したり、幅の細い柱部7には剛性を確保するため貫通孔6又はディンプルを形成しなくてもよい。なお、貫通孔6とディンプルを混在させてもよい。
【0034】
<第2実施形態>
次に第2実施形態の転がり軸受について図3を参照して説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
第2実施形態の転がり軸受10Aは、複数の保持器片5Aを組み合わせて1つの環状の保持器5Bを構成するものである。
各保持器片5Aには、第1実施形態の保持器5と同様に、周方向に所定の間隔で形成されたポケット4と保持器表面全体に亘って網目状に配置された径方向(厚み方向)に貫通する複数の貫通孔6がフォトファブリケーションで一括形成されている。
そして、各保持器片5Aは端部に半割れポケット4aが形成されており、隣接する保持器片5Aの端部に形成された半割れポケット4aで玉3を挟むことで隣接する保持器片5A同士が重畳することなく1つの環状の保持器5Bを形成している。即ち、複数の玉3のうち保持器片5Aの端部に位置する玉3は隣接する2つの保持器片5Aの半割れポケット4aにより形成される1つのポケット4bに挟持され、他の玉3は1つの保持器片5Aのポケット4に保持されている。
本実施形態の転がり軸受10Aにおいても第1実施形態の転がり軸受10と同様の作用効果を得ることができ、さらに本実施形態の転がり軸受10Aによれば、扁平材の長手方向両端部を溶接する溶接処理を省略することができる。
【0035】
<第3実施形態>
次に第3実施形態の転がり軸受について図4を参照して説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
第3実施形態の転がり軸受10Bは、保持器5Cの各ポケットには軸方向一方側に開口部が形成されておらず球状の各ポケット4cに玉3が保持されている。
保持器5Cには、第1実施形態の保持器5と同様に、周方向に所定の間隔で形成されたポケット4cと保持器表面全体に亘って網目状に配置された径方向(厚み方向)に貫通する複数の貫通孔6がフォトファブリケーションで一括形成されている。
この転がり軸受10Bは、保持器5Cに玉3を組み込んで内輪1と一体に保持し、熱して拡径させた外輪2のカウンタボア2a側から装填し組立てられている。
本実施形態の転がり軸受10Bにおいても第1実施形態の転がり軸受10と同様の作用効果を得ることができ、さらに本実施形態の転がり軸受10Bによれば、玉3はポケット4cに囲繞されているので軸受の潤滑剤が劣化して、保持器5Cと内外輪1、2との摺動が発生しても保持器5Cが外れることがない。
【0036】
<第4実施形態>
次に第4実施形態の転がり軸受について図5を参照して説明する。
第4実施形態の転がり軸受10Cは、図5に示すように、内輪1と、外輪2と、該内輪1と外輪2間に周方向に所定の間隔で配置された複数の玉3と、ポケット4内に玉3を転動自在に保持する保持器5Dと、を備えた深溝玉軸受であり、薄肉軸受ではない点で第1〜第3実施形態の転がり軸受10、10A、10Bと相違している。
【0037】
保持器5Dは、金属性の扁平材から構成された環状の保持器であり、周方向に所定の間隔で形成されたポケット4と保持器表面全体に亘って網目状に配置された径方向(厚み方向)に貫通する複数の貫通孔6がフォトファブリケーションで一括形成されたものであり、周方向で隣接するポケット4間には柱部7が形成されている。
【0038】
ポケット4は、隣接するポケット間距離が玉3の直径の2倍以下になるように設定され、各ポケット4には軸方向一方側に開口部41が形成され、開口部41には玉3の抜けを防止するパチン代が設けられている。
【0039】
この転がり軸受10Cは、内輪1と外輪2との間に玉3を組み込んだ組立体の軸方向から、フォトファブリケーション後環状に溶接された保持器5Dを装填することで組立てられる。
【0040】
図6はフォトファブリケーション後の扁平材を環状に溶接して形成する過程の模式図であり、図7は保持器5Dの重畳部の拡大図である。
図6(A)に示すフォトファブリケーション後の扁平材50は、ポケット4と網目状の貫通孔6に加えて、長手方向両端部51、52をハーフエッチングすることにより長手方向両端部51、52に板厚方向で互いに反対方向に窪んだ凹部53が形成されている。長手方向両端部51、52は、長手方向において同じ長さを有し、板厚の略半分の厚さとなっている。そして、この扁平材50をプレス成形により環状に丸め(図6(B))、長手方向両端部51、52を重ね合わせた重畳部54の少なくとも一部を溶接して環状の保持器5Dを形成している(図6(C))。重畳部54は、板厚の略半分の厚さの長手方向両端部51、52を重ね合わせたものであるので、その内外周面は略面一となってなだらかな曲面をなしている。
【0041】
本実施形態の転がり軸受10Cにおいても第1実施形態の転がり軸受10と同様の作用効果を得ることができる。さらに、本実施形態の転がり軸受10Cによれば、フォトファブリケーションにおいて、重畳部54を構成する扁平材50の長手方向両端部51、52は重畳して溶接した状態で略面一となるようにハーフエッチングされて構成されるので、長手方向両端部51、52同士を突き合わせた突き合わせ部55を溶接した図8に示す保持器5Eに比べて、溶接の出来栄えによって突き合わせ部55に凹凸が生じて真円度が低下し、軸受の回転に伴って凸部が内外輪と摺動して軸受トルクが増大、変動するのを抑制することができる。これにより、扁平材50から容易に環状の保持器5Dを製造することができ、保持器5Dと内外輪1、2との摺動を抑制し低トルク化を図ることができる。なお、この溶接方法について、第1及び第3実施形態の保持器5、5Cにも適用することができる。
【0042】
本実施系形態においては、長手方向両端部51、52をハーフエッチングすることにより、長手方向両端部51、52に凹部を形成したが、これに限定されず、長手方向両端部51、52にそれぞれ凹凸を設けて重畳した状態で互いの凹凸が係合して面一となるように形成してもよい。これにより、重畳部の凹凸の係合により周方向のせん断力に対する剛性を向上させることができる。
なお、本発明においては、端部同士を溶接して環状に形成した図8の保持器5Eを排除するものではない。
【0043】
図9は、外輪2を取り除いた本実施形態の転がり軸受10Cを示す斜視図である。図9に示すように、保持器5Dにおいては柱部7の軸方向略中央部に玉3の中心が位置している。即ち、保持器5Dの軸方向長さが玉3の中心に対し等配されているが、図10に示すように、転がり軸受10Cのポケット4の開口部41を下にして置いたとき、柱部7の開口側端部75を玉3の最下点位置と略等しくなるようにしてもよい。
【0044】
このように柱部7の開口側端部75を短くすることで、内外輪1、2に対向する保持器5Dの対向面積が小さくなるので、摺動による摩擦抵抗を低減することができ、さらに減少した面積分だけ軽量化されるので低トルク化することができる。また、柱部7の最も細い部分から開口側端部75までの距離が短くなり、パチン代をのり越える際に図11に示すように柱部7が塑性変形することを防止できる。なお、開口側端部75が遠ければ遠いほど小さな力で塑性変形するため柱部7をより短くすることが好ましいが、開口部41を下にして置いたときに少なくとも開口側端部75が玉3の中心位置より下側にないとパチン代を確保できないため、開口側端部75が玉3の最下点位置と略等しいことが好ましい。
【0045】
次に上述した転がり軸受10〜10Cに適用される潤滑剤について説明する。
内輪1及び外輪2の軌道面、玉3の転動面には、潤滑油又はグリースからなる潤滑被膜が形成されている。この潤滑被膜を、ふっ素油被膜か、若しくは、以下の3種の潤滑被膜(以降はDFO潤滑剤と記す)のうちのいずれか一つとすることが好ましい。
【0046】
(i)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとを含有する潤滑被膜(ii)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
(iii)アルキル化シクロペンタン又はポリフェニルエーテルを主成分とする潤滑剤とふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
このようなふっ素油被膜又はDFO潤滑剤による潤滑法は、低発塵性及び低アウトガス性が非常に優れており、清浄度の極めて高い環境下や高真空環境下において好適に使用可能である。
【0047】
<ふっ素油被膜>
図12の試験装置で潤滑剤のガス放出量について調べた。この装置は、オリフィス71を介して左右に分けられた第1の真空槽72および第2の真空槽73と、ターボポンプ74と補助ポンプ75とヒータ76と各真空槽72、73に設けた真空計77、78とからなる。ヒータ76は、第1の真空槽72に設けた転がり軸受10を置く台79を加熱する。
【0048】
ヒータ76により第1の真空槽72内に設置した転がり軸受10を100℃に加熱し、ターボポンプ74と補助ポンプ75で、第2の真空槽73を排気する。第1の真空槽72はオリフィス71で第2の真空槽73と連通しているため、第2の真空槽73も真空になる。転がり軸受10から放出されたガスはオリフィス71を通過して、第2の真空槽73に移動する。第1の真空槽72の真空計77で測定された圧力P1と、第2の真空槽73の真空計78で測定された圧力P2から下記の(1)式により、オリフィス71を通過したガス量Qが算出できる。Cはオリフィス71のコンダクタンスである。
Q=C(P1−P2)‥‥(1)
【0049】
この装置を使用して、転がり軸受10の軌道面にふっ素油の被膜を、0.5g/m2 、1.0g/m2 、1.5g/m2 、2.0g/m2 、3.0g/m2 、5.0g/m2 、10.0g/m2 、15.0g/m2 の各量となるように形成した場合の、100℃での放出ガス量を測定した。その結果を図13のグラフに曲線Aで示す。図13のグラフの直線Bは、転がり軸受10の軸受空間にふっ素グリースを軸受空間体積の10%充填して、図12の装置を用いて放出ガス量を測定した場合の結果を示す。
【0050】
このグラフから、ふっ素油被膜量が12g/m2 以上になると、ふっ素油被膜からの放出ガス量がふっ素グリースの場合の放出ガス量より多くなる。よって、ふっ素油被膜量は10g/m2 以下とすることが好ましい。
また、転がり軸受10の軌道面に0.5g/m2 、1.0g/m2 、1.5g/m2 のふっ素油被膜を形成して、回転試験を行った。試験条件は、軸受姿勢:垂直軸、回転速度:200/min(一方向回転)、温度:100℃、圧力環境:真空であり、軸受トルクが初期値の2倍を超えた時の総回転数を寿命とした。また、総回転数が1.0×107 を超えても軸受トルクが初期値の2倍を超えない場合は、その時点で試験を打ち切った。
【0051】
その結果も図13に「△」で示してある。図13において矢印は試験打ち切りを意味し、ふっ素油被膜量が1.0g/m2 以上で、良好な耐久性が得られることが分かる。これらの結果から、ふっ素油被膜量は1.0g/m2 以上10g/m2 以下とすることが好ましい。
【0052】
<DFO被膜>
転がり軸受10の軌道面に2.0g/m2 のDFO被膜を形成して、上記と同じ方法で100℃での放出ガス量を測定した。図14は、その測定した放出ガス量の結果を示す。このグラフから、PFPE基油とMAC基油の場合は、ふっ素油被膜を形成した場合よりも放出ガス量が少なかった。
【0053】
また、これらの潤滑被膜を形成した各転がり軸受を不図示の回転試験機に取り付けて、±45°の揺動を行い耐久性を調べた。試験条件は、回転速度:150/min、温度:100℃、130℃、150℃、圧力環境:真空であり、軸受トルクが初期値の2倍を超えた時の総サイクル数を寿命とした。また、総サイクル数が5×106 を超えても軸受トルクが初期値の2倍を超えない場合は、その時点で試験を打ち切った。その結果を図15のグラフに示す。この結果から、転がり軸受の潤滑被膜をDFO被膜とした方がふっ素油被膜とした場合よりも耐久性に優れていることが分かる。この結果から、DFO潤滑は、転がり軸受の潤滑被膜はDFO被膜の方がふっ素油被膜よりもより耐久性に優れていることが分かる。
【0054】
<実施例>
次に本発明の転がり軸受を用いた耐久試験と動摩擦トルク試験について説明する。
【0055】
< 耐久試験1>
試験用軸受として、内径約200mmの4種類の軸受を用いて、耐久試験を行なった。試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。
【0056】
−試験用軸受−
【0057】
【表1】
【0058】
−試験条件−
・軸受姿勢:垂直軸
・回転速度:40/min
・温度:常温
・回転方向:揺動±90°
・荷重条件:アキシャル荷重のみ
・圧力環境:真空
・終了条件:軸受トルクが初期値の2倍を越えたとき、又は、総回転数が1.0×107回(サイクル)を超えたとき
【0059】
耐久試験の結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
この結果から、ふっ素油塗布潤滑であってもDFO潤滑であっても、実施例1及び2の本発明の薄肉軸受の方が耐久性が向上していることが分かる。また、ふっ素塗布潤滑の場合は、実施例1と比較例1を比較して、実施例1の方が比較例1よりも約5倍の耐久性能を示しているのに対し、DFO潤滑の場合は、実施例2と比較例2を比較して、実施例2の方が比較例2よりも10倍超の耐久性能を示している。従って、本発明の薄肉軸受はDFO潤滑の耐久性能をより高める効果があるといえる。
【0062】
< 耐久試験2>
試験用軸受として、内径約200mmの4種類の軸受を用いて、耐久試験を行なった。試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。なお、表3中、玉数比は比較例4の図21に記載の転がり軸受のスペーサボールによるセパレート方式(以降、スペーサボール形式と記す。)の保持器における負荷ボール145の装填個数を1として、それを基準に玉数の比をとったものである。実施例3は玉(負荷ボール)を全ポケットに装填せずに間引いて配置したものである。
【0063】
−試験用軸受−
【0064】
【表3】
【0065】
−試験条件−
・軸受姿勢:垂直軸
・回転速度:40/min
・温度:常温
・回転方向:揺動±90°
・荷重条件:アキシャル荷重のみ
・圧力環境:真空
・終了条件:軸受トルクが初期値の2倍を越えたとき、又は、総回転数が1.0×107回(サイクル)を超えたとき
【0066】
耐久試験の結果を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
この結果から、比較例3の場合は、玉数比が1.5倍であっても走行距離は105台であるのに対し、実施例1の保持器に変更すると玉数比が1倍であるにもかかわらず、耐久性能が向上し、スペーサボール形式の比較例4とほぼ同等となっている。さらに、実施例4のように玉数比を1.5倍にした場合、格段に耐久性能が向上している。これにより、本発明の薄肉軸受によれば、潤滑性能の向上と耐荷重性能の向上の両者に同時に寄与していることが分かる。
【0069】
< 耐久試験3>
試験用軸受として、内径約200mmの4種類の軸受を用いて、耐久試験を行なった。試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。
【0070】
−試験用軸受−
【0071】
【表5】
【0072】
−試験条件−
・軸受姿勢:垂直軸
・回転速度:40/min
・温度:常温
・回転方向:揺動±90°
・荷重条件:アキシャル荷重のみ
・圧力環境:真空
・終了条件:軸受トルクが初期値の2倍を越えたとき、又は、総回転数が1.0×107回(サイクル)を超えたとき
【0073】
耐久試験の結果を表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
この結果から、ふっ素油塗布潤滑であってもDFO潤滑であっても、実施例5及び6の本発明の薄肉軸受の方が耐久性が向上していることが分かる。また、ふっ素塗布潤滑の場合は、実施例5と比較例5を比較して、実施例5の方が比較例5よりも約4倍の耐久性能を示した。また、DFO潤滑の場合は、実施例6と比較例6を比較して、実施例6の方が比較例6よりも3倍超の耐久性能を示した。
< 耐久試験4>
試験用軸受として、内径約15mmの4種類の軸受を用いて、耐久試験を行なった。
試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。
【0076】
−試験用軸受−
【0077】
【表7】
【0078】
−試験条件−
・軸受姿勢:垂直軸
・回転速度:1000/min
・温度:常温
・回転方向:一方向回転
・荷重条件:アキシャル荷重とモーメント荷重の複合
・圧力環境:真空
・終了条件:軸受トルクが初期値の2倍を越えたとき、又は、総回転数が1.0×108回(サイクル)を超えたとき
【0079】
耐久試験の結果を表8に示す。
【0080】
【表8】
【0081】
この結果から、ふっ素油塗布潤滑の場合は、実施例7と比較例7を比較して、波形保持器と本発明の保持器とは耐久性において優劣がないが、DFO潤滑の場合は、実施例8と比較例8を比較して、実施例8の方が比較例8よりも耐久性能が向上していることがわかる。
また、比較例7と比較例8を比較すると、ふっ素油塗布潤滑の場合に比べてDFO潤滑の方が耐久性が向上していて、DFO潤滑による耐久性向上の効果が表れているが、本発明の実施例7と実施例8を比較すると、さらに耐久性が向上して実施例8においては試験打ち切りとなっている。従って、本発明の転がり軸受はDFO潤滑の耐久性能をより高める効果があるといえる。
【0082】
< 動摩擦トルク試験1>
図16の試験装置で転がり軸受の動摩擦トルクについて調べた。この装置は、同軸配置された2個の試験軸受200の内輪201に回転軸202を装填して予圧荷重を負荷し、該2個の転がり軸受200の中間点から接線方向に糸を伸ばして、その端に接続されたフォースゲージ203により回転軸202を回転させた場合の外輪204の連れ回りの接線力を測定し、そこから軸受トルクを算出するものである。
試験用軸受として、内径約15mmの2種類の軸受を用いて、動摩擦トルク試験を行なった。試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。
【0083】
−試験用軸受−
【0084】
【表9】
【0085】
−試験条件−
・軸受姿勢:水平軸
・回転速度:300/min、1000/min
・温度:常温
・回転方向:一方向回転
・荷重条件:アキシャル荷重(予圧荷重)のみ
・圧力環境:常圧
・測定項目:動摩擦トルク(接線方向荷重)、30分連続運転後の動摩擦トルクを採用
【0086】
動摩擦トルク試験の結果を表10に示す。なお、動摩擦トルク比とは、比較例9の動摩擦トルク(1軸受分)を1とした場合の、動摩擦のトルク比を表わしている。
【0087】
【表10】
【0088】
この結果から、本発明の転がり軸受は、低トルク化に大きな効果があることが分かった。また、実施例9と実施例10を比較して、柱部7の開口側端部75を短くすることでさらにトルクを低くすることが分かった。これにより、トルクの極めて小さい転がり軸受を構築することができる。
【0089】
< 動摩擦トルク試験2>
試験用軸受として、内径約15mmの2種類の軸受をそれぞれ10個ずつ用意し動摩擦トルク試験を行なった。試験用軸受と試験条件は以下のとおりである。
【0090】
−試験用軸受−
【0091】
【表11】
【0092】
−試験条件−
・軸受姿勢:水平軸
・回転速度:300/min、1000/min
・温度:常温
・回転方向:一方向回転
・荷重条件:アキシャル荷重(予圧荷重)のみ
・圧力環境:常圧
・測定項目:動摩擦トルク(接線方向荷重)、30分連続運転後の動摩擦トルクを採用
【0093】
動摩擦トルク試験の結果を表12に示す。なお、表12中、実施例22〜32の動摩擦トルク(1軸受分)の平均値を1とした場合の動摩擦トルク比を表わしている。
【0094】
【表12】
【0095】
この結果から、ハーフエッチング処理を施さないものに比べてハーフエッチング処理を施したものは、低トルク化に大きな効果があることが分かった。このように、ハーフエッチング処理を施し重畳して溶接することでトルクの極めて小さい転がり軸受を構築することができる。
【0096】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 内輪
2 外輪
3 玉
4 ポケット
5、5B、5C、5D、5E 保持器
6 貫通孔
10、10A、10B、10C 転がり軸受
41 開口部
51、52 長手方向端部
53 凹部
54 重畳部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、該内外輪間に周方向に所定の間隔で配置された複数の玉と、ポケット内に前記玉を転動自在に保持する保持器と、を備えた転がり軸受であって、
前記保持器は、隣接する前記ポケット間に、径方向に貫通する複数の貫通孔を有し、
前記ポケットと前記貫通孔は金属製の扁平材からフォトファブリケーションにより一括に形成され、
前記複数の貫通孔は、網目状に設けられていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記貫通孔は、周方向に頂角を持つように傾斜した矩形形状を有することを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記隣接するポケット間距離は、前記玉の直径の2倍以下に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記保持器は、前記ポケットがそれぞれ軸方向一方側に開口する開口部を有し、
前記開口部を下にしたとき、前記軸方向一方側の保持器端部が前記玉の最下点位置と略等しい位置にあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記保持器の厚さは、0.1mm〜2mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記内輪の軌道面,前記外輪の軌道面,及び前記転動体の転動面の少なくとも一つを、1〜10g/m2の厚みの潤滑被膜で覆うか、又は、以下の3種の潤滑被膜のいずれか一つで覆ったことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の転がり軸受。
(i)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとを含有する潤滑被膜
(ii)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
(iii)アルキル化シクロペンタン又はポリフェニルエーテルを主成分とする潤滑剤とふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
【請求項7】
軸受内径IDと径方向幅Δdとの関係がΔd/ID<0.187を満たすことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項8】
真空環境下で使用されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の転がり軸受を備えた搬送ロボット。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の転がり軸受を備えたフィルム搬送装置。
【請求項1】
内輪と、外輪と、該内外輪間に周方向に所定の間隔で配置された複数の玉と、ポケット内に前記玉を転動自在に保持する保持器と、を備えた転がり軸受であって、
前記保持器は、隣接する前記ポケット間に、径方向に貫通する複数の貫通孔を有し、
前記ポケットと前記貫通孔は金属製の扁平材からフォトファブリケーションにより一括に形成され、
前記複数の貫通孔は、網目状に設けられていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記貫通孔は、周方向に頂角を持つように傾斜した矩形形状を有することを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記隣接するポケット間距離は、前記玉の直径の2倍以下に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記保持器は、前記ポケットがそれぞれ軸方向一方側に開口する開口部を有し、
前記開口部を下にしたとき、前記軸方向一方側の保持器端部が前記玉の最下点位置と略等しい位置にあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記保持器の厚さは、0.1mm〜2mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記内輪の軌道面,前記外輪の軌道面,及び前記転動体の転動面の少なくとも一つを、1〜10g/m2の厚みの潤滑被膜で覆うか、又は、以下の3種の潤滑被膜のいずれか一つで覆ったことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の転がり軸受。
(i)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとを含有する潤滑被膜
(ii)官能基を有する含ふっ素重合体とパーフルオロポリエーテルとふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
(iii)アルキル化シクロペンタン又はポリフェニルエーテルを主成分とする潤滑剤とふっ素樹脂とを含有する潤滑被膜
【請求項7】
軸受内径IDと径方向幅Δdとの関係がΔd/ID<0.187を満たすことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項8】
真空環境下で使用されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の転がり軸受を備えた搬送ロボット。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の転がり軸受を備えたフィルム搬送装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2013−100919(P2013−100919A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−28256(P2013−28256)
【出願日】平成25年2月15日(2013.2.15)
【分割の表示】特願2009−198458(P2009−198458)の分割
【原出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年2月15日(2013.2.15)
【分割の表示】特願2009−198458(P2009−198458)の分割
【原出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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