説明

転がり軸受およびそれを備えた電動機

【課題】モータから転がり軸受内部へ電流が流れることがあり、転がり軸受内部を通る電流によって転がり軸受の転動体と内外輪との接触部位に電食が生じ、軸受寿命が短くなるという課題を有していた。
【解決手段】内部にグリスが封入される転がり軸受において、転動体をガラスにより形成したものである。また前記ガラスのロックウェル硬度を60以上としたものである。これにより転動体の割れや欠けを防止し、かつ絶縁構造を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型空調機器に搭載するモータの転がり軸受に関するものであり、特に転動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の転がり軸受は鋼材の転動体を用いていた(例えば、特許文献1参照)。また、セラミックの転動体を用いた転がり軸受もある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−249150号公報
【特許文献2】特開2001−146920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の構成では、モータから転がり軸受内部へ電流が流れることがあり、転がり軸受内部を通る電流によって転がり軸受の転動体と内外輪との接触部位に電食が生じ、軸受寿命が短くなるという課題を有していた。また、電食防止のため、転動体やベアリング外周をセラミックにより絶縁しているものもあるが、セラミックの割れや欠けといった課題を有していた。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、転がり軸受において、割れや欠けを防止し、かつ絶縁構造を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明の転がり軸受は、内部にグリスが封入される形態の転がり軸受において、転動体をガラスにより形成されたことを特徴とするものである。これによって、内輪と外輪間の絶縁を確保でき、かつ転動体の割れや欠けを防止することができる。
【0007】
また、本発明の転がり軸受は、前記ガラスのロックウェル硬度が60以上としたものである。これによって、ベアリングのフレッチング等の損傷を防止することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の転がり軸受は、絶縁を確保でき、かつ転動体の割れや欠けを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1における転がり軸受の構成図
【図2】実施の形態1における転がり軸受を備えた電動機の構成図
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の発明は内部にグリスが封入される形態の転がり軸受において、転動体をガラスにより形成されたことを特徴とするものであり、内輪と外輪間の絶縁を確保でき、かつ転動体の割れや欠けを防止することができる。
【0011】
第2の発明は、特に、第1の発明のガラスのロックウェル硬度が60以上としたもので
あり、ベアリングのフレッチング等の損傷を防止することができる。
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における転がり軸受の構成図を示すものである。図1において、外周面に軌道面を有する内輪2と、内輪2の転動面に対向する軌道面を内周面に有する外輪3と、両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体1と、内輪2と外輪3の間に複数の転動体1を保持する保持器5と、転動体1と内輪2と外輪3の潤滑の働きをするグリス4と、を備えている。
【0014】
なお、内輪2と外輪3の間に介在され、内輪2の外周面と外輪3の内周面との開口部分をほぼ覆う密封装置(シール、シールド等)を備えても良い。
【0015】
内輪2と外輪3は軸受鋼等の鋼で構成されており、転動体1は、ガラスから構成されている。
【0016】
ロックウェル硬度では、鋼が64であり、セラミックが75であるのに対し、このようなガラスは60と同等の硬度を確保している。また、熱膨張係数は、鋼が12であり、セラミックが3であるのに対し、ガラスは8.5と、鋼とほぼ同じ値となり、内輪2と外輪3の鋼で構成された部材との熱的な親和性もよい。更に比重は、鋼が8であり、セラミックが3であるにに対し、ガラスは2.5のため、鋼と比べても1/4以下の重量で構成でき、例えば高速回転時の遠心力による力の低減ができる。
【0017】
よって転動体1は、割れや欠けが生じにくく長寿命であるため、この転がり軸受は長寿命である。
【0018】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては転動装置の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。
【0019】
例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。さらに、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
【0020】
なお、本実施形態では、転動体1を全てガラス製としたが、その一部をセラミック製としても同様な効果を得られることは言うまでもない。
【0021】
(実施の形態2)
前述した転がり軸受は、電食防止用途や特殊用途(高速回転、非磁性等)に好適である。例えば、電食防止用途としては、インバータ制御によるファンモータや、インバータ制御を行う装置に組み込まれるファンモータがあげられる。ガラス製の転動体1により転がり軸受の内輪2と外輪3の間を完全に絶縁できるため、内輪2と外輪3の間を流れる電流の流れを確実に遮断して電食を防止することができる。
【0022】
図2を用いて、本発明の実施の形態1における軸受を備えた電動機について説明する。本実施の形態では、電気機器としてのエアコン用に搭載され、送風ファンを駆動するため
のブラシレスモータである電動機の一例を挙げて説明する。
【0023】
図2において、固定子鉄心11には、固定子鉄心11を絶縁するインシュレータとしての樹脂21が介在して、固定子巻線12が巻装されている。そして、このような固定子鉄心11は、他の固定部材とともに絶縁モールド材としての不飽和ポリエステル樹脂成形材料13にてモールド成形されている。本実施の形態では、これらの部材をこのようにモールド一体成形することにより、外形が概略円筒形状をなす固定子10が構成されている。
【0024】
固定子10の内側には、空隙を介して回転子30が挿入されている。回転子30は、シャフト16に、永久磁石である樹脂磁石からなる回転体32が一体的に成形され固定されている。
【0025】
回転子30のシャフト16には、シャフト16を支持する2つの軸受15a、15bが取り付けられている。軸受15a、15bは、実施形態1で説明した転がり軸受であり、軸受15a、15bの内輪側がシャフト16に固定されている。図2では、シャフト16がブラシレスモータ本体から突出した側となる出力軸側において、軸受15aがシャフト16を支持し、その反対側(以下、反出力軸側と呼ぶ)において、軸受15bがシャフト16を支持している。
【0026】
そして、これらの軸受15a、15bは、それぞれ導電性を有した金属製のブラケットにより、軸受15a、15bの外輪側が固定されている。図2では、出力軸側の軸受15aがブラケット17により固定され、反出力軸側の軸受15bがブラケット19により固定されている。以上のような構成により、シャフト16が2つの軸受15a、15bに支承され、回転子30が回転自在に回転する。
【0027】
さらに、このブラシレスモータには制御回路を含めた駆動回路を実装したプリント基板18が内蔵されている。このプリント基板18を内蔵したのち、ブラケット17を固定子10に圧入することにより、ブラシレスモータが形成される。また、プリント基板18には、巻線の電源電圧Vdc、制御回路の電源電圧Vccおよび回転数を制御する制御電圧Vspを印加するリード線や制御回路のグランド線などの接続線20が接続されている。
【0028】
なお、駆動回路を実装したプリント基板18上のゼロ電位点部は、大地のアースおよび1次側(電源)回路とは絶縁され、大地のアースおよび1次側電源回路の電位とは、フローティングされた状態である。ここで、ゼロ電位点部とは、プリント基板18上における基準電位としての0ボルト電位の配線のことであり、通常グランドと呼ばれるグランド配線を示している。接続線20に含まれるグランド線は、このゼロ電位点部、すなわちグランド配線に接続される。
【0029】
以上のように構成された本ブラシレスモータに対して、接続線20を介して各電源電圧および制御信号を供給することにより、プリント基板18の駆動回路により固定子巻線12が駆動される。固定子巻線12が駆動されると、固定子巻線12に駆動電流が流れ、固定子鉄心11から磁界が発生する。そして、固定子鉄心11からの磁界と樹脂磁石である回転体32からの磁界とにより、それら磁界の極性に応じて吸引力および反発力が生じ、これらの力によってシャフト16を中心に回転子30が回転する。
【0030】
また、ブラケット19には、導通ピン22が予め電気的に接続されている。すなわち、図2に示すように、ブラケット19に導通ピン22の一方の先端部が接続されている。導通ピン22は不飽和ポリエステル樹脂成形材料13の内部に配置され、ブラケット19と同様に不飽和ポリエステル樹脂成形材料13とモールド一体成形されている。なお、導通ピン22を電動機内部として不飽和ポリエステル樹脂成形材料13の内部に配置すること
で、導通ピン22を錆や外力などから予防し、使用環境や外部応力などに対して、信頼性の高い電気的接続としている。
【0031】
導通ピン22は、不飽和ポリエステル樹脂成形材料13の内部において、本ブラシレスモータの外周方向へと延伸し、本ブラシレスモータの外周近辺からシャフト16とほぼ平行して出力軸側へとさらに延伸している。そして、不飽和ポリエステル樹脂成形材料13の出力軸側の端面から、導通ピン22の他方にブラケット17に電気接続するための導通ピン23が接続されている。
【0032】
すなわち、ブラケット17を固定子10に圧入したとき、導通ピン23がブラケット17に接触し、ブラケット17と導通ピン23との導通が確保される。このような構成により、ブラケット17とブラケット19との2つのブラケットは、導通ピン22を介して電気的に接続される。また、ブラケット17およびブラケット19は、不飽和ポリエステル樹脂成形材料13により固定子鉄心11と絶縁された状態で、この2つのブラケットが電気的に接続される。
【0033】
この電動機はパルス幅変調(Pulse Width Modulation)方式(以下、PWM方式という)のインバータにより駆動する方式を採用しており、こうしたPWM方式のインバータ駆動の場合、巻線の中性点電位が零とならないため、軸受の外輪と内輪間に電位差(以下、軸電圧という)を発生させる。軸電圧は、スイッチングによる高周波成分を含んでおり、軸電圧が軸受内部の油膜の絶縁破壊電圧に達すると、軸受内部に微小電流が流れ軸受内部に電食が発生するが、実施形態1の転がり軸受を採用することで、電食の発生を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明にかかる転がり軸受は、転動体の割れや欠けを防止し、かつ絶縁構造の確保が可能となるので、小型空調機器に搭載するモータ等の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 転動体
2 内輪
3 外輪
4 グリス
5 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にグリスが封入される転がり軸受において、転動体をガラスにより形成されたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記ガラスのロックウェル硬度が60以上である請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載の転がり軸受を備えた電動機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−72491(P2013−72491A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212078(P2011−212078)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】