説明

転がり軸受の余寿命診断方法

【課題】転がり軸受の寿命に多大に影響する、潤滑油へのゴミの混入や水の混入による潤滑油の劣化状態を、加速度センサの共振周波数帯信号や高周波信号を用いることにより、検出したゴミの状態、潤滑油の状態を根拠にその寿命を早期に高精度に推定する方法を提供する。
【解決手段】転がり軸受3におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関し、各転がり軸受3の型番、メーカー名等の軸受諸元毎について、加速度センサ4を用いて振動信号等を実験装置により採取する基礎データ採取段階と、回転機器1,2に備えられた、余寿命を診断する転がり軸受3について測定する測定段階と、測定段階により求めた測定値と、軸受諸元についての判定結果と、基礎データ採取段階で求めたデータとを用いて、被診断転がり軸受3のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、被診断転がり軸受3の余寿命を算出する判定段階と、から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プラント、製鉄所ならびに発電所などで使用されている補機であるポンプ、ファンの転がり軸受やそれら機器を駆動するモータで使用されている転がり軸受の残りの寿命を推定する転がり軸受の余寿命診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント、製鉄所ならびに発電所などで使用されている補機であるポンプ、ファンの転がり軸受やそれら機器を駆動するモータで使用されている転がり軸受では、負荷荷重が定格荷重の5%以下と非常に小さく、通常の使用状態では金属疲労は発生しない。従って、これら転がり軸受の寿命は、ごみの混入により発生する圧痕の盛上り部における「応力集中によるはく離」あるいは、水の混入によりグリースの油膜切れが発生し、転がり軸受の軌道面の表面粗さが増大することによる「振動の増加」の2種類がある。
【0003】
その転がり軸受の余寿命診断方法としては、種々の手段が提案されている。例えば、特許文献1の「軸受被診断方法」に示すように、加速度センサ信号を用いて軸受の振動を測定し、この軸受振動値が許容値を超えると警報を発する方法、アコースティック・エミッション(Acoustic Emission)法等が提案されている。その他にも、軸
受振動の周波数の解析により、その故障の原因を推定する方法がある。また、軸受振動値の増加傾向を予測することにより、その寿命を予知する方法もある。
【特許文献1】特開平8−159151
【0004】
加速度センサ信号を用いた軸受振動値の増加傾向予測方法は、最も多く使われている予測方法である。軸受の加速度振動の増加傾向を直線や二次曲線、指数曲線で予測し、予め設定した許容振動値に達するまでの残り時間で軸受の余寿命を予測する方法である。
【0005】
例えば、図12に示すように、加速度振動波形について、0から10kHzの実効値を算出し、判定は絶対値と相対値との2種類のしきい値を測定し、このしきい値を超えていないときは被診断転がり軸受は「正常」であると判定する。
一方、しきい値を超えているときは被診断転がり軸受は「異常」であると判定し、振動波形の周波数スペクトルを算出する。1N,2N,3N,mNといった回転数のn倍成分を抽出する。
または、被診断転がり軸受は「異常」であると判定したときに、次に絶対値とLPF処理による振動波形の包絡線処理をし、この包絡線処理した波形の周波数スペクトルを算出する。次に、finn.out.ballのベアリングパス周波数成分を抽出する。
これらの測定結果に基づいて、各振動成分の大きさを考慮し異常原因を推定する。この異常原因としては、転がり軸受のアンバランスやミスアライメント、基礎のゆるみ等がある。
【0006】
アコースティック・エミッション法は、加速度より周波数の高いAE信号を用いて、転がり軸受の故障の早期発見、余寿命を診断する方法である。このAE法は、物体が変形或いは破壊されるときに、それまで蓄えられていた歪エネルギーが音となって伝播する現象であるAE信号を利用した診断方法である。このAE信号は材料内部の弾性エネルギーが解放されるときの弾性波の伝播であり、必ずしも破壊のときのみではなく、材料の結晶構造の転位や変態なども対象とする。このAE信号を回転している転がり軸受についてAEセンサーを用いて信号処理を行い、そのAE波の発生頻度を観察して、その転がり軸受の被診断を行う。
【0007】
このような診断方法を用いて、転がり軸受の予期しない故障を未然に予知して、その軸受の取替え時期を前もって予測している。このように、軸受の異常を認知する「無事故寿命」と、軸受の焼付き、破損にいたる「事故発生寿命」を明確にして、その無事故寿命から事故発生寿命の期間、即ち余寿命を予測している。このように従来は、回転機器の異常の有無の判定と原因の推定を行い、異常の程度を判定して、転がり軸受の修理のタイミングを決定している。最も良く用いられる加速度振動の統計的予測では、寿命予測時点までの振動値をパラメータとして、二次曲線や指数関数に曲線回帰し、許容できる振動値に達するまでの期間を求めて余寿命としていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来の診断又は予測方法では、許容できる振動値の設定が難しく、その値の設定次第で余寿命が大きく変化し、精度の高い余寿命の予測が困難であった。また、振動が増加し始めるときは、既に軸受寿命の末期であるために、長期的な保守計画が立てづらく、また余寿命を予測しても修理が間に合わないこともあった。そのため、実際には、真の寿命に対して十分余裕があるにもかかわらず、その転がり軸受を早期に交換している場合が多かった。また、このような余寿命診断精度の低さから、実際の発電所や工場等では、軸受の点検周期を伸延させることができず、軸受を数年おきに全数交換する定期点検という保守体制を余儀なくされていた。これらは保全本来のコストの削減、省力化を妨げるといった問題を有していた。
【0009】
更に、上記従来のアコースティック・エミッション法は、加速度を用いた上記統計的方法に比べると早期の被診断は可能であるが、この被診断に用いるAE(Acoustic
Emission)センサ及び信号処理回路が高価であり、またAE波は微妙であるた
めに周辺騒音を拾いやすいという問題を有していた。
【0010】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、転がり軸受の寿命に多大に影響する、潤滑油へのゴミの混入や水の混入による潤滑油の劣化状態を、加速度センサの共振周波数帯信号や高周波信号を用いることにより、安価に検出し、検出したゴミの状態、潤滑油の状態を根拠に転がり軸受の寿命を早期に高精度に推定することができる転がり軸受の余寿命診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の余寿命診断方法は、転がり軸受(3)におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関し、各転がり軸受(3)の型番、メーカー名等の軸受諸元毎について、加速度センサ(4)を用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を実験装置により採取する基礎データ採取段階と、ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、余寿命を診断する転がり軸受(3)について、加速度センサ(4)を用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する測定段階と、前記測定段階により求めた測定値と、前記軸受諸元についての判定結果と、前記基礎データ採取段階で求めたデータとを用いて、前記被診断転がり軸受(3)のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、該被診断転がり軸受(3)の余寿命を算出する判定段階と、から成ることを特徴とする。
【0012】
例えば、前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)の振動測定波形を処理した結果、算出した振動値と該転がり軸受(3)の計算寿命を用いて、該転がり軸受(3)の余寿命を算出する方法である。
【0013】
前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)について、1k〜64kHzの振動波形
を、1/2オクターブバンドで周波数を分割して複数のバンドを採取し、各周波数帯の波
形に対し、包絡線処理を行い、周波数スペクトルを算出してから、該被診断転がり軸受(3)の型番とメーカー名等の軸受諸元について判定する方法である。
【0014】
前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)について、1k〜64kHzの振動波形を、1/2オクターブバンドで周波数を分割して複数のバンドを採取し、各周波数帯の波
形に対し、包絡線処理を行い、周波数スペクトルを算出し、軸受の型番とメーカー名等の軸受諸元について判定し、前記被診断転がり軸受(3)の型番とメーカー名が判るときに、その軸受諸元からベアリングパス周波数を計算し、各周波数帯の包絡線処理スペクトルらパス周波数成分(finn.out.ballの3つ)を抽出し、抽出した各周波数帯のパス周波数成分の相対感度(正常時との比)を算出し、パス周波数成分の相対感度の分割したバンド数の上位バンドの平均を求め、パス周波数成分の複数バンドに分割したバンド数の上位バンド平均のどれかがしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると推定する方法である。
【0015】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、5k〜35kHzの振動波形を、1/2オクターブバンドで周波数を分割して計6バンドを採取し、各周波数帯
の波形に対し、包絡線処理を行い、周波数スペクトルを算出する。
【0016】
前記判定段階におけるしきい値は、1を超えた数値である。
【0017】
前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)について、1k〜64kHzの振動波形を、1/2オクターブバンドで周波数を分割して複数のバンドを採取し、各周波数帯の波
形に対し、包絡線処理を行い、周波数スペクトルを算出し、軸受の型番とメーカー名等の軸受諸元について判定し、前記被診断転がり軸受(3)の型番とメーカー名が判らないときに、各周波数帯の包絡線処理スペクトルから、回転数×1.6〜7の範囲内で周波数スペクトルのピークを抽出し、抽出した各周波数帯のピーク周波数成分の相対感度(正常時との比)を算出し、ピーク周波数成分の相対感度の上位3バンド平均を求め、ピーク周波数成分の分割した上位のバンドの相対感度平均が、しきい値を超えたかどうかを判定し、
しきい値を超えていないときは正常であると推定する方法である。
【0018】
前記判定段階は、前記転がり軸受(3)について、5k〜35kHzの振動波形を、1/2オクターブバンドで周波数を分割して計6バンドを採取し、各周波数帯の波形に対し
、包絡線処理を行い、周波数スペクトルを算出し、軸受の型番とメーカー名等の軸受諸元について判定し、前記被診断転がり軸受(3)の型番とメーカー名が判らないときに、
各周波数帯の包絡線処理スペクトルから、回転数×1.6〜7の範囲内で周波数スペクトルのピークを抽出し、抽出した各周波数帯のピーク周波数成分の相対感度(正常時との比)を算出し、ピーク周波数成分の相対感度の上位3バンド平均を求め、ピーク周波数成分の上位3バンドの相対感度平均が、しきい値(=2.0)を超えたかどうかを判定する方法である。
【0019】
前記判定段階におけるしきい値は、1を超えた数値である。
【0020】
本発明の潤滑油劣化の検出方式による余寿命診断方法は、転がり軸受(3)におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関して、加速度センサ(4)を用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を実験装置により採取する基礎データ採取段階と、ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、余寿命を診断する転がり軸受(3)について、加速度センサ(4)を用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する測定段階と、前記測定段階により求めた測定値と、前記基
礎データ採取段階で求めたデータとを用いて、前記被診断転がり軸受(3)のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、該被診断転がり軸受(3)の余寿命を算出する判定段階と、から成ることを特徴とする。
【0021】
前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)について、1k〜64kHzの周波数帯域を持つ振動信号から、センサ共振周波数帯域を含む狭帯域および広帯域の2つの周波数帯域の実効値の相対感度を計算し、狭帯域実効値相対感度×広帯域実効値相対感度という特徴量がしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると判定する方法である。
【0022】
前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)について、5k〜35kHzの周波数帯域を持つ振動信号から、23k〜32kHzと5k〜35kHzの2つの周波数帯域の実効値の相対感度を計算し、23k〜32Hz実効値相対感度×5k〜35kHz実効値相対感度という特徴量がしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると判定する方法である。
【0023】
前記判定段階におけるしきい値は、1を超えた数値である。
【0024】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、パス周波数成分の複数バンドに分割したバンド数の上位バンド平均のどれかがしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、圧痕/潤滑油劣化の誤識別防止のために、振動波形のウェーブレツト分布を作成し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示し、人間による時間周波数分布(ウェーブレツト)を確認する。
【0025】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、ピーク周波数成分の上位3バンドの相対感度平均が、しきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、圧痕/潤滑油劣化の誤識別防止のために、振動波形のウェーブレツト分布を作成し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示し、人間による時間周波数分布(ウェーブレツト)を確認する。
【0026】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、広帯域実効値相対感度×狭帯域実効値相対感度が、しきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、圧痕/潤滑油劣化の誤識別防止のために、振動波形のウェーブレツト分布を作成し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示し、人間による時間周波数分布(ウェーブレツト)を確認する。
【0027】
前記判定段階において、圧痕起点型はく離モードおよび潤滑油劣化モードの余寿命を、計算寿命と、0〜1の余寿命係数との積として算出される余寿命推定式を用いて診断する。
【0028】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、パス周波数成分の複数バンドに分割したバンド数の上位バンド平均のどれかがしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、
圧痕起点型はく離モードであると確認し、
上位3バンドの相対感度平均から圧痕サイズを推定し、
圧痕起点型はく離モードでの余寿命を下記の数式[数(1)]で計算して診断する、ことを特徴とする請求項4の転がり軸受の余寿命診断方法。
【数(1)】

【0029】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、ピーク周波数成分の上位3バンドの相対感度平均が、しきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、圧痕起点型はく離モードであると確認し、上位3バンドの相対感度平均から圧痕サイズを推定し、圧痕起点型はく離モードでの余寿命を下記の数式[数(1)]で計算して診断する。
【数(1)】

【0030】
前記判定段階において、圧痕起点型はく離モードにおける余寿命推定式を、計算寿命を下記の数式[数(2)]の基本動定格寿命とし、余寿命係数をP/Cおよび振動値の関数とした圧痕発生からの余寿命とする。
【数(2)】

【0031】
前記判定段階において、潤滑油劣化モードにおける余寿命推定式を、計算寿命を、計算寿命を下記の数式[数(3)]による計算寿命とし、余寿命係数を振動値の関数とした潤滑油劣化発生からの余寿命とする。
【数(3)】

【0032】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、センサ共振周波数帯23k〜32kHzの実効値および5k〜35kHz実効値の相対感度を算出し、23k〜32kHz実効値相対感度×5k〜35kHz実効値相対感度はしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、潤滑油劣化モードであると確認し、23k〜32kHzの実効値相対感度から潤滑油劣化モードでの余寿命を下記の数式[数(4)]で計算して診断する。
【数(4)】

【0033】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、1K〜64kHz振動波形のケプストラムを算出し、ケプストラムのクートシスを算出し、ケプストラムのクートシスはしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときは圧痕起点型はく離モードであると判定し、しきい値を超えていないときは潤滑油劣化モードであると推定する。
【0034】
前記判定段階におけるしきい値は3を超えた数値である。
【0035】
前記判定段階において、圧痕起点型はく離モード又は潤滑油劣化モードの異常があると判定したときは、人間による判断は不要として、時間周波数分布(ウェーブレツト)については表示しない。
【0036】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、前記しきい値を超えているときは圧痕起点型はく離モードであると判定したときに、上位3バンドの相対感度平
均から圧痕サイズを推定し、圧痕起点型はく離モードでの余寿命を被診断し、余寿命を時間単位で表現する。
【0037】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、前記しきい値を超えていないときは潤滑油劣化モードであると判定したときに、前記被診断転がり軸受(3)の23k〜32kHz実効値から潤滑油劣化程度を推定し、潤滑油劣化モードでの余寿命診断し、余寿命を時間単位で表現する。
【0038】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について、5k〜35kHzの振動波形を測定する。圧痕を検出するために、5k〜35kHz帯域を6つの周波数帯に分けて包絡線処理スペクトルを算出し、この包絡線処理スペクトルがしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると推定し、しきい値を超えているときは、圧痕起点型はく離モードの異常・故障モードが特定できないが異常があると推定する。
【0039】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について潤滑油劣化を検出するために、その特徴量(23k〜32kHz実行値×5k〜35kHz実行値)を算出し、潤滑油劣化の特徴量がしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると推定し、しきい値を超えているときは、潤滑油劣化モードの異常・故障モードが特定できないが異常があると推定する。
【0040】
前記判定段階におけるしきい値は、2.0である。
【0041】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について圧痕と潤滑油劣化とを識別するために、その特徴量(ケプストラムのクートシス)を算出し、ケプストラムのクートシスはしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときは圧痕起点型はく離モードの異常があると判定し、しきい値を超えていないときは潤滑油劣化モードの異常があると推定する。
【0042】
前記判定段階におけるしきい値は、3.8である。
【0043】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について圧痕検出の結果がしきい値を超えていないとき、かつ潤滑油劣化検出の結果もしきい値を超えていないときに、その被診断転がり軸受(3)は正常であると判定する。
【0044】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について圧痕検出の結果がしきい値を超えているときであって、故障モードが特定できないとき、又は潤滑油劣化検出の結果がしきい値を超えているときであって、故障モードが特定できないときは、要注意であると認識し、圧痕量、潤滑油劣化量、圧痕/潤滑油識別量を特定し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示し、人間により故障モードを判定し、診断する。
【0045】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について圧痕検出の結果がしきい値を超えているときであって、ケプストラムのクートシスはしきい値を超えているときは、圧痕起点型はく離モードの異常があり、圧痕の発生があると判定し、圧痕起点型はく離モードでの余寿命を診断する。
【0046】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について潤滑油劣化検出の結果がしきい値を超えているときであって、ケプストラムのクートシスはしきい値を超えていないときは、潤滑油劣化モードの異常があり、潤滑油劣化の発生があると判定し、潤滑油劣化モードでの余寿命を診断する。
【0047】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について圧痕起点型はく離モードの異常したとき、又は潤滑油劣化モードの異常があると判定したときは、要注意であると認識し、圧痕量、潤滑油劣化量、圧痕/潤滑油識別量を特定し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示し、人間により故障モードを判定し、診断する。
【0048】
前記判定段階において、圧痕および潤滑油劣化検出のためのしきい値を、(a)BRGサ
イズ、(b)機器重量、(c)電動機出力、(d)機器種類、(e)これら(a)〜(d)の組み合わせにより変更することができる。
【0049】
前記判定段階において、圧痕および潤滑油劣化の検出に加え、機器のアンバランス、ミスアライメント、基礎のゆるみ等を周波数解析により診断する従来の故障検出手法を加えた、回転機のすべての故障を総合的に診断することができる。
【発明の効果】
【0050】
上記構成の被診断方法では、基礎データ採取段階において、予めゴミの混入又は潤滑油の劣化による潤滑が劣化したときに発生する転がり軸受の圧痕の形成状態について、その加速度とゴミ混入状態との関係、加速度と潤滑油状態の関係について実験装置により採取した基礎データを取得する。測定段階において、余寿命を被診断しようとする回転機器(1,2)に備えられた被診断転がり軸受(3)について、加速度センサ(4)を用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号又は高周波信号を測定する。
次に、判定段階において、測定段階により求めた測定値と、前記基礎データ採取段階で求めたデータ、予め測定した被診断転がり軸受(3)の正常状態の軸受荷重、回転速度、運転時間及び転がり軸受呼び番号に関する振動データとを用いて、前記被診断転がり軸受(3)のゴミ混入状態、潤滑油の劣化状態を推定し、該被診断転がり軸受(3)の余寿命を算出する。
【0051】
この判定段階に際しては、先ず、振動の増加傾向を算出することにより、前記被診断転がり軸受(3)が劣化初期であるのか末期状態であるのかを判定する。
劣化初期であると判定したときは、更に次のように判定する。先ず、前記測定段階で求めた被診断転がり軸受け(3)の加速度センサ(4)の共振周波数帯信号、または高周波帯信号、及び予め測定した被診断転がり軸受け(3)の正常時の振動データを用いて、前記被診断転がり軸受(3)が正常な劣化過程であるか、ゴミ混入過程であるか、潤滑油の劣化過程であるかを判定する。
【0052】
被診断転がり軸受(3)にゴミも混入しておらず、潤滑油も劣化状態ではない、劣化初期ではあるが軸受状態が正常であると判定した場合は、その余寿命として定格寿命を算出する。次に、被診断転がり軸受(3)にゴミが混入し、劣化初期状態になったと判定した場合は、前記基礎データ採取段階における振動データにより、混入したゴミのサイズを推定し、その余寿命を算出する。更に、前記被診断転がり軸受(3)の潤滑油が劣化した場合は、軸受状態が劣化初期と判定し、前記データ採取段階における振動データより、前記潤滑油の劣化を推定し、その余寿命を算出する。
【0053】
最後に、劣化末期と判定したときには、前記加速度の低周波帯振動の増加傾向に基づいて余寿命を算出する。このとき、本発明の被診断方法では、振動の増加傾向予測だけでなく、ゴミ混入や潤滑油の劣化から加速度の急増までの経過時間を観測することにより、より精度の高い余寿命を算出することができる。
【0054】
このように本発明は、回転機器(1,2)の稼動中にその転がり軸受(3)の寿命を推定することにより、交換時期を確定し、より効率的な機器(1,2)の保守が可能となる
。例えば、発電所における回転機器(1,2)については、稼働率の高い夏場を避けて秋季にその転がり軸受(3)の交換を実施するといった計画を容易に立て、保守の効率化を図ることができる。また、従来の余寿命診断方法の精度不足から定期点検を余儀なくされていた回転機器に対して早期の余寿命診断が可能なことから、点検周期の長期化、劣化データの採取が容易になり、従来の定期点検体制から機器に応じて保守を行う状態基準保守への移行の効率化が期待できる。
【0055】
特に、本発明では、余寿命を被診断しようとするその被診断転がり軸受(3)の型番とメーカー名等の軸受諸元について判定することで、その軸受の特性に基づいて正確に余寿命を診断することができる。即ち、被診断転がり軸受(3)の型番とメーカー名が判別できるかの可否に基づいて、その後の特定の測定結果からしきい値を超えたかどうかを判定し、正常と異常の別を判定ないし推定することができる。
【0056】
また、本発明ではその被診断転がり軸受(3)の異常が、圧痕によるものか、潤滑油切れの異常によるものかの別を判別して正確に余寿命を判定している。例えば、圧痕起点型はく離モードであると推定したときは、所定の数式に基づいて圧痕サイズを推定して余寿命を診断することができる。また、潤滑油劣化モードであると推定したときは、所定の数式に基づいて潤滑劣化程度を推定して余寿命を診断することができる。
圧痕起点型はく離モードによる異常か、潤滑油劣化モードによる異常かの判別が困難なときは、その誤識別を防止するために人間による時間周波数分布(ウェーブレツト)を確認することで、確実な余寿命を診断することができる。
【0057】
このように、圧痕起点型はく離モード、潤滑油劣化モードの両方を総合的に判定することにより、転がり軸受(3)について、より精緻な余寿命を診断することができる。本発明の余寿命診断方法は、従来のアンバランス、ミスアライメント及び基礎の緩みを検出する従来の検出方法と組み合わせることができる。
【0058】
このように本発明は、回転機器(1,2)の稼動中にその転がり軸受(3)の寿命を推定することにより、点検スケジュール・被診断レポート出力部(10)において交換周期又は交換時期が確定し、より効率的な機器の保守が可能となる。例えば、発電所における回転機器(1,2)については、稼働率の高い夏場を避けて秋季にその転がり軸受(3)の交換を実施するといった計画を容易に立てることができる。また、従来は、定期点検を余儀なくされていた設備に対し、早期の余寿命判定が可能なことから、点検周期の長期化、劣化データの採取が容易になり、従来の定期点検体制から機器の状態に応じて保守を行う状態基準の保守体制への移行を効率化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の転がり軸受の余寿命診断方法を示すブロック図である。
【図2】余寿命診断方法で診断する対象物となる電動機と回転機器に備えられた転がり軸受の一例を示す断面図である。
【図3】転がり軸受の余寿命診断方法を示すフロー図である。
【図4】軸受諸元を判定する転がり軸受の余寿命診断方法を示すフロー図である。
【図5】軸受諸元が判るときの圧痕特徴量による転がり軸受の余寿命診断方法を示すフロー図である。
【図6】軸受諸元が判らないときの圧痕特徴量による転がり軸受の余寿命診断方法を示すフロー図である。
【図7】圧痕の大きさならびに荷重の大きさが軸受の余寿命に与える影響を示すグラフである。
【図8】潤滑油切れによる軸受の相対振動値と余寿命との関係を求めた実験結果を示すグラフである。
【図9】相対感度と圧痕サイズとの関係を示すグラフである。
【図10】ポンプ駆動用電動機に使用されている転がり軸受の余寿命を診断した結果であり、上段から波形、FFTスペクトル、拡大したとウェーブレット分布を示すものであり、(a)は正常状態、(b)は圧痕の発生状態及び(c)は潤滑油の劣化が発生した状態を示すものである。
【図11】本発明の転がり軸受の余寿命診断装置を示す構成ブロック図である。
【図12】従来の余寿命診断方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
本発明の転がり軸受の余寿命診断方法は、予め実験機において、ゴミ混入状態・潤滑油の劣化状態と振動・寿命の関係を採取する基礎データ採取段階と、ポンプ、ファン等の回転機器又は電動機等の回転機構部分に備えられた転がり軸受の余寿命を診断しようとする転がり軸受の共振周波数帯信号又は高周波信号を測定する測定段階と、被診断転がり軸受の余寿命を判定する判定段階と、から成る方法である。
【実施例1】
【0061】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の転がり軸受の余寿命診断方法を示すブロック図である。図2は余寿命診断方法で診断する対象物となる電動機と回転機器に備えられた転がり軸受の一例を示す断面図である。
【0062】
基礎データ採取段階では、ゴミ混入を模擬するために、分解した軸受の転動面に直接きずをつけて、軸受に圧痕を生成させ、また潤滑油の劣化状態を模擬するために潤滑油を少なくした軸受を用いて軸受荷重試験機にて試験を行い、基礎データを採取する。また、この他にゴミ混入を模擬する方法として、潤滑油にゴミの代わりとなる異物を混入させ、混入する異物の量や大きさを変える、混入する異物の硬さを変えるなどがある。同様に、潤滑油の劣化を模擬する方法として、酸化劣化させた潤滑油を使用する、水を混入させるなどがある。
【0063】
この基礎データ採取段階において、予めゴミの混入又は潤滑油の劣化による潤滑が劣化したときの転がり軸受3に圧痕の形成状態について、その加速度と圧痕の大きさとの関係についてのデータを取得する。転がり軸受3の主な劣化形態は、内部起点型はく離と表面起点型はく離の2つの劣化モードがある。この内部起点型はく離は、転がり要素転動面の受ける繰り返し応力が転動面表層下に集中し、転動面内部からはく離が発生するものである。表面起点型はく離は、潤滑油中へのゴミ等の異物の混入により転動面表面に傷がつき、転動面表面からはく離が発生するものである。軸受本来の寿命とは、内部起点型はく離モードにおける寿命であり、この寿命は近年の材料技術の進歩により、軸受の定格寿命の数倍〜数十倍に伸延された。一方、潤滑油中への異物混入等による表面起点型はく離モードの寿命は、内部起点型はく離の寿命の数分の一から数十分の一と著しく短くなる。
【0064】
このように転がり軸受3は多様な劣化モードを持ち、これらの劣化モード・破壊メカニズムを考慮することは軸受の余寿命診断において非常に重要である。そこで、本発明ではこのような転がり軸受3の劣化モードを考慮し、従来よりも早期に被診断可能な、かつ高精度な余寿命を診断するために、その前提として基礎データ採取段階を用いた。
【0065】
余寿命を被診断しようとする回転機器1,2に備えられた被診断転がり軸受3については、判定段階のうち余寿命診断準備段階と測定段階とを講ずる。余寿命診断準備段階では、被診断転がり軸受3について、軸受荷重、回転速度、運転時間及び転がり軸受呼び番号に関するデータ、及び加速度センサ4を用いて正常時の振動データを収集する。測定段階では、運転中における被診断転がり軸受3について、加速度センサ4を用いて振動信号を
求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号又は高周波数帯信号を測定する。
【0066】
図3は転がり軸受の余寿命診断方法を示すフロー図である。
これらの基礎データ採取段階及び余寿命診断準備段階で求めたデータとを用いて、被診断転がり軸受3が劣化初期であるのか末期状態であるのかを図3に示すようなフローにもとづいて推定し、余寿命を診断する。
被診断転がり軸受3について、1k〜64kHzの振動波形を測定する。なお、好ましくは5k〜35kHzの振動波形を測定する。圧痕を検出するために、前記周波数帯域を複数の周波数帯に分割して包絡線処理スペクトルを算出し、この複数周波数帯の包絡線処理スペクトルがしきい値(=2.0)を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると推定する。一方、しきい値を超えているときは、圧痕起点型はく離モードの異常があると判定し、又は異常ではあるが故障モードが特定できないときに次の判定に進む。
例えば、被診断転がり軸受3の振動測定波形を処理した結果、算出した振動値と転がり軸受3の計算寿命を用いて、この転がり軸受3の余寿命を算出して判定する。
【0067】
潤滑油劣化を検出するために、その特徴量(23k〜32kHz実行値×5k〜35kHz実行値)を算出し、潤滑油劣化の特徴量がしきい値(=2.0)を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると推定する。一方、しきい値を超えているときは、潤滑油劣化モードの異常があると推定し、又は異常ではあるが故障モードが特定できないときに次の判定に進む。
【0068】
ここで、しきい値は、2.0が好ましいが、1.0を超えた値であれば判定に利用することができる。このしきい値は、転がり軸受3のサイズ・型式、使用されている機器の重量、機器の種類、電動機器の容量(kw)等に基づいて変動させるものである。あるいは、これらの組み合わせに基づいて変動させる。
【0069】
圧痕と潤滑油劣化とを識別するために、その特徴量(ケプストラムのクートシス)を算出し、ケプストラムのクートシスがしきい値(=3.8)を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときは圧痕起点型はく離モードの異常があると判定する。一方、しきい値を超えていないときは潤滑油劣化モードの異常があると推定する。
【0070】
ここで、しきい値は、3.8が好ましいが、3.0を超えた値であれば判定に利用することができる。このしきい値は、上述したように、転がり軸受3のサイズ・型式、使用されている機器の重量、機器の種類、電動機器の容量(kw)等に基づいて変動させるものである。あるいは、これらの組み合わせに基づいて変動させる。
【0071】
上記圧痕検出の結果がしきい値を超えていないとき、かつ潤滑油劣化検出の結果もしきい値を超えていないときに、その被診断転がり軸受3は「正常」であると判定する。圧痕検出の結果がしきい値を超えていないときでも、潤滑油劣化検出の結果が異常であると判定したときにはその被診断転がり軸受3は異常であると判定する。同様に、潤滑油劣化検出の結果がしきい値を超えていないときでも、圧痕検出の結果が異常であると判定したときにはその被診断転がり軸受3は異常であると判定する。
【0072】
上記圧痕検出の結果がしきい値を超えているときであって、故障モードが特定できないとき、又は潤滑油劣化検出の結果がしきい値を超えているときであって、故障モードが特定できないときは、要注意であると認識し、圧痕量、潤滑油劣化量、圧痕/潤滑油識別量を特定し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示する。更に人間により故障モードを判定し、診断する。
【0073】
圧痕検出の結果がしきい値を超えているときであって、ケプストラムのクートシスがしきい値を超えているときは、圧痕起点型はく離モードの異常があると判定する。その結果、圧痕の発生があると判定し、圧痕起点型はく離モードでの余寿命を診断する。
【0074】
潤滑油劣化検出の結果がしきい値を超えているときであって、ケプストラムのクートシスはしきい値を超えていないときは、潤滑油劣化モードの異常があると判定する。その結果、潤滑油劣化の発生があると判定し、潤滑油劣化モードでの余寿命を診断する。
【0075】
更に、圧痕起点型はく離モードの異常があると推定し、又は潤滑油劣化モードの異常があると判定したときは、要注意であると認識し、圧痕量、潤滑油劣化量、圧痕/潤滑油識別量を特定し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示する。更に人間により故障モードを判定し、診断する。
【0076】
なお、圧痕起点型はく離モード又は潤滑油劣化モードの異常があると判定したときは、その圧痕量、潤滑油劣化量、圧痕/潤滑油識別量を特定せず、時間周波数分布(ウェーブレツト)については表示しない。
【実施例2】
【0077】
図4は実施例2の転がり軸受の型番とメーカー名を判定する転がり軸受の余寿命診断方法を示すフロー図である。図5は軸受諸元が判るときの圧痕特徴量による転がり軸受の余寿命診断方法を示すフロー図である。図6は軸受諸元が判らないときの圧痕特徴量による転がり軸受の余寿命診断方法を示すフロー図である。
実施例2の転がり軸受3の型番とメーカー名等の諸元判定を伴った圧痕検出方式について説明する。
被診断転がり軸受3について、5k〜35kHzの振動波形を、1/2オクターブバン
ドで周波数を分割して計6バンドを採取し、各周波数帯の波形に対し、包絡線処理を行い、周波数スペクトルを算出し、転がり軸受3の型番とメーカー名について判定する。転がり軸受3の型番とメーカー名が判別できると、その軸受の特徴が判り、その余寿命をより正確に推定しやすいからである。
【0078】
転がり軸受の型番とメーカー名が判るときは次のような判定を行う。
転がり軸受3の諸元からベアリングパス周波数を計算し、各周波数帯の包絡線処理スペクトルらパス周波数成分(finn.out.ballの3つ)を抽出し、抽出した各周波数帯のパス周波数成分の相対感度(正常時との比)を算出し、パス周波数成分の相対感度の上位3バンド平均を求める。finn.out.ballの3つに対して独立して演算する。このバンド周波数成分の上位3バンド平均(finn.out.ballの3つ)のどれかがしきい値(=2.0)を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると推定する。
【0079】
一方、このしきい値を超えているときは、圧痕/潤滑油劣化の誤識別防止のために人間による時間周波数分布(ウェーブレツト)を確認し、振動波形のウェーブレツト分布を作成し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示する。これは、人間の判定が一番手的確に行えるからである。
【0080】
転がり軸受の型番とメーカー名が判らないときは次のような判定を行う。
被診断転がり軸受3について、各周波数帯の包絡線処理スペクトルから、回転数×1.5〜7の範囲内で周波数スペクトルのピークを抽出し、抽出した各周波数帯のピーク周波数成分の相対感度(正常時との比)を算出し、ピーク周波数成分の相対感度の上位3バンド平均を求め、ピーク周波数成分の上位3バンドの相対感度平均が、しきい値(=2.0)を超えたかどうかを推定し、しきい値を超えていないときは正常であると推定する。
【0081】
一方、しきい値を超えているときは、圧痕起点型はく離モードであると確認し、上位3バンドの相対感度平均から圧痕サイズを推定し、圧痕起点型はく離モードでの余寿命を診断し、余寿命を下記数式[数1]で計算して診断する。
【0082】
【数1】

【0083】
このように本発明は、回転機器1,2の運転中にその転がり軸受3の寿命を推定することにより、交換時期が確定し、より効率的な回転機器1,2の保守が可能となる。例えば、発電所における回転機器1,2については、稼働率の高い夏場を避けて秋季にその転がり軸受3の交換を実施するといった計画を容易に立てることができる。
転がり軸受の内輪にロックウェル硬度計を用いて圧子で円すい状の圧痕を作製し、圧痕の大きさと負荷荷重を変えた疲労試験を行い、圧痕が発生した後に運転できる時間を求めた試験軸受にはモータで最も多く使用されている深溝玉軸受を用い、日本学術振興会126
委員会が製作した疲労試験機で試験を行った試験軸受はJIS6206(内径30mm,外径62mm,幅16mm)である。回転速度は2000rpm,潤滑油はタービン油ISOVGlOである。図1に結果を示すように、転がり軸受の計算寿命に対する寿命比は
圧痕の大きさが大きくなると低下し、寿命比の低下率は負荷荷重が小さいほど大きいことがわかった。
【0084】
図7は圧痕の大きさならびに荷重の大きさが寿命に与える影響を示すグラフである。
ここで、Pは軸受の試験時のラジアル荷重、Cは軸受の基本動定格荷重、LlOhはJISB1518・1992の基本動定格寿命は数式[数1]に示した。LlOは寿命試験データをワイブル分布に当てはめた場合の10%寿命である。
【0085】
【数1】

【0086】
ここで、nは回転速度(rpm)、Cは軸受の基本動定格荷重及びPは軸受の試験時のラジアル荷重である。尚、転がり軸受の基本動定格寿命とは、一群の同じ軸受を同一条件で個々に回転させたとき、その90%が転がり疲れによるフレーキング(はく離)を生じることなく100万回回転できる時間である。
図8より、各サイズの圧痕において数式[数2]が確認できる。
【0087】
【数2】

【0088】
Saylesらの研究(文献:Saylesら、ASTM STP771(1982)
255-274)によると3ミクロン以下のフィルターを使用して転がり軸受に供給する
。潤滑油の清浄度を管理した場合は寿命が一定であることがわかっている。また、転がり軸受の軌道面は超仕上げ加工されており、その表面粗さのピッチは2.5μm前後である。従って、圧痕サイズ2.5μmの場合には圧痕による寿命低下はないと考えた圧痕がない場合の転がり軸受の寿命は近年の軸受用鋼の清浄度の向上により基本動定格寿命より長くなっている。日本学術振興会が行っている統一試験では2倍の実力があるとされている
。従って、圧痕サイズ2.5μmの場合の相対寿命を2とした。
圧痕サイズを230μmならびに460μmとした場合の実験結果及び圧痕サイズ2.5μmの場合の結果を基に回帰式の係数a,bを決定した。結果、下記の数式2を得た。
【0089】
【数3】

【0090】
ここで、dは圧痕の直径であり、単位はミクロンである。
式を変形して余寿命推定する数式4を得た。
【0091】
【数4】

【0092】
圧痕の大きさは軸受の振動波形を処理することにより決定できる。
【0093】
転がり軸受の潤滑油膜が破断すると金属接触部の発熱により潤滑油の酸化劣化が加速されたり、また金属接触部の摩耗粉による触媒作用で潤滑油の酸化劣化が加速される。
転がり軸受の軌道輪と転動体間の潤滑状態と軸受振動の間には前記のような関係があり、潤滑状態を変えた。潤滑寿命試験を実施し、相対振動値と相対寿命の関係を求めた。試験軸受ならびに試験機は圧痕を付けた。試験の場合と同じである。試験荷重は基本動定格荷重の10%とした。乾燥状態ならびにISOVG2の潤滑油による試験を行った。回転速度は900rpmおよび1800rpmである。結果を図に示すが、正常状態に対する相対振動値と相対寿命(試験軸受の寿命をBooserのグリース寿命式から求めた計算寿命との比)との間の実験式を得た。
【0094】
次に、転がり軸受の潤滑油劣化の検出方式について説明する。
被診断転がり軸受3について、センサ共振周波数帯23k〜32kHzの実効値を算出し、23k−32kHz実効値の相対感度を算出し、23k−32kHz実効値の相対感度はしきい値(=1.5)を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると推定する。
【0095】
一方、しきい値を超えているときは、圧痕起点型はく離モードであると確認し、上位3バンドの相対感度平均から圧痕サイズを推定する。圧痕起点型はく離モードでの余寿命を診断する。余寿命を下記数式[数(1)]で計算して診断する。
【数(1)】

【0096】
または、しきい値を超えているときは、潤滑油劣化モードであると確認し、23k〜32kHz実効値から潤滑油劣化程度を推定し、潤滑油劣化モードでの余寿命診断し、余寿命を時間単位(hrs)表示し診断する。
【0097】
被診断転がり軸受3について、5k〜35kHz振動波形のケプストラムを算出し、
ケプストラムのクートシス算出し、ケプストラムのクートシスはしきい値(=3.8)を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときは圧痕起点型はく離モードであると判定する。
上位3バンドの相対感度平均から圧痕サイズを推定し、圧痕起点型はく離モードでの余寿命を被診断し、余寿命を下記数式[数(1)]で計算して診断する。
【数(1)】

【0098】
一方、しきい値を超えていないときは潤滑油劣化モードであると判定し、23k〜32kHz実効値から潤滑油劣化程度を推定し、潤滑油劣化モードでの余寿命診断し、余寿命を下記数式[数(2)]で計算して診断する。
【数(2)】

【0099】
図8は油切れによる軸受の相対振動値と余寿命との関係を求めたグラフである。
図8の計算寿命は数式[数5]のBooserの式のLhbである。
【0100】
【数5】

【0101】
ここで、tは軸受外輪温度(℃)、SGはグリース組成による半減寿命引算係数、SN及びSWはそれぞれ回転数による半減寿命引算係数、荷重・速度による半減寿命引算係数で
あり各数式は[数6]、[数7]に示すとおりである。
【0102】
【数6】

【0103】
ここで、d(mm)は軸受の内径寸法、nLはカタログ許容回転速度であり単位はrpmである。
【0104】
【数7】

【0105】
ここで、P(lbf)は負荷荷重、Cr(lbf)は基本動定格荷重である。
従って、余寿命は[数8]の数式となる。
【0106】
【数8】

【0107】
このように転がり軸受の型番とメーカー名を判定したときの診断結果について、故障モードが特定できないときは、振動波形のウェーブレツト分布を作成する。次に、要注意であると認識し、圧痕量、潤滑油劣化量、圧痕/潤滑油識別量を特定し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示する。
【0108】
圧痕モードの異常があるときは、上位3バンドの相対感度平均から圧痕サイズを推定する。圧痕起点型はく離モードでの余寿命を診断し、余寿命を時間単位で表示する。
【0109】
潤滑油劣化モードの異常があるときは、23k〜32kHzの実行値から潤滑油劣化程度を推定する。潤滑油劣化モードでの余寿命を診断し、余寿命を時間単位で表示する。
【0110】
図9は相対感度と圧痕サイズとの関係を示すグラフである。
本発明では、基礎データ採取段階及び測定段階及び判定段階におけるゴミ混入による圧痕の発生の検出および圧痕のサイズを、加速度センサ4の最も高感度検出が可能な共振周波数帯の振動信号を含んだ周波数帯域で求めることができる。 図10に示すように、圧痕サイズの推定曲線は、機器の種類や聞きの大きさにより変化させ、算出された相対感度から圧痕サイズを推定することができる。
【0111】
図10はポンプ駆動用電動機に使用されている転がり軸受の余寿命を診断した結果であり、上段から波形、FFTスペクトル、拡大したとウェーブレット分布を示すものであり、(a)は正常状態、(b)は圧痕の発生状態及び(c)は潤滑油の劣化が発生した状態を示すものである。
正常な転がり軸受の寿命を相対寿命1(定格寿命を相対寿命1とする)とすると、圧痕を付けた軸受の寿命は、それより遥かに短く、定格寿命の1/100以下になることもある。また、被診断転がり軸受3のはく離は、例外なく圧痕を起点としており、軸受寿命のバラツキは極めて小さいことが知られている。本発明の判定段階は、このような圧痕サイズと寿命の関係により推定する。
【実施例3】
【0112】
図11は本発明の転がり軸受の余寿命診断装置を示す構成ブロック図である。
転がり軸受の余寿命診断装置は、加速度センサ4と、アナログ/デジタル変換器5と、特徴量抽出部6と、測定結果データベース7と、余寿命診断部8と、被診断結果表示部9と、点検スケジュール・被診断レポート出力部10と、伝送用モデム11と、を備えものである。
【0113】
アナログ/デジタル変換器5は、前述した余寿命を被診断しようとする被診断転がり軸受3等について加速度センサ4で求めたデータを変換するものである。特徴量抽出部6は、このアナログ/デジタル変換器5で変換した振動信号の中で、最も高感度検出が可能な共振周波数帯の振動信号を抽出するものである。
【0114】
測定結果データベース7は、上述したように、予め実験機においてゴミ混入状態・潤滑油の劣化状態と振動・寿命の関係を採取した基礎データと、ポンプ、ファン等の回転機器1又は電動機2等の回転機構部分に備えられた余寿命を被診断しようとする被診断転がり軸受3の軸受荷重、回転速度、運転時間及び転がり軸受呼び番号に関するデータ、及び被診断転がり軸受3の正常時の振動データを収集し、保存するものである。
【0115】
余寿命診断部8は、この測定結果データベース7に搭載されたデータを用いることにより、特徴量抽出部6で抽出した、被診断転がり軸受3の振動信号に基づいて被診断転がり軸受3のゴミの混入と潤滑油の劣化状態とを判定し、その余寿命を診断するものである。
【0116】
被診断結果表示部9は、余寿命診断部9の結果を表示するものである。点検スケジュール・被診断レポート出力部10は、余寿命診断部9の被診断結果に基づいて、被診断転がり軸受3の次回の点検スケジュールと被診断結果のレポートとをプリンタ1,2等に出力するものである。このように本発明は、回転機器1,2の稼動中にその転がり軸受3の寿命を推定することにより、点検スケジュール・被診断レポート出力部10において交換周期又は交換時期が確定し、より効率的な機器の保守が可能となる。例えば、発電所における回転機器1,2については、稼働率の高い夏場を避けて秋季にその転がり軸受3の交換を実施するといった計画を容易に立てることができる。
【0117】
上記構成の余寿命診断装置では、潤滑油へのゴミの混入や潤滑油の劣化状態を、加速度センサ4の共振周波数帯信号又は高周波信号を用いることにより、安価に検出し、検出したゴミの状態、潤滑油の状態を根拠に転がり軸受の寿命を高精度に推定することができる。
【0118】
伝送用モデム11は、波形データと被診断結果をインターネット回線に接続するものである。このように、インターネット回線に接続することにより、遠隔地において所定の転がり軸受3の余寿命を容易に推定することができる。
【0119】
なお、本発明は上述した発明の実施の形態に限定されず、被診断転がり軸受3が余寿命を推定し、該被診断転がり軸受3の余寿命を算出する方法であれば、上述した構成に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【0120】
また、予めゴミが混入した状態又は潤滑油が劣化した状態と、その加速度と圧痕の大きさ等との関係についてデータを採取しておき、採取したゴミ混入状態・潤滑油の劣化状態と加速度・寿命の関係データと、特徴量抽出部6で抽出した被診断転がり軸受3の振動信号を比較・判定することにより、被診断転がり軸受3のゴミの混入状態・潤滑油の劣化状態を推定し、その余寿命を診断する構造であれば、図示した構成に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の転がり軸受の余寿命診断方法は、化学プラント、製鉄所ならびに発電所などで使用されている補機であるポンプ、ファンの転がり軸受、またはそれら機器を駆動するモータで使用される転がり軸受についてその余寿命診断をする際に利用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 ポンプ、ファン
2 電動機
3 転がり軸受(被診断転がり軸受)
4 加速度センサ
5 アナログ/デジタル変換器
6 特徴量抽出部
7 測定結果データベース
8 余寿命診断部
9 被診断結果表示部
10 点検スケジュール・被診断レポート出力部
11 伝送用モデム
12 プリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受(3)におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関し、各転がり軸受(3)の型番、メーカー名等の軸受諸元毎について、加速度センサ(4)を用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を実験装置により採取する基礎データ採取段階と、
ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、余寿命を診断する転がり軸受(3)について、加速度センサ(4)を用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する測定段階と、
前記測定段階により求めた測定値と、前記軸受諸元についての判定結果と、前記基礎データ採取段階で求めたデータとを用いて、前記被診断転がり軸受(3)のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、該被診断転がり軸受(3)の余寿命を算出する判定段階と、から成る、ことを特徴とする転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項2】
前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)の振動測定波形を処理した結果、算出した振動値と該転がり軸受(3)の計算寿命を用いて、該転がり軸受(3)の余寿命を算出する、ことを特徴とする請求項1の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項3】
前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)について、1k〜64kHzの振動波形を、1/2オクターブバンドで周波数を分割して複数のバンドを採取し、
各周波数帯の波形に対し、包絡線処理を行い、周波数スペクトルを算出してから、
該被診断転がり軸受(3)の型番とメーカー名等の軸受諸元について判定する、ことを特徴とする請求項1の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項4】
前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)について、1k〜64kHzの振動波形を、1/2オクターブバンドで周波数を分割して複数のバンドを採取し、各周波数帯の波
形に対し、包絡線処理を行い、周波数スペクトルを算出し、軸受の型番とメーカー名等の軸受諸元について判定し、
前記被診断転がり軸受(3)の型番とメーカー名が判るときに、
その軸受諸元からベアリングパス周波数を計算し、各周波数帯の包絡線処理スペクトルらパス周波数成分(finn.out.ballの3つ)を抽出し、抽出した各周波数帯のパス周波数成分の相対感度(正常時との比)を算出し、パス周波数成分の相対感度の分割したバンド数の上位バンドの平均を求め、
パス周波数成分の複数バンドに分割したバンド数の上位バンド平均のどれかがしきい値を超えたかどうかを判定し、
しきい値を超えていないときは正常であると推定する、ことを特徴とする請求項1、2又は3の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項5】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、5k〜35kHzの振動波形を、1/2オクターブバンドで周波数を分割して計6バンドを採取し、各周波数帯
の波形に対し、包絡線処理を行い、周波数スペクトルを算出する、ことを特徴とする請求項4の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項6】
前記判定段階におけるしきい値は、1を超えた数値である、ことを特徴とする請求項4の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項7】
前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)について、1k〜64kHzの振動波形を、1/2オクターブバンドで周波数を分割して複数のバンドを採取し、各周波数帯の波
形に対し、包絡線処理を行い、周波数スペクトルを算出し、軸受の型番とメーカー名等の軸受諸元について判定し、
前記被診断転がり軸受(3)の型番とメーカー名が判らないときに、
各周波数帯の包絡線処理スペクトルから、回転数×1.6〜7の範囲内で周波数スペクトルのピークを抽出し、
抽出した各周波数帯のピーク周波数成分の相対感度(正常時との比)を算出し、
ピーク周波数成分の相対感度の上位3バンド平均を求め、
ピーク周波数成分の分割した上位のバンドの相対感度平均が、しきい値を超えたかどうかを判定し、
しきい値を超えていないときは正常であると推定する、ことを特徴とする請求項1、2又は3の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項8】
前記判定段階は、前記転がり軸受(3)について、5k〜35kHzの振動波形を、1/2オクターブバンドで周波数を分割して計6バンドを採取し、
各周波数帯の波形に対し、包絡線処理を行い、周波数スペクトルを算出し、
軸受の型番とメーカー名等の軸受諸元について判定し、
前記被診断転がり軸受(3)の型番とメーカー名が判らないときに、
各周波数帯の包絡線処理スペクトルから、回転数×1.6〜7の範囲内で周波数スペクトルのピークを抽出し、抽出した各周波数帯のピーク周波数成分の相対感度(正常時との比)を算出し、ピーク周波数成分の相対感度の上位3バンド平均を求め、
ピーク周波数成分の上位3バンドの相対感度平均が、しきい値を超えたかどうかを判定する、ことを特徴とする請求項1、2又は3の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項9】
前記判定段階におけるしきい値は、1を超えた数値である、ことを特徴とする請求項7
又は8の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項10】
転がり軸受(3)におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関して、加速度センサ(4)を用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を実験装置により採取する基礎データ採取段階と、
ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、余寿命を診断する転がり軸受(3)について、加速度センサ(4)を用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する測定段階と、
前記測定段階により求めた測定値と、前記基礎データ採取段階で求めたデータとを用いて、前記被診断転がり軸受(3)のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、該被診断転がり軸受(3)の余寿命を算出する判定段階と、
から成る、ことを特徴とする転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項11】
前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)について、1k〜64kHzの周波数帯域を持つ振動信号から、センサ共振周波数帯域を含む狭帯域および広帯域の2つの周波数帯域の実効値の相対感度を計算し、狭帯域実効値相対感度×広帯域実効値相対感度という特徴量がしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると判定する、ことを特徴とする請求項10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項12】
前記判定段階は、前記被診断転がり軸受(3)について、5k〜35kHzの周波数帯域を持つ振動信号から、23k〜32kHzと5k〜35kHzの2つの周波数帯域の実効値の相対感度を計算し、23k〜32Hz実効値相対感度×5k〜35kHz実効値相対感度という特徴量がしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると判定する、ことを特徴とする請求項10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項13】
前記判定段階におけるしきい値は、1を超えた数値である、ことを特徴とする請求項11又は12の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項14】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、パス周波数成分の複数バンドに分割したバンド数の上位バンド平均のどれかがしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、
圧痕/潤滑油劣化の誤識別防止のために、振動波形のウェーブレツト分布を作成し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示し、人間による時間周波数分布(ウェーブレツト)を確認することを特徴とする請求項4又は10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項15】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、ピーク周波数成分の上位3バンドの相対感度平均が、しきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、
圧痕/潤滑油劣化の誤識別防止のために、振動波形のウェーブレツト分布を作成し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示し、人間による時間周波数分布(ウェーブレツト)を確認することを特徴とする請求項7又は10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項16】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、広帯域実効値相対感度×狭帯域実効値相対感度が、しきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、
圧痕/潤滑油劣化の誤識別防止のために、振動波形のウェーブレツト分布を作成し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示し、人間による時間周波数分布(ウェーブレツト)を確認することを特徴とする請求項10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項17】
前記判定段階において、圧痕起点型はく離モードおよび潤滑油劣化モードの余寿命を、計算寿命と、0〜1の余寿命係数との積として算出される余寿命推定式を用いて診断する、ことを特徴とする請求項2の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項18】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、パス周波数成分の複数バンドに分割したバンド数の上位バンド平均のどれかがしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、
圧痕起点型はく離モードであると確認し、
上位3バンドの相対感度平均から圧痕サイズを推定し、
圧痕起点型はく離モードでの余寿命を下記の数式[数(1)]で計算して診断する、ことを特徴とする請求項4の転がり軸受の余寿命診断方法。
【数(1)】

【請求項19】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、ピーク周波数成分の上位3バンドの相対感度平均が、しきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、
圧痕起点型はく離モードであると確認し、
上位3バンドの相対感度平均から圧痕サイズを推定し、
圧痕起点型はく離モードでの余寿命を下記の数式[数(1)]で計算して診断する、ことを特徴とする請求項7の転がり軸受の余寿命診断方法。
【数(1)】

【請求項20】
前記判定段階において、圧痕起点型はく離モードにおける余寿命推定式を、計算寿命を下記の数式[数(2)]の基本動定格寿命とし、余寿命係数をP/Cおよび振動値の関数と
した圧痕発生からの余寿命とする、ことを特徴とする請求項17の転がり軸受の余寿命診断方法。
【数(2)】

【請求項21】
前記判定段階において、潤滑油劣化モードにおける余寿命推定式を、
計算寿命を、計算寿命を下記の数式[数(3)]による計算寿命とし、余寿命係数を振動値の関数とした潤滑油劣化発生からの余寿命とする、ことを特徴とする請求項17の転がり軸受の余寿命診断方法。
【数(3)】

【請求項22】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、センサ共振周波数帯23k〜32kHzの実効値および5k〜35kHz実効値の相対感度を算出し、23k〜32kHz実効値相対感度×5k〜35kHz実効値相対感度はしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えているときに、
潤滑油劣化モードであると確認し、
23k〜32kHzの実効値相対感度から潤滑油劣化モードでの余寿命を下記の数式[数(4)]で計算して診断する、ことを特徴とする請求項10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【数(4)】

【請求項23】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、1K〜64kHz振動波形のケプストラムを算出し、ケプストラムのクートシスを算出し、ケプストラムのクートシスはしきい値を超えたかどうかを判定し、
しきい値を超えているときは圧痕起点型はく離モードであると判定し、
しきい値を超えていないときは潤滑油劣化モードであると推定する、ことを特徴とする請求項1、2又は10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項24】
前記判定段階におけるしきい値は3を超えた数値であることを特徴とする請求項23の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項25】
前記判定段階において、圧痕起点型はく離モード又は潤滑油劣化モードの異常があると判定したときは、
人間による判断は不要として、時間周波数分布(ウェーブレツト)については表示しない、ことを特徴とする請求項1、10又は11の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項26】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、前記しきい値を超えているときは圧痕起点型はく離モードであると判定したときに、
上位3バンドの相対感度平均から圧痕サイズを推定し、圧痕起点型はく離モードでの余寿命を被診断し、余寿命を時間単位で表現する、ことを特徴とする請求項5又は8の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項27】
前記判定段階において、前記被診断転がり軸受(3)について、前記しきい値を超えて
いないときは潤滑油劣化モードであると判定したときに、
前記被診断転がり軸受(3)の23k〜32kHz実効値から潤滑油劣化程度を推定し、潤滑油劣化モードでの余寿命診断し、余寿命を時間単位で表現する、ことを特徴とする請求項11の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項28】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について、5k〜35kHzの振動波形を測定する。圧痕を検出するために、5k〜35kHz帯域を6つの周波数帯に分けて包絡線処理スペクトルを算出し、この包絡線処理スペクトルがしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると推定し、
しきい値を超えているときは、圧痕起点型はく離モードの異常・故障モードが特定できないが異常があると推定する、ことを特徴とする請求項1、2又は10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項29】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について潤滑油劣化を検出するために、その特徴量(23k〜32kHz実行値×5k〜35kHz実行値)を算出し、潤滑油劣化の特徴量がしきい値を超えたかどうかを判定し、しきい値を超えていないときは正常であると推定し、
しきい値を超えているときは、潤滑油劣化モードの異常・故障モードが特定できないが異常があると推定する、ことを特徴とする請求項10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項30】
前記判定段階におけるしきい値は、2.0である、ことを特徴とする請求項28又は29の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項31】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について圧痕と潤滑油劣化とを識別するために、その特徴量(ケプストラムのクートシス)を算出し、ケプストラムのクートシスはしきい値を超えたかどうかを判定し、
しきい値を超えているときは圧痕起点型はく離モードの異常があると判定し、
しきい値を超えていないときは潤滑油劣化モードの異常があると推定する、ことを特徴とする請求項1、2又は10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項32】
前記判定段階におけるしきい値は、3.8である、ことを特徴とする請求項32の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項33】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について圧痕検出の結果がしきい値を超えていないとき、かつ潤滑油劣化検出の結果もしきい値を超えていないときに、その被診断転がり軸受(3)は正常であると判定する、ことを特徴とする請求項1、2又は10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項34】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について圧痕検出の結果がしきい値を超えているときであって、故障モードが特定できないとき、又は潤滑油劣化検出の結果がしきい値を超えているときであって、故障モードが特定できないときは、要注意であると認識し、圧痕量、潤滑油劣化量、圧痕/潤滑油識別量を特定し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示し、
人間により故障モードを判定し、診断する、ことを特徴とする請求項1、2又は10の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項35】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について圧痕検出の結果がしきい値を超えているときであって、ケプストラムのクートシスはしきい値を超えているときは、圧痕起点型はく離モードの異常があり、圧痕の発生があると判定し、圧痕起点型はく離モードでの余寿命を診断する、ことを特徴とする請求項1、2又は10の転がり軸受の余寿命
診断方法。
【請求項36】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について潤滑油劣化検出の結果がしきい値を超えているときであって、ケプストラムのクートシスはしきい値を超えていないときは、潤滑油劣化モードの異常があり、潤滑油劣化の発生があると判定し、潤滑油劣化モードでの余寿命を診断する、ことを特徴とする請求項11の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項37】
前記判定段階において、被診断転がり軸受(3)について圧痕起点型はく離モードの異常したとき、又は潤滑油劣化モードの異常があると判定したときは、要注意であると認識し、圧痕量、潤滑油劣化量、圧痕/潤滑油識別量を特定し、時間周波数分布(ウェーブレツト)を表示し、人間により故障モードを判定し、診断する、ことを特徴とする請求項1、10又は11の転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項38】
前記判定段階において、圧痕および潤滑油劣化検出のためのしきい値を、(a)BRGサ
イズ、(b)機器重量、(c)電動機出力、(d)機器種類、(e)これら(a)〜(d)の組み合わせにより変更することを特徴とする請求項6、9、13又は24の転がり軸受の余寿命診断手法。
【請求項39】
前記判定段階において、圧痕および潤滑油劣化の検出に加え、機器のアンバランス、ミスアライメント、基礎のゆるみ等を周波数解析により診断する従来の故障検出手法を加えた、回転機のすべての故障を総合的に診断することを特徴とした請求項1から38の転がり軸受の余寿命診断手法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−190901(P2010−190901A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60290(P2010−60290)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【分割の表示】特願2004−102995(P2004−102995)の分割
【原出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【出願人】(501465757)新川センサテクノロジ株式会社 (5)
【出願人】(598164784)
【Fターム(参考)】