説明

転がり軸受用プラスチック保持器及び転がり軸受

【課題】安価でありながらも、高温での使用に耐えることができ、かつ変形がなく、特に高温や高速回転、更には高湿度条件下で長期間の使用に耐え得るプラスチック保持器、並びに前記プラスチック保持器を備え、高温や高速回転、更には高湿度条件下での使用に好適な転がり軸受を提供する。
【解決手段】少なくとも2個以上の炭素間二重結合を有する多官能モノマーを含むポリアミド樹脂組成物の成形体を加熱架橋してなり、繊維状物質を添加することなく強度強化した転がり軸受用プラスチック保持器、及び前記プラスチック用保持器を備える転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受用プラスチック保持器(以下、単に「プラスチック保持器」ともいう)に関し、その強度・剛性の向上に関するものである。また、本発明は、前記プラスチック保持器を備え、例えば高温・高速オルタネータ用転がり軸受や、高速工作機械用転がり軸受のように特に高温かつ高速回転での使用に好適な転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、転がり軸受は転動体の種類によって玉軸受ところ軸受に分けられ、それぞれが形状や用途によっていくつかの種類に分類される。図1は玉軸受の一例を示す断面図であるが、図示されるように、内輪11と外輪12との間に配置される複数個の転動体である玉13を、図2に斜視図を示す冠型保持器14にて転動自在に保持し、更に封入グリースの漏洩や外部からの異物の侵入を防止するためのシール15を装着して構成されている。
【0003】
また、工作機械には、例えば図3に示すようなアンギュラ玉軸受が多用されている。このアンギュラ玉軸受は、内輪1と外輪2との間に、複数個の玉3を、図4に斜視図を示す保持器4により保持して構成されている。尚、図4において、符号41は玉3を保持するためのポケットである。
【0004】
上記各保持器4,14の中には、樹脂組成物を所定形状に成形したプラスチック保持器があり、樹脂組成物として材料コストと性能のバランスが良いことから、ガラス繊維を配合したポリアミド6(ナイロン6)やポリアミド66(ナイロン66)をベース樹脂とした樹脂組成物が多用されている。また、転がり軸受の使用条件(温度や回転速度)によっては、より耐熱性に優れるポリアミド46樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物も用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−36686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、自動車において、省エネルギーのための改善が進められており、例えば、オルタネータにおいては、従来、冷却ファンによる空冷が一般的であったが、効率向上を目的に、水冷方式に変わりつつある。このことから、オルタネータに使用される転がり軸受は従来よりもさらに高温に晒され、より高い耐熱性が要求されている。また、工作機械等の高速スピンドルにおいても、加工速度を向上するために、より高速な回転に耐えうる転がり軸受が要求されている。このため、転がり軸受に用いる保持器にも、より耐熱性、剛性の高いプラスチック保持器への要求が高まっている。
【0007】
しかし、プラスチック保持器のベース樹脂として従来一般的なポリアミド6やポリアミド66は、通常、数平均分子量が10,000〜20,000、多くとも30,000以下であることから、これらをベース樹脂とする保持器では、120℃を超えるような高温では強度や剛性が十分でなくなり、特に高速回転で使用される場合に変形することがあった。
【0008】
一方、樹脂を高分子量化することにより、特に高温での剛性が高まることが知られている。しかし、分子量が高まるほど、溶融粘度が高くなり成形性が低下する。プラスチック保持器は、コスト面で有利な射出成形により製造されるのが一般的であるが、一般的な射出成形機は、樹脂の数平均分子量が50,000程度までであれば精度良く、安定して成形可能であるが、これより高分子量の樹脂では成形が困難になる。
【0009】
また、通常の分子量のポリアミド樹脂は吸水性が高いため、ポリアミド樹脂組成物からなる保持器を組み込んだ転がり軸受を高湿度下で使用すると、保持器が膨潤して転がり軸受が円滑に作動しにくくなることも考えられる。
【0010】
また、上記特許文献1においては、成形時は通常の分子量とし成形後に高分子量化を図るため、成形前にラジカル発生剤及び架橋剤を混練し、成形後の熱処理によって架橋処理を行っている。しかしながら、ラジカル発生剤によって発生したラジカルが酸化防止剤等の劣化防止剤と反応することにより、非架橋樹脂よりも劣化耐性が低減する恐れがある。また、150℃より高い温度にて熱処理を行うことは樹脂そのものが熱分解することによって、機械的特性が低下することが懸念されるだけでなく、成形体の寸法精度の低下を引き起こす恐れもある。
【0011】
また、通常、樹脂の強化のため、ガラス繊維などの繊維状物質の添加が行われているが、小型の部品においては、成形性の点で問題がある。すなわち、体積に対し、繊維長さの比が大きくなってくると、成形時に溶融樹脂の流れが妨げられるなどして、均質に繊維を分散させることが困難となる。このため、繊維強化の効果が低くなることも考えられる。
【0012】
本発明は、このような従来のプラスチック保持器の問題点を解決するためになされたものであり、特に小型のプラスチック保持器において、安価でありながらも、高温での使用に耐えることができ、かつ変形がなく、特に高温や高速回転、更には高湿度条件下で長期間の使用に耐え得るプラスチック保持器、並びに前記プラスチック保持器を備え、高温や高速回転、更には高湿度条件下での使用に好適な転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は、少なくとも2個以上の炭素間二重結合を有する多官能モノマーを含むポリアミド樹脂組成物の成形体を加熱架橋してなり、繊維状物質を添加することなく強度強化したことを特徴とする転がり軸受用プラスチック保持器を提供する。
【0014】
また、本発明は、上記特徴に加え、前記多官能モノマーがトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート及びエチレングリコールジメタクリレートから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする転がり軸受用プラスチック保持器を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記特徴に加え、前記多官能モノマーの添加量がポリアミド樹脂100質量部に対して0.2〜7質量部であることを特徴とする転がり軸受用プラスチック保持器を提供する。
【0016】
また、本発明は、上記特徴に加え、前記加熱架橋が、前記ポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度以上の温度で且つ、成形時の金型温度以下の温度で処理されることを特徴とする転がり軸受用プラスチック保持器を提供する。
【0017】
また、本発明は、上記特徴に加え、前記成形体が、射出成形により成形されていることを特徴とする転がり軸受用プラスチック保持器を提供する。
【0018】
また、本発明は、上記の転がり軸受用プラスチック保持器を備えることを特徴とする転がり軸受を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のプラスチック保持器は、ポリアミド樹脂組成物を、架橋剤やラジカル発生剤を用いることなく、多官能モノマーを用いて架橋したものであり、従来品よりも高分子量化されており、特に高温での剛性が高められており、吸水による膨張も少なく、寸法安定性にも優れる。しかも、架橋剤やラジカル発生剤が無くなることで、相対的に樹脂量を増量でき、強度面でより有利となる。また、ラジカル発生剤がなくなることで、酸化防止剤等の添加剤に対する悪影響がなく、また、低温での熱処理を行うことによって、寸法精度の低下を抑制することができるだけでなく、分子鎖の切断の可能性が極めて低いため、架橋による強度や剛性の向上効果を低下させることがない。更には、架橋剤やラジカル発生剤及びガラス等の繊維状物質を用いないため原料コストが低く、製造時には、成形開始毎にこれらの添加物を添加して混練し、成形原料の調製をする必要がなくなり製造コストも低くなる。
【0020】
また、このプラスチック保持器を備える本発明の転がり軸受は、高温・高速回転、更には高湿度条件下でも長時間の使用に耐え得る。そのため、例えばオルタネータや工作機械用として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0022】
本発明において、プラスチック保持器を形成するベース樹脂はポリアミド樹脂であり、特にその種類は制限されるものではない。しかし、後述される架橋機構から、水素の引き抜きを容易にして架橋をより進行させるために、分子構造中にメチレン鎖(−(CH2)n−)を有することが好ましく、繰り返し単位中にベンゼン環を有する芳香族ポリアミド樹脂よりは脂肪族ポリアミド樹脂の方が好ましい。具体的には、ポリアミド6(ナイロン6)、ポリアミド66(ナイロン66)、ポリアミド46(ナイロン46)、ポリアミド12(ナイロン12)、ポリアミド11(ナイロン11)、ポリアミド6−12(ナイロン6−12)等のポリアミド樹脂を好適に用いることができる。また、これらの多くは、PPS樹脂、PEEK樹脂、ポリイミド(PI)樹脂に比べて安価であるという利点を有する。
【0023】
上記ポリアミド樹脂には、分子中に2個以上の炭素間二重結合を有し、官能基を複数有する多官能モノマー(以下、「特定の多官能モノマー」という)が配合される。この特定の多官能モノマーは、いわゆる架橋助剤として機能する。このような特定の多官能モノマーとしては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、N,N′−m−フェニレンビスマレイミド、ポリブタジエン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられ、これらは単独または2種以上組み合わせて使用される。中でも、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレートがより円滑に架橋反応を進めることから好ましい。
【0024】
また、特定の多官能モノマーの添加量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部である。特定の多官能モノマーが0.01質量部未満では、絶対量が少なすぎて架橋が殆ど進行しない。また、特定の多官能モノマーが10質量部を超える場合には、架橋度の更なる増大がみられないとともに、未反応物等が残存してプラスチック保持器の物性低下を引き起こす可能性が高くなる。また、架橋度が高くなりすぎると靭性の低下が懸念される。尚、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレートを用いる場合、その添加量は0.2〜7質量部、好ましくは0.5〜6質量部である。
【0025】
本発明において架橋は加熱により行うが、ポリアミド樹脂中における特定の多官能モノマーによる架橋反応は、次のような機構によるものと考えられる。即ち、先ず加熱初期において何らかのラジカルが発生し、そのラジカルが特定の多官能モノマーの炭素間二重結合に付加し、2次ラジカルを生じる。そして、この2次ラジカルが、ポリアミド樹脂のアミド結合の間に存在するメチレン水素を引き抜き、それにより発生したポリアミド樹脂の分子ラジカル同士が特定の多官能モノマーにより数箇所で結合され、架橋構造が構築される。但し、このラジカルの発生自体の数が少なく、反応が進むのが遅いため、成形工程には影響が無い。
【0026】
また、このようにラジカル発生及び特定の多官能モノマーの反応が遅いことは、製造上大きな利点になる。即ち、ポリアミド樹脂と、特定の多官能モノマーを配合したポリアミド樹脂のペレットを事前に調製することができ、これらの保管が可能となり、実際の製造において、事前に調製したペレットを成形機に投入すればプラスチック保持器の成形を即時開始することができる。これに対し、架橋剤として一般的な有機過酸化物は、単独でもポリアミド樹脂のアミド結合の間に存在するメチレン水素を引き抜いて架橋が進行するため、成形直前にポリアミド樹脂に有機過酸化物を添加して混練する必要があり、製造開始毎に成形原料の調製が必要になる。
【0027】
一般的にポリアミド樹脂には、機械的強度の向上を目的として、ガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維、チタン酸カリウムウィスカーやホウ酸アルミニウムウィスカー等のウィスカーを補強材として配合している。しかしながら、その分高価になることはもちろん、比較的小さいプラスチック保持器の場合には、それら繊維の作用で成形が困難となる場合がある。本発明では、ガラス繊維等の繊維状物質を添加しておらず、これらの問題はない。
【0028】
また、ポリアミド樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、熱や光による劣化を防止するために、ヨウ化化合物等の熱安定剤、アミン化合物やフェノール化合物等の酸化防止剤、光安定化剤を添加できる。更には、固体潤滑剤、潤滑油、着色剤、帯電防止剤、離型剤、流動性改良剤、結晶化促進剤等を適宜添加してもよい。
【0029】
本発明のプラスチック保持器を得るには、ポリアミド樹脂に特定の多官能モノマーを配合したペレットと、熱安定剤、補強材及びその他の添加剤を、好ましくは射出成形機に投入し、この射出成形機の加熱部にて好ましくは融点を超える温度で溶融混練を行う。この間に上記の架橋反応が進行し、所定の保持器形状(例えば、図2に示した冠型や図4に示したアンギュラ型)に成形した時点では架橋物としてのプラスチック保持器が得られる。ここで、成形機について生産性を考慮して射出成形機としたが、必ずしも射出成形機でなくともよく、例えば、上記原料を二軸混錬機で混錬後、ペレット乃至粉末にして、圧縮成形機により成形してもよい。
【0030】
成形機の金型から離型後、加熱架橋を行う。この際、ポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度以上で融点以下の温度、例えば、60〜290℃、好ましくは60〜200℃にて、また更に好ましくは、ポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度以上で、成形時の金型温度以下の温度、例えば、60〜120℃にて加熱処理を行い、架橋を更に進行させる。この温度範囲の理由は、ガラス転移温度以上であれば架橋が進行すること、また、成形時の金型温度を超えるとポリアミド組成物の結晶増加が進み、寸法精度が保たれない恐れがあること、を知見として得たためである。また、一般的に加熱温度が高く保持時間が長いと、架橋がより進行する。成形時の金型温度以下で加熱架橋する際は、長時間、例えば24時間以上保持することが望ましい。
【0031】
尚、この加熱処理は、酸化劣化を防ぐために、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気もしくは真空下で行うことが望ましい。また、加熱処理後に直ちに空気中に出さず、同一雰囲気で室温程度にまで徐冷することにより酸化劣化を防止できる。
【0032】
尚、一般的な射出成形機では、数平均分子量が50,000程度までの樹脂に対しては精度よく安定して成形することできる。そこで、本発明においても、上記のポリアミド樹脂として、数平均分子量が30,000以下、好ましくは10,000〜20,000のものを用いる。このような比較的低分子量のポリアミド樹脂を用いることにより、従来通りに射出成形を実施でき、製造コストの上昇を抑えることができる。
【0033】
また、本発明では成形後に高分子量化を図るため、加熱架橋を行うが、一般的にポリアミド樹脂は、数平均分子量100,000前後を境にして剛性に大きな差が出てくる。そこで本発明においても、架橋後のポリアミド樹脂の数平均分子量が100,000以上、好ましくは300,000以上、特に好ましくは500,000以上になるように架橋条件を調整する。
【0034】
このようにして得られるプラスチック保持器は、母材であるポリアミド樹脂が架橋されて高分子量化(数平均分子量100,000以上)しており、従来よりも優れた剛性や耐摩耗性を有する、また、高度に架橋されていることから、分子間の広がりが抑えられるため、吸水による膨張も抑制され、寸法変化も小さくなる。
【0035】
また、上記のプラスチック保持器を組み込むことにより、高温や高速回転条件下でも長期間の使用に耐えることができ、例えばオルタネータや工作機械用として好適な転がり軸受となる。本発明は、上記のプラスチック保持器を組み込んだ転がり軸受も含む。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を例示して本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
(比較例1:ガラス繊維入りポリアミド46)
ポリアミド46樹脂(DSM製「スタニールTW 241F5」;数平均分子量20,000、ガラス繊維25質量%及びアミン系熱安定剤含有、融点290℃、ガラス転移温度78℃)100質量部に対し、表1に示すように、多官能モノマー(日本化成(株)製「タイク」;トリアリルイソシアヌレート)を0.15〜4.5質量部の各添加量配合したペレットをインラインスクリュー式射出成形機に投入し、樹脂温度310℃、金型温度120℃で図2に示した深溝玉軸受用の冠型保持器(但し、日本精工(株)製深溝玉軸受(呼び番号「6909」、PCD56.5mm)相当品)をそれぞれ成形した(ここで「PCD」は、軸受のピッチ円径であり、転がり軸受の転動体中心を結んでできる円の直径で規定される値である。)。次に、離型後、表1に示すように、各保持器を真空中で80〜150℃の各条件温度にて2〜96時間の各保持時間加熱処理を行い、真空中で室温まで徐冷した。尚、架橋後のポリアミド46樹脂の数平均分子量は、100,000以上であった。そして、得られた各保持器を下記の保持器引張強度試験に供した。
【0038】
また、強度比較の基準とするため、多官能モノマーを添加しない同様のポリアミド46樹脂(DMS製「スタニールTW 241F5」;数平均分子量20,000、ガラス繊維25質量%及びアミン系熱安定剤含有、融点290℃、ガラス転移温度78℃)のペレットをインラインスクリュー式射出成形機に投入し、同じく樹脂温度310℃、金型温度120℃で同様の冠型保持器を成形した。また、離型後の熱処理を行わないもの(基準1)と、真空中で温度180℃にて保持時間4時間の加熱処理を行い、真空中で室温まで徐冷したもの(基準2)を用意した。そして、得られた各保持器を下記保持器引張強度試験に供した。
【0039】
(実施例1:ガラス繊維無しポリアミド46)
ポリアミド46樹脂(DSM製「スタニールTW 341」;数平均分子量20,000、ガラス繊維0質量%及びヨウ化銅系熱安定剤含有、融点290℃、ガラス転移温度78℃)100質量部に対し、表2に示すように、多官能モノマー(日本化成(株)製「タイク」;トリアリルイソシアヌレート)を0.15〜4.5質量部の各添加量配合したペレットをインラインスクリュー式射出成形機に投入し、樹脂温度300℃、金型温度120℃で図2に示した深溝玉軸受用の冠型保持器(但し、日本精工(株)製深溝玉軸受(呼び番号「608」、PCD15.0mm)相当品)をそれぞれ成形した。次に、離型後、表2に示すように、各保持器を真空中で80〜150℃の各条件温度にて2〜96時間の各保持時間加熱処理を行い、真空中で室温まで徐冷した。尚、架橋後のポリアミド46樹脂の数平均分子量は、100,000以上であった。そして、得られた各保持器を下記の保持器引張強度試験に供した。
【0040】
また、強度比較の基準とするため、多官能モノマーを添加しない同様のポリアミド46樹脂(DMS製「スタニールTW 341」;数平均分子量20,000、ガラス繊維0質量%及びヨウ化銅系熱安定剤含有、融点290℃、ガラス転移温度78℃)のペレットをインラインスクリュー式射出成形機に投入し、同じく樹脂温度300℃、金型温度120℃で同様の冠型保持器を成形した。また、離型後の熱処理を行わないもの(基準1)と、真空中で温度180℃にて保持時間4時間の加熱処理を行い、真空中で室温まで徐冷したもの(基準2)を用意した。そして、得られた各保持器を下記保持器引張強度試験に供した。
【0041】
(比較例2:ガラス繊維入りポリアミド66)
ポリアミド66樹脂(UBE製「2020GU550」;数平均分子量20,000、ガラス繊維25質量%及びヨウ化銅系熱安定剤含有、融点265℃、ガラス転移温度65℃)100質量部に対し、表3に示すように、多官能モノマー(日本化成(株)製「タイク」;トリアリルイソシアヌレート)を0.15〜4.5質量部の各添加量配合したペレットをインラインスクリュー式射出成形機に投入し、樹脂温度290℃、金型温度100℃で図2に示した深溝玉軸受用の冠型保持器(但し、日本精工(株)製深溝玉軸受(呼び番号「6909」、PCD56.5mm)相当品)をそれぞれ成形した。次に、離型後、表3に示すように、各保持器を真空中で80〜150℃の各条件温度にて2〜96時間の各保持時間加熱処理を行い、真空中で室温まで徐冷した。尚、架橋後のポリアミド66樹脂の数平均分子量は、100,000以上であった。そして、得られた各保持器を下記の保持器引張強度試験に供した。
【0042】
また、強度比較の基準とするため、多官能モノマーを添加しない同様のポリアミド66樹脂(UBE製「2020GU550」;数平均分子量20,000、ガラス繊維25質量%及びヨウ化銅系熱安定剤含有、融点265℃、ガラス転移温度65℃)のペレットをインラインスクリュー式射出成形機に投入し、同じく樹脂温度290℃、金型温度100℃で同様の冠型保持器を成形した。また、離型後の熱処理を行わないもの(基準1)と、真空中で温度180℃にて保持時間4時間の加熱処理を行い、真空中で室温まで徐冷したもの(基準2)を用意した。そして、得られた各保持器を下記保持器引張強度試験に供した。
【0043】
(実施例2:ガラス繊維無しポリアミド66)
ポリアミド66樹脂(UBE製「2020B」;数平均分子量20,000、ガラス繊維0質量%及びヨウ化銅系熱安定剤含有、融点265℃、ガラス転移温度65℃)100質量部に対し、表4に示すように、多官能モノマー(日本化成(株)製「タイク」;トリアリルイソシアヌレート)を0.15〜4.5質量部の各添加量配合したペレットをインラインスクリュー式射出成形機に投入し、樹脂温度290℃、金型温度100℃で図2に示した深溝玉軸受用の冠型保持器(但し、日本精工(株)製深溝玉軸受(呼び番号「608」、PCD15.0mm)相当品)をそれぞれ成形した。次に、離型後、表4に示すように、各保持器を真空中で80〜150℃の各条件温度にて2〜96時間の各保持時間加熱処理を行い、真空中で室温まで徐冷した。尚、架橋後のポリアミド66樹脂の数平均分子量は、100,000以上であった。そして、得られた各保持器を下記の保持器引張強度試験に供した。
【0044】
また、強度比較の基準とするため、多官能モノマーを添加しない同様のポリアミド66樹脂(UBE製「2020B」;数平均分子量20,000、ガラス繊維0質量%及びヨウ化銅系熱安定剤含有、融点265℃、ガラス転移温度65℃)のペレットをインラインスクリュー式射出成形機に投入し、同じく樹脂温度290℃、金型温度100℃で同様の冠型保持器を成形した。また、離型後の熱処理を行わないもの(基準1)と、真空中で温度180℃にて保持時間4時間の加熱処理を行い、真空中で室温まで徐冷したもの(基準2)を用意した。そして、得られた各保持器を下記保持器引張強度試験に供した。
【0045】
(保持器引張強度試験)
図5に示す円環引張治具に上記で得た各冠型保持器40を、そのゲート部40gとウエルド40wが水平位置になるようにセットし、島津製作所(株)製引張試験機(オートグラフAG−10KNG)を用いて、150℃にて10mm/minの引張速度で円環引張試験を行った。そして、上記比較1の測定値を100とした相対値を引張強度比として表1〜4に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
表1〜4から、本発明に従い、ポリアミド樹脂組成物の成形体を多官能モノマーを用いて、加熱架橋した保持器は、繊維状物質を添加しない場合においても引張強度が高くなっているので、より耐久性に優れることがわかる。また、多官能モノマーの添加量がポリアミド樹脂100質量部に対して0.2〜7質量部の場合に特に引張強度が高くなっているので、より耐久性に優れることがわかる。また、加熱架橋が、前記ポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度以上の温度で且つ、成形時の金型温度以下の温度で処理された場合(80℃)も引張強度が高くなっているので、より耐久性に優れることがわかる。
【0051】
また、表2及び表4に示す実施例1及び2では、比較的小径のプラスチック保持器であったが、ガラス繊維を含んでいないので、成形性に問題はなかった。また、ここでは、ポリアミド46及びポリアミド66の実施例を開示したが、その他のポリアミド、例えばポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド11及びポリアミド6−12においても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】玉軸受の一例を示す断面図である。
【図2】冠型保持器を示す斜視図である。
【図3】アンギュラ玉軸受の半断面図である。
【図4】アンギュラ玉軸受用保持器の斜視図である。
【図5】保持器引張強度試験に用いた円環引張治具を示す概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1 内輪
2 外輪
3 玉
4 アンギュラ型保持器
11 内輪
12 外輪
13 玉
14 冠型保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個以上の炭素間二重結合を有する多官能モノマーを含むポリアミド樹脂組成物の成形体を加熱架橋してなり、繊維状物質を添加することなく強度強化したことを特徴とする転がり軸受用プラスチック保持器。
【請求項2】
前記多官能モノマーがトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート及びエチレングリコールジメタクリレートから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用プラスチック保持器。
【請求項3】
前記多官能モノマーの添加量がポリアミド樹脂100質量部に対して0.2〜7質量部であることを特徴とする請求項2記載の転がり軸受用プラスチック保持器。
【請求項4】
前記加熱架橋は、前記ポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度以上の温度で且つ、成形時の金型温度以下の温度で処理されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の転がり軸受用プラスチック保持器。
【請求項5】
前記成形体が、射出成形により成形されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の転がり軸受用プラスチック保持器。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の転がり軸受用プラスチック保持器を備えることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−74999(P2011−74999A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226221(P2009−226221)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】