説明

転がり軸受装置

【課題】生産性の向上およびアウトガスの低減を図るとともに共振周波数変動およびトルク変動の発生を防止する。
【解決手段】同軸に配置された内輪3a,3bおよび外輪5a,5bと、これら内輪3a,3bと外輪5a,5bとの間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数配置される転動体7とを備え、軸方向に間隔をあけて配列される2つの転がり軸受1A,1Bと、転がり軸受1A,1Bの内輪3a,3bに嵌合されるシャフト13と、転がり軸受1A,1Bの外輪5a,5bを嵌合させる嵌合孔25を有するスリーブ23とを備え、内輪3a,3bが、軸方向の一端に配置されてレーザ照射により熱変形しシャフト13に押し付けられて摩擦力によって固定される熱変形部35a,35bを備える転がり軸受装置10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、転がり軸受装置は、同軸に配置された内輪および外輪を備える転がり軸受と、転がり軸受の内輪に嵌合される内筒と、転がり軸受の外輪を嵌合させる外筒とにより構成され、内筒および外筒が転がり軸受により相対回転自在に支持されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。特許文献1に記載の転がり軸受装置は、シャフト(内筒)と内輪およびハウジング(外筒)と外輪がそれぞれ接着剤により接合され、特許文献2に記載の転がり軸受装置では、シャフトと内輪が嫌気性の接着剤により接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−182543号公報
【特許文献2】特開2000−346085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、嫌気性接着剤にはアウトガス成分が多く、転がり軸受装置が使用されるハードディスクドライブ(HDD)の磁気ディスクにアウトガスが付着すると、記録や再生に影響を与えることがある。また、嫌気性接着剤は硬化時間が長いため、生産性が低いという不都合がある。さらに、従来の転がり軸受装置のようにシャフトと内輪およびハウジングと外輪をそれぞれ接着剤により接合した場合、温度変化によって接着剤の剛性が変動し、これにより予圧が変化して共振周波数やトルクが変動する不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、生産性の向上およびアウトガスの低減を図るとともに共振周波数変動およびトルク変動の発生を防止した転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、同軸に配置された内輪および外輪と、これら内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数配置される転動体とを備え、軸方向に間隔をあけて配列される2つの転がり軸受と、該転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材と、前記転がり軸受の前記外輪を嵌合させる嵌合孔を有する第2の部材とを備え、前記内輪および前記外輪の少なくとも1つが、軸方向の一端に配置されてレーザ照射により熱変形し前記第1の部材または前記第2の部材に押し付けられて摩擦力によって固定される熱変形部を備える転がり軸受装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、第1の部材を各内輪に嵌合させた2つの転がり軸受の各外輪がそれぞれ第2の部材に嵌合されることにより、第1の部材と第2の部材とが転がり軸受によって相対回転可能に支持される。この場合において、レーザ照射による熱変形部の熱変形により内輪と第1の部材または外輪と第2の部材を摩擦力によって固定することで、これらの嵌合部分を嫌気性接着剤を用いて固定する場合のようなアウトガスの発生を防止できるとともに、嵌合部分を固定するのにかかる時間を短縮して生産性の向上を図ることができる。また、接着剤を用いた場合のような温度変化による接着剤の剛性変動に起因する予圧変化を回避し、共振周波数およびトルクの安定化を図ることができる。
【0008】
また、嵌合部分を摩擦力により固定することで、嵌合部分の重なり合う部分どうしを溶融して一体化するレーザ溶接の場合のように、溶融した内輪と第1の部材または外輪と第2の部材の硬化時の熱収縮によるこれらの相対的な位置ずれを防ぐことができる。これにより、内輪または外輪の真円度が低下するのを防止し、トルク変動の発生を防ぐことができる。
【0009】
上記発明においては、前記熱変形部が、半径方向に対向して配置される前記外輪または前記内輪の端部より軸方向に突出していることとしてもよい。
【0010】
このように構成することで、熱変形部の半径方向に対向配置される外輪または内輪により妨げられることなく熱変形部に対して半径方向からレーザ光を照射することができる。これにより、例えば、内輪の熱変形部に外輪側からレーザ照射した場合には、溶融した熱変形部が硬化する際に積極的に半径方向に収縮させて積極的に第1の部材に押し付けることができる。また、外輪の熱変形部に内輪側からレーザ照射した場合には、溶融した熱変形部が硬化する際に積極的に半径方向に膨張させて積極的に第2の部材に押し付けることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記内輪または前記外輪が、前記転動体との接触面を有する厚肉部を備え、前記熱変形部が前記厚肉部より薄い半径方向厚さを有していることとしてもよい。
【0012】
このように構成することで、レーザ照射により熱変形部を局所的に熱変形させて、その熱応力を厚肉部に伝達し難くすることができる。これにより、熱変形部を第1の部材または第2の部材に押し付けつつ、厚肉部における転動体の接触面に熱変形が及ぶのを防ぐことができる。
【0013】
本発明は、同軸に配置される内輪および外輪と、これら内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数配置される転動体とを備え、軸方向に間隔をあけて配列される2つの転がり軸受と、該転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材と、前記転がり軸受の前記外輪を嵌合させる嵌合孔を有する第2の部材と、前記内輪および前記外輪の少なくとも1つに軸方向に隣接して配置され、レーザ照射により熱変形し前記第1の部材または前記第2の部材に押しつけられて摩擦力によって固定されている熱変形部を有する固定部材とを備える転がり軸受装置を提供する。
【0014】
本発明によれば、固定部材が熱変形部の摩擦力によって第1の部材または第2の部材に固定されることにより、固定部材に隣接して配置される内輪または外輪の軸方向の移動を規制し、嵌合部分を軸方向に固定することができる。この場合において、固定部材が内輪または外輪と物理的に分離されているので、レーザ照射時の熱応力が熱変形部から内輪または外輪に伝達されるのを防止し、内輪または外輪の真円度が低下するのを防ぐことができる。
【0015】
上記発明においては、前記固定部材が、前記第1の部材を嵌合させる内輪側リングまたは前記第2の部材に嵌合される外輪側リングであることとしてもよい。
このように構成することで、内輪側リングまたは外輪側リングにより内輪または外輪の半径方向の移動を規制するとともに、周方向全体にわたり軸方向の位置ずれを防ぐことができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記熱変形部が、前記内輪または前記外輪の周方向に間隔をあけて複数設けられていることとしてもよい。
【0017】
このように構成することで、複数の熱変形部により内輪と第1の部材との嵌合部分または外輪と第2の部材との嵌合部分を周方向に安定的に固定し易くすることができる。なお、熱変形部を周方向に等間隔に設ければ、嵌合部分を周方向にバランスして固定することができる。また、熱変形部を周方向に連続して部分的に重なり合うように設ければ、嵌合部分をより高い強度で固定することができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記第1の部材または前記第2の部材が、前記熱変形部に対して半径方向に対向する位置に窪む凹部を備えることとしてもよい。
このように構成することで、レーザ照射により半径方向に熱変形する熱変形部を第1の部材または第2の部材の凹部に入り込ませ、熱変形部を軸方向および周方向に固定して嵌合部分の固定力を高めることができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記内輪間または前記外輪間の一方に軸方向に挟まれるスペーサ部を備え、他方の前記内輪または前記外輪が、軸方向に隣接する前記内輪または前記外輪に対して相対的に近接する方向に押圧された状態で前記第1の部材または前記第2の部材に固定されていることとしてもよい。
【0020】
このように構成することで、内輪間または外輪間の一方にスペーサ部が挟まれることにより、他方の外輪間または内輪間にスペーサ部の長さに応じた隙間が形成されるので、他方の内輪または外輪を軸方向に押圧するだけで内輪どうしまたは外輪どうしを近接させて2つの転がり軸受に予圧をかけることができる。したがって、内輪または外輪を押圧した状態でレーザ照射を施すことにより、転がり軸受に予圧をかけた状態を簡易に維持することができる。
【0021】
また、上記発明においては、前記内輪と前記第1の部材との嵌合部分または前記外輪と前記第2の部材との嵌合部分がレーザ溶接または接着剤により接合されていることとしてもよい。
【0022】
このように構成することで、嵌合部分が接着剤により接合されている場合には、接着剤が硬化する前であっても熱変形部の摩擦力によって嵌合部分を仮固定することができ、接着剤の硬化時間にかかわらず作業効率を改善し、生産性を向上することができる。また、嵌合部分がレーザ溶接により接合されている場合には、熱変形部の摩擦力により位置ずれを防止しつつ、レーザ溶接による高い接合強度で嵌合部分を固定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、生産性の向上およびアウトガスの低減を図るとともに共振周波数変動およびトルク変動の発生を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る転がり軸受装置の縦断面図である。
【図2】図1の内輪とシャフトとの嵌合部分を軸方向に直交する面で切断した横断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の変形例に係る外輪とスリーブとの嵌合部分を軸方向に直交する面で切断した横断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の他の変形例に係る内輪とシャフトとの嵌合部分を軸方向に直交する面で切断した横断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の他の変形例に係る転がり軸受装置の縦断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る転がり軸受装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る転がり軸受装置について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る転がり軸受装置10は、例えば、図1に示すように、磁気記録装置(HDD)や光記録装置等に用いられるスイングアーム等を揺動するためのものである。この転がり軸受装置10は、軸方向に間隔をあけて同軸に配列される第1の転がり軸受1Aおよび第2の転がり軸受1B(以下、第1の転がり軸受1Aと第2の転がり軸受1Bを合わせて「転がり軸受1A,1B」という。)と、これら転がり軸受1A,1Bに嵌合されるシャフト(第1の部材)13と、転がり軸受1A,1Bを嵌合させる嵌合孔25を有するスリーブ(第2の部材)23とを備えている。
【0026】
転がり軸受1A,1Bは、シャフト13とスリーブ23とを相対的に回転させるためのものである。
第1の転がり軸受1Aは、同軸に配置された内輪3aおよび外輪5aと、これら内輪3aと外輪5aとの間の円環状空間に周方向に間隔をあけて内蔵される複数個の転動体7とを備えている。なお、転動体7は、図示しないリテーナにより等間隔配置された状態で転動可能に保持されている。
【0027】
内輪3aにはシャフト13が嵌合され、外輪5aはスリーブ23の嵌合孔25に嵌合されている。また、内輪3aの外周面には深溝型若しくはアンギュラ型の内輪軌道が設けられ、外輪5aの内周面には深溝型若しくはアンギュラ型の外輪軌道が設けられている。
【0028】
この内輪3aは、軸方向の長さが外輪5aより長く形成されている。内輪3aの第2の転がり軸受1Bに近い側に配置される端部は、半径方向に対向して配置される外輪5aの端部より軸方向に突出している。以下、内輪3aにおけるこの突出している部分を突出部34aという。
【0029】
突出部34aは、半径方向(すなわち、厚さ方向)に照射されたレーザ光により内径寸法が縮小してシャフト13に押し付けられる熱変形部35aを有している。熱変形部35aは、摩擦力によりシャフト13に固定されている。また、熱変形部35aは、突出部34aの周方向に間隔をあけて複数(例えば、等間隔で6箇所)設けられている。
【0030】
内輪3aとシャフト13との嵌合部分は、熱変形部35aとシャフト13との間の摩擦力により固定されている。
一方、外輪5aと嵌合孔25との嵌合部分は、接着または溶接により固定されている。
【0031】
第2の転がり軸受1Bは、第1の転がり軸受1Aと同様に、内輪3bおよび外輪5bと、転動体7と、リテーナ(図示略)とを備えている。また、内輪3bにはシャフト13が嵌合され、外輪5bはスリーブ23の嵌合孔25に嵌合されている。また、内輪3bの外周面には深溝型若しくはアンギュラ型の内輪軌道が設けられ、外輪5bの内周面には深溝型若しくはアンギュラ型の外輪軌道が設けられている。
【0032】
この内輪3bは、軸方向の長さが外輪5bより長く形成されている。内輪3bの第1の転がり軸受1Aから遠い側に配置される端部は、半径方向に対向して配置される外輪5bの端部より軸方向に突出している。以下、内輪3bにおけるこの突出している部分を突出部34bという。
【0033】
突出部34bは、半径方向に照射されたレーザ光により内径寸法が縮小してシャフト13に押し付けられる熱変形部35bを有している。熱変形部35bは、内輪3aの熱変形部35aと同様に、摩擦力によりシャフト13に固定され、突出部34bの周方向に間隔をあけて複数設けられている。なお、図1において、符号33はレーザ照射範囲を示している。
【0034】
この内輪3bとシャフト13との嵌合部分は熱変形部35bとシャフト13と間の摩擦力により固定され、外輪5bと嵌合孔25との嵌合部分は接着または溶接により固定されている。
【0035】
シャフト13は、略円柱状部材または略円筒状部材であり、軸方向の一端に全周にわたって半径方向外方に突出する鍔状のフランジ部15が設けられている。このシャフト13には、フランジ部15側から順に第1の転がり軸受1Aおよび第2の転がり軸受1Bが嵌め込まれており、第1の転がり軸受1Aの内輪3aの端面がフランジ部15に突き当てられている。
【0036】
また、転がり軸受1A,1Bの内輪3a,3bが相互に近接する方向に押圧された状態でシャフト13に固定されている。これにより、転がり軸受1A,1Bに予圧がかけられた状態となり、内輪3a,3bおよび外輪5a,5bと転動体7とが隙間なく接触させられている。
【0037】
スリーブ23の嵌合孔25の内面には、軸方向の略中央に内側に向かって突出する凸部(以下、「スペーサ部」という。)27が設けられている。この嵌合孔25には、スペーサ部27を挟んで軸方向の一方に第1の転がり軸受1A、他方に第2の転がり軸受1Bがそれぞれ嵌め込まれており、外輪5a,5bの互いに対向する端面がそれぞれスペーサ部27に突き当てられている。以下、嵌合孔25の第1の転がり軸受1Aが嵌め込まれている部分を「第1の嵌合部29A」といい、第2の転がり軸受が嵌め込まれている部分を「第2の嵌合部29B」という。
【0038】
次に、このように構成された本実施形態に係る転がり軸受装置10の組み立て方法について説明する。
まず、第1の転がり軸受1Aの内輪3aにシャフト13を嵌合させ、内輪3aの端面をフランジ部15に突き当てる。そして、図2に示すように、内輪3aの突出部34aに対して半径方向iにレーザ光を照射する。図2において符号Fは溶接跡を示している(図3および図4において同様である。)。
【0039】
この場合に、突出部34aが外輪5aの端部より軸方向に突出しているので、外輪5aに妨げられることなく外輪5a側から突出部34aの外周面に半径方向iに向かって容易にレーザ光を照射することができる。半径方向iにレーザ照射された熱変形部35aは、溶融して硬化する際に内径寸法が収縮し、シャフト13の外周面に押し付けられて摩擦力により固定される。これにより、内輪3aとシャフト13との嵌合部分を熱変形部35aの摩擦力によって固定することができる。なお、突出部34aの周方向に熱変形部35aを等間隔に6箇所設けることとすれば、熱変形部35aの摩擦力が周方向にバランスし、嵌合部分を精度よく固定することができる。
【0040】
続いて、スリーブ23の第2の嵌合部29Bに第2の転がり軸受1Bの外輪5bを嵌合させ、外輪5bの端面を嵌合孔25のスペーサ部27に突き当てる。ここで、第2の嵌合部29Bに予め接着剤を塗布しておき、外輪5bと第2の嵌合部29Bとを接着することとしてもよい。また、接着に代えて、外輪5bと第2の嵌合部29Bとを溶接することとしてもよい。
【0041】
次に、第1の転がり軸受1Aに嵌め込まれたシャフト13をフランジ部15が鉛直下向きになるように固定した状態で、第2の転がり軸受1Bが嵌め込まれたスリーブ23を嵌め合わせる。具体的には、スリーブ23に嵌め込まれている第2の転がり軸受1Bの内輪3bにシャフト13を嵌合させるとともに、シャフト13が嵌め込まれている第1の転がり軸受1Aの外輪5aを第1の嵌合部29Aに嵌合させて、外輪5aの端面をスペーサ部27に突き当てる。外輪5bと第2の嵌合部分29Bとの嵌合部分と同様に、外輪5aと第1の嵌合部29Aを接着または溶接により固定することとしてもよい。
【0042】
続いて、内輪3bの突出部34bをシャフト13に固定する。
ここで、転がり軸受1A,1Bの内輪3a,3b間には、外輪5a,5b間に挟まれたスペーサ部27の長さに応じた隙間が形成されているので、内輪3aと内輪3bとを相互に近接させる方向に押圧して転がり軸受1A,1Bに予圧をかける。
【0043】
この場合に、第1の転がり軸受1Aの内輪3aがフランジ部15に突き当てられているので、内輪3aに対して軸方向の反対側に配置された第2の転がり軸受1Bの内輪3bを軸方向に押圧するだけで、転がり軸受1A,1Bに簡易に予圧をかけることができる。そこで、内輪3bを軸方向に押圧して転がり軸受1A,1Bに予圧をかけた状態で突出部34bに対して半径方向にレーザ光を照射する。
【0044】
突出部34bは外輪5bの端部より軸方向に突出しているので、外輪5bに妨げられることなく外輪5b側から突出部34bの外周面に半径方向に向かって容易にレーザ光を照射することができる。そして、内輪3aの熱変形部35aと同様に、レーザ照射により熱変形して内径寸法が収縮した熱変形部35bがシャフト13に押し付けられるので、内輪3bとシャフト13との嵌合部分を熱変形部35bの摩擦力によって固定することができる。
【0045】
このようにして、転がり軸受1A,1Bに予圧をかけた状態で転がり軸受1A,1Bとシャフト13およびスリーブ23との各嵌合部分が固定された転がり軸受装置10が完成する。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係る転がり軸受装置10によれば、熱変形部35a,35bの摩擦力により内輪3a,3bとシャフト13の嵌合部分を固定することで、嫌気性接着剤を用いて固定する場合のようなアウトガスの発生を防止できるとともに、嵌合部分を固定するのにかかる時間を短縮して生産性の向上を図ることができる。また、接着剤を用いた場合のような温度変化による接着剤の剛性変動に起因する予圧変化を回避し、共振周波数およびトルクの安定化を図ることができる。
【0047】
また、嵌合部分の重なり合う部分どうしを溶融して一体化するレーザ溶接の場合のような、相対的な位置ずれ、すなわち、溶融した内輪3a,3bとシャフト13の硬化時における熱収縮による、これらの相対的な位置ずれを防ぐことができる。これにより、内輪3a,3bの真円度が低下するのを防止し、トルク変動の発生を防ぐことができる。
【0048】
なお、本実施形態においては、例えば、シャフト13が、熱変形部35a,35bに対して半径方向に対向する位置に窪む凹部を備えることとしてもよい。このようにすることで、転がり軸受装置10の組立時に、レーザ照射により半径方向に熱変形する熱変形部35a,35bをシャフト13の凹部に入り込ませ、熱変形部35a,35bを軸方向および周方向に固定して嵌合部分の固定力を高めることができる。
【0049】
また、本実施形態においては、内輪3a,3bが熱変形部35a,35bを備えることとしたが、内輪3a,3bおよび外輪5a,5bの少なくとも1つが熱変形部を備えることとすればよい。例えば、外輪5a,5bが軸方向の一端に熱変形部を備えることとし、図3に示すように、外輪5a,5bに対して内輪3a,3b側から半径方向Oにレーザ照射することとしてもよい。このようにすることで、溶融した熱変形部は硬化する際に外形寸法が膨張するので、熱変形部をスリーブ23の嵌合孔25に押し付けて摩擦力により固定することができる。この場合に、外輪5a,5bの熱変形部が、半径方向に対向配置される内輪3a,3bの端部より軸方向に突出していることとしてもよい。また、スリーブ23の嵌合孔25が、外輪5a,5bの熱変形部に対して半径方向に対向する位置に窪む凹部を備えることとしてもよい。
【0050】
また、本実施形態においては、熱変形部35a,35bを周方向に間隔をあけて複数設けることとしたが、例えば、図4に示すように、突出部34a,34bの周方向に細かいピッチで連続してレーザ照射し、熱変形部を周方向に連続して部分的に重なり合うように設けることとしてもよい。このようにすることで、嵌合部分をより高い強度で固定することができる。
【0051】
また、本実施形態は以下のように変形することができる。
例えば、本実施形態においては、突出部34a,34bが単に内輪3a,3bの軸方向の一端に突出する形状であるとしたが、図5に示すように、内輪3bにおける転動体7の接触面を有する部分を厚肉部32とし、突出部36bの半径方向厚さを薄く形成して、熱変形部37bが厚肉部32より薄い半径方向厚さを有することとしてもよい。このようにすることで、レーザ照射により熱変形部37bを局所的に熱変形させて、その熱応力を厚肉部32に伝達し難くすることができる。これにより、熱変形部37bをシャフト13に押し付けつつ、厚肉部32における転動体7の接触面に熱変形が及ぶのを防ぐことができる。
【0052】
〔第2の実施形態〕
以下、本発明の第2の実施形態に係る転がり軸受装置について説明する。
本実施形態に係る転がり軸受装置110は、図6に示すように、内輪103a,103bが突出部34a,34bを備えず外輪5a,5bとほぼ同等の長さを有し、また、シャフト13を嵌合させる環状の内輪側リング(固定部材)134が内輪103bの軸方向に隣接して配置されている点で第1の実施形態と異なる。
以下、本実施形態の説明において、第1の実施形態に係る転がり軸受装置10の構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0053】
内輪側リング134は、内輪103bの内径寸法および外形寸法と略等しい筒状部材である。また、内輪側リング134は、レーザ照射により熱変形しシャフト13に押し付けられる熱変形部135を備えている。熱変形部135は摩擦力によりシャフト13に固定されている。この内輪側リング134は、内輪103bとともに内輪103aに近接する方向に押圧された状態で、熱変形部135の摩擦力によりシャフト13に固定されている。
【0054】
このように構成された転がり軸受装置110の組み立て方法としては、まず、第1の転がり軸受1Aの内輪103aにシャフト13を嵌合させ、内輪103aの端面をフランジ部15に突き当てた状態で嵌合部分を接着または溶接する。続いて、スリーブ23の第2の嵌合部29Bに第2の転がり軸受2Bの外輪5bを嵌合させ、嵌合部分を接着または溶接する。
【0055】
次に、第1の転がり軸受1Aに嵌め込まれたシャフト13と第2の転がり軸受1Bが嵌め込まれたスリーブ23とを嵌合させた後、内輪側リング134にシャフト13を嵌合させ、内輪103bの端面に内輪側リング134を突き当てる。そして、内輪側リング134および内輪103bを内輪103aに近接させる方向に押圧し、この状態で、内輪側リング134に対して外輪5b側からレーザ光を照射する。
【0056】
この場合に、半径方向にレーザ照射された内輪側リング134の熱変形部135は、溶融して硬化する際に内径寸法が収縮し、シャフト13の外周面に押し付けられて摩擦力により固定される。これにより、内輪側リング134とシャフト13との嵌合部分を熱変形部135の摩擦力によって固定することができる。
【0057】
また、内輪側リング134により、これに隣接して配置される内輪103bの軸方向の移動が規制されるので、内輪103bとシャフト13との嵌合部分を軸方向に固定することができる。また、内輪側リング134が内輪103bと物理的に分離されているので、レーザ照射時の熱応力が熱変形部135から内輪103bに伝達されるのを防止し、内輪103bの真円度が低下するのを防ぐことができる。
【0058】
このようにして、転がり軸受1A,1Bに予圧をかけた状態で転がり軸受1A,1Bとシャフト13およびスリーブ23との各嵌合部分が固定された転がり軸受装置110が完成する。
【0059】
なお、本実施形態においては、シャフト13が、熱変形部135に対して半径方向に対向する位置に窪む凹部を備えることとしてもよい。
また、本実施形態においては、固定部材として内輪側リング134を例示して説明したが、例えば、固定部材として内輪103aに隣接して配置される環状の内輪側リングや外輪5a,5bの軸方向に隣接して配置される環状の外輪側リングを採用することとしてもよい。
また、本実施形態においては、内輪側リング134が内輪103bの内径寸法および外形寸法と略等しい筒状部材であるとしたが、これに代えて、例えば、内輪側リング134の半径方向厚さを薄く形成し、熱変形部135が内輪103bより薄い半径方向厚さを有することとしてもよい。
【0060】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれら実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよい。
また、上記各実施形態においては、第2の部材として、嵌合孔25の内面にスペーサ部27を備えるスリーブ23を例示して説明したが、これに代えて、スペーサ部27を備えないスリーブを採用し、転がり軸受1A,1Bの内輪3a,3b,103a,103b間にリング状の間座を挟む構成としてもよい。この場合、外輪5a,5b間に間座の長さに応じた隙間が形成されるので、外輪5a,5bどうしを近接させる方向に押圧することとすればよい。また、外輪5a,5bあるいは外輪5a,5bの軸方向の一端に配置する環状の固定部材にレーザ照射し、熱変形部をスリーブ23の嵌合孔25に摩擦力により固定することとすればよい。
【0061】
また、上記各実施形態においては、突出部34a,34b,36bの熱変形部35a,35b,37b、または、内輪側リング134の熱変形部135がシャフト13に押し付けられる摩擦力により嵌合部分を固定することとしたが、例えば、シャフト13の外周面やスリーブ23の嵌合孔25等に接着剤を塗布し、同一の嵌合部分において熱変形部の摩擦力による固定と接着剤による固定とを併用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1A 第1の転がり軸受
1B 第2の転がり軸受
3a,3b、103a,103b 内輪
5a,5b 外輪
7 転動体
10,110 転がり軸受装置
13 シャフト(第1の部材)
23 スリーブ(第2の部材)
25 嵌合孔
27 スペーサ部
35a,35b,37b,135 熱変形部
134 内輪側リング(固定部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸に配置された内輪および外輪と、これら内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数配置される転動体とを備え、軸方向に間隔をあけて配列される2つの転がり軸受と、
該転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材と、
前記転がり軸受の前記外輪を嵌合させる嵌合孔を有する第2の部材とを備え、
前記内輪および前記外輪の少なくとも1つが、軸方向の一端に配置されてレーザ照射により熱変形し前記第1の部材または前記第2の部材に押し付けられて摩擦力によって固定される熱変形部を備える転がり軸受装置。
【請求項2】
前記熱変形部が、半径方向に対向して配置される前記外輪または前記内輪の端部より軸方向に突出している請求項1に記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記内輪または前記外輪が、前記転動体との接触面を有する厚肉部を備え、前記熱変形部が前記厚肉部より薄い半径方向厚さを有している請求項1または請求項2に記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
同軸に配置される内輪および外輪と、これら内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数配置される転動体とを備え、軸方向に間隔をあけて配列される2つの転がり軸受と、
該転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材と、
前記転がり軸受の前記外輪を嵌合させる嵌合孔を有する第2の部材と、
前記内輪および前記外輪の少なくとも1つに軸方向に隣接して配置され、レーザ照射により熱変形し前記第1の部材または前記第2の部材に押しつけられて摩擦力によって固定されている熱変形部を有する固定部材とを備える転がり軸受装置。
【請求項5】
前記固定部材が、前記第1の部材を嵌合させる内輪側リングまたは前記第2の部材に嵌合される外輪側リングである請求項4に記載の転がり軸受装置。
【請求項6】
前記熱変形部が、前記内輪または前記外輪の周方向に間隔をあけて複数設けられている請求項1から請求項5のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項7】
前記第1の部材または前記第2の部材が、前記熱変形部に対して半径方向に対向する位置に窪む凹部を備える請求項1から請求項6のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項8】
前記内輪間または前記外輪間の一方に軸方向に挟まれるスペーサ部を備え、
他方の前記内輪または前記外輪が、軸方向に隣接する前記内輪または前記外輪に対して相対的に近接する方向に押圧された状態で前記第1の部材または前記第2の部材に固定されている請求項1から請求項7のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項9】
前記内輪と前記第1の部材との嵌合部分または前記外輪と前記第2の部材との嵌合部分がレーザ溶接または接着剤により接合されている請求項1から請求項8のいずれかに記載の転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−75068(P2011−75068A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228969(P2009−228969)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】