説明

転がり軸受

【課題】容易に製造することができ、且つ、回転中に保持器が玉から力を受けて拡径あるいは縮径して保持器の一部が内外輪に摺動し、回転抵抗となることを抑制する転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪12と、外輪11と、内輪12と外輪11の間を周方向に転動自在な複数の玉13と、玉13をポケット14内に収容した樹脂製の保持器20と、を備え、軸受内径IDと径方向幅ΔdとがΔd/ID<0.187を満たす転がり軸受10であって、保持器20は板材21の一方の端部21aと他方の端部21bを重ね合わせて閉じたリング形状に形成され、重ね合わせた部分には少なくとも1つのポケット14が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、特に薄肉の転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
薄肉の転がり軸受(以下、薄肉軸受と呼ぶ。)は、図11に示すように、軸受内径IDと径方向幅ΔdとがΔd/ID<0.187の関係式を満たす転がり軸受として定義される。
【0003】
この薄肉軸受としては、4点接触軸受やアンギュラ玉軸受等があり、いずれも保持器を有する場合がある。4点接触軸受の保持器は、図12に示すように、内輪101と外輪102との間に玉103を配置して組み合わせた後、内輪101と外輪102との間に保持器104を装填するため、保持器104の各ポケット105には玉103を通過させる開口部106が設けられている。また、アンギュラ玉軸受の保持器は、図13に示すように、予め内輪201(又は外輪202)と玉203と保持器204を組み合わせたものを外輪202(又は内輪201)に装填して組み立てるため、保持器204の各ポケット205は閉じて形成されている。これらの薄肉軸受の保持器104、204は、厚みが極めて薄く、例えば、内径200mm程度の薄肉軸受の保持器は、厚みが1mm程度に設定されている。
【0004】
近年、これら保持器は、金属に比べて摩擦係数が小さいだけでなく、変形しやすいことから保持器の摩耗を少なくできる点で樹脂製の保持器が好んで使用されている。
【0005】
ここで樹脂製の保持器の製造方法としては、図14に示すように一枚の平板状の板材301を丸めて、外型302と内型303との隙間に丸めた板材301を装填して熱処理を施して固定し略リング形状に成形するか、又は、射出成形でリング形状に製造する方法がある。また、他の方法として特許文献1には、保持器を複数個に分断して組み合わせることでリング形状の保持器を構成することが開示されており、これを薄肉軸受の保持器に適用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−155950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した平板状の板材から略リング形状の保持器302を製造した場合、保持器302は閉じていない、即ち一方の端部と他方の端部との間に隙間があるため、回転中に保持器302が玉から力を受けて拡径あるいは縮径して、保持器の一部が内輪又は外輪に摺動し、回転抵抗となるという問題があった。加えて、平板状の板材から略リング状の保持器とするには、上述したように外型302と内型303とからなる熱固定型に板材を装填した後に熱固定する熱処理工程が必要であった。
【0008】
一方、上述した射出成形で製造した保持器は、閉じたリング形状であるため、保持器が玉から力を受けて、拡径あるいは縮径して内外輪に押付けられることがない点で好ましいが、薄肉軸受の保持器の場合、成形型が巨大にならざるを得なくなり、例えば内径200mmを超えるような薄肉軸受の保持器は成形型そのものを製作することが極めて困難になる。
【0009】
また、特許文献1に記載の保持器を薄肉軸受に適用した場合、厚さが薄いため継手部分を精度よく製造することが極めて困難であるばかりか、部品点数が多く組み付けが非常に困難になる。
【0010】
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、容易に製造することができ、且つ、回転中に保持器が玉から力を受けて拡径あるいは縮径して保持器の一部が内輪又は外輪に摺動し、回転抵抗となることを抑制する転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪の間を周方向に転動自在な複数の玉と、前記玉をポケット内に収容した樹脂製の保持器と、を備え、軸受内径IDと径方向幅ΔdとがΔd/ID<0.187を満たす転がり軸受であって、
前記保持器は板材の一方の端部と他方の端部を重ね合わせて閉じたリング形状に形成され、
重ね合わせた部分には少なくとも1つの前記ポケットが設けられる、
ことを特徴とする転がり軸受。
(2)前記重ね合わせた部分の厚さが重ね合わせていない部分の厚さと同等か、あるいは重ね合わせていない部分の厚さより薄いことを特徴とする(1)に記載の転がり軸受。
(3)前記保持器は、ポリエーテルエーテルケトン又は芳香族ポリイミドを含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の転がり軸受。
(4)前記内輪、前記外輪、前記玉の少なくとも1つにオイル又はグリースの潤滑被膜が設けられ、
前記潤滑被膜の厚みが1〜10g/mであるか、又は、
前記潤滑被膜が、1〜10g/mであり、且つ官能基を有する含フッ素重合体とパーフルオロポリエーテルとを含有した潤滑被膜か、前記官能基を有する含フッ素重合体とパーフルオロポリエーテルにフッ素樹脂を添加した潤滑被膜か、又は、アルキル化シクロペンタン又はポリフェニルエーテルを含有する潤滑油とフッ素樹脂とを含有する潤滑剤からなる潤滑被膜である、
ことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の転がり軸受。
【発明の効果】
【0012】
本発明の転がり軸受によれば、保持器は板材の一方の端部と他方の端部を重ね合わせて閉じたリング形状に形成され、重ね合わせた部分には少なくとも1つのポケットが設けられることにより、該ポケットに配設された玉により板材の一方の端部と他方の端部が玉留めされる。これにより、保持器の径方向寸法が保持されるので、回転中に保持器が玉から力を受けて拡径あるいは縮径して、保持器の一部が内外輪に摺動し回転抵抗となることを抑制することができる。
また、保持器は、板材の端部同士を重ね合わせた部分のポケットに配置された玉により玉留めして形成されるので、保持器を複数個に分断して製造したり、製造コストの高い元々がリング形状である保持器を製造する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る転がり軸受の部分正面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】第1実施形態の保持器の重ね合わせ部のポケットに玉を配設した状態を示す斜視図である。
【図5】第1実施形態の変形例に係る保持器であり、保持器の重ね合わせ部のポケットに玉を配設した状態を示す斜視図である。
【図6】放出ガス量試験装置の概略図である。
【図7】被膜厚さと放出ガス量、耐久性の関係を示すグラフである。
【図8】放出ガス量と軸受被膜の関係を示すグラフである。
【図9】軸受温度と耐久性の関係を示すグラフである。
【図10】本発明の第2実施形態に係る転がり軸受の図であり、(a)は断面図、(b)は保持器の重ね合わせ部のポケットに玉を配置した状態を示す斜視図である。
【図11】薄肉軸受を説明する説明図である。
【図12】従来の4点接触軸受の説明図である。
【図13】従来のアンギュラ玉軸受の説明図である。
【図14】従来の一枚の板材から形成された保持器の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る転がり軸受の各実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<第1実施形態>
本実施形態に係る転がり軸受10は、例えば真空環境下において半導体製造装置の搬送ロボットに使用される薄肉軸受であり、図11に示すように、軸受内径IDと径方向幅ΔdとがΔd/ID<0.187の関係式を満たす転がり軸受である。軸受内径IDと径方向幅Δdは、好ましくは0.025Δd/ID<0.187であり、軸受断面が略正方形であり、転がり軸受10の断面積に比べて軸受内径IDが大きくなっている。
【0015】
転がり軸受10は、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、これら外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に周方向に転動自在に設けられた複数の玉13と、外輪11の内周面と内輪12の外周面との間に設けられて複数の玉13を転動自在に保持する合成樹脂製の保持器20と、を備えて構成されている。
【0016】
また、転がり軸受10は、4点接触玉軸受であり、玉13が外輪11と内輪12の各軌道面11a、12aに対してそれぞれ二点接触し、図2及び図3において、傾斜した一点鎖線と各軌道面11a、12aとの交点が、玉13と各軌道面11a、12aとの接触点である。
【0017】
保持器20は、樹脂によって形成され、その材料として、ポリアミド46やポリアミド66などのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェレンサルサイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)などが例示される。また、上記樹脂に、例えば、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状充填材を10〜50wt%程度適宜添加することによって、保持器20の剛性および寸法精度を向上させることができる。
【0018】
保持器20は、閉じたリング形状を有し、断面が玉13の形状に沿う球形状のポケット14が周方向に所定の間隔で複数設けられている。各ポケット14には、軸方向一方側に開口部15が設けられている。
【0019】
この保持器20は、例えば図4に示すように、一枚の平板状の板材21を丸め、板材21の一方の端部21aと他方の端部21bを重ね合わせて閉じたリング形状に成形され、重ね合わせた部分22(以下、重ね合わせ部と呼ぶ。)に少なくとも1つ(本実施形態では1つ)のポケット14が設けられている。それぞれの端部21a、21bは、重ね合わせていない部分23(以下、非重ね合わせ部と呼ぶ。)に対し、略半分又は略半分よりわずかに短い厚さ(断面高さ)を有し、玉13の略ピッチ円直径で接触又は対向するように重ね合わされている。また、重ね合わせ部22の厚さT22が非重ね合わせ部23の厚さT23より薄くなっており(T22<T23)、それぞれの端部21a、21bの角が保持器20の外周面から外側にはみ出さないように形成されている。そして、一方の端部21aに形成されたポケット14aがポケット14の内径側を構成し、他方の端部21bに形成されたポケット14bがポケット14の外径側を構成し、各ポケット14a、14bで1つのポケット14を形成している。
【0020】
この保持器20は、一枚の板材21の端部21aの高さ方向(丸めた状態における径方向)の一面と他方の端部21bの高さ方向の他面に全幅(丸めた状態における軸方向幅)に亘って端面から少なくとも1つのポケット14よりも長い長手方向長さ(丸めた状態における周方向長さ)を有する切り欠きを設け、内輪12と外輪11との間に玉13を配置して組み合わせた後、各ポケット14の開口部15から玉13がポケット14に配設されるように内輪12と外輪11との間に互いの切り欠きを重ねてリング形状に丸めた保持器20を軸方向一方側から装填する。
このとき、重ね合わせ部22のポケット14に配設された玉13により保持器20の一方の端部21aと他方の端部21bは玉留めされ、回転中に保持器20が玉13から力を受けて拡径又は縮径しようとする際、重ね合わせ部22のポケット14に配置された玉13により径方向寸法が保たれる。
【0021】
以上、説明した本実施形態の薄肉の転がり軸受10によれば、保持器20は板材21の一方の端部21aと他方の端部21bを重ね合わせて閉じたリング形状に形成され、重ね合わせ部22には少なくとも1つのポケット14が設けられることにより、該ポケット14に配設された玉13により板材21の一方の端部21aと他方の端部21bが玉留めされる。これにより、保持器20の径方向寸法が保持されるので、回転中に保持器20が玉13から力を受けて拡径あるいは縮径して、保持器20の一部が内輪12又は外輪11に摺動し回転抵抗となることを抑制することができる。
また、保持器20は、板材21の端部21a、21b同士を重ね合わせた重ね合わせ部分22のポケット14に配置された玉13により玉留めして形成されるので、保持器を複数個に分断して製造したり、製造コストの高い元々がリング形状である保持器を製造する必要がない。
【0022】
また、本実施形態の薄肉の転がり軸受10によれば、重ね合わせ部22の厚さT23が非重ね合わせ部23の厚さT23より薄くなっている(T22<T23)ので、それぞれの端部21a、21bの角が保持器20の外周面から外側にはみ出すことはなく、端部21a、21bの角が内輪12又は外輪11と摺動して回転抵抗となるのを防止することができる。なお、必ずしも重ね合わせ部22の厚さT23が非重ね合わせ部23の厚さT23より薄くする必要はなく、重ね合わせ部22の厚さT23は非重ね合わせ部23の厚さT23と同等であればよい。
【0023】
また、本実施形態の薄肉の転がり軸受10において、上述した樹脂材料のうち、特にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)又は芳香族ポリイミド(PI)を使用することにより、真空環境下において放出ガス(放出ガス)を低減することができる。なお、これらの材料は成形温度が高く、例えば、ポリエーテルエーテルケトンは融点が343℃と高温であるため、射出成形で製造する場合には、型温度も180℃以上の高温に保持する必要があった。また、型内で温度分布が生じやすく薄肉軸受には適していなかったが、上述した構成の保持器20によれば、平板状の板材を丸めて成形することができるので、これらの材料を用いても容易に製造することができる。
【0024】
ここで本実施形態の効果を調べるため軸受のトルク測定を行なった。試験条件を表1に示す。保持器は実施例、比較例ともポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を使用し、実施例として上述した保持器20と同一構成の保持器をし、比較例として2個に分断された円弧状の保持器片を組み合わせて形成した保持器を使用した。トルク測定は、規定のサイクルの走行を行い、その間に保持器が内輪又は外輪に押し付けられて一時的に回転抵抗となってトルク値が上昇するトルクスパイクの回数を計測した。その結果を表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表2に示した結果により、本実施形態の保持器を使用した実施例においては、比較例の保持器に比べてトルクスパイク発生回数が極めて少ない値を示した。これにより、回転中に保持器の一部が内輪又は外輪に摺動し回転抵抗となることを抑制することができることが示された。
【0028】
なお、本実施形態の保持器20は、板材21の一方の端部21aと他方の端部21bを切り欠いて重ね合わせたが、必ずしも切り欠く必要はなく、図5に示すように、回転中に保持器20の一部が内輪12又は外輪11に摺動しない範囲内で両端部21a、21bを重ね合わせてもよい。
【0029】
次に、本実施形態の薄肉の転がり軸受10における潤滑剤について説明する。
真空環境下においては、軸受自身が汚染源にならないよう低放出ガス性が要求される。そのため、本実施形態においては、好ましくは、内輪12、外輪11、玉13の少なくとも1つに厚みが1〜10g/mであるオイル又はグリースの潤滑被膜を設ける。
【0030】
以下、その根拠について説明する。
軸受からの放出ガスは軸受に塗布されている、又は、充填されている潤滑剤から放出されるものがほとんどであり、図6に軸受の放出ガス量を測定するための試験装置を示す。
放出ガス試験装置30はフッ素オイルの潤滑被膜を塗布した軸受31から放出されたガスをコンダクタンスのわかっているオリフィス部32を通過させて、オリフィス部32を通過する前と通過した後の圧力差(P1−P2)を測定することで式(1)よりオリフィス部32を通過したガス量が測定できる。
Q=C(P1−P2) (1)
この測定方法によって、フッ素オイルの被膜厚さをパラメータにして、放出ガス量の変化を調べた。測定条件を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
この測定により得られた結果を図7に示す。図7は、横軸が被膜厚さ、左縦軸が放出ガス量である。
図7の結果から、被膜厚さと放出ガス量の関係が求められ、フッ素オイルの被膜厚さが増加するほど、つまり潤滑剤量が増えるほど放出ガス量は大きくなることがわかる。そして、被膜厚さが12g/mに達すると、真空グリースを充填したフッ素グリース放出ガス量とものと変わらなくなる。すなわち、被膜厚さが12g/m以下であれば、真空グリースを充填したものと比べて放出ガス量を低減できるのが分かる。
【0033】
一方で軸受の潤滑剤量が少ないほど、放出ガス量は少ないが耐久性も考慮する必要がある。そこで、被膜厚さと軸受の耐久性との関係を加熱装置を備えた不図示の耐久試験機を用いて測定した。試験条件を表4に示す。
【表4】

【0034】
この測定により得られた結果を図7に示す。なお、図7の右縦軸が耐久性を表す総回転数である。
図7の結果から、被膜厚さと耐久性の関係が求められ、被膜厚さが0.5g/mの場合は10回転に到達することなく寿命となっているが、被膜厚さが1.0g/mの場合は薄肉軸受の走行距離として必要十分な距離に対応する回転数である10回転まで達して打ち切りとなっていることが分かる。従って、耐久性から言えば、被膜厚さが1.0g/m以上あれば良いということになる。
【0035】
以上より、図7に示した被膜厚さと放出ガス量の関係と被膜厚さと耐久性の関係を考慮すると被膜厚さは1〜10g/mであれば耐久性を維持しつつ放出ガス量を低減できることが分かった。なお、この測定はオイルを用いて測定したが、グリースであっても被膜厚さが同じであれば、そこに含有される基油の量はほぼ同等であるのでグリースについても同様に適用することができる。
【0036】
さらに、本実施形態においては、他の潤滑剤として好ましくは、1〜10g/mであり、且つ官能基を有する含フッ素重合体とパーフルオロポリエーテル(PFPE)とを含有した潤滑被膜か、官能基を有する含フッ素重合体とパーフルオロポリエーテルにフッ素樹脂を添加した潤滑被膜か、又は、アルキル化シクロペンタン(MAC)又はポリフェニルエーテルを主成分とする潤滑油とフッ素樹脂とを含有する潤滑剤からなる潤滑被膜を設ける。なお、これらの潤滑被膜を総称して以下、「DFO潤滑被膜」と呼び、DFO潤滑被膜で潤滑される転がり軸受を「DFO軸受」と呼ぶ。
【0037】
以下、その根拠について説明する。
図8に示すように、DFO潤滑被膜(PFPE基油及びMAC基油)はフッ素オイルを塗布したものに比べて放出ガス量が低いことが分かる。
また、軸受温度と耐久性の関係を調べるため、真空中で軸受を加熱して回転方向に揺動させながら耐久性を調べた。
【0038】
この測定により得られた結果を図9に示す。図9は、横軸が温度(℃)、縦軸が寿命を表す総サイクル数である。
図9の結果から、軸受温度によらずDFO軸受はフッ素油を塗布した軸受に比べて総サイクル数が多く耐久性に優れていることが分かる。
【0039】
以上より、図8に示した放出ガス量と軸受被膜の関係と、図9に示した軸受温度と耐久性の関係から、DFO軸受はフッ素油を塗布した軸受に比べて低放出ガス性に優れ、加えて耐久性にも優れていることが分かる。
【0040】
このDFO潤滑被膜を使用して油量を制限した場合、保持器が玉から受ける力が増加して保持器が内輪又は外輪に押付けられやすくなるが、本実施形態の保持器20によれば、玉留めにより径方向寸法が保たれているので、保持器20が内輪12又は外輪11と摺動することが低減され、DFO潤滑被膜により低放出ガス性と耐久性を向上させることができる。
【0041】
<第2実施形態>
次に、図10を参照して本発明の第2実施形態の転がり軸受について説明する。
第2実施形態の転がり軸受は、アンギュラ玉軸受であり、第1実施形態の4点接触玉軸受である転がり軸受10と同一又は同等部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
【0042】
第2実施形態の転がり軸受10Aの保持器20Aは、ポケット14が閉じて形成されており、図10(b)に示すように、一枚の平板状の板材21を丸め、板材21の一方の端部21aと他方の端部21bを重ね合わせて閉じたリング形状に成形され、重ね合わせ部22に少なくとも1つ(本実施形態では1つ)のポケット14が設けられている。それぞれの端部21a、21bは、第1実施形態の保持器10と同様に、非重ね合わせ部23に対し、略半分又は略半分よりわずかに短い断面高さを有し、玉13の略ピッチ円直径で接触又は対向するように重ね合わされている。そして、一方の端部21aに形成されたポケット14aがポケット14の内径側を構成し、他方の端部21bに形成されたポケット14bがポケット14の外径側を構成し、各ポケット14a、14bで1つのポケット14を形成している。
【0043】
このように構成された保持器20Aに玉13と内輪12を組み合わせたものを外輪11(又は内輪12)に装填して組み立てられ、第1実施形態の転がり軸受10と同様の作用・効果を有する。
【0044】
なお、本発明は、上記各実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、重ね合わせ部に1つのポケットを形成したが、これに限らず2つ以上のポケットを形成してもよい。また、ポケットの形状等、適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0045】
10、10A 転がり軸受
11 外輪
12 内輪
13 玉
14 ポケット
20、20A 保持器
21 板材
21a、21b 端部
22 重ね合わせ部(重ね合わせた部分)
23 非重ね合わせ部(重ね合わせていない部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪の間を周方向に転動自在な複数の玉と、前記玉をポケット内に収容した樹脂製の保持器と、を備え、軸受内径IDと径方向幅ΔdとがΔd/ID<0.187を満たす転がり軸受であって、
前記保持器は板材の一方の端部と他方の端部を重ね合わせて閉じたリング形状に形成され、
重ね合わせた部分には少なくとも1つの前記ポケットが設けられる、
ことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記重ね合わせた部分の厚さが重ね合わせていない部分の厚さと同等か、あるいは重ね合わせていない部分の厚さより薄いことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記保持器は、ポリエーテルエーテルケトン又は芳香族ポリイミドを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記内輪、前記外輪、前記玉の少なくとも1つにオイル又はグリースの潤滑被膜が設けられ、
前記潤滑被膜の厚みが1〜10g/mであるか、又は、
前記潤滑被膜が、1〜10g/mであり、且つ官能基を有する含フッ素重合体とパーフルオロポリエーテルとを含有した潤滑被膜か、前記官能基を有する含フッ素重合体とパーフルオロポリエーテルにフッ素樹脂を添加した潤滑被膜か、又は、アルキル化シクロペンタン又はポリフェニルエーテルを含有する潤滑油とフッ素樹脂とを含有する潤滑剤からなる潤滑被膜である、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−190240(P2010−190240A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32326(P2009−32326)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】