説明

転写ベルトの用途に応じたカーボンナノチューブ

【課題】電荷交換やトナーオフセット現象の発生を抑制する転写部材を提供する。
【解決手段】電子写真転写部材は、抵抗性があり、電気的に緩和可能なポリイミド基材と、フルオロエラストマ複合体を含む順応抵抗層と、を有する。フルオロエラストマ複合体は、架橋フルオロポリマと、複数のカーボンナノチューブと、を含み、約10オームセンチメートルから約1013オームセンチメートルの間の固有抵抗を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性コーティングおよびその作製プロセスに関する。本開示は、電気的用途、特に、電子写真用途等の静電写真の用途に対応した構成部品に役立つ導電性コーティングを製造するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な静電写真複写装置において、複写対象であるオリジナルの光画像は、静電潜像の形で感光性部材に記録される。続いて、この潜像は、通例トナーと呼ばれる検電器的(electroscopic)熱可塑性樹脂粒子を塗布することで可視状態に処理される。静電潜像の現像は、一般に、現像剤混合物に潜像を接触させることによって行われる。乾式現像剤混合物は、通常、摩擦帯電式にキャリア顆粒に接着しているトナー粒子を持つキャリア顆粒を有する。トナー粒子は、キャリア顆粒から潜像に引き寄せられて、トナー画像を形成する。
【0003】
他の選択肢として、液体の現像剤材料を利用してもよい。液体の現像剤材料は、トナー粒子を分散させた液体キャリアを含む。この液体の現像剤材料を静電潜像と接触させると、トナー粒子が潜像形状に堆積される。光導電性表面においてトナー粒子が潜像形状に堆積された後、画像が複写シートに転写される。ただし、液体の現像剤材料を用いた場合、複写シートは、トナー粒子と液体キャリアとにより湿り気を帯びる。したがって、前記複写シートから液体キャリアを除去する必要がある。この除去は、トナー画像の溶融定着を行う前に複写シートを乾燥させるか、あるいは、溶融定着プロセスに依存して、複写シートにトナー粒子を恒久的に溶融定着させると共に、液体キャリアを蒸発させることで実現できる。複写シートに液体キャリアを移送しないようにすることが望ましい。したがって、コーティングされた中間転写ウェブ、中間転写ベルト、または中間転写要素に現像画像を転写し、その後、中間転写要素から恒久基材に、極めて高い転写効率で前記現像画像を転写すると有利である。トナー画像は、通常、支持体に定着または溶融されるが、この支持体は、感光部材そのものであっても、あるいは、普通紙等の他の支持体シートであってもよい。
【0004】
静電写真印刷機において、トナー画像は、画像形成部材と中間転写部材の電位差によって静電的に転写される。中間転写部材へのトナー粒子の転写と、前記中間転写部材上でのトナー粒子の保持は、最終的に受像基材に転写される画像が高解像度になるように、可能な限り完璧に実現されなければならない。実質的に100%のトナー転写は、画像を有するトナー粒子のほとんど、またはそのすべてが転写され、画像の転写元である表面に残留トナーがほとんど残らない場合に実現する。ほぼ100%のトナー転写は、フルカラー画像の生成において特に重要である。これは、中間転写部材への原色画像の転写、あるいは中間転写部材からの原色画像の転写が正確かつ効率的に行われないと、最終的な色に好ましくない色ずれや退色が生じることになるためである。
【0005】
ポリマに導電性添加剤を加えて、ポリマコーティングまたはポリマ層の固有抵抗をある程度部分的に制御することもできるが、その場合、添加剤の使用に関連した問題、例えば、分散が不均一になるというような問題がある。特に、粒子は、頻繁にポリマ表面でブルームまたは移動して、ポリマを不完全なものにする。その結果、固有抵抗が不均一になり、ひいては、帯電防止特性と機械的強度が劣化することになる。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,141,516号明細書
【特許文献2】米国特許第6,103,815号明細書
【特許文献3】米国特許第5,849,399号明細書
【特許文献4】米国特許第5,795,500号明細書
【特許文献5】米国特許第5,761,595号明細書
【特許文献6】米国特許第5,567,565号明細書
【特許文献7】米国特許第5,525,446号明細書
【特許文献8】米国特許第5,456,987号明細書
【特許文献9】米国特許第5,340,679号明細書
【特許文献10】米国特許第5,337,129号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
全般に、電子写真構成要素のコーティングまたは層として有用な組成と、このようなコーティングまたは層を作製するプロセスとを提供して、トナーの転写効率を向上させると共に電荷交換やトナーオフセット現象の発生を抑制することが求められている。具体的には、電子写真構成要素のためのコーティングまたは層として有用な組成として、トナー電荷を中性化する望ましい範囲に制御された固有抵抗を持つことで、電荷交換やトナーオフセット現象の発生を抑制し、画像品質を向上させ、更に、他の電子写真部材の汚染を防止するような組成が特に求められている。また、望ましい固有抵抗範囲内にある安定した固有抵抗特性を持つ外表面を有する一方で、剥離層の順応性と低い界面エネルギー特性が損なわれることのない中間転写部材を求める具体的な要望もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態において、中間転写部材は、基材と、前記基材上の順応抵抗層(conformance resistive layer)とを含んでよい。前記順応抵抗層は、フルオロエラストマと、複数のカーボンナノチューブとを含んでよい。
【0009】
他の実施形態において、中間転写部材の基材はポリイミドを含んでよい。
【0010】
また他の実施形態において、順応抵抗層は、フルオロポリマと硬化剤との反応生成物を含んでよい。各種実施形態において、前記フルオロポリマは、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、およびこれらの混合物からなる群から選択されてよいモノマ反復単位を含んでよい。
【0011】
各種実施形態の硬化剤は、フェノール、アミン、オレフィン、およびこれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも2つの架橋官能基を含んでよい。
【0012】
更にまた他の実施形態において、カーボンナノチューブは、一重壁カーボンナノチューブ、多重壁カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、およびこれらの混合物からなる群から選択されてよい。一部の実施形態において、順応抵抗層内のカーボンナノチューブは、約0.001重量%から約2重量%までの濃度であってよい。
【0013】
中間転写部材の各種実施形態は、約10オームセンチメートルから約1013オームセンチメートルの範囲内の電気固有抵抗を持つ順応抵抗層を含んでよい。順応抵抗層は、約1ミルから約6ミルまでの厚さであってよい。
【0014】
各種実施形態の転写部材は、フルオロエラストマ複合体コーティングの上にトナー剥離層を含んでよい。特定の実施形態において、トナー剥離層はシリコンであってよい。
【0015】
他の実施形態において、本方法は、複数のカーボンナノチューブと、フルオロポリマと、を有効溶媒(effective solvent)に分散させて懸濁液を生成し、転写部材基材に前記懸濁液をコーティングして、前記転写部材基材の上に順応抵抗層を形成することを含む。
【0016】
更に他の実施形態は、コーティングを行う前に前記懸濁液に架橋剤を加えることを含んでよい。他の実施形態において、順応抵抗層は硬化処理されてよい。一部の実施形態では、前記架橋剤を加える前に、前記懸濁液に塩基性酸化物を添加してよい。
【0017】
更に他の実施形態において、カーボンナノチューブとフルオロポリマとは、有効溶媒への分散前に、混合されてよい。
【0018】
ここに記載する各種実施形態のカーボンナノチューブは、一重壁カーボンナノチューブ、多重壁カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、およびこれらの混合物からなる群から選択されてよく、順応抵抗層内のカーボンナノチューブは、約0.001重量%から約2重量%までの濃度であってよい。
【0019】
各種実施形態のフルオロポリマは、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマ反復単位を含んでよい。
【0020】
各種実施形態の有効溶媒は、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、およびこれらの混合物からなる群から選択されてよい。
【0021】
他の実施形態は、懸濁液に界面活性剤を加えることを含んでよい。
【0022】
各種実施形態において、コーティング方法は、ギャップコーティング、フローコーティング、ドローダウンコーティング、スピンキャストコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング、および押出コーティングからなる群から選択されてよい。
【0023】
更に他の実施形態は、画像形成システムを含む。画像形成システムは転写部材を含んでよい。画像形成システムの各種実施形態に係る転写部材は、抵抗性と電気緩和性のあるポリイミド基材と、この基材上の順応抵抗層と、を含んでよい。各種実施形態の順応抵抗層は、フルオロエラストマ複合体を含んでよい。各種実施形態のフルオロエラストマ複合体は、架橋フルオロポリマと、複数のカーボンナノチューブとを含んでよく、約10オームセンチメートルから約1013オームセンチメートルまでの固有抵抗を示してよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
ここで用いる「有する」という言葉は、「包含するが、それに限定されるものではない」という意味で用いるものである。
【0025】
図1を参照して説明する。ここに示す実施形態は、中間転写部材15を備える画像現像システム10を含む。中間転写部材15は、画像形成部材17とバイアス転写ローラ19の間に配設されてよい。図1において、画像形成部材17は、光受容体ドラムとして例示されている。他の実施形態において、画像形成部材は、他の静電写真画像形成受容体、例えば、イオノグラフィックベルトおよびドラム、静電写真ベルト、現在当業者に周知、または今後周知のものとなる他の静電写真画像形成受容体等、を含んでよい。
【0026】
画像形成システム10の一実施形態において、潜像は、画像形成ステーション21によって画像形成部材17の上に形成され、現像ステーション23において現像される。この画像は、次に、中間転写部材15に転写される。多画像形成システムでは、画像形成部材17に各画像を形成でき、形成された各画像は、順次現像された後、中間転写部材15に転写される。一実施形態において、画像形成システム10は、カラー複写システムまたは白黒複写システムであってよい。また他の実施形態において、画像形成システム10は、カラー印刷システムや、白黒印刷システムを含んでよい。
【0027】
現像ステーション23で画像が現像される際、現像ステーション23から荷電されたトナー粒子25は、画像形成部材17に引き寄せられて保持される。これは、画像形成部材がトナー粒子25とは逆の電荷27を帯びているためである。図1では、トナー粒子25を負の電荷、画像形成部材17を正の電荷で表現しているが、この電荷は、トナーと装置の特性に応じて正と負が逆に構成されてもよい。ここに記載する実施形態は、液体または乾式のトナーを含んでよい。
【0028】
画像形成部材17に対向配置されたバイアス転写ローラ19の電圧は、画像形成部材17の表面よりも高い。図1に示すように、バイアス転写ローラ19は、中間転写部材15の裏側29を正の電荷31に帯電させてよい。もう一つの選択肢として、中間転写部材15の裏側29は、コロナ帯電や、当業者に周知の他の帯電方法で荷電されてよい。
【0029】
負に帯電したトナー粒子25は、正の電荷31を持つ、中間転写部材15の表側33に引き寄せられる。中間転写部材15は、シート形式、ウェブ形式、ベルト形式、または、トナー粒子25の転写に適した形状を持つ他の形式に構成できる。
【0030】
各種実施形態において、中間転写部材50,60は、図2と図3に示すように、多層構造に形成されてよい。図2に、2層の中間転写部材50の実施形態を示し、図3に、3層の中間転写部材60の実施形態を示す。中間転写部材50,60は、寸法的に安定したものであることに加え、トナーや現像剤の材料に対して耐性があることが望ましい。一実施形態において、中間転写部材50,60の基材52として、電気的に緩和可能で、抵抗力のあるポリイミドを利用してよい。
【0031】
また、中間転写部材50,60は、受像基材に順応できることことが望ましい。順応性や適合性は、材料が、ほぼ完全な平滑状態で受像基材と接触できることを意味する。そのような材料は、基材の形態や外形に一致するように順応する。フルオロエラストマは、ヤング率が高く、熱安定度および順応性にも優れているため、従来から順応抵抗層に利用されている。
【0032】
中間転写部材は、電気的にバイアスされた際に電界を生成できる十分な導電性を持つと共に、バイアス時に漏電を生じない十分な抵抗を備えている必要がある。また、中間転写部材は、各電子写真サイクルの後で電荷が蓄積されないように、電気的に緩和される必要がある。したがって、中間転写部材の誘電緩和時間を把握することが重要である。緩和時間について、最も利用しやすい測定可能なパラメータは、中間転写部材の材料または表面コーティングの、表面とバルク両方についての電気固有抵抗または抵抗である。
【0033】
正確な固有抵抗は、印刷エンジンの設計と、処理速度と、構成要素の形状と、ラチチュードと、に左右される可能性がある。中間転写部材を含む電子写真の用途に対応する固有抵抗の好ましい範囲は、約10オームセンチメートルから約1013オームセンチメートルまでの範囲である。この好ましい範囲内の固有抵抗を持つ材料は、電気的絶縁性(>1013オームセンチメートル)と、導電性(<10オームセンチメートル)のいずれの特性も持たないものである。この固有抵抗を得る経済的な手法は、フルオロエラストマに導電性充填材を添加することである。この望ましい固有抵抗を得るために、多量の充填材の添加(球状粒子についての計算値は約16%(v/v))が必要になることもある。好ましい電気的特性を与える一方で、充填材の使用は、しばしば順応性を低下させる。
【0034】
ここで、図2と図3に戻って説明すると、中間転写部材または転写ベルト50,60の順応抵抗層53の実施形態では、カーボンナノチューブ(CNT)56が添加されたフルオロエラストマ54を含んでよいことがわかる。一実施形態では、順応抵抗コーティング層53にフルオロポリマと硬化剤との反応生成物を挿入して、架橋フルオロエラストマ54を形成してよい。中間転写部材50,60の順応抵抗層53の更に他の実施形態において、フルオロポリマは、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマ反復単位を持つことができる。中間転写部材50,60のまた他の実施形態において、硬化剤は、フェノール、アミン、オレフィン、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも2つの架橋官能基を含んでよい。
【0035】
順応抵抗層53の好ましい固有抵抗は、約10オームセンチメートルと約1013オームセンチメートルの間であるが、この固有抵抗は、約2%(w/w)未満でCNT56を添加することで得られる。他の実施形態では、順応抵抗層53の約0.001%から約2%(w/w)までの間で、CNT充填剤56をフルオロエラストマに分散させる。他の実施形態において、フルオロエラストマ内のCNTは、約0.001%から約5%(w/w)までの濃度であってよい。更に他の実施形態において、フルオロエラストマ内のCNT濃度は、約0.01%から約1%(w/w)までであってよい。CNTは、アスペクト比が高いため、少ない充填量で好ましい固有抵抗を提供する点で効果的である。CNTの直径は数ナノメートルであるが、数ミリメートルの長さを持つことができる。したがって、フルオロエラストマに連続した電気経路を形成し、順応抵抗層53の固有抵抗を、望ましい「半導体」の範囲である約10オームセンチメートルから約1013オームセンチメートルまでの間に設定するのに、比較的少量の添加しか必要としない。少量のCNTの添加により、機械的特性と順応特性が大幅に変化したり、損なわれたりすることはない。
【0036】
フルオロポリマまたはフルオロエラストマ内に分散されたCNTは、固体−個体分散の例である。分散は2相の系で、その1つの相は細かく分割された粒子からなる。この粒子は、多くの場合、コロイドの大きさの範囲内にあり、バルク物質全体に分散されている。この粒子が分散相または不連続相で、バルク物質が連続相である。
【0037】
カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素の同素体である。CNTは、円筒状炭素分子の形をとり、ナノテクノロジー、電子工学、光学、および材料科学の他の分野において各種幅広い用途に活用できる斬新な特性を備えている。また、CNTは、驚異的な強さを持ち、独特の電気特性を示すことに加え、効率的な熱導体である。カーボンナノファイバーは、カーボンナノチューブと同様の寸法を持つ円筒の構造物であるが、CNTほど完全な円筒形ではない。カーボンナノファイバーも、ここに記載した実施形態の範囲に含む。
【0038】
ナノチューブはフラーレン構造ファミリーの一員であり、バッキーボールも含む。バッキーボールの形状は球形であるが、ナノチューブは円筒形である。ナノチューブの直径は、数ナノメートル程度であるが、最大で数ミリメートルの長さを持つことができる。ナノチューブとしては、主に、一重壁ナノチューブ(SWNT)と多重壁ナノチューブ(MWNT)の2つのタイプがあるが、そのいずれもここに記載した実施形態に含むものである。
【0039】
図3を参照しながら説明する。中間転写部材60の一実施形態では、順応抵抗層53の上にトナー剥離層58を含んでよい。トナー剥離層は、シリコン、シロキサン、またはポリシロキサンを含んでよい。一実施形態において、トナー剥離層58は、ジメチルシロキサンを含んでよい。
【0040】
図4を参照して説明する。図4に、中間転写ベルトを作製する方法100の一例を示す。本方法100は、カーボンナノチューブ(CNT)とフルオロポリマの混合物を押し出し成型して、あるいはこれらを混合して(110)、約0.001%から約2%(w/w)までCNTが添加された複合体を形成する。他の実施形態において、フルオロエラストマ内のCNTは、約0.001%から約5%(w/w)までの濃度であってよい。また他の実施形態において、フルオロエラストマ内のCNTは、約0.01%から約1%(w/w)までの濃度でよい。一実施形態において、混合処理は、二軸スクリュー押出機を用いて行ってよい。例示するプロセスは、市販品として調製されたCNT/フルオロポリマ材料のマスターバッチを利用することを含んでよく、その場合は、引き続きレットダウン押出(letdown extrusion)プロセスでCNTの濃度を下げる。このレットダウン押出プロセスで、前記マスターバッチは純フルオロポリマと同時押し出しされる。たとえば、フルオロポリマであるバイトン(登録商標)−A(Viton(R)−A)(デュポン社(E.I. du Pont de Nemours and Company))内に多重壁CNTを12%(w/w)含有するマスターバッチは、市販品として調整されたものをハイペリオン・キャタリシス・インターナショナル社(Hyperion Catalysis International)から入手できる。ここに記載する実施形態では、最終複合体押出品のCNT濃度を約0.001%から約2%までの範囲に下げることが望ましい。このように、前述したマスターバッチは、たとえば、バイトン(登録商標)−GF(Viton(R)−GF)等の純フルオロポリマと同時押し出しされてよい。結果的に得られるレットダウンポリマは、約0.001%から約2%(w/w)までの最終濃度でCNTを含んでよい。別の選択肢として、純フルオロポリマに所望の濃度のCNTを添加混合することもできる。
【0041】
図4を参照した説明に戻ると、複合体に所望の濃度のCNTを混合したら、有効溶媒に前記複合体自体を分散させて(120)、懸濁液を生成する。他の選択肢として、CNTとフルオロポリマとを予め混合せずに、有効溶媒に所望の量のフルオロポリマとCNTとを添加してもよい。有効溶媒は、メチルイソブチルケトン(MIBK)と、メチルエチルケトン(MEK)と、これらの混合物と、を含むが、これらに限定されるものではない。
【0042】
懸濁液に界面活性剤を追加して、懸濁液の安定度を向上させてもよい。ここに記載する実施形態に係る界面活性剤の例として、特に限定するものではないが、フルオラッド(商標)(FluoradTM)シリーズのフルオロ界面活性剤(Fluorosurfactant)FC−4430(3Mスペシャリティ・マテリアルス(3M Specialty Materials)社)が挙げられる。これは、非イオンポリマのフルオロ界面活性剤である。懸濁液の分散を補助するために、懸濁液を音波処理してもよい。音波処理の方法、すなわち、溶液と懸濁液の撹拌混合に超音波浴または超音波プローブを利用することは、当業者には周知であるので、ここでは詳しく説明しない。
【0043】
懸濁液は、極めて小さい粒子(固体、半固体、または液体)が液体状または気体状の媒体にほぼ均一に分散されている系である。前記粒子が濾過膜を通り抜ける十分に小さいサイズであれば、その系はコロイド懸濁液である。コロイドという用語は、1ヶ所以上の寸法が1ミリミクロン(ナノメートル)から1ミクロン(マイクロメートル)までの範囲内にあることを意味する。
【0044】
ここに記載する実施形態では、CNTとフルオロポリマ材料を有効溶液に分散させて、懸濁液を形成する。ここに記載する懸濁液の各種実施形態は、懸濁液が濾過膜を通り抜けることができるため、コロイド懸濁液であると想定できる。また、液体状のコロイド懸濁液内の固体は、コロイド分散系とも呼ばれる(あるいは、大まかに溶液と呼ばれることもある)。
【0045】
図4を参照した説明を続ける。任意構成として、第2の溶媒に界面活性剤を添加してもよく、この溶媒混合物に、脱水素フッ素化(dehydrofluorinating)剤や酸受容体として機能するMgOおよびCa(OH)等の塩基性酸化物を導入して、フルオロポリマの架橋結合を補助できる(130)。任意構成の第2の溶媒混合物も音波処理されてよい。
【0046】
懸濁液は、たとえば、孔径20μmのフィルターディスクを用いて濾過してよい(140)。濾過処理140を利用して、非コロイド状固体、たとえば、塩基性酸化物粒子等を除去し、基材コーティング内にこのような非コロイド状固体が存在しないようにする。
【0047】
濾過された懸濁液に、結合剤、硬化剤、または架橋剤の溶液を混合してよい(150)。架橋剤の例として、ビスフェノール化合物が挙げられる。一例として、ビスフェノール架橋剤は、デュポン社(E.I. du Pont de Nemours,Inc.)から入手できるバイトン(登録商標)硬化剤(Viton(R) Curative)No.50(VC−50)を有することができる。VC−50は、CNTとフルオロポリマの溶剤懸濁液に溶解可能で、架橋の反応点で容易に利用できる。硬化剤(Curative)VC−50は、架橋剤としてビスフェノールAFを含み、促進剤としてジフェニルベンジルホスホニウム塩化物を含む。ビスフェノールAFは、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノールとしても知られている。溶液内にすばやく架橋が発生するため、架橋剤を含む懸濁液は短時間で混合される。
【0048】
架橋剤を含む懸濁液は中間転写部材に適した基材に塗布される(160)。中間転写部材に適した基材は、ベルト、ドラム、ウェブ等を含んでよい。一実施形態において、適切な基材は、電気的に緩和可能で抵抗性のあるポリイミドを含んでよい。
【0049】
ベルトやプレート等の平坦な基材をコーティングする場合は、ギャップコーティングを利用でき、ドラムやロール等の円筒状基材をコーティングする場合はフローコーティングを利用できる。基材をコーティングする手段としては、特に限定するものではないが、ギャップコーティング、フローコーティング、ドローダウンコーティング、スピンキャストコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング、および押出コーティング等各種の手段がある。これらは当業者に周知であるので、ここでは詳しく説明しない。将来、当業者に周知のものとなるものも含め、現在知られている各種のコーティング方法は、ここに記載した実施形態の範囲に含まれる。コーティングプロセスを利用して、約1ミルから約6ミルまでの厚さのコーティングが施された順応抵抗層を形成する。他の実施形態において、順応抵抗層は、約2ミルから約4ミルまでの厚さを持つ。
【0050】
コーティングの後、少なくとも部分的に溶媒を蒸発させてよい(図4には図示せず)。例示する一実施形態において、約2時間以上の間、溶媒を放置して、室温で蒸発させる。他の蒸発時間および温度も、ここに記載した実施形態の範囲に入る。
【0051】
蒸発処理に続いて、順応抵抗層コーティングを硬化させて(170)、フルオロエラストマ/CNT複合体の順応抵抗層を形成する。例示する硬化プロセスは、段階硬化である。例えば、コーティングされた基材を熱対流炉に挿入し、約149℃で約2時間、炉内に置いてよい。また、温度を約177℃まで上昇させて、約2時間かけて更に硬化させてよい。温度を約204℃まで上昇させ、その温度を維持したまま約2時間かけてコーティングを更に硬化させ、最後に、炉の温度を約232℃まで上げ、更に6時間かけて硬化させてもよい。他の硬化スケジュールも利用できる。現在当業者に知られている硬化スケジュールや、今後当業者に周知のものとなる硬化スケジュールは、ここに記載した実施形態の範囲に入る。
【0052】
ここに記載したフルオロポリマの実施形態は、デュポン社(E.I. du Pont de Nemours,Inc)のバイトン(登録商標)(Viton(R))フルオロポリマを含む。バイトン(登録商標)フルオロポリマは、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とフッ化ビニリデン(VDFまたはVF2)のコポリマであるバイトン(登録商標)−A、テトラフルオロエチレン(TFE)と、フッ化ビニリデン(VDF)と、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのターポリマであるバイトン(登録商標)−B、およびTFEと、VF2と、HFPと、少量のキュアサイトモノマとからなるテトラポリマであるバイトン(登録商標)−GFを含む。一実施形態において、中間転写ベルトの順応抵抗層は、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマ反復単位を含んでよい。フルオロポリマは、線状ポリマ、分岐ポリマ、架橋フルオロエラストマを有してよく、ビスフェノール化合物と架橋されてよい。ビスフェノール化合物は、例えば、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノール等であるが、これに限定されるものではない。フルオロポリマは、また、フルオロポリマの遊離基硬化に利用できる臭素化された過酸化物のキュアサイトや、当業者に周知の他のキュアサイトを有することができる。
【0053】
ここに記載する実施形態の有効溶媒は、メチルイソブチルケトンとメチルエチルケトンを含むが、これらに限定されるものではない。ここに記載したような安定した懸濁液を形成する他の溶媒は、本実施形態の範囲に入り、当業者に周知の溶媒、または今後当業者に周知のものとなる溶媒を含む。
【0054】
他の実施形態は、画像形成システムを含む。この画像形成システムは転写部材を含んでよい。転写部材は、抵抗性を持ち、電気的に緩和可能なポリイミド基材と、順応抵抗層と、を含んでよい。順応抵抗層は、フルオロエラストマ複合体を含んでよい。フルオロエラストマ複合体は、架橋フルオロポリマと、複数のカーボンナノチューブと、を含んでよく、約10オームセンチメートルから約1013オームセンチメートルまでの固有抵抗を示す。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】電子写真画像形成システムを示す図である。
【図2】2つの層を持つ多層中間転写部材を示す図である。
【図3】3つの層を持つ多層中間転写部材を示す図である。
【図4】多層中間転写部材を作製する方法の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
10 画像現像システム(画像形成システム)、15,50,60 中間転写部材、17 画像形成部材、19 バイアス転写ローラ、21 画像形成ステーション、23 現像ステーション、25 トナー粒子、27 電荷、29 裏側、31 正の電荷、33 表側、52 基材、53 順応抵抗層、54 フルオロエラストマ、56 カーボンナノチューブ、58 トナー剥離層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上の順応抵抗層と、を有する転写部材であって、
前記順応抵抗層は、フルオロエラストマと、複数のカーボンナノチューブと、を有する転写部材。
【請求項2】
前記基材は、ポリイミドを有し、
前記順応抵抗層は、フルオロポリマと硬化剤との反応生成物を有し、
前記フルオロポリマは、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマ反復単位を有し、
前記硬化剤は、フェノール、アミン、オレフィン、およびこれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも2つの架橋官能基を有する、請求項1に記載の転写部材。
【請求項3】
前記順応抵抗層内のカーボンナノチューブは、約0.001重量%から約2重量%までの濃度であり、
前記順応抵抗層は、10オームセンチメートルから1013オームセンチメートルまでの範囲の電気固有抵抗を有し、
前記順応抵抗層は約1ミルから約6ミルまでの厚さを有する、請求項2に記載の転写部材。
【請求項4】
前記フルオロエラストマの複合体コーティングの上に、トナー剥離層を更に含み、
前記トナー剥離層はシリコンを有する、請求項1に記載の転写部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−158523(P2008−158523A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326819(P2007−326819)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】