説明

転写ローラ

【課題】電気抵抗値が105.5Ω以下、発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径が25mm以上であって、しかも従来に比べて製造時に割れを生じにくい転写ローラを提供する。
【解決手段】少なくともエピクロルヒドリンゴムを含むゴム分と、発泡剤と、発泡助剤と、導電塩としての、前記ゴム分100質量部あたり0.1質量部以上、9.0質量部以下の、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンの塩とを含むゴム組成物を押出成形し、発泡させるとともに加硫させて形成したローラ本体2を有する転写ローラ1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレーザープリンタ等の電子写真装置において、感光体の表面に形成したトナー像を転写ベルトの表面、または前記転写ベルトの表面に保持した媒体の表面に転写させるために用いる転写ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンタ、静電式複写機、普通紙ファクシミリ装置、あるいはこれらの複合機等の電子写真装置においては、感光体の表面を一様に帯電させた状態で露光して、前記表面に形成画像に対応する静電潜像を形成し(帯電工程→露光工程)、前記静電潜像を、あらかじめ帯電させたトナーを選択的に付着させることでトナー像に現像したのち(現像工程)、前記トナー像を紙等の媒体の表面に転写し(転写工程)、さらに定着させることにより(定着工程)、前記媒体の表面に画像が形成される。
【0003】
また前記転写工程においては、例えば感光体の表面に形成したトナー像を、中間転写ベルトの表面に保持して搬送途上の媒体の表面に転写したり、前記トナー像を一旦、転写ベルトの表面に転写したのち媒体の表面に再転写したりする場合がある。
かかる中間転写ベルトまたは転写ベルト(以下両者を「転写ベルト」と総称する場合がある)を用いた転写工程は、例えばシアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックの各色のトナーからなるトナー像を重ねてフルカラー画像を形成するフルカラー対応の電子写真装置や、あるいはA4サイズの媒体の表面に毎分50枚以上といった高速で画像形成する高速対応の電子写真装置、もしくは液体を媒体としたトナーを用いる電子写真装置等において広く普及している。
【0004】
前記転写ベルトとしては、感光体と接する表面が導電性を有する導電性の転写ベルトや、前記表面に誘電体層が被覆された誘電性の転写ベルト等が用いられる。
前記転写ベルトを用いた転写工程においては、感光体の表面に形成したトナー像を転写ベルトの表面や前記表面に保持した媒体の表面に転写させるために、例えば導電性ないし半導電性を有するゴム組成物によって形成した転写ローラを用いる場合がある。
【0005】
前記転写ローラと感光体との間に転写ベルトを挟んだ状態で、前記両者間に所定の電圧を印加しながら感光体、転写ベルト、および転写ローラを回転させることにより、前記感光体の表面に形成したトナー像を、転写ローラとの間の静電気力、もしくは転写ローラを介して電圧が印加された導電性の転写ベルトとの間の静電気力によって転写ベルトの表面または媒体の表面に転写させることができる。
【0006】
前記転写ローラとしては、例えば架橋(加硫)されたゴムの発泡体からなり、前記ゴム中に導電性カーボンブラック等の電子導電性を有する充填剤を配合したり、ゴムそれ自体としてイオン導電性を有するゴムを用いたりして導電性を付与したもの等が用いられる。
このうちイオン導電性を有するゴムとしては、例えばエピクロルヒドリンゴムがよく知られている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
転写ローラの電気抵抗値は、前記機能を良好に発揮させることを考慮すると印加電圧100Vで105.5Ω以下であるのが好ましい。また転写ローラは、柔軟性を高めて、特に転写ベルトが先に説明した誘電性の転写ベルト等の、積層構造を有する厚み100μm以上の転写ベルトである場合に、前記転写ベルトを感光体に圧接させるニップ幅(感光体と転写ベルトとの、回転方向の接触長さ)を十分に大きくとることを考慮すると、発泡倍率(体積%)が150体積%以上であるのが好ましい。また同様にニップ幅を十分に大きく取ることを考慮すると、外径が25mm以上であるのが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4148470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
イオン導電性を有するゴムとしてエピクロルヒドリンゴムを用いた転写ローラは、前記エピクロルヒドリンゴムを少なくとも含むゴム分と、前記ゴム分の架橋剤と、熱分解してガスを発生する発泡剤とを含むゴム組成物を例えば円筒状に押出成形した後、前記円筒内にシャフトを挿通した状態で加硫缶内に収容し、所定の温度で一定時間加熱して、発泡剤の熱分解によって発生したガスによってゴム組成物を発泡させるとともに、架橋剤によってゴム分を架橋させる等して製造される。
【0010】
ところが、前記従来のゴム組成物を用いて、先に説明したように電気抵抗値が105.5Ω以下、発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径が25mm以上の転写ローラを製造しようとすると、前記転写ローラに割れが生じやすいという問題があった。
かかる大径の転写ローラは、前記架橋・発泡時に、例えば外径が30mm以上となるように大きく発泡させたのち、その外周を研磨して前記25mm以上の所定の外径に仕上げて製造するのが一般的であるが、前記のように大きく発泡した際に割れが生じやすいのである。
【0011】
すなわち、前記エピクロルヒドリンゴムを含むゴム分は架橋速度が大きいため、架橋時に転写ローラの表層が早期に架橋してしまい、架橋した表層に阻害されて、発泡剤の熱分解によって発生した余剰のガスを外部に逃がすことができない。
そのため、特に前記のように発泡倍率と径の大きい転写ローラを製造するのに必要な量の発泡剤を配合して、前記発泡倍率の範囲を満足するまで発泡させようとした際に、転写ローラが内部の圧力に耐え切れずに割れてしまうのである。
【0012】
前記エピクロルヒドリンゴム等を含むゴム組成物に、例えば特許文献1に記載されているように、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンの塩(以下「FS塩」と略記することがある)を配合すると、前記FS塩をイオン導電性導電剤として機能させて、ゴム組成物からなる転写ローラの電気抵抗値をさらに小さくできることが知られている。
すなわちフルオロ基およびスルホニル基がともに電子吸引性を有するため陰イオンが安定化されて、前記陰イオンとともにFS塩を構成するリチウム等の陽イオンがより高い解離度を示す。そのため前記FS塩を配合することで、エピクロルヒドリンゴムによるイオン導電性をさらに向上できる。
【0013】
今般、発明者が検討したところ前記FS塩は、ゴム分の架橋速度を小さくして、先に説明した割れを抑制する効果を有することが明らかとなった。しかし、単にFS塩を配合するだけでは割れが生じるのを防止する効果は不十分であった。
本発明の目的は、電気抵抗値が105.5Ω以下、発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径が25mm以上であって、しかも従来に比べて製造時に割れを生じにくい転写ローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、感光体の表面に形成したトナー像を転写ベルトの表面、または前記転写ベルトの表面に保持した媒体の表面に転写させるために用いる、電気抵抗値が105.5Ω以下、発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径が25mm以上の転写ローラであって、
少なくともエピクロルヒドリンゴムを含むゴム分と、発泡剤と、発泡助剤と、導電塩としての、前記ゴム分100質量部あたり0.1質量部以上、9.0質量部以下の、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンの塩(FS塩)とを含むゴム組成物によって形成されたことを特徴とするものである。
【0015】
本発明によれば、転写ローラのもとになるゴム組成物にFS塩を配合することで、先に説明したようにゴム分の架橋速度を小さくして、架橋時に、転写ローラの表層が早期に架橋するのを抑制できる。そのため、発泡剤の熱分解によって発生する余剰のガスを、スムースに外部に逃がすことができる。
また前記ゴム組成物に、発泡剤の熱分解を促進してゴム組成物の発泡を補助する機能を有するものの、それ自体はガスを発生しない発泡助剤を配合することで、同じ発泡倍率の転写ローラを形成するのに必要な発泡剤の量を抑制できる。そのため、発泡剤の熱分解によって発生するガスの量を抑制できる。
【0016】
したがって、前記両成分を配合することの相乗効果によって、電気抵抗値が105.5Ω以下、発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径が25mm以上であって、しかも従来に比べて製造時に割れを生じにくい転写ローラを提供することができる。
なおFS塩の配合割合がゴム分100質量部あたり0.1質量部未満では、前記FS塩を配合することによる、先に説明した転写ローラの電気抵抗値を小さくする効果、およびゴム分の架橋速度を小さくする効果がともに得られない。
【0017】
一方、FS塩の配合割合がゴム分100質量部あたり9.0質量部を超える場合にはゴム分の架橋速度が小さくなりすぎて、相対的に発泡剤の熱分解によるガスの発生の方が先に進行する。そのため、表層が未架橋の生ゴムの状態であるうちに大部分のガスが外部に逃げてしまって、発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径が25mm以上といった発泡倍率が高い大径の転写ローラを製造することができない。
【0018】
前記本発明の転写ローラのもとになるゴム分は、ポリエーテルゴムをも含んでいるのが好ましい。前記ポリエーテルゴムを配合することによって、FS塩をイオン導電性導電剤としてさらに良好に機能させて、転写ローラの電気抵抗値を、前記105.5Ω以下の範囲内でもさらに小さくすることが可能となる。
FS塩としては、転写ローラの電気抵抗値を小さくする機能と、ゴム分の架橋速度を小さくする機能の両方に優れたビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムが好ましい。
【0019】
本発明の転写ローラは、発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径が25mm以上という発泡倍率が高い大径のものであって、しかも電気抵抗値が105.5Ω以下という低抵抗であるため、特に感光体の表面に形成したトナー像を、厚み100μm以上の中間転写ベルトの表面に保持した媒体の表面に転写させるために好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電気抵抗値が105.5Ω以下、発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径が25mm以上であって、しかも従来に比べて製造時に割れを生じにくい転写ローラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の転写ローラの、実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】転写ローラの電気抵抗値を測定する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〈ゴム組成物〉
本発明の転写ローラを形成するゴム組成物は、少なくともエピクロルヒドリンゴムを含むゴム分と、発泡剤と、発泡助剤と、導電塩としての、前記ゴム分100質量部あたり0.1質量部以上、9.0質量部以下のFS塩とを含んでいる。
このうちエピクロルヒドリンゴムとしては、例えばエピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体、エビクロルヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体等の1種または2種以上が挙げられる。
【0023】
特にエピクロルヒドリンゴムとしてはエチレンオキサイドを含む共重合体が好ましく、前記共重合体におけるエチレンオキサイド含量は30モル%以上、95モル%以下、中でも55モル%以上、95モル%以下、特に60モル%以上、80モル%以下であるのが好ましい。
エチレンオキサイドは体積固有抵抗値を下げる働きがあるが、エチレンオキサイド含量が30モル%未満であるとその体積固有抵抗値の低減効果が小さい。一方、エチレンオキサイド含量が95モル%を超えると、エチレンオキサイドの結晶化が起こり分子鎖のセグメント運動が妨げられるため、逆に体積固有抵抗値が上昇する傾向があるとともに、架橋後の転写ローラの硬度が上昇したり、架橋前のゴム組成物の粘度が上昇したりするといった問題が生じやすい。
【0024】
中でも、エビクロルヒドリンゴムとしてはエピクロルヒドリン(EP)−エチレンオキサイド(EO)−アリルグリシジルエーテル(AGE)共重合体が特に好ましい。前記共重合体におけるEO:EP:AGEの含有比率はEO:EP:AGE=30〜95モル%:4.5〜65モル%:0.5〜10モル%、特にEO:EP:AGE=60〜80モル%:15〜40モル%:2〜6モル%であるのが好ましい。
【0025】
なおエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体としては、前記3種の単量体を共重合させた狭義の意味での共重合体の他に、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体をアリルグリシジルエーテルで変性した変性物も知られている。本発明では、いずれの共重合体も使用可能である。
またエピクロルヒドリンゴムとしては、エピク口ルヒドリン(EP)−エチレンオキサイド(EO)共重合体を用いることもできる。前記共重合体におけるEO:EPの含有比率はEO:EP=30〜80モル%:20〜70モル%、特にEO:EP=50〜80モル%:20〜50モル%であるのが好ましい。
【0026】
ゴム分としては、エピクロルヒドリンゴムを単独(2種以上のエピクロルヒドリンゴムのみの併用系を含む)で用いてもよいし、前記エピクロルヒドリンゴムと他のゴムとを併用してもよい。エピクロルヒドリンゴムと併用する他のゴムとしては、特にポリエーテルゴムが好ましい。
ポリエーテルゴムとしては、例えばエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグルシジルエーテル共重合体、エチレンオキサイド−アリルグルシジルエーテル共重合体、プロピレンオキサイド−アリルグルシジルエーテル共重合体、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、ウレタン系ゴム等の1種または2種以上が挙げられる。
【0027】
前記ポリエーテルゴムをゴム分として配合することで、FS塩由来のイオンをポリエーテルゴム中のエチレンオキサイド単位およびプロピレンオキサイド単位によって安定化できる。そのため、前記FS塩をイオン導電性導電剤としてさらに良好に機能させて、転写ローラの電気抵抗値を、前記105.5Ω以下の範囲内でもさらに小さくすることが可能となる。
【0028】
ポリエーテルゴムとしてはエチレンオキサイドを含む共重合体が好ましく、エチレンオキサイド含量が50〜95モル%である共重合体がより好ましい。エチレンオキサイドの比率が高い方が多くのイオンを安定化でき低抵抗化が実現できるが、エチレンオキサイドの比率を上げすぎるとエチレンオキサイドの結晶化が起こり分子鎖のセグメント運動が妨げられるため、逆に体積固有抵抗が上昇するおそれがあるからである。
【0029】
ポリエーテルゴムは、エチレンオキサイドに加えてアリルグリシジルエーテルをも含むことが好ましい。アリルグリシジルエーテルを共重合することにより、このアリルグリシジルエーテルユニット自体が側鎖として自由体積を得ることから、前記エチレンオキサイドの結晶化を抑制することができ、その結果として転写ローラの従来にない低抵抗化を実現できる。さらにアリルグリシジルエーテルの共重合により炭素−炭素間の二重結合を導入してエピクロルヒドリンゴム等との共架橋を可能にでき、共架橋することによりブリードや感光体汚染を防止することができる。
【0030】
ポリエーテルゴム中のアリルグリシジルエーテル含量は1〜10モル%であるのが好ましい。1モル%未満ではブリードや感光体汚染が発生し易くなる一方、10モル%を超えてもそれ以上の結晶化の抑制効果は得られず、架橋後の架橋点の数が多くなって却って低抵抗化を実現できず、また引張強度や疲労特性、耐屈曲性等が悪化することとなる。
またゴム分としては、前記エピクロルヒドリンゴム、ポリエーテルゴム、およびFS塩によるイオン導電性に基づく電気抵抗値の低減効果を阻害しない範囲で、転写ローラのゴム弾性等を調整するために他のゴムを配合してもよい。
【0031】
前記他のゴムとしては、例えばクロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、アクリルゴム(ACM)等の1種または2種以上が挙げられる。
エピクロルヒドリンゴムの配合割合は、エピクロルヒドリンゴムとポリエーテルゴムの総量中の50質量%以上、90質量%以下、特に60質量%以上、80質量%以下であるのが好ましい。
【0032】
エピクロルヒドリンゴムの配合割合が前記範囲未満では、転写ローラに良好な導電性ないし半導電性を付与できないおそれがある。また前記範囲を超える場合には、相対的にポリエーテルゴムの配合割合が少なくなるため、前記ポリエーテルゴムを併用することによる、先に説明したFS塩をイオン導電性導電剤として良好に機能させる効果が十分に得られず、却って転写ローラに良好な導電性ないし半導電性を付与できないおそれがある。
【0033】
またゴム分が他のゴムを含む場合、前記他のゴムの配合割合は、ゴム分の総量、つまりエピクロルヒドリンゴムと他のゴムとの総量、もしくはエピクロルヒドリンゴムとポリエーテルゴムと他のゴムとの総量中の5質量%以上、95質量%以下、特に20質量%以上、80質量%以下であるのが好ましい。
他のゴムの配合割合が前記範囲未満では、前記他のゴムを配合することによる、転写ローラのゴム弾性等を調整する効果が十分に得られないおそれがある。また前記範囲を超える場合には、相対的にエピクロルヒドリンゴム、ポリエーテルゴムの配合割合が少なくなるため、転写ローラに良好な導電性ないし半導電性を付与できないおそれがある。
【0034】
FS塩は、先に説明したように転写ローラの電気抵抗値を小さくするために機能する。またFS塩は、ゴム組成物のpHをシフトさせて架橋剤の反応させやすさを変化させることができる。つまりこの場合は架橋剤を反応させにくくして、ゴム分の架橋速度を小さくするためにも機能する。
前記FS塩を構成するフルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンとしては、例えばフルオロアルキルスルホン酸イオン、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオン等が挙げられる。
【0035】
また前記陰イオンとともにFS塩を構成する陽イオンとしてはナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属のイオンや、あるいはベリリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属のイオン等が挙げられる。特にリチウムイオンと組み合わせたリチウム塩が好ましい。
リチウム塩としては、例えばCFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CSONLi、(CSO)(CFSO)NLi、(FSO)(CFSO)NLi、(C17SO)(CFSO)NLi、(CFCHOSONLi、(CFCFCHOSONLi、(HCFCFCHOSONLi、〔(CFCHOSONLi、(CFSOCLi、(CFCHOSOCLi等の1種または2種以上が挙げられる。
【0036】
中でもCFSOLi(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、(CFSONLi〔ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム〕が挙げられ、特にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムが好ましい。
前記ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムは、転写ローラの電気抵抗値を小さくする機能と、ゴム分の架橋速度を小さくする機能の両方に優れている。
【0037】
FS塩の配合割合は、ゴム分100質量部あたり0.1質量部以上、9.0質量部以下である必要がある。
FS塩の配合割合が前記範囲未満では、前記FS塩を含有させることによる、先に説明した転写ローラの電気抵抗値を小さくする効果、およびゴム分の架橋速度を小さくする効果がともに得られない。一方、前記範囲を超える場合にはゴム分の架橋速度が小さくなりすぎて、相対的に発泡剤の熱分解によるガスの発生の方が先に進行する。そのため、表層が未架橋の生ゴムの状態であるうちに大部分のガスが外部に逃げてしまって、発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径が25mm以上といった発泡倍率が高い大径の転写ローラを製造することができない。
【0038】
なおFS塩の配合割合は、発泡との兼ね合い等を考慮して、より一層良好な特性を有する転写ローラを得ること、つまり割れを生じにくく、かつ電気抵抗値が小さい上、できるだけ発泡倍率が高く大径の転写ローラを得ることを考慮すると、前記範囲内でも0.3質量部以上、5質量部以下であるのが好ましい。
発泡剤としては、ゴム組成物中に良好に分散させることができ、しかもゴム分を架橋する際の加熱によって分解してガスを発生して前記ゴム組成物を発泡させることができる種々の発泡剤がいずれも使用可能である。
【0039】
前記発泡剤としては、例えばアゾジカルボンアミド(HNOCN=NCONH、ADCA)、4,4′−オキシビス(ベンゼンスルホ二ルヒドラジド)(OBSH)、N,N−ジニトロソペンタメチレンチトラミン(DPT)等の1種または2種以上が挙げられる。
発泡剤の配合割合は、製造する転写ローラの発泡倍率、および径に応じて任意に設定できるが、ゴム分100質量部あたり1質量部以上、12質量部以下、中でも2質量部以上、10質量部以下、特に4質量部以上、8質量部以下であるのが好ましい。
【0040】
発泡剤の配合割合が前記範囲未満ではゴム組成物の発泡が不十分になって、発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径が25mm以上といった発泡倍率が高い大径の転写ローラを製造できないおそれがある。また前記範囲を超える場合には、たとえFS塩の配合によってゴム分の架橋速度を遅くして過剰のガスをスムースに外部に逃がすことができたとしても、転写ローラの内部に残留するガスの量が増加するため、内圧が高まって、前記転写ローラに割れが生じるおそれがある。また発泡剤が架橋を阻害してゴム分の架橋が不十分になり強度が不足するおそれがある。
【0041】
発泡助剤としては、前記発泡剤の発泡開始温度を低下させ、熱分解を促進してゴム組成物の発泡を補助する機能を有するものの、それ自体はガスを発生しない種々の発泡助剤がいずれも使用可能である。
例えば発泡剤がADCAである場合は、前記ADCAの発泡開始温度を低下させることができるという理由により尿素(HNCONH)が、発泡助剤として好ましい。
【0042】
発泡助剤の配合割合は、使用する発泡剤の種類等に応じて任意に設定できるが、ゴム分100質量部あたり1質量部以上、12質量部以下、特に2質量部以上、10質量部以下であるのが好ましい。
発泡助剤の配合割合が前記範囲未満では、前記発泡助剤を配合することによる、発泡剤の量を少なくして転写ローラの割れを防止する効果が十分に得られないおそれがある。また前記範囲を超える場合には、発泡助剤が架橋を阻害してゴム分の架橋が不十分になり強度が不足するおそれがある。
【0043】
ゴム組成物には、前記各成分に加えて、さらに任意の添加剤を配合してもよい。前記添加剤としては、例えばゴム分を架橋するための架橋剤が挙げられる。
架橋剤(加硫剤)としては、例えば硫黄系、チオウレア系、トリアジン誘導体系、過酸化物、各種モノマ一等の1種または2種以上が挙げられる。硫黄系加硫剤としては粉末硫黄や、あるいはテトラメチルチウラムジスルフィド、N,N−ジチオビスモルホリンなどの有機含硫黄化合物等が挙げられる。チオウレア系加硫剤としてはテトラメチルチオウレア、トリメチルチオウレア、エチレンチオウレアおよび(C2n+1NH)C=S〔式中nは1〜10の整数を表す。〕で示されるチオウレア等が挙げられる。過酸化物としてはベンゾイルペルオキシドなどが挙げられる。
【0044】
加硫剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり0.2質量部以上、5質量部以下、特に1質量部以上、3質量部以下であるのが好ましい。
本発明においては、前記加硫剤として硫黄とチオウレア類と併用するのが好ましい。
前記併用系において硫黄の配合割合は、ゴム分100質量部あたり0.1質量部以上、5.0質量部以下、特に0.2質量部以上、2質量部以下であるのが好ましい。配合割合が前記範囲未満ではゴム組成物全体の加硫速度が遅くなって生産性が低下するおそれがある。―方、前記範囲を超えると転写ローラの圧縮永久ひずみが大きくなったり、硫黄や加硫促進剤がブルームしたりするおそれがある。
【0045】
またチオウレア類の配合割合は、ゴム分100gあたり0.0009モル以上、0.0800モル以下、特に0.0015モル以上、0.0400モル以下であるのが好ましい。チオウレア類を前記範囲で配合することにより、ブルームや感光体汚染を起こりにくくすることができるとともに、ゴムの分子運動をあまり妨げないためより低い電気抵抗を実現できる。また、チオウレア類の配合割合を増やして架橋密度を上げるほど、電気抵抗値を下げることができる。
【0046】
すなわちチオウレア類の配合割合が0.0009モル未満では転写ローラの圧縮永久ひずみを改善しにくく、あるいは電気抵抗値を下げにくい。一方、チオウレア類の配合割合が0.0800モルを超える場合にはチオウレア類がブルームして感光体を汚染したり、破断伸び等の機械的物性が低下したりするおそれがある。
ゴム組成物には、架橋剤(加硫剤)の種類に応じて、加硫促進剤や加硫促進助剤を配合してもよい。
【0047】
加硫促進剤としては、例えば消石灰、マグネシア(MgO)もしくはリサ―ジ(PbO)等の無機促進剤や以下に記す有機促進剤の1種または2種以上が挙げられる。
有機促進剤としては、例えばジ−オルト−トリルグア二ジン、1,3−ジフェ二ルグアニジン、1−オルト−トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ−オルト−トリルグアニジン塩等のグアニジン系;2−メル力プト・ベンゾチアゾールもしくはジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系;N−シクロへキシル−2−ベンゾチアジルスルフエンアミド等のスルフェンアミド系;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィドもしくはジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系;チオウレア系等の1種または2種以上が挙げられる。
【0048】
加硫促進剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、5質量部以下、特に0.5質量部以上、2質量部以下であるのが好ましい。
加硫促進助剤としては、例えば亜鉛華等の金属酸化物;ステアリン酸、オレイン酸もしくは綿実脂肪酸等の脂肪酸;その他従来公知の加硫促進助剤の1種または2種以上が挙げられる。
【0049】
加硫促進剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、10質量部以下、特に2質量部以上、8質量部以下であるのが好ましい。
本発明の転写ローラは、分子中に塩素原子を有するエピクロルヒドリンゴムを含むため、受酸剤を配合するのが好ましい。受酸剤を配合することにより、ゴム分の架橋時に発生する塩素系ガスの残留および感光体汚染を防止できる。
【0050】
前記受酸剤としては、酸受容体として作用する種々の物質を用いることができるが、分散性に優れていることからハイドロタルサイト類またはマグサラット、特にハイド口タルサイトが好ましい。さらにこれら受酸剤に酸化マグネシウムや酸化カリウムを併用することにより高い受酸効果が得られ、感光体汚染をより確実に防止できる。
受酸剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり1質量部以上、10質量部以下、特に1質量部以上、5質量部以下であるのが好ましい。配合割合が前記範囲未満では、受酸剤による架橋阻害および感光体汚染を防止する効果を有効に発揮できないおそれがある。一方、配合割合が前記範囲を超える場合には、転写ローラが硬くなりすぎるおそれがある。
【0051】
ゴム組成物には、前記各成分の他に、本発明の目的に反しない限り可塑剤、加工助剤、劣化防止剤、充填剤、スコーチ防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤、中和剤、造核剤、気泡防止剤、共架橋剤等の添加剤を適宜配合してもよい。
このうち可塑剤としては、例えばジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、トリクレジルホスフェート等の各種可塑剤やワックスが挙げられ、加工助剤としてはステアリン酸等の脂肪酸等が挙げられる。
【0052】
これら可塑成分の配合割合は、ゴム分100質量部あたり5質量部以下であるのが好ましい。形成した転写ローラの表面に、必要に応じて酸化膜を形成する際にブリードが生じたり、電子写真装置への装着時や運転時に感光体を汚染したりするのを防ぐためである。この目的を鑑みれば極性ワックスの使用が特に好ましい。
劣化防止剤としては、例えば各種老化防止剤や酸化防止剤が挙げられる。このうち酸化防止剤は、転写ローラの抵抗値の環境依存性および連続通電時の抵抗上昇を低減する働きをする。前記酸化防止剤としてはNEC、NBC等が挙げられる。
【0053】
酸化防止剤を配合する場合は、必要に応じて転写ローラの表面に酸化膜を形成する際に酸化が効率よく進むように、特に転写ローラの表層部における酸化防止剤の配合割合を適宜設定するのが好ましい。
充填剤としては、例えば酸化亜鉛、シリカ、カーボン、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムまたは水酸化アルミニウム等の1種または2種以上が挙げられる。充填剤を配合することにより、転写ローラの機械的強度等を向上できる。また、カーボンブラックとして導電性カーボンブラックを用いて転写ローラに電子導電性を付与することもできる。
【0054】
充填剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり60質量部以下、特に50質量部以下であるのが好ましい。
スコーチ防止剤としては、例えばN−シクロヘキシルチオフタルイミド、無水フタル酸、N−ニトロソジフェニルアミン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上が挙げられる。中でもN−シクロへキシルチオフタルイミドが好ましい。スコーチ防止剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり0.1質量部以上、5質量部以下、特に0.1質量部以上、1質量部以下であるのが好ましい。
【0055】
共架橋剤とは、それ自身が架橋するとともに、ゴム分とも架橋反応して全体を高分子化する働きをするものを指す。
前記共架橋剤としては、例えばメタクリル酸エステルや、あるいはメタクリル酸またはアクリル酸の金属塩等に代表されるエチレン性不飽和単量体、1,2−ポリブタジエンの官能基を利用した多官能ポリマー類、ジオキシム等の1種または2種以上が挙げられる。
【0056】
このうちエチレン性不飽和単量体としては、例えば
(a) アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸類、
(b) マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸類、
(c) 前記(a)(b)の不飽和カルボン酸類のエステルまたは無水物、
(d) 前記(a)〜(c)の金属塩、
(e) 1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロル−1,3−ブタジエンなどの脂肪族共役ジエン、
(f) スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物、
(g) トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ビニルピリジンなどの複素環を有するビニル化合物、
(h) その他、(メタ)アクリロニトリルもしくはα−クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、アクロレイン、ホルミルステロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン
等の1種または2種以上が挙げられる。
【0057】
また前記(c)の不飽和カルボン酸類のエステルとしてはモノカルボン酸類のエステルが好ましく、前記モノカルボン酸類のエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレ一ト、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、i−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル( メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステル;
アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステル;
べンジル(メタ)アクリレート、ベンゾイル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどの芳香族環を有する(メタ)アクリレート;
グリシジル(メタ)アクリレート、メタグリシジル(メタ)アクリレート、エポキシシクロへキシル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を有する(メタ)アクリレート;
N−メチロール(メタ)アクリルアミド、γ−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、テトラハイドロフルフリルメタクリレートなどの各種官能基を有する(メタ)アクリレート;
エチレングリコ一ルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンジメタクリレート(EDMA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート、イソブチレンエチレンジメタクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート;
等の1種または2種以上が挙げられる。
【0058】
これらの添加剤は、それぞれの機能を十分に発揮し、かつエピクロルヒドリンゴム、ポリエーテルゴム、およびFS塩によるイオン導電性に基づく電気抵抗値の低減効果を阻害せず、かつ前記FS塩、発泡剤、および発泡助剤による、製造時の割れを防止しながらできるだけ発泡倍率の高い大径の転写ローラを製造する効果を阻害しない任意の割合で配合することができる。
【0059】
〈転写ローラ〉
図1は、本発明の転写ローラの、実施の形態の一例を示す斜視図である。
図1を参照して、この例の転写ローラ1は、前記ゴム組成物からなる円筒状のローラ本体2と、前記ローラ本体2の中心の通孔3に挿通されたシャフト4とを含んでいる。
前記転写ローラ1は、例えば以下の手順で製造される。すなわち前記ゴム組成物を、押出成形機を用いて混練しながら加熱して溶融させた状態で、前記ローラ本体2の断面形状、すなわち円環状に対応するダイを通して長尺の円筒状に押出成形し、冷却して固化させたのち所定の長さにカットし、通孔3に架橋用の仮のシャフトを挿通した状態で、加硫缶内に、前記シャフトを介して吊り下げる等して収容する。
【0060】
次いで加硫缶内で所定の温度で一定時間加熱して、発泡剤の熱分解によって発生したガスによってゴム組成物を発泡させるとともに、架橋剤によってゴム分を架橋させる。
次いで、外周面に導電性の接着剤を塗布したシャフト4に装着しなおして、前記接着剤が熱硬化性接着剤である場合は加熱により硬化させてローラ本体2とシャフト4とを電気的に接合するとともに機械的に固定する。そして必要に応じてさらにその外周面を所定の外径および表面粗さになるように研磨することで、図1に示す転写ローラ1が製造される。
【0061】
シャフト4は、転写ローラ1を構成するために導電性とされる。前記導電性のシャフト4としては、例えばアルミニウムやその合金、ステンレス鋼等の金属によって一体に形成されたもの等が挙げられる。またセラミックや硬質樹脂等によって形成し、その外周面に、ローラ本体2と電気的に接続される導電膜等を設けた複合構造のシャフト4を用いることもできる。
【0062】
転写ローラ1は、先に説明したように電気抵抗値が印加電圧100Vで105.5Ω以下とされる。
転写ローラ1の電気抵抗値が前記範囲を超える場合には導電性が不十分で、感光体の表面に形成されたトナー像を、前記転写ローラ1との間の静電気力、もしくは転写ローラ1を介して電圧が印加された導電性の転写ベルトとの間の静電気力によって、転写ベルトの表面または媒体の表面に良好に転写させることができない。
【0063】
なお前記転写機能をより一層良好に発揮させることを考慮すると、転写ローラ1の電気抵抗値は、前記範囲内でも104.8Ω以下、中でも104.5Ω以下、特に104.2Ω以下であるのが好ましい。
電気抵抗値の下限は特に限定されず、先に説明したエピクロルヒドリンゴム、ポリエーテルゴム、FS塩等の機能に基づいて達成可能な限界まで低減させることができる。ただし、転写ローラ1として求められる導電性の範囲や、前記転写ローラ1の生産性、製造コスト等を考慮すると、転写ローラ1の電気抵抗値は10Ω以上であるのが好ましい。
【0064】
図2は、転写ローラ1の電気抵抗値を測定する方法を説明する図である。図2を参照して、本発明では前記電気抵抗値を、下記の方法で測定した値でもって表すこととする。
すなわち一定の回転速度で回転させることができるアルミニウムドラム6を用意し、前記アルミニウムドラム6の外周面7に、その上方から、電気抵抗値を測定する転写ローラ1のローラ本体2の外周面5を当接させる。
【0065】
また前記転写ローラ1のシャフト4と、アルミニウムドラム6との間に直流電源8、および抵抗9を直列に接続して計測回路10を構成する。直流電源8は、(−)側をシャフト4、(+)側を抵抗9と接続する。抵抗9の抵抗値rは100Ωとする。
次いで、シャフト4の両端部にそれぞれ500gの荷重Fをかけてローラ本体2をアルミニウムドラム6に圧接させた状態で、転写ローラ1とアルミニウムドラム6とをそれぞれ反対方向に回転(アルミニウムドラム6の回転数:30rpm)させながら、前記両者間に、直流電源8から直流100Vの印加電圧Eを印加した際に、抵抗9にかかる検出電圧Vを計測する。
【0066】
前記検出電圧Vと印加電圧E(=100V)とから、転写ローラ1の電気抵抗値Rは、基本的に式(1’):
R=r×E/(V−r) (1’)
によって求められる。ただし式(1’)の分母中の(−r)の項は微小とみなすことができるため、本発明では式(1):
R=r×E/V (1)
によって求めた値でもって転写ローラ1の電気抵抗値とすることとする。測定の条件は、温度23±1℃、相対湿度55±1%とする。
【0067】
また本発明の転写ローラ1は、ローラ本体2の発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径(研磨後の外径)が25mm以上とされる。
発泡倍率が前記範囲未満ではローラ本体2の柔軟性が低下して、転写ベルトを感光体に圧接させるニップ幅を十分に大きくとることができない。また外径が前記範囲未満でも、前記ニップ幅を十分に大きくとることができない。そのため感光体の表面に形成したトナー像を、前記転写ベルトの表面、または媒体の表面に良好に転写させることができない。
【0068】
これに対し、前記のようにローラ本体2の発泡倍率(体積%)を150体積%以上とすれば、ローラ本体2に良好な柔軟性を付与することができ、外径を25mm以上とすることと相まって前記ニップ幅を十分に大きくとることができ、感光体の表面に形成したトナー像を転写ベルトの表面、または媒体の表面に良好に転写させることが可能となる。
かかる効果は、前記転写ローラ1を、特に積層構造を有する厚み100μm以上の転写ベルトと組み合わせて使用する際に顕著である。したがって本発明の転写ローラ1は、前記厚み100μm以上の転写ベルトと組み合わせて、電子写真装置の転写部分に組み込んで用いるのが好ましい。
【0069】
なおニップ幅を十分に大きくとって、感光体の表面に形成したトナー像を転写ベルトの表面、または媒体の表面に良好に転写させる効果をさらに向上することを考慮すると、ローラ本体2の発泡倍率(体積%)は、前記範囲内でも210体積%以上、特に250体積%以上であるのが好ましい。
ただし発泡倍率(体積%)は300体積%以下、特に290体積%以下であるのが好ましい。発泡倍率が前記範囲を超える場合には、ローラ本体2が軟らかくなりすぎて、却って転写ベルトを感光体に圧接させるニップ幅を十分に大きくとることができず、感光体の表面に形成したトナー像を、前記転写ベルトの表面、または媒体の表面に良好に転写させることができないおそれがある。
【0070】
ローラ本体2の外径は、前記25mm以上の範囲内であれば、例えば組み込む電子写真装置内のスペース等に応じて適宜設定することができる。
シャフト4の外径は15mm以上、25mm以下、特に20mm前後であるのが好ましい。
外径が前記範囲未満では、ローラ本体2の厚みが大きくなりすぎるため、転写ローラ1の電気抵抗値が前記範囲を超えたり、ローラ本体2が軟らかくなりすぎたりするおそれがある。また前記範囲を超える場合には、ローラ本体2の厚みが小さくなりすぎるため、ローラ本体2の軟らかさが不足するおそれがある。
【0071】
そのため、このいずれの場合にも感光体の表面に形成したトナー像を、前記転写ベルトの表面、または媒体の表面に良好に転写させることができないおそれがある。
【実施例】
【0072】
〈実施例1〉
ゴム分としては、エピクロルヒドリンゴム〔ダイソー(株)製のエピオン(登録商標)ON301〕と、ポリエーテルゴムとしてのエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体〔日本ゼオン(株)製のゼオスパン(登録商標)8030〕とを用いた。
【0073】
前記エピクロルヒドリンゴムはエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体であって、エピクロルヒドリン含量は23モル%、エチレンオキサイド含量は73モル%、アリルグリシジルエーテル含量は4モル%であった。
また、ポリエーテルゴムとしてのエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体におけるエチレンオキサイド含量は90モル%、プロピレンオキサイド含量は4モル%、アリルグリシジルエーテル含量は6モル%であった。
【0074】
FS塩としてはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを用いた。発泡剤としては、アゾジカルボンアミドを主成分とする永和化成工業(株)製の商品名ビニホールAC#Rを用い、発泡助剤としては、尿素を主成分とする永和化成工業(株)製の商品名セルペースト101を用いた。
加硫剤としては粉末硫黄とチオウレア系加硫剤〔川口化学工業(株)製のアクセル(登録商標)22−S〕とを用い、加硫促進助剤としては酸化亜鉛2種品〔三井金属鉱業(株)製〕を用いた。また加硫促進剤としては下記の3種を用いた。
【0075】
チアゾール系加硫促進剤〔大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)DM〕
チウラム系加硫促進剤〔大内新興化学工業(株)製のノクセラーTS〕
グアニジン系加硫促進剤〔大内新興化学工業(株)製のノクセラーDT〕
導電性カーボンブラックとしては電気化学工業(株)製のデンカ ブラック(登録商標)を用い、受酸剤としてはハイドロタルサイト〔協和化学工業(株)製のDHT−4A−2〕を用いた。
【0076】
前記各成分の配合割合は、表1に示すとおりとした。なおチオウレア系加硫剤の配合割合は、ゴム分100gあたり約0.002モルであった。
【0077】
【表1】

【0078】
前記各成分をバンバリミキサで混練してゴム組成物を調製し、前記ゴム組成物を押出成形機に供給して外径φ25mm、内径φ16mmの円筒状に押出成形し、冷却して固化させたのち所定の長さにカットし、円筒内に架橋用の仮のシャフト(外径φ15.8mm)を挿通した状態で、加硫缶内に、前記シャフトを介して吊り下げて収容した。
次いで前記加硫缶内で160℃×60分間加熱して、発泡剤の熱分解によって発生したガスによってゴム組成物を発泡させるとともに、架橋剤によってゴム分を架橋させてローラ本体を得た。発泡後のローラ本体の外径は約φ35mmであった。
【0079】
次いで前記ローラ本体を、外周面に導電性の熱硬化性接着剤を塗布した外径φ20mmのシャフト4に装着しなおし、160℃に加熱して熱硬化性接着剤を硬化させてローラ本体とシャフトとを電気的に接合するとともに機械的に固定した。そして両端をカットし、円筒研磨機を用いて外周面をトラバース研磨してローラ本体の外径をφ32mm(公差0.1mm)に仕上げて転写ローラを作製した。
【0080】
〈比較例1〉
ゴム分のうちエピクロルヒドリンゴムの配合割合を100質量部としてポリエーテルゴムを配合せず、かつFS塩を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして転写ローラを作製した。
〈比較例2〉
FS塩を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして転写ローラを作製した。
【0081】
〈実施例2〜6、比較例3〉
ゴム分100質量部あたりのFS塩の配合割合を0.3質量部(実施例2)、0.5質量部(実施例3)、3質量部(実施例4)、5質量部(実施例5)、9質量部(実施例6)、および12質量部(比較例3)としたこと以外は実施例1と同様にして転写ローラを作製した。
【0082】
〈実施例7〉
ゴム分のうちエピクロルヒドリンゴムの配合割合を50質量部、ポリエーテルゴムの配合割合を50質量部としたこと以外は実施例1と同様にして転写ローラを作製した。
〈比較例4〉
FS塩を配合しなかったこと以外は実施例7と同様にして転写ローラを作製した。
【0083】
〈評価試験〉
以下の各試験を、いずれも温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下で行なった。
(発泡倍率)
前記各実施例、比較例で作製途中の、押出成形後、架橋および発泡させる前の、仮のシャフトを装着した状態の円筒体の、長さ方向の4点で計測した外径の平均値と長さとから発泡前の体積を求めた。また前記円筒体を先の手順で架橋および発泡させた後、仮のシャフトを抜き取る前の、長さ方向の4点で計測した外径の平均値と長さとから発泡後の体積を求めた。そして(発泡後の体積)/(発泡前の体積)×100によりローラ本体の発泡倍率(体積%)を求めた。発泡倍率(体積%)は、前記のように150体積%以上であるとき良好、150体積%未満であるとき不良と評価した。
【0084】
(架橋速度)
前記各実施例、比較例に使用したのと同じそれぞれのゴム組成物を用いて、日本工業規格JIS K6300−2:2001「第2部:振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」所載のディスク加硫試験法によって求めた50%加硫時間t(50)[分]を架橋速度として記録した。架橋速度は10分以上であるとき良好、10分未満であるとき不良と評価した。
【0085】
(割れ評価)
前記各実施例、比較例で作製途中の、架橋および発泡させた後、仮のシャフトを抜き取る前の状態の円筒体の外観を観察し、下記の基準で割れの有無を評価した。
○:割れは全く見られなかった。
×:割れが見られた。
【0086】
××:多数の割れが見られた。
(電気抵抗値)
前記各実施例、比較例で作製した転写ローラの電気抵抗値Rを、先に説明した方法で測定した。電気抵抗値は、前記のように105.5Ω以下であるとき良好、105.5Ωを超えるとき不良と評価した。
【0087】
以上の結果を表2に示す。なお表2では電気抵抗値をlogRで示している。
【0088】
【表2】

【0089】
表2の比較例1、2、4の結果から、FS塩を配合しない場合には架橋速度が大きすぎて、転写ローラのローラ本体に割れが発生しやすいこと、架橋速度が大きくなるほど割れが悪化することが判った。また比較例3の結果から、FS塩の配合割合が多すぎる場合には架橋速度が小さくなりすぎて、表層が未架橋の生ゴムの状態であるうちに大部分のガスが外部に逃げてしまうため、転写ローラの発泡倍率が低下することが判った。
【0090】
これに対し実施例1〜7の結果から、ゴム分100質量部あたり0.1質量部以上、9.0質量部以下のFS塩を配合することで架橋速度を抑制して、転写ローラのローラ本体に割れが発生するのを防止しながら、前記転写ローラの発泡倍率を大きく、かつ電気抵抗値を小さくできることが判った。またFS塩の配合割合は、前記範囲内でも0.3質量部以上、5質量部以下であるのが好ましいことも判った。
【0091】
さらに、前記比較例1、2、4や実施例4、7の結果から、ゴム分としてはエピクロルヒドリンゴムとポリエーテルゴムとを併用するのが、転写ローラの電気抵抗値を小さくする上で有効であること、前記併用系ではエピクロルヒドリンゴムの配合割合が多い方が、転写ローラの電気抵抗値を小さくする上で有効であることも判った。
【符号の説明】
【0092】
1 転写ローラ
2 ローラ本体
3 通孔
4 シャフト
5 外周面
6 アルミニウムドラム
7 外周面
8 直流電源
9 抵抗
10 計測回路
F 荷重
V 検出電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光体の表面に形成したトナー像を転写ベルトの表面、または前記転写ベルトの表面に保持した媒体の表面に転写させるために用いる、電気抵抗値が105.5Ω以下、発泡倍率(体積%)が150体積%以上で、かつ外径が25mm以上の転写ローラであって、
少なくともエピクロルヒドリンゴムを含むゴム分と、発泡剤と、発泡助剤と、導電塩としての、前記ゴム分100質量部あたり0.1質量部以上、9.0質量部以下の、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンの塩とを含むゴム組成物からなることを特徴とする転写ローラ。
【請求項2】
ゴム分が、ポリエーテルゴムをも含んでいる請求項1に記載の転写ローラ。
【請求項3】
導電塩が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムである請求項1または2に記載の転写ローラ。
【請求項4】
感光体の表面に形成したトナー像を、厚み100μm以上の中間転写ベルトの表面に保持した媒体の表面に転写させるために用いる請求項1ないし3のいずれか1つに記載の転写ローラ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−13563(P2011−13563A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159013(P2009−159013)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】