説明

転写加飾シートの製造方法

【課題】気泡の混入によるスジ状の欠陥が見られない転写加飾シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】回転するグラビア印刷版胴にインキを付着供給するインキパン内に、循環インキ液面位置を保持する堰部を設け、インキパンの印刷版胴側にインキ供給口とインキ供給管を有し、堰部外側に該堰部をオーバーフローするインキをインキタンク内に排出するインキ排出口を有するグラビア印刷機にて印刷する工程を有する転写シートの製造方法であって、循環インキの供給速度を10〜30L/分とし、かつインキパンの容積を3〜10Lとすることを特徴とする転写加飾シートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラビア印刷機にて絵柄層を印刷する工程を有する転写加飾シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に循環装置を有するグラビア印刷機は、図1に示すように、版胴1、圧胴2、ドクターブレード3、インキパン4、インキ供給口5、インキ排出口6、インキ貯留用の堰部7、インキタンク8、インキ供給管9、及びポンプ10からなる。インキパン4には、ポンプ10によって、インキタンク8からインキ供給管9を通ってインキが循環供給され、通常印刷状態において版胴1の下周面が浸漬するように、堰部7によってインキ液面高さが調整されている。そして、堰部7をオーバーフローしたインキはインキ排出口6よりインキパン4の下方に設けたインキを貯留するインキタンク8に排出される。
版胴1は、インキパン4内に貯留したインキ内に浸漬して回転し、インキは、その版胴1の外周面に製版されたグラビアセル(セル凹部)内に付着供給され、続いて版胴1の外周面に付着した余剰インキはドクターブレード3によって掻き取られ、続いて、版胴1と圧胴2との間に印圧をかけて、連続導入される原反シートに、版胴1のグラビアセル内のインキが転移して印刷される(例えば、特許文献1、段落0004参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−47613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1に示されるような、循環系統を有するグラビア印刷装置において、インキは循環の過程で泡立ちを生じることが多い。このようにして生じた気泡が版胴のセル中に混入するとインキ転移不良の原因となる。特に、メタリック印刷などでは、わずかな気泡の混入でも、スジ状の欠陥として認識されやすく、意匠性が損なわれるという問題があった。
これに対し、図1に示すような堰部を設けることで、気泡の発生はある程度抑制される。すなわち、堰部によって、インキがインキパン中で滞留するため、気泡がインキパン中のインキ液面まで浮上し、自然消滅する。しかしながら、インキパンの容積、インキのインキパンへの供給速度によっては、気泡がインキパン中のインキ液面まで浮上する前に、版胴のセルに混入し、上記不具合を生じさせることがある。
本発明は、このような状況下で、気泡の混入による意匠性の不具合をなくし、特にメタリック印刷における上記不具合を是正した転写シートの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、循環系統を有するグラビア印刷装置において、循環インキの供給速度及びインキパンの容積を特定の範囲とすることで、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)回転するグラビア印刷版胴にインキを付着供給するインキパン内に、循環インキ液面位置を保持する堰部を設け、インキパンの印刷版胴側にインキ供給口とインキ供給管を有し、堰部外側に該堰部をオーバーフローするインキをインキタンク内に排出するインキ排出口を有するグラビア印刷機にて印刷する工程を有する転写シートの製造方法であって、循環インキの供給速度を10〜30L/分とし、かつインキパンの容積を3〜10Lとすることを特徴とする転写加飾シートの製造方法、
(2)上記(1)に記載の転写加飾シートを用いる加飾成形品の製造方法であって、(A)射出成形金型内に転写加飾シートを配する工程、(B)キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形と転写加飾シートの接着を同時に行う工程、及び(C)基材フィルムを剥離する工程を有する加飾成形品の製造方法、及び
(3)上記(2)に記載の方法により得られる加飾成形品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、気泡の混入による意匠性の不具合をなくすことができ、特にメタリック印刷においてその効果が顕著である。また、該転写加飾シートを用いた加飾成形品は、優れた意匠性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】循環系統を有するグラビア印刷機の概念図である。
【図2】図1のグラビア印刷機を上(圧胴側)から見た図である。
【図3】本発明の転写加飾シートの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の転写加飾シートの製造方法は、グラビア印刷機にて印刷する工程、特にはグラビア印刷機にて絵柄層を印刷する工程を有する。
図1は上述のように、循環系統を有するグラビア印刷機の概念図、また図2は、図1のグラビア印刷機を上(圧胴側)から見た図である。本発明にて用いられるグラビア印刷機は、回転するグラビア印刷版胴1にインキを付着供給するインキパン4内に、循環インキ液面位置を保持する堰部7を設け、インキパンの印刷版胴側にインキ供給口5とインキ供給管9を有し、堰部外側に該堰部をオーバーフローするインキをインキタンク8に排出するインキ排出口6を有する。また、インキパン4はインキ供給口5からインキ排出口6にインキが流れやすくするように、傾斜が設けられている。
本発明で好適に用いられる循環系統を有するグラビア印刷機では、堰部7を設けて、インキ液面高さを調整するとともに、気泡の発生を抑制するものであるが、本発明では、さらに、図2に示すように、堰部7の側面に溝13を設け、該溝13からインキが流出するようにしている。このようにすることで、泡が溝の方向に流れるため、版胴のセルに混入しにくくなる。
【0010】
本発明の製造方法は、図1及び図2に示すグラビア印刷機において、循環インキの供給速度を10〜30L/分とし、かつインキパンの容積を3〜10Lとすることが特徴である。循環インキの供給速度が30L/分以下であり、かつ、インキパンの容積が3L以上であると、インキを循環させる途中で発生する気泡をインキパン内でインキ液面まで浮上させ、自然消滅させるに十分なインキの滞留時間を得ることができる。一方、循環インキの供給速度が10L/分以上であり、かつインキパンの容積が10L以下であると、インキパン内でのインキの滞留が長すぎることによる不具合がない。すなわち、インキの溶剤が揮発して、インキの粘度が変化して印刷に不具合を生じたり、版胴の表面が乾いてインキの原反シートへの転写に不具合が生じることがない。
以上の観点から、循環インキの供給速度は、15〜25L/分の範囲がより好ましく、またインキパンの容積は4〜6Lの範囲がより好ましい。
本発明では、上記のようなグラビア印刷機にて絵柄層を通常印刷する。特に、絵柄層として、メタリック調の着色層を印刷する場合に、本発明の効果が顕著である。すなわち、メタリック調の着色層は、上述のように、わずかな気泡の混入でも、スジ状の欠陥として認識されやすく、意匠性が損なわれるためである。
【0011】
以下、図3を用いて、本発明により製造される転写加飾シートについて詳細に説明する。図3は転写加飾シート20の断面を示す模式図である。図3に示す例では、基材フィルム21上に離型層22、剥離層23、絵柄層24、接着層25、及び基材フィルム21の裏面(図3における上部の面)に静電気防止層27を有する。ここでは、基材フィルム21の離型処理として離型層22が設けられており、また、静電気防止層27は射出成形同時加飾に際して、金型に接する面である。
【0012】
基材フィルム21としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル等のアクリル系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、三酢酸セルロース、セロファン、ポリカーボネート、ポリウレタン系等のエラストマー系樹脂等によるものが利用される。これらのうち、成形性及び剥離性が良好である点から、ポリエステル系樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という。)が好ましい。
【0013】
基材フィルム21の厚さとしては、形状追従性やしわが発生しにくいなどの成形性、取り扱いが容易であるとの観点から、25〜150μmの範囲が好ましく、さらに50〜100の範囲がより好ましい。
【0014】
上記基材フィルム21は、剥離層23側の表面に離型処理がなされている。離型処理の方法としては種々あるが、基材フィルム21の表面に離型層22を形成する方法が特殊な基材フィルムを用いることなく、簡便に行えることから好ましい。
上記離型層22は、離型剤を塗布、乾燥させることによって形成することができ、離型剤の塗布方法としては、特に限定されず、グラビア印刷法、ロールコート法、スプレーコート法等を挙げることができる。
また、離型剤としては、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース樹脂系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤、アクリル樹脂系離型剤及びこれらの複合型離型剤等を用いることができる。これらのうち、アクリル樹脂系離型剤及びポリオレフィン樹脂系離型剤が好ましく、アクリル−ポリエチレン系などのこれらを複合したものが特に好ましい。
【0015】
次に、上記転写加飾シートにおける剥離層23は、射出成形同時加飾後に、基材フィルム21及び離型層22を剥離した際に、転写物の最外層となり、光や薬品、摩耗から成形品や絵柄層を保覆するための層である。従って、耐擦傷性、耐薬品性、耐汚染性等の表面物性に優れるものが好ましい。具体的にはアクリル系樹脂やウレタン系樹脂が好適に用いられる。また、その他の樹脂としては、熱硬化性樹脂組成物や電離放射線硬化性樹脂組成物を用いることもできる。
【0016】
熱硬化性樹脂組成物としては、フェノール樹脂、フェノール−ホルマリン樹脂、尿素樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、汎用の2液硬化型アクリル樹脂(アクリルポリオール硬化物)などを例示することができる。
また、電離放射線硬化性樹脂組成物とは、電磁波または荷電粒子線の中で分子を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線または電子線などを照射することにより、架橋、硬化する樹脂組成物を指す。具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂組成物として慣用されている重合性モノマー及び重合性オリゴマーないしはプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。
なお、電離放射線硬化性樹脂組成物として紫外線硬化性樹脂組成物を用いる場合には、光重合用開始剤を樹脂組成物100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加することが望ましい。
【0017】
上記電離放射線としては、紫外線、電子線、γ線等を挙げることができる。
紫外線の場合のエネルギー源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、無電極放電ランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等の紫外線ランプ類を挙げることができる。照射線量としては、50〜10000mJ/cm2が好ましい。
また、電子線の場合は、電子線源として、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度、照射線量は、樹脂層の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。
【0018】
さらに、剥離層23を構成する樹脂組成物には、紫外線吸収剤を含有していることが好ましい。紫外線吸収剤を含有することにより、加飾成形品に耐候性を付与することができる。具体的には、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系等が挙げられる。紫外線吸収剤の含有量としては、剥離層3を構成する樹脂組成物中に0.1〜30質量%程度である。
また、剥離層23を構成する樹脂組成物には、表面の傷つき防止性を付与するために、ポリエチレンワックスを含有させてもよい。ポリエチレンワックスの含有量としては、剥離層23を構成する樹脂組成物中に0.1〜20質量%程度である。
【0019】
上記剥離層23は、剥離層を構成するインクを塗布、乾燥させることによって形成することができ、剥離層の形成方法としては、特に限定されず、グラビア印刷法、ロールコート法、スプレーコート法等を挙げることができる。
剥離層23を形成した後、風乾もしくは100℃以下の温度で10秒以下程度乾燥させ、溶剤を蒸発させる。この条件であれば、基材フィルムが収縮することがなく好ましい。
また、剥離層23の厚さは0.5〜30μmとすることが好ましい。0.5μm以上であると十分な耐摩耗性、耐薬品性などの表面物性が得られ、30μm以下であれば、形状追従性などの成形性が得られるとともに、経済性の点からも有利である。以上の観点から、剥離層23の厚さは1〜10μmの範囲がより好ましい。
【0020】
次に、絵柄層24は、加飾成形品に意匠性を付与するための層である。該絵柄層24としては、例えば、メタリック調などの着色層や、木目模様、石目模様、砂目模様、タイル貼調模様、煉瓦積調模様、布目模様、皮絞模様、文字、記号、図形、幾何学模様などの絵柄が挙げられる。本発明は、上述のように、絵柄層がメタリック調の着色層である場合に特に有効である。
該絵柄層24は、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、セルロース系樹脂、アルキド系樹脂等の樹脂をバインダーとして、適切な色の顔料又は染料を着色剤として含有する着色インキ等による印刷によって形成することができる。特に好ましい態様であるメタリック調の絵柄は、アクリル樹脂や酢酸セルロース樹脂などのバインダーにアルミニウムなどの箔片を混入させたものなどが用いられる。
本発明においては、絵柄層24の塗工は、上述のようにグラビア印刷法を用いる。なお、グラビア印刷法は、生産効率の観点から好ましい方法である。
【0021】
本発明の方法は、絵柄層がメタリック調の着色層である場合に効果が高い。メタリック調の着色層に用いる着色剤としては、アルミニウム、クロム、ニッケル、錫、チタン、リン化鉄、銅、金、銀、真鍮等の金属、合金、又は金属化合物の鱗片状箔粉からなるメタリック顔料が挙げられる。該メタリック顔料は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明に用いられるメタリック顔料の大きさは、その種類及び所望の意匠等により適宜選択すればよいが、通常は平均粒径(外接球直径もしくは対角線長)で10〜50μm程度であり、10〜30μmが好ましい。
印刷インキ中の着色剤の含有量も、その種類及び所望の意匠等より適宜選択すればよいが、メタリック顔料が、通常は0.1〜30質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。この範囲内にあれば、塗工性に優れ、意匠効果も良好となる。
【0022】
次に、接着層25は成形品の表面と転写加飾シート20を接着するためのものである。接着層25には、成形品の素材に適した感熱性又は感圧性の樹脂を適宜使用する。例えば、成形品の材質がアクリル系樹脂の場合は、アクリル系樹脂を用いることが好ましい。また、成形品の材質がポリフェニレンオキサイド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂等を使用することが好ましい。さらに、成形品の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂を使用することが好ましい。
接着層25の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法等のコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等の印刷法がある。
なお、接着層25の厚さは1〜5μmとすることが好ましい。1μm以上であると十分な接着性が得られ、5μm以下であると経済性の点で有利である。
【0023】
基材フィルム21の裏面に設けられる静電気防止層27は、静電気のスパークによる火災発生の防止、塵埃やほこりの付着による、衛生上の問題や不良品の発生を抑制するために設けられるものである。静電気防止層27は、帯電防止剤を塗工することにより得ることができる。
帯電防止剤としては、種々の界面活性剤が挙げられ、アルキルサルフェート型、アルキルアリールサルフェート型、アルキルホスフェート型、アルキルアミンサルフェート型などのアニオン系界面活性剤;第4級アンモニウム塩型、イミダゾリン型などのカチオン系界面活性剤;ソルビタン型、エーテル型、アミン型、アミド型、エタノールアミド型などのノニオン系界面活性剤;ベタイン型などの両性界面活性剤などが挙げられる。
静電気防止層27の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法等のコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等の印刷法がある。
【0024】
本発明の加飾成形品の製造方法は、上記転写加飾シートを用いる射出成形同時加飾方法によるものであり、(A)射出成形金型内に転写加飾シートを配する工程、(B)キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形と転写加飾シートの接着を同時に行う工程、及び(C)基材フィルムを剥離する工程を有する。
【0025】
(A)工程は、上記転写加飾シート20を成形金型内に配し、挟み込む工程である。具体的には、該転写加飾シート20を、可動型と固定型とからなる成形用金型内に転写層26を内側にして、つまり、基材フィルム21が固定型に接するように転写加飾シート20を送り込む。この際、枚葉の転写加飾シートを1枚ずつ送り込んでもよいし、長尺の転写加飾シートの必要部分を間欠的に送り込んでもよい。
【0026】
次に、(B)工程はキャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形と転写加飾シートの接着を同時に行う工程である。溶融樹脂は、通常、可動型に設けたゲートより射出され、成形品が形成されるのと同時にその面に転写加飾シートが接着される。
ここで用いることのできる樹脂材料としては、射出成形可能な熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いることができる。例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂(耐熱ABS樹脂を含む)、AS樹脂、AN樹脂、ポリフェニレンオキサイド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等を使用することができる。
【0027】
また、上記(A)工程と(B)工程の間に、さらに(D)真空成形により転写加飾シートを金型に密着させる工程を有することが好ましい。この工程は一般に予備成形と呼ばれるもので、転写加飾シートを所定の位置に配置した後、通常80〜150℃程度に加熱して軟化させ、真空吸引することにより、該シートを成形金型表面に密着させるものである。
【0028】
次いで、冷却した後、成形用金型を開いて、転写加飾シートが接着された加飾成形品を金型から取り出し、基材フィルムを剥離する((C)工程)。基材フィルム21は、離型層22を有するなどの離型処理がなされているため、離型層22と剥離層23との境界面で容易に剥離することができる。このようにして、本発明の転写加飾シートにより、しわのない優れた外観を有し、かつ耐候性、耐摩耗性及び耐薬品性を有する加飾成形品を容易に製造することができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
実施例及び参考例で得られた転写加飾シートについて、以下の方法で評価した。
(1)転写加飾シートの目視による評価
実施例及び比較例で製造した転写加飾シートの表面を目視にて観察した。
(2)射出成型同時加飾による加飾成形品の製造
実施例及び比較例で製造した転写加飾シートを金型に配し、予備成形を行った。次いで、金型を閉じ、耐熱性ABS樹脂(日本エーアンドエル社製「MTH」)を射出した。金型温度を60℃、射出樹脂の温度を230℃とし、樹脂は2ヶ所のゲートから射出した。その後、冷却・固化し、得られた加飾成形品について、絵柄の脱落等、意匠性に問題がないか目視にて確認した。
【0030】
実施例1
基材フィルムである厚さ75μmの成型性PETフィルム(加熱により伸張するPETフィルム)の片面(表面)に、アクリル−ポリエチレン系樹脂で構成される離型層を形成した。次いで、該基材フィルムの裏面側に、カチオン性界面活性剤をグラビア法により塗工し、70℃で熱風乾燥し、静電気防止層を形成した。
次いで、離型層上にアクリル系樹脂からなる剥離層を設け、その上に絵柄層を設けた。絵柄層は、アクリル−ウレタン系樹脂をバインダー樹脂とし、メタリック顔料〔東洋アルミニウム株式会社製、商品名「7600」、平均粒径20μm〕を着色剤とする印刷インキを用いて、インキパンの容積が5Lである、上記図1に示すグラビア印刷機にて形成した。この際の、循環インキの供給速度は20L/分とした。これにポリエステル−ウレタン樹脂を主成分とする接着層をグラビア印刷法にて塗布し、転写加飾シートを得た。剥離層、絵柄層、及び接着層の厚さは、それぞれ3μm、2μm、及び3μmとした。このようにして製造した転写加飾シートについて、上記方法にて評価した。
転写加飾シートに、スジ状の欠陥は見られず、また加飾成形品について、絵柄の脱落等の問題はなかった。
【0031】
比較例1
実施例1において、循環インキの供給速度を35L/分としたこと以外は、実施例1と同様にして転写加飾シートを得た。実施例1と同様に評価した結果、転写加飾シートに、スジ状の欠陥が見られ、加飾成形品について、絵柄の脱落が見られた。
【0032】
比較例2
実施例1において、循環インキの供給速度を7L/分としたこと以外は、実施例1と同様にして転写加飾シートを得た。実施例1と同様に評価した結果、転写加飾シートに、版胴が乾燥することに起因する柄の欠落が見られ、加飾成形品についても、同様に絵柄の脱落が見られた。
【0033】
比較例3
実施例1において、循環インキ液面位置を保持する堰部を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして、転写加飾シートを得た。実施例1と同様に評価した結果、転写加飾シートに、スジ状の欠陥が見られ、加飾成形品について、絵柄の脱落が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の製造方法によれば、気泡の混入による意匠性の不具合のない転写加飾シートを得ることができる。特にメタリック調の着色層を設けた転写加飾シートにおいて、その効果が顕著である。また、該転写加飾シートを用いた加飾成形品は、優れた意匠性を有する。
【符号の説明】
【0035】
1.版胴
2.圧胴
3.ドクターブレード
4.インキパン
5.インキ供給口
6.インキ排出口
7.インキ貯留用の堰部
8.インキタンク
9.インキ供給管
10.ポンプ
11.被印刷体
12.インキ
13.溝
20.転写加飾シート
21.基材フィルム
22.離型層
23.剥離層
24.絵柄層
25.接着層
26.転写層
27.静電気防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するグラビア印刷版胴にインキを付着供給するインキパン内に、循環インキ液面位置を保持する堰部を設け、インキパンの印刷版胴側にインキ供給口とインキ供給管を有し、堰部外側に該堰部をオーバーフローするインキをインキタンク内に排出するインキ排出口を有するグラビア印刷機にて印刷する工程を有する転写シートの製造方法であって、循環インキの供給速度を10〜30L/分とし、かつインキパンの容積を3〜10Lとすることを特徴とする転写加飾シートの製造方法。
【請求項2】
前記転写シートの印刷により、メタリック調の着色層が印刷される請求項1に記載の転写加飾シートの製造方法。
【請求項3】
堰部の側面にインキが流出する溝を有する請求項1又は2に記載の転写加飾シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られる転写加飾シートを用いる加飾成形品の製造方法であって、(A)射出成形金型内に転写加飾シートを配する工程、(B)キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形と転写加飾シートの接着を同時に行う工程、及び(C)基材フィルムを剥離する工程を有する加飾成形品の製造方法。
【請求項5】
前記(A)工程と(B)工程の間に、さらに(D)真空成形により転写加飾シートを金型に密着させる工程を有する請求項4に記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法により得られる加飾成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−73385(P2011−73385A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229149(P2009−229149)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】