説明

転炉の操業方法、その転炉に使用するマグネシアカーボン質れんが、当該れんがの製造方法、及び転炉内張りのライニング構造

【課題】製鉄プロセスで使用される転炉において鉄皮の変形防止及び精錬効率の向上を図るとともに、環境問題及び黒鉛の資源枯渇問題に対応し、更にはマグカーボンれんがの耐食性を改善する。
【解決手段】耐火原料配合物中の、粒径1mm未満のマグネシア粒子量に対する粒径1mm以上のマグネシア粒子量の質量比が1.27以上2.58以下で、かつ、マグネシアと黒鉛の合計量に占める黒鉛の配合量が10質量%以下であるマグネシアカーボン質れんがを、内張り用れんがの一部又は全部に使用した転炉の操業方法において、吹錬終了時の転炉内のスラグのCaOとSiOの質量比(C/S)が2.0以上で、かつ、スラグ中の酸化鉄の含有量をFeに換算した数値(T.Fe)が12質量%以上となるように操業する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄プロセスで使用される転炉の操業方法、その転炉に使用するマグネシアカーボン質れんが、当該れんがの製造方法、及び転炉内張りのライニング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシアカーボン質れんが(以下「マグカーボンれんが」と略す。)はマグネシアと黒鉛を主原料として構成された、耐食性及び耐スポール性に優れたれんがであり、転炉などの精錬容器の内張り材として広く用いられている。
【0003】
ただし、一般的に転炉に適用されるマグカーボンれんがは、黒鉛を15〜20質量%と比較的多量に含有するため、熱伝導率が高くなり転炉の鉄皮が変形しやすいことが課題の一つである。更に、熱伝導率が高いため転炉の外部への熱の放散量が大きく吹錬効率が低下したり、溶損したれんが中のカーボンが燃焼することによって二酸化炭素を多量に放出したりしていることが問題として挙げられる。特に、熱ロス、二酸化炭素の放出は近年の地球環境問題への関心の高まりにより、一層大きな課題となっている。また、黒鉛は近い将来、品位に優れた資源の枯渇が予想されている。
【0004】
これらの課題を解決するにはマグカーボンれんが中の黒鉛の含有量を低減する必要があり、これにより熱伝導率の低減、燃焼時の二酸化炭素放出量の抑制、及び黒鉛消費量の抑制が可能となる。
【0005】
黒鉛の含有量が比較的少ないマグカーボンれんがについては、以下のような発明が公開されている。
【0006】
特許文献1には、タール・ピッチの混合状態にあるバインダーを適用することにより耐スポール性を補償し、フリーカーボン(F.C.)量が4〜10質量%のマグカーボンれんがを転炉等に適用し、精錬効率が向上したことが示されている。しかし、特許文献1の発明ではマグネシア粒子の粒度構成に特段の配慮がされておらず、後述するように黒鉛含有量が少ないほど耐食性は低下していると推定される。
【0007】
特許文献2には、ピッチ変性フェノール樹脂を適用して耐スポール性を向上させたフリーカーボン(F.C.)量5〜10質量%のマグカーボンれんがを転炉へ適用し、良好な使用結果を得たことが示されている。ここでも、マグネシア粒子の粒度構成に特段の配慮がされておらず、本発明者らの知見によれば一層の耐食性改善の余地がある。
【0008】
特許文献3では、マグカーボンれんがにおいて通常よりも微粉を少なくすることによって、目地損耗を軽減し耐用性を改善させることが提案されている。本発明で提案するマグネシア粒子の粗粒化と手法は類似しているようにみえるが、黒鉛が10質量%以下のれんがでは、本発明よりも細粒な粒度構成で構成されている。
【0009】
特許文献4では、比較的粗粒の多いマグカーボンれんがが実施例で開示されているが、その段落0022に記載されているとおり、スラグのC/Sは1、FeOは20質量%(T.Feに換算すると15.5質量%)であり、本発明のスラグ組成とは異なる。
【0010】
非特許文献1には、転炉型容器の直胴部から絞り部に黒鉛10質量%のマグカーボンれんがをライニングし、鉄皮温度の上昇を30℃〜40℃抑制した結果が報告されている。これは、マグカーボンれんがの黒鉛配合量を減量することにより確実に熱ロスを抑制できることを示すものであり、更に耐食性を維持しつつ黒鉛量を10質量%以下に低減し、実用を可能にする技術の確立が望まれてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平01−212712号公報
【特許文献2】特開平01−162714号公報
【特許文献3】特開平07−017758号公報
【特許文献4】特開平04−228469号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】第84回耐火物部会 耐84−03(日本鉄鋼協会、2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、製鉄プロセスで使用される転炉において鉄皮の変形防止及び精錬効率の向上を図るとともに、環境問題及び黒鉛の資源枯渇問題に対応し、更にはマグカーボンれんがの耐食性を改善することが可能な、転炉の操業方法、その転炉に使用するマグネシアカーボン質れんが、当該れんがの製造方法、及び転炉内張りのライニング構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
マグカーボンれんがの耐食性は、接触するスラグの組成により変化する。特に、スラグ中の酸化鉄含有量が多いほど溶損量が大きくなり、耐用が低下することは良く知られている。これは、酸化鉄がマグカーボンれんが中のカーボンを酸化させることによるもので、対策としては黒鉛配合量を減量することが最も有効である。
【0015】
しかし、実際にマグカーボンれんがを転炉の内張りとして使用した場合には、黒鉛配合量が少ないマグカーボンれんがほど耐用が高くなるわけではなく、黒鉛配合量が10〜13質量%のマグカーボンれんがの耐用性が最も良好である場合が多く、黒鉛の配合量を10質量%以下に減量しても耐用性が低下することが分かった。
【0016】
この理由について本発明者らは検討を行った。その結果、マグカーボンれんがの溶損は、マグネシアと黒鉛等の微粉の集合体であるマトリックス部が先行して溶損することが明らかになり、このマトリックス部にマグネシアの微粒と一緒に存在している黒鉛を減量すると、スラグに濡れにくいという黒鉛の特性による耐食性改善効果が発現し難くなり、このためマトリックス部の溶損が著しく増大することが明らかになった。
【0017】
本発明者らは黒鉛を減量した場合の耐食性の改善方法に関して鋭意検討を行った結果、黒鉛を減量しても、それに伴ってマトリックス部の体積を減少させることで、マトリックス部内の粒径1mm未満のマグネシアの微粒に対する黒鉛の含有比率を増大させることになり、これによって耐食性を向上させることが可能であることが明らかになった。具体的にマトリックス部の体積を減少させるには、粒径1mm未満のマグネシア粒子の含有量に対する粒径1mm以上のマグネシア粒子の含有量の質量比を1.27以上にする必要がある。ただし、2.58を超えるとマトリックス部に含まれる黒鉛の量が多くなりすぎて、スラグ中の酸化鉄による液相酸化による溶損によってマグカーボンれんがの耐食性は低下する。なお、黒鉛の粒度は通常0.5mmアンダーであり、マグネシア粒子に比較してかなり小さく、本発明において黒鉛の粒度の影響は殆どないと考えられる。
【0018】
本発明は、黒鉛配合量が10質量%以下のマグカーボンれんがにおいて、れんがと接するスラグのCaOとSiOの質量比(以下「C/S」と略す。)が2.0以上で、かつ、T.Fe(スラグ中の酸化鉄の含有量をFeに換算した数値)が12質量%以上の使用条件において著しい改善効果を発現する。
【0019】
本発明者らの検討の結果、上述のようにマトリックス部内の粒径1mm未満のマグネシアの微粒に対する黒鉛の含有比率を増大させたとしても、本発明は、特に黒鉛配合量が10%質量以下と低黒鉛のマグカーボンれんがであることから、C/Sが2.0未満の低塩基度スラグでは、スラグが低粘性となりれんが表面に濡れやすくなって、マグネシア骨材の選択的な溶損が起こりやすくなることが判った。そのため、C/Sが2.0以上で操業する必要がある。ただし、転炉操業においては、高炭素鋼の製造時のような特殊なケースを除いて殆どが、吹錬終了時のスラグのC/Sが2.0以上となる操業であるため、特に大きな問題にはならないと考えられる。
【0020】
また、T.Fe量が多くなると、酸化鉄(特にFeO)が黒鉛を液相酸化させようとするため、黒鉛の割合が高い一般のマグカーボンれんがは、溶損が著しく進行するが、本発明のマグカーボンれんがは黒鉛配合量が少ないために、T.Feが12質量%以上となってもその耐溶損性は著しく低下しないことが判った。そのため、T.Feが12質量%以上となる通常の転炉操業条件において、黒鉛含有量が高い従来のMgO−Cれんがと比べて、その耐溶損性改善効果を顕著に発現する。
【0021】
すなわち、本発明は次のとおりのものである。
(1)耐火原料配合物中の、粒径1mm未満のマグネシア粒子量に対する粒径1mm以上のマグネシア粒子量の質量比が1.27以上2.58以下で、かつ、マグネシアと黒鉛の合計量に占める黒鉛の配合量が10質量%以下であるマグネシアカーボン質れんがを、内張り用れんがの一部又は全部に使用した転炉の操業方法において、
吹錬終了時の転炉内のスラグのCaOとSiOの質量比(C/S)が2.0以上で、かつ、スラグ中の酸化鉄の含有量をFeに換算した数値(T.Fe)が12質量%以上となるように操業することを特徴とする転炉の操業方法。
【0022】
(2)吹錬終了時の転炉内のスラグのCaOとSiOの質量比(C/S)が2.0以上で、かつ、スラグ中の酸化鉄の含有量をFeに換算した数値(T.Fe)が12質量%以上となるように操業する転炉において内張り用れんがの一部又は全部に使用されるマグネシアカーボン質れんがであって、
耐火原料配合物中の、粒径1mm未満のマグネシア粒子量に対する粒径1mm以上のマグネシア粒子量の質量比が1.27以上2.58以下で、かつ、マグネシアと黒鉛の合計量に占める黒鉛の配合量が10質量%以下であるマグネシアカーボン質れんが。
【0023】
(3)前記耐火原料配合物中に、軟化点が70℃以上370℃以下のピッチが配合されている(2)に記載のマグネシアカーボン質れんが。
【0024】
(4)前記耐火原料配合物中に、カーボンブラック及び/又はカーボンブラックを黒鉛化してなるグラファイト粒子が配合されている含有する(2)又は(3)に記載のマグネシアカーボン質れんが。
【0025】
(5)吹錬終了時の転炉内のスラグのCaOとSiOの質量比(C/S)が2.0以上で、かつ、スラグ中の酸化鉄の含有量をFeに換算した数値(T.Fe)が12質量%以上となるように操業する転炉において内張り用れんがの一部又は全部に使用されるマグネシアカーボン質れんがの製造方法であって、
耐火原料配合物中の、粒径1mm未満のマグネシア粒子量に対する粒径1mm以上のマグネシア粒子量の質量比を1.27以上2.58以下とし、かつ、マグネシアと黒鉛の合計量に占める黒鉛の配合量を10質量%以下として製造することを特徴とするマグネシアカーボン質れんがの製造方法。
【0026】
(6)吹錬終了時の転炉内のスラグのCaOとSiOの質量比(C/S)が2.0以上で、かつ、スラグ中の酸化鉄の含有量をFeに換算した数値(T.Fe)が12質量%以上となるように操業する転炉における転炉内張りのライニング構造であって、
耐火原料配合物中の、粒径1mm未満のマグネシア粒子量に対する粒径1mm以上のマグネシア粒子量の質量比が1.27以上2.58以下で、かつ、マグネシアと黒鉛の合計量に占める黒鉛の配合量が10質量%以下であるマグネシアカーボン質れんがを、転炉の少なくとも一部に内張りする転炉の内張りライニング構造。
【発明の効果】
【0027】
本発明のマグカーボンれんがを内張りした転炉を規定のスラグ組成の条件にて操業することで、カーボン量低減による、低熱伝導性に伴う鉄皮の変形抑制、吹錬効率の向上、燃焼時の二酸化炭素の排出量抑制、鉄皮からの熱放出(熱ロス)抑制などの効果に加えて、耐食性改善によるマグカーボンれんがの耐用改善の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のマグカーボンれんがは、転炉の内張り用れんがとして少なくとも一部に内張りし、吹錬終了時の転炉内のスラグのC/Sが2.0以上かつT.Feが12質量%以上の組成を有するスラグ条件下で操業した場合に、低熱伝導率でかつ顕著な耐食性の改善効果を発現する。これらのスラグ組成を外れた条件においては顕著な耐食性改善効果を発現しないため不適当である。
【0029】
すなわち、C/Sが2.0以上である理由は、C/Sが2.0未満の低塩基度スラグではスラグの粘性が低く、れんが表面に濡れやすいため、マグネシア骨材の選択的な溶損が懸念されるところ、本発明は、特に黒鉛配合量が10%質量以下と低黒鉛のマグカーボンれんがであるので、その影響が大きく、たとえ、れんがのマトリックス部内の粒径1mm未満のマグネシアの微粒に対する黒鉛の含有比率を増大させたとしても、C/Sが2.0未満の低塩基度スラグでは、溶損が起こりやすくなるためである。
【0030】
また、T.Feが12質量%以上である理由は、酸化鉄(特にFeO)が黒鉛を液相酸化させるため、T.Feの量が多くなると、黒鉛の割合が高い一般のマグカーボンれんがは、溶損が著しく進行するが、本発明のマグカーボンれんがは黒鉛配合量が少ないために、T.Feが12質量%以上となってもその耐溶損性は著しく低下しないため、従来のMgO−Cれんがに比べて、その改善効果を顕著に発現することができるためである。
【0031】
本発明のマグカーボンれんがは、熱伝導率を低減するため黒鉛配合量は、耐火原料配合物中のマグネシアと黒鉛の合計量に占める割合で10質量%以下とする必要がある(本発明において黒鉛配合量の割合(百分率)は、耐火原料配合物中のマグネシアと黒鉛の合計量に占める割合のことをいう。以下同じ。)。黒鉛配合量が10質量%を超えると従来一般的に使用されている転炉内張り用のマグカーボンれんがの熱伝導率と近くなり、熱伝導率の低減に伴う鉄皮の変形防止、吹錬効率の向上、燃焼時の二酸化炭素の排出量抑制、鉄皮からの熱放出(熱ロス)抑制などの効果が得られなくなる。好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下とすることで熱伝導率が一層低下する。なお、本発明では黒鉛配合量の下限はないが、耐食性の点で好ましいのは3質量%以上である。なお、黒鉛の配合量がゼロでも本発明は効果を発揮するが、その場合は黒鉛の代替となる炭素原料を適量含有させる必要がある。全く炭素を含まないマグネシアれんがは、本発明で示す耐食性改善効果を発揮することはなく、本発明の範囲外である。
【0032】
黒鉛配合量が10質量%以下のマグカーボンれんがにおいて、前記スラグ組成条件で顕著な耐食性改善効果を発揮するには、粒径1mm未満のマグネシア粒子の配合量に対する粒径1mm以上のマグネシア粒子の配合量の質量比(すなわち、1mm以上の配合量/1mm未満の配合量)が1.27以上2.58以下である必要がある。この質量比が1.27未満あるいは2.58を超えるとスラグによるマトリックス部の侵食が大きくなり、耐食性が低下するため不適当である。好ましい質量比は1.78以上2.10以下であり、この範囲では特に優れた耐食性の改善効果を発現する。
【0033】
本発明のマグカーボンれんがは、一般的なマグカーボンれんがと比較して粗粒を多く含むため、黒鉛配合量が少ないにも関わらず耐スポール性が良好である。しかし、黒鉛配合量が例えば6質量%以下のような少ない場合には、使用条件によっては耐スポール性が不十分な場合がある。このような場合には、軟化点が70℃以上370℃以下のピッチあるいはカーボンブラックを配合することが好ましい。これらの原料はマグカーボンれんがの耐スポール性を改善する効果がある。添加量については特に制限するものではないが、これらの原料の合量で、耐火原料配合物中のマグネシアと黒鉛の合計量に対する外掛けで、0.5質量%以上4質量%以下の添加量が好ましい。
【0034】
マグカーボンれんがに使用するマグネシア原料としては、耐火物用として一般的に使用されている電融マグネシア、焼結マグネシア等を使用する。純度については、98質量%以上のような高純度の原料を使用すると耐食性の改善効果が大きいが、原料価格が高くなるため必要な耐食性によって適宜選択すれば良い。これらの原料についてJIS−Z8801に規定する1mmの篩い目を通過した粒子(篩下)を粒径1mm未満の粒子とし、1mmの篩い目を通過しない粒子(篩上)を粒径1mm以上の粒子として、これらの配合割合を本発明の規定する範囲とすればよい。
【0035】
本発明における黒鉛原料の配合量は、耐火原料配合物中のマグネシアと黒鉛の合計量に対する内掛け添加量の割合で規定され、その黒鉛原料は、耐火物用として一般的に使用されている鱗状黒鉛のほか、薄肉化黒鉛、人造黒鉛なども使用することが可能である。
【0036】
黒鉛原料以外の炭素原料は、上記黒鉛原料の配合量としては含まれないが、添加しても構わない。その炭素原料は、前述したピッチ、カーボンブラックの他に無煙炭、コークスなどを使用することも可能である。
【0037】
このうち、カーボンブラックは、ファーネス法、チャンネル法、アセチレン法などあらゆる方法によって製造されたものを使用でき、更に加熱処理を行って黒鉛化を進行させたカーボンブラックや、ホウ化物などの黒鉛化促進物を含有させた混合物を加熱処理して得たいわゆる黒鉛化カーボンブラックを使用することもできる。これらの黒鉛化カーボンブラックは、本発明において配合量を規定する黒鉛(鱗状黒鉛、薄肉化黒鉛、人造黒鉛)と比べて、粒径が非常に小さく、異なる作用を奏するため、マグネシアと黒鉛の合計量に占める黒鉛の配合量には含まれない。
【0038】
マグカーボンれんがに一般的に添加されているAl、Si、Al−Mg合金、Al−Si合金、硼素化合物などは黒鉛の酸化防止及び強度の向上のため適量添加することが好ましい。添加量は、耐火原料配合物中のマグネシアと黒鉛の合計量に対する外掛けで、0.5質量%以上6質量%以下が好ましい。
【0039】
これらの原料以外の耐火原料として、アルミナ、スピネル、ジルコニア、シリカ、炭化珪素などを併用することも可能であるが、耐食性を損なう恐れがあるため添加量は、耐火原料配合物中のマグネシアと黒鉛の合計量に対する外掛けで、10質量%以下が好ましい。
【0040】
マグカーボンれんがを製造するには、上記耐火原料及び金属類にバインダーを添加して均一に混練して坏土を作成する。バインダーとしては耐火物用として使用されている各種バインダーが使用可能であるが、特にフェノールレジンを使用することが好ましい。得られた坏土はオイルプレス、フリクションプレス等の成形機によって所定の形状に成形し、200℃〜500℃程度に加熱してバインダーを硬化させることでマグカーボンれんがを得る。場合によっては更に500℃〜1500℃で還元焼成し、更にその後ピッチを含浸させることも可能である。
【0041】
本発明のマグカーボンれんがは転炉の内張りとしてライニングする。ライニングは転炉の内張り全体でも構わないが、特に損傷が大きいトラニオンあるいは出鋼壁への適用が効果的である。本発明のマグカーボンれんがを少なくとも一部に内張りした転炉において、吹錬終了時の転炉内のスラグのC/Sが2.0以上かつT.Feが12質量%以上とした操業を実施することで本発明の改善効果が顕著に発現する。なお、スラグの組成を本発明の範囲外としても従来のマグカーボンれんがと比較して特に耐食性が劣るわけではないので、本発明の操業方法及びライニング構造においては短時間でも本発明のスラグ組成の条件で操業すれば耐食性改善効果が発現される。
【実施例】
【0042】
耐火原料配合物中のマグネシアの粒子の質量比(1mm以上/1mm未満)が耐食性に及ぼす影響を調査した。その調査内容を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、電融マグネシアクリンカーの粒度構成を変更することで、質量比(1mm以上/1mm未満)を0.94から3.43まで変化させた。電融マグネシアクリンカーは耐火物用として市販されているもので純度は98質量%である。鱗状黒鉛も耐火物用として市販されているもので純度は98質量%である。アルミニウムはアトマイズ型で純度99質量%の微粉末である。これらの耐火原料に対して、結合剤としてフェノールレジンを適量添加してミキサーによって均一に混練して坏土を得た。なお、アルミニウムとフェノールレジンは外掛けの添加である。得られた坏土をオイルプレスにて150MPaの圧力で並型形状に成形し、成形体を250℃で5時間乾燥させて供試体を得た。
【0045】
この供試体を使用して耐食性の評価を回転侵食試験法にて実施した。侵食剤として、C/S=3.0、T.Fe=20質量%の組成を有するスラグを使用した。試験温度は1700℃で,30分毎に侵食剤の排出を行い、新たな侵食剤を投入することを10回繰り返した。試験終了後のサンプルを切断し,最大溶損量を測定し、比較例1の溶損量の逆数を100として、その他のサンプルの溶損量を指数化した。したがって、数値が大きいほど耐食性は良好であることを示す。
【0046】
表1の評価結果から明らかなように、本発明の実施例は比較例と比較して耐食性に優れており、マグネシア粒子の質量比(1mm以上/1mm未満)が1.27以上2.58以下において耐食性の改善効果がある。特に質量比が1.78以上2.10以下の範囲において顕著な改善効果を発揮するため好ましい。質量比が1.27未満あるいは2.58を超える比較例1〜4は、マトリックス部の溶損が速いため耐食性が低下したものと考えられる。
【0047】
黒鉛配合量が耐食性に及ぼす影響について調査を行った。その調査内容を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示すように、黒鉛配合量が5質量%、8質量%、10質量%、12質量%、15質量%の場合について、マグネシア粒子の質量比が本発明の範囲外の場合と本発明の範囲内の場合を比較した。供試体の作製方法及び耐食性の評価方法は、上述の表1において実施した方法と同一である。耐食性の指数は比較例5を100とした。
【0050】
表2の評価結果から明らかなように、黒鉛配合量が10質量%以下の範囲においては、マグネシア粒子の質量比を本発明の範囲内とすることで、優れた耐食性改善効果が得られることが明らかである。特に、黒鉛配合量が8質量%以下では顕著な改善効果が得られる。しかし、黒鉛配合量が10質量%を超えるとマグネシア粒子の質量比が本発明の範囲内でも必ずしも改善効果は発揮されない。従来の一般的なマグカーボンれんがであるマグネシア粒子の質量比が1.27未満の比較例は、黒鉛配合量12質量%付近に耐食性の最良値があり、それよりも黒鉛を減量しても耐食性は低下するが、本発明の実施例9〜11は、黒鉛配合量が12質量%より少なくなっても、耐食性は改善傾向にあることが従来品と明らかに異なる点である。一方、マグネシア粒子の質量比が2.58を超える比較例は、黒鉛配合量と耐食性の関係が本発明品と類似の傾向であるが、耐食性自体は劣っている。
【0051】
耐食性評価時のスラグの組成とマグネシア粒子の質量比が耐食性に及ぼす影響を調査した。その調査内容を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示すような配合割合にて、上述の表1と同一の方法にて供試体を作製した。ただし、金属についてはアルミニウムの代わりにアルミニウムの含有量が40質量%のAl−Mg合金を使用した。耐食性の評価については、スラグの化学組成として表3に示す5種類をそれぞれ使用すること以外は、上述の表1と同様に方法にて実施した。耐食性の指数は、同一スラグ組成の最初の比較例(比較例17、比較例20など)を100とした指数であり、同一スラグ組成間での比較である。
【0054】
表3の評価結果から明らかなように、C/Sが2.0以上、T.Feが12質量%以上の範囲では、マグネシア粒子の質量比が本発明の範囲内にある場合、耐食性の改善効果が顕著である。しかし、C/Sが2.0未満の場合はマグネシアの粒度構成による耐食性への影響が小さい。これは、この条件ではマグネシア粒が粗粒を含めて全体的に溶損するためと考えられる。また、T.Feが高い場合、特に粗粒化した比較例25と比較例27において耐食性の低下が著しい。これは、マトリックス部に相対的に濃集した黒鉛が酸化鉄によって液相酸化され、マトリックス部の消失によって粗粒が脱落しやすくなったためと考えられる。
【0055】
黒鉛配合量が少ないマグカーボンれんがをベースに、ピッチ、カーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック(カーボンブラックを黒鉛化してなるグラファイト粒子)の添加による耐スポール性の改善効果を調査した。その調査内容を表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
表4に示すような配合割合にて上述の表1と同一の方法にて供試体を作製した。なお、ピッチ、カーボンブラック、黒鉛化カーボンブラックの添加量は外掛けでの割合である。使用した原料のうち、ピッチは軟化点150℃の石油ピッチ、カーボンブラックは純度99質量%、黒鉛化カーボンブラックは純度99質量%の原料を使用した。耐食性の評価方法は、上述の表1において実施した方法と同一である。耐スポール性は、1600℃の溶銑中に40mm×40mm×230mmの棒状サンプルを浸漬し水冷する操作を3回繰り返し、試験前後のサンプルの弾性率を音速法にて測定して弾性率の維持率を求めた。表4に記載の指数は、比較例28の弾性率維持率を100とした数値で、数値が大きいほど耐スポール性に優れていることを示す。
【0058】
表4の評価結果から明らかなように、本発明の実施例は耐食性、耐スポール性のいずれにおいても比較例よりも優れていることが明らかである。実施例の中では、実施例16と17の比較から、ピッチを添加することによって耐スポール性が大幅に改善されることが明らかである。黒鉛配合量を2質量%に減量した実施例18〜20でもピッチ、カーボンブラック、黒鉛化カーボンブラックを添加することで、耐スポール性に優れたマグカーボンれんがとなっている。更に、黒鉛配合量を1質量%あるいはゼロとした実施例21〜23の場合でも、上記のカーボン原料を添加することで耐食性、耐スポール性に優れたマグカーボンれんがとなっている。
【0059】
以上の実施例から明らかなように、耐火原料配合物中のマグネシア粒子の質量比(粒径1mm以上/粒径1mm未満)を1.27以上2.58以下でかつ黒鉛配合量が10質量%以下であるマグカーボンれんがは、スラグのC/Sが2.0以上かつT.Feが12質量%以上の条件において顕著な耐食性改善効果を発現することが明らかである。したがって、このマグカーボンれんがを転炉の内張りとしてライニングし、吹錬終了時の転炉内のスラグのC/Sを2.0以上かつT.Feを12質量%以上となる操業を実施することで、マグカーボンれんがの耐用を改善することができる。更に、本発明のマグカーボンれんがは黒鉛の含有量が少ないため、低熱伝導性に伴う鉄皮の変形防止、吹錬効率の向上、燃焼時の二酸化炭素の排出量抑制、鉄皮からの熱放出(熱ロス)抑制などの効果も得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料配合物中の、粒径1mm未満のマグネシア粒子量に対する粒径1mm以上のマグネシア粒子量の質量比が1.27以上2.58以下で、かつ、マグネシアと黒鉛の合計量に占める黒鉛の配合量が10質量%以下であるマグネシアカーボン質れんがを、内張り用れんがの一部又は全部に使用した転炉の操業方法において、
吹錬終了時の転炉内のスラグのCaOとSiOの質量比(C/S)が2.0以上で、かつ、スラグ中の酸化鉄の含有量をFeに換算した数値(T.Fe)が12質量%以上となるように操業することを特徴とする転炉の操業方法。
【請求項2】
吹錬終了時の転炉内のスラグのCaOとSiOの質量比(C/S)が2.0以上で、かつ、スラグ中の酸化鉄の含有量をFeに換算した数値(T.Fe)が12質量%以上となるように操業する転炉において内張り用れんがの一部又は全部に使用されるマグネシアカーボン質れんがであって、
耐火原料配合物中の、粒径1mm未満のマグネシア粒子量に対する粒径1mm以上のマグネシア粒子量の質量比が1.27以上2.58以下で、かつ、マグネシアと黒鉛の合計量に占める黒鉛の配合量が10質量%以下であるマグネシアカーボン質れんが。
【請求項3】
前記耐火原料配合物中に、軟化点が70℃以上370℃以下のピッチが配合されている請求項2に記載のマグネシアカーボン質れんが。
【請求項4】
前記耐火原料配合物中に、カーボンブラック及び/又はカーボンブラックを黒鉛化してなるグラファイト粒子が配合されている請求項2又は3に記載のマグネシアカーボン質れんが。
【請求項5】
吹錬終了時の転炉内のスラグのCaOとSiOの質量比(C/S)が2.0以上で、かつ、スラグ中の酸化鉄の含有量をFeに換算した数値(T.Fe)が12質量%以上となるように操業する転炉において内張り用れんがの一部又は全部に使用されるマグネシアカーボン質れんがの製造方法であって、
耐火原料配合物中の、粒径1mm未満のマグネシア粒子量に対する粒径1mm以上のマグネシア粒子量の質量比を1.27以上2.58以下とし、かつ、マグネシアと黒鉛の合計量に占める黒鉛の配合量を10質量%以下として製造することを特徴とするマグネシアカーボン質れんがの製造方法。
【請求項6】
吹錬終了時の転炉内のスラグのCaOとSiOの質量比(C/S)が2.0以上で、かつ、スラグ中の酸化鉄の含有量をFeに換算した数値(T.Fe)が12質量%以上となるように操業する転炉における転炉内張りのライニング構造であって、
耐火原料配合物中の、粒径1mm未満のマグネシア粒子量に対する粒径1mm以上のマグネシア粒子量の質量比が1.27以上2.58以下で、かつ、マグネシアと黒鉛の合計量に占める黒鉛の配合量が10質量%以下であるマグネシアカーボン質れんがを、転炉の少なくとも一部に内張りする転炉の内張りライニング構造。

【公開番号】特開2013−72090(P2013−72090A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209495(P2011−209495)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】