説明

転炉ダストの回収方法

【課題】集塵設備列を過剰に設置せず、かつ設備の処理能力を超えることなく、高Znダストと低Znダストとを分別して回収する転炉ダストの回収方法を提供する。
【解決手段】複数台の転炉と、転炉の台数と同数系列の転炉ダスト回収設備列とを用いて、複数台の転炉から発生する転炉ダストを回収する転炉ダストの回収方法において、転炉ダスト中のZn濃度と吹錬時間または積算送酸量/全送酸量との関係を示すマスターカーブを作成する工程と、マスターカーブを用いて吹錬する転炉の吹錬中に先・後する転炉から発生する転炉ダスト中のZn濃度を比較する工程と、Zn濃度の比較結果に基づいて先・後する転炉から発生する転炉ダストのそれぞれを転炉ダスト回収設備列に切り換えて輸送する工程と、を含む炉ダストの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台の転炉から発生する転炉ダストを再利用するために分別して回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転炉ダストは、そのほとんどが酸化鉄,金属鉄からなる鉄分であり、その他に微量のスラグ成分(CaO,SiO2等),炭素分,Zn分を含むものの、鉄の品位が高いので、有用な鉄源として製鉄工程内にリサイクルされてきた。
近年、排出されるCO2の削減に加え、製鋼コストの低減を図るために、転炉に装入するスクラップ量が増加する傾向にある。
【0003】
そのため、製鉄所内の工程から出てくる、あるいは鋼材の加工工程(裁断,切削等)で発生する屑等の不純物が少ない(Zn濃度0.1質量%未満)高品位のスクラップのみでは、使用量に対して不足するようになってきた。そして、市中から発生する市中スクラップが鉄源として使用されるようになったが、市中スクラップは亜鉛メッキスクラップ等を含み、中でもH2規格以下で不純物が多い(Zn濃度0.1質量%以上)低品位のスクラップの使用量も増加している。
【0004】
このように、スクラップを介して転炉に装入されるZn量が増えたことから、転炉ダスト中のZn濃度が増加している。
ところが、Zn分を含む転炉ダストを高炉にリサイクルすると、Znが高炉内壁に凝着したり、Zn蒸気が高炉耐火物に侵入したりするなど、高炉操業に重大な障害を及ぼす。そのため、Zn含有量の面から転炉ダストの高炉へのリサイクルには制約がある。
【0005】
転炉ダストは、転炉等の製鋼工程にもリサイクルされるが、転炉ダスト中のZnは結局転炉ダスト等の製鋼ダストに濃縮されていき、高炉ヘリサイクルされる転炉ダスト量がさらに減少してしまう。
そこで、例えばZn含有ダストと還元用炭素原料を混錬したペレットを約1300℃の還元炉に装入し、Zn分を還元・揮発させる脱Znプロセスが実用化されている。しかし、小規模の製鉄所では脱Zn設備も小規模とせざるを得ないので、脱Znプロセスの処理コストが高くなるという問題がある。
【0006】
また、従来より、高炉原料として使用しきれないZn含有転炉ダストは、セメント原料等として外販しているが、需要に限界があるため、外販可能な量は限られている。そして、製鉄所内でのリサイクルや、外販ができず処理費を支払って埋立て処分するしかない余剰のZn含有転炉ダストが増加するという問題がある。
そこで、転炉から湿式集塵機,トラフ,粗粒分離機,シックナー,脱水機を経て転炉ダストを回収する一連の工程の中で、Zn濃度の低い転炉ダストを分別する技術が検討されてきた。
【0007】
たとえば特許文献1には、転炉の1サイクルの吹錬時間を2以上の時間帯に区分し、各時間帯ごとに転炉ダストを分別して回収する技術が開示されている。この技術は、図3に示すように、吹錬開始時には転炉ダスト中のZn濃度は高いが、吹錬時間が経過するにつれてZn濃度が低下する現象を活用するものであり、第1番目の時間帯で回収された転炉ダストを分別することによって、第2番目以降の時間帯で回収されたZn濃度の低い転炉ダストを高炉で再利用することが可能となる。
【0008】
しかしながら特許文献1の技術で転炉ダストを分別して回収するためには、図4に示すように、1台の転炉に対し、それに付設される湿式集塵機の後工程となる粗粒分離機,シックナー,脱水機で構成される設備列を少なくとも2系列設置する必要がある。そのため、工場の建設コストの上昇や設備保全の負荷の増大を招く。
2系列以上の転炉およびその転炉ダスト回収設備列を有する場合には、図5に示すように、転炉ダスト回収設備列を共用することが可能であるが、2基の転炉から同時に転炉ダストを含んだ排ガスが排出されると、1基分の処理能力しかない転炉ダスト回収設備列に2基分の転炉ダストを含んだ排ガスが供給される。その結果、転炉ダスト回収設備列の処理能力を超える量の転炉ダストによって、転炉ダストスラリーを輸送する経路が閉塞したり、設備故障を引き起こしたりする惧れがあり、特許文献1の技術を用いて2系列以上の転炉およびその転炉ダスト回収設備列を運転するには、転炉ダスト回収設備列の処理能力を増強したり増設する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58-93828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、複数台の転炉から発生する転炉ダストをZn濃度に応じて分別して回収するにあたって、湿式集塵機で回収された転炉ダストを処理する粗粒分離機,シックナー,脱水機で構成される設備列(以下、転炉ダスト回収設備列という)の処理能力を増強したり増設することなく、複数台の転炉から発生する転炉ダストのZn濃度を比較し(例えば、Zn濃度の高い転炉ダスト(以下、高Znダストという)とZn濃度の低い転炉ダスト(以下、低Znダストという))、Zn濃度の比較結果に基づいて転炉ダストを分別して回収する転炉ダストの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数台の転炉と、該転炉の台数と同数系列の転炉ダスト回収設備列とを用いて、前記複数台の転炉の吹錬を先・後させて、前記複数台の転炉から発生する転炉ダストを回収する転炉ダストの回収方法において、転炉ダスト中のZn濃度と吹錬時間または積算送酸量/全送酸量との関係を示すマスターカーブを作成する工程と、前記各転炉毎に投入されるスクラップの量と該スクラップ中のZn含有率とから、前記各転炉毎の当初Zn量計算値を算出し該当初Zn量計算値に応じて前記各転炉毎のマスターカーブを修正する工程と、該修正したマスターカーブを用いて吹錬する転炉の吹錬中に前記先・後する転炉から発生する転炉ダスト中のZn濃度を比較する工程と、該Zn濃度の比較結果に基づいて前記先・後する転炉から発生する転炉ダストのそれぞれを前記転炉ダスト回収設備列に切り換えて輸送する工程と、を含むことを特徴とする転炉ダストの回収方法である。
【0012】
本発明の転炉ダストの回収方法においては、前記複数台の転炉が同時に吹錬する時間帯は、前記各転炉から発生する転炉ダストを各々別の転炉ダスト回収設備列に切り換えて輸送することが好ましい。また、前記転炉ダスト中のZn濃度の比較を予め設定された閾値に基づいて行なうことが好ましい。また、前記転炉ダスト回収設備列が粗粒分離機、シックナーおよび脱水機からなることが好ましい。また、前記転炉ダストのそれぞれを前記転炉ダスト回収設備列に切り換える工程をトラフで行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数台の転炉から発生する転炉ダストを、転炉ダスト回収設備列を過剰に設置せず、かつ設備の処理能力を超えることなく、転炉ダストのZn濃度に応じて、例えば高Znダストと低Znダストとに分別して回収することにより、転炉ダストを有効に製鉄所内の鉄源としてリサイクルできるので、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用して転炉ダストを回収する方法の例を示すフロー図である。
【図2】従来の転炉ダストの回収方法の例を示すフロー図である。
【図3】吹錬開始から吹錬終了までの吹錬時間の経過に伴う転炉ダスト中のZn濃度の変化を模式的に示すグラフである。
【図4】従来の転炉ダストの回収方法の例を示すフロー図である。
【図5】従来の転炉ダストの回収方法の例を示すフロー図である。
【図6】2台の転炉から発生する転炉ダストのZn濃度の予測値の変化の例を示すグラフである。
【図7】2台の転炉から発生する転炉ダストのZn濃度の予測値の変化の例を示すグラフである。
【図8】2台の転炉から発生する転炉ダストのZn濃度の予測値の変化の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するにあたっては、先ず、吹錬中に発生する転炉ダスト中のZn濃度と吹錬時間または積算送酸量/全送酸量との関係を示すマスターカーブ(Zn濃度減少曲線、例えば図3参照)を作成する必要がある。そして、転炉操業に伴って転炉ダスト中のZn濃度が減少する度合い(カーブの曲率)は、転炉に投入する当初Zn量に殆ど影響されることはなく、転炉の操業条件(吹錬時間または積算送酸量/全送酸量等)に大きく影響されることから、転炉に投入する当初Zn量が一定である場合でも、当初Zn量について転炉の操業条件毎にマスターカーブを作成する必要がある。例えば、当初Zn量を同じとする転炉操業でも、その操業条件が異なる4パターンで行なわれる場合には、その当初Zn量について4パターンの操業条件毎に4通りのマスターカーブを作成することになる。
【0016】
また、実際の転炉操業では、投入するスクラップの種類やその投入量が操業毎に異なるのが通常であり、この場合には、転炉の当初Zn量が変動することになるから、表1に示すように、スクラップ中のZn含有率と投入するスクラップの量から、当初Zn量を計算し、この当初Zn量の計算値に基づいて、操業条件が同じパターンのマスターカーブを修正する必要がある。具体的には、転炉操業が同じパターンで行なう場合に、当初Zn量を計算し、その当初Zn量計算値とマスターカーブの当初Zn量とを比較して、その比率がN倍であれば、Zn濃度をN倍としてマスターカーブを描くことで修正することができる。
【0017】
表1に示すように、例えば3種類のスクラップを2台の転炉に投入する場合、その投入されるZn量の合計がそれぞれの転炉の当初Zn量計算値となる。そして、この当初Zn量計算値を出発点としてマスターカーブを修正し、その修正したマスターカーブに基づいて転炉ダストの回収を行なうことになる。
図3には、吹錬時間を横軸とするマスターカーブの例(吹錬時間に対するZn濃度の変化)を示すが、吹錬に要する全送酸量に対する吹精開始以降の積算送酸量の比を横軸(積算送酸量/全送酸量の値に対するZn濃度の変化)としても良い。
【0018】
【表1】

【0019】
2台の転炉を用いた操業について、図1を参照して具体的に説明する。
2台の転炉の吹錬はタイミングをずらして開始し、先行して吹錬を行なう転炉(以下、先行操業転炉という)と、後行して吹錬を行なう転炉(以下、後行操業転炉という)とに分けて操業する。先ず、先行操業転炉と後行操業転炉についてそれぞれ当初Zn量計算値を計算し、当初Zn量計算値に基づいて先行操業転炉と後行操業転炉のマスターカーブを修正し、これら修正したマスターカーブを先行操業転炉と後行操業転炉の操業開始の時間差分だけ間隔を設けて配置して、2つのマスターカーブの関係図を作成する。この関係図によって、例えば図6〜8に示すように、各転炉の転炉ダストのZn濃度の推移が分かる。
【0020】
そして、先行操業転炉に溶銑とスクラップを装入して吹錬を開始する。発生する転炉ダストは、操業当初は高Znダストであり、吹錬時間の経過とともにZn濃度が低下する。そのため、先行操業転炉の吹錬の始めは、その転炉ダストを2系列の転炉ダスト回収設備列のうちの高Znダストを回収する高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送する。
次いで、後行操業転炉の吹錬を開始したとき、および先行操業転炉と後行操業転炉の転炉ダストのZn濃度が所定のレベル(閾値)に達したときに、先行操業転炉の転炉ダストのZn濃度と後行操業転炉の転炉ダストのZn濃度とを比較する。
【0021】
そして、Zn濃度の低い方の転炉ダストを、低Zn側にトラフを向けて低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送し、Zn濃度の高い方の転炉ダストを、高Zn側へトラフを向けて高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送する。それぞれの転炉と転炉ダスト回収設備列が適切に組み合わされていない場合には、トラフの切り換え操作を行ない、転炉ダストを適切な転炉ダスト回収設備列に輸送する。
【0022】
次に、先行操業転炉の吹錬が終了したときに、後行操業転炉の転炉ダストのZn濃度が低Znダストとなっている場合には、転炉ダストを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送する。
このようにして、Zn濃度が低い転炉ダストを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列にて効率的に回収できるので、その回収した転炉ダストを製銑原料として高炉で再利用できる。一方、高Znダスト用転炉ダスト回収設備列にて回収された転炉ダストは、Zn濃度が高いので、Znを回収するための処理を施すことが好ましい。
【0023】
3系列以上に関しても、同様の判断手法で切り換えることができる。この場合、低Znダスト用転炉ダスト回収設備列,高Znダスト用転炉ダスト回収設備列の系列数は、低Znダストを利用する際の制約に応じて適宜決めれば良いが、高ダスト用転炉ダスト回収設備列を1系列とするのが好ましい。また、高,低の2段階ではなく、高,中,低の3段階に分けて運用することを妨げるものではない。
【0024】
本発明では、複数台の転炉に対して、転炉の台数と同数系列の転炉ダスト回収設備列を使用するが、従来から転炉とそれに付設される湿式集塵機には、図2に示すように、それぞれ粗粒分離機,シックナー,脱水機で構成される転炉ダスト回収設備列が後工程として設けられているので、従来の設備を最大限に活用し、新たな転炉ダスト回収設備列を追加することなく本発明を適用できる。
【実施例】
【0025】
<実施例1>
図1に示すように、2台の転炉と2系列の転炉ダスト回収設備列を使用して、以下の手順で転炉ダストの回収を行なった。
使用したスクラップの投入量とZn含有率は表1に示す通りであり、先行操業転炉と後行操業転炉の当初Zn量計算値は、それぞれ0.089,0.159kg/tであった。これらの当初Zn量計算値を出発点としてマスターカーブを修正して、図6に示す2本の修正したマスターカーブを得た。
【0026】
先行操業転炉の吹錬を開始した後、先行操業転炉の転炉ダストのZn濃度が閾値に達するまでの時間帯Aでは、先行操業転炉の転炉ダストは高Znダストであるから、転炉ダストを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。この時間帯Aでは後行操業転炉はまだ吹錬を開始していない。
次いで、先行操業転炉の転炉ダストのZn濃度が閾値に達して低Znダストとなったときに、トラフを高Zn側から低Zn側に切り換えて、後行操業転炉が吹錬を開始するまでの時間帯Bにて、先行操業転炉の転炉ダストを低Znダスト用排ガス処理後段設備列に輸送した。この時間帯Bでも後行操業転炉は吹錬を開始していない。
【0027】
そして、後行操業転炉が吹錬を開始したときには、先行操業転炉の転炉ダストのZn濃度の方が低いので、先行操業転炉が吹錬を終了するまでの時間帯Cでは、トラフをそのまま低Zn側にして先行操業転炉の転炉ダストを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送するとともに、後行操業転炉の転炉ダストスラリーを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。この時間帯Cでは、その中間で後行操業転炉の転炉ダストのZn濃度が閾値に達して低Znダストとなったが、そのときでもトラフの切り換え操作を行なわず、後行操業転炉の転炉ダストを引き続き高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送するとともに、先行操業転炉の転炉ダストを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。その理由は、先行操業転炉および後行操業転炉の転炉ダストを共に低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に供給すると、粗粒分離機の処理能力を超えるからである。
【0028】
閾値は、低Znダストを利用する際の制約に応じて適宜決めればよい。
その後、先行操業転炉の吹錬が終了したときにトラフを高Zn側から低Zn側に切り換えて、後行操業転炉の転炉ダストスラリーを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。その後の後行操業転炉が吹錬を終了するまでの時間帯Dでは先行操業転炉は吹錬を終了している。
【0029】
図6に示す時間帯A,B,C,Dにおける先行操業転炉と後行操業転炉の転炉ダストを輸送した転炉ダスト回収設備列を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
このような手順でトラフの切り換え操作を行なって、転炉ダストを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列と低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送することによって、Zn濃度の低い転炉ダストを分別して回収できた。
<実施例2>
図1に示すように、2台の転炉と2系列の転炉ダスト回収設備列を使用して、以下の手順で転炉ダストの回収を行なった。
【0032】
まず、使用したスクラップの投入量とZn含有率から先行操業転炉と後行操業転炉の当初Zn量計算値を計算し、その当初Zn量計算値を出発点としてマスターカーブを修正して、図7に示す2本の修正したマスターカーブを得た。この実施例2では、横軸を積算送酸量/全送酸量(以下、α値という)としてマスターカーブを作成した。
先行操業転炉の吹錬を開始した後、後行操業転炉が吹錬を開始するまでのα値帯Eでは、先行操業転炉の転炉ダストを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。このα値帯Eでは後行操業転炉は吹錬を開始していない。
【0033】
次いで、後行操業転炉が吹錬を開始したときには、先行操業転炉の転炉ダストのZn濃度の方が低いので、トラフを高Zn側から低Zn側に切り換えて、先行操業転炉の転炉ダストを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送し、かつ後行操業転炉の転炉ダストを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。
そして、先行操業転炉の転炉ダストのZn濃度が閾値に達するまでのα値帯Fおよび先行操業転炉が吹錬を終了するまでのα値帯Gでは、先行操業転炉の転炉ダストのZn濃度の方が低いので、トラフの切り換えを行なわず、そのまま先行操業転炉の転炉ダストを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送するとともに、後行操業転炉の転炉ダストを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。
【0034】
先行操業転炉の吹錬が終了したときには、後行操業転炉の転炉ダストのZn濃度が閾値を上回っていたので、トラフをそのまま高Zn側にして、α値帯Iでは、後行操業転炉の転炉ダストを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。
その後、後行操業転炉の転炉ダストのZn濃度が閾値に達して低Znダストになったときに、トラフを高Zn側から低Zn側に切り換えて、後行操業転炉が吹錬を終了するまでのα値帯Jにて、後行操業転炉の転炉ダストを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。
【0035】
図7に示すα値帯E,F,G,I,Jにおける先行操業転炉と後行操業転炉の転炉ダストを輸送した転炉ダスト回収設備列を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
このような手順でトラフの切り換え操作を行なって、転炉ダストを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列と低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送することによって、Zn濃度の低い転炉ダストを分別して回収できた。
<実施例3>
図1に示すように、2台の転炉と2系列の転炉ダスト回収設備列を使用して、以下の手順で転炉ダストの回収を行なった。
【0038】
まず、使用したスクラップの投入量とZn含有率から先行操業転炉と後行操業転炉の当初Zn量計算値を計算し、その当初Zn量計算値を出発点としてマスターカーブを修正して、図8に示す2本の修正したマスターカーブを得た。
先行操業転炉の吹錬を開始した後、後行操業転炉が吹錬を開始するまでの時間帯Pでは、先行操業転炉の転炉ダストを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。この時間帯Pでは後行操業転炉は吹錬を開始していない。
【0039】
次いで、後行操業転炉が吹錬を開始したときには、後行操業転炉の転炉ダストのZn濃度の方が低いので、トラフの切り換えを行なわず、そのまま先行操業転炉の転炉ダストを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送するとともに、後行操業転炉の転炉ダストを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。
そして、後行操業転炉の転炉ダストのZn濃度予測値が閾値に達するまでの時間帯Qおよび先行操業転炉が吹錬を終了するまでの時間帯Rでは、後行操業転炉の転炉ダストのZn濃度の方が低いので、トラフの切り換えを行なわず、そのまま先行操業転炉の転炉ダストを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送するとともに、後行操業転炉の転炉ダストを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。時間帯Rでは、その中間で先行操業転炉の転炉ダストのZn濃度が閾値に達して低Znダストとなったが、そのときでも後行操業転炉の転炉ダストが低Zn濃度であるから、トラフの切り換えを行なわず、そのまま後行操業転炉の転炉ダストを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送するとともに、先行操業転炉の転炉ダストを引き続き高Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。その理由は、先行操業転炉および後行操業転炉の転炉ダストを共に低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に供給すると、粗粒分離機の処理能力を超えるからである。
【0040】
その後、時間帯Sでは先行操業転炉の吹錬が終了するが、そのときも後行操業転炉は低Znダストを発生しているから、トラフをそのまま低Zn側にして、後行操業転炉の転炉ダストを低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送した。
図8に示す時間帯P,Q,R,Sにおける先行操業転炉と後行操業転炉の転炉ダストを輸送した転炉ダスト回収設備列を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
このような手順でトラフの切り換え操作を行なって、転炉ダストを高Znダスト用転炉ダスト回収設備列と低Znダスト用転炉ダスト回収設備列に輸送することによって、Zn濃度の低い転炉ダストを分別して回収できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数台の転炉と、該転炉の台数と同数系列の転炉ダスト回収設備列とを用いて、前記複数台の転炉の吹錬を先・後させて、前記複数台の転炉から発生する転炉ダストを回収する転炉ダストの回収方法において、転炉ダスト中のZn濃度と吹錬時間または積算送酸量/全送酸量との関係を示すマスターカーブを作成する工程と、前記各転炉毎に投入されるスクラップの量と該スクラップ中のZn含有率とから、前記各転炉毎の当初Zn量計算値を算出し該当初Zn量計算値に応じて前記各転炉毎のマスターカーブを修正する工程と、該修正したマスターカーブを用いて吹錬する転炉の吹錬中に前記先・後する転炉から発生する転炉ダスト中のZn濃度を比較する工程と、該Zn濃度の比較結果に基づいて前記先・後する転炉から発生する転炉ダストのそれぞれを前記転炉ダスト回収設備列に切り換えて輸送する工程と、を含むことを特徴とする転炉ダストの回収方法。
【請求項2】
前記複数台の転炉が同時に吹錬する時間帯は、前記各転炉から発生する転炉ダストを各々別の転炉ダスト回収設備列に切り換えて輸送することを特徴とする請求項1に記載の転炉ダストの回収方法。
【請求項3】
前記転炉ダスト中のZn濃度の比較を予め設定された閾値に基づいて行なうことを特徴とする請求項1または2に記載の転炉ダストの回収方法。
【請求項4】
前記転炉ダスト回収設備列が粗粒分離機、シックナーおよび脱水機からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の転炉ダストの回収方法。
【請求項5】
前記転炉ダストを前記転炉ダスト回収設備列に切り換える工程をトラフで行なうことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の転炉ダストの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−10974(P2013−10974A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142451(P2011−142451)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】